説明

望遠撮影装置

【課題】アタッチメントを交換することなく簡単な操作で被写体を倍率を変えて鮮明な像で撮影できる望遠撮影装置を提供する。
【解決手段】対物レンズ11を備えた望遠鏡10にアタッチメント20を介してカメラ30が着脱自在に装着される。アタッチメント20の内部に対物レンズによる被写体の像14をカメラの撮像素子31に結像させる第1レンズ群21と第2レンズ群22からなるリレーレンズ系が設けられる。第1レンズ群21は固定され、第2レンズ群22は光軸方向に移動され、被写体が異なる倍率でかつ装着されたカメラの撮像素子31に再結像される。このような構成では、望遠鏡をカメラに装着するためのアタッチメントを取り替えることなく、被写体の像を変倍させることができ、また変倍してもピントの再調整をする必要がないので、被写体を異なる倍率で鮮明に撮影することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望遠撮影装置、更に詳細には、対物レンズを備えた望遠鏡にアタッチメントを介してカメラを着脱自在に装着し被写体を撮影する望遠撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、望遠鏡による観察だけではなく、望遠鏡で得られる画像を写真として記録する手段が各種提案されている。昨今はデジタルカメラが普及しており、望遠画像をデジタルカメラで記録するために、地上望遠鏡に撮影用アダプタを介してデジタルカメラを結合することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、地上望遠鏡を一眼レフカメラの望遠レンズの代わりに使用する場合、望遠鏡本体と一眼レフカメラ本体とをフォトアタッチメントと呼ばれる鏡筒を介して接続する必要がある。このフォトアタッチメントは対物レンズの焦点位置に結ばれた像をリレーしてカメラの像面に配置されたフィルムないし撮像素子の面に投影するもので、鏡筒内部にはレンズなどの光学系が配置されている。従来のフォトアタッチメントは投影する像の大きさが一定であり、像を拡大ないし縮小して撮影したい場合には別のフォトアタッチメントに交換する必要があった。しかも、フォトアタッチメントを交換するとフィルム(撮像素子)面上にあるべき結像面が光軸方向にずれることもあり、再度ピント調整をする必要があった。
【0004】
下記の特許文献2ではこのような問題を解決するために、焦点距離を変倍させる延長鏡筒を取り替えても、ピント合わせしなおす必要のない写真撮影システムを開示している。
【特許文献1】特開2003-298886号公報
【特許文献2】特開平9−33823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に示す構成では、焦点距離を変倍させるためにフォトアタッチメントを取り替えねばならず、その交換作業は撮影時において不便なものであった。
【0006】
本発明は、アタッチメントを交換することなく簡単な操作で被写体を倍率を変えて鮮明な像で撮影できる望遠撮影装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
対物レンズを備えた望遠鏡にアタッチメントを介してカメラを着脱自在に装着し被写体を撮影する望遠撮影装置であって、
前記アタッチメント内部に対物レンズによる被写体の像をカメラの像面に結像させるレンズ系を設け、
前記レンズ系のうち少なくとも一つのレンズを光軸方向に移動させ、被写体を異なる倍率でかつ装着されたカメラの像面に結像させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、望遠鏡をカメラに装着するためのアタッチメントを取り替えることなく、簡単に焦点距離を変化させて被写体の像を変倍させることができ、また変倍しても、その変倍領域の2箇所以上で焦点位置を一致させることができるため、被写体を異なる倍率でかつ装着されたカメラの像面に結像させることができ、鮮明な被写体の像を撮影することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に示す実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
図1は本発明の前提になる問題点を説明する図であり、図2は本発明の原理を説明する図である。
【0011】
図1(A)には、対物レンズ1によって出来た空中像2をリレーレンズ系3によって拡大ないし縮小して像面4に再結像させ、撮像素子やフィルムで撮影する光学系が図示されている。この光学系は、天体望遠鏡に使用され、地上望遠鏡の場合には、図1(B)に示したように、2個のプリズム5、6を介在させて空中像2を正立させている。図1(B)において、カメラを接続して像面4にフィルムあるいは撮像素子が位置するようにすると、被写体を地上望遠鏡で撮影することができる。
【0012】
地上望遠鏡では、視野がプリズム5、6等の制限により実視野を広げることが難しいため、通常拡大撮影がよく使われ、撮像素子が小さい場合は縮小撮影も可能で、リレーレンズ系3は望遠鏡の接眼レンズで代用することもある。
【0013】
このような構成で、対物レンズ1の焦点距離をf1、リレーレンズ系3の焦点距離をf2、リレーレンズ系3の前側主点h1から対物レンズ1の空中像2までの距離をa、リレーレンズ系3の後側主点h2から像面4までの距離をbとすると、
1/a+1/b=1/f2
β=b/a=b/f2−1
合成焦点距離=f1×β=f1×(b/f2−1)となり、
例えば、a=50, b=100、f2=33.3(100/3)とすれば、
β1=100/(50)=2、合成焦点距離=2×f1となり、対物レンズの焦点距離が2倍に拡大される。
【0014】
なお、符号は図1(B)の矢印の方向を正としている。
【0015】
また、距離aとbを伸び縮みさせることにより拡大率(縮小率)を変化させることができる。いま、aがΔa、bがΔb変化すると、
1/(a+Δa) +1/(b+Δb)= 1/f2 ・・・(1)
となる。ただし、Δa、Δbは図1(B)のa、bの矢印方向を正とする。
【0016】
例えば、拡大率が3倍(β2=3)としたい場合には、
β2=(b+Δb)/(a+Δa)=3であるので、これを(1)に代入して、
Δb=33.3, Δa=−5.55とすれば、合成焦点距離=3×f1となり3倍に拡大される。
【0017】
このように、同じリレーレンズ(焦点距離f2)であるが、リレーレンズと撮像素子との距離bを変化させることにより拡大率が2倍から3倍に変化する。
【0018】
このシステムの欠点は変化量Δaである。つまり、対物レンズの焦点位置(空中像2の位置)からΔaだけピント位置がずれることになる。その分を対物レンズ側で調整する必要があり、変倍出来てもピント変動が大きいことになる。変倍させることにより視野のピントが大きくボケた場合、捕らえていた撮影対象物を見失うだけではなく、Δbを伸び縮みさせる動作により三脚等の架台に載せた望遠鏡全体の重量バランスが崩れるという欠点がある。
【0019】
天体望遠鏡では、撮影対象が無限に遠い位置にあり、機構的にもピント調整量に余裕が大きいため問題になることは少ないが、地上望遠鏡では撮影対象が無限位置〜数メートルと範囲が広いため機構的に余裕が少ないことが多い。地上望遠鏡のフォーカス範囲(無限位置〜数メートル)において全域で変倍可能なシステムを構築するには、変倍してもピント変動がない(または、存在しても実害ないくらい小さい)ズーム構造にする必要がある。
【0020】
しかし、ズーム方式にするには、リレーレンズ系を2群以上のレンズ構成に分けて倍率変化に伴うピント位置の変化を補正する必要がある。その場合、各群の移動機構やレンズ構成枚数の増大によりコスト増大が避けられない。
【0021】
そこで、本発明では、リレーレンズ系の構成を変えることなく、少ないコストでピント変化の少ない変倍機構を実現させ、望遠鏡に一眼レフカメラ等の撮影機材を接続して撮影を行うシステムにおいて、全ズーム域でピント変化の少ない拡大撮影系を得るようにしている。
【0022】
そのための構成が、図2に図示されている。本発明では、図1(B)に示す地上望遠鏡において、通常固定されていたリレーレンズ系3を、図2に示すように、物体側から順に、集光性の(正の)屈折力を有する第1レンズ群3aと、同じく集光性の屈折力をもつ第2レンズ群3bから構成する。そして、変倍に際し少なくとも1つのレンズ群を移動させる。
【0023】
一実施例として、図2に示したように、第1レンズ群3aを固定し、第2レンズ群3bを光軸Lに沿って前後に移動させ変倍を実現している。これにより、ズーム方式における補正機構を省略することでコストアップが避けられるとともに、全長を固定することにより望遠撮影時の撮影機材全体の重量バランスを保っている。この方式では、第1レンズ群3aを固定しているため、ピント変動を抑えると変倍幅が少なくなってしまう欠点はあるが、大幅なコストアップなしにピント変化の少ない変倍機構を実現できる。
【0024】
このための具体的な諸元が図3(A)に表として示されている。
【0025】
ここで、D1は第1レンズ群3aの最も物体側のレンズ面からリレーレンズ系3の物体側像面2までの距離、D2は第1レンズ群3aの最も像側のレンズ面から第2レンズ群3bの最も物体側のレンズ面までの距離、bf'はリレーレンズ系の最も像側のレンズ面(第2レンズ群3bの最も像側のレンズ面)から像面4までの距離である。なお、数字の正、負はD1、D2、bf’を示す線の矢印方向を正としている。
【0026】
この表で、D1の数字がリレーレンズ系のピント変動量を表す。ズーム全域で一定であるのが理想であるが、この実施例で、倍率が低い短焦点距離と、倍率が高い長焦点距離においてD1は等しく、ズームの短、長側で一致しているが、中間域で多少のピント変動がある。
【0027】
D1は図1のaに相当し、全域でΔaは最大で12.48−11.89=0.59mmとなり、前述のΔa=−5.55と比較して非常にピント変動量が少ないことが理解できる。このように、実害がないレベルのピント変動量に抑えている。
【0028】
また、図3(B)は、図3(A)の特性を実現する第1と第2レンズ群の光学パラメータで、f1はリレーレンズ系3の第1レンズ群3aの焦点距離、f2はその第2レンズ群3bの焦点距離、H1は前側主点位置、H2は後側主点位置、HHは主点間隔である。なお、同表において、数字の正、負は図2において、それを示す線の矢印方向を正としている。
【0029】
図4は、上記原理を実現した望遠撮影装置の構成を示している。
【0030】
図4において、符号10で示すものは、地上望遠鏡で、被写体(不図示)は、対物レンズ11、プリズム12、13により像面14に正立像として結像される。本発明では、望遠鏡は地上望遠鏡に限定されるものではなく、天体望遠鏡も用いることができる。その場合には、プリズム12、13が省略され、被写体は倒立像として像面14に結像される。
【0031】
この望遠鏡で得られる画像を写真として記録するには、たとえば一眼レフタイプのデジタルカメラなどのカメラ30がアタッチメント20を介して望遠鏡10に装着される。アタッチメント20は、第1レンズ群21(図2の第1レンズ群3aに対応)と光軸に沿って前後に移動可能な第2レンズ群22(図2の第2レンズ群3bに対応)からなるリレーレンズ系を内蔵し、像面14に結像された被写体の像を、カメラ30のCCDなどの撮像素子31に再結像する。
【0032】
なお、リレーレンズ系の第1レンズ群21(3a)あるいは第2レンズ群22(3b)は、単一のレンズとして図示されているが、複数のレンズとして構成される場合があり、本明細書では、レンズ群は、単一のレンズあるいは複数のレンズから構成される両方を含む意味に用いている。
【0033】
アタッチメント20の詳細な構造が図5に図示されている。なお、図5では、光軸Lより上部と下部で、第2レンズ群22の位置が光軸方向にずれて図示されているが、これは第2レンズ群22の光軸Lに沿った移動を理解しやすくするための製図上の便法である。
【0034】
図5において、第1レンズ群21は鏡筒23に固定されており、鏡筒23の前端部23aは望遠鏡10に装着される装着部となっている。また、鏡筒23の中央部には、ガイドピン24が係合するカム溝23bが螺旋状に形成されている。ガイドピン24の一端は、第2レンズ群22を支持する支持筒25に固定されており、その他端は、操作環26に形成された光軸Lに平行に延びる直進溝26aに係合している。
【0035】
操作環26は光軸Lを中心に鏡筒23に対して回転できるようになっており、操作環26を使用者が回転すると、ガイドピン24は、直進溝26aとカム溝23bによりその移動が規制されるために、光軸Lを中心に回転するとともに、カム溝23bの螺旋ピッチに応じた量だけ光軸Lに沿って移動し、それにより支持枠25並びにこれに固定された第2レンズ群22が光軸Lに沿って鏡筒23に対して回転しながら前後に移動する。
【0036】
また、鏡筒23のカメラ側には、カメラ30を装着するためのアダプタ27とそれに固定された回転環28が光軸Lを中心に鏡筒23に対して回転できるように取り付けられており、アダプタ27を介して取り付けられるカメラ30を鏡筒23に対して回転できるようになっている。それにより、たとえば、カメラ30を縦向きあるいは横向きにすることができる。固定ピン29は、鏡筒23と回転環28を固定するために用いられ、カメラ30の望遠鏡10に対する位置を安定化させる。
【0037】
カメラ30には、一眼レフタイプの場合、跳ね上げミラー32が設けられており、観察者は、固定プリズム33を介してファインダ34により被写体の像を確認でき、ピント調節機構(不図示)によりピントの合った像が確認できた場合に、シャッタを操作すると、跳ね上げミラー32が跳ね上がって被写体が撮像素子31に撮像される。なお、カメラ30がフィルムを使用する一眼レフカメラの場合には、撮像素子31に代わりフィルムが使用され、被写体がフィルムに撮影される。
【0038】
このような構成で、リレーレンズ系の第1レンズ群21、第2レンズ群22の焦点距離、主点として図3(B)に示した諸元を使用し、第1レンズ群21を固定し、第2レンズ群22を操作環26を操作して光軸Lに沿って移動させる。その移動量は図3(A)でD2あるいはbf’の変化となって現れる。像面(撮像素子31の撮像面)4は固定されているため、リレーレンズ系のピント変動量はD1の相違となって現れる。操作環26を操作して第2レンズ群22を光軸Lに沿って移動させることにより、図3(A)に示すように、1.35〜2.00倍の拡大画像を得ることができる。その場合、ピント変動量Δaは、最大で0.59mmであり、実用上問題とならない範囲に押えることができ、あたかもアタッチメント20がズームレンズになったかのような効果を得ることができる。従って、変倍しても、その変倍領域の両端で焦点位置を一致させることができるため、観察者は一度ピントを合わせておけば、変倍域の両端においてピントを再調整することなく被写体を異なる倍率で鮮明な像として撮影することができる。
【0039】
なお、移動させるレンズを第2レンズ群としたが、第2レンズ群を複数のレンズで構成する場合には、その複数のレンズ全体、あるいはその一部のレンズを移動させるようにしてもよい。また、第1レンズ群を複数のレンズで構成する場合には、その全部あるいは一部を固定するようにしてもよく、リレーレンズ系のうち少なくとも一つのレンズを光軸方向に移動させ、被写体を異なる倍率でかつ装着されたカメラ30の撮像素子31の撮像面に結像させるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の前提となる問題点を説明するための説明図である。
【図2】リレーレンズ系の原理構成を示す説明図である。
【図3】リレーレンズ系の諸元を示す表図である。
【図4】本発明の望遠撮影装置の構成を示す構成図である。
【図5】アタッチメントの詳細な構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0041】
3 リレーレンズ系
3a 第1レンズ群
3b 第2レンズ群
10 望遠鏡
11 対物レンズ
20 アタッチメント
21 第1レンズ群
22 第2レンズ群
23 鏡筒
24 ガイドピン
26 操作環
30 カメラ
31 撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを備えた望遠鏡にアタッチメントを介してカメラを着脱自在に装着し被写体を撮影する望遠撮影装置であって、
前記アタッチメント内部に対物レンズによる被写体の像をカメラの像面に結像させるレンズ系を設け、
前記レンズ系のうち少なくとも一つのレンズを光軸方向に移動させ、被写体を異なる倍率でかつ装着されたカメラの像面に結像させることを特徴とする望遠撮影装置。
【請求項2】
前記レンズ系は、対物レンズ側に位置する第1レンズ群とカメラ側に位置する第2レンズ群から構成され、第1レンズ群が固定され、第2レンズ群が光軸方向に移動されることを特徴とする請求項1に記載の望遠撮影装置。
【請求項3】
前記第1レンズ群が正の屈折力を有することを特徴とする請求項2に記載の望遠撮影装置。
【請求項4】
前記第2レンズ群が正の屈折力を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の望遠撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−139404(P2008−139404A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323431(P2006−323431)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】