説明

有機無機複合膜が形成された物品

【課題】有機物を含有するシリカ系膜における耐摩耗性を向上する。
【解決手段】シリカ系膜は、無機酸化物としてシリカを含んで主成分とし、有機物として、難水溶性のポリマー、例えば、ポリカプロラクトンポリオール、ビスフェノールAポリオールおよびグリセリンポリオールから選ばれる少なくとも1種のポリマーに代表される、25℃の水100gに対する溶解度が1.0g以下であるポリマー、を含む。このシリカ系膜は、テーバー摩耗試験のみならずスチールウール摩耗試験に対しても良好な耐摩耗性を示す。基体としてはガラス板を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス材料は一般に硬質であり、基体を被覆する膜の形態でも利用される。しかし、ガラス質の膜(シリカ系膜)を得ようとすると、熔融法では高温処理が必要になるため、基体および膜を構成する材料が制限される。
【0003】
ゾルゲル法は、金属の有機または無機化合物の溶液を出発原料とし、溶液中の化合物の加水分解反応および縮重合反応によって、溶液を金属の酸化物あるいは水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらにゲル化させて固化し、このゲルを加熱して酸化物固体を得る方法である。
【0004】
ゾルゲル法は、低温でのシリカ系膜の製造を可能とするが、熔融法により得たシリカ系膜と比較すると、機械的強度、特に膜の耐摩耗性に劣るという問題があった。近年、本発明者は、ゾルゲル法の改良により、有機物を含みながらも耐摩耗性に優れたシリカ系膜を形成できることを見出し、国際公開第2005/095101号パンフレットにおいて、このシリカ系膜(有機無機複合膜)を有する物品を提案した。このシリカ系膜は、テーバー摩耗試験に対し、熔融法により得たガラス板に匹敵する程に優れた耐摩耗性を有する。
【0005】
この改良型ゾルゲル法では、pHを2程度に調整するとともに、理論値よりも過剰な量の水を含有させ、さらにポリエーテル型界面活性剤に代表される親水性ポリマーを添加したコーティング液を使用する。この方法によれば、高温(例えば400℃を超える程度)に加熱しなくても、耐摩耗性に優れ、かつ250nmを超える程度に厚い膜を得ることができる。この方法では、親水性ポリマーは、コーティング液中の液体成分の蒸発にともなって生じ得る膜の過剰な収縮を抑える役割を果たすとともに、形成後の膜中に残存する。
【0006】
なお、ゾルゲル法による有機無機複合膜の形成については、例えば、特開平11−140310号公報および特開平11−140311号公報にも開示がある。
【0007】
特開平11−140310号公報では、「ポリ(2−メチルオキサゾリン)の親水性セグメントとポリ(2−フェニルオキサゾリン)の疎水性セグメントとを含む両親媒性ポリオキサゾリンブロック共重合体(7)の存在下、テトラアルコキシシランのゾル−ゲル反応を行い、シリカゲルマトリックス中に、ブロック共重合体(7)が均一に分散された有機−無機ポリマーハイブリッド」が提案されている。
【0008】
特開平11−140311号公報では、「金属酸化物のマトリックス中に、アミド結合、ウレタン結合及び/又は尿素結合を有する非反応性ポリマーと、縮合芳香族化合物及びアントラキノン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の疎水性低分子化合物とが均一に分散された有機−無機ポリマーハイブリッド」が提案されている。
【発明の開示】
【0009】
国際公開第2005/095101号パンフレットに開示されている有機無機複合膜は、摩耗輪を押しつけて行うテーバー摩耗試験に対しては十分な耐摩耗性を示す。しかし、この有機無機複合膜においても、スチールウール摩耗試験のように膜の表面を局部的に擦る試験に対する耐摩耗性については改善の余地があった。
【0010】
スチールウール摩耗試験に対する有機無機複合膜の耐摩耗性を向上させるためには、コーティング液の加熱乾燥時において液体成分を速やかに除去することが重要である。本発明者は、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、基体と、前記基体の表面に形成され、有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜とを含み、前記有機無機複合膜が前記無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とする、有機無機複合膜が形成された物品であって、前記有機無機複合膜が、前記有機物として、難水溶性のポリマーを含む、有機無機複合膜が形成された物品を提供する。
【0012】
本発明によれば、テーバー摩耗試験のみならずスチールウール摩耗試験に対しても良好な耐摩耗性を発揮する有機無機複合膜が形成された物品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の有機無機複合膜が形成された物品は、例えば以下の製造方法により得ることができる。この製造方法は、基体の表面に、有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程と、前記基体に塗布された形成溶液から当該形成溶液に含まれる液体成分を除去する除去工程と、を含むことにより、基体の表面に有機無機複合膜を形成する。形成溶液は、シリコンアルコキシド、強酸、水および有機溶媒を含み、さらに、難水溶性ポリマーを含む。シリコンアルコキシドの濃度は、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超え、前記強酸の濃度は、前記強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度により表示して0.001〜0.2mol/kgの範囲にあり、前記水のモル数は、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の4倍以上である。前記塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、前記形成溶液を前記基体に塗布する。前記除去工程では、前記基体を400℃以下の温度に保持しながら、前記基体に塗布された形成溶液に含まれる液体成分を除去する。
【0014】
上記の製造方法によれば、形成溶液の一度の塗布により、例えば膜厚が250nmを超える程度に厚く、しかも耐摩耗性に優れた有機無機複合膜を形成することも可能である。
【0015】
本発明に用いる難水溶性ポリマーとしては、25℃の水100gに対する溶解度(以下単に、「溶解度」ともいう)が1.0g以下のポリマーを例示できる。この程度の溶解度のポリマーは、一般に「水に不溶」であるとして取り扱われている場合が多いが、本発明に用いる難水溶性ポリマーは、わずかながら水に溶解することが望まれる。水に対する溶解性が全くないポリマーでは、透明な膜を得ることができないからである。その溶解度は、例えば0.01g以上であればよい。なお、溶解度は0.5g以下であってもよい。難水溶性ポリマーは、極度に疎水性とならないように、フッ素を含まないポリマーであることが好ましい。ポリエーテル型界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマーは、溶解度が1.0gを大幅に上回る。
【0016】
難水溶性ポリマーは、カルボニル基を含むことが好ましく、ポリマーの繰り返し単位にカルボニル基が含まれていることがより好ましい。難水溶性ポリマーは、アルキレンオキサイド基またはカルボニルアルキレンオキサイド基を含むことが好ましく、ポリマーの繰り返し単位にアルキレンオキサイド基またはカルボニルアルキレンオキサイド基を含むことがより好ましい。当該アルキレンオキサイド基またはカルボニルアルキレンオキサイド基は、プロピレンオキサイド基またはカルボニルプロピレンオキサイド基のように、炭素数が3以上のアルキレン基を含む状態にあってもよい。難水溶性ポリマーは、ベンゼン環を有していてもよい。ベンゼン環は、ポリマーの水溶性を低下させる。これらの官能基、特にベンゼン環やカルボニル基は、膜の強度の向上に寄与している可能性がある。
【0017】
難水溶性ポリマーとしては、ポリカプロラクトンポリオール;3−メチル−1,5−ペンタンジオール/アジピン酸コポリマー、3−メチル−1,6−ペンタンジオール/アジピン酸コポリマー、3−メチル−1,5−ペンタンジオール/テレフタル酸コポリマー、3−メチル−1,5−ペンタンジオール/アジピン酸/トリメチロールプロパンコポリマー、3−メチル−1,6−ペンタンジオール/アジピン酸/トリメチロールプロパンコポリマー、1,9−ノナンジオール/アジピン酸コポリマーといったポリエステル;主鎖中に炭酸エステル結合(−O−R−O−CO−)を有するジオール体であるポリカーボネートジオール;ビスフェノールAポリオール;グリセリンポリオールを例示できる。
【0018】
ポリマーの水酸基価は、水溶性の程度を直接示す値ではないが、構造が類似するポリマーについては、水溶性の指標となる。例えば、ベンゼン環やカルボニル基を有しないポリオールの場合、水酸基価は、150mgKOH/g以下、100mgKOH/g以下、さらには70mgKOH/g以下の範囲にあることが好ましい。水酸基価の下限は、例えば5mgKOH/gであってよい。
【0019】
難水溶性ポリマーは、ポリカプロラクトンポリオール、ビスフェノールAポリオールおよびグリセリンポリオールから選ばれる少なくとも1種のポリマーであってよい。
【0020】
ポリカプロラクトンポリオールとしては、分子中に、ε−カプロラクトンに由来する下記の化学式(1)で示される構造を繰り返し単位として有する、トリオールおよびジオールを例示できる。
【0021】
【化1】

【0022】
ビスフェノールAポリオールとしては、下記の化学式(2)で示される化合物に代表される、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を例示できる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドならびにそれらのブロック重合体およびランダム重合体を例示できる。
【0023】
【化2】

【0024】
ただし、R1およびR2は、炭素数1〜10の直鎖のまたは分岐を有するアルキレン基であり、L1およびM1は1〜30の整数である。
【0025】
グリセリンポリオールとしては、下記の化学式(3)で示される化合物に代表される、グリセリンのアルキレンオキサイド付加物を例示できる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドならびにそれらのブロック重合体およびランダム重合体を例示できる。
【0026】
【化3】

【0027】
ただし、R3、R4およびR5は、炭素数1〜10の直鎖のまたは分岐を有するアルキレン基であり、L2、M2およびN2は1〜30、好ましくは5〜30、の整数である。
【0028】
難水溶性ポリマーは、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基のような、電子吸引性置換基を含んでいてもよい。
【0029】
形成溶液のpHを2程度に調整するとともに、当該溶液に、理論値よりも過剰な量の水を含有させ、さらにポリマーを添加すると、膜厚が250nmを超える程度に厚くても、テーバー摩耗試験に対して優れた耐摩耗性を有する有機無機複合膜を形成できる。この耐久性は、形成溶液に添加する主要なポリマーが、ポリカプロラクトンポリオールに代表される難水溶性ポリマーであっても、ポリエーテル型界面活性剤に代表される親水性ポリマーであっても得られる。
【0030】
しかし、形成溶液に添加する主要なポリマーとして親水性ポリマーを使用した場合は、上記のとおり、スチールウール摩耗試験に対しては良好な耐摩耗性を得られない。形成溶液の溶媒としては、アルコールおよび水が主に用いられている。水に溶けにくいポリマーは、アルコールにも溶けにくいことが多い。このため、難水溶性のポリマーは、これまで、形成溶液に添加する主要なポリマーとして注目されてこなかった。しかしながら、当該試験に対しても良好な耐摩耗性を確実に得るためには、難水溶性ポリマーを、形成溶液に添加する主要なポリマーとして選択することが重要である。「主要な」ポリマーが難水溶性ポリマーであるとは、形成溶液に添加されるポリマーの総質量に対する難水溶性ポリマーの割合が50%を超える範囲にあることを意味する。
【0031】
形成溶液に添加する主要なポリマーとして難水溶性ポリマーを選択することにより、膜の耐摩耗性をさらに向上できる理由は、現時点では明らかではないが、本発明者は次のように考えている。
【0032】
形成溶液中のポリマーは、400℃以下の低温では分解されにくいため、基体に塗布された形成溶液に含まれる液体成分を除去する工程(除去工程)を通じて膜中に存在する。ここで、膜の耐摩耗性を向上するためには、除去工程において液体成分を速やかに除去し、より緻密な膜を形成することが重要である。形成溶液は過剰な量の水を含有するため、液体成分のなかでも特に水を速やかに除去する必要がある。親水性ポリマーは、水との高い親和性により、膜中に水を保持するように振る舞うが、難水溶性ポリマーは、除去工程において液体成分の除去を促進する役割を果たすようである。このため、主要なポリマーとして難水溶性ポリマーを添加した形成溶液を使用すると、除去工程において液体成分を速やかに除去することが容易となり、より緻密な膜を形成できるものと考えられる。
【0033】
以上のようなゾルゲル法の改善により、スチールウール摩耗試験に対しても良好な耐摩耗性を示す有機無機複合膜を形成できる。
【0034】
本発明の有機無機複合膜は、当該膜の表面に対して等級No.0000のスチールウールを0.25kg/cm2の荷重を印加しながら押し当てた状態で、10往復させることにより実施するスチールウール摩耗試験の後に、当該試験を適用した部分に目視で傷が認められない、程度に優れた耐摩耗性を有する。
【0035】
スチールウール摩耗試験後の膜における傷の有無は、以下のようにして確認できる。通常の蛍光灯(例えば、約1400ルクス(lux)の明るさを有する)下で、試験後の当該試料を種々の方向から目視で観察したときに、摩耗方向に沿った筋状の乱反射光の有無により、傷の有無を判断できる。
【0036】
このように、スチールウール摩耗試験の評価を、目視による傷の有無によって実施する理由は、以下のようである。本発明の有機無機複合膜は、局部的な耐摩耗性に優れており、例えば、スチールウール摩耗試験前後におけるヘイズ率の差を測定しても、その差異が認められず、耐摩耗性を正しく評価できないためである。スチールウール摩耗試験は、スチールウールの繊維が局所的に接触した状態で摩耗されるので、テーバー摩耗試験のように所定面積で摩耗する評価方法に比べて、本発明の有機無機複合膜においては過酷な摩耗試験といえる。なお、スチールウール摩耗試験の具体的な方法については、後で詳しく述べる。
【0037】
本発明の有機無機複合膜によれば、有機無機複合膜の耐摩耗性を、スチールウール摩耗試験における荷重および往復回数を、それぞれ、0.5kg/cm2および10往復、0.75kg/cm2および10往復、1kg/cm2および10往復、1kg/cm2および50往復に設定して実施したとしても、当該試験を適用した部分に目視で傷が認められない程度にまで高めることもできる。
【0038】
この膜は、JIS R 3212に規定されたテーバー摩耗試験を適用しても基体から剥離しない。また、テーバー摩耗試験の後に測定した、当該テーバー摩耗試験を適用した部分のヘイズ率を4%以下、さらには3%以下、とすることもできる。JIS R 3212によるテーバー摩耗試験は、市販のテーバー摩耗試験機を用いて実施できる。この試験は、上記JISに規定されているとおり、500g重の荷重を印加しながら行う、回転数1000回の摩耗試験である。
【0039】
本発明の有機無機複合膜は、難水溶性ポリマーに代表される有機物の含有量が、有機無機複合膜の総質量に対して0.1〜60%、好ましくは2〜60%、より好ましくは10〜40%の範囲にある。有機無機複合膜は、スチールウール摩耗試験に対する良好な耐摩耗性が得られる限り、有機物としてさらに親水性ポリマーを含有した状態にあってもよい。
【0040】
有機無機複合膜の膜厚は、例えば250nmを超え10μm以下であり、好ましくは300nmを超え10μm以下であり、さらに好ましくは500nm以上10μm以下である。この膜厚は、1μm以上、さらには1μmを超えていてもよく、5μm以下であってもよい。
【0041】
透明基体としては、ガラス板または樹脂板を例示できる。厚さが0.1mmを超える、さらには0.3mm以上、特に0.5mm以上の透明基体を用いると、クラックの発生やテーバー摩耗試験後の膜剥離をより確実に防止できる。基体の厚さの上限は特に制限されないが、例えば20mm以下、さらには10mm以下であってよい。
【0042】
形成溶液中の水のモル数は、シリコン原子の総モル数に対し、4倍を超える程度、例えば5倍〜20倍、とすることが好ましい。
【0043】
形成溶液中のシリコンアルコキシドの濃度は、3質量%を超えて30質量%以下の範囲にあることが望ましく、3質量%を超えて13質量%未満の範囲にあることが好ましく、3質量%を超えて9質量%以下の範囲にあることがより好ましい。形成溶液におけるシリコンアルコキシドの濃度が高すぎると、基体から剥離するようなクラックが膜中に発生することがある。
【0044】
強酸としては、塩酸、硝酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸を例示できる。強酸のうち、塩酸に代表される揮発性の酸は、加熱時に揮発することにより、硬化後の膜中に残存しないので、好ましく用いることができる。硬化後の膜中に酸が残ると、膜硬度が低下してしまうことがある。
【0045】
有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコールを例示できる。
【0046】
塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、形成溶液を基体上に塗布することが望ましい。相対湿度を40%未満、さらには30%以下に制御すると、雰囲気中の水分の過剰な吸い込みを防止でき、形成した膜が緻密な構造体となる。相対湿度の下限値は特に限定されないが、形成溶液の取り扱い性(塗布性)を高める観点からは、15%以上、さらには20%以上に制御することが好ましい。
【0047】
除去工程では、基体上に塗布された形成溶液の液体成分、例えば水および有機溶媒が除去される。より詳しくは、水および有機溶媒の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部が除去される。除去工程は、室温(25℃)下での風乾工程と、風乾工程に続いて行われる、室温よりも高温かつ400℃以下の雰囲気下、例えば100℃以上300℃以下、さらには250℃以下の雰囲気下での熱処理工程とにより行うとよい。風乾工程は、相対湿度が40%未満、さらには30%以下に制御した雰囲気下で行うことが好ましい。相対湿度を当該範囲に制御することにより、膜におけるクラックの発生をより確実に防止できる。相対湿度の下限値は特に限定されない。例えば15%、さらには20%であってよい。
【0048】
形成溶液中の難水溶性ポリマーの濃度は、シリコンアルコキシドの濃度をSiO2濃度により表示したときの当該SiO2に対して60質量%以下とするとよい。難水溶性ポリマーの濃度の下限は、上記SiO2に対して0.1質量%以上、特に5質量%以上とするとすることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0050】
(実施例A1)
実施例A1は、難水溶性ポリマーとしてポリカプロラクトンポリオールを添加した形成溶液を用いて、膜を形成した例である。
【0051】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業製プラクセル303)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。ダイセル化学工業製プラクセル303は、25℃の水100gに対する溶解度が1.0g以下の範囲にある。この溶液中の難水溶性ポリマー、シリコンアルコキシド(シリカ換算)、プロトン濃度、水の含有量を、表1に示す。
【0052】
なお、水の含有量には、エチルアルコール中に含まれる水分(0.35質量%)を加えて計算している。プロトン濃度は、塩酸に含まれるプロトンがすべて解離したとして算出した。水の含有量およびプロトン濃度の計算方法は、以降のすべての実施例、比較例において同一である。
【0053】
次に、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:3.1mm)上に、相対湿度(以下、単に「湿度」という)30%の室温下で、形成溶液をフローコート法にて塗布した。塗布した形成溶液を室温で約5分間風乾し、続いて予め200℃に昇温したオーブンに投入することにより15分間加熱し、その後冷却することにより、ガラス基板上に膜を形成した。
【0054】
こうして得た膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。また、テーバー摩耗試験後の膜剥離もなかった。さらに、スチールウール摩耗試験に対して優れた耐久性を有していた。この膜の厚さ、テーバー試験前後のヘイズ率、およびスチールウール摩耗試験後の傷の有無を表2に示す。
【0055】
スチールウール摩耗試験は、摩耗試験機(新東科学製ヘイドン・トライボステーションType32)および等級No.0000のスチールウールを用い、0.25〜1.0kg/cm2の荷重を印加しながら、当該スチールウールを膜表面に押し当て、10〜50往復させることにより実施した。スチールウールは、摩耗試験機のヘッドに取り付けた。このヘッドにおける、試験対象の膜に接触する部分のサイズは、20×20mmである。125×20mmのサイズで厚さが2mm〜3mmのスチールウールを、125×20mmのネル布を介して、ヘッドに取り付けた。スチールウールの量は、20×20mmのサイズで厚さが2mm〜3mmである状態に換算した場合に、約0.2gになるようにした。摩耗試験機は、片道50mmの距離を7200mm/分の速度でヘッドが移動するように設定した。試験後の膜における傷の有無は、約1400ルクス(lux)の明るさを有する通常の蛍光灯下で、目視により確認した。
【0056】
テーバー摩耗試験は、JIS R 3212に準拠した摩耗試験によって行った。すなわち、市販のテーバー摩耗試験機(TABER INDUSTRIES社製5150 ABRASER)を用い、500gの荷重で1000回摩耗を行った。ヘイズ率は、スガ試験機社製HZ−1Sを用いて測定した。
【0057】
(実施例A2)
実施例A2は、オーブン内の温度を130℃とし、オーブン内での保持時間を30分間としたこと以外は、実施例A1と同様にして膜を形成した例である。得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0058】
(実施例A3)
実施例A3は、難水溶性ポリマーの添加量を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、実施例A1と同様にして膜を形成した例である。
【0059】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)20.46g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業製プラクセル303)7.15g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表1に示す。
【0060】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0061】
(実施例A4)
実施例A4は、オーブン内の温度を130℃とし、オーブン内での保持時間を30分間としたこと以外は、実施例A3と同様にして膜を形成した例である。得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0062】
(実施例A5)
実施例A5は、難水溶性ポリマーとして、ポリカプロラクトンポリオールに代えてビスフェノールAポリオールを添加した形成溶液を使用したこと以外は、実施例A1と同様にして膜を形成した例である。
【0063】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(ADEKA社製BPX−55)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。ADEKA社製BPX−55は、25℃の水100gに対する溶解度が1.0g以下の範囲にある。この溶液中の各成分の濃度を表1に示す。
【0064】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0065】
(実施例A6)
実施例A6は、オーブン内の温度を130℃とし、オーブン内での保持時間を30分間としたこと以外は、実施例A5と同様にして膜を形成した例である。得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0066】
(実施例A7)
実施例A7は、難水溶性ポリマーの添加量を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、実施例A5と同様にして膜を形成した例である。
【0067】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)20.46g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(ADEKA社製BPX−55)7.15g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表1に示す。
【0068】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0069】
(実施例A8)
実施例A8は、難水溶性ポリマーとして、ポリカプロラクトンポリオールに代えてグリセリンポリオールを添加した形成溶液を使用したこと以外は、実施例A1と同様にして膜を形成した例である。
【0070】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、グリセリンのプロピレンオキサイド付加物(ADEKA社製G−3000B)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。ADEKA社製G−3000Bは、25℃の水100gに対する溶解度が1.0g以下の範囲にある。この溶液中の各成分の濃度を表1に示す。
【0071】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0072】
(実施例A9)
実施例A9は、難水溶性ポリマーとして、グリセリンポリオールの別例を添加した形成溶液を使用したこと以外は、実施例A8と同様にして膜を形成した例である。
【0073】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、グリセリンのプロピレンオキサイド付加物(ADEKA社製G−4000)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。ADEKA社製G−4000は、25℃の水100gに対する溶解度が1.0g以下の範囲にある。この溶液中の各成分の濃度を表1に示す。
【0074】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表2に示す。
【0075】
(比較例A1)
比較例A1は、難水溶性ポリマーに代えて、親水性ポリマーを添加した形成溶液を使用したこと以外は、実施例A2と同様にして膜を形成した例である。
【0076】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。日本ルーブリゾール製ソルスパース41000は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをリン酸でエステル化したポリマーであり、25℃の水100gに対する溶解度が1.0gを超える範囲にある。この溶液中の各成分の濃度を表5に示す。
【0077】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表6に示す。
【0078】
(比較例A2)
比較例A2は、親水性ポリマーの添加量を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、比較例A1と同様にして膜を形成した例である。
【0079】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)20.46g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)7.15g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表5に示す。
【0080】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表6に示す。
【0081】
(実施例B1)
実施例B1は、プライマー層が形成されたポリカーボネート基板を基体として用い、難水溶性ポリマーとしてポリカプロラクトンポリオールを添加した形成溶液を用いて膜を形成した例である。
【0082】
まず、エチルアルコール(片山化学製)97.992gと、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学製)2.008gとを混合、撹拌し、形成溶液を得た。この溶液中の3-アミノプロピルトリエトキシシランの含有量(アミノプロピルシルセスキオキサン(RSiO1.5)換算)は1質量%であり、水の含有量(対Si量;モル比)は2.4である。なお、水の含有量は、エチルアルコール中に含まれる水分を0.35質量%として加えた上で計算している。次いで、洗浄したポリカーボネート基板(100×100mm、厚さ3.0mm)上に、湿度30%、室温下で形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約5分間乾燥した後、予め110℃に昇温したオーブンに投入し30分加熱し、その後冷却することにより、プライマー層が形成されたポリカーボネート基板を得た。
【0083】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業製プラクセル303)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0084】
次に、プライマー層上に、湿度30%の室温下で、形成溶液をフローコート法にて塗布した。塗布した形成溶液を室温で約5分間風乾し、続いて予め130℃に昇温したオーブンに投入することにより60分間加熱し、その後冷却することにより、基体上に膜を形成した。
【0085】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。なお、膜厚は、便宜的に、プライマー層が形成されたポリカーボネート基板に代えて、ソーダ石灰珪酸塩ガラス基板上に膜を形成することにより測定した。
【0086】
(実施例B2)
実施例B2は、難水溶性ポリマーの添加量を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、実施例B1と同様にして膜を形成した例である。
【0087】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)20.46g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業製プラクセル303)7.15g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0088】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。
【0089】
(実施例B3)
実施例B3は、難水溶性ポリマーの添加量を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、実施例B1と同様にして膜を形成した例である。
【0090】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)19.81g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業製プラクセル303)7.80g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0091】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。
【0092】
(実施例B4)
実施例B4は、プロトン濃度を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、実施例B3と同様にして膜を形成した例である。
【0093】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)19.76g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10g、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業製プラクセル303)7.80g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0094】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。
【0095】
(実施例B5)
実施例B5は、プロトン濃度を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、実施例B3と同様にして膜を形成した例である。
【0096】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)19.76g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10g、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業製プラクセル303)7.80g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0097】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。
【0098】
(実施例B6)
実施例B6は、難水溶性ポリマーとして、ポリカプロラクトンポリオールに代えてビスフェノールAポリオールを添加した形成溶液を使用したこと以外は、実施例B1と同様にして膜を形成した例である。
【0099】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(ADEKA社製BPX−55)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0100】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。
【0101】
(実施例B7)
実施例B7は、ビスフェノールAポリオールの別例を添加した形成溶液を使用し、基体上に塗布した当該形成溶液を硬化させるための、オーブン内での保持時間を30分間としたこと以外は、実施例B6と同様にして膜を形成した例である。
【0102】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(ADEKA社製BPX−2000)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。ADEKA社製BPX−2000は、25℃の水100gに対する溶解度が1.0g以下の範囲にある。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0103】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。
【0104】
(実施例B7)
実施例B7は、難水溶性ポリマーとして、ビスフェノールAポリオールに代えてグリセリンポリオールを添加した形成溶液を使用したこと以外は、実施例B6と同様にして膜を形成した例である。
【0105】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、グリセリンのプロピレンオキサイド付加物(ADEKA社製G−3000B)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表3に示す。
【0106】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表4に示す。
【0107】
(比較例B1)
比較例B1は、難水溶性ポリマーに代えて、親水性ポリマーを添加した形成溶液を使用したこと以外は、実施例B1と同様にして膜を形成した例である。
【0108】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)22.41g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)5.20g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表5に示す。
【0109】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表6に示す。
【0110】
(比較例B2)
比較例B2は、親水性ポリマーの添加量を増加させた形成溶液を使用したこと以外は、比較例B1と同様にして膜を形成した例である。
【0111】
純水27.20g、エチルアルコール(片山化学製)20.46g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.05g、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)7.15g、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14gを混合し、4時間撹拌することにより形成溶液を得た。この溶液中の各成分の濃度を表5に示す。
【0112】
得られた膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。こうして得た膜の各種特性を表6に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
【表5】

【0118】
【表6】

【0119】
以上の実施例および比較例は一例にすぎず、本発明を限定するものではない。
【0120】
シリカ系膜に耐摩耗性を付与するために、膜にフッ素樹脂微粒子が添加されることがある。しかし、本発明による有機無機複合膜は、実施例に示すように、フッ素樹脂微粒子を含まないにもかかわらず好適な耐摩耗性を有する。このように、本発明による有機無機複合膜は、フッ素樹脂微粒子を含まない状態にあってもよい。フッ素樹脂微粒子を含まないとは、機能の付与に必要となる添加量に満たない程度の量のフッ素樹脂微粒子が膜中に混入することを排除する趣旨ではない。
【0121】
本発明による有機無機複合膜は、フッ素樹脂微粒子を含まず、かつそれ以外の微粒子を含む状態にあってもよい。このような微粒子は特に限定されず、例えば、インジウム錫酸化物微粒子およびアンチモン錫酸化物微粒子に代表される導電性酸化物微粒子やフッ素を含まない樹脂微粒子が挙げられる。微粒子の添加量は、膜に付加する機能に応じて適宜調整すればよく、例えば導電性酸化物微粒子であれば1質量%以上とするとよい。
【0122】
有機無機複合膜の形成溶液には、有機修飾された金属アルコキシドを、その金属アルコキシドの金属原子のモル数が、有機修飾されていないシリコンアルコキシドのシリコン原子のモル数の10%以下の量となるように、添加してもよい。Si以外の金属酸化物をシリコン酸化物の質量分率を超えない範囲で添加し、複合酸化物としてもよい。
【0123】
形成溶液には、水または有機溶媒に溶解する金属化合物、特に、単純に電離して溶解するもの、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、亜鉛といった金属の、塩化物、酸化物、硝酸塩を添加してもよい。ボロン、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムを添加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、有機物を含有しながらも、特に優れた耐摩耗性を有するシリカ系膜が形成された物品を提供するものとして、被膜に特段の耐摩耗性が要求される各分野において多大な利用価値を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の表面に形成され、有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜とを含み、前記有機無機複合膜が前記無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とする、有機無機複合膜が形成された物品であって、
前記有機無機複合膜が、前記有機物として、難水溶性のポリマーを含み、
前記基体が、ガラス板である、
有機無機複合膜が形成された物品。

【公開番号】特開2012−140643(P2012−140643A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104878(P2012−104878)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【分割の表示】特願2008−550141(P2008−550141)の分割
【原出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】