説明

有機性排水の処理装置

【課題】有機性排水を嫌気処理した後、内圧式管状膜で膜分離する有機性排水の処理装置において、嫌気処理槽内での有機性排水分解反応を効率よく行わせることができる有機性排水の処理装置を提供する。
【解決手段】有機性排水を嫌気処理する嫌気処理槽1と、嫌気処理槽の処理液を嫌気処理槽外の内圧式管状膜3で固液分離する排水処理装置において、前記嫌気処理槽1に微生物固定化担体4,5が存在することを特徴とする有機性排水の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水(有機物含有排水)を嫌気的に処理し、この処理液を槽外膜により固液分離する生物処理装置に関するものであり、特に電子部品製造工場排水などの処理に好適な有機性排水の処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品製造工場排水などの有機性排水を嫌気処理した後、膜分離する有機性排水の処理装置として、特許文献1に有機性排水をメタン生成菌群により嫌気処理した後、好気処理することなく槽外のRO膜により膜分離処理する方法が記載されている。
【0003】
このように嫌気処理液中の液分と固形分とを分離する膜を嫌気処理槽外に設ける槽外型とすることにより、膜面流速のコントロールが容易となり、膜面の汚れ防止を図ることができる。特に、内圧式管状膜では、膜面に偏りなく高流速で汚泥やガスを流すことができるため、高いフラックスをとることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−148714
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
嫌気処理では粘質物の生成が少なく、フロックの形成力が弱い。膜面の汚れ防止のため、内圧式管状膜で高流速を与えると、その高い剪断力により汚泥フロックが微細化する。
【0006】
有機物の嫌気分解の過程で生成するプロピオン酸、酪酸やイソプロピルアルコールなどの一部の低分子有機物は、水素・酢酸生成菌(イソプロピルアルコールの場合は水素・アセトン生成菌)で生成した水素が水素資化性メタン菌により速やかに消費され、水素分圧が10−6〜10−4atmに保たれ、両者の共生関係が成り立つことにより、分解が良好に進む。この共生関係が成り立つためには両者が数μm以内に存在することが必要であり、大部分の反応は、通常、数十μmの粒径の汚泥フロック内に固定された菌体同士の間で起こっていると考えられる。汚泥フロックが微細化すると、適切な距離に保たれた菌体量が少なくなり、共生関係が崩れ、処理が進まなくなってしまう。
【0007】
本発明は、有機性排水を嫌気処理した後、槽外の内圧式管状膜で膜分離する有機性排水の処理装置において、嫌気処理槽内での有機物分解反応を効率よく行わせることができる有機性排水の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の有機性排水の処理装置は、有機性排水を嫌気処理する嫌気処理槽と、嫌気処理槽の処理液を嫌気処理槽外の内圧式管状膜で固液分離する排水処理装置において、前記嫌気処理槽に微生物固定化担体が存在することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の有機性排水の処理装置は、請求項1において、内圧式管状膜における処理液の表面流速が0.5m/sec以上であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の有機性排水の処理装置は、請求項1又は2において、有機性排水がイソプロピルアルコールを主成分とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機性排水の処理装置では、有機性排水を嫌気処理した後、槽外の内圧式管状膜で膜分離する有機性排水の処理装置において、嫌気処理槽内に微生物固定化担体を存在させる。これにより、有機物の嫌気分解の過程で生成するプロピオン酸、酪酸やイソプロピルアルコールなど、水素を巡る菌体間の共生関係が関与する有機物の分解が担体に付着した菌体により安定して行われる。また、内圧式管状膜により高フラックスで固液分離処理が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係る有機性排水の処理装置のフロー図である。
【図2】実施の形態に係る有機性排水の処理装置のフロー図である。
【図3】実験結果を示すグラフである。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明では、有機性排水を微生物固定化担体を有する嫌気処理槽で嫌気処理し、この嫌気処理水を槽外の内圧式管状膜(内圧型管状膜)で膜分離する。
【0015】
図1,2は、それぞれかかる本発明の有機性排水の処理装置の一例を示すものであり、原水は嫌気処理槽1に導入され、嫌気処理される。槽内の液は、スクリーン1bを経て取り出され、ポンプ2により槽外の内圧式管状膜3に供給されて膜分離される。膜透過水が処理水として取り出され、濃縮水は嫌気処理槽1に返送される。図1では嫌気処理槽1内に微生物固定化担体として流動性担体4が充填されている。図2では、嫌気処理槽1内に固定床式の微生物固定化担体5が設置されている。嫌気処理槽1には撹拌機1aが設置されている。
【0016】
嫌気処理槽1で発生したメタンガス等のバイオガスは、ガス取出ライン6を介して抜き出されるが、この実施の形態では、バイオガスの一部を分岐ライン7及びブロワ8を介して内圧式管状膜3に供給される。このように内圧式管状膜3内にバイオガスを流通させることにより膜面が洗浄され、膜濾過効率が向上する。なお、バイオガスの代りに又はバイオガスと共に、窒素などの非酸化性ガスを供給してもよい。
【0017】
有機性排水としては、電子部品製造工場排水の他、化学工場排水、製薬工場排水、食品・飲料工場排水、下水など、TOCが100〜10,000mg/L特に300〜3,000mg/L程度のものが好適である。有機性排水の有機物の主成分としては、イソプロピルアルコールが挙げられるが、ジエチレングリコールモノブチルエーテルやテトラメチルアンモニウムヒドロキシドも挙げられる。
【0018】
嫌気処理槽は、CODcr負荷2〜50kg/m・d特に5〜20kg/m・dが好ましい。槽内汚泥濃度(内圧式管状膜3に供給される液の汚泥濃度でもある。)は4,000〜30,000mgSS/L、特に6,000〜12,000mg/L程度であることが、膜濾過性が良い点で好ましい。
【0019】
嫌気処理槽の微生物固定化担体の材質、形状、サイズなどは特に限定されない。流動式担体としては、1〜50mm程度の粒状、球状、円柱状、円筒状などの担体が例示され、固定式担体としてはスポンジ状、紐状、ネット状のものが例示されるが、これらに限定されない。担体の存在量は嫌気処理槽容量に対し10〜70%、特に20〜40%程度が好ましい。
【0020】
内圧式管状膜は、管状膜の内部に被処理液を流通させ、透過液を管外周面側に透過させて取り出すようにしたものである。内圧式管状膜のモジュール1本の直径は3mm〜3cm、孔径は0.01〜1μmが好適である。内圧式管状膜に嫌気処理槽の処理液を0.5m/sec以上、例えば0.5〜2mm/secで通水するのが好ましい。前述の通り、処理液とともに、嫌気処理で生成するメタンを主成分とするガスや窒素ガスなど酸素を含有しないガスを通気することにより、膜濾過性を高めることができる。
【0021】
このように構成された本発明の有機性排水の処理装置では、有機性排水を嫌気処理した後、槽外の内圧式管状膜3で膜分離する有機性排水の処理装置において、嫌気処理槽1内に微生物固定化担体4又は5を存在させているので、有機物の嫌気分解の過程で生成するプロピオン酸、酪酸やイソプロピルアルコールなど、水素を巡る菌体間の共生関係が関与する有機物の分解が担体に付着した菌体により安定して行われる。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
図1に示すフローに従って、下記水質の原水を下記条件で処理した。
<原水>
電子部品製造工場の排水
水量1.5m/d
TOC300〜700mg/L(平均500mg/L)、T−N30〜70mg/L(平均50mg/L)、T−P3.0mg/L(その他の無機塩とともに栄養剤として添加)
有機物の組成
イソプロピルアルコール(IPA)200〜400mg/L
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)200〜400mg/L
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)200〜400mg/L
【0023】
<嫌気処理槽>
容量500L(水理学的滞留時間8hr)
水温35℃
下水汚泥を種汚泥として6ヶ月馴養
槽内MLSS12,000mg/Lを維持するように汚泥を引き抜きいた。
【0024】
PVA製スポンジ担体(30mm四方)を容量比30%添加。液流出部に5mm幅のスクリーンを設置し、槽外に担体が流出しないようにした。また、嫌気処理槽から発生するバイオガスのうち4Nm/hを内圧式管状膜に供給した。
【0025】
<内圧式管状膜>
Noritのエアリフト型UF膜モジュール33PE(孔径0.03μm、膜面積5.1m
内圧式管状膜内の処理液表面流速0.5m/secとなるように4m/hrで嫌気処理液を通水し、透過水を取り出し、濃縮液を嫌気処理槽に返送した。
3min濾過、10sec逆洗のサイクルで、原水量に見合った処理水を膜の二次側から吸引して引き抜いた。逆洗時は処理水を7.2m/hrで二次側から通水した。
【0026】
運転結果を図3、図4に示す。図3は嫌気処理槽のCODCr負荷(kg/m・d)の経時変化を示す。図4はTOC除去率の経時変化を示す。
【0027】
[比較例1]
嫌気処理槽に微生物固定化担体を充填しなかったこと以外は実施例1と同様にして同一原水について同一期間運転を行った。結果を図3,4に示す。
【0028】
図3,4の通り、3ヶ月の間、4〜7.5kg/m・dで変動したCODcr負荷に対し、実施例1では除去率96%以上が安定して維持され、処理水TOC30mg/L以下を満足したのに対し、比較例1では60〜80%の除去率に留まり、特に負荷が急増したときに処理水質が悪化し、その影響が長く続いた。比較例1の処理水の残留有機物を分析したところ、大部分がIPA、および、BDGの分解過程で生成したと見られる酪酸であり、負荷が上昇した際には水素分圧が高まり、それらの分解が阻害されたと考えられる。
【0029】
以上のように、本発明によって、水素を巡る菌体同士の共生により分解が進む有機成分に対し、分解が安定して進むようになり、内圧式管状膜による高フラックスでの固液分離と処理の安定化を両立させることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 嫌気処理槽
3 内圧式管状膜
4,5 微生物固定化担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を嫌気処理する嫌気処理槽と、嫌気処理槽の処理液を嫌気処理槽外の内圧式管状膜で固液分離する排水処理装置において、前記嫌気処理槽に微生物固定化担体が存在することを特徴とする有機性排水の処理装置。
【請求項2】
請求項1において、内圧式管状膜における処理液の表面流速が0.5m/sec以上であることを特徴とする有機性排水の処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、有機性排水がイソプロピルアルコールを主成分とすることを特徴とする有機性排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205990(P2012−205990A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72515(P2011−72515)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】