説明

曲げ限界警告表示付き長尺部材

【課題】簡単に配管等の長尺部材が最小曲げ半径以上に曲げられていないかを判別可能な曲げ限界警告表示付き長尺部材を提供する。
【解決手段】円弧状に変形可能な長尺体10と、長尺体10の外周面に付与され、少なくとも着色剤を含んで構成され、且つ長尺体10の直径をD、長尺体10の曲げ内周部で計測する長尺体10の最小曲げ半径をaDとしたときに、伸びの限界Sが下記式(1)を満たす曲げ限界警告表示手段20と、を備えた曲げ限界警告表示付き長尺部材。
式(1) S[%]=100×(2a+2)/(2a+1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺部材が最小曲げ半径よりも小さく曲げられたか否かを容易に判別可能な曲げ限界警告表示付き長尺部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、住宅等で水道管を住宅などに引き込む際には、土中に埋設された硬質な配管(例えば、塩ビ管など)を地上まで立ち上げ、屋内に配策するための可撓性を有する配管、例えば、ポリブデン管などとヘッダー等を介して連結している。
また、屋内では、可撓性を有する配管を各々の接続先に向けて曲げて使用している。
【0003】
これらのパイプやその他ケーブル等に対し印字を行う方法が開示されている(例えば特許文献1〜4参照)。
また、ローラポンプ用チューブにおいて、チューブの捩れの程度を容易に判別することができるように、捩れ装着防止マークを連続したラインを2色同時に成形する方法が開示されている(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−270159号公報
【特許文献2】実開昭61−007690号公報
【特許文献3】特開2003−111234号公報
【特許文献4】特開2007−170659号公報
【特許文献5】特開2000−154784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可撓性を有する配管は、曲げることができるため施工性が良く、その点がセールスポイントとなっているが、曲げ過ぎると配管の信頼性(寿命)低下につながることが分かっている。
このため、最小曲げ半径(配管を曲げても良い限界)をカタログや施工指導で注意喚起しているが、誤って最小曲げ半径よりも小さく曲げてしまう場合がある。
また、施工現場にて配管の曲げ部分の半径を測定することは煩雑な作業である。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、簡単に配管等の長尺部材が最小曲げ半径以上に曲げられていないかを判別可能な曲げ限界警告表示付き長尺部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は以下の本発明によって達成される。
請求項1に記載の発明は、円弧状に変形可能な長尺体と、前記長尺体の外周面に付与され、少なくとも着色剤を含んで構成され、且つ前記長尺体の直径をD、前記長尺体の曲げ内周部で計測する前記長尺体の最小曲げ半径をaDとしたときに、伸びの限界Sが下記式(1)を満たす曲げ限界警告表示手段と、を備えた曲げ限界警告表示付き長尺部材である。
式(1) S[%]=100×(2a+2)/(2a+1)
【0008】
直径がDで、最小曲げ半径が直径Dのa倍であることが分かっている長尺体が最小曲げ半径にまで円弧状に曲げられた場合、円弧状に曲げられた長尺体の円弧の半径方向最外部分の伸び(%)は「100×(2a+2)/(2a+1)」で表される。
請求項1に記載の曲げ限界警告表示付き長尺部材では、長尺体の外周面に、伸びの限界S[%]=100×(2a+2)/(2a+1)である曲げ限界警告表示手段を備えている。長尺体を最小曲げ半径を超えて曲げた際には、円弧状に曲げられた長尺体の円弧の半径方向最外部分の伸びが100×(2a+2)/(2a+1)を超えるため、曲げ限界警告表示手段の伸びは限界値を超える。伸びの限界Sを超えた曲げ限界警告表示手段は、長尺体の外周面、詳しくは円弧状に曲げられた長尺体の円弧の半径方向最外部分で剥離を生じる。その結果、曲げ限界警告表示手段を目視するだけで、長尺体が最小曲げ半径よりも小さく曲げられたことが容易に判別できる。これにより、長尺体の耐久性の低下等を防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の曲げ限界警告表示付き長尺部材において、前記長尺体が、管状体である。
請求項2に記載の曲げ限界警告表示付き長尺部材では、管状体が最小曲げ半径よりも小さく曲げられたことが容易に判別できる。これにより、管状体の潰れや、耐久性の低下を防止することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の曲げ限界警告表示付き長尺部材において、前記曲げ限界警告表示手段が、前記長尺体の周方向の80%以上に形成されている。
曲げ限界警告表示手段は、円弧状に曲げられた長尺体の円弧の半径方向最外部分で剥離する。長尺体は、どの方向に曲げられるかは決まっていないため、長尺体をどの方向に曲げても、円弧状に曲げられた長尺体の円弧の半径方向最外部分及びその近傍で曲げ限界警告表示手段が剥離するように、曲げ限界警告表示手段は、請求項3に記載の曲げ限界警告表示付き長尺部材のように、長尺体の周方向の80%以上に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の曲げ限界警告表示付き長尺部材によれば、簡単に長尺部材が最小曲げ半径以上に曲げられていないかを判別することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の曲げ限界警告表示付き長尺部材の一例を示す斜視図である。
【図2】(A)は直線状に延びた状態の本発明の曲げ限界警告表示付き長尺部材を、(B)は曲げた状態の本発明の曲げ限界警告表示付き長尺部材を表す図である。
【図3】本発明の曲げ限界警告表示付き長尺部材の他の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の曲げ限界警告表示付き長尺部材の他の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1にしたがって、本発明の曲げ限界警告表示付き長尺部材の一実施形態にかかる配管用のパイプを説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態における長尺体の一例としてのパイプ10は、可撓性を有するパイプであり、例えば、住宅等の給水系統に用いられるものである。
パイプ10の外周面には、曲げ限界警告表示手段20が印刷されている。
【0015】
−式の説明−
ここで、直線状に形成されたパイプ10が円弧状に曲げられた時の、曲げ限界警告表示手段20の伸びの限界S[%]と、パイプ10の径Dと、パイプ10の最小曲げ半径aDとの関係を示す下記式(1)を得た過程を以下に説明する。
式(1) S[%]=100×(2a+2)/(2a+1)
尚、図2(A)および図2(B)では、パイプ10の外周面に印刷されている曲げ限界警告表示手段20として、円弧状に曲げられた時に半径方向最外部分となる領域の曲げ限界警告表示手段20のみを示し、それ以外の外周面に印刷されている曲げ限界警告表示手段20を省略している。
【0016】
図2(A)に示すように、直線状に延びた初期状態のパイプ10では、曲げ限界警告表示手段長さαと、パイプ長さ(パイプの中心線CLの長さ)βとは同一である。
図2(B)に示すように、パイプ10を円弧状に曲げると、パイプ長さ(中心線CLの長さ)は変わらないが、円弧の半径方向最外部分は引き伸ばされるので、円弧の半径方向最外部分(曲げ限界警告表示手段20)はパイプ長さよりも長くなる。
【0017】
ここで、パイプ10を曲げても良い限界が円の1/4の円弧となる場合を想定すると、パイプ10の直径をD、円弧状(1/4円弧)に曲げられたパイプ10の曲げ内周部で計測するパイプ10の最小曲げ半径をaD(直径Dのa倍)、としたときに、パイプ中心部の半径寸法Aは「A=aD+0.5D」となり、1/4円弧に曲げられたパイプ10の中心部の長さLAは「LA=A×2×π×1/4=(aD+0.5D)×2×π×1/4」となる。
一方、パイプ10の円弧の半径方向最外部分の半径寸法Bは「B=aD+D」となり、1/4円弧に曲げられたパイプ10の円弧の半径方向最外部分の長さLBは「LB=B×2×π×1/4=(aD+D)×2×π×1/4」となる。
【0018】
円弧の半径方向最外部分の伸びは「LB/LA」であるので、「伸び=LB/LA={(aD+D)×2×π×1/4}/{(aD+0.5D)×2×π×1/4}={(aD+D)×2}/{(aD+0.5D)×2}=(2aD+2D)/(2aD+D)」、即ち円弧の半径方向最外部分の伸び[%]は「100×(2a+2)/(2a+1)」となる。
したがって、直径がDとされたパイプ10の最小曲げ半径がaD(直径Dのa倍)の場合、「伸びの限界S[%]=100×(2a+2)/(2a+1)」である曲げ限界警告表示手段20をパイプ10の外周面に備えることで、円弧状に曲げられたパイプ10の円弧の半径方向最外部分の伸びが100×(2a+2)/(2a+1)を超えた際に曲げ限界警告表示手段20がパイプ10から剥離する。
【0019】
−曲げ限界警告表示付き長尺部材の態様−
本実施形態における長尺体の一例としてのパイプ10は、前述の通り可撓性を有するパイプである。該パイプ10としては、例えばポリブテン樹脂からなるパイプ10が好適なものとして挙げられ、またその他ポリプロピレン、ポリエチレン、架橋ポリエチレン等の表面エネルギーの高い樹脂からなるパイプも用いることができる。
また、長尺体は、中実の棒状部材であっても良い。
【0020】
パイプ10の外周面には、曲げ限界警告表示手段20が印刷されている。該曲げ限界警告表示手段20は、例えば、溶媒(メチルエチルケトン等)中に着色剤(クロム錯塩染料等)が分散されたインクと、メチルエチルケトンやアセトン等を含む補力液と、が混合されてなる塗布液を用いて形成することができる。具体的には、上記塗布液を直線状に保ったパイプ10の外周面全体に印刷して乾燥させることで曲げ限界警告表示手段20が形成される。
【0021】
尚、上記印刷方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット印刷、スプレー塗布、浸漬塗布、ハケによる塗布等、一般的な印刷方法(塗布方法)が用いられる。
【0022】
尚、当然曲げ限界警告表示手段20は、前述の染料を含有するインクと前記補力液とを混ぜたものをパイプ表面に印刷する態様には限られず、所望の伸びでパイプ10表面から剥がれるものであれば、上記構成以外のものであっても良い。例えば、着色剤として顔料を用いたものも用いることができる。
【0023】
図1および図2(A),(B)では、曲げ限界警告表示手段20がパイプ10の外周全体に印刷された態様を示している。尚、本発明においてはこの態様に限定されるものではなく、つまり外周全体に印刷されていなくても良い。但し、曲げ限界警告表示手段20は、パイプ10の全周の80%以上に設けられていることが好ましい。
例えば、曲げ限界警告表示手段20は、図3に示すように、パイプ10の外周面にスパイラル状に印刷されていても良い。
また、図4に示すように、パイプ10の長手方向に沿って延びる帯状の曲げ限界警告表示手段20を複数本印刷しても良い。
【0024】
−伸びの限界S−
曲げ限界警告表示手段20の伸びの限界Sは、例えば材料の選択や、塗布液中の着色剤の濃度の調整、曲げ限界警告表示手段20の膜厚の調整によりコントロールすることができる。
【0025】
例えば、直径がDとされたパイプ10の最小曲げ半径が10D(直径Dの10倍)の場合、円弧の半径方向最外部分(曲げ限界警告表示手段20が付与されている部分)の伸びは約105%となるので、曲げ限界警告表示手段20は伸びの限界Sを105%に設定する。
具体例を挙げると、メチルエチルケトン(溶媒)80〜90質量%およびクロム錯塩染料(着色剤)1〜10質量%を含むインクと、メチルエチルケトン90〜95質量%およびアセトン5〜10質量%を含む補力液と、を5:5の質量比にて混合した塗布液を用いて印刷・乾燥し形成することで上記伸びの限界Sを満たす曲げ限界警告表示手段20が得られる。
【0026】
また、曲げ限界警告表示手段20の膜厚としては、特に限定されるものではないが、3〜7μmの範囲が好ましい。上記上限値以下であることにより、パイプ10と曲げ限界警告表示手段20の間の摩擦が大きくなり過ぎず、剥離しやすくなることが抑制される。一方上記下限値以上であることにより、曲げ限界警告表示手段20の耐久性が保たれ剥離しやすくなることが抑制される。
【0027】
尚、曲げ限界警告表示手段20における伸び限界Sの測定は、パイプ10を所定の半径で曲げ、曲げ限界警告表示手段20が剥がれるタイミングにより測定する。パイプ10の最小曲げ半径が決まれば、その最小曲げ半径での曲げ限界警告表示手段20における表面の伸びが計算でき、曲げ限界警告表示手段20の伸びの限界が設定される。
【0028】
−作用−
このように、本実施形態のパイプ10には、最小曲げ半径を超えて小さく曲げた際に剥離する曲げ限界警告表示手段20が外周面に印刷されているので、例えば、施工後に曲げられた部分のパイプ外面の曲げ限界警告表示手段20を目視し、曲げ限界警告表示手段20が剥がれ落ちているか否かを判断することで、パイプ10が最小曲げ半径を超えて小さく曲げられているか否かを、メジャー等で実際の曲げ半径を計測する事無く容易に判断することができる。
【0029】
尚、パイプ10を最小曲げ半径以上に曲げた際に曲げ限界警告表示手段20の剥れが生じるメカニズムは、以下のように考えられる。
即ち、パイプ10を最小曲げ半径以上に曲げた際、半径方向最外部分が伸ばされて曲げ限界警告表示手段20もパイプ10に合わせて伸ばされる。曲げ限界警告表示手段20は伸び限界値まで到達すると破断し、破断した後の曲げ限界警告表示手段20は収縮しようとする一方で、パイプ10はさらに伸びようとし、曲げ限界警告表示手段20は収縮の方向、パイプ10は伸長の方向と逆方法の挙動が起こり、両者の接着面にせん断力が発生する。該せん断力により接着面が破壊され、その結果パイプ10外周面上の曲げ限界警告表示手段20にはひび割れ等が発生して粉末化され、剥がれが生じるものと考えられる。
【0030】
なお、曲げ限界警告表示手段20は、パイプ10から剥がれても、パイプ表面に残ることもあるので、念のため、息を吹きかけたり、軽く触る等して、曲げ限界警告表示手段20が剥がれているか否かを確かめることが好ましい。
【0031】
曲げ限界警告表示手段20の色は特に問わないが、不透明であることが好ましく、パイプ10と異なる色としたり、同じ色であれば濃度を変えることで、曲げ限界警告表示手段20の剥がれを目視し易くすることが好ましい。
【0032】
[実験例]
ここで、本発明に係る曲げ限界警告表示手段20を有するパイプ10であれば、最小曲げ半径を超えて小さく曲げた際に、パイプ10が最小曲げ半径を超えて小さく曲げられているか否かを容易に判断することができるか否かについて、実験を行った。
【0033】
・塗布液の調製
メチルエチルケトン(溶媒)80〜90質量%およびクロム錯塩染料(着色剤)1〜10質量%を含むインクと、メチルエチルケトン90〜95質量%およびアセトン5〜10質量%を含む補力液と、を5:5の質量比にて混合し、塗布液を得た。
【0034】
・印刷
外径17mmのポリブテンパイプ(13Jパイプ、(株)ブリヂストン製)をまっすぐな状態に保ち、上記塗布液をインクジェット法によりパイプの外周面全面に印刷し、乾燥した。乾燥後の曲げ限界警告表示手段の厚みは約5μmであった。
尚、上記ポリブテンパイプ(13Jパイプ)の最小曲げ半径は、パイプの半径(D)に対し「10D」となる際の曲げ半径(カタログに規定された値)である。
【0035】
・曲げ試験
上記より得た曲げ限界警告表示手段を有するパイプを、曲げ半径が10Dを超えるまで曲げると、曲げ限界警告表示手段にヒビが入ってパイプの外周面に乗っかっているだけの状態になり、指で軽く擦る程度で剥がれ落ちた。これにより、パイプが最小曲げ半径を超えて小さく曲げられているか否かが容易に判断できた。
尚、まっすぐな状態や、曲げ半径が10D未満の曲げが緩い状態では剥がれは発生しなかった。
【符号の説明】
【0036】
10 パイプ(長尺体)
20 曲げ限界警告表示手段
A 半径寸法
B 半径寸法
CL 中心線
D 直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧状に変形可能な長尺体と、
前記長尺体の外周面に付与され、少なくとも着色剤を含んで構成され、且つ前記長尺体の直径をD、前記長尺体の曲げ内周部で計測する前記長尺体の最小曲げ半径をaDとしたときに、伸びの限界Sが下記式(1)を満たす曲げ限界警告表示手段と、
を備えた曲げ限界警告表示付き長尺部材。
式(1) S[%]=100×(2a+2)/(2a+1)
【請求項2】
前記長尺体は、管状体である、請求項1に記載の曲げ限界警告表示付き長尺部材。
【請求項3】
前記曲げ限界警告表示手段は、前記長尺体の周方向の80%以上に形成されている、請求項1または請求項2に記載の曲げ限界警告表示付き長尺部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104467(P2013−104467A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247684(P2011−247684)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】