説明

杭頭接合構造

【課題】杭頭部と構造物側との接合構造として必要とされる接合強度を維持しながら、杭頭アンカーの埋設長を縮小して杭頭部と構造物側との接合部のコンパクト化を図り、周囲の構造物側の配筋やアンカーボルトなどとの干渉を軽減し、構造物側の設計の自由度の拡大も可能な、杭頭部と構造物側との接合構造を提供する。
【解決手段】杭頭部に設置する杭頭アンカー4の埋設長を、その杭頭アンカー4に設けた定着板5を中心に発生するコンクリートのコーン状破壊Sに基づく定着耐力が該杭頭アンカー4の引張耐力より小さくなるように短く設定するとともに、少なくとも杭頭アンカー4の外周側に縦筋8と横筋9からなる籠状鉄筋7を設置することにより、杭頭アンカー4の定着耐力が杭頭アンカー4の引張耐力以上となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート杭等の杭頭部と構造物側との接合構造に関する。より詳しくは、杭頭部に設置される杭頭アンカーの長さを縮小して、杭頭部と構造物側との接合部のコンパクト化を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
この種の杭頭部と構造物側との接合構造に関し、コンクリート杭の上端部に固着される鋼板からなる端板に対して異形鉄筋等からなる所要本数の杭頭アンカーを立設し、それらの杭頭アンカーの周囲に打設される構造物側のコンクリートとの付着力によって杭頭部と構造物側とを接合する接合構造が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。そして、この従来技術の場合には、異形鉄筋とコンクリートとの接着強度を確保するため、その異形鉄筋からなる杭頭アンカーの埋設長は、一般的に鉄筋の呼び径の40倍程度必要とされていた。
【特許文献1】特開平11−36325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、従来の杭頭部と構造物側との接合構造によると、杭頭アンカーの埋設長として鉄筋の呼び径の40倍程度の長さが必要とされ、例えば呼び径が25mmのD25の鉄筋の場合には1000mm、呼び径が38mmのD38の鉄筋の場合では1520mm程度の埋設長にもなり、その接合部が周囲に設置される構造物側の、例えばフーチングや柱脚部の鉄筋あるいはアンカーボルトなどと干渉して作業の大きな障害となるだけでなく、延いては構造物側の設計の自由度も制約するといった厄介な技術的問題があった。本発明は、このような従来の技術的状況に鑑み、杭頭部と構造物側との接合構造として必要とされる接合強度を維持しながら、杭頭アンカーの埋設長を縮小して杭頭部と構造物側との接合部のコンパクト化を図り、周囲の構造物側の配筋やアンカーボルトなどとの干渉を軽減し、構造物側の設計の自由度の拡大も可能な、杭頭部と構造物側との接合構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、前記課題を解決するため、杭頭部に設置する杭頭アンカーの埋設長を、その杭頭アンカーに設けた定着板を中心に発生するコンクリートのコーン状破壊に基づく定着耐力が該杭頭アンカーの引張耐力より小さくなるように短く設定するとともに、少なくとも前記杭頭アンカーの外周側に縦筋と横筋からなる籠状鉄筋を設置することにより、杭頭アンカーの定着耐力が杭頭アンカーの引張耐力以上となるように構成するという技術手段を採用した。すなわち、一方で、杭頭アンカーの埋設長を、敢えてその杭頭アンカーに設けた定着板を中心に発生するコンクリートのコーン状破壊に基づく定着耐力が杭頭アンカーの引張耐力より小さくなるまで積極的に縮小するとともに、他方で、少なくとも杭頭アンカーの外周側に縦筋と横筋からなる籠状鉄筋を設置して、前記杭頭アンカーの埋設長の縮小に起因するコンクリートのコーン状破壊に基づく定着耐力の低下を補完し、結果的に杭頭アンカーの定着耐力が杭頭アンカーの引張耐力以上となるように構成するという、杭頭アンカーの埋設長の積極的な縮小と、その埋設長の縮小に起因する定着耐力の低下を補完する補強技術との組合わせからなる技術手段を採用し、それによって、杭頭部と構造物側との接合構造として必要とされる接合強度を維持しながら、杭頭部と構造物側との接合部のコンパクト化を図った点に技術的特徴を有する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)杭頭アンカーの埋設長が縮小されるので、杭頭部と構造物側との接合部をコンパクト化することが可能である。
(2)しかも、杭頭部と構造物側との接合構造として必要とされる接合強度を維持することができる。
(3)杭頭アンカーの埋設長が縮小され、杭頭部と構造物側との接合部のコンパクト化が可能なことから、杭頭アンカーの周囲に設置される構造物側の鉄筋やアンカーボルトなどとの干渉が軽減され、それらの設置作業が容易になる。
(4)さらに、杭頭部と構造物側との接合部のコンパクト化が可能で、その接合部の周囲に対する影響も縮小されることから、杭頭部と構造物側との接合部の周囲に対する構造物側の設計の自由度も拡大される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、種々の杭の頭部接合構造として適用が可能である。杭の断面形状や材質は問うところではなく、接合手段として杭頭アンカーを用いるものであれば適用が可能である。また、接合部の周囲にコンクリートが打設される形態であれば広く適用が可能であり、そのコンクリートに係る構造物側の対象物の種類に制約されることはない。例えば、フーチングや、柱脚部、基礎スラブなどの場合に広く適用することができる。さらに、杭頭アンカーの太さやその杭頭アンカーに設置される定着板の形状や大きさに関しても、場合に応じて自由に選定することが可能である。そして、杭頭アンカーの埋設長に関しては、その杭頭アンカーに設けた定着板を中心に発生するコンクリートのコーン状破壊に基づく定着耐力が該杭頭アンカーの引張耐力より小さくなるように、例えば杭頭アンカーの引張耐力50tに対して定着板を中心に発生するコンクリートのコーン状破壊に基づく定着耐力が30tになるように、従来より短い埋設長に設定することになる。なお、この場合、杭頭アンカーの埋設長が短くなるにつれて、定着板のコーン状破壊に基づく定着耐力も低下する関係にあるので、その関係を勘案しながら杭頭アンカーの埋設長を具体的に設定することになる。
【0007】
しかして、上記設置例のままの状態で他に補強手段を設置しない場合には、杭頭アンカーに作用する引張力が30tになった時点で、定着板を起因とするコーン状破壊が発生し、コンクリートが割裂して終局破壊に至ることになる。これに対して、本発明では、少なくとも杭頭アンカーの外周側に縦筋と横筋からなる籠状鉄筋を設置して、前記杭頭アンカーの埋設長の縮小に起因する前記コーン状破壊に基づく定着耐力の低下を補完し、杭頭アンカーの定着耐力が杭頭アンカーの引張耐力以上となるように補強することから、杭頭部と構造物側との接合構造として必要とされる接合強度が維持されることになる。すなわち、杭頭アンカーに作用する引張力が30tになり、コンクリートに定着板を起因とするコーン状の亀裂が発生しても、前記籠状鉄筋の補強作用によってコンクリートの割裂による終局破壊は回避され、50tの引張力までは耐えられるように構成される。
【0008】
因みに、上述のようにコンクリートに定着板を起因とするコーン状の亀裂が発生した場合には、その亀裂を跨ぐ主として籠状鉄筋の縦筋によって割裂が防止されることになる。すなわち、その割裂防止手段としては、籠状鉄筋を構成する各縦筋の引張耐力が主として機能することになるが、横筋の剪断耐力が部分的に機能する場合もある。したがって、それらの縦筋の引張耐力と横筋の剪断耐力との総和がコンクリートのコーン状破壊時における杭頭アンカーの定着耐力となることから、籠状鉄筋の鉄筋量の設定に当っては、それらを勘案してコーン状破壊時における杭頭アンカーの定着耐力がその杭頭アンカーの引張耐力以上となるように籠状鉄筋の鉄筋量を設定することになる。なお、籠状鉄筋を構成する横筋は、その籠状鉄筋の設置作業における自立性を確保する上で有効であるとともに、コンクリートに対する拘束効果の点で定着耐力上も有効である。
【実施例】
【0009】
図1は本発明の一実施例を示した構成説明図である。図中1はコンクリート杭で、地盤2中に設置され、その上端部には鋼板からなる端板3が前記コンクリート杭1中に埋設されたPC鋼線等を介して固着されている。図示のように、端板3には所要本数の杭頭アンカー4が立設され、それらの上端部に定着板5が上下のナット間に挟持された状態に設けられている。この場合、各杭頭アンカー4の軸径や設置間隔あるいは定着板5の形状や大きさに関する特段の制限は存在しないので、場合に応じて適宜選定することが可能である。各杭頭アンカー4の端板3に対する設置に関しては、本実施例では、各杭頭アンカー4の下端部に形成した雄ネジを端板3に形成した雌ネジに螺入してナット6により締付けることにより垂直に立設するという施工法を採用した場合を示した。図中7は杭頭アンカー4の外周部に配筋した籠状鉄筋で、縦筋8とループ状の横筋9から構成される。なお、図中10は砕石層、11は捨てコンクリートである。
【0010】
しかして、前記杭頭アンカー4の高さ、すなわち埋設長を設定する際には、前述のように、各杭頭アンカー4に設けた定着板5を中心に発生するコンクリートのコーン状破壊に基づく定着耐力がそれらの杭頭アンカー4の引張耐力より小さくなるように従来より短く設定して、杭頭接合部のコンパクト化を積極的に図ることになる。そして、その各杭頭アンカー4の埋設長の縮小に起因するコーン状破壊に基づく定着耐力の低下は、籠状鉄筋7の設置により補完することになる。したがって、籠状鉄筋7の鉄筋量の設定に当っては、前述のように、その籠状鉄筋7を構成する各縦筋8の引張耐力や横筋9の剪断耐力の関与を勘案して、コーン状破壊時における杭頭アンカー4の定着耐力がその杭頭アンカー4の引張耐力以上となるようにそれらの鉄筋量を設定することになる。なお、図中Sは杭頭アンカー4の周囲に打設されるコンクリートに発生するコーン状破壊面を例示したものである。図示のように、籠状鉄筋7は、縦筋8が杭頭アンカー4の定着板5を中心に発生するコーン状破壊面Sを跨ぐ範囲内に配設されることはいうまでもない。
【0011】
なお、前記実施例では、籠状鉄筋7を各杭頭アンカー4により形成される円筒形の外周側にのみ配設した場合を示したが、その内周側にも同様の籠状鉄筋を配設することにより、縦筋8の本数を減らして設置間隔を拡大することも可能である。さらに、各杭頭アンカー4を1本ずつ個々に取巻くように籠状鉄筋を配設する形態も可能である。また、フープ筋などの横筋9の上下間隔に関しては、一定でもよいが、例えばコーン状破壊面Sの近傍の間隔を密にし、端板3に近傍の間隔は疎になるように構成すれば、フーチングのベース筋等の鉄筋との干渉問題を回避ないし軽減することが可能である。また、前記実施例では、杭頭アンカー4の端板3に対する固着手段として、例えば転造加工などにより杭頭アンカー4の下端部に形成した雄ネジ部と端板3に形成した雌ネジ部とを螺合させてナット6により締付ける場合を示したが、他の固着手段の採用が可能なことはいうまでもない。
【0012】
図2は本発明の他の実施例を示した構成説明図であり、図3はその一部を断面で示した部分拡大図である。本実施例は、前記実施例の変形例であり、前記籠状鉄筋7の代りに縦筋12の外周部に螺旋状の横筋13を付設した籠状鉄筋14を採用するとともに、杭頭アンカー4の端板3に対する固着手段として、端板3にスタッド溶接したカプラ15を介して杭頭アンカー4を立設させる施工法を採用したものである。なお、螺旋状の横筋13の場合には、周囲の鉄筋を籠状鉄筋14を貫通させて配筋する場合には支障となりやすいが、コンクリートに対する拘束効果を高めるためには有効なことから、場合に応じて独立したループ状の横筋9を採用した前記実施例の籠状鉄筋7か、螺旋状の横筋13を採用した本実施例の籠状鉄筋14を選択的に実施することになる。
【0013】
図3に示したように、本実施例で採用したカプラ15は、コンクリート杭1の上端部に固着された鋼板からなる端板3に対してスタッド溶接される。カプラ15には上方に開口した雌ネジ16が形成されており、その雌ネジ16に対して杭頭アンカー4の下端部に形成された雄ネジ17を螺入してナット18により締付けることにより、杭頭アンカー4を垂直に立設し得るように構成している。このカプラ15を端板3にスタッド溶接する固着手段の場合には、ネジ部の螺合長を十分に確保できることから、杭頭アンカー4が高強度の材料からなり軸径が細い場合にはとりわけ有効な手段となり、また端板3が薄い場合にもきわめて有効である。因みに、高強度の細長い杭頭アンカー4を直接的に端板3に溶接しようとすると、その端板3に対する溶接位置がずれたり傾斜した状態に溶接されるといった施工不良を起こす可能性が高く、延いてはフーチングのベース筋等の鉄筋やアンカーボルトなどとの干渉を招来してしまう可能性もある。この施工不良を回避するためにも、カプラ15などを予め端板3に溶接し、それらのカプラ15などを介して杭頭アンカー4を立設する固着手段はきわめて有効であり、杭頭アンカー4の正確な位置決めや鉛直性の向上にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示した構成説明図である。
【図2】本発明の他の実施例を示した構成説明図である。
【図3】同実施例の一部を断面で示した部分拡大図である。
【符号の説明】
【0015】
1…コンクリート杭、2…地盤、3…端板、4…杭頭アンカー、5…定着板、6…ナット、7…籠状鉄筋、8…縦筋、9…横筋、10…砕石層、11…捨てコンクリート、12…縦筋、13…横筋、14…籠状鉄筋、15…カプラ、16…雌ネジ、17…雄ネジ、18…ナット、S…コーン状破壊面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭頭部に設置する杭頭アンカーの埋設長を、その杭頭アンカーに設けた定着板を中心に発生するコンクリートのコーン状破壊に基づく定着耐力が該杭頭アンカーの引張耐力より小さくなるように短く設定するとともに、少なくとも前記杭頭アンカーの外周側に縦筋と横筋からなる籠状鉄筋を設置することにより、杭頭アンカーの定着耐力が杭頭アンカーの引張耐力以上となるように構成したことを特徴とする杭頭接合構造。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−50901(P2008−50901A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230341(P2006−230341)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】