説明

有機性排水及び汚泥の処理方法及び処理装置

【課題】高濃度の有機物、リン及び窒素を含有する有機性排水から、重金属由来粒子を分離除去しMAP等の有価物粒子を効率良く回収することにより、容易かつ低コストで重金属含有率の比較的小さい汚泥を生成し、さらに有用有価物も同時に回収することを可能にする有機性排水又は汚泥の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】嫌気性処理工程を組み入れた有機性排水又は汚泥の処理システムであって、該嫌気性消化工程の汚泥中に存在する2種類以上の微粒子の中から重金属由来化合物粒子を液中粒子状態で分離する分離手段を有し、該分離手段として該粒子の比重、粒径、表面電荷、磁性、及びぬれ性のうち少なくとも2つ以上の特性を利用した微粒子分級手段を採用することを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理方法。及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場や各種廃水処理施設等において有機性排水を処理するシステムに係わり、更に詳しくは高濃度の有機物、リン、窒素、及び少量の重金属成分を含有する排水から、重金属化合物等の微粒子を分離除去する技術に係わり、さらには有機性汚泥等に含有されるリン酸マグネシウムアンモニウム(以下「MAP」ともいう)結晶等の有用資源も、同時に効率良く分離回収する汚泥処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の有機性汚泥(以下「汚泥」という)からの重金属処理方法としては、一般的には汚泥又は汚泥乾燥物や汚泥焼却灰に対して酸を添加し、溶出する重金属イオンに対して(1)アルカリを添加した後に塩化第二鉄や高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理を行う方法、(2)固液分離処理後にイオン交換法により重金属イオンを除去する方法、(3)Cu電極やCd電極を用いた電解処理により電析する方法、等が挙げられる。これらの方法ではいずれも前処理として、汚泥等に対して大量の酸を添加する必要があり、その後の処理においてもpH調整剤や酸化剤などの薬品の添加、及び高価なイオン交換樹脂の使用、電解用の電力使用等処理ランニングコストとして非常に大きく、処理方式としても複雑なものが多いという問題があった。その上、一般的に汚泥中には重金属以外の多種類の物質が混入していることが、重金属除去性能を低下させている原因となっていた。例えば、下水処理場で発生する下水汚泥を例にすると、汚泥中には重金属以外にも微生物由来の有機物、砂泥分、髪の毛、植物や果物の種、及び炭酸、アンモニア、リン酸等の溶解性成分等様々な物質が多量に混入しており、有害ではあるが少量だけ混入している重金属類を除去するために、これら他の物質を含めた汚泥物質を一括して処理する方式は非常に効率が悪いという問題があった。
【0003】
そこで、本発明者らは上述した従来の問題を解決すべく、汚泥中に存在する重金属由来物質をなるべく汚泥中に存在する形態のままの粒子状物質、あるいは比較的容易に改質できる方法により重金属由来物質を改質して特定の特徴を持つ粒子状物質の形態で、該粒子を微粒子分離システムにより選択的に分離除去することを可能にした。さらに、該汚泥中の他の様々な粒子に関しても、それぞれの粒子特性に応じた分離手段を合わせて講じることにより、有価物として回収すべき粒子等も合わせて分離回収する事を可能にした。また、本発明は特許出願番号第2000−231633号明細書(特開2002−45889号公報)、第2002−186179号明細書、及び第2002−116257号明細書等(以下、例えば「特願2002−231633」と省略する)において開示した「有機性廃水の処理方法及び処理装置」により廃水中のリンを効率良くMAPとして回収する技術を利用する。
【特許文献1】特開2002−45889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した従来技術の問題点の解決を行うとともに、特願2000−231633、2002−186179、及び2002−116257等に開示されたシステムをさらに改良することを目的とする。すなわち、本発明は、有機性排水及び汚泥の処理システムにおいて、高濃度の有機物、リン及び窒素を含有する有機性排水又は汚泥から、重金属由来粒子を分離除去し、MAP等の有価物粒子を効率良く回収することにより、容易かつ低コストで重金属含有率の比較的小さい汚泥を生成し、さらに有用な有価物も同時に回収することを可能にする汚泥処理方法及び装置を提供することを課題とする。さらに、本発明では、有機性排水は、有機性廃水の他に、排出される有機性成分を含有する排水をも含意する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を以下に示す手段によって解決することができた。
(1)嫌気性消化処理工程を含む有機性排水又は汚泥の処理方法であって、分離手段によって該嫌気性消化工程の汚泥中に存在する2種類以上の微粒子の中から重金属由来化合物粒子を液中粒子状態で分離することを更に含み、該分離手段が該粒子の比重、粒径、表面電荷、磁性、及びぬれ性のうち少なくとも2つ以上の特性を利用した微粒子分級手段を含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理方法。
(2)嫌気性消化処理工程を含み有機性排水又は汚泥の処理方法であって、分離手段1によって該嫌気性消化工程の汚泥中に存在する様々な種類の微粒子の中から特定の2種類以上の微粒子を液中粒子状態で分離こと、分離手段2によって該分離手段1で分離された2種類以上の微粒子を各々に分離することを更に含み、該各分離手段1及び2が該粒子の比重、粒径、表面電荷、磁性、及びぬれ性のうち少なくとも1つの特性を利用した微粒子分級手段を含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理方法。
(3)嫌気性消化処理工程を組み入れた有機性排水又は汚泥の処理方法であって、該嫌気性処理工程の汚泥中に存在する少なくとも2種類以上の微粒子を汚泥から別々に分離するプロセスとして、該汚泥をふるい体による夾雑物除去工程、及び液体サイクロンによる微粒子濃縮工程にかけること、及び、その後に、薄流選別処理または該処理方式に準じる微粒子分離工程、微粒子の沈降速度差を利用した微粒子分離工程、ジグによる微粒子分離工程、1種類以上のふるい体を組み込んだ微粒子分離工程、及び磁力選別機による微粒子分離工程のうち少なくとも2種類以上の工程にかけることを更に含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理方法。
(4)有機性汚泥からリン酸マグネシウムアンモニウムの結晶物と重金属含有粒子を分離回収することを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の有機性排水及び汚泥の処理方法。(5)嫌気性消化工程の汚泥中に存在する数種類の微粒子の中からリン酸マグネシウムアンモニウムの結晶物と比重1.3以上のリン酸マグネシウムアンモニウム以外の微粒子を別々に分離回収することを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の有機性排水及び汚泥の処理方法。
(6)嫌気性処理工程の汚泥からリン酸マグネシウムアンモニウムの結晶物と重金属含有粒子を分離回収する工程に先立って、又は該微粒子回収工程の途中において、該汚泥を曝気又は減圧処理することを特徴とする前記(1)〜(5)に記載の有機性排水及び汚泥の処理方法。
(7)嫌気性消化処理槽を含む有機性排水又は汚泥の処理装置であって、該嫌気性消化工程の汚泥中に存在する様々な種類の微粒子の中から特定の2種類以上の微粒子を液中粒子状態で分離する分離装置1、及び、該分離装置1で分離された2種類以上の微粒子を各々に分離する分離装置2を有し、該各分離装置1及び2として該粒子の比重、粒径、表面電荷、磁性、及びぬれ性のうち少なくとも1つの特性を利用した微粒子分級装置を使用することを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理装置。
(8)嫌気性消化処理槽を含む有機性排水又は汚泥の処理装置であって、該嫌気性消化処理工程の汚泥中に存在する少なくとも2種類以上の微粒子を汚泥から別々に分離する微粒子分離装置として、該汚泥をふるい体による夾雑物除去工程、及び液体サイクロンによる微粒子濃縮工程にかける手段、及び、薄流選別処理または該処理方式に準じる微粒子分離工程、微粒子の沈降速度差を利用した微粒子分離工程、ジグによる微粒子分離工程、1種類以上のふるい体を組み込んだ微粒子分離工程、及び磁力選別機による微粒子分離工程のうち少なくとも2種類以上の工程にかける手段を更に含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、下水処理場や各種廃水処理施設等において有機性排水及び汚泥を処理するシステムに関する、特に、本発明は、汚泥中に存在する重金属化合物を比較的容易に分離除去すると同時に、同汚泥中に存在するリン酸マグネシウムアンモニウム(以下「MAP」という)結晶等の有用資源を効率良く分離回収することが可能になるプロセスである。本発明の方法を採用することにより、廃棄物としての汚泥から有価物の回収と有害物質の除去と排出汚泥の有効利用効率の向上を同時に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図2は本発明の一実施形態を説明するフローシートであり、本発明は本実施形態に限定されるものではない。嫌気性消化処理を採用する下水処理場を、本発明の実施の形態を説明するための有機性排水処理システムの例として取り上げて以下に説明する。
【0008】
図2において、下水処理システムに流入する流入水1は、生物学的排水処理工程で初沈汚泥5と余剰活性汚泥6を排出する。該汚泥は汚泥濃縮装置20で濃縮分離され、濃縮汚泥7は消化槽22において嫌気的に生物分解される。特願2000−231633で開示したように、消化槽22内ではアンモニウムイオン、リン酸イオン、及びマグネシウムイオンを基質成分としてMAP粒子が晶析する場合がある。また、該消化槽22内で積極的にMAP粒子を生成させるために、Mg源を該消化槽22に供給しても良い。消化槽22内では有機物の嫌気的分解の過程で炭酸、硫化水素等が多く発生することから、Cd、Cr、Mn、Pb、Fe等の流入下水中に存在する微量の重金属は硫化物や炭酸塩又は水酸化物の形態で存在する場合が多い。
【0009】
本発明者らは、全国各地で稼動する下水汚泥の嫌気性消化処理施設で採取した嫌気性消化汚泥中の重金属の形態調査を行った。その結果、消化槽22内の汚泥中の重金属の一部は、磁硫鉄鉱やフェライト等の磁性を持つ粒子となっているか、又は該磁性粒子と一体となっている場合(該粒子を「重金属磁性体粒子群」と呼ぶ)、あるいは硫化物を主体とする粒径数十μm未満の粒子となっている場合(該粒子を「重金属硫化物粒子群」と呼ぶ)が多いこと等を知見した。
【0010】
また、本発明者らは、汚泥中に存在する数種類の粒子の粒径、比重、磁性、表面電荷、及びぬれ性等の違いからこれら複数の粒子を分離できることを実験的に確認している。また、分離したい粒子相互の特性差を増幅することによって、分離性をさらに高める手段を用いることも有効な手段の一つとなり得ることも確認している。例えば、共沈剤としての塩化鉄やアルミニウム塩の添加や、硫黄化合物捕集剤としてのジチオカルバジド基、チオール基、キサンテート基等の官能基を持つ有機化合物の添加をはじめとして、フェライト法、鉄粉法、粒子表面電荷やぬれ性を増幅または制御するための粒子表面改質剤添加法、等を必要に応じて適用することも有効な一手段となり得る。また、本実施形態で対象としている嫌気性消化汚泥は、汚泥中に炭酸成分を多く含んでおり、曝気処理や減圧処理により脱炭酸が生じ汚泥pHが上昇する。汚泥pHが上昇すると、MAP生成反応や重金属類の硫化や水酸化が生じやすくなる。したがって、微粒子分離処理に先立ってまたは微粒子分離工程の途中において該処理を採用することも有効である。
【0011】
本実施形態では、微粒子分離システム23により分離・回収したい複数種類の微粒子を汚泥から直接分離することが可能であり、重金属磁性体粒子群、重金属硫化物粒子群、及びMAP粒子を含む消化汚泥9を、粒径約100μm以上でかつ比重約1.5g/cm以上のMAP粒子と、粒径約数十μm未満でかつ比重約5.0g/cm前後の重金属系粒子(重金属磁性体粒子群や重金属硫化物粒子群)等にそれぞれ別々に分離することができる。
【0012】
微粒子分離システム23の例を図1に示す。微粒子分離システム23の構成は、分離すべき重金属粒子又は複数種類の粒子の性状によって選択されるべきである。本実施形態の微粒子分離システム23としては、振動ふるい29、2段の液体サイクロン32及び35、遠心場揺動テーブル薄流選別機(便宜上「MGS」と呼ぶ)39、磁力選別機43を直列でシステム化するプロセスを採用した。MSGはMozley社(英国)製の薄流選別機び製品名「マルチグラビティーセパレーター」の略称である。図1には、湿式磁力選別機43が示されているが、乾式磁力選別機を使用してもよい。本微粒子分離システム23に供給される汚泥は、最初に振動ふるい29に送られ、髪の毛や植物の種等の夾雑物30を除去される。繊維状物質や粒径が数ミリ以上の粒子を除去した後に、2段の液体サイクロン32及び35により重金属系粒子とMAP粒子は同時に約20〜400倍に濃縮される。この時、粒径が比較的小さい重金属硫化物粒子群の一部は、2段目液体サイクロン35のオーバーフロー側から流出する場合があるが、必要に応じて該オーバーフロー液体をMGS39に供給し該重金属硫化物粒子群を分離することが可能である。また、液体サイクロンによる微粒子濃縮工程は、必要に応じて液体サイクロンを1段で使用しても、複数段で使用しても良い。
【0013】
図1の排出汚泥38は図2のMAP脱離汚泥10に相当する。図1の磁着物44は図2の重金属含有汚泥27に相当する。
【0014】
重金属含有粒子とMAP粒子の両方が濃縮された汚泥36から該2種類の粒子を分離する方法には、様々な処理環境に応じて複数の選択枝が存在する。以下にいくつかの例を示す。
【0015】
(例1)
例えば、汚泥処理施設において微粒子分離プロセスにおいて使用できる洗浄水量に制限があり、対象汚泥量の5%未満の洗浄水しか使用できないような場合、該汚泥36をMGS39に供給し、それぞれの粒子の粒径と比重の違いから重金属系粒子とMAP粒子に分離する。MGS39は、汎用の揺動テーブルの水平面を丸めて回転ドラム内に押し込んだ装置と表現できる装置で、通常の数倍の重力を粒子に作用させることができる。このことによりMGS39では汎用のテーブルよりも細かい粒子まで選別が可能となる。MGS39はドラム回転数や洗浄倍率を制御することにより粒径別、比重別に粒子を分離することが可能な装置である。MGSは2つ以上の粒子排出口を持つ場合が多い。本発明法では(1)高比重粒子群と(2)低比重粒子及びスライム粒子群の2種類の粒子群を得る方法を採用した。MGSの運転条件を種々検討し最適化した結果、高比重粒子群中のMAP粒子比率を約70%にし、重金属系粒子比率を約20%にし、低比重粒子及びスライム粒子群中のMAP粒子比率を約3%にし、重金属系粒子比率を約10〜40%にする運転条件を見つけることに成功した。
【0016】
得られた低比重粒子及びスライム粒子群中には、有価物としてのMAP粒子が少なく、重金属系粒子の比率が高い。このため、重金属含有廃汚泥としてそのまま分離することとし、高比重粒子群41を産物として次工程の磁力選別機43に導入する。また、低比重粒子及びスライム粒子群中には、重金属磁性体粒子群と重金属硫化物粒子群が両方存在する場合が多いことがこれまでの研究により判明している。該磁力選別機43では重金属磁性体粒子が分離され、特に、硫黄成分を含有する粒子の多くが非常に効率良く磁着物としてMAP粒子から分離されるという知見も得ている。一般的に重金属硫化物は磁性を持たないものが多いが、磁硫鉄鉱等のように重金属と硫黄成分が混在した状態で磁着性を帯びた粒子になっていると推察される。しかし、この現象のメカニズムの詳細に関しては現時点では判明していない。
【0017】
結果として、磁力選別後の回収粒子26のMAP粒子比率は約90%以上となり、重金属系粒子比率は約1%未満となる場合がある。また、それぞれの単位分離装置において分離された液体及び該液体中の粒子は、目標とする回収率や除去率等を満たすべく必要に応じて粒子の回収率や除去率を高めるために更に別の分離装置に供給してもよい。例えば、ある嫌気性消化汚泥中のMAP粒子と重金属系微粒子の分離操作においては磁力選別の後段、または前段において100〜250μmの穴径のふるい体に当該粒子群またはそれらを含む液体を供給してよい場合もある。この場合には、MAP粒子はふるい体の上部に、また、重金属系微粒子はふるい体を通過して下へと別々に分離することが可能となる。また、本システムの採用により使用する洗浄水量は対象汚泥量に対し5%未満となる場合が多い。本微粒子分離システム23の構成は、「有機性廃水及び汚泥の処理方法及び処理装置」(特願2002−328336)に開示したMAP分離システムを改良したシステムである。
【0018】
微粒子分離システム23により濃縮汚泥7から分離された夾雑物30並びに液体サイクロンオーバーフロー汚泥34及び37では、重金属系粒子とMAP粒子の比率がともに小さい。したがって、これらを混合した後で脱水処理等の減量化処理を行った後に、廃棄物処理にかけるか又はバイオマス有効資源として活用してもよい。重金属の比率が小さく、MAP由来のリンの比率が小さいことは、汚泥のコンポスト化やセメント原料化には有利となる。
【0019】
(例2)
本発明の別の態様を図3のフローチャートに示す。例えば、該微粒子分離プロセスにおいて使用できる洗浄水量制限が対象汚泥量の10%未満とされている場合、4インチサイクロン32から排出された汚泥33を上向流洗浄装置100に導入し、該汚泥33の約2〜10倍量の上向流洗浄水102により該汚泥を洗浄する。上向流洗浄装置100では粒子ごとの沈降速度の差を利用して複数種類の微粒子を分離すると同時に洗浄する。汚泥と洗浄水の混合液による線速度(LV)を所定の速度、例えば20〜50m/hに設定することにより比重及び粒子径の異なる微粒子はそれぞれ層を成し分離する。この場合、比重が小さく粒径も小さい粒子はその沈降速度よりも所定の線速度が大きいので該上向流洗浄装置100にとどまることができず洗い流されてしまう。該装置内に留まりその沈降速度に応じた膨張率で別々の層を成した各微粒子群は、該装置100に設けられた高さの異なる引き抜き管によりそれぞれ引き抜かれ、微粒子スラリー104及び105として各々分離回収することが可能となる。図3では微粒子スラリー105が有害物質として排出される。例えば40m/hの線速度(LV)ではMAP粒子は約2倍の膨張率であるのに対して一部の重金属系微粒子は4〜7倍の膨張率となる場合がある。
【0020】
ただし、比重が大きく粒径の小さい粒子と、比重が小さく粒径が大きい別の粒子が沈降速度としてほぼ同程度である場合、該上向流洗浄装置100だけでは分離できない可能性がある。その場合は、湿式または乾式の分離手段を使用し、該上向流洗浄装置100の後段処理プロセスとして、ふるい体により各微粒子の粒径差を利用した分離手段を使用することも有効である。100〜250μmの穴径のふるい体によりMAP粒子と重金属系粒子をある程度分離することが可能になる。また一方の粒子が磁性を持つ場合は湿式または乾式の磁力選別機43により各粒子を分離することも有効であり約10,000〜20,000ガウスでMAP粒子と磁性体粒子または磁性体粒子が付着した粒子と、非磁着物26及び磁着物44として効率良く分離することができる。また、上向流洗浄装置の代替機として空気作動ジグのような脈動による微粒子分級工程も有効な場合がある。例2の態様を下水の嫌気性消化汚泥中のMAP粒子と重金属系微粒子の分離操作において採用した例としては、液体サイクロンで濃縮された磁力選別の後段、または前段において100〜250μmの穴径のふるい体に当該粒子群またはそれらを含む液体を供給することにより、MAP粒子はふるい体の上部に重金属系微粒子はふるい体を通過して下へと別々に分離することが可能となる場合がある。
【0021】
以上に説明したように、嫌気性消化汚泥中のMAP粒子及び重金属系粒子を、それぞれ
別々に分離回収することができる本プロセスを採用することにより、有害物質である重金属系粒子を分離除去するとともに、有価物であるMAP粒子を効率良く回収することが可能となる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明の廃水処理技術を実際に組み込んだ実験プラントの運転結果の一例について説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
本実施例は、A下水処理場の嫌気性消化汚泥を使用して行ったパイロットプラント実験による実施例であり、フローは先に示した図2のフローと同じである。目的は汚泥中に存在するリン資源としてのMAP粒子の回収と重金属系微粒子等の有害粒子の除去とを行い、排出する汚泥のセメント原料としての利用効率を向上させるというものである。A処理場は嫌気好気法による活性汚泥処理を採用している。嫌気性消化槽22では、35℃での中温消化を実施した。滞留時間は25日であった。
【0023】
本実施例では、微粒子分離工程として、図1に示される方法が実施された。具体的には、汚泥28を穴径1.2mmの振動ふるい28に導入し、夾雑物30を除去した。その後、汚泥を4インチサイクロン32及び2インチサイクロン35に順次導入し、汚泥中の微粒子を約180倍に濃縮して微粒子濃縮汚泥36を得た。その後、汚泥を、設定角4°、回転速度300rpm、汚泥の1.5倍量の洗浄水使用量という条件で運転されるMGS39に汚泥を導入し、汚泥を洗浄及び分離した。MAP粒子及び重金属含有粒子の混合物である微粒子スラリー41を排出し、40℃で乾燥した後、10,000ガウスの乾式磁力選別機43にかけて磁着物44及び非磁着物26を分離した。MAP粒子を非磁着物26として回収し、重金属含有粒子を磁着物44として回収した。
【0024】
また、本実施例の比較用システムとして、図4に示すMAP回収や重金属処理を行わない場合(従来例)と、嫌気性消化汚泥からMAP粒子のみを分離回収する、特願2002−328336に記載のプロセスの2つの処理方式も平行して行った。特願2002−328226のプロセスは、磁力選別機43による分離を行わず、汚泥を2段サイクロン32及び35で260倍に濃縮し、MGSを220rpmの回転速度で運転した以外の点では、上記実施例のプロセスと同じであった。これらのシステムでは同一の消化汚泥を使用した。汚泥処理運転結果を第1表に示す。表中の数値は、全て実施期間約1ヶ月間の処理結果の平均値である。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例等で使用した消化汚泥のSSは25.1g/リットル、該汚泥中のMAP量は0.82g/リットルであった。MAP回収率は従来例が0%、特願2002−328336が85.4%に対して、本実施例が92.1%であり、本実施例の方が特願2002−328336よりも6.7ポイント高くなった。MAP回収率に関して本実施例の方が特願2002−328336よりも大幅に大きくなった。その理由は以下のように考えることができる。特願2002−328336では分離回収すべきターゲット粒子が、メジアン径φ500μm程度の分離性の良いMAP粒子のみであることから比較的高濃縮倍率の液体サイクロンが使用されたのに対して、実施例の方では比較的粒径が大きく比重が小さいMAP粒子と、比較的粒径が小さく比重が大きい重金属系粒子の両方を同時に液体サイクロンにより分離するために、ある程度広範囲の粒子を回収できるよう比較的濃縮倍率の小さい液体サイクロンが使用されたことの他、MGSでの希釈倍率や回転数の設定、及び磁力選別機のスラリー供給速度、ベルト速度、磁力強度等、特願2002−328336よりも操作因子の多い本実施例の該微粒子分離システム23では、微粒子分離システムの最適化がより高度に行えたことが挙げられる。
【0027】
排出汚泥中のSSの量は、従来例24.7g/リットルに対して、特願2002−328336が23.1g/リットル、実施例が21.8g/リットルであった。特願2002-328336が従来例よりも排出汚泥SSが小さいのは、MAP回収プロセスにおいて分離したMAPと夾雑物を汚泥から除いているためである。本実施例の方がさらに小さいのは、重金属廃汚泥をさらに汚泥から除いているためである。排出汚泥中の重金属比率は、従来例≧特願2002−328336>本実施例の順で小さくなった。従来例と特願2002−328336はほとんど同じレベルであると言えるが、本実施例は従来例や特願2002−328336よりも重金属比率が大きく減少した。従来例の排出汚泥中の各重金属比率をそれぞれ100%とした場合の本実施例の重金属比率は、Feで約7%、Mnで約23%、Znで35%、Tiで45%、それぞれ減少した。すなわち、排出汚泥中の重金属含有率は実施例方式を採用することにより大幅に減少させることができ、特にMn、Zn、Tiでは23〜45%の除去率に達した。これにより、該排出汚泥は、脱水処理等の減量化処理後にコンポストやセメント原料等として有効利用する場合に、重金属阻害等を起こしにくく取り扱い易い汚泥としてリサイクルすることが可能になる。本発明の方法によって分離された少量の重金属含有廃汚泥は相応の産廃処理が必要である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の方法は、汚泥中に存在する重金属化合物の比較的容易な分離除去と同時に、同汚泥中に含有されるリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)結晶等の有用資源の効率的な分離回収を可能にする。本発明の方法を採用することにより、廃棄物としての汚泥から有価物の回収と有害物質の除去と排出汚泥の有効利用効率の向上を同時に実現することができる。したがって、下水処理場や各種廃水施設等において、高濃度の有機物、リン、窒素及び少量の重金属を含有する処理方法及び装置として広く採用される有用な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の微粒子分離システムの概略説明図である。
【図2】本発明の有機性排水及び汚泥の処理方法の一実施形態のフローシートである。
【図3】本発明の別の態様の微粒子分離システムの概略説明図である。
【図4】従来の廃水処理システムの実施形態のフローシートである。
【符号の説明】
【0030】
1 流入水
2 最初沈殿池流出水
3 生物反応装置流出水
4 処理水
5 初沈汚泥
6 余剰汚泥
7 濃縮汚泥
9 消化汚泥
10 MAP脱離汚泥
12 脱水ケーキ
13 脱水ろ液
14 濃縮装置上澄液
17 最初沈殿池
18 生物学的排水処理反応槽
19 最終沈殿池
20 汚泥濃縮装置
22 汚泥嫌気性消化槽
23 微粒子分離システム
25 脱水装置
26 分離回収有価物(MAP粒子等)
27 重金属含有廃汚泥又は粒子
28 汚泥
29 振動ふるい
30 夾雑物
31 し渣なし消化汚泥
32 4インチ・サイクロン
33 微粒子濃縮汚泥
34 微粒子脱離汚泥
35 2インチ・サイクロン
36 微粒子濃縮汚泥
37 微粒子脱離汚泥
38 排出汚泥
39 MGS
40 洗浄水
41 微粒子スラリ1
42 微粒子スラリ2
43 磁力選別機
44 磁着物
100 上向流洗浄装置
102 洗浄水
103 微粒子脱離汚泥
104 微粒子スラリー
105 微粒子スラリー(有害物質)
106 振動ふるい
107 微粒子スラリー(有害物質)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性消化処理工程を含む有機性排水又は汚泥の処理方法であって、分離手段によって該嫌気性消化工程の汚泥中に存在する2種類以上の微粒子の中から重金属由来化合物粒子を液中粒子状態で分離することを更に含み、該分離手段が、該粒子の比重、粒径、表面電荷、磁性、及びぬれ性のうち少なくとも2つ以上の特性を利用した微粒子分級手段を含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理方法。
【請求項2】
嫌気性消化処理工程を含む有機性排水又は汚泥の処理方法であって、分離手段1によって該嫌気性消化工程の汚泥中に存在する様々な種類の微粒子の中から特定の2種類以上の微粒子を液中粒子状態で分離すること、及び、分離手段2によって該分離手段1で分離された2種類以上の微粒子を各々に分離することを更に含み、該各分離手段1及び2が、該粒子の比重、粒径、表面電荷、磁性、及びぬれ性のうち少なくとも1つの特性を利用した微粒子分級手段を含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理方法。
【請求項3】
嫌気性消化処理工程を含む有機性排水又は汚泥の処理方法であって、該嫌気性処理工程の汚泥中に存在する少なくとも2種類以上の微粒子を汚泥から別々に分離するプロセスとして、該汚泥をふるい体による夾雑物除去工程、及び液体サイクロンによる微粒子濃縮工程にかけること、及び、その後に、薄流選別処理または該処理方式に準じる微粒子分離工程、微粒子の沈降速度差を利用した微粒子分離工程、ジグによる微粒子分離工程、1種類以上のふるい体を組み込んだ微粒子分離工程、及び磁力選別機による微粒子分離工程のうちの少なくとも2種類以上の工程にかけることを更に含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理方法。
【請求項4】
有機性汚泥からリン酸マグネシウムアンモニウムの結晶物と重金属含有粒子を分離回収することを特徴とする請求項1〜3に記載の有機性排水及び汚泥の処理方法。
【請求項5】
嫌気性消化処理工程の汚泥中に存在する数種類の微粒子の中からリン酸マグネシウムアンモニウムの結晶物及び比重1.3以上のリン酸マグネシウムアンモニウム以外の微粒子を別々に分離回収することを特徴とする請求項1〜3に記載の有機性排水及び汚泥の処理方法。
【請求項6】
嫌気性消化処理工程の汚泥からリン酸マグネシウムアンモニウムの結晶物と重金属含有粒子を分離回収する工程に先立って、または微粒子回収プロセスの途中において、該汚泥を曝気又は減圧処理することを特徴とする請求項1〜5に記載の有機性排水及び汚泥の処理方法。
【請求項7】
嫌気性消化処理槽を含む有機性排水又は汚泥の処理装置であって、該嫌気性消化工程の汚泥中に存在する様々な種類の微粒子の中から特定の2種類以上の微粒子を液中粒子状態で分離する分離装置1、及び、該分離装置1で分離された2種類以上の微粒子を各々に分離する分離装置2を更に含み、該各分離装置1及び2として該粒子の比重、粒径、表面電荷、磁性、及びぬれ性のうちの少なくとも1つの特性を利用した微粒子分級装置を使用することを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理装置。
【請求項8】
嫌気性消化処理槽を含む有機性排水又は汚泥の処理装置であって、該嫌気性消化処理工程の汚泥中に存在する少なくとも2種類以上の微粒子を汚泥から別々に分離する微粒子分離装置として、該汚泥をふるい体による夾雑物除去工程、及び液体サイクロンによる微粒子濃縮工程にかける手段、及び、薄流選別処理または該処理方式に準じる微粒子分離工程、微粒子の沈降速度差を利用した微粒子分離工程、ジグによる微粒子分離工程、1種類以上のふるい体を組み込んだ微粒子分離工程、及び磁力選別機による微粒子分離工程のうちの少なくとも2種類以上の工程にかける手段を更に含むことを特徴とする有機性排水及び汚泥の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−534459(P2007−534459A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540067(P2006−540067)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/JP2005/008547
【国際公開番号】WO2005/105680
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】