説明

曝気装置

【解決手段】大気に開放した1つの浮上槽1が複数のフロート2,2により水面に浮上し、前記浮上槽1の中心には1本の上昇管3が接続されている。さらに、1本の上昇管3に対し下降管4が3本配置され、その上端がいずれも前記浮上槽1に接続されている。上昇管3、下降管4は、合成樹脂製の伸縮しないフレキシブルな管である。
【効果】圧縮空気を上昇管3内に送り込むと、上昇管3内の散気管6に形成されている多数の小さい孔から空気が噴き出し、上昇管3内に上昇流を生じさせる。水の中で空気の気泡が上昇するこのエアレーションAによる上昇流により、深層部の水が水面WLに浮上している浮上槽1まで上昇する。そして、浮上槽1まで上昇した深層部の水は下降管4内を流れて再び深層部へ戻される。1本の上昇管3に対し下降管4が3本配置されているので、下降管4の管径を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気に開放した浮上槽に接続された上昇管に圧縮空気を送り込み、その空気により深層部の水を表層へ強制的に循環させ、その間に多量の酸素を水に溶け込ませて水質改善されたその水を前記浮上槽に接続された下降管を通じて深層部へ戻すようにした曝気装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5および図6に示すように、既存の曝気装置の上昇管3’、下降管4’には、伸縮式の蛇腹管が使用されており、この場合の上昇管3’、下降管4’はそれぞれ1本ずつ配置されていた。
【0003】
また、曝気装置の上昇管、下降管の少なくとも一部を伸縮式の蛇腹管としているものも提案されており、この場合の上昇管、下降管もそれぞれ1本ずつ配置されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】実開昭61−125400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上昇管、下降管がそれぞれ1本ずつの場合には、上昇管、下降管それぞれの直径を大きくする必要があり、管の直径を大きくすると、必然的に互いの管芯が広くなるので、水面に位置する浮上槽の平面積がそれだけ大きくなり、設備全体の規模も大きくなってコスト高となる。従って、コストの割に効率が良くないということになる。
【0006】
また、上昇管の吸込位置と下降管の吐出位置とが平面的に近いため、水質改善域が狭く、それだけ曝気効率も悪くなるという欠点もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の欠点を解消することを目的とするものであって、大気に開放した浮上槽に接続された上昇管に圧縮空気を送り込み、その空気により深層部の水を表層へ強制的に循環させ、その間に多量の酸素を水に溶け込ませて水質改善されたその水を前記浮上槽に接続された下降管を通じて深層部へ戻すようにした曝気装置において、1本の上昇管に対し下降管を複数本配置したことを特徴とするものである。
【0008】
下降管を複数本にすることで、下降管の管径を小さくすることができ、その結果、上昇管に近づけて配置できるので、水面に位置する浮上槽の平面積がそれだけ小さくなり、設備全体の規模が小さくなってコストも安くなる。従って、コストの割に効率が良いということができる。
【0009】
上昇管、下降管を伸縮しないフレキシブルにする。上昇管、下降管がこのような性質のものであれば、上昇管、下降管を彎曲させるなどその形状を自由に変えることができるので、上昇管の吸込位置と下降管の吐出位置を離れたところに位置させることができる。従って、上昇管の吸込口と下降管の吐出口を水面に位置する浮上槽から離れたところに位置させることもできる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、下降管を複数本にすることで、下降管の管径を小さくすることができ、その結果、上昇管に近づけて配置できるので、水面に位置する浮上槽の平面積がそれだけ小さくなり、設備全体の規模が小さくなってコストも安くなる。従って、コストの割に効率が良いという効果がある。
【0011】
請求項1記載の発明によれば、上昇管、下降管を彎曲させるなどその形状を自由に変えることができるので、上昇管の吸込位置と下降管の吐出位置を離れたところに位置させることができる。従って、上昇管の吸込口と下降管の吐出口を水面に位置する浮上槽から離れたところに位置させることもできるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の曝気装置の一例を、図1〜図4に基いて詳細に説明する。図1は、一例として示した曝気装置の原理図である。曝気装置の概要を説明すると、大気に開放した浮上槽1に接続された上昇管3に圧縮空気を送り込み、その空気により深層部の水を表層へ強制的に循環させ、その間に多量の酸素を水に溶け込ませて水質改善されたその水を前記浮上槽1に接続された下降管4を通じて深層部へ戻すことができる。
【0013】
この装置をダム、湖沼、貯水池その他のところに設置することにより、深層部の水を表層へ強制的に循環させることができ、また、ヘドロから出る窒素やリン、あるいは、富栄養化した水を循環させることができるので、溶存酸素(DO、Dissolved Oxygenの略)の量が増えて水質改善された水を深層部へ戻すことができるのみならず、酸化分解による水の浄化作用を促進させることができる。
【0014】
この曝気装置において、ここでは、大気に開放した1つの浮上槽1が複数のフロート2,2により水面に浮上し、前記浮上槽1の中心には1本の上昇管3が接続されており、さらに、1本の上昇管3に対し下降管4が複数本配置され、その上端がいずれも前記浮上槽1に接続されている。図示例では、図2(a)に示すように、1本の上昇管3に対し下降管4が3本配置されている。上昇管3、下降管4は、ともに合成樹脂製の伸縮しないフレキシブルな管である。
【0015】
上昇管3の下端には吸込管5が接続されており、また、上昇管3内の下部には散気管6が取り付けられている。散気管6には多数の小さい孔が明けてあり、この散気管6には陸上に設置されたコンプレッサー(図示省略)から圧縮空気を送り込むための給気管7が接続されている。前記吸込管5も上昇管3、下降管4と同じように、合成樹脂製の伸縮しないフレキシブルな管である。
【0016】
この曝気装置の機能についてさらに詳細に説明する。前記給気管7を通じて圧縮空気を上昇管3内の散気管6に送り込むと、散気管6に形成されている多数の小さい孔から空気が噴き出し、上昇管3内に上昇流を生じさせる。水の中で空気の気泡が上昇するこのエアレーションAによる上昇流により、吸込管5を通じて深層部の水が水面WLに浮上している浮上槽1まで上昇する。そして、浮上槽1まで上昇した深層部の水は下降管4内を流れて再び深層部へ戻される。前記エアレーションAにより深層部の水が上昇する際に酸素が溶け込み、また、水面WLに浮上している浮上槽1で大気中に開放されることによりさらに酸素が溶け込み、深層部の水を曝気循環することができる。
【0017】
この曝気循環において、深層部の水を上昇、下降させるに当っては、上昇管3、下降管4という別の管を通じて行うため、深層部の水が中層・上層の水と混ざり合うことがなく、深層曝気を効率的に行うことができる。深層部の水は水温が低く、中層・上層の水と混ざり合うとダム、湖沼、貯水池その他の設備の全体水温が下がり、下流域の農業に支障を来たすが、この曝気装置であれば、上述したように深層部の水と中層・上層の水とが混ざり合うことがないので、このような事態を回避することができる。
【0018】
上述したように、ここでは、1本の上昇管3に対し下降管4が複数本配置されているので、下降管4の管径を小さくすることができ、その結果、上昇管3に近づけて配置できるので、水面に位置する浮上槽1の平面積がそれだけ小さくなり、設備全体の規模が小さくなってコストも安くなる。従って、コストの割に効率が良くなる。
【0019】
上昇管3、下降管4が伸縮しないフレキシブルな性質のものであれば、上昇管3、下降管4を彎曲させるなどその形状を自由に変えることができるので、上昇管3の吸込位置と下降管4の吐出位置を離れたところに位置させることができる。例えば、図2〜図4に示すように、少なくとも下降管4の下部を浮上槽1の外方に広がるように大きく彎曲させ、また、上昇管3に接続されている吸込管5を浮上槽1の外方に広がるように彎曲させると、上昇管3の吸込位置と下降管4の吐出位置を離れたところに位置させることができる。従って、上昇管3の吸込口と下降管4の吐出口を水面に位置する浮上槽1から離れたところに位置させることもできる。
【0020】
なお、図2〜図4に示すように、浮上槽1の周囲に配置されている複数個のフロート2、2は、ワイヤなどからなる係留ロープ8により水底GLに打ち込んだ金錨9に係留されており、係留ロープ8の重量が直接浮上槽1に掛かるのを防止している。また、下降管4、吸込管5の下端にはストレーナ4a、5aが取り付けられており、この部分がいわゆる上昇管3の吸込口と下降管4の吐出口となる。また、下降管4、吸込管5の下端は、支持フロート4b、5bにより支持されており、さらに、水底GLに沈設されているアンカーブロック4c、5cに係留されている。従って、下降管4を係留索代わりに使用することができ、この場合に係留ロープを使う必要がなくなる。
【0021】
図2(b)および図5において、図面符号WLKは設計洪水位を示す。「設計洪水位」とは、ダム、湖沼、貯水池などが存在する期間内に発生すると予想される最大の洪水(例えば、200年に1回程度の洪水)時の水位のことである。また、図2(b)、図3および図5において、図面符号WLMは常時満水位を示す。「常時満水位」とは、ダム、湖沼、貯水池などの目的の1つである利水目的(例えば、水道、工業用水)に使用するために貯めることができる最高の水位のことである。渇水・洪水時期以外は常時この水位に保たれる。また、図2(b)、図4および図5において、図面符号WLLは最低水位を示す。また、図5における図面符号WLSはサーチャージ水位を示す。「サーチャージ水位」とは、下流の洪水防止のために洪水が発生しそうな時に一時的に貯めておくことができる最高の水位のことである。浮上槽1は前記いずれかの水位を保つ水面に浮上することになる。
なお、一般的には、常時満水位WLM、サーチャージ水位WLS、設計洪水位WLKの順で水位は高くなる。
【0022】
図5は、前記各水位WLK、WLM、WLLにおける従来の曝気装置の設置状態を示している。図5(b)における水位WLMと図5(c)における水位WLとの間が曝気運転可能な範囲である。図5、図6において、1’は浮上槽、3’は上昇管、3a’はこの上昇管3’内の下端に取り付けた吹出管、4’は下降管、4a’はこの下降管4’の下端に取り付けた吐出管、10’は浮上槽1’に取り付けたカウンターウエイト、11’は上昇管3’、下降管4’の下端を水底GLに埋め込んだ水中固定アンカー12’に係留するための水中固定索である。上昇管3’、下降管4’は、従来技術の項で述べたように、伸縮式の蛇腹管である。
【0023】
また、図6において、7’は陸上に設置されたコンプレッサー(図示省略)から圧縮空気を送り込むための給気管で、この給気管を通じて送り込まれた空気が前記吹出管3a’に形成されている多数の小さい孔から上昇管3’内に噴き出す。13’は浮上槽1’を係留するための係留索である。
なお、図5(d)における水位WLLでは、前記浮上槽1’に取り付けたカウンターウエイト10’が水底GLに着床するため、その水位WLLになるまでに上昇管3’、下降管4’の下端はいずれも整地面に着床することになる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
ここでは、本発明を曝気装置に適用した場合について説明したが、本発明は水中での送水設備全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による曝気装置の原理図である。
【図2】本発明の一例として示す曝気装置の設計洪水位における設置状態を示す側面図である。
【図3】本発明の一例として示す曝気装置の常時満水位における設置状態を示す側面図である。
【図4】本発明の一例として示す曝気装置の最低水位における設置状態を示す側面図である。
【図5】従来の曝気装置の設置状態を示す側面図で、(a)はサーチャージ水位における設置状態を、(b)は常時満水位における設置状態を、(c)は曝気運転可能な下限水位における設置状態を、(d)は最低水位における設置状態を示す。
【図6】従来の曝気装置の一例を示す図で、(a)はその平面図、(b)は設置状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…浮上槽、3…上昇管、4…下降管、6…散気管、7…給気管、A…エアレーション、GL…水底、WLK…設計洪水位、WLM…常時満水位、WLL…最低水位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気に開放した浮上槽に接続された上昇管に圧縮空気を送り込み、その空気により深層部の水を表層へ強制的に循環させ、その間に多量の酸素を水に溶け込ませて水質改善されたその水を前記浮上槽に接続された下降管を通じて深層部へ戻すようにした曝気装置において、1本の上昇管に対し下降管を複数本配置したことを特徴とする曝気装置。
【請求項2】
上昇管、下降管を伸縮しないフレキシブルにすることを特徴とする請求項1記載の曝気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−28686(P2009−28686A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197832(P2007−197832)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000108270)ゼニヤ海洋サービス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】