説明

有機物熱分解装置

【課題】ハロゲン含有有機物の熱分解に伴い発生する腐食性ガスによる腐食を防止可能で、腐食性ガスを含む熱分解ガスの後処理が容易な有機物熱分解装置を提供する。
【解決手段】ハロゲン化合物を含有する有機物を熱分解する、内筒11を覆うように外熱炉21が設けられた外熱式ロータリーキルン方式の有機物熱分解装置1であって、熱分解温度以上の温度領域に熱分解ガスを外部に排出するガス排出管12a、12bが設けられた前記内筒11と、前記内筒11の外周に設けられ前記ガス排出管12a、12bの出口部13a、13bを覆う、前記外熱炉21と区画されたガス回収室31と、前記ガス回収室31に排出された熱分解ガスを排気するガス排気管32と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化合物を含有する有機物を連続的に熱分解する有機物熱分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等のハロゲン化合物を含有する有機物、例えば車破砕くずを燃料として使用する場合、予め脱ハロゲン化処理を行い、ハロゲンを含まない固形燃料とした後、これを燃料として使用する場合も多い。通常、ハロゲン化合物を含有する有機物の脱ハロゲン化には、熱を加えて脱ハロゲン化する熱分解方法が採用され、これまでに多くの熱分解方法、熱分解装置が提案されている。
【0003】
ハロゲン化合物を含有する有機物を熱分解する装置としては、構造が簡単であり、また大型化も容易なロータリーキルンタイプの熱分解装置が多く使用されている。熱分解装置を用いてハロゲン化合物を含有する有機物を熱分解する場合、発生するガスによる装置の腐食、発生ガスの後処理が問題となる。例えば、ロータリーキルンを用いて塩化ビニル樹脂を熱分解した場合、腐食性の高い塩化水素が発生するが、この塩化水素によりロータリーキルンの内筒が腐食される恐れがある。この腐食の問題を解決するため、直接加熱方式のロータリーキルンに代え、間接加熱方式のロータリーキルン(以下外熱式ロータリーキルンと記す)を用いた塩素除去装置が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3353730号公報
【特許文献2】特開2000−153523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加熱ガスと被処理物とを直接接触させる直接接触方式のロータリーキルンの場合、発生した塩化水素と加熱ガスとが混合し排出されるため、排出されるガスの後処理が大変であるとし、特許文献1に記載の塩素除去装置は、間接加熱方式を採用している。外熱式ロータリーキルンを採用すれば、発生した塩化水素ガスと加熱ガスとが分離されているため、直接接触方式のような問題は発生しない。しかし外熱式ロータリーキルンを用いても発生するガスによる装置の腐食、ガス処理の問題が完全に解決されているとは言い難い。特許文献1の塩素除去装置で代表されるように、発生した塩化水素と樹脂残渣とをいっしょに出口フード部から排出する方法は、簡便な方法ではあるが、通常、出口フード部は温度が低いため酸露点以下となり強烈な酸腐食が起こる。
【0006】
このような外熱式ロータリーキルン方式の熱分解装置の抱える問題を解決するために、特開平6−247784号公報に記載の外熱式ロータリーキルンのように、内筒と外熱炉とを連通させ、腐食性ガスを含む熱分解ガスを外熱炉に導き、外熱炉の加熱ガスといっしょに系外に排出させる方法も考えられるが、この方法では加熱ガスと被処理物とを直接接触させる方法と同様、処理対象ガス量が多いというような課題が残る。熱分解ガスの後処理は、熱分解装置の腐食と同じく非常に重要な課題であり、実用化に際しこれらを考慮した熱分解装置とする必要がある。
【0007】
本発明の目的は、ハロゲン含有有機物の熱分解に伴い発生する腐食性ガスによる腐食を防止可能で、腐食性ガスを含む熱分解ガスの後処理が容易な有機物熱分解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ハロゲン化合物を含有する有機物を熱分解する、内筒を覆うように外熱炉が設けられた外熱式ロータリーキルン方式の有機物熱分解装置であって、熱分解温度以上の温度領域に熱分解ガスを外部に排出するガス排出口が設けられた前記内筒と、前記内筒の外周に設けられ前記ガス排出口を覆う、前記外熱炉と区画されたガス回収室と、前記ガス回収室に排出された熱分解ガスを排気するガス排気管と、を備えることを特徴とする有機物熱分解装置である。
【0009】
また本発明は、請求項1に記載の有機物熱分解装置において、さらに前記ガス回収室に排出された熱分解ガスを保温又は加熱する手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、請求項1又は2に記載の有機物熱分解装置において、前記ガス排出口が前記内筒中央部に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、請求項3に記載の有機物熱分解装置において、前記内筒は、径の異なる2つの内筒からなり、一方の内筒の内径が他方の内筒の外径よりもわずかに大きく、一方の内筒が他方の内筒に部分的に挿入され、前記ガス排出口が、前記一方の内筒が他方の内筒に部分的に挿入された部分の隙間であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、請求項3又は4に記載の有機物熱分解装置において、前記外熱炉が左右に分割され、前記ガス回収室が左右の外熱炉の間に配置されていることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、請求項1から5のいずれか1に記載の有機物熱分解装置において、さらに前記内筒の一端又は両端に、前記熱分解温度以上の温度領域に向う掃気ガスを供給する掃気ガス供給手段を備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、請求項6に記載の有機物熱分解装置において、前記掃気ガスが、過熱水蒸気であり、該過熱水蒸気は、前記内筒内及び/又は前記ガス回収室内で結露しない過熱度を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機物熱分解装置は、外熱式ロータリーキルン方式の有機物熱分解装置であって、内筒の熱分解温度以上の温度領域に熱分解ガスを外部に排出するガス排出口、内筒の外周にそれを覆うガス回収室が設けられ、さらにはガス回収室に排出された熱分解ガスを排気するガス排気管を有するので、発生する熱分解ガスを速やかに系外に排気することができる。よって熱分解ガスの装置低温部への接触機会が減少し、腐食を防止することができる。さらに熱分解ガスを回収するガス回収室が、加熱炉と区画されているので、熱分解ガスに加熱炉の加熱媒体が混じることがない。このため処理すべきガス量が少なく、ガス処理設備の負荷が低減される。
【0016】
また本発明によれば、本発明の有機物熱分解装置は、ガス回収室に排出された熱分解ガスを保温又は加熱する手段を備えるので、ガス回収室の温度を、酸露点以上に保持することができる。これにより内筒外壁の腐食を確実に防止することができる。
【0017】
また本発明によれば、前記有機物熱分解装置において、ガス排出口が内筒中央部に設けられているので、温度の低下し易い装置端部への熱分解ガスの接触を抑制し、発生する熱分解ガスを速やかに系外に排気することができる。これにより装置の腐食をより確実に防止することができる。
【0018】
また本発明によれば、前記有機物熱分解装置において、内筒は、径の異なる2つの内筒からなり、一方の内筒の内径が他方の内筒の外径よりもわずかに大きく、一方の内筒が他方の内筒に部分的に挿入されているので、それぞれの内筒において、それぞれの両端をローラで回転自在に支持することができる。このため内筒の撓みの問題を解決し、装置の大型化が容易となる。またガス排出口が、一方の内筒が他方の内筒に部分的に挿入された部分の隙間であるので、簡単にガス排出口を設けることができる。
【0019】
また本発明によれば、前記有機物熱分解装置において、外熱炉が左右に分割され、ガス回収室が左右の外熱炉の間に配置されているので、構造が簡単で実用化し易い。
【0020】
また本発明によれば、前記有機物熱分解装置において、さらに内筒の一端又は両端に、熱分解温度以上の温度領域に向う掃気ガスを供給する掃気ガス供給手段を備えるので、熱分解ガスの低温部への接触をより確実に防止し、さらに迅速に熱分解ガスを系外に排気することができる。これにより、より以上に装置の腐食を防止することができる。
【0021】
また本発明によれば、掃気ガスが、過熱水蒸気であるので、熱分解ガスの払出しと共に有機物の分解、特に塩素含有有機物からの塩素除去を促進することが可能であり好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態の有機物熱分解装置1を備える有機物熱分解設備の全体構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の有機物熱分解装置2を備える有機物熱分解設備の全体構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態の有機物熱分解装置3を備える有機物熱分解設備の全体構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態の有機物熱分解装置1を備える有機物熱分解設備の全体構成を示す断面図である。有機物熱分解設備1は、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン化合物を含有する有機物(以下、原料、被処理物と記す場合もある。)を熱分解し、ハロゲンが除去された有機物残渣を得るための設備である。熱分解の対象となるハロゲン含有有機物としては、難燃性向上等の目的でハロゲン化合物(周期律表17族の塩素、臭素、フッ素、ヨウ素を含む化合物)を含有するポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などのプラスチック類、海藻等の食品系廃棄物及びプラスチック容器類などの塩化物が付着した有機物が例示される。前記ハロゲン含有プラスチック類を原料として使用しているものとして、耐熱電線、耐熱テープ、電気器具用部品、配管等が挙げられる。またハロゲン含有有機物が混在する廃棄物も熱分解の対象物となる。まず、有機物熱分解設備の全体的構成を説明し、その後、有機物熱分解装置1を詳細に説明する。
【0024】
有機物熱分解設備は、ハロゲン含有有機物を熱分解する外熱式ロータリーキルン方式の有機物熱分解装置1の他、有機物熱分解装置1に被処理物であるハロゲン含有有機物を供給する、ホッパー52及びスクリューフィーダ53を有する原料供給装置51を備える。原料供給装置51と有機物熱分解装置1との接続部には、入口フード55が設けられている。入口フード55は、固定された状態で取付けられており、回転する有機物熱分解装置1の内筒11との接続部には、熱分解ガスの漏れ出し、あるいは外気の漏れ込みを防止するためシール部材56が設けられている。一方、有機物熱分解装置1の出口部には、出口フード61が設けられ、有機物残渣は、出口フード61の下部に設けられた排出ホッパー62から排出される。出口フード61も、入口フード55と同様に固定された状態で取付けられており、回転する内筒11との接続部には、熱分解ガスの漏れ出し、あるいは外気の漏れ込みを防止するためシール部材63が設けられている。なお、排出ホッパー62の底部には、図示を省略したがロータリーバルブのようなガスをシールしつつ有機物残渣を排出する装置が設けられている。
【0025】
有機物熱分解装置1は、内筒11を覆うように外熱炉21が設けられた外熱式ロータリーキルン方式の熱分解装置である。内筒11は、金属製のパイプ状部材であり、両端部にそれぞれ回転リング41、42を備え、回転リング41、42は、架台43に取り付けられたローラ45、46で回転自在に支持されている。内筒11の一端部には、内筒11を回転させるための回転ギア47が設けられ、この回転ギア47が駆動モータ48に連結する駆動ギア49にかみ合い、駆動モータ48の駆動により内筒11が回転させられる。内筒11は、原料供給側に比べ、出口部側が若干低くなるように水平面に対して若干傾斜した状態で設置されている。
【0026】
内筒11の中央部には、壁面を貫通し、内筒11内で発生した熱分解ガスをガス回収室31に排出する、略L字状のガス排出管12(12a、12b)が設けられている。ガス排出管12は、一端部が内筒11内で回転、落下する原料及び/又は有機物残渣が侵入しないように内筒11の中心付近で出口側に水平に曲げられており、他端部がガス回収室31に突出するように取り付けられている。ハロゲン含有有機物を熱分解すると、ハロゲンが離脱し、ハロゲンガスを含む熱分解ガスが発生する。このような熱分解ガスは、腐食性が強いので、発生した熱分解ガスを速やかに系外に排出し、装置壁面との接触時間を短くし、また接触面積を小さくすることが望ましい。このためにガス排出管12は、熱分解ガスの発生する領域に設置されている。
【0027】
熱分解ガスは、ハロゲン含有有機物が熱分解温度以上に加熱され発生する。本有機物熱分解装置1の場合、原料供給装置51を介して内筒11内に連続供給された原料は、外熱炉21からの熱により加熱され温度を上昇させ、熱分解温度以上に加熱されると熱分解ガスを発生させ、出口側に移動する。出口フード61には加熱源が設けられていないため本有機物熱分解装置1の場合、内筒11の中央部が一番温度が高く、この部分で熱分解ガスが発生する。このため本実施形態の有機物熱分解装置1では、内筒11の中央部にガス排出管12を設けている。
【0028】
発生した熱分解ガスを速やかに系外に排出するには、ガス排出管12の本数を多くし、また内筒11の軸方向に幅広く設けることが好ましいが、一方で、ガス排出管12a、12bの出口部13a、13bは、ガス回収室31で覆われるため、内筒11の軸方向に幅広くガス排出管12を設けるとガス回収室31の幅が広くなる。ガス回収室31を広くするに従い、外熱炉21の幅が狭くなるので、加熱の点からは内筒11の軸方向に幅広くガス排出管12a、12bを設けることは好ましくない。以上の点を踏まえ、さらに熱分解温度、熱分解ガスの発生量からガス排出管12の本数、位置を決めることが望ましい。
【0029】
本実施形態では、ガス排出管として略L字状のガス排出管12を示したけれども、ガス排出管は、このガス排出管12に限定されるものではない。ガス排出管は、内筒11内で発生した熱分解ガスを速やかにガス回収室31に排出するために設けるものであるから、原料及び/又は有機物残渣がガス回収室31に排出されることなく、熱分解ガスをガス回収室に排出することができれば形状等は特に問われない。また原料及び/又は有機物残渣がガス回収室31に排出されることなく、熱分解ガスをガス回収室31に排出することができれば、ガス排出管に代え、ガス排出口を含む他の手段であってもよい。
【0030】
内筒11の外周には、内筒11を覆うように外熱炉21及びガス回収室31が設けられている。外熱炉21は、内筒11の原料入口部から中央部を加熱する第1外熱炉22及び内筒11の中央部から出口部を加熱する第2外熱炉23からなる。第1外熱炉22は、内筒11の原料入口部から中央部の外周を覆うように取り付けられており、燃焼ガスなど加熱ガスを導入するための加熱ガス供給管24が設けられている。第2外熱炉23は、内筒11の中央部から出口部を覆うように取り付けられており、第1外熱炉22と第2外熱炉23とは、加熱ガスが流通する連絡管25で結ばれている。第2外熱炉23には、加熱ガスを排出する加熱ガス排出管26が設けられている。
【0031】
第1外熱炉22及び第2外熱炉23は、内筒11とは異なり固定された状態で取付けられており、回転する内筒11との接触部には、加熱ガスの漏れ出し、あるいは外気の漏れ込みを防止するためシール部材27、28が設けられている。外熱炉21の外気と接触する部分は保温材が取り付けられており、加熱ガス供給管24を介して供給される加熱ガスは、第1外熱炉22、連絡管25、第2外熱炉23、加熱ガス排出管26の順に流通し、内筒11を加熱する。加熱ガスは、燃焼ガス、他の機器から排出される高温排ガス等、種々の加熱用ガスを使用可能であり、温度は、ハロゲン含有有機物の熱分解温度に応じて適宜決定すればよい。
【0032】
ガス回収室31は、ガス排出管12(12a、12b)を介して排出される熱分解ガスを集め、系外に排出するための部屋であり、第1外熱炉22及び第2外熱炉23と完全に区画された状態で、内筒11の中央部の外周にガス排出管12a、12bの出口部13a、13bを覆うように設けられている。ガス回収室31は、外熱炉21と同様に固定された状態で取付けられており、回転する内筒11との接触部には、加熱ガスの漏れ出し、あるいは外気の漏れ込みを防止するためシール部材33が設けられている。ガス回収室31に集められた熱分解ガスは、最終的にはガス浄化装置(図示を省略)に送られ浄化されるため、ガス量は少ない方が好ましい。このため熱分解ガスは、第1外熱炉22及び第2外熱炉23に供給される加熱ガスと混ざらないことが重要であり、そのためガス回収室31と第1外熱炉22及び第2外熱炉23とは完全に分離されている。ガス回収室31の幅は、ガス排出管12の本数、配置で決まるが、大きさの一例を示すと、軸方向の長さが第1外熱炉22の長さ1/3程度であり、内筒全長の10〜15%程度である。
【0033】
ガス回収室31には、ガス排出管12を介して排出される熱分解ガスを系外へ取り出すためのガス排気管32が取り付けられており、内筒11内で発生した熱分解ガスは、複数のガス排出管12(12a、12b)を通りガス回収室31に集められ、さらにガス排気管32を介して図示を省略したガス浄化装置に送られる。ガス回収室31には、熱分解ガスの温度が低下しないように外気と接触する部分は保温材34が取り付けられている。熱分解ガスの温度が低下し、熱分解ガスに含まれる水蒸気が凝縮すると、凝縮水にハロゲンガスが溶解し、内筒11の外壁14を激しく腐食させるので、ガス回収室31の温度は、熱分解ガスに含まれる水蒸気が凝縮しないように維持することが重要である。保温材34の施工のみでは、ガス回収室31の温度が低下する場合には、ガス回収室31内にバーナーなどの加熱手段を設けることが好ましい。但し、この加熱手段も燃焼排ガスを発生させないか、燃焼排ガスを発生させる場合であっても可能な限り量が少ないことが好ましい。
【0034】
ガス回収室31は、ガス排出管12を介して排出される熱分解ガスを集め、系外に排出するための部屋であり、このような機能を備えるならば可能な限り狭い方が好ましい。ガス回収室31の幅が広くなるに伴い、内筒11の外壁14の腐食リスクが大きくなり、さらに第1外熱炉22及び第2外熱炉23の幅が狭くなり加熱面積が低下する。加熱面積が低下すると加熱ガスとしてより温度の高いガスを使用する必要が生じるが、高温ガスの使用は、使用できるガスが限定され、さらに内筒11、外熱炉21、シール部材27、28の耐久性に大きく影響するため好ましくない。本実施形態では、ガス回収室31と第1外熱炉22及び第2外熱炉23との間に空間を設けた例を示しているけれども、加熱面積の低下を防止するために、ガス回収室31と第1外熱炉22及び第2外熱炉23との壁を共用とする構造としてもよい。但し、この場合でも、熱分解ガスと加熱ガスとが互いに混じり合わないようにすることが重要である。
【0035】
また有機物熱分解装置1は、原料供給側及び出口フード61側から中央部に向かって掃気ガスを送り込む掃気ガス供給手段を備える。有機物熱分解装置1の原料供給側は、温度の低い原料が供給されるため中央部に比較し温度が低く、一方、出口フード61には、加熱源が設けられていないためこの部分も温度が低下し易い。このような温度の低い部分は、熱分解ガスに含まれる水蒸気が凝縮し、さらに凝縮水にハロゲンガスが溶解することで腐食され易い。本実施形態では、温度の低い有機物熱分解装置1の両端部の腐食を防止するため、掃気ガス供給手段を介して原料供給側及び出口フード61側から中央部に向かって掃気ガスを送る。
【0036】
原料供給側の掃気ガス供給手段は、入口フード55を貫通し設けられた掃気ガス供給ノズル57を備え、図示を省略した掃気ガス供給源から送られる掃気ガスが掃気ガス供給ノズル57を介して内筒11内に供給される。同様に出口フード61側の掃気ガス供給手段は、出口フード61を貫通し設けられた掃気ガス供給ノズル64を備え、図示を省略した掃気ガス供給源から送られる掃気ガスが掃気ガス供給ノズル64を介して内筒11内に供給される。掃気ガスは、内筒11の端部など温度の低下しやすい部分に熱分解ガスが侵入、滞留し、この部分を腐食することを防止するために供給するガスであるから、掃気ガス供給ノズル57、64を必要以上に内筒11内に挿入すべきではない。入口フード55、出口フード61に供給するようにしてもよい。
【0037】
ここで使用可能な掃気ガスとしては、酸素濃度の低い燃焼ガス、窒素ガス、炭酸ガス、これらの混合ガス、さらにこれらガスと空気との混合ガスで酸素濃度が低いガス、過熱水蒸気が例示される。掃気ガスは、熱分解ガスに含まれる水蒸気の凝縮を防止する点から温度が高い方が好ましく、安価であることがより好ましい。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱した水蒸気であり、このような過熱水蒸気は、例えば特願2010−065802に示すように塩素含有有機物からの塩素除去を促進するため好ましい。但し、過熱水蒸気を使用する場合は、十分な過熱度を有し、入口フード55、出口フード61で冷却され結露しない過熱度を備えることが重要である。
【0038】
掃気ガスの供給量は、必要以上に多くすべきではない。掃気ガスは熱分解ガスと混合し、ガス回収室31を経由してガス浄化装置に送られるため、処理すべきガス量が多くなるとガス浄化装置の負荷が増大するので好ましくない。
【0039】
掃気ガス供給手段は、有機物熱分解装置1の端部の温度に応じて入口フード55、出口フード61のいずれか1方に設けてもよいが、腐食防止の観点からは両方に設けることが好ましい。なお、入口フード55、出口フード61を備えない外熱式ロータリーキルン方式の熱分解装置であっても、公知のように内筒11の中心部に掃気ガス供給ノズルを設けることで掃気ガスを供給することは可能であり、さらに原料供給装置を備える場合であっても、原料供給装置のスクリューを収納する外筒を2重管とすることで容易に掃気ガスを供給することができる。
【0040】
以上のような構成からなる有機物熱分解装置1を備える有機物熱分解設備において、被処理物は、原料供給装置51を介して内筒11に連続的に定量供給される。内筒に連続的に定量供給された被処理物は、内筒11の回転に従って内筒11の入口から出口方向に移動する。この過程で、被処理物は、内筒11の入口から中央付近にかけて徐々に温度を上昇させ、熱分解し脱ハロゲン化する。例えば、被処理物が塩化ビニル樹脂の場合、熱分解による脱塩反応は、200℃付近から始まり400℃付近まで継続され、この間に大部分の塩素が除去される。熱分解によりハロゲンが除去された有機物残渣は、排出ホッパー62から系外に取り出される。一方、熱分解により発生する熱分解ガスは、掃気ガスと共にガス排出管12を通じて速やかに、ガス回収室31へ送られ、さらにガス排気管32を通じて、速やかに系外に排出される。
【0041】
以上のように本実施形態に示す有機物熱分解装置1は、有機物を熱分解したとき発生する熱分解ガスを速やかに系外に排出することができるので、有機物がハロゲン化合物を含有する有機物であり、発生する熱分解ガスにハロゲンガスが含まれていても有機物熱分解装置1は腐食し難い。また、熱分解ガスは、加熱炉21に供給する加熱ガスと混合されないので、浄化処理すべきガス量が少なく好ましい。なお、上記実施形態に示すように有機物熱分解装置1に掃気ガス供給手段を設けることが好ましいが、掃気ガス供給手段を設けなくても、従来の有機物熱分解装置に比較し、本実施形態に示す有機物熱分解装置1は格段に腐食が抑制される。
【0042】
図2は、本発明の第2実施形態の有機物熱分解装置2を備える有機物熱分解設備の全体構成を示す断面図である。第1実施形態の有機物熱分解装置1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。以下、第1実施形態の有機物熱分解装置1との相違点を中心に説明する。
【0043】
第2実施形態の有機物熱分解装置2は、第1実施形態の有機物熱分解装置1と基本的な構成は同じであるが、ガス回収室31及び外熱炉21の設置要領が異なる。有機物熱分解装置2は、ガス回収室31が内筒11の中央部に位置し、外熱炉21とも明確に区画されている点では、有機物熱分解装置1と同じであるが、有機物熱分解装置2では、ガス回収室31を覆うように外熱炉21が設けられている。ガス回収室31に設けられるガス排気管32は、先端部が外熱炉21の外に位置するように壁面を貫通し設置されている。このため外熱炉21は、有機物熱分解装置1の外熱炉21のように分割されていない。
【0044】
第1実施形態の有機物熱分解装置1では、ガス回収室31は、第1外熱炉22と第2外熱炉23との間に、それらと僅かな間隔を有した状態で設けられている。このような構造は、ガス回収室31と外熱炉21とが明確に分離されているので、ガス回収室31に排出される熱分解ガスと外熱炉21に供給される加熱ガスとが混合することはなく、さらに構造も単純で製作し易い。このように第1実施形態の有機物熱分解装置1で用いられるガス回収室31及び外熱炉21の設置要領は好ましい方法ではあるが、ガス回収室31に加熱源が設けられていないので、ガス回収室31の温度が低下する場合には、別途、加熱手段を設ける必要がある。これに対して、第2実施形態の有機物熱分解装置2では、ガス回収室31が外熱炉21の中に設けられているので、ガス回収室31は外熱炉21から熱を受ける。このためガス回収室31内の温度が低下せず、ガス回収室31を加熱するための加熱手段は不要である。また、ガス回収室31と外熱炉21との間に隙間がなく、外熱炉21による加熱面積を無駄なく広く取ることができる。
【0045】
以上のように第2実施形態の有機物熱分解装置2では、ガス回収室31の温度低下対策が不要であり好ましいが、製作の点では第1実施形態の有機物熱分解装置1の方が容易であろう。よって発生する熱分解ガスにより、ガス回収室31の温度を高く維持する必要がある場合には、第2実施形態の有機物熱分解装置2が好ましく、ガス回収室31の温度を必ずしも高く維持する必要がないときは、製作容易な第1実施形態の有機物熱分解装置1が好ましいと言える。被処理物の熱分解温度等に応じて、適宜選択することが好ましい。
【0046】
図3は、本発明の第3実施形態の有機物熱分解装置3を備える有機物熱分解設備の全体構成を示す断面図である。第1及び第2実施形態の有機物熱分解装置1、2と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。以下、第1及び第2実施形態の有機物熱分解装置1、2との相違点を中心に説明する。
【0047】
第3実施形態の有機物熱分解装置3は、第1及び第2実施形態の有機物熱分解装置1、2と同様、外熱式ロータリーキルン方式の有機物熱分解装置3であるが、内筒11が直径の異なる2つの内筒、第1内筒15、第2内筒16からなる点が、第1及び第2実施形態の有機物熱分解装置1、2と大きく異なる。
【0048】
第1内筒15及び第2内筒16は、金属製のパイプ状部材であり、略同一の長さを有し、第1内筒15の外径は、第2内筒16の内径に比較し僅かに小さく、第1内筒15と第2内筒とが部分的に重なり合うように第1内筒15の一端部が、第2内筒16の一端部に挿入されている。第1内筒15は、両端部に回転リングを備え、回転リング71、72は、架台43に取り付けられたローラ74、75で回転自在に支持されている。同様に第2内筒16も、両端部に回転リングを備え、回転リング76、77は、架台43に取り付けられたローラ78、79で回転自在に支持されている。第1内筒15と第2内筒16とは中心軸が一致するように設置され、全体として原料供給側に比べ、出口部側が若干低くなるように水平面に対して若干傾斜した状態で設置されている。
【0049】
第1内筒15と第2内筒16とは、挿入部が一定の隙間17を維持した状態で図示を省略した連結部材で連結され、一体的に回転する。第1内筒15と第2内筒16との回転は、第1内筒11の一端部に設けられた回転ギア47が駆動モータ48に連結する駆動ギア49にかみ合い、駆動モータ48の駆動により回転させられる。なお、第1内筒15及び第2内筒16は、それぞれに駆動モータを設け別々に回転駆動させてもよい。
【0050】
第1内筒15及び第2内筒16には、第1及び第2実施形態の有機物熱分解装置1、2と異なり、ガス排出管12は設けられていない。本有機物熱分解装置3では、第1内筒15と第2内筒16との隙間17がガス排出管12の役目を果たし、熱分解ガスはこの隙間17を通ってガス回収室31に排出する。第1内筒15と第2内筒16との挿入部の隙間17は小さく、所定の長さの重なり合いが設けられているため、被処理物及び/又は有機物残渣が、この隙間17からガス回収室31に排出されることはない。被処理物及び/又は有機物残渣のガス回収室31への排出が懸念される場合は、必要に応じて金網、金属ブラシなどを設け、被処理物及び/又は有機物残渣の排出を防止しつつ熱分解ガスを排出させればよい。
【0051】
ガス回収室31は、第1内筒15と第2内筒16との挿入部を覆うように設けられ、第1内筒15と第2内筒16との挿入部の隙間17から排出される熱分解ガスを集める。第1内筒15と第2内筒16との挿入部は、第1内筒15と第2内筒16との中央部に位置し、熱分解ガスが有機物熱分解装置3の中央部から排出される点は、有機物熱分解装置1、2と同じ考え方に基づく。本実施形態の有機物熱分解装置3では、第1内筒15と第2内筒16との隙間17を通って熱分解ガスが排出するので、第2内筒16の端部近傍のみを覆うようにガス回収室31を設ければよい。このためガス回収室31の幅は狭くてもよく、第1加熱炉22、第2加熱炉23を広くすることができる。
【0052】
一般的に有機物熱分解装置が大型化すると、内筒11の長さが長くなるため内筒11の撓みが問題となる。外熱式ロータリーキルン方式の有機物熱分解装置の場合、内筒11は回転し、外熱炉21及びガス回収室31は固定されているため、内筒11の中央部に撓みが生じると、内筒11と外熱炉21及びガス回収室31との間のシールが問題となる。これに対して、第3実施形態の有機物熱分解装置3では、内筒11が分離し、それぞれの内筒15、16は、それぞれの両端で支持されているため、有機物熱分解装置を大型化しても、一本の内筒11からなる有機物熱分解装置に比較し、撓みを大幅に小さくすることができる。これにより内筒11と外熱炉21及びガス回収室31との間のシールも従来のシール手段を採用することができる。このように有機物熱分解装置を大型化する場合には、第3実施形態の有機物熱分解装置3を好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 有機物熱分解装置
2 有機物熱分解装置
3 有機物熱分解装置
11 内筒
12、12a、12b ガス排出管
13a、13b ガス排出管の出口部
14 内筒の外壁
15 第1内筒
16 第2内筒
17 隙間
21 外熱炉
22 第1外熱炉
23 第2外熱炉
31 ガス回収室
32 ガス排気管
34 保温材
57 掃気ガス供給ノズル
64 掃気ガス供給ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化合物を含有する有機物を熱分解する、内筒を覆うように外熱炉が設けられた外熱式ロータリーキルン方式の有機物熱分解装置であって、
熱分解温度以上の温度領域に熱分解ガスを外部に排出するガス排出口が設けられた前記内筒と、
前記内筒の外周に設けられ前記ガス排出口を覆う、前記外熱炉と区画されたガス回収室と、
前記ガス回収室に排出された熱分解ガスを排気するガス排気管と、
を備えることを特徴とする有機物熱分解装置。
【請求項2】
さらに前記ガス回収室に排出された熱分解ガスを保温又は加熱する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の有機物熱分解装置。
【請求項3】
前記ガス排出口が前記内筒中央部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機物熱分解装置。
【請求項4】
前記内筒は、径の異なる2つの内筒からなり、一方の内筒の内径が他方の内筒の外径よりもわずかに大きく、一方の内筒が他方の内筒に部分的に挿入され、
前記ガス排出口が、前記一方の内筒が他方の内筒に部分的に挿入された部分の隙間であることを特徴とする請求項3に記載の有機物熱分解装置。
【請求項5】
前記外熱炉が左右に分割され、前記ガス回収室が左右の外熱炉の間に配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の有機物熱分解装置。
【請求項6】
さらに前記内筒の一端又は両端に、前記熱分解温度以上の温度領域に向う掃気ガスを供給する掃気ガス供給手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1に記載の有機物熱分解装置。
【請求項7】
前記掃気ガスが、過熱水蒸気であり、
該過熱水蒸気は、前記内筒内及び/又は前記ガス回収室内で結露しない過熱度を有することを特徴とする請求項6に記載の有機物熱分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−130860(P2012−130860A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285136(P2010−285136)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(300078615)広島ガステクノ株式会社 (13)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】