説明

有害物質含有ガスの処理方法及び装置

【課題】有機系汚染物、悪臭成分、細菌類などの有害物質を含有するガスの無害化処理、特にオゾンによる無害化効率を向上させた有害物質含有ガスの無害化処理の提供。
【解決手段】有害物質含有ガスにオゾンを添加、混合し、該ガスを、オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着するホウ素ドーピング高シリカゼオライト、ホウ素ドーピング高シリカメソポーラスシリカ、及び水熱合成ホウ素含有高シリカゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種を用いる吸着剤充填層に流過させ、ガス中の有害物質をオゾンの作用により無害化する方法、並びに、上記吸着剤層6aを設けた吸着剤充填塔6と、吸着剤充填塔にガスを供給する供給管と、該供給管に接続され、ガス中にオゾンを添加するオゾン発生器5と、処理ガスを排出する排出管7とを備える有害物質含有ガスの処理装置であって、吸着剤充填塔の下流側に、リークするオゾンを分解するオゾン分解剤層6bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種有機系汚染物、悪臭成分、細菌類などの有害物質を含有するガスの無害化処理方法及び装置、特にホウ素をドーピングした高シリカゼオライト、ホウ素をドーピングした高シリカメソポーラス型アルミノシリケートを吸着剤として使用したオゾン吸着反応による無害化効率を向上させた有害物質含有ガスの無害化処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種有機系汚染物、悪臭成分、細菌類などの有害物質を含有する汚染ガスの無害化処理方法の一つとして、オゾンによる酸化処理方法がある。オゾンは自己分解が進行することから、処理ガス中に残存して人体に影響を及ぼす危険性は少なく、クリーンな処理剤として今後さらに利用分野が拡大していくものと予想される。
オゾンによる処理では、有害物質含有ガス中にオゾン発生器(オゾナイザー)から供給されるオゾンガスを注入することによって行うが、通常はガス中のオゾン濃度が低いため、有害物質の酸化分解、殺菌等に寄与する前に分解するオゾンの割合も多く、無害化効率が低いという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決し、安全性の高い酸化剤であるオゾンを使用して各種有機系汚染物、悪臭成分、細菌類などの有害物質を含有するガスを効率よく処理することができる有害物質含有ガス処理方法及びそのための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は前記課題を解決する手段として次の(ア)〜(エ)の構成を採るものである。
(ア) (A)有害物質含有ガスにオゾンを添加、混合し、
(B)前記含有ガスを、オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着する(1)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のゼオライト、(2)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比10以上のメソポーラス型アルミノシリケートの群から選ばれた少なくとも一種を用いる吸着剤を充填した吸着剤層に流過させ、
(C)ガス中の有害物質をオゾンの作用により無害化する有害物質含有ガスの処理方法。
(イ) (D)前記(C)で無害化されて得られた処理ガスをオゾン分解剤と接触させて残留するオゾンを分解する上記記載の有害物質含有ガスの処理方法。
(ウ) オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着する(1)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のゼオライト、(2)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比10以上のメソポーラス型アルミノシリケートの群から選ばれた少なくとも一種の吸着剤層を設けた吸着剤充填塔と、該吸着剤充填塔に有害物質を含有するガスを供給する供給管と、該供給管に接続され、ガス中にオゾンを添加するオゾン発生器と、前記吸着剤充填塔から処理済みの処理ガスを排出する排出管とを備える有害物質含有ガスの処理装置。
(エ) 前記吸着剤充填塔の下流側に、リークするオゾンを分解するオゾン分解剤層が設けられている上記記載の有害物質含有ガスの処理装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明の方法及び装置は、オゾンの吸着効率、有効利用率、各種有機系汚染物、悪臭成分の処理速度に優れる。本発明により、処理済みガス中へのオゾンの流出量は低減され、比較的簡単な設備で高性能な汚染ガス浄化システムを構築することができ、更に必要により活性炭などのオゾン分解剤層を設けることによってオゾンのリークを完全に防止することができる。また、本発明の装置によれば、有害物質を含有するガスのオゾンよる処理を低い運転コストで効率よく行うことができる。本発明は、(1)各種産業設備から排気されるVOC除去、(2)悪臭除去、(3)農作物鮮度保持のためのエチレン、アルデヒド類、テルペンの除去、(4)居住空間からのシックハウス症候群原因物質除去等、広範囲な応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明においては、(A)有害物質含有ガスにオゾンを添加、混合し、(B)前記含有ガスを、オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着する特定の吸着剤を充填した充填塔に流過させ、(C)ガス中の有害物質をオゾンの作用により無害化を行う。この構成によって、単に有害物質を含有するガス中にオゾンを添加して反応させる場合に比較してはるかに高効率で無害化を進行させることができる。
上記有害物質含有ガスとして、環境庁指定の有害物質であるVOC(イソプロピルアルコール、酢酸エチル、BTX類、ハロゲン化有機物等)やダイオキシンなどの各種有機系汚染物、メルカプタン、硫化水素などの悪臭成分、細菌類などの有害物質を含有する汚染ガスが挙げられる。
汚染ガス中にオゾンを供給するためのオゾン発生器としては、無声放電方式、紫外線ランプ方式、水電解方式などいずれの方式のものでも適用できる。オゾンの添加量は処理ガス中の有害成分の種類、濃度等によって適宜設定すればよいが、通常のガス処理においては有害成分1モルに対し0.5〜20モル、好ましくは1〜10モル程度である。
【0007】
本発明で使用する吸着剤は、オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着するものでなければならない。このような吸着剤の例として(1)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のゼオライト、(2)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のメソポーラス型アルミノシリケートの群から選ばれた少なくとも一種の吸着剤を挙げることができる。
【0008】
従って、本発明のオゾン吸着剤は、オゾンとVOCを同時吸着してオゾン、VOCを濃縮し、吸着剤の結晶構造内でオゾンが分解されることなく吸着されてVOCが効率良く酸化分解される効果を奏する。
このように、本発明の吸着剤は、オゾンの吸着能力が高く、しかも吸着したオゾンの分解率が低く、かつ有害物質を吸着する特性を有するほか、水に対する耐性及び疎水性があり、湿気を含むガスの処理にも安定して適用可能である。
【0009】
ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のゼオライト
本発明において用いるオゾン吸着剤の内のホウ素をドーピングした高シリカゼオイラトは、ゼオライトの格子欠陥、特に、アルミニウムの脱落した欠陥にホウ素を置換したものである。ゼオライトを酸処理などの脱アルミ処理をすると、ゼオライト中のアルミニウムの一部又は殆どが脱落し超安定ゼオライト(以下USZと称する。)を形成する。発明者等はホウ酸やホウ酸アンモニウムの水溶液にUSZを浸かし、これを乾燥して350℃程度で加熱すると欠損格子に転移してシリカ−ホウ素系ゼオライトを形成することを見いだした。又一部過剰ホウ素は非晶質ホウ素酸化物として結晶内に固溶体化している事も見いだした。アルミニウムと置換する元素としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除くほとんど全ての金属元素が使用可能であるが、本発明では、ガリウム、ホウ素を挙げることができる。置換する元素は、一種でも二種以上でもよい。
本発明のホウ素をドーピングした高シリカゼオイラトのSiO/B比は、好ましくは20〜1000、更に好ましくは20〜200である。20未満であると触媒活性点としてのオゾン分解を発現し、一方、1000を超えると従来の高シリカゼオライトに対する優位性はない。
【0010】
前述のホウ素ドーピングしたゼオライトは、例えばUSZにホウ素化合物、例えばホウ酸、ホウ酸アンモニウムなどの溶液を含浸して、乾燥、焼成する方法で製造することができる。含浸は最終的なSiO/Alになるための必要量なホウ素を含んだ溶液を用いて数回含浸工程を繰り返す行うことも可能である。また、USZとホウ素化合物を混合し、焼成による熱拡散法でホウ素ドーピングしたゼオライトを製造することもできる。
【0011】
本発明の脱アルミさせたゼオライト(USZ)とは、ナトリウム型合成ゼオライトを、アンモニア塩水溶液、例えば、1MのNHNO水溶液中に分散して、80℃で24時間攪拌しイオン交換し、さらに高温焼成により得られたプロトン型ゼオライトの脱アルミしたものである。USZのSiO/Alモル比が、10以上のものが好ましい。脱アルミ処理は公知の各種の方法により行うことができるが、好ましい脱アルミ処理としては、例えば、プロトン型のゼオライトを濃塩酸に分散し、加熱条件下で攪拌することにより行うことができる。塩酸濃度、攪拌時間、加熱温度はゼオライトの種類にもよるが、好ましくは塩酸濃度2〜10M、加熱温度50〜90℃、攪拌時間2〜24時間が挙げられる。脱アルミ処理により骨格から脱アルミしたアルミニウムは、酸洗浄によって完全に系外に除去する必要がある。好ましい酸としては、例えば、希塩酸、希硝酸などが挙げられる。洗浄、乾燥の後、高温焼成による脱アルミさせたゼオライト(USZ)が得られる。
【0012】
前述のナトリウム型合成ゼオライトは公知の調製法により得られる。例えば、ケイ酸ソーダ等のシリカ源、硫酸アルミニウムなどのアルミ源、アミンなどの有機塩基その他のテンプレート、水、そして必要に応じて苛性ソーダ、苛性カリ等のアルカリ源を含む原料混合物を、水熱処理すると、ゼオライト前駆体が得られる。これを洗浄、乾燥、焼成してナトリウム型のゼオライトが得られる。この水熱処理の条件は、例えば、温度は約50℃から300℃位まで、反応時間は約1時間から数ヶ月が適用可能で、一般には高温条件程、短時間で水熱処理反応が進み、約80%の結晶化が終了する。従って、実用的には、温度は約100〜250℃、反応時間は数時間から1週間程度までが好ましい。
【0013】
ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のメソポーラスシリカ(1)
本発明において用いるオゾン吸着剤の内のホウ素をドーピングした高シリカメソポーラスシリカ(以下高シリカMPSとする)は、高シリカMPSの格子欠陥、特に、アンモニウムの脱落した欠陥にホウ素を置換したものである。高シリカMPSを高温熱処理すると、高シリカMPS中のアルミニウムの一部又は殆どが脱落し、欠陥のある高シリカMPSを形成する。発明者等は、ホウ酸やホウ酸アンモニウムの水溶液にSiO/Al比が10以上の高シリカMPSを浸かし、これを乾燥して350℃程度で加熱すると欠損格子に転移してシリカ−ホウ素系高シリカMPSを形成することを見いだした。又一部過剰ホウ素は非晶質ホウ素酸化物としてMPSの細孔内に固溶体化している事も見いだした。ドーピング元素としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除くほとんど全ての金属元素が使用可能であるが、本発明では、ガリウム、ホウ素を挙げることができる。ドーピング元素は、一種でも二種以上でもよい。
本発明のホウ素をドーピングした高シリカMPSのSiO/B比は、好ましくは20〜1000、更に好ましくは20〜200である。20未満であると触媒活性点としてのオゾン分解を発現し、一方、1000を超えると従来の高シリカゼオライトに対する優位性はない。
【0014】
前述のホウ素ドーピングした高シリカMPSは、例えば高シリカMPSにホウ素化合物、例えばホウ酸、ホウ酸アンモニウムなどの溶液を含浸して、乾燥、焼成する方法で製造することができる。含浸は最終的なSiO/Bになるための必要量なホウ素を含んだ溶液を用いて数回含浸工程を繰り返す行うことも可能である。また、高シリカMPSとホウ素化合物を混合し、焼成による熱拡散法でホウ素ドーピングしたゼオライトを製造することもできる。
【0015】
本発明の高シリカMPSとは、メソポーラスシリカを高温焼成により脱アルミしたものである。高シリカMPSのSiO/Alモル比が、10以上のものが好ましい。メソポーラスシリカは耐水熱安定性が弱いため、好ましい脱アルミ処理法としては、例えば、600℃〜750℃で空気中焼成することにより行うことができる。
【0016】
前述のメソポーラスシリカは、発明者等によって第15回国際ゼオライト学会(15thIZC)で公表されている方法または公知の調製法により得られる。例えば、非晶質のシリカ、有機シリコン化合物、層状ケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等をケイ素源として、界面活性剤等の構造を誘導する物質(構造誘導剤)の存在下に、酸性又はアルカリ性の条件で、メソポーラス構造を有するゲルを生成させた後に、構造誘導剤を除去してメソポーラスシリカを形成する方法。例えば、シリカ源としてケイ酸ナトリウム、アルミ源としてアルミニウム塩、pH調整剤としてNaOH−HSO、共構造誘導剤としてエタノール、ミセル形成構造誘導剤として直鎖状炭素結合を有する三級アンモニウム塩(例えばセチルトリメチルアンモニウムクロライド)を使用し、以上の反応物を混合させ、攪拌し、反応ゲルが得られる。反応ゲルを耐圧容器に封入し、80℃〜170℃で、好ましくは90℃〜140℃で、15〜100時間加熱する。生成物を濾過、水洗浄、乾燥させた後、550℃で6時間空気雰囲気中焼成し、構造誘導剤分子を除去する。メソポーラスの構造は2次元のヘキサガナルでも3次元のキュービックでもまたほかの構造を有するメソポーラス多孔体でも良い。
【0017】
ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のメソポーラスシリカ(2)
本発明において用いるオゾン吸着剤の内のホウ素をドーピングした高シリカメソポーラスシリカ(以下高シリカMPSとする。)は、水熱合成によっても調製することが出来る。本調製法は、発明者等によって第15回国際ゼオライト学会(15thIZC)で公表されている方法で、シリカ源としてケイ酸ナトリウム、ホウ素源としてホウ酸、pH調整剤としてNaOH−HSO、共構造誘導剤としてエタノール、ミセル形成構造誘導剤として直鎖状炭素結合を有する三級アンモニウム塩(例えばセチルトリメチルアンモニウムクロライド)を使用し、以上の反応物を混合させ、攪拌し、反応ゲルが得られる。反応ゲルを耐圧容器に封入し、80℃〜170℃で、好ましくは90℃〜140℃で、15〜100時間加熱する。生成物を濾過、水洗浄、乾燥させた後、550℃で6時間空気雰囲気中焼成し、構造誘導剤分子を除去する。得られたメソポーラスシリカの骨格にホウ素が同型置換し、四面体四配位で存在する。また、比表面積(SA)が1000 m2/g以上、細孔容積が1.2 ml/g、平均細孔直径が2〜3nmの範囲にあり、シャープな細孔分布を有する。
本発明のホウ素をドーピングした高シリカMPSのSiO/B比は、好ましくは20〜1000、更に好ましくは20〜200である。20未満であると触媒活性点としてのオゾン分解を発現し、一方、1000を超えると従来の高シリカゼオライトに対する優位性はない。
【0018】
本発明の吸着剤は、それぞれ使用目的に応じて単独又は混合物の形で、粒状、ペレット状、ラシヒリング状、ハニカム状など任意の形状に成形して使用できる。
本発明に使用される吸着剤量は、使用目的に応じて異なるが、通常汚染物質1〜1000ppm(v/v)、オゾン1〜10000ppm(v/v)の条件で吸着剤1m当たりSV値1、000〜100,000(1/h)程度である 本発明の吸着剤のVOC除去性能は、使用目的に応じて異なるが、80%以上の非常に高い除去率を示す。
【0019】
本発明は、発明者等がオゾンのガス相での吸着試験を行う中で、ホウ素をドーピングした高シリカゼオライト、高シリカメソポーラスシリカ系吸着剤が、オゾンを効率よく吸着し、しかも共吸着した有機系汚染物や細菌、悪臭成分等の有害物質とオゾンの酸化分解反応により高効率で無害化し、未反応のオゾンは酸素にオゾン分解剤により変換させる、ことを見出した結果に基づくものである。上記無害化には酸化反応による有機系汚染物や悪臭成分の酸化分解、細菌類の殺菌などを含むものである。
このように本発明の吸着剤存在下で汚染物質とオゾンとを共存させると、ガス中の有害物質の無害化、例えば、有機系汚染物のオゾンの酸化が効率よく進行するのは、理論により本発明を制限するものではないが、下記のように考えられる。
ガス中のオゾンの酸化分解反応がガス中のオゾン濃度〔O〕と有機系汚染物濃度〔ORG〕の積〔O〕・〔ORG〕に比例して進行する。一方、本発明の吸着剤相にはオゾン及び有害物質が選択的に吸着されるため、単なるガス相に比べて吸着剤表面のオゾン濃度〔O〕及び有機系汚染物濃度〔ORG〕はそれぞれ10〜100倍程度に達する(日本吸着学会2000年年会「シリカ系吸着剤における水中溶存オゾンの吸脱着特性」鈴木基之ら)。従って、吸着剤表面での〔O〕・〔ORG〕はガス相中での100〜10000倍に達すると予想される。
【0020】
また、ガス相ではオゾンは有害物質以外の第三物質との衝突により無害化に寄与することなく分解してしまう頻度が多くなり、オゾン単独での無害化効率に限界がある。しかし、本発明の吸着剤表面でのオゾンによる有害物質の無害化においては、吸着剤にオゾン及び有害物質が選択的に吸着されることから、第三物質との衝突によるオゾンの分解の確率は大幅に低減され、オゾンは有害物質の無害化のために効率的に消費される。
【0021】
ガス相での有害物質の無害化処理効率の悪い従来法ではリークオゾン濃度も高く、このためオゾン分解剤の消耗もかなり大きく、使用済み分解剤の交換頻度の多さから経済性、保守性については改善のニーズが強かった。一方、本発明において、通常のガス処理の場合は未反応オゾンが吸着剤に吸着されたまま滞留するため下流へのリークの恐れはほとんどなく、リークオゾン濃度が従来の1/10以下である。
しかし、本発明でも特殊な細菌の殺菌など多量のオゾンを添加する場合や、何らかの理由によりリークした場合の対策としては、吸着剤充填塔の処理ガス出口部分にリークするオゾンを分解する分解剤層を設けることによって未反応のオゾンを分解して無害化処理を行うことができる。上記オゾン分解剤としては、リークオゾンと接触して自らはCOへと酸化される消耗型吸着剤である活性炭やアルミナ系化合物、マンガン系触媒などが挙げられる。なお、分解剤層は吸着剤充填塔の出口部分の内側に設けてもよく、また、充填塔の外側に別途設けてもよい。本発明では、リークオゾン濃度が低いためオゾン分解剤の交換頻度も従来の10倍程度と大幅な延長が達成できる。
【0022】
なお、必要により有害物質含有ガスヘのオゾン注入点の上流側及び/又はオゾン吸着反応器の下流側にダストを除去するろ過材層を設けることができる。濾過材層の設置の有無、設置位置等は装置の状況有害物質含有ガスの性状等により適宜定めればよい。
【0023】
次に図面を参照して本発明の処理装置を説明する。図4に印刷所からの排ガス処理に本発明を適用した有害物質含有ガスの処理フローの1例を示す。図4において主プラント1からの有害物質含有ガスは排ガスブロワー3により排ガス導出配管2を経て混合器4に送られ、オゾン発生器5からオゾンを注入されて吸着剤充填塔6に導入される。吸着剤充填塔6には本発明の特定の吸着剤が充填されており、導入ガス中の有害物質及びオゾンが吸着剤に共吸着し、高濃度の状態で反応して有害物質が分解される。通常は処理ガス排出配管7から排出される処理済のガスヘのオゾンのリークはないが、必要により吸着剤充填塔6内の処理ガス出口側あるいは吸着剤充填塔6の下流に活性炭などのオゾン分解剤層を設ければよい。なお、図4には吸着剤充填塔6内の吸着剤層6aの処理ガス出口側にオゾン分解剤層6bを設けた例を示した。
【実施例】
【0024】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
製造例1(ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のゼオライト(S−1))
SiO/Al比が22のプロトン型Betaゼオライトを5MのHCl水溶液に分散し(1kgのBetaゼオライトに対し1リットルの5M HClを使用)、攪拌しながら70℃で3時間加熱し脱アルミニウム処理を行った。濾過、水洗浄の後、0.5Mの希塩酸で洗浄し、骨格から脱落したアルミニウムを除去した。さらに濾過、水洗浄した後、110℃で12時間乾燥させた。得られた粉末を540℃で3時間空気中焼成した。脱アルミニウム処理後のBetaゼオライトのSiO/Al比は約300であった。
41.3gのホウ酸(HBO)を1.5リットルの精製水に溶解し、これを1.0kgの脱アルミニウム処理後のBeta型ゼオライトに少しずつ添加し、全体が濡れた段階で止め、110℃で乾燥させた。この操作を2回繰り返して、ホウ酸水溶液を全部Betaゼオライトに添加した。乾燥させた後、昇温速度100℃/時間で昇温し、350℃で1時間空気中焼成した。ホウ素ドーピングしたBeta型ゼオライトを(SiO/B=50, BET比表面積610m2/g)約1kgを調製した。
得られたホウ素ドーピングした生成物のXRD粉末図を図1に示す。BEA型結晶であることが確認された。
ホウ酸をそれぞれ103g、2gとした以外は上記と同様にして、SiO/Alモル比が20と1000のホウ素ドーピングしたBeta型ゼオライトが得られた。(ホウ酸の室温での溶解度は約6g/100g HOで、必要なホウ酸の量に応じて、ホウ酸を溶解させる水の量を増やした場合もある。)
【0025】
製造例2(ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のメソポーラスシリカ(1)
(S−2))
41.3gのホウ酸(HBO)を1.5リットルの精製水に溶解し、これを1.0kgの脱アルミニウム処理後のMCM−48型高シリカMPSに少しずつ添加し、110℃で乾燥させた後、昇温速度100℃/時間で昇温し、350℃で1時間空気中焼成した。ホウ素ドーピングしたMCM−48高シリカMPS(SiO/B=50,BET比表面積1150m2/g)約1kgを調製した。
得られたホウ素ドーピングした生成物のXRD粉末図を図2に示す。3次元立方構造であることが確認された。
ホウ酸をそれぞれ103g、2gとした以外は上記と同様にして、SiO/Alモル比が20と1000のホウ素ドーピングしたMCM−48高シリカMPSが得られた。(ホウ酸の室温での溶解度は約6g/100g HOで、必要なホウ酸の量に応じて、ホウ酸を溶解させる水の量を増やした場合もある。)
【0026】
製造例3(ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のメソポーラスシリカ(2)
(S−3))
5.2kg(16.25mol)のセチルトリメチルアンモニウムクロリドC16TMAClを、43.43kgの Oに溶解し、この中に、5.75kg(125mol)のエタノールを加えた。これをA液とする。10kgの Oに、2.84kg(25mol)のケイ酸ナトリウム粉末を加え攪拌溶解させた。更に、30.9g(0.5mol)のHBOを加えて、よく溶解させた。これをB液とする。A液を攪拌しながらB液を少しずつ滴下し、滴下完了時のpHは11〜12に示した。6 MのHSOをゆっくり滴下して、反応液のpHを11.5に調整した。室温で1時間攪拌し、1時間後もう一度薄めた硫酸でpHを11.5に微調整し、反応ゲルが得られた。反応ゲルの組成は:1.0SiO/0.5NaO/0.02HBO/5.0COH/0.65 C16TMACl/120HOであった。反応ゲルを耐圧容器に封入し、140℃、21時間恒温乾燥機中で静置した。生成した沈殿物を濾過、水洗浄した後、60℃で17時間乾燥した。乾燥した粉末を昇温速度100℃/時間で昇温して550℃、6時間保持してセチルトリメチルアンモニウムクロリドを熱分解除去してB−MCM−48高シリカMPSを約0.75kg調製した。
以上の手順により調製した粉末状B−MCM−48のSiO/Al比は50であり、BET比表面積は1000m2/g以上で、細孔直径は2.7nmであった。
以上の手順により調製したB−MCM−48の11B MAS NMRスペクトルを図3に示す。B−MCM−48にホウ素の一部が骨格に導入されたことが確認できた。
【0027】
使用サンプル;
本発明の吸着剤サンプルは上記で製造したS−1〜S−3中の末尾にSiO比を付して区別している。又、比較例としてシリカライト(UOP社製シリカライトSiO/Al比200)を使用し、R−1として表した。R−1の形状は、直径10cm、高さ10cmのモノリスであった。
有害物質としてメチルメルカプタン、キシレン、メチルエチルケトン(MEK)をそれぞれ100ppm含有する排ガス(印刷所排ガスの模擬ガス)を使用した。
【0028】
実施例1;
図4のフローの試験装置(オゾン分解剤層は設けず)を用いてオゾンによる有害物質含有ガスの処理試験を行った。使用した吸着剤を表1に、試験条件等を表2に示す。
使用した吸着剤は、(S−1−20、−200、−1000)ホウ素ドーピング高シリカゼオライト(ゼオライトはβ型ゼオライトを使用)、(S−2−20、−200、−1000)ホウ素ドーピング高シリカメソポーラスシリカ(1)、(S−3−20、−200、−1000)ホウ素ドーピング高シリカメソポーラスシリカ(2)の3種類であり、処理ガスのオゾン/メチルメルカプタンモル比1.0に設定した。
図4の処理ガス排出配管7の部分でサンプリングしたガス中のメチルメルカプタン濃度(出口メチルメルカプタン濃度)及びオゾン濃度(出口O濃度)及び従来法との比較結果を下記表3に示す。サンプルR−1と比べて優れた結果の場合「○」とした。
【0029】
使用した吸着剤
【表1】

【0030】
試験条件
【表2】

【0031】
【表3】

処理ガス中のメチルメルカプタン濃度100ppm、オゾン濃度100ppmで行った。
【0032】
表3より、メチルメルカプタンのオゾン分解では、(S−1)〜(S−3)のいずれもSiO2/B2O3比20〜200では従来のシリカライト(高シリカゼオライト)のメチルメルカプタン分解率を上回っていた。このことから本発明吸着剤上でのメチルメルカプタン−オゾン反応による高効率のメチルメルカプタン除去が期待される。
【0033】
実施例2;
実施例1と同一条件で、キシレンを100ppm含有する排ガスを表2の条件で処理し、図4の処理ガス排出配管7の部分でサンプリングしたガス中のキシレン濃度(出口キシレン濃度)及びオゾン濃度(出口O濃度)を測定した。
使用した吸着剤は、実施例1と同様であり、オゾン/キシレンモル比1.0に設定した。
試験結果として、出口キシレン濃度及び、出口O濃度及び従来法との比較結果を下記表4に示す。
【0034】
【表4】

処理ガス中のキシレン濃度100ppm、オゾン濃度300ppmで行った。
【0035】
表4より、キシレンのオゾン分解では、(S−1)〜(S−3)のいずれもSiO2/B2O3比20〜200では従来のシリカライト(高シリカゼオライト)のキシレン分解率を上回っていた。
【0036】
実施例3;
実施例1と同一条件で、MEKを100ppm含有する排ガスを表2の条件で処理し、図4の処理ガス排出配管7の部分でサンプリングしたガス中のMEK濃度(出口MEK濃度)及びオゾン濃度(出口O濃度)を測定した。
使用した吸着剤は、実施例1と同様であり、オゾン/MEKモル比1.0に設定した。
試験結果として、出口MEK濃度及び、出口O濃度及び従来法との比較結果を下記表4に示す。
【0037】
【表5】

処理ガス中のMEK濃度100ppm、オゾン濃度200ppmで行った。
【0038】
表5より、MEKのオゾン分解では、(S−1)〜(S−3)のいずれもSiO2/B2O3比20〜200では従来のシリカライト(高シリカゼオライト)のMEK分解率を上回っていた。
【0039】
実施例4(必要オゾン量の確定);
図4のフローの試験装置(オゾン分解剤層は設けず)を用いてオゾンによる有害物質含有ガスの処理試験を行った。使用した吸着剤は、(S−1−200)ホウ素ドーピング高シリカゼオライト(β型ゼオライト)のモノリスであり、処理ガス中MEK濃度100ppmで行った。試験条件は、SV値7,000(1/h)とし、オゾン/処理成分モル比を1.5〜9と変化させた以外は実施例1と同様である。
オゾン/処理成分モル比に対する、図4の処理ガス排出配管7の部分でサンプリングしたガス中のMEKの除去率を図3に示す。オゾン/処理成分モル比6でMEKの除去率は95%を越える高性能が確認された。
【0040】
実施例5(必要吸着剤量の確定);
図4のフローの試験装置(オゾン分解剤層は設けず)を用いてオゾンによる有害物質含有ガスの処理試験を行った。使用した吸着剤は、(S−1−200)ホウ素ドーピング高シリカゼオライト(β型ゼオライト)であり、処理ガス中のMEK濃度100ppm、オゾン/処理成分モル比3.0で行った。試験条件は、SV値を3500〜20000(1/h)と変化させた以外は実施例1と同様である。
SV値に対する、図4の処理ガス排出配管7の部分でサンプリングしたガス中のMEK除去率を図6に示す。SV値3500でMEK除去率は95%を越える高性能が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ホウ素をドーピングしたゼオライト(β型ゼオライト)のX線回折ピークである。
【図2】ホウ素をドーピングしたメソポーラスシリカのX線回折ピークである。
【図3】水熱合成したメソポーラスシリカ(B-MCM-48)の11B MAS NMRスペクトル。(Chemical shift/ppm vs. HBO)。
【図4】本発明の処理フローの1例を示す概略図である。
【図5】実施例4におけるO/MEKモル比とMEK除去率の関係を示すグラフである。
【図6】実施例5におけるSV値とMEK除去率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 主プラント
2 排ガス導出配管
3 排ガスブロワー
4 混合器
5 オゾン発生器
6 吸着剤充填塔
6a 吸着剤層
6b オゾン分解剤層
6c 仕切
7 処理ガス排出配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有害物質含有ガスにオゾンを添加、混合し、
(B)前記含有ガスを、オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着する(1)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のゼオライト、(2)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比10以上のメソポーラス型アルミノシリケートの群から選ばれた少なくとも一種を用いる吸着剤を充填した吸着剤層に流過させ、
(C)ガス中の有害物質をオゾンの作用により無害化する有害物質含有ガスの処理方法。
【請求項2】
(D)前記(C)で無害化されて得られた処理ガスをオゾンガス分解剤と接触させて残留するオゾンを分解する請求項1記載の有害物質含有ガスの処理方法。
【請求項3】
オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着する(1)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比が10以上のゼオライト、(2)ホウ素をドーピングしたSiO/Al比10以上のメソポーラス型アルミノシリケートの群から選ばれた少なくとも一種を用いる吸着剤を充填した吸着剤層に流過させ、群から選ばれた少なくとも一種の吸着剤層を設けた吸着剤充填塔と、該吸着剤充填塔に有害物質を含有するガスを供給する供給管と、該供給管に接続され、ガス中にオゾンを添加するオゾン発生器と、前記吸着剤充填塔から処理済みの処理ガスを排出する排出管とを備える有害物質含有ガスの処理装置。
【請求項4】
前記吸着剤充填塔の下流側に、リークするオゾンを分解するオゾン分解剤層が設けられている請求項3記載の有害物質含有ガスの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−82785(P2009−82785A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253300(P2007−253300)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(506233117)吸着技術工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】