説明

木材・竹材用染色剤

【課題】高光沢度、高い艶、非常に多彩な色彩、均一な染色性、高い耐光堅ろう度、優れた手触りなどを備えた染色木材・竹材を、常温で、かつ簡便に製造することができる、木材・竹材用染色剤および該染色木材・竹材の製造方法を提供すること。
【解決手段】酸化染料を含んでなる木材・竹材用染色剤、該染色剤を含有する第一部分と、酸化剤を含んでなる成分を含有する第二部分を含んでなる、木材・竹材染色用キット、および(1)該染色剤中の酸化染料を、酸化剤で酸化する工程と、(2)工程(1)で得られた反応生成物を、木材・竹材に接触させる工程を含む、染色木材・竹材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材・竹材用染色剤、該染色剤で染色された染色木材・竹材、および該染色木材・竹材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、木材の着色は、耐光性に優れたペンキなどの塗料(顔料およびバインダー)が用いられる。しかしながら、塗料による着色では、木材表面の艶、手触り、温かみ、木目の美しさなどの特徴が損なわれてしまう。そこで、こうした木材の特徴を損なうことなく木材を着色するため、木材を染料で染色することも行われている。
【0003】
従来、木材の染色は、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応染料、建染染料が用いられてきた(非特許文献1および2、特許文献1〜4)。また、木材を杉樹脂と水で煮沸して染色する方法(特許文献2)や、木粉由来のリグノセルロースとフェノール類から合成した着色剤を用いて木材を染色する方法(特許文献4)も知られている。しかしながら、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応染料を用いた方法では、室温程度の常温で短時間では切り出した木材をほとんど染色できず、染色に高温処理あるいは高圧処理を必要とするため多大なエネルギーや大規模な設備が必要であり、柱などの大きな建築材の染色は容易ではなかった。そして、長時間の処理を施さなければ、十分な耐光堅ろう度を有する染色木材を得ることはできなかった。また、特許文献1に述べられている立木染色法は、染色に数ヶ月から数年という長時間を要する。さらに、建染染料を用いた方法では、常温での処理が可能であるものの、むらのない均一な染色が困難で、また染色後に木材の光沢度が低下する。
他方、有機溶剤を用いた染料も用いられることがあるが(非特許文献3)、染色後乾燥時に有機溶剤ガスが発生するため、吸引や火災の危険から、大規模な染色には不向きである。
その他、木材以外にも竹材の染色には、木材と同様の染料が用いられているが、この場合にも木材と同様に高温や高圧下の長時間処理が必要であり、建築用の竹材の染色は容易ではなかった。
【0004】
一方、染料の一種として酸化染料が知られているが、これらは、主として酸化染毛剤の成分として使用されている(非特許文献4)。
【特許文献1】特開2005−246761号公報
【特許文献2】特開2001−205604号公報
【特許文献3】特開平8−244006号公報
【特許文献4】特開平8−188736号公報
【特許文献5】特開2003−94409号公報
【特許文献6】特開2001−192602号公報
【非特許文献1】森林総研研報、第367号、第1〜52頁、1994年
【非特許文献2】基太村洋子、色材、第52巻、第389〜398頁、1979年
【非特許文献3】大橋勝彦、木村哲、三重県工業技術センター研究報告、第11号、第88〜90頁、1987年
【非特許文献4】新井泰裕、最新ヘアカラー技術−特許にみる開発動向、第101〜180頁、フレグランスジャーナル社、2004年8月25日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高光沢度、高い艶、非常に多彩な色彩、均一な染色性、高い耐光堅ろう度、優れた手触りなどを備えた染色木材・竹材、該染色木材・竹材を、常温で、かつ簡便に製造することができる木材・竹材用染色剤、および該染色木材・竹材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化染料を酸化剤の存在下で反応させることで得られる水不溶性の発色物質によって、木材・竹材の特徴を損なうことなく木材・竹材を染色できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
〔1〕酸化染料を含んでなる木材・竹材用染色剤。
〔2〕上記〔1〕に記載の染色剤を含有する第一部分と、酸化剤を含んでなる成分を含有する第二部分を含んでなる、木材・竹材染色用キット。
〔3〕上記〔1〕に記載の染色剤で染色された、染色木材・竹材。
〔4〕(1)上記〔1〕に記載の染色剤中の酸化染料を、酸化剤で酸化する工程と、
(2)工程(1)で得られた反応生成物を、木材・竹材に接触させる工程
を含む、染色木材・竹材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多大なエネルギーや大規模な設備を必要とすることなく、常温で、かつ簡便に、木材・竹材表面の艶、手触り、温かみ、木目の美しさなどの特徴を維持したまま様々な色に染色された、高光沢度、非常に多彩な色彩、均一な染色性、高い耐光堅ろう度などを備えた染色木材・竹材を得ることができる。また、本発明によれば、柱などの大きな建築材や、壁、床、天井などに加工された状態の木材・竹材を染色することもできる。該染色木材・竹材は、和風のみならず、洋風建築物の内装材として、さらには、壁、床、天井に合わせた柱、梁、ワンポイントデコレーション材料としても使用することができる。さらに、該染色木材・竹材は、建築材料に限らず、木工、インテリア、木材工芸、家具、芸術、商用ディスプレイなどにも、木材・竹材の表面の美しさを生かした材料として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の木材・竹材用染色剤は、酸化染料を含んでなる。本発明における「酸化染料」は、酸化されて発色物質を形成する染料であって、自身の酸化により発色物質を生成する「染料前駆体(染料中間体、顕色物質、酸化ベースともよばれる)」と、自身では発色せず、染料前駆体との組合せにより酸化されて種々の色調をだす「カップラー(修正剤、モデファイファーともよばれる)」とに分類される。すなわち、本発明における酸化染料は、染料前駆体のみでも、染料前駆体とカップラーの混合物でもよい。
【0009】
酸化染料における染料前駆体としては、特に限定されず、酸化染料の分野において既知の化合物が挙げられる。例えば、以下の化合物が挙げられる。
(1)フェノール誘導体、例えば、p−アミノフェノール(PAP)、o−アミノフェノール(OAP)、o−アミノフェノール硫酸塩(OAPS)、p−メチルアミノフェノール(PMAP)、4−メチルアミノフェノール(4MAP)、2−アミノメチル−p−アミノフェノール塩酸塩(2AMPAPHCL)、4−アミノ−m−クレゾール(4AMC)、2,4−ジアミノフェノール塩酸塩(2,4DAPHCL)、3,3’−イミノジフェノール(3,3’IDP)など;
(2)フェニレンジアミン誘導体、例えば、p−フェニレンジアミン(PPD)、p−フェニレンジアミン塩酸塩(PPDHCL)、p−フェニレンジアミン硫酸塩(PPDS)、2,5−ジアミノトルエン(2,5DAT)、2,5−ジアミノトルエン硫酸塩(2,5DATS)、3,4−ジアミノトルエン硫酸塩(3,4DATS)、ニトロ−p−フェニレンジアミン(NPPD)、p−ニトロ−o−フェニレンジアミン(PNOPD)、N−フェニル−p−フェニレンジアミン(NPPPD)など;
(3)ピリジン誘導体、例えば、2,5−ジアミノピリジン(2,5DAPY)、2−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−5−アミノピリジン(2BHEA5APY)、2,3−ジアミノ−4−メチルピリジン(2,3DA4MPY)など。
これらの中でも、顕色能、耐光堅ろう度、湿潤堅ろう度、カップラーとの多様な組合せ能などの点から、好適には、フェノール誘導体(特に、p−アミノフェノール(PAP))、フェニレンジアミン誘導体(特に、p−フェニレンジアミン(PPD)、2,4−ジアミノフェノキシエタノール二塩酸(2,4−DAPEDC))、ピリジン誘導体(特に、2,5−ジアミノピリジン(2,5DAPY))が挙げられる。
なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤中の染料前駆体の使用量は、染色剤全体を100重量%として、好適には0.05〜2重量%、より好適には0.1〜1.2重量%であるが、この量は、用いるカップラーの種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0010】
酸化染料におけるカップラーとしては、特に限定されず、酸化染料の分野において既知の化合物が挙げられる。例えば、以下の化合物が挙げられる。
(1)アミノフェノール誘導体、例えば、5−アミノ−o−クレゾール(5AOC)、m−アミノフェノール(MAP)、5−(2−ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノール(52HEA2MP)など;
(2)フェニレンジアミン誘導体、例えば、4−ニトロ−o−フェニレンジアミン(4NOPD)、m−フェニレンジアミン(MPD)、2,4−ジアミノアニソール二塩酸塩(2,4DAANHCL)、2,4−ジアミノフェノキシエタノール塩酸塩(2,4DAPOEHCL)、p−ニトロ−m−フェニレンジアミン硫酸塩(PNMPPDS)など;
(3)フェノール誘導体その他、例えば、3−メトキシフェノール(3MOP)、レゾルシノール(ROL)、2−メチルレゾルシノール(2MROL)、カテコール(COL)、ピロガロール(PYOL)、1−ナフトール(1NPOL)、1,5−ナフタレンジオール(1,5NPDOL)など;
(4)ピリジン誘導体、例えば、2,6−ジアミノピリジン(2,6DAPY)など。
これらの中でも、顕色能、耐光堅ろう度および湿潤堅ろう度の向上性能、染料前駆体との多様な組み合せ能などの点から、好適には、アミノフェノール誘導体(特に、5−アミノ−o−クレゾール(5AOC))、フェニレンジアミン誘導体(特に、4−ニトロ−o−フェニレンジアミン(4NOPD)、m−フェニレンジアミン(MPD))、フェノール誘導体(特に、3−メトキシフェノール(3MOP)、レゾルシノール(ROL))、2,4−ジアミノフェノキシエタノール塩酸塩(2,4DAPOEHCL)、2,6−ジアミノピリジン(2,6DAPY)などが挙げられる。
なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤にカップラーを使用する場合、その使用量は、染色剤全体を100重量%として、好適には0.01〜1.5重量%、より好適には0.2〜1重量%であるが、この量は、用いる染料前駆体の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0011】
酸化染料には、色調を変えるために、カップラーに加えて、あるいは、カップラーに代えて、種々の色調調整剤を含ませることができる。色調調整剤としては、酸化染料の分野において既知の化合物が挙げられる。例えば、以下の化合物が挙げられる。
(1)ニトロ染料、例えば、2−アミノ−5−ニトロフェノール(2A5NP)、2−アミノ−4−ニトロフェノール(2A4NP)、2−アミノ−6−クロロ−4−ニトロフェノール(2A6C4NP)、ピクラミン酸ナトリウム(NaPA)など;
(2)蛍光染料、例えば、ローダミンB(RB)、フルオレセイン(FS)、エオシン(ES)など;
(3)アントラキノン染料、例えば、1−アミノ−4−メチルアミノアントラキノン(1A4MAAQ)、1,4−ジアミノアントラキノン(1,4DAAQ)など。
これらの中でも、顕色能、色彩の多様性などの点から、好適には、2−アミノ−5−ニトロフェノール(2A5NP)、ローダミンB(RB)が挙げられる。
なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤に色調調整剤を使用する場合、その使用量は、染色剤全体を100重量%として、好適には0.01〜1重量%であるが、この量は、用いる染料前駆体やカップラーの種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0012】
種々の色調を変えるため、染料前駆体と、カップラーおよび/または色調調整剤(以下、カップラーおよび色調調整剤をまとめて「染料助剤」ともいう)の種々の組合せを使用することができる。例えば以下の組合せが挙げられる(上記の略号を参照のこと)。
PAP+5AOC、PAP+MAP、PAP+52HEA2MP、PAP+4NOPD、PAP+MPD、PAP+2,4DAANHCL、PAP+2,4DAPOEHCL、PAP+PNMPPDS、PAP+3MOP、PAP+ROL、PAP+2MROL、PAP+COL、PAP+PYOL、PAP+1NPOL、PAP+1,5NPDOL、PAP+2,6DAPY、PAP+2,6DAPY+2,4DAPOEHCL+4NOPD+2,5DATS+ROL、PPD+5AOC、PPD+MAP、PPD+52HEA2MP、PPD+4NOPD、PPD+MPD、PPD+2,4DAANHCL、PPD+2,4DAPOEHCL、PPD+PNMPPDS、PPD+3MOP、PPD+ROL、PPD+2MROL、PPD+COL、PPD+PYOL、PPD+1NPOL、PPD+1,5NPDOL、PPD+2,6DAPY、PAP+2,5DATS+5AOC、PAP+2,5DATS+52HEA2MP、PAP+2,5DATS+4NOPD、PAP+2,5DATS+MPD、PAP+2,5DATS+2,4DAANHCL、PAP+2,5DATS+2,4DAPOEHCL、PAP+2,5DATS+PNMPPDS、PAP+2,5DATS+3MOP、PAP+2,5DATS+ROL+2A5NP、PAP+2,5DATS+2MROL、PAP+2,5DATS+COL、PAP+2,5DATS+PYOL、PAP+2,5DATS+1NPOL、PAP+2,5DATS+1,5NPDOL、PAP+2,5DATS+2,6DAPY、PAP+PPD+5AOC、PAP+PPD+MAP、PAP+PPD+52HEA2MP、PAP+PPD+4NOPD、PAP+PPD+MPD、PAP+PPD+2,4DAANHCL、PAP+PPD+2,4DAPOEHCL、PAP+PPD+PNMPPDS、PAP+PPD+3MOP、PAP+PPD+ROL、PAP+PPD+2MROL、PAP+PPD+COL、PAP+PPD+PYOL、PAP+PPD+1NPOL、PAP+PPD+1,5NPDOL、PAP+PPD+2,6DAPY、PAP+PPD+4NOPD+2,4DAANHCL、2,5DATS+ROL+2,6DAPY+2,4DAPOEHCL、PAP+FS、PAP+ES、PAP+RBなど。この他にも調色のために様々な組み合わせが可能である。
これらの中でも、木材・竹材として好まれる色調などの点から、好適には、以下の組み合わせが挙げられる(上記の略号を参照のこと)。
(1)PAP+5AOC、
(2)PAP+4NOPD、
(3)PAP+MPD、
(4)PPD+3MOP、
(5)PPD+2,4DAANHCL、
(6)PAP+2,5DATS+ROL+2A5NP、
(7)2,5DATS+ROL+2,6DAPY+2,4DAPOEHCL、
(8)PAP+RB。
また、染料前駆体と染料助剤を組み合わせて使用する場合、その使用割合は、染色によって得ようとする色調や染料前駆体と染料助剤の溶解度に応じて任意に設定できる。また、この割合は、用いる染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0013】
さらに、本発明においては、染料前駆体および染料助剤として、o−トルイジン、m−トルイジン、トルイジン誘導体、ハロゲン化トルイジン、2−アミノ−1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エタノール、1−メトキシ−2,4−ジアミノベンゼン、アミノピリジン誘導体、アニリン誘導体、アミノジヒドロキシアントラキノン誘導体、ジヒドロキシアントラキノン誘導体、アミノニトロフェノール誘導体、ローダミン誘導体、フルオレセイン誘導体などを使用することもできる。
【0014】
以上のように、本発明においては、多種多様な染料前駆体および染料助剤を使用することができるので、非常に多彩な色素を生みだすことができる。したがって、木材・竹材を非常に多彩な色に染めることができる。また、本発明においては、染料前駆体および染料助剤を、例えば、分子量の大きな誘導体から適宜選択することによって、耐光堅ろう度に優れた染料とすることもできる。
【0015】
本発明の染色剤は、酸化剤との反応によって十分な濃度の染料を生成して木材・竹材を着色するための染料前駆体(およびカップラー)、必要に応じて色調調整剤を含有するが、これらは木材・竹材の表面から内部に十分かつ均一に浸透するような性質を有することが好ましい。このため、これらは水に易溶性であって、木材・竹材組織に浸透できるように分子が十分に小さいことが好ましい。また、これらは、保存中に不溶化して沈殿しないことが望ましい。
【0016】
また、本発明の染色剤は、酸化剤が酸化反応を進行させるために、塩基性、例えばpH9〜12、好適にはpH約10であることが好ましい。したがって、本発明の染色剤は、アルカリ剤(塩基)を含有することが好ましい。アルカリ剤としては、例えば、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、モノエタノールアミンなどが挙げられる。これらの中でも、木材・竹材への残留性がないという点から、好適には、アンモニア水(特に、アンモニア濃度が25〜30重量%のもの)が挙げられる。なお、これらのアルカリ剤は、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤中のアルカリ剤の添加量は、染色剤全体を100重量%として、好適には2〜10重量%、より好適には約7重量%であるが、この添加量は、所望のpH、用いる染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0017】
本発明の染色剤中には、さらに、酸化染料、木材・竹材の染色分野において既知の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、増粘剤、酸化防止剤、金属キレート剤などが挙げられる。
【0018】
刷毛などを用いた塗布によって、染色を行なう場合、均一な染色を達成するとともに染色操作を容易にするため、染色剤の粘性を高める必要がある。そのような作用を有する増粘剤として、界面活性剤を本発明の染色剤中に用いることができる。界面活性剤としては、例えば、ノニオン性のポリオキシエチレン(n)アルキルエーテル(n=2−40、アルキル鎖長はC=12−22)、アニオン性のアルキル硫酸ナトリウム(アルキル鎖長はC=12−22)、カチオン性の塩化アルキルトリメチルアンモニウム(アルキル鎖長はC=12−22)、塩化アルキルピリジニウム(アルキル鎖長はC=12−16)、その他、ジェミニ型界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン誘導体、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類、アクリル酸ナトリウムなどの高分子乳化剤などが挙げられる。
これらの中でも、最適粘性と発色性の点から、好適には、ポリオキシエチレン(5.5)ヘキサデシルエーテル、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが挙げられる。なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤中の界面活性剤の添加量は、染色剤全体を100重量%として、好適には0.005〜20重量%、より好適には0.05〜10重量%であるが、この添加量は、用いる染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0019】
本発明の染色剤には、反応まで酸化染料(染料前駆体およびカップラー)を安定な状態で保ち、長期保存を可能にするため、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイト)、亜硫酸ナトリウム、チオグリコール酸、ハイドロキノン、2−メチルハイドロキノン、尿素などの酸化防止剤を添加することができる。好適には、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウムが挙げられる。なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤中の酸化防止剤の添加量は、本発明の染色剤全体を100重量%として、好適には0.1〜0.7重量%であるが、この添加量は、用いる染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0020】
本発明の染色剤には、保存中の染料前駆体などの酸化や沈殿を防止するために、金属キレート剤を添加することもできる。染色剤中に不純物として金属が混入している場合、該金属は、染料前駆体の酸化反応を促進したり、染料前駆体やカップラーと錯体をつくって会合沈殿したりする。金属キレート剤を添加することで、これを防止することができる。
金属キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどが挙げられる。好適には、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムが挙げられる。なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤中の金属キレート剤の添加量は、本発明の染色剤全体を100重量%として、好適には0.05〜0.3重量%であるが、この添加量は、用いる染料前駆体やカップラーの種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0021】
本発明の染色剤は、通常、上記の各成分(染料前駆体など)を溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液である。使用できる溶媒としては、例えば、水、エタノール、アセトンなどが挙げられ、好適には水が挙げられる。なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。例えば、本発明の染色剤中に、水は単独で使用してもよく、それ以外の溶媒は水と併用して二種以上の混合物として使用してもよい。
また、本発明の染色剤中の溶媒の使用量は、通常、本発明の染色剤全体を100重量%として、65.5〜97.9重量%であるが、この添加量は、用いる染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0022】
本発明の染色剤は、好適には、染色剤全体を100重量%として、
(1)染料前駆体:0.05〜2重量%
(2)カップラー:0.01〜1.5重量%
(3)色調調整剤:0.01〜1重量%
(4)アルカリ剤(28重量%のアンモニア水として):2〜10重量%
(5)界面活性剤:0.005〜20重量%
(6)溶媒:65.5〜97.9重量%
を含んでなる。
さらに好適には、染色剤全体を100重量%として、
(1)染料前駆体:0.1〜1.2重量%
(2)カップラー:0.2〜1重量%
(3)色調調整剤:0.01〜1重量%
(4)アルカリ剤(28重量%のアンモニア水として):7重量%
(5)界面活性剤:0.05〜10重量%
(6)溶媒:79.8〜92.6重量%
を含んでなる。
【0023】
本発明の染色剤中の酸化染料は、酸化されて発色物質を形成する。すなわち、本発明の染色剤を使用して木材・竹材を染色する場合、本発明の染色剤中の酸化染料を酸化剤によって酸化して発色物質を形成させる必要がある。
本発明における「酸化剤」は、酸化染料を酸化して発色物質を形成させることができるものであれば特に限定されず、酸化染料の分野において既知のものが挙げられる。該酸化剤としては、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ラッカーゼ、過酸化水素とカタラーゼ、過酸化水素とウリカーゼ、過酸化水素とワサビダイコンパーオキシダーゼなどが挙げられ、好適には、過酸化水素が挙げられる。なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
【0024】
本発明の染色剤を使用することで、高光沢度、高い艶、非常に多彩な色彩、均一な染色性、高い耐光堅ろう度、優れた手触りなどを備えた染色木材・竹材を製造することができる。
したがって、(1)本発明の染色剤中の酸化染料を、酸化剤で酸化する工程と、
(2)工程(1)で得られた反応生成物を、木材・竹材に接触させる工程
を含む染色木材・竹材の製造方法(木材・竹材の染色方法)も本発明により提供される。
【0025】
本発明の染色剤中の酸化染料(染料前駆体およびカップラー)を酸化剤で酸化することで、これらは互いに反応して(場合によっては色調調整剤も反応して)、水に不溶性の発色物質を形成する。そして、得られた反応生成物を木材・竹材に接触させることで、発色物質が木材・竹材組織に定着し、染色が行われる。
【0026】
本発明の染色方法は、通常、(1)本発明の染色剤(第一成分)と、上記酸化剤を含んでなる第二成分を、使用直前に混合し、(2)得られた混合物(染色液)を、酸化染料の分野において既知の方法、例えば、塗布、浸漬、噴霧などの方法(好適には、塗布および浸漬法)を用いて木材・竹材に接触させることを含む。さらに、必要に応じて、染色木材・竹材の洗浄工程(通常、水洗)、次いで、乾燥(例えば、風乾)を含む。洗浄および乾燥方法は、特に限定されず、木材・竹材の染色分野、酸化染料の分野に既知の方法により行うことができる。
したがって、本発明の染色方法は、例えば、(1)第一成分と第二成分を混合し、(2)混合液(染色液)に木材・竹材を浸漬、または、混合液を木材・竹材に塗布し、(3)一定時間後に染色木材・竹材を洗浄することを含む。
また、本発明の染色方法において、第一成分と第二成分の混合物(染色液)を木材・竹材に適用することは必ずしも必要でなく、まず、いずれか一方の成分のみを木材・竹材に接触させた後、他方の成分を接触させることで、発色物質を生成させ、木材・竹材に定着させることもできる。
したがって、本発明の染色方法は、例えば、(1)第一成分に木材・竹材を浸漬、または、これを木材・竹材に塗布し、(2)一定時間後に木材・竹材を第二成分に浸漬、または、これを塗布し、(3)染色木材・竹材を洗浄することにより染色を行うことを含む。
【0027】
上記第二成分に含まれる上記酸化剤の量は、染色剤中の酸化染料の種類および量、色調調整剤の種類および量などによって適宜変更することができるが、通常、酸化染料および/または色調調整剤1molに対して、酸化剤50〜120mol、好適には60〜100molとなる量を使用することができる。例えば、酸化染料としてp−フェニレンジアミンを1kg使用する場合、30重量%過酸化水素水を27.8〜67.3kg使用することができる。
【0028】
上記第二成分には、酸化剤に加えて、酸化染料、木材・竹材の染色分野において既知の添加剤を含有させることができる。このような添加剤として、例えば、pH緩衝剤(調整剤)、金属キレート剤、増粘剤などが挙げられる。
【0029】
上記第二成分においては、保存中の酸化剤の分解を抑制するため、そのpHは4〜7であることが好ましく、pH5〜6であることがより好ましい。そのために、pH緩衝剤(調整剤)を添加することができる。pH緩衝剤の例としては、クエン酸ナトリウム/クエン酸、リン酸水素二ナトリウム/リン酸二水素一ナトリウム、乳酸ナトリウム/乳酸などが挙げられる。好適にはクエン酸ナトリウム/クエン酸が挙げられる。なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、上記第二成分中のpH緩衝剤の添加量は、通常、第二成分全体を100重量%として、2〜20重量%であるが、この添加量は、所望のpH、用いる酸化剤、染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0030】
上記第二成分には、酸化剤が保存中に反応分解しないように、金属キレート剤を添加することもできる。これは不純物として混入している金属が触媒として働き、酸化反応を促進することを防止するためである。使用できる金属キレート剤として、上記本発明の染色剤において説明したものが挙げられ、例えば、エチレンジアミン四酢酸・エチレンジアミン四酢酸ナトリウム・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどが挙げられる。好適には、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムが挙げられる。なお、これらは、本発明において、単独で使用してもよく、これらの二種以上の混合物として使用してもよい。
また、上記第二成分中の金属キレート剤の添加量は、通常、第二成分全体を100重量%として、0.05〜0.3重量%であるが、この添加量は、用いる酸化剤、染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0031】
均一の染色を達成するとともに染色操作を容易にするため、上記第二成分中に増粘剤として界面活性剤を添加することができる。界面活性剤の具体例および添加量は、上記本発明の染色剤において説明したものと同様である。
【0032】
上記第二成分は、通常、上記の各成分(酸化剤など)を溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液である。使用できる溶媒としては、例えば、水が挙げられる。
また、上記第二成分中の溶媒の使用量は、通常、第二成分全体を100重量%として、60〜90重量%であるが、この添加量は、用いる酸化剤、染料前駆体や染料助剤の種類、染色する木材や竹材の種類、材料表面の凹凸の程度、染色液の材料への浸透性、染色の温度や湿度、発色性の調節などのために適宜変更することができる。
【0033】
上記第二成分は、好適には、第二成分全体を100重量%として、
(1)酸化剤(30重量%過酸化水素水として):10〜20重量%
(2)界面活性剤:0.005〜20重量%
(3)溶媒:60〜90重量%
を含んでなる。
より好適には、第二成分全体を100重量%として、
(1)酸化剤(30重量%過酸化水素水として):20重量%
(2)界面活性剤:0.05〜10重量%
(3)溶媒:70〜80重量%
を含んでなる。
【0034】
上記染色液(または一方の成分)を、塗布によって木材・竹材に適用する場合、染色液(または一方の成分、通常、第一成分)の粘度は、好適には0.01〜1Pa・s、より好適には0.02〜0.2Pa・sである。これは、上記のように、増粘剤(例えば、界面活性剤)を使用することにより調整することができる。
【0035】
本発明の染色方法による染色(発色物質の生成および該発色物質の木材・竹材への定着)の際の温度は、特に限定されないが、好適には常温、すなわち、15から35℃(好適には25〜30℃)である。本発明における染色は、常温ですることができるので、多大なエネルギーや大規模な設備を不要とすることができる。
また、本発明の染色方法による染色(発色物質の生成および該発色物質の木材・竹材への定着)に要する合計の時間は、特に限定されないが、通常、5〜120分、好適には25〜40分である。また、発色物質の生成時間は、通常、2秒〜180分であり、該発色物質の木材・竹材への定着時間は、通常、5〜180分である。
さらに、本発明の染色方法による染色には特別な装置を要しない。すなわち、(1)第一成分と第二成分、(2)第一成分と第二成分を混合する容器、(3)浸漬法においては、木材・竹材を浸漬する容器、(4)塗布法においては、染色液を塗布する刷毛など、(5)染色後の木材・竹材を洗浄する水があれば染色を実施できる。
【0036】
また、本発明の染色方法において、竹材などの種類で染色し難いものに効果的に着色する場合には、染色前に表面をサンドペーパ等で処理した後に染色することもできる。さらに、染色したものの光沢度を向上させる場合には、染色後に布・紙などで磨きをかけることもできる。
また、部分的に染色したくない場所に、防水粘着テープなどを添付してマスキングを施したり、または、蝋を塗布し、次いで、染色後にマスキングを取り去ったり、蝋を溶去したりして、部分染色をすることもできる。
なお、すでに染色した部分の色を取る場合には、過酸化水素水などからなる酸化剤による処理が適用可能で、これにより抜染することができる。
【0037】
また、本発明は、上記方法を実施することを可能にする木材・竹材染色用キットを提供する。このような染色用キットは、分離した少なくとも二つの部分(例えば、区画、室または容器、好適には容器)を有し、第一部分には、本発明の染色剤を含有し、第二部分には、酸化剤を含んでなる成分(例えば、上記方法における第二成分)を含有する。
【0038】
本発明の染色剤および染色木材・竹材の製造方法において対象となる木材・竹材は、特に限定されず、各種の樹木から得られる木材一般、例えば、木片、丸太、磨き丸太、板材、生木、木工製品、無垢木材製品、建築物内装木材、建築物外装木材、文房具、玩具、自動車や船舶などの交通運搬機の内外装木材、合板、竹材、無垢竹製品、内外装竹材などが挙げられる。また、本発明の染色剤を使用することで、木材・竹材表面の艶、手触り、温かみ、木目の美しさなどの特徴を維持させつつ染色できるので、好適には、そうした特徴が利用される木材・竹材、例えば、スギ(例えば、北山杉:学名クリプトメリア・ジャポニカ(Cryptomeria japonica))、ヒノキ、ラワン、マツ、キリ、トウヒ、モミ、オーク、トネリコ、ブナ、カエデ、クルミの木、ナシの木、チーク、マホガニー、クリの木、カバの木、カラマツ、ハシバミ、リンデン、ヤナギ、ポプラ、ニレ、ヨーロッパアカマツ、プラタナス、ポプラ、マダケ、モウソウチク、ハチク、シノチク、キッコウチク、フジツルなどが挙げられる。
【0039】
本発明の染色剤で染色された染色木材・竹材は、木材・竹材表面の艶、手触り、温かみ、木目の美しさなどの特徴を維持したまま様々な色に染色され、その色むらが極めて少なく、かつ、優れた耐光性を備えている。
本発明の染色木材・竹材は、好適には、以下の特徴を有する。
(1)光沢度が高く艶がある。
光沢度が染色前と染色後で変化しない。例えば、杉磨き丸太の場合、染色前の光沢度は10であるが、染色後の光沢度も10である(実施例1参照)。
(2)色むらが小さい。
例えば、後述のように、染色木材の色を同一木材中の10カ所で測定し、L表色系で数値化すると、杉磨き丸太の場合、色度Δa(赤〜緑)で3、Δb(黄〜青)で4、彩度3、明度6のばらつきしかない(実施例3参照)。これに対して、同一条件下、直接染料で染色した木材の場合、Δaで6、Δbで5、彩度3、明度6のばらつきとなる(比較例1参照)。
(3)多彩な色に染色できる。
例えば、後述する実施例では、色度Δa(赤〜緑)で55、Δb(黄〜青)で50の広い範囲の色の木材が得られた(実施例1参照)。
(4)十分な耐光堅ろう度を示す。
例えば、赤橙色に染色した木材に、蛍光灯の光を照射した場合、加速度試験下で約5.5年間に想到する期間が経過しても、染色木材の色は、色度Δa(赤〜緑)で約7、Δb(黄〜青)で約10の変化にとどまる(実施例4参照)。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
本実施例で使用した染色木材・竹材の評価方法を以下に示す。
〔評価方法〕
(1)色彩
(i)分光測色計
染色した試料木片の色を数値で表すため、以下の分光測色計を用いた。
・測色計:ミノルタ分光測色計CM−2600d
・照明径:6mm
・測定径:3mm
・測定光:パルスキセノンランプ(400〜700nm)
・測定モード:SCI
・測定値:L
(ii)測色条件
木材試料表面の平らで色むらのない部分を3回測色し、平均値をとった。
(2)光沢度
光沢度の測定は、HORIBA、IG−331光沢計を用いて、測定角度を60°に設定して行った。光沢度とは、表面に光を当てたときの反射の程度を表す数値である。屈折率1.567のガラス板表面の光沢度を光沢の基準として100と定めている。
(3)色むら
染色木材(丸太)の表面の10カ所の点の色を測色した。10カ所の点は、図2に示すように、円柱木材の同一円周に沿って基準点(丸太木材の高さ方向において、両切口間の長さの中間点を指す。この中間点を結んだ高さ方向に垂直な円周上の任意の点を基準点として選択する。)から60°ごとに、基準点を含めて6点と、基準点から高さ方向に2点(基準点を含む高さ方向上で、両切口から5mm程度の点)、さらにその2点から円周に沿って180°の位置で2点と選定した。また、測色条件は、上記(1)と同様とした。
(4)耐光堅ろう度
25℃に保った暗室内で、昼白色蛍光灯を5400lxの照度で照射し、一定時間毎に試料をミノルタ分光測色計CM−2600dで測色した。一般的な室内において1日平均338lxの照度で6時間、蛍光灯が照射されていると仮定すると、本実験で1時間の照射は、2.7日分に相当する。
【0041】
〔実施例1〕
以下の組成を有する第一剤および第二剤を使用し、以下の操作にしたがって北山杉磨き丸太木片(大きさ:直径48mm×高さ20mmの円柱)を染色した。使用した染料前駆体と染料助剤(カップラーおよび色調調整剤)を表1に示す。なお、表1には各染料前駆体と染料助剤のモル分子量も併せて示す。染料前駆体および染料助剤の第一剤中の使用量は、標準的には約0.03mol・l−1であり、これを基に算出すると、例えば、PAPの場合は第一剤中に0.30重量%となる。したがって、0.03mol・l−1の質量モル濃度と、表1に示したモル分子量と、第一剤全体の量とから、各染料溶液を作製する際の染料前駆体および染料助剤の組成(使用量)を算出・決定することができる。
(第一剤)
染料前駆体(PAPの場合):0.30重量%(0.027mol・l−1
染料助剤(5AOCの場合):0.34重量%(0.027mol・l−1
アンモニア水(28重量%):7.1重量%
水:92.26重量%
(第二剤)
過酸化水素水(30重量%):19.98重量%
水:80.02重量%
【0042】
【表1】

【0043】
〔操作〕
(1)第一剤(0.3リットル)と第二剤(0.3リットル)を混合して染料溶液を調製する(温度:35℃、時間:10秒以内)。
(2)工程(1)で得られた染料溶液に北山杉磨き丸太木片を浸漬し、溶液をかき混ぜ続ける(温度:35℃、時間:40分)。
(3)染色した木片を水洗([蒸留水量:1リットル、温度:50℃、時間:20分]の工程を3回)し、風乾(温度:30℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
【0044】
上記のようにして得られた染色木片を、肉眼で観察すると、多種多様な色彩であった(表2)。また、染色前の木材および染色木材の光沢度を、上記のように測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から、15種類の組み合わせで多少の違いがあるものの、原木の光沢度(10)と比較して、本組成物で染色しても、木材特有の光沢や艶が失われていないことが明らかとなった。
また、得られた染色木片を、上記のように分光測色計(ミノルタCM2600d)を用いて測色してL表色系で評価した。その結果を図1に示す。図1から、12種類の組み合わせで、a値が0〜55で、b値が−10〜40と広い範囲にわたり、多彩な色彩が得られることが明らかとなった。
【0047】
〔実施例2〕
以下の組成を有する第一剤および第二剤を混合して得た染色溶液を用いて、以下の操作にしたがって建築用建材(北山杉長さ約3m)を複数回に渡って染色した。
(第一剤)
染料前駆体(PAP):0.24重量%
染料助剤(5AOC):0.27重量%
アンモニア水(28重量%):5.75重量%
界面活性剤(ポリオキシエチレン(5.5)ヘキサデシルエーテル):10.47重量%
水:83.27重量%
(第二剤)
過酸化水素水(30重量%):19.98重量%
水:80.02重量%
〔操作〕
(1)第一剤(0.3リットル)と第二剤(0.3リットル)を混合して染料溶液を調製する(温度:25℃、時間:10秒以内)。
(2)工程(1)で得られた染料溶液を北山杉磨き丸太木片に塗布する(温度:室温25℃程度)。5分後に、同様にして工程(1)で得られた染料溶液を塗布する。これを繰り返す。
(3)最終塗布してから5分後に染色した木片を水洗(水道水:流水で十分多量、温度:18℃程度、洗浄程度:肉眼で判断して流水に色がつかなくなるまで)し、風乾(温度:25℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
【0048】
このようにして得られた染色建築用建材を評価した。重ね塗り回数に対するL、a、b、Cの変化の結果を図5に示す。図5から、2回以上重ね塗りすることによって、十分な濃度の色彩が得られることが明らかとなった。
【0049】
〔実施例3〕
以下の組成を有する第一剤および第二剤を使用し、以下の操作にしたがって北山杉磨き丸太木片(大きさ:直径48mm×高さ20mmの円柱)を染色した。
(第一剤)
染料前駆体(PAP):0.24重量%
染料助剤(5AOC):0.27重量%
アンモニア水(28重量%):5.75重量%
界面活性剤(ポリオキシエチレン(5.5)ヘキサデシルエーテル):10.47重量%
水:83.27重量%
(第二剤)
過酸化水素水(30重量%):19.98重量%
水:80.02重量%
〔操作〕
(1)第一剤(0.3リットル)と第二剤(0.3リットル)を混合して染料溶液を調製する(温度:30℃、時間:10秒以内)。
(2)工程(1)で得られた染料溶液を北山杉磨き丸太木片に塗布する(温度:室温30℃程度)。5分後に、同様にして工程(1)で得られた染料溶液を塗布する。
(3)2度目の塗布の5分後に染色した木片を水洗(水道水:流水で十分多量、温度:18℃程度、洗浄程度:肉眼で判断して流水に色がつかなくなるまで)し、風乾(温度:30℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
【0050】
〔比較例1〕
比較例として、以下の直接染料〔比較染料1〕と反応染料〔比較染料2〕を用いて北山杉磨き丸太木片(大きさ:直径48mm×高さ20mmの円柱)を染色した。
〔染料溶液〕
直接染料;C. I. Direct Red 81:0.15重量%
水:99.85重量%
〔操作〕
(1)染料溶液(0.2リットル)を調製する(温度:30℃)。
(2)工程(1)で得られた染料溶液に北山杉磨き丸太木片を浸漬する(温度:室温30℃程度、時間40分)。
(3)染色した木片を水洗([蒸留水量:1リットル、温度:30℃、時間:20分]の工程を3回)し、風乾(温度:30℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
【0051】
〔比較例2〕
比較例として、以下の反応染料を用いて北山杉磨き丸太木片(大きさ:直径48mm×高さ20mmの円柱)を染色した。
〔染料溶液〕
反応染料;ハンノールL(染料原液):0.66重量%
水:99.34重量%
反応固着剤;フィキサーテン:原液使用
〔操作〕
(1)染料を水で希釈し、染料溶液(0.2リットル)を調製する(温度:30℃)。
(2)工程(1)で得られた染料溶液を北山杉磨き丸太木片に塗布する(温度:室温30℃程度)。5分後に、同様にして工程(1)で得られた染料溶液を塗布する。
(3)(2)の5分後に木片に反応固着剤を塗布する。
(4)5分後に染色した木片を水洗(水道水:流水で十分多量、温度:18℃程度、洗浄程度:肉眼で判断して流水に色がつかなくなるまで)し、風乾(温度:30℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
【0052】
〔色むらの測定〕
実施例3、比較例1および2で得られた染色木材(丸太)の表面の10カ所の色を上記のように測色し、色むらを比較した。その結果を図3に示す。図3から、酸化染料(実施例3)で染色した木材の色度・色調の範囲は、直接染料(比較例1)や反応染料(比較例2)で染色したものより狭く、色むらが少ないことが明らかとなった。
【0053】
〔実施例4〕
以下の組成を有する第一剤および第二剤を使用し、以下の操作にしたがって北山杉磨き丸太木片(大きさ:直径48mm×高さ20mmの円柱)を染色した。
(第一剤)
染料前駆体1(PAP):0.30重量%
染料前駆体2(PPD):0.059重量%
染料助剤1(4NOPD):0.42重量%
染料助剤2(2,4DAANHCL):0.12重量%
アンモニア水(28重量%):7.1重量%
水:92重量%
(第二剤)
過酸化水素水(30重量%):19.98重量%
水:80.02重量%
〔操作〕
(1)第一剤(0.3リットル)と第二剤(0.3リットル)を混合して染料溶液を調製する(温度:35℃、時間:10秒以内)。
(2)工程(1)で得られた染料溶液に北山杉磨き丸太木片を浸漬し、溶液をかき混ぜ続ける(温度:35℃、時間:40分)。
(3)染色した木片を水洗([蒸留水量:1リットル、温度:50℃、時間:20分]の工程を3回)し、風乾(温度:30℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
【0054】
以上のようにして得られた染色木材の耐光性を、上記のように耐光堅ろう度を測定することにより評価した。一定時間ごとに測色した結果を図4に示す。
上記の耐光堅ろう度試験での1時間の照射は、一般的な室内での蛍光灯照射の2.7日分に相当する。したがって、図4では約2000日分までの照射を行なったことに相当する。図4から、本組成物で染色した北山杉磨き丸太の色は、一般的な蛍光灯(昼白色光)で照射した室内で約5.5年間(約2000日)経ってもほとんど色が変化しないことが明らかとなった。
【0055】
〔実施例5〕
以下の組成を有する第一剤および第二剤からなる木材・竹材染色用組成物を用いて、以下の操作にしたがって北山杉磨き丸太木片(大きさ:直径48mm×高さ20mmの円柱)を染色した。
(第一剤)
染料前駆体(PAP):0.30重量%
染料助剤(5AOC):0.34重量%
アンモニア水(28重量%):7.1重量%
水:92.26重量%
(第二剤)
過酸化水素水(30重量%):19.98重量%
水:80.02重量%
【0056】
〔操作〕
(1)第一剤(0.3リットル)に北山杉磨き丸太木片を浸漬し、溶液をかき混ぜ続ける(温度:25℃、時間:40分)。
(2)第一剤から木片を取り出し、表面に付着している溶液を拭い去った後に、第二剤(0.3リットル)に浸漬する(温度:25℃)。
(3)浸漬5分後に染色した木片を第二剤溶液から取り出し、水洗([蒸留水量:1リットル、温度:50℃、時間:20分]の工程を3回)後、風乾(温度:30℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
【0057】
上記のようにして得られた染色木片の色彩を、上記のように分光測色計(ミノルタCM2600d)を用いてL表色系で評価した。その結果、a:23.5、b:26.5、C:35.4、L:61.9となり、実施例2のPAP−5AOCの系で染色した結果(a:23.4、b:23.9、C:35.2、L:60.3)と比較すると、ほぼ同じ色彩が得られたことがわかる。
したがって、第一剤と第二剤を別々に木材に適用しても染色可能といえる。この方法では、染色液中での第一剤と第二剤の反応が起こらないため、第一剤と第二剤をより長く持続的に使用することができるといえる。
【0058】
〔実施例6〕
以下の組成を有する第一剤および第二剤を用いて、以下の操作にしたがって竹材片(大きさ:直径70mm×高さ36mmの円柱)を染色した。
(第一剤)
染料前駆体(PPD):0.30重量%
染料助剤(2,4DAANHCL):0.58重量%
アンモニア水(28重量%):7.1重量%
水:92.02重量%
(第二剤)
過酸化水素水(30重量%):19.98重量%
水:80.02重量%
〔操作〕
(1)第一剤(0.3リットル)と第二剤(0.3リットル)を混合して染料溶液を調製する(温度:25℃、時間:10秒以内)。
(2)工程(1)で得られた染料溶液に竹材片を浸漬し、溶液をかき混ぜ続ける(温度:25℃、時間:40分)。
(3)染色した竹材片を水洗([蒸留水量:1リットル、温度:25℃、時間:20分]の工程を3回)し、風乾(温度:25℃、湿度:40〜50%、時間:24時間)する。
上記のようにして得られた竹材片は内側・小口が濃紺に染色される。外側は磨きや削りを施した部分が濃紺に染色される。したがって、竹材外側表面に研磨加工などを施すことによって、均一に染色したり、模様を描いたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、実施例1に記載の各染色溶液で染色した北山杉を測色した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、染色した木材表面の10ヶ所の測色点の選定方法を示す図である。
【図3】図3Aは、酸化染料(実施例3)で染色した木材表面の点10ヶ所の測色結果を示すグラフである。図3Bは、直接染料(比較例1)で染色した木材表面の点10ヶ所の測色結果を示すグラフである。図3Cは、反応性染料(比較例2)で染色した木材表面の点10ヶ所の測色結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例4に記載のPAP+PPD+4NOPD+2,4−DAA系染色溶液で染色した染色木材の光照射時間とL、a、b、Cとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例2に記載のPAP+5AOC系染色溶液で染色した染色木材の、染色液の重ね塗り回数とL、a、b、Cとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化染料を含んでなる木材・竹材用染色剤。
【請求項2】
請求項1に記載の染色剤を含有する第一部分と、酸化剤を含んでなる成分を含有する第二部分を含んでなる、木材・竹材染色用キット。
【請求項3】
請求項1に記載の染色剤で染色された、染色木材・竹材。
【請求項4】
(1)請求項1に記載の染色剤中の酸化染料を、酸化剤で酸化する工程と、
(2)工程(1)で得られた反応生成物を、木材・竹材に接触させる工程
を含む、染色木材・竹材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−313828(P2007−313828A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148159(P2006−148159)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月14日、京都工芸繊維大学工芸学部物質工学科発行の「平成17年度卒業研究発表要旨集」(第52頁)に発表し、平成18年2月20日、京都工芸繊維大学主催の「京都工芸繊維大学工芸学部物質工学科 平成17年度卒業研究発表会」において文書をもって発表した。また、平成18年5月1日、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科物質工学部門図書室にて閲覧公開された「平成17年度卒業研究論文論文集V」(第3〜47頁)に発表した。
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(506182077)株式会社山商 (1)
【Fターム(参考)】