説明

有害化合物の無害化方法および有機半導体元素化合物の製造方法

【課題】有害な砒素、アンチモンおよびセレン化合物を、有機コバルト錯体を用いて無害化する方法において、コスト面を改善できる方法を提供する。
【解決手段】中心金属としてコバルトと配位子としてコリン環とを含む有機コバルト錯体、メチル基供与体、酸化チタン光触媒、および、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む有害化合物に光照射して、有害化合物をメチル化することを含む有害化合物の無害化方法とする。このとき、有害化合物を、トリメチル化することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む有害化合物を、メチル化して無害化する方法に関する。本発明はまた、半導体元素を含む有機化合物(以下、有機半導体元素化合物と呼ぶことがある)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素、アンチモン、セレン等の元素は、半導体等の工業材料として広く用いられている元素であるが、生物に有毒となり得ることから、環境中に流出することにより生物に与えられる影響が懸念されている。
【0003】
従来、これらの元素を除去する方法として、有毒な亜砒酸等の無機砒素を含む廃水にポリ塩化アルミニウム(PAC)等の凝集剤を添加し、該凝集剤と原水中の鉄分に砒素を凝集、吸着し、沈殿させた後、濾過して除去する方法や、活性アルミナ、セリウム系吸着剤により砒素化合物等を吸着させる方法等が一般に知られている。
【0004】
近年、本発明者らは、有害な砒素、アンチモンおよびセレン化合物を、有機コバルト錯体(ビタミンB12類化合物)を用いてアルキル化することによって無害化する方法を提案した(例えば、特許文献1および2参照)。これらの方法によれば、有害な砒素、アンチモンおよびセレン化合物を、容易かつ簡便に高効率で無害化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/012948号パンフレット
【特許文献2】特開2008−50265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の方法では、有害な砒素、アンチモンおよびセレン化合物に対して現実的には3当量以上の有機コバルト錯体(ビタミンB12類化合物)を用いる必要があるなど、実施に際し、コスト面で改善の余地があった。
【0007】
そこで本発明の第一の目的は、有害な砒素、アンチモンおよびセレン化合物を、有機コバルト錯体を用いて無害化する方法において、コスト面を改善できる方法を提供することにある。
【0008】
また、トリメチル砒素、t−ブチルアルシンなどの半導体元素を含む有機化合物(有機半導体元素化合物)は、半導体の原料ガスに用いられており、砒素、アンチモンおよびセレン化合物から、中でも有害な化合物から、半導体の原料ガスに使用可能な有機半導体元素化合物を製造できれば有益である。
【0009】
そこで本発明の第二の目的は、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む化合物から、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む有機半導体元素化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第一の目的を達成した本発明は、中心金属としてコバルトと配位子としてコリン環とを含む有機コバルト錯体、メチル基供与体、酸化チタン光触媒、および、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む有害化合物に光照射して、有害化合物をメチル化することを含む有害化合物の無害化方法である。
【0011】
上記第二の目的を達成した本発明は、中心金属としてコバルトと配位子としてコリン環とを含む有機コバルト錯体、アルキル基供与体、酸化チタン光触媒、および、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む半導体元素化合物に光照射することを含む有機半導体元素化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無害化方法よれば、有機コバルト錯体が触媒的に働き、有害化合物のメチル化がサイクル反応として起こるため、多量の有機コバルト錯体を用いる必要がなく有利である。また、光照射により方法が実施されるため、熱により反応を行う上記特許文献記載の方法に比べて、エネルギー面でも有利である。この結果、コスト面で有利に、有害な砒素、アンチモンおよびセレン化合物を無害化することができる。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、有害な砒素、アンチモンおよびセレン化合物からも、工業的に利用可能な有機半導体元素化合物を製造することができ、有益である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例7および8におけるメチル化反応の触媒サイクル数の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の無害化方法について説明する。
当該方法に用いられる有機コバルト錯体は、中心金属としてコバルトと配位子としてコリン環とを含むものである。コリン環は、置換基を有していてもよく、置換基としては、本発明の無害化方法で起こる反応を阻害しないものである限り特に制限はなく、例えば、CH3、CH2COZ1、CH2CH2COZ2(ここでZ1およびZ2はそれぞれ、NH2、OH、ONa、OCH3等である)などが挙げられ、反応に用いる溶媒を考慮して適切なものを選択すればよい。コバルト原子は、コリン環以外にも、本発明の無害化方法で起こる反応を阻害しないものである限り配位子をさらに有していてもよく、その例としては、シアノ基、ヒドロキシル基、メチル基等が挙げられる。
【0016】
有機コバルト錯体の例としては、下記式(I)で表されるビタミンB12類化合物、コバラミン、コビン酸、コビンアミド、コバム酸、コバミド等が挙げられ、入手の容易さの観点から、下記式(I)で表されるビタミンB12類化合物が好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
式(I)において、R1は、CN、OH、またはCH3を示す。各Yは、同一または異なって、NH2、OH、ONa、またはOCH3を示し、入手の容易さから、NH2が好ましい。
【0019】
メチル基供与体としては、有機コバルト錯体にメチル基を供与できる化合物である限り特に制限はないが、ハロゲン化メチル、RSO3CH3で表される化合物(Rは、アルキル基、または置換基を有していてもよいフェニル基を示す)、メタノール、トリメチルスルホキソニウムハライド等が例示できる。上記Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、例として、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、メチル基が特に好ましい。上記Rで示される置換基を有していてもよいフェニル基の置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。メチル基供与体としては、RSO3CH3で表される化合物(Rは、メチル基、または置換基を有していてもよいフェニル基(特に、フェニル基および4−メチルフェニル基)を示す)、およびトリメチルスルホキソニウムハライドが好ましい。
【0020】
メチル基供与体の使用量としては、有害化合物1モルに対して、0.1〜10000モルが好ましく、特に、有害化合物のトリメチル体の毒性が極めて低いことから、3〜10000モルがより好ましい。
【0021】
酸化チタン光触媒としては、通常、結晶性のもの、例えばアナターゼ型、ルチル型、アナターゼ・ルチル型、ブルッカイト型等の酸化チタンを用いることができる。
【0022】
酸化チタン光触媒の使用量としては、特に制限はないが、後述の溶媒に対し、通常0.01〜70重量%、好ましくは1〜50重量%である。
【0023】
有機コバルト錯体は、酸化チタン光触媒に担持されていてもよい。この場合、有機コバルト錯体と酸化チタン光触媒の回収が容易であるという利点を有する。有機コバルト錯体を酸化チタン光触媒に担持させるには、これらをアルコール等の溶媒中で混合し、ろ過するか、または溶媒を蒸発させて除去すればよい。
【0024】
有害化合物とは、環境中に流出し、生物に暴露された際に、何らかの悪影響を生物に与えるおそれがある化合物を意味し、特に、半数致死量(LD50)がマウスに対し20mg/kg以下である化合物をいう。
【0025】
砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む有害化合物は、メチル化を受けるものである限り特に制限なく使用でき、メチル化の容易さの観点から、M−O、M−S、M−X、M−CN、またはM−Phで示される結合(Mは、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を示し、Xはハロゲン原子を示し、Phはフェニル基を示す)を含むことが好ましい。また、好適な実施態様では、有害化合物は、砒素原子を含む。
【0026】
砒素原子を含む有害化合物としては、亜砒酸、五酸化砒素、三塩化砒素、五塩化砒素、硫化砒素化合物、シアノ砒素化合物、クロロ砒素化合物、およびその他の砒素無機塩類等が挙げられる。
【0027】
アンチモン原子を含む有害化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン等が挙げられる。
【0028】
セレン原子を含む有害化合物としては、二酸化セレン、三酸化セレン等が挙げられる。
【0029】
有機コバルト錯体と有害化合物の使用量に関し、従来技術では、有害化合物(特に砒素化合物)を最も毒性の低いトリメチル体に変換するのに、有害化合物1モルに対して、有機コバルト錯体3モル以上を必要としていた。しかし、本発明では、有機コバルト錯体を触媒的に利用してメチル化をサイクル反応で行えるため、有機コバルト錯体の使用量は、有害化合物1モルに対して3モル未満とすることもでき、例えば、好ましくは、0.001〜1モルであり、より好ましくは0.01〜0.5モルである。本発明の無害化方法において、有機コバルト錯体の使用量を抑えた場合には、コスト面で有利である。
【0030】
本発明の無害化方法は、例えば、有機コバルト錯体、メチル基供与体、酸化チタン光触媒、および有害化合物を、溶媒の存在下で混合して、光照射することにより行うことができる。
【0031】
照射する光としては、反応が起こる限り特に制限はなく、光触媒に応じて可視〜紫外領域の波長の光を適宜選択するとよく、触媒活性の観点から紫外光が好適である。
【0032】
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、アセトン、ホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等の水溶性溶媒;およびこれらの混合溶媒等を用いることができ、酸化チタン光触媒による系内の有機成分の分解を抑制できることから、メタノールまたはホルムアルデヒドを含む水系溶媒が好ましい。
【0033】
反応温度としては、例えば、10〜300℃程度でよく、エネルギー面の観点から室温が好ましい。反応時間は、例えば、3分〜48時間、好ましくは5分〜5時間である。
【0034】
本発明の無害化方法によれば、有害化合物のメチル化を繰り返し行うことができる。このメチル化は、以下の反応機構によって進行するものと考えられる。まず、有機コバルト錯体の中心金属のコバルトが、光照射によって酸化チタン光触媒の作用で生じた励起電子により、1価のコバルト(Co(I))に還元される。Co(I)は、メチル基供与体によって酸化的メチル化を受け、3価となる(Co(III)−CH3)。Co(III)−CH3は、光照射により、または酸化チタン光触媒の励起電子により、還元的に活性化され、活性メチル基を発生する。この活性メチル基により、有害化合物がメチル化され、Co(III)−CH3は、脱メチル化によって、2価のコバルト(Co(II))に還元される。この2価のコバルトは、再び、光照射によって酸化チタン光触媒の作用で生じた励起電子により、Co(I)に還元され、上記と同様にして有害化合物のメチル化が再び起こる。このように、メチル化がサイクル反応によって行われる。ただし、式(I)のR1がCH3である有機コバルト錯体のように、メチル基を有する有機コバルト錯体を用いた場合には、有害化合物のメチル化からサイクル反応が出発する。
【0035】
本発明の無害化方法により、有害化合物を、半数致死量(LD50、マウス)が1000mg/kg以上になるまで、メチル化することが好ましい。
【0036】
ここで、例として砒素原子を含む有害化合物と当該有害化合物をメチル化した化合物の毒性に関して述べると、無機砒素である亜砒酸の半数致死量(LD50、マウス)は4.5mg/kg、砒酸のLD50は14〜18mg/kgである。これに対し、モノメチル化された砒素(モノメチルアルソン酸)のLD50は1800mg/kg、ジメチル化された砒素(ジメチルアルシン酸)のLD50は1200mg/kgである。そして、トリメチル化された砒素においては、アルセノコリンのLD50が6000mg/kg、トリメチルアルシンオキシドのLD50が10600mg/kg、アルセノベタインのLD50が10000mg/kgである。
【0037】
このように毒性の観点からは、有害化合物は、特に砒素を含む場合には、トリメチル化されることが好ましい。従って、本発明の好ましい実施形態においては、前記有害化合物をトリメチル化する。このトリメチル化は、メチル基供与体の添加量と光照射の量および時間を適宜調整することによって達成できる。
【0038】
さらに、毒性の観点からは、有害化合物は、特に砒素を含む場合には、アルセノベタインのような形態にすることが好ましい。従って、本発明の好ましい実施形態においては、トリメチル化した有害化合物を、さらにハロゲン化酢酸と反応させる。
【0039】
ハロゲン化酢酸の例としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸等が挙げられる。
【0040】
当該反応は、光照射を行った反応混合物に、ハロゲン化酢酸を添加して反応させることにより行うことができる。
【0041】
本発明の無害化方法の一番の利点は、有機コバルト錯体が触媒的に働き、有害化合物のメチル化がサイクル反応として起こるため、多量の有機コバルト錯体を用いる必要がない点である。また、光照射により方法が実施されるため、熱により反応を行う上記特許文献記載の方法に比べて、エネルギー面でも有利である。また、上述の従来技術では、緩衝液、およびSH基を有する物質のような還元剤を添加する場合があるが、当該方法ではそれらを添加する必要がない。その結果、有害化合物の無害化に際し、コスト面で極めて有利である。
【0042】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法に用いられる、有機コバルト錯体、および酸化チタン光触媒については、前記本発明の無害化方法で用いるものと同様である。
【0043】
アルキル基供与体としては、有機コバルト錯体にアルキル基を供与できる化合物である限り特に制限はないが、ハロゲン化アルキル、RSO3R’で表される化合物(Rは、アルキル基、または置換基を有していてもよいフェニル基を示し、R’は供与されるアルキル基を示す)、飽和脂肪族アルコール類、トリアルキルスルホキソニウムハライド等が例示できる。アルキル基供与体が有するアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、例として、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、実用面から、メチル基およびt−ブチル基が好ましい。また、上記Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、例として、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、メチル基が特に好ましい。上記Rで示される置換基を有していてもよいフェニル基の置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。アルキル基供与体としては、RSO3CH3で表される化合物(Rは、メチル基、置換基を有していてもよいフェニル基(特に、フェニル基および4−メチルフェニル基)を示す)、およびトリアルキルスルホキソニウムハライドが好ましい。
【0044】
アルキル基供与体の使用量としては、半導体元素化合物1モルに対して、0.01〜1000モルが好ましく、1〜100モルがより好ましい。
【0045】
砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む半導体元素化合物は、アルキル化を受けるものである限り特に制限なく使用でき、アルキル化の容易さの観点から、M−O、M−S、M−X、M−CN、またはM−Phで示される結合(Mは、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を示し、Xはハロゲン原子を示し、Phはフェニル基を示す)を含むことが好ましい。また、好適な実施態様では、半導体元素化合物は、砒素原子を含む。
【0046】
砒素原子を含む半導体元素化合物としては、亜砒酸、五酸化砒素、三塩化砒素、五塩化砒素、硫化砒素化合物、シアノ砒素化合物、クロロ砒素化合物、およびその他の砒素無機塩類等が挙げられる。
【0047】
アンチモン原子を含む半導体元素化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン等が挙げられる。
【0048】
セレン原子を含む半導体元素化合物としては、二酸化セレン、三酸化セレン等が挙げられる。
【0049】
なお、半導体元素化合物として、上述の有害化合物を用いた場合には、有害な化合物を工業的用途のある化合物に変換することができるので、環境面において価値が高い。
【0050】
有機コバルト錯体と半導体元素化合物の使用量に関し、本発明の製造方法では、有機コバルト錯体を触媒的に利用してアルキル化をサイクル反応で行えるため、多量の有機コバルト錯体を使用する必要がない。有機コバルト錯体の使用量は、例えば、半導体元素化合物1モルに対して、0.1〜100モルであり、好ましくは1〜10モルである。
【0051】
本発明の製造方法は、例えば、有機コバルト錯体、アルキル基供与体、酸化チタン光触媒、および半導体元素化合物を、溶媒の存在下で混合して、光照射することにより行うことができる。
【0052】
照射する光としては、反応が起こる限り特に制限はなく、光触媒に応じて可視〜紫外領域の波長の光を適宜選択するとよく、触媒活性の観点から紫外光が好適である。使用する溶媒は、前記本発明の無害化方法で用いるものと同様である。
【0053】
反応温度としては、例えば、10〜300℃程度でよく、エネルギー面の観点から室温が好ましい。反応時間は、例えば、5分〜5時間である。
【0054】
本発明の製造方法においても前述の無害化方法と同様に、アルキル化をサイクル反応で行うことができる。本発明の製造方法の好適な実施態様では、アルキル基供与体が、メチル基供与体であり、半導体元素化合物が、砒素原子を含むものであり、半導体元素化合物をトリメチル化して、トリメチル砒素を得る。
【0055】
このようにして本発明の製造方法により、砒素、アンチモンおよびセレン化合物から、中でも、有害な化合物から、工業的に利用可能な有機半導体元素化合物を製造することができ、当該製造方法は、環境面において特に有益である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例1
ビタミンB12(シアノコバラミン)74nmolを秤量し、エッペンドルフチューブAに加えた。これに、100ppm砒素標準液(100mgAs/L、1.3μmol/L)から250μL(325nmol)を採取して加えた。
【0058】
次に、p−トルエンスルホン酸メチル(pTSM)のメタノール溶液を調製した。具体的には、エッペンドルフチューブBに、メタノール992μLおよびpTSM(分子量:186.23、硫黄含有率17.2wt%、比重d=1.23)8μL(52.8μmol、硫黄として1.69mg)を混合した。
【0059】
エッペンドルフチューブBより、pTSM溶液250μLを採取し、エッペンドルフチューブAに加えて3分間激しく攪拌した。
【0060】
石英セルに酸化チタン(キシダ化学)を50mg加えた。この石英セルに、さらに、エッペンドルフチューブAの溶液500μLを加えて激しく攪拌した。この系には、ビタミンB12が74nmol、砒素(無機三価砒素)が325nmol、pTMSが13.2μmol含まれている。この石英セルに、高圧水銀ランプ(中心波長365nm、5mW/cm2)を用いて、2時間および4時間紫外線照射した。生成物を、HPLC−ICP−MSを用いて定性定量分析した。生成物の分析結果を表1に示す。
【0061】
実施例2
ビタミンB12の代わりにメチルコバラミンを用い、紫外線を2時間照射した以外は実施例1と同様にして行った。生成物の分析結果を表1に示す。
【0062】
実施例3
ビタミンB12の代わりにヒドロキソコバラミンを用い、紫外線を2時間照射した以外は実施例1と同様にして行った。生成物の分析結果を表1に示す。
【0063】
実施例4
pTSMの代わりにベンゼンスルホン酸メチルを用い、紫外線を2時間照射した以外は実施例1と同様にして行った。生成物の分析結果を表1に示す。
【0064】
実施例5
pTSMの代わりにメタンスルホン酸メチルを用い、紫外線を2時間照射した以外は実施例1と同様にして行った。生成物の分析結果を表1に示す。
【0065】
実施例6
pTSMの代わりにトリメチルスルホキソニウムブロミドを用い、紫外線を2時間照射した以外は実施例1と同様にして行った。生成物の分析結果を表1に示す。
【0066】
比較例1
ビタミンB12を用いず、紫外線を2時間照射した以外は、実施例1と同様にして行った。生成物の分析結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
CC:シアノコバラミン
MC:メチルコバラミン
HC:ヒドロキソコバラミン
BSM:ベンゼンスルホン酸メチル
MSM:メタンスルホン酸メチル
TMSBr:トリメチルスルホキソニウムブロミド
iAs(III):無機三価砒素
iAs(V):無機五価砒素
MMA(III):モノメチルアルソナス酸
MMA(V):モノメチルアルソン酸
DMA:ジメチルアルシン酸
TMAO:トリメチルアルシンオキシド
TeMA:テトラメチルアルソニウムイオン
UN5.91:未同定砒素化合物
メチル化収率(%)=100×(1×MMA(III)+1×MMA(V)+2×DMA+3×TMAO+4×TeMA)/有機コバルト錯体
触媒サイクル数(回)=(1×MMA(III)+1×MMA(V)+2×DMA+3×TMAO+4×TeMA)/有機コバルト錯体
【0069】
実施例7
石英セル内でメチルコバラミン、砒素(無機三価砒素)およびトリメチルスルホキソニウムブロミド(TMSBr)のメタノール溶液を調製した。溶液全量は0.5mL、メチルコバラミンの濃度は148μmol/L、砒素の濃度は6.5mmol/L、TMSBrの濃度は532mmol/Lであった。そこへ、さらに酸化チタン50mgを混合した。石英セルに、高圧水銀ランプ(中心波長365nm、5mW/cm2)を用いて、24時間紫外線照射した。2時間ごとに生成物をHPLC−ICP−MSを用いて定性定量分析し、触媒サイクル数を求めた。結果を図1に示す。
【0070】
実施例8
TMSBrの濃度を798mmol/Lとした以外は実施例7と同様にして行った。2時間ごとの触媒サイクル数の結果を図1に示す。なお、24時間反応後の生成物:iAs(III)、iAs(V)、MMA(III)、DMA、TMAO、TeMAの相対比率は、それぞれ、1.4%、0.5%、2.2%、4.3%、91.5%、0%であった。メチルコバラミン基準のメチル化収率は16,081%、触媒サイクル数は160回であった。
【0071】
表1の通り、実施例1〜6においては、触媒(有機コバルト錯体)基準で、メチル化収率は約300〜800%、触媒サイクル数は約3〜8回であった。さらに、砒素およびメチル基供与体の濃度が高い実施例7および8では、100回を超える触媒サイクル数を達成することができた。このことから、本発明によれば、有機コバルト錯体を触媒的に用いることができ、効率よく繰り返しメチル化できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の無害化方法は、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む有害化合物の無害化に利用できる。本発明の製造方法は、有機半導体元素化合物の製造に利用でき、当該有機半導体元素化合物は、例えば、半導体原料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属としてコバルトと配位子としてコリン環とを含む有機コバルト錯体、メチル基供与体、酸化チタン光触媒、および、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む有害化合物に光照射して、有害化合物をメチル化することを含む有害化合物の無害化方法。
【請求項2】
前記有機コバルト錯体が、式(I)
【化1】

(式中、R1は、CN、OH、またはCH3を示し、各Yは同一または異なって、NH2、OH、ONa、またはOCH3を示す。)
で表されるビタミンB12類化合物である請求項1に記載の無害化方法。
【請求項3】
前記有害化合物をトリメチル化する請求項1に記載の無害化方法。
【請求項4】
前記トリメチル化された有害化合物を、さらにハロゲン化酢酸と反応させることを含む請求項3に記載の無害化方法。
【請求項5】
前記有害化合物の半数致死量(LD50、マウス)が、20mg/kg以下である請求項1に記載の無害化方法。
【請求項6】
前記有害化合物が、M−O、M−S、M−X、M−CN、またはM−Phで示される結合(Mは、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を示し、Xはハロゲン原子を示し、Phはフェニル基を示す)を含む請求項1に記載の無害化方法。
【請求項7】
前記有害化合物が、亜砒酸、五酸化砒素、三塩化砒素、五塩化砒素、硫化砒素化合物、シアノ砒素化合物、およびクロロ砒素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の無害化方法。
【請求項8】
中心金属としてコバルトと配位子としてコリン環とを含む有機コバルト錯体、アルキル基供与体、酸化チタン光触媒、および、砒素原子、アンチモン原子、またはセレン原子を含む半導体元素化合物に光照射することを含む有機半導体元素化合物の製造方法。
【請求項9】
前記アルキル基供与体が、メチル基供与体であり、
前記半導体元素化合物が、砒素原子を含むものであり、
前記半導体元素化合物をトリメチル化してトリメチル砒素を得る請求項8に記載の有機半導体元素化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−16599(P2012−16599A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184808(P2011−184808)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2010−536768(P2010−536768)の分割
【原出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)