説明

曲線引金具のばねユニット分解、組立用治具

【課題】 イヤをトロリ線から取り外すことなく、容易に曲線引金具のばねユニットの保守点検作業を行うことを課題とする。
【解決手段】 ばねユニットの分解、再組立用治具1を、本体2と、本体2に枢着される圧縮部材3と、本体2に螺挿される操作ボルト4とで構成する。本体2は、曲線引金具のばねケース46の下端側から突出したばね48にばねカバー50を介してばね押圧片5を当接させ、このばね押圧片5の一端から直角に起立する支持片6に操作ボルト4を螺挿させる。圧縮部材3は、ばね押圧片5に枢着片7を枢着し、この枢着片7の先端から直角にケース押圧片8を延出させ、ケース押圧片8をばねケース46の上端に係止し、本体2のばね押圧片5と対向させる。操作ボルト4を螺進させ、圧縮部材3を回転させて、ケース押圧片8とばね押圧片5とでばね48を圧縮し、アイボルト47の荷重を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トロリ線の曲線引金具において、アームの先端側を上方へ回転付勢しているばねユニットをメンテナンス等の目的で、分解、再組立する際に用いられる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係るばねユニットの分解、組立用治具を適用するトロリ線の曲線引金具を図8に示す(特許文献1、図3,4参照)。ここで、41は水平パイプ、42は支持金具、43はイヤ、Tはトロリ線、44はアームである。曲線引金具は、支持金具42、イヤ43、アーム44で構成される。水平パイプ41は、電車線柱などの構築物に支持されている。水平パイプ41に支持金具42が固定され、さらにこの支持金具42にアーム44が鉛直平面上で上下方向に自由な回転ができるように支持されている。アーム44の先端にはイヤ43が接続されており、このイヤ43によってトロリ線Tが把持される。従って、トロリ線Tは、引張力に対する水平方向の動きは固定され、鉛直方向の動きは自由になっている。列車の高速運転状況では、トロリ線Tに取り付けられる金具の質量である等価質量が大きいと、トロリ線の硬点となり、トロリ線の局部摩耗の原因となる。そこで、等価質量を極力小さくするために、アーム44の先端側を引き上げる所定の回転付勢力を付与するためのばねユニット45が、アーム44の基端部と支持金具42との間に設けられる。ばねユニット45はまた、万一、イヤ43がトロリ線Tから外れたときに、アーム44の先端側が垂れ下がって電車のパンタグラフと干渉しないようにする機能がある。図6に示すように、ばねユニット45は、ばねケース46と、アイボルト47と、押しばね48と、調整ナット49とを具備する。ばねケース46は、下方に開放して上端が閉じた概略釣り鐘状で、アーム44と一体に形成される。ばね48は、ばねケース46内に挿入される。アイボルト47は、ばね48とばねケース46を上下に自由に貫通して延び、一端のアイ部47aがアーム支持金具42に枢支される。調整ナット49は、アイボルト47の他端部に螺合され、ばね48の圧縮度を変更して、アーム44の引き上げ力を調整する。
上記のような曲線引金具のばねユニットは、設置状態のまま分解して点検し、所要の部品交換を行うことがある、この場合、ばねユニットの分解、再組立の作業は、従来、以下のように行われている。まず、ナット49から突出したアイボルト47の突出寸法を計測してこれを記録することにより、初期の設定ばね力を記録する。次いで、イヤ43をトロリ線Tから外し、アーム44の先端側を引き上げることにより、ナット49にかかっているばね48の力を除去する。ナット49を取り外し、必要な点検、交換作業を行った上、ナット49を再螺合し、記録したアイボルト47の突出寸法位置に調整する。次いで、離れているトロリ線を引き寄せ、トロリ線Tをイヤ43で把持して、作業が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−008042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のばねユニットの分解、組立作業は、夜間の高所作業となるので、アイボルト47の突出寸法の計測、記録作業は容易でない。トロリ線Tには張力がかかっているので、トロリ線Tからのイヤ43の取り外し、と再接続の作業には大きな労力を必要とする。アーム44の先端側を引き上げながら、ばねユニットを分解、再組立する作業は、一人で行うことができない等の課題がある。
したがって、この出願に係る発明は、イヤをトロリ線から取り外すことなく、一人で、容易にばねユニットの保守点検作業を行うことができるばねユニットの分解、再組立用治具を提供すること、また、アイボルトの突出寸法の計測、記憶、および再組立の際のナットの調整が容易なばねユニットの分解、再組立用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 上記課題を解決するための、この出願に係るばねユニットの分解、再組立用治具1は、本体2と、圧縮部材3と、操作ボルト4とを具備する。本体2は、ばねケース46の一端側から突出したばね48の一端にばねカバー50を介して当接するばね押圧片5を有する。圧縮部材3は、本体2に枢着され、ばねケース46の他端側に当接するケース押圧片8を有し、このケース押圧片8と本体2のばね押圧片5との間でばね48を圧縮可能に構成される。図6に示すように、操作ボルト4は、先端が圧縮部材3に当接するように本体2に螺合され、螺進によりばね48を圧縮する方向に圧縮部材3を回転させ、曲線引金具のアイボルト47の荷重を除去する。
ばねユニットの分解、再組立用治具1は、アイボルト47の突出長さ測定治具11をさらに具備するものとすることができる。アイボルト47の突出長さ測定治具11は、設置状態にある曲線引金具のばねユニット45における調整ナット49から突出する既設のアイボルト47の既定突出長さを記憶し、ばねユニット分解後の再組立の際にアイボルト47の突出長さを既定突出長さに合わせるためのものであり、ナット部材12と、ねじ棒13と、ロックナット14とを具備する。ナット部材12は、一端側にアイボルト47の突出部に螺合可能なねじ筒部15を有し、他端側にねじ筒部15と同軸の貫通ねじ部16を有する。ねじ棒13は、ナット部材12の貫通ねじ部16に螺合される。ねじ筒部15は、先端が調整ナット49に当接するまでアイボルト47の突出部にねじ込まれる。この状態で、ねじ棒13を螺進させて、アイボルト47の先端に当接可能である。ロックナット14は、ねじ棒13に螺合され、ねじ棒13がアイボルト47の先端に当接した状態で、ナット部材12に圧接させることで、ナット部材12に対してねじ棒13を固定する。
【発明の効果】
【0006】
この出願に係る発明のばねユニットの分解、再組立用治具によれば、本体とばね押圧片とでばねを圧縮し、アイボルトの荷重を除去できるので、イヤをトロリ線から取り外すことなく、一人で、容易にばねユニットの保守点検作業を行うことができる。
また、アイボルトの突出長さ測定治具を併せて具備すれば、既設のアイボルトの突出寸法を、ナット部材に対するねじ棒の螺合深さによって、容易に計測、記憶でき、再組立の際に螺合される新たな調整ナットを既設調整ナットの規定の元位置にセットするとき、新たな調整ナットをナット部材に当接させるだけで規定位置へのセットが容易に完了する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係るばねユニットの分解、再組立用治具の正面図である。
【図2】図1の分解、再組立用治具の側面図である。
【図3】図1の分解、再組立用治具の平面図である。
【図4】図1の分解、再組立用治具の底面図である。
【図5】図1の分解、再組立用治具の斜視図である。
【図6】図1の分解、再組立用治具の使用状態の正面図である。
【図7】本発明に係るばねユニットの分解、再組立用治具における測定治具の正面図である。
【図8】本発明に係るばねユニットの分解、再組立用治具を適用する曲線引金具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
ばねユニットの分解、再組立用治具1は、本体2と、本体2に枢着される圧縮部材3と、本体2に螺挿される操作ボルト4とを具備する。
本体2は、ばね押圧片5と、このばね押圧片5の一端から直角に起立する支持片6とを有する。
ばね押圧片5は、使用時に、曲線引金具のばねケース46の下端側から突出したばね48の下端に、ばねカバー50を介して当接させるものである。ばね押圧片5は、ばね48の下端から突出したアイボルト47の下端部を挿通させるほぼ円形の切り欠き5aと、これを囲んでばねカバー50に当接する当接部5bとを有する。ばね押圧片5の支持片6寄りの上面には、軸受け部5cが突設される。
支持片6は、ばね押圧片5と平行に操作ボルト4を螺挿させるねじ孔6aを有する。ねじ孔6aは、支持片6の円孔6bに重ねて溶着されたナット6cによって形成される。
【0009】
圧縮部材3は、枢着片7と、この枢着片7の先端から直角に延出するケース押圧片8とを有する。
枢着片7は、基端においてばね押圧片5の軸受け部5cに、軸9により枢着される。枢着片7は、支持片6と対向する外面とその反対側の内面とを有し、内面側にパッド10が固着される。パッド10は、ばねケース46の円弧状の外周面に沿うように円弧状に切り欠かれたガイド部10aを有する。
ケース押圧片8は、ばねケース46の上端に係止され、本体2のばね押圧片5と対向してばね48を圧縮するためのものである。
【0010】
操作ボルト4は、基端側に摘みハンドル4aを有し、先端が枢着片7の外面7aに当接するように、本体2のねじ孔6aに螺挿される。操作ボルト4を螺進させることにより、圧縮部材3を軸9を中心に回転させ、ケース押圧片8をばね押圧片5に接近させる。
【0011】
ばねユニットの分解、再組立用治具1は、アイボルトの突出長さ測定治具11をさらに具備するものとすることができる。この測定治具11は、圧縮部材3に紐体17で接続される。測定治具11は、設置状態にある曲線引金具のばねユニット45における調整ナット49から突出する既設のアイボルト47の既定突出長さを記憶し、ばねユニット分解後の再組立の際に、アイボルト47の突出長さを既定突出長さに合わせるためのものである。測定治具11は、ナット部材12と、ねじ棒13と、ロックナット14とを具備する。
【0012】
ナット部材12は、一端側にアイボルト47の突出部47bに螺合可能なねじ筒部15を有し、他端側にねじ筒部15と同軸の貫通ねじ部16を有する。また、ナット部材12は、外周に、回転操作用のローレット刻みを有する。
【0013】
ねじ棒13は、基端側に摘みハンドル13aを備え、ナット部材12の貫通ねじ部16に螺合され、ねじ筒部15に螺合されるアイボルト47の先端に当接可能である。
【0014】
ねじ棒13に螺合されるロックナット14は、外周に回転操作用のローレット刻みを備える。ねじ棒13がアイボルト47の先端に当接した状態で、ロックナット14をナット部材12に圧接させることで、ナット部材12に対してねじ棒13を固定する。ねじ棒を固定した状態で、ナット部材12をアイボルト47から抜き取れば、ねじ筒部15の先端からねじ棒13の先端までの距離Aが、アイボルト47の既定突出長さとして記憶される。
【0015】
曲線引き金具を電車線路に設置した状態で、ばねユニット45を分解して保守点検や部品交換を行う場合には、図6に示すように、分解、再組立用治具1を側方からばねケース46に嵌め込み、ばね押圧片5をばねカバー50に当接させると共に、ケース押圧片8をケースの上端に当接させる。この状態で、測定治具11のねじ筒部15をアイボルト47の突出部47bに螺合し、ねじ筒部15の先端が調整ナット49に当接するまでねじ込む。ねじ筒部15の先端が調整ナット49に当接したら、ねじ棒13をねじ筒部15内へねじ込んで、その先端をアイボルト47の先端に当接させる。ロックナット14を調整し、これをナット部材12に圧接させ、ナット部材12とねじ棒13とを固定する。この状態で、ナット部材12を回転させて、ねじ筒部15をアイボルト47の突出部47bから外す。次いで、操作ボルト4を本体2にねじ込んで、圧縮部材3を回転させ、ケース押圧片8をばね押圧片5に接近させることにより、ばね48を圧縮する。ばね48の圧縮により、アイボルト47の荷重が除去され、アイボルト47は、自由に動かせるようになる。この状態で、アイボルト47や調整ナット49、座金等、所要の部品を交換する。再組立の際には、調整ナット49をばね48(ばねカバー50)に当接するまでねじ込む。この状態で、調整ナット49の位置は、既定位置より深いねじ込み位置にある。次いで、アイボルト47の突出部47bに、先にボルト47の既定突出長さを記憶させた測定治具11のねじ筒部15を、ねじ棒13の先端がアイボルト47の先端に当接するまでねじ込む。この状態で、調整ナット49を、ねじ筒部15の先端に当接するまでねじ戻す。これで調整ナット49は、既定位置に配置される。次いで、操作ボルト4を緩めてばね48を解放し、分解、再組立用治具1と測定治具11を取り外して作業は終了する。
【符号の説明】
【0016】
1 ばねユニットの分解、再組立用治具
2 本体
3 圧縮部材
4 操作ボルト
5 ばね押圧片
5c 軸受け部
6 支持片
6a ねじ孔
7 枢着片
8 ケース押圧片
9 軸
10 パッド
11 アイボルトの突出長さ測定治具
12 ナット部材
13 ねじ棒
14 ロックナット
15 ねじ筒部
16 貫通ねじ部
45 ばねユニット
46 ばねケース
47 アイボルト
48 ばね
49 調整ナット
50 ばねカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造物に固定されるアーム支持金具と、基端において前記アーム支持金具に上下方向に回転自在に枢支されるアームと、このアームの先端に取り付けられトロリ線を把持するイヤと、前記アーム支持金具とアームとの間に介設されアームの先端側を上方へ引き上げるように回転付勢するばねユニットとを具備し、このばねユニットは前記アームの途上に設けられ一端が閉じて他端に開放するばねケースと、このばねケース内に挿入される押しばねと、ばねとばねケースを貫通して延び一端のアイ部が前記アーム支持金具に枢支されるアイボルトと、このアイボルトの他端部に螺合され前記ばねの圧縮度を変更して前記アームの引き上げ力を調整する調整ナットとを具備する曲線引金具における前記ばねユニットを設置状態において分解し、再組立する際に用いられるものであって、
前記ばねケースの一端側から突出した前記ばねの一端に当接するばね押圧片を有する本体と、
前記ばねケースの他端側に当接するケース押圧片を有し、前記本体に枢着され、本体に対する回転により、ケース押圧片と前記ばね押圧片との間で前記ばねを圧縮可能に構成される圧縮部材と、
先端が前記圧縮部材に当接するように前記本体に螺合され、螺進により前記ばねを圧縮する方向に圧縮部材を回転させ、前記曲線引金具のアイボルトの荷重を除去可能とする操作ボルトとを具備することを特徴とする曲線引金具のばねユニット分解、組立用治具。
【請求項2】
設置状態にある前記曲線引金具のばねユニットにおける前記調整ナットから突出する既設の前記アイボルトの既定突出長さを記憶し、ばねユニット分解後の再組立の際にアイボルトの突出長さを既定突出長さに合わせるための測定治具をさらに具備し、
この測定治具は、一端側に前記アイボルトの突出部に螺合可能なねじ筒部を有し他端側にねじ筒部と同軸の貫通ねじ部を有するナット部材と、
このナット部材の前記貫通ねじ部に螺合され、前記ねじ筒部に螺合された前記アイボルトの先端に当接可能なねじ棒と、このねじ棒に螺合されるロックナットとを具備することを特徴とする請求項1に記載の曲線引金具のばねユニット分解、組立用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−208517(P2010−208517A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57457(P2009−57457)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)