説明

最適化された反射誘電体回折格子

本発明は、少なくとも4つの平面状誘電体層を積層して、その上層が誘電体層で回折次数を決める溝が彫られた回折格子で、光線を回折する反射回折格子の製造方法であって、その製造方法は、溝が彫られる層を含めて誘電体層の数と性状を選択する段階と、予め定めた回折格子の形態それぞれの使用スペクトル範囲の周波数で、少なくとも4つの誘電体の厚さを変え、予め定めた回折格子の間隔と予め定めたインクレメントピッチで少なくとも1つの格子溝のパラメーター値を変えて、少なくとも1つの回折次数での回折および/または伝達効率を数値計算する段階と、計算された形態の内で、想定される回折の使用基準を考慮して、少なくとも1つの形態を決める段階と、を有して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射誘電体回折格子の製造方法に関し、より詳細には特別の条件下での使用に最適化された反射誘電体回折格子の製造方法に関するものである。
本発明は、また、この方法で製造された反射誘電体回折格子に関するものである。
好ましくは、限定するものではないが、高出力レーザ光スペクトル分散を行うに最適化された反射誘電体回折格子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、一定間隔の溝をもつ光学装置である。入射波長、入射角度、および溝の周期により多くの回折次数がある。(0次でない)回折次数では、反射角度は、波長に依存する。回折格子は、多くの光学システムに用いられ、特に周波数ドリフトによるパルスレーザーの増幅に用いられる。
【0003】
1)パルスレーザーの周波数ドリフト増幅に対する格子の使用
パルスレーザーにより、数ピコ秒(10−12秒)あるいは数フェムト秒(10−15秒)の非常に短い時間の瞬時高電力を得ることができる。このレーザーでは、超短パルスレーザーがレーザー空洞により発生し、増幅媒質で増幅される。パルスレーザーは、生成されたときに低エネルギーであっても、そのパルスエネルギーが非常に短い時間で送られることで高い瞬間電力となる。
【0004】
瞬間電力が増幅媒質を破壊することなくパルスレーザーの電力を上げることを可能にするには、パルス幅を一時的に大きくしてから増幅し、次いでこれを圧縮することが考えられた。この増幅媒質に使用される瞬間電力は、パルスレーザーにより発せられたパルス電力に比較して最終的に低くなる。この周波数ドリフト増幅法〔しばしば“CPA”(チャープパルス増幅;Chirped Puises Amplification)と呼ばれる〕は、大略10の大きさでパルス持続時間を長くし、次いで、圧縮して最初の持続時間に戻すことができる。
【0005】
CPA法は、非特許文献1に記載され、パルスのスペクトル分解を用い、光路を、一時的に異なる波長の異なる長さにシフトさせている。パルス幅の延長と圧縮は、しばしば回折能に優れ、かつレーザーに耐える回折格子によって行われる。
【0006】
2)格子の必要要件
この方法を行うに使用される回折格子は、いくつかの特別な要件に沿わなくてはならない。回折格子は、ある回折次数で非常に良好な反射効率を有していなくてはならない。すなわち、回折格子は、増幅されるパルスレーザーのスペクトル範囲に対応したスペクトル幅で、ある回折次数で入射光の大部分を反射しなくてはいけない。
周波数ドリフト増幅法は、回折格子が必要である。レーザー、特に増幅された後に圧縮するパルスレーザーに対しての耐久性が要求される。
【0007】
3)回折格子
非特許文献2に記載された回折格子は、金属タイプより優れたレーザー耐久性を有している。この回折格子は、基材の上に薄い誘電体層を積み重ねて作成され、入射光のほぼ99%を反射する。その上表面は、周期的に溝が彫られて回折格子としている。
【0008】
積み重ねられた層それぞれは、高屈折率nである層と低屈折率nである層が交互になったブラッグミラー(Bragg mirror)、すなわち“1/4波長ミラー(quarter wave mirror)を形成するように選ばれる。高屈折率nの層と低屈折率nの層それぞれの厚さt、tは、次の関係式で決定される。
【0009】
【数1】

ここで、λは、入射光の波長であり、θとθは、次の関係式で決められる。
【0010】
【数2】

θは、格子上の光の入射角である。このような、ブラッグミラーは、強め合う干渉作用により所定波長での入射エネルギーの99%以上を反射することができる。
【0011】
しかしながら、一つの波長λに対して異なる層の厚さが計算されるので、この波長λを中心に約20nmより大きなスペクトル幅のパルスに対しては満足のいく結果が得られない。
【0012】
4)従来技術の欠点
数ナノメーター近くのスペクトル幅をもつパルスレーザーの周波数ドリフト増幅で満足のいくブラッグミラーベースの誘電体格子は、大きなスペクトル幅をもつ最短のパルスには適用されない。
【0013】
それ故、パルスの持続時間を短くするには、ナノメートルの数十倍、あるいは数百倍の広いスペクトル幅で最適パフォーマンスが得られる回折格子が必要となる。従来技術では、このようなスペクトル幅で良好なパフォーマンスが得られ、破壊限界が高い回折格子はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】D.StricklandとG.Mourou;“増幅されたチャープ光学パルスの圧縮(Compression of amplified chirped optical pulses)”,Opt.Commun.,56巻,219−221頁、1985年
【非特許文献2】M.D.Perry,R.D.Boyd,J.A.Britten,B.W.Shore,C.Shannon,L.Li;“高効率多層誘電体回折格子(High efficiency multilayer dielectric diffraction gratings)”,Opt.Lett.,20巻,940−942頁,1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、従来技術の欠点をなくすことにある。そこで、本発明の目的は、特別な用途に最適化された反射誘電体回折格子を得る方法を提供することにある。
特に、本発明の目的は、ナノメーターの数十倍、あるいは数百倍の周波数範囲での使用に適した反射誘電体回折格子が得られるようにすることにある。
本発明の目的は、また、ナノメーターの数百倍大きいスペクトル幅の超短パルスレーザーを周波数ドリフト増幅するに適した反射誘電体回折格子が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの目的は、以下に明確に示すが、所定のスペクトル幅、入射角、偏光をもつ光線を回折する反射回折格子を得る方法で達成できる。この反射回折格子は、平板誘電体層を積重ね、その最上層の誘電体層に予め定められた周期で溝が彫られて回折格子としている。
【0017】
本発明による方法は、次のステップで行うことができる。
− 溝が彫られる層を含めて誘電体層の数と性状を選択する。
− 予め定めた回折格子の形態それぞれの使用スペクトル範囲の周波数で、少なくとも4つの誘電体の厚さを変え、予め定めた回折格子の間隔と予め定めたインクレメントピッチで少なくとも1つの格子溝のパラメーター値を変えて、少なくとも1つの回折次数での回折および/または伝達効率を数値計算する。
−計算された形態の内で、想定される回折の使用基準を考慮して、少なくとも1つの形態を決める。
【0018】
溝が彫られていない誘電体層は、金属層の上に設けられ、その誘電体層の数は5と15の間で選ばれるのが好ましい。
【0019】
また、数値計算する段階で変化される格子溝のパラメーターは、彫りの深さと溝の幅であるのが好ましい。
少なくとも1つの回折次数での回折および/または伝達の効率を求める数値計算は、100nmより大きいスペクトル範囲にある、少なくとも10の周波数で行われるのが好ましい。
好ましい実施形態では、スペクトル範囲は、700nmと900nmの間である。
【0020】
本発明は、また、1つの金属層と、交互に配置された少なくとも2つの高屈折率の材料層と低屈折率の材料層と、溝が彫られて回析格子を形成する誘電体材料の最上層とでなっていて、高屈折率の材料層あるいは低屈折率の材料層からの少なくとも2つの層が異なる厚さであり、高屈折率の材料層と低屈折率の材料層の厚さと、最上層の溝の少なくとも1つのパラメーターが、上記の方法で決められる反射回析格子に関するものである。それ故に、本発明の反射回析格子は、全ての層の厚さが同じであるブラッグミラーをベースにしたものとは異なっている。
【0021】
反射回析格子は、少なくとも2つのシリカ(SiO)層と少なくとも2つの二酸化ハフニウム(HfO)層が交互に配置され、溝が彫られた最上層がシリカ(SiO)であるのが好ましい。
【0022】
反射回析格子は、700nmと900nmの間のスペクトル範囲で、入射角が50°と56°の間である光線の回折に対し、基材(1)の上に、少なくとも、厚さが150nm以上である金(Au)層、厚さが150nmと300nmの間であるシリカ(SiO)層、厚さが150nmと300nmの間である二酸化ハフニウム(HfO)層、厚さが250nmと400nmの間であるシリカ(SiO)層、厚さが50nmと200nmの間である二酸化ハフニウム(HfO)層、厚さが50nmと200nmの間であるシリカ(SiO)層、厚さが100nmと250nmの間である二酸化ハフニウム(HfO)層、厚さが625nmと775nmの間であり、全厚さの高さで格子を形成するための溝が彫られて、前記溝が1mmあたり1400本と1550本mmの間で、前記溝の周期dと幅cの比c/dが0.65であるシリカ(SiO)層、が積層されているのが好ましい。
【0023】
好ましい実施形態によれば、この反射回析格子は、最後の二酸化ハフニウム(HfO)層と溝が彫られたシリカ(SiO)層の間に、1つのアルミナ(Al)層がある。
【0024】
本発明は、また、基材を有し、その上に、金(Au)層、厚さが240nmのシリカ(SiO)層、厚さが240nmの二酸化ハフニウム(HfO)層、厚さが380nmのシリカ(SiO)層、厚さが100nmの二酸化ハフニウム(HfO)層、厚さが100nmのシリカ(SiO)層、厚さが200nmの二酸化ハフニウム(HfO)層、厚さが50nmのアルミナ(Al)層、厚さが700nmのシリカ(SiO)層が、順次積層されてなっている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の他の目的、利点および特徴は、本特許出願の主題および範囲を限定するものではないが、以下に図面を添付して説明する好ましい実施形態で明らかになるであろう。
【図1】ブラッグミラーをベースにした従来技術による回析格子を模式的に表した断面図である。
【図2】本発明による回析格子を模式的に表した断面図である。
【図3】図2に示した回析格子について、入射光の波長に対しての反射効率を示した図である。
【図4】800nmを中心に200nmのスペクトル幅をもち、図2の回析格子を有する装置によって圧縮することができるパルスレーザーのスペクトル強度である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1)従来技術の概要
図1は、ブラッグミラーをベースにした従来技術による回析格子の断面図である。この格子では、基材13の上に、高屈折率の層11と低屈折率の層12が交互に重なっている。それぞれの層の厚さは、屈折率nまたはnで、また入射光の入射角θと波長λで決められる。ブラッグミラーでは、高屈折率の層11は全て同じ厚さであり、低屈折率の層12は全て同じ厚さである。
【0027】
複数の層からなる回折格子は、レーザーに晒されるとクラックを発生する危険性がある。この弊害を回避するために、ガラス基材13とブラッグミラーを形成する誘電体積層との間に金の層(図示していない)を挿入して、高反射を得るに必要な薄い層の数を減らし、同時に破壊限界を完全誘電体ミラーに近くしている。
この場合、金の層の厚さは、典型的に150nmである皮膚の厚さよりかなり大きく、ガラス基材は、パルスレーザーとは光学的に相互作用しない。
【0028】
金の層の上に重なる誘電体層の数は、使用者の決めるものではあるが、完全誘電体で、6つにまで減らすことができる。この解決策は、N.Bonod、J.Neauportによる「超高強度レーザーにおける圧縮に用いる回折格子の光学的性能とレーザー損傷限界の改善(Optical performances and laser induced damage threshold improvement of diffraction gratings used as compressors in ultra high intensity lasers)」(Opt.Commun.,260巻,2号,649〜655頁,2006年)の文献に記載されている。
【0029】
上層(15)は、溝が彫られて格子を形成する。その周期と溝形状は、回折次数(−1)で反射する入射エネルギーが最大に集められるように決定される。この回折次数(−1)で集められたエネルギーだけが、最終のパルスレーザーに使用される。その他の次数で発射されたエネルギーは、失われる。その周期と溝形状は、一般的に、回折次数(−1)で反射した入射エネルギーの凡そ95%が集められるように決定される。
従来技術の格子は、ある波長では良好な性能を示すが、特に、広い周波数範囲をカバーするパルスレーザーの分散には採用されない。
【0030】
2)寸法決定の考え方
本発明は、平板層の厚さと格子の溝形状の2つを最適にすることにある。層それぞれの厚さは、ブラッグミラーでは決定されるものではないが、溝形状による特性と関連して、数値計算法によって最適化され、広いスペクトル幅で良好な反射効率をもつようにしている。
【0031】
最適化された格子は、いくつかのパラメーターを選んで、最適な方法を行う。これらのパラメーターには、次のものがある。
− 誘電体層の数と性状:層の数は、一般的に20以下、好ましくは15以下とし、格子にクラックが発生する危険性を避ける。しかし、格子は、5または5より多いと良好な反射効率となる。
− 格子上の光パルスの入射角:スペクトル幅とパルスの偏光は、光学システムに関連した制約上の要素として選ばれる。
− 溝を彫る層の材料
− 溝の周期dは、パルスレーザーのスペクトル範囲と入射角は、0次(常に存在する)と−1次は強いが、他の次数は弱いことを知って、予め決めておくのがよい。
− 溝を形成する台形の傾きは、溝を彫る製造者に関連した制約要素として選ばれる。
【0032】
最適化は、次の点から最良の組合わせを選んで行われる。
− 彫られる深さhは、溝が層の全高さで彫られるならば、溝の彫られる層の厚さに相当する。
− 溝の幅cは、溝が彫られる層の中間高さでの幅である。
【0033】
これら値それぞれについて、最小値と最大値、およびインクレメントピッチが決定される。最小値と最大値は、製造上の制約として選ばれる。インクレメントのピッチは、所望する最適化の正確度と関連して選ばれる。
更に、[最小値;最大値]の領域幅とインクレメントピッチは、最適化を行うに使用されるコンピューターの能力で選ばれる。領域幅が大きくなる、あるいはインクレメントピッチが小さくなると、計算を行う数が増えることになる。
【0034】
これらのパラメーターをもつ回析格子は、本発明によれば、次のステップで行う方法でその寸法を決めることができる。
− 回析格子として可能な複数の形態が、前述のパラメーターに対応して決定される。この目的のために、コンピューターは、誘電体材料層の厚さと上層の溝のパラメーターを、所定の領域幅で変え、かつ所定のピッチに従って、あらゆる可能な組合せを決めていく。
− 第1ステップで決定された形態のそれぞれについて、その格子に使用されるスペクトル範囲で選ばれた周波数で、格子の回折次数(−1)での反射効率が計算される。
− それぞれの形態での効率が計算された後に、適切な基準で想定した回折格子の使用に最も適した反射効率と特性をもつ形態が選択される。
【0035】
コンピューター計算を単純化するために、あるいは最適化するに適切でなくとも、パラメーターのうちのいくつかを固定できることを知っておいてもよい。
例えば、機械的な制約に対応するための薄いアルミナ(Al)層のような本質的に光学的効果をもたない誘電体層の厚さは固定できる。
【0036】
本発明によれば、溝のパラメーター(彫りの高さh、傾斜角度α、溝の幅c)の少なくとも1つ、および少なくとも4層でなる光学的効果の大きな誘電体それぞれの厚さを同時に最適化できる。
それ故、この新しいこの数値最適化方法は、格子を形成するそれぞれの層の厚さと、格子の溝特性が同時に考慮に入れられている。
【0037】
6つの誘電体層とさらに溝が彫られる層がある場合に、可能な複数の形態を決定するのに、ソフトウェアは、次に挙げる変数を用いている。
− 溝の彫られる層の高さh;
− 第1層の厚さe1;
− 第2層の厚さe2;
− 第3層の厚さe3;
− 第4層の厚さe4;
− 第5層の厚さe5;
− 第6層の厚さe6;
− 溝の幅c;
【0038】
次のパラメーターが、ソフトウェアに入力される。
− 溝の彫られる層の高さの最小値hminと最大値hmax、および変数hのインクレメントピッチΔh;
− 第1層厚さの最小値e1minと最大値e1max、および変数e1のインクレメントピッチΔe1;
− 第2層厚さの最小値e2minと最大値e2max、および変数e2のインクレメントピッチΔe1;
− 第3層の最小厚さe3minと最大値e3max、および変数e3のインクレメントピッチΔe1;
− 第4層の厚さの最小値e4minと最大値e4max、および変数e4のインクレメントピッチΔe1;
− 第5層の厚さの最小値e5minと最大値e5max、および変数e5のインクレメントピッチΔe1;
− 第6層の厚さの最小値e6minと最大値e6max、および変数e6のインクレメントピッチΔe1;
− 溝の幅の最小値cminと最大値cmax、および変数cのインクレメントピッチΔc;
【0039】
ソフトウェアは、最小値hmin、e1min、e2min、e3min、e4min、e5min、e6min、minのそれぞれで、変数h、e1、e2、e3、e4、e5、e6、cそれぞれの計算を始める。その後、マクスウェル方程式を解く適切な方法を使用して、この第1の形態での反射効率を計算する。
【0040】
第1のパラメーターhは、hmaxより小さくまたは等しい値になる迄、ピッチΔhで大きくしていく。そして、hで得られた値それぞれについて、マクスウェル方程式を解く適切な方法を使用して対応する形態の反射効率を計算する。
【0041】
第2のパラメーターe1は、e1maxより小さくまたは等しい値になる迄、ピッチΔe1で大きくしていく。そして、e1で得られた値それぞれについて、上記のようにhの値を変え、マクスウェルの方程式を解く適切な方法を使用して対応する形態の全ての反射効率を計算する。
【0042】
第3のパラメーターは、次いで、パラメーターh、e1、e2、e3、e4、e5、e6、cを、定めたインクレメントピッチで大きくしていき、定めた最小値と最大値の間にある可能な全ての格子形態の反射効率を計算する。
【0043】
従って、次のパラメーターが入力されると、
min=300nm、hmax=800nm、Δh=10nmでは、hとして可能な数は51であり;
e1min=0nm、e1max=200nm、Δe1=10nmでは、elとして可能な数は21であり;
e2min=100nm、e2max=300nm、Δe2=10nmでは、e2として可能な数は21であり;
e3min=0nm、e3max=200nm、Δe3=10nmでは、e3として可能な数は21であり;
e4min=100nm、e4max=300nm、Δe4=10nmでは、e4として可能な数は21であり;
e5min=0nm、e5max=200nm、Δe5=10nmでは、e5として可能な数は21であり;
e6min=100nm、e6max=300nm、Δe6=10nmでは、e6として可能な数は21であり;
min/d=0.55、cmax/d=0.75、Δc/d=0.1(溝の周期dは固定される)では、cとして可能な数は3であり;
従って、反射効率が計算される形態の数は、3×51×(21)=13,122,216,513となる。
【0044】
3)反射効率の計算
それぞれの形態について、所定周波数範囲で予め選択された複数の波長に対して、格子の反射効率を計算する。格子の形態それぞれの回析次数(−1)での反射効率を計算する方法は、マクスウェルの方程式の正確な解答に基づいており、マクスウェルの方程式を1次微分方程式に縮小可能にするフーリエ級数の電気磁気分野での発展に依っている。
【0045】
基材の上の層を重ねて統合したシステムは、周期的な構成成分の反射効率と透過効率を正確に計算することを可能にしている。第2の統合は、全スペースでの電磁界を再構築することを可能にしている。
【0046】
この計算方法は、M.Neviere、E.Popovの“周期的媒体中での光伝播;微分理論と設計(Light propagation in periodic medias;differential theory and design”)(Marcel Dekker,ニューヨーク、バーゼル、香港、2003年)の著述に記載されている。
全ての形態について、−1次での反射計算が行われると、回析格子の想定した目的に使用できる良好な反射効率と特性を有する形態を選ぶことが可能である。
【0047】
4)図2の格子を得るに選ばれたパラメーター
図2に示した回析格子は、800nmを中心に200nmのスペクトル幅でチタンサファイア結晶によるフェムト秒タイプのパルスレーザーの周波数ドリフト増幅、およびTE(電気伝播)偏光を意図している。
【0048】
図4は、このパルスレーザーのスペクトル強度の測定結果である。格子上の光の入射角は55°に固定し、格子の溝の数1/dは、1mm当たり1480に固定している。
溝を形成する台形の傾斜角度αは、83°が選ばれる。この角度は、現在の製造者により製造され、この深さにあるこのタイプの酸化物の格子上で計測された角度に近い
【0049】
そこで、3つのSiO平面層21、23、25と、3つのHfO平面層22、24、26を交互に配置し、一番下のSiO層21を金層20の上に置いた格子を製造することが選ばれた、
SiOの平面層21、23、25それぞれに対して、インクレメントピッチは、[100;400]nmの間で10nmである。HfOの平面層22、24、26それぞれに対して、インクレメントピッチは、[0;300]nmの間で10nmである。SiOの付加的な上層28は、溝がその全高さで彫られる。
【0050】
厚さが50nmのAlの層27が、溝が彫られる上のSiO層28と上のHfO層26の間に配置されて、上のSiO層28の全高さで溝が彫られてもHfO層26を破損しないようになる。この薄い層27は、格子を製造するに不可欠であり、格子の反射効率の計算には、定数として考慮に入れられる。本発明の別の実施形態では、Al層は、使用せず、あるいは別の位置に置いている。
【0051】
パラメーターc/dのインクレメントピッチは、[0.55;0.75]の間で、0.1である。溝の深さh(この実施形態では、溝が彫られる層の厚さに相当する)のインクレメントピッチは、[300;800]10nmの間で、10nmである。−1次の反射効率は、700nmと900nmの間の41の波長で計算される。
それ故、選ばれたパラメーターを関数にして、可能な回折格子の反射効率の計算の数は、41×3×51×[31]でなる。ここで、nは平面層の数、すなわちここでは6である。
【0052】
−1次での反射効率が,細かい最適化の数百倍に上ることがある反射波長が多くあることに注意すべきである。
【0053】
5) 格子パラメーターの最適化
この形態で−1次での反射効率の計算は、上に記載した計算方法を用いて、コンピューターで計算される。この方法は、もちろん繰返して行われる。このようにして、この方法の最初の実施で、格子の最適値が見出されたら、範囲を変え、インクレメントピッチを小さくした1つ以上の形態で、格子の最良値をより正確に定めることができるようになる。
【0054】
本発明による寸法決め方法を使用して、図2に関連して記載したパラメーターが異なる格子形態を見出すことができ、溝の深さが約700nm、スペクトル幅[700;900]nmで、−1次での平均反射効率が90%以上である格子が得られる。
【0055】
ガラス基材上に連続的に配置された格子形態の1つは、以下の通りである。
− 厚さが、代表的に150nmである皮膚の厚さより大きく、パルスレーザーと光学的な作用のないガラス基材の上に配置された金層20;
− 厚さが240nmであるシリカ(SiO)層21;
− 厚さが240nmである二酸化ハフニウム(HfO)層22;
− 厚さが380nmであるシリカ(SiO)層23;
− 厚さが100nmである二酸化ハフニウム(HfO)層24;
− 厚さが100nmであるシリカ(SiO)層25;
− 厚さが200nmである二酸化ハフニウム(HfO)層26;
− 厚さが50nmであるアルミナ(Al)層27;
− 厚さが700nmであり、その全厚さに格子を形成する溝が彫られ、溝のc/d比が0.65であるシリカ(SiO)層28;
【0056】
次数が多いときのエネルギー分散を制限するために回析次数を2つ(−1次と0次)に限定して、溝のパラメーターを選択した。0次は、分散しないし(この次数での回折角は周波数に依存しない)、−1次の光は、分散する。
【0057】
図3のグラフは、最小値30、31、32および33が現われるが、それらのスペクトル幅は非常に細く、スペクトル範囲で計算された平均反射効率には影響しないことを示している。
【0058】
図4は、例として、図2の格子により反射されなければならないパルスレーザーのスペクトル強度を示している。格子を選択するために使用された基準は、図4に示した入射波のスペクトル強度に着目した格子の平均反射効率である。この平均反射効率は、全スペクトル範囲[700nm;900nm]に規則的に分配した801ポイント以上で計算されており、図2の格子では94.5%である。
この方法を使用して寸法決めされた格子は、ブラッグミラーをベースにした格子を製造している当業者には周知である従来の製造方法で製造することができる。
【0059】
6) 最良の反射効率となる間隔
この寸法決め方法によって、SiOとHfOの6つの層と溝が彫られる層を有する回折層の間隔を決定することが可能であり、800nmを中心におよそ200nmのスペクトル幅で、格子上に入射角が50°と56°の間で入るパルスレーザーで、チタンサファイアタイプの材料の回折格子によって増幅されたとき、−1次での平均反射効率が90%以上とすることができる。
【0060】
この格子の溝の深さは、625nmと775nmの間であり、1mm当たりの線の数は、1400と1550の間である。層の厚さである間隔は、次の通りである。
− 1層(SiO):[150;300]nm
− 2層(HfO):[150;300]nm
− 3層(SiO):[250;400]nm
− 4層(HfO):[50;200]nm
− 5層(SiO):[50;200]nm
− 6層(HfO):[100;250]nm。
このような性状を有する回折格子を使用することは、特にチタンサファイアタイプの材料によって増幅されたパルスレーザーを圧縮するに有利となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4つの平面状誘電体層を積層して、その上層が誘電体層で回折次数を決める溝が彫られて回折格子とし、所定のスペクトル幅、入射角、偏光をもつ光線を回折する反射回折格子の製造方法であって、
− 溝が彫られる層を含めて誘電体層の数と性状を選択する段階と、
− 予め定めた回折格子の形態それぞれの使用スペクトル範囲の周波数で、少なくとも4つの誘電体の厚さを変え、予め定めた回折格子の間隔と予め定めたインクレメントピッチで少なくとも1つの格子溝のパラメーター値を変えて、少なくとも1つの回折次数での回折および/または伝達効率を数値計算する段階と、
−計算された形態の内で、想定される回折の使用基準を考慮して、少なくとも1つの形態を決める段階と、
を有することを特徴とする反射回析格子の製造方法。
【請求項2】
溝が彫られない前記誘電体層は、金属層の上に設けられ、その誘電体層の数が5と15の間で選ばれることを特徴とする請求項1に記載の反射回析格子の製造方法。
【請求項3】
前記数値計算する段階で変化される格子溝のパラメーター値は、溝の深さと幅であることを特徴とする請求項1または2に記載の反射回析格子の製造方法。
【請求項4】
少なくとも1つの回折次数での回折および/または伝達の効率を求める数値計算は、100nmより大きいスペクトル範囲にある、少なくとも10の周波数で行われることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の反射回析格子の製造方法。
【請求項5】
前記スペクトル範囲が、700nmと900nmの間であることを特徴とする請求項4に記載の反射回析格子の製造方法。
【請求項6】
1つの金属層と、
交互に配置された少なくとも2つの高屈折率の材料層と低屈折率の材料層と、
溝が彫られて回析格子を形成する誘電体材料の最上層と、でなって、
高屈折率の材料層あるいは低屈折率の材料層からの少なくとも2つの層が異なる厚さであり、
高屈折率の材料層と低屈折率の材料層の厚さと、最上層の溝の少なくとも1つのパラメーターが、請求項1ないし5のいづれか1項に記載した方法で決められることを特徴とする反射回析格子。
【請求項7】
少なくとも2つのシリカ(SiO)層と少なくとも2つの二酸化ハフニウム(HfO)層が交互に配置され、溝が彫られた最上層がシリカ(SiO)であることを特徴とする請求項6に記載の反射回析格子。
【請求項8】
700nmと900nmの間のスペクトル範囲で、入射角が50°と56°の間である光線の回折に対し、基材(1)の上に、少なくとも
− 厚さが150nm以上である金(Au)層(20)、
− 厚さが150nmと300nmの間であるシリカ(SiO)層(21)、
− 厚さが150nmと300nmの間である二酸化ハフニウム(HfO)層(22)、
− 厚さが250nmと400nmの間であるシリカ(SiO)層(23)、
− 厚さが50nmと200nmの間である二酸化ハフニウム(HfO)層(24)、
− 厚さが50nmと200nmの間であるシリカ(SiO)層(25)、
− 厚さが100nmと250nmの間である二酸化ハフニウム(HfO)層(26)、
− 厚さが625nmと775nmの間であり、全厚さの高さで格子を形成するための溝が彫られて、前記溝が1mmあたり1400本と1550本mmの間で、前記溝の周期dと幅cの比c/dが0.65であるシリカ(SiO)層(28)、
が積層されていることを特徴とする請求項7に記載の反射回析格子。
【請求項9】
最後の二酸化ハフニウム(HfO)層(26)と溝が彫られたシリカ(SiO)層(28)の間に、1つのアルミナ(Al)層(27)があることを特徴とする請求項8に記載の反射回析格子。
【請求項10】
基材(1)を有し、その上に、
− 金(Au)層(21)、
− 厚さが240nmのシリカ(SiO)層、
− 厚さが240nmの二酸化ハフニウム(HfO)層(22)、
− 厚さが380nmのシリカ(SiO)層(23)、
− 厚さが100nmの二酸化ハフニウム(HfO)層(24)、
− 厚さが100nmのシリカ(SiO)層(25)、
− 厚さが200nmの二酸化ハフニウム(HfO)層(26)、
− 厚さが50nmのアルミナ(Al)層(27)、
− 厚さが700nmのシリカ(SiO)層(28)、
が、順次積層されてなることを特徴とする請求項9に記載の反射回析格子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−514542(P2013−514542A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543872(P2012−543872)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052684
【国際公開番号】WO2011/073554
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(508004409)
【出願人】(509197324)サントル ナショナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィク (10)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】