説明

果肉入りあん、果肉入りあんの製造方法、および菓子パン

【課題】果肉の香りと食感を有する果肉入りあんと菓子パンを提供する。
【解決手段】この果肉入りあんは、熟した果実の果肉のぶつ切りと未熟な果実の果肉のぶつ切りが混ざった複合果肉を煮込む第一煮込工程と、少なくとも熟したスモモのペースト状果肉を、第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加し、更に煮込んでジャムを得る第二煮込工程と、ジャムに白あんを添加し、混ぜながら加熱して、未熟な果実の粒状果肉が含まれる果肉入りあんを得る加熱工程とを経て製造される。ジャムと白あんの合計重量に対する白あんの重量は、30%以上50%以下であることが好ましい。また、この菓子パンは、この果肉入りあんを中に入れた菓子パンであって、粒状果肉が表面に浮き出ている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状果肉が含まれ、果肉の香りと食感を有する果肉入りあん、果肉入りあんの製造方法、および果肉入りあんを使用した菓子パンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
いろいろな果実からジャムが製造されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。ジャムは果実の風味を有しているが、一般に洋風の味わいであるため、和菓子やあんぱん等の和風の菓子パンにそのまま使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−56985号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/070882号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、果肉の香りと食感を有する果肉入りあん、およびこの果肉入りあんを使用した菓子パンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の果肉入りあんの製造方法は、熟した果実の果肉のぶつ切りと未熟な果実の果肉のぶつ切りが混ざった複合果肉を煮込む第一煮込工程と、少なくとも熟したスモモのペースト状果肉を、第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加し、更に煮込んでジャムを得る第二煮込工程と、ジャムに白あんを添加し、混ぜながら加熱して、未熟な果実の粒状果肉が含まれる果肉入りあんを得る加熱工程と、を有する。
【0006】
本発明の果肉入りあんの製造方法において、熟した果実および未熟な果実が同じ植物の果実であってもよい。本発明の果肉入りあんの製造方法において、熟した果実および未熟な果実は、桃、大粒ぶどう、スモモ、ゆず、および西洋梨から選択される一種類の果実であることが好ましい。
【0007】
本発明の果肉入りあんの製造方法において、熟したスモモのペースト状果肉は、熟したスモモの果肉を加熱することによってペースト状にしたものであってもよい。本発明の果肉入りあんの製造方法において、第二煮込工程では、ペースト状果肉および砂糖を、第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加してもよい。
【0008】
本発明の果肉入りあんの製造方法において、加熱工程では、ジャムと白あんの合計重量に対する白あんの重量が30%以上50%以下となるように白あんを添加することが好ましい。本発明の果肉入りあんの製造方法において、熟した果実の果肉のぶつ切りおよび未熟な果実の果肉のぶつ切りの大きさは2cm以上4cm以下であってもよい。
【0009】
本発明の果肉入りあんは、上記製造方法によって製造される。本発明の他の果肉入りあんは、粒状果肉と、粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉と、スモモのペースト状果肉と、白あんとを含む。本発明の菓子パンは、本発明の果肉入りあんを中に入れた菓子パンであって、粒状果肉が表面に浮き出ている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、果肉の香りと食感を有する果肉入りあん、および菓子パンが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の実施の形態に係る果肉入りあんについて説明する。本実施形態の果肉入りあんは、粒状果肉と、この粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉と、スモモのペースト状果肉と、白あんとを含む。これらの各成分を混ぜ合わせることによって、本実施形態の果肉入りあんが得られる。この果肉入りあんは、主に粒状果肉によって果肉の食感が堪能でき、主にペースト状果肉によって果肉の香りが堪能できる。
【0012】
スモモのペースト状果肉、つまりペースト状スモモの酸によって、果肉入りあん中のペースト状果肉の粘性を高めることができると考えられる。このため、菓子パンに本実施形態の果肉入りあんを入れたときに、菓子パンの外側に汁分が染み出すのを抑えることができる。また、黒あんではなく比較的淡白な味わいを有する白あんを用いることによって、あんと果肉の両方の味わいを堪能できる。
【0013】
粒状果肉は、果実から皮と種子を取り除いた果肉を切断して得られる。粒状果肉は、未熟な果実の果肉を大きめに切断した後、煮込むことによっても得られる。粒状果肉の大きさは2mm以上7mm以下であることが好ましく、3mm以上5mm以下であることがより好ましい。粒状果肉がこれらの大きさであれば、果肉入りあんは果肉の食感が堪能できる。
【0014】
なお、熟した果実の果肉と未熟な果実の果肉とを含む複合果肉を数cm程度に切断した後に数時間煮込めば、未熟な果実の果肉は数mm程度の粒状果肉となる。粒状果肉としては、桃、大粒ぶどう、スモモ、ゆず、および西洋梨等が使用できる。大粒ぶどうとしては、石原センテニアル(商品名:巨峰)やピオーネ等が、西洋梨としてはラ・フランス等がそれぞれ使用できる。
【0015】
本明細書で果肉の大きさは以下のように定義する。すなわち、「果肉の大きさがAmm」とは、一辺Ammの立方体内に果肉が収まり、かつその果肉の体積が一辺Ammの立方体の体積の半分以上であることをいう。果肉の大きさがAmmであるとは、一辺Ammの立方体であってもよく、直径がAmmの球体であってもよい。果肉入りあんに含まれる粒状果肉は、直方体のように角部を有する形状であることが好ましい。果肉の食感がより堪能できるからである。
【0016】
粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉とは、例えば、粒状果肉が桃であればペースト状の桃を示す。ペースト状果肉は、例えば、熟した果実の果肉を煮込むことによって得られる。この場合、熟した果実の果肉を適当な大きさに切断してから煮込んでもよく、また、熟した果実の果肉に砂糖を添加してから煮込んでもよい。
【0017】
ペースト状スモモは、例えば、熟したスモモの果肉を煮込むことによって得られる。この場合、熟したスモモの果肉を適当な大きさに切断してから煮込んでもよく、また、熟したスモモの果肉に砂糖を添加してから煮込んでもよい。なお、粒状果肉がスモモの場合は、「粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉」と「スモモのペースト状果肉」が同じとなるため、果肉入りあん中に「スモモのペースト状果肉」を含むことによって、「粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉」も含まれることになる。
【0018】
白あんとしては、白こしあんが好ましい。果肉入りあんの中の粒状果肉が固形物として際立ち、果肉の食感が堪能できるからである。白あんは、例えば、以下の製法によって得られる。まず、白いんげん豆を水と一緒に煮る。つぎに、豆の皮を除去した後、水で数回洗う。そして、水気を絞り、砂糖と少量の水を加えてかき混ぜながら煮込む。このように砂糖を含んだ白あんを用いれば、果肉入りあんが腐りにくくなる。
【0019】
本発明の果肉入りあんは、粒状果肉と、この粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉と、スモモのペースト状果肉と、白あん以外の成分、例えば、各種添加物(着色料、香料、保存料、増粘剤等)を含んでいてもよい。しかし、粒状果肉と、この粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉と、ペースト状スモモと、白あんからなる果肉入りあんのように、添加物を含まない方が、素材自体の味わいを堪能できる観点から好ましい。本発明の果肉入りあんは、大福やようかん等の和菓子や、菓子パンやケーキ等の洋菓子や、中華まんじゅうや点心等の中華菓子に使用できる。
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態に係る果肉入りあんの製造方法について説明する。本実施の形態に係る果肉入りあんの製造方法は、熟した果実の果肉のぶつ切りと未熟な果実の果肉のぶつ切りが混ざった複合果肉を煮込む第一煮込工程と、少なくとも熟したスモモのペースト状果肉を、第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加し、更に煮込んでジャムを得る第二煮込工程と、ジャムに白あんを添加し、混ぜながら加熱して、未熟な果実の粒状果肉が含まれる果肉入りあんを得る加熱工程とを有する。
【0021】
第一煮込工程では、熟した果実の果肉のぶつ切りと未熟な果実の果肉のぶつ切りが混ざった複合果肉を煮込む。熟した果実は、外側から人差し指で押したときに果実がへこんでしまう程度のものが好ましい。未熟な果実は、外側から人差し指で押しても果実が全くへこまない程度か、ほとんどへこまない程度のものが好ましい。果肉は果実から皮と種子を取り除くことによって得られるが、皮と種子が完全に除去できずに多少残ってしまう場合がある。このように多少の皮や種子を含んでいても、本発明では「果肉」という。
【0022】
熟した果実の果肉のぶつ切りと未熟な果実の果肉のぶつ切りが混ざった複合果肉は、熟した果実の果肉と未熟な果実の果肉を、別々にぶつ切りにした後に混ぜ合わせて得てもよいし、熟した果実の果肉と未熟な果実の果肉を混ぜ合わせてからぶつ切りにして得てもよい。熟した果実の果肉のぶつ切りと未熟な果実の果肉のぶつ切りの合計重量に対する未熟な果実の果肉のぶつ切りの重量は、40%以上60%以下であることが好ましい。果肉の香りと食感のバランスが良いからである。
【0023】
また、熟した果実の果肉のぶつ切りおよび未熟な果実の果肉のぶつ切りの大きさは、2cm以上4cm以下であることが好ましい。この大きさであれば、第一煮込工程およびその後の工程を経て果肉入りあんが得られたとき、果肉入りあん中に熟した果実の果肉の粒が残らず、未熟な果実の果肉の粒が3mm以上5mm以下の大きさで残るからである。
【0024】
熟した果実および未熟な果実が同じ植物の果実であることが好ましい。熟した果実および未熟な果実が同じ植物の果実であれば、同じ果実の香りと食感が堪能できるからである。熟した果実および未熟な果実は、桃、大粒ぶどう、スモモ、ゆず、および西洋梨から選択される一種類の果実であることが好ましい。これらの果実は、果肉入りあん中でも香りと食感が堪能できるからである。
【0025】
なお、大粒ぶどうとしては、石原センテニアル(商品名:巨峰)やピオーネ等が、西洋梨としてはラ・フランス等が挙げられる。また、香りと食感を敢えて別々の果実にして、それぞれの味わいを楽しむために、熟した果実と未熟な果実を別の植物としてもよい。第一煮込工程では、アクを取りながら数時間、例えば、2時間〜4時間程度、複合果肉を煮込む。
【0026】
第二煮込工程では、少なくとも熟したスモモのペースト状果肉を、第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加し、更に煮込んでジャムを得る。熟したスモモのペースト状果肉は、例えば、皮と種子を除去したスモモの果肉をそのまま煮込んだり、皮と種子を除去したスモモの果肉を適当な大きさ、例えば、2cm程度の大きさに切断してから煮込んだり、皮と種子を除去したスモモの果肉に砂糖を添加して煮込んだりして得られる。つまり、熟したスモモの果肉を加熱することによってペースト状にすることができる。
【0027】
第二煮込工程では、ペースト状スモモを第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加した後、アクを取りながら数時間、例えば、1時間〜2時間程度煮込む。ペースト状スモモを第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加するとき、一緒に砂糖を添加してもよい。砂糖を添加することによって、最終的に得られる果肉入りあんが腐りにくくなる。
【0028】
加熱工程では、ジャムに白あんを添加し、混ぜながら加熱する。ジャムと白あんの合計重量に対する白あんの重量は、30%以上50%以下であることが好ましい。果肉の香りおよび食感と、白あんによる和風の味わいの両方が堪能できるからである。加熱工程では、ジャムと白あんを混ぜながら、数十分、例えば、20〜40分程度煮込む。こうして未熟な果実の粒状果肉が含まれる果肉入りあんが得られる。この粒状果肉の大きさは、3mm以上5mm以下程度である。
【0029】
つぎに、本発明の実施の形態に係る菓子パンについて説明する。本実施形態の菓子パンは、上述の果肉入りあんまたは上述の製造方法によって得られた果肉入りあんを中に入れた菓子パンであって、粒状果肉が表面に浮き出ている。粒状果肉が表面に浮き出ているため、菓子パンの表面をかんだときに果肉の食感が堪能できる。果肉の香りは、菓子パンの表面から堪能できたり、菓子パンを口の中に入れたときに堪能できたりする。
【0030】
この菓子パンは、例えば以下の方法によって製造される。まず、本実施形態の果肉入りあん、または本実施形態の製造方法によって得られる果肉入りあんをパン生地で包む。このとき、菓子パンの表面になる個所は、生地を少なくするか、生地がないようにする。つぎに、このあん入りパン生地を焼いて菓子パンを得る。このようにして焼き上がった菓子パンは、粒状果肉が表面に浮き出ている。
【実施例】
【0031】
以下に果肉入りあんの製造例を示す。本発明の果肉入りあんの製造方法は、本実施例に限定されない。
・第一煮込工程
熟した果実および未熟な果実として桃を用いた。まず、樹木で完熟し赤みを帯びた桃25kgと、硬くて白い未熟な桃25kgが混合した状態で、個別に桃を半分に割り種子を除去し、水で洗った。つぎに、これらの桃の皮をむいて桃果肉を得た。そして、一辺約3cmの立方体形状となるように、これらの桃果肉を包丁で切断した。その後、切断した桃を大きなナベに入れ加熱し、アクを取ながら3時間煮込んだ。
【0032】
・第二煮込工程
予め作製しておいたペースト状スモモ1kgと砂糖4kgを、第一煮込工程を経たナベに加えて、更に1時間煮込んだ。こうして、桃のジャム18kgが得られた。この桃のジャムは、ペースト状の中に、一辺約4mm〜約6mmの立方体形状の粒状の桃が分散して存在した。
【0033】
なお、ペースト状スモモは以下のようにして作製した。まず、樹木で完熟したスモモの皮と種子を除去した。つぎに、皮と種子を除去した状態のままスモモをナベに入れて、2時間煮込んだ。この煮込み作業によってスモモは煮崩れ、ペースト状スモモが得られた。
【0034】
・加熱工程
第二煮込工程を経てジャムが入っているナベに、白いんげん豆を原料とする市販の白こしあん(株式野中「極上白あん」)9kgを添加し、かき混ぜながら30分加熱した。こうして、果肉入りあんが得られた。この果肉入りあんには、一辺約3mm〜約5mmの立方体形状の粒状の桃が複数存在した。この果肉入りあんは、十分な桃の香りがした。また、この果肉入りあんを食べてみると、桃の香り、桃の歯ごたえ、および桃の味がした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熟した果実の果肉のぶつ切りと未熟な果実の果肉のぶつ切りが混ざった複合果肉を煮込む第一煮込工程と、
少なくとも熟したスモモのペースト状果肉を、前記第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加し、更に煮込んでジャムを得る第二煮込工程と、
前記ジャムに白あんを添加し、混ぜながら加熱して、前記未熟な果実の粒状果肉が含まれる果肉入りあんを得る加熱工程と、
を有する果肉入りあんの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記熟した果実および前記未熟な果実が同じ植物の果実である果肉入りあんの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記熟した果実および前記未熟な果実は、桃、大粒ぶどう、スモモ、ゆず、および西洋梨から選択される一種類の果実である果肉入りあんの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記熟したスモモのペースト状果肉は、熟したスモモの果肉を加熱することによってペースト状にしたものである果肉入りあんの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、
前記第二煮込工程では、前記ペースト状果肉および砂糖を、前記第一煮込工程で煮込んだ複合果肉に添加する果肉入りあんの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかにおいて、
前記加熱工程では、前記ジャムと前記白あんの合計重量に対する前記白あんの重量が30%以上50%以下となるように前記白あんを添加する果肉入りあんの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかにおいて、
前記熟した果実の果肉のぶつ切りおよび前記未熟な果実の果肉のぶつ切りの大きさは2cm以上4cm以下である果肉入りあんの製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの製造方法によって製造された果肉入りあん。
【請求項9】
粒状果肉と、前記粒状果肉と同じ植物のペースト状果肉と、スモモのペースト状果肉と、白あんとを含む果肉入りあん。
【請求項10】
請求項8または9の果肉入りあんを中に入れた菓子パンであって、前記粒状果肉が表面に浮き出ている菓子パン。

【公開番号】特開2013−59308(P2013−59308A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218213(P2011−218213)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【特許番号】特許第5006463号(P5006463)
【特許公報発行日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(309038328)
【Fターム(参考)】