説明

架空線のガス圧式テンションバランサ

【課題】 作動油と圧縮ガスとの仕切りをなくし、簡易な構造で、製作コストを低減し、性能を長期にわたり維持できるテンションバランサを提供すること。
【解決手段】 支持構造物に連結されるシリンダ2に、架空線に連結されるロッド3を出入り自在に挿入し、ロッド先端のピストン4によりシリンダ2内を高圧室6と低圧室7とに仕切る。高圧室6に作動油を充填し、この高圧室6にアキュムレータ5を連通させ、その内部に作動油を収容して高圧室6と互いに作動油を流通させるようにし、さらに油面上の残余の内部空間に作動油と仕切ることなく圧縮ガスを封入した。アキュムレータ5から高圧室6への作動油を介した圧縮ガスの圧力により高圧室6を拡張するようにロッド3をシリンダ2に引き込む方向へ付勢することにより、ロッド3に連結される架空線をほぼ一定の張力で支持構造物に引き留める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電車線のような架空線を支持構造物に所定の張力を維持しつつ引き留めるテンションバランサに関し、特に高圧のガス圧と油圧を利用して架空線を引き込む方向に付勢するガス圧式のものに係る。
【背景技術】
【0002】
従来のガス圧式テンションバランサは、シリンダの一端側に軸線方向に移動自在にロッドを挿入し、シリンダの内部をロッド挿入端側の液室と閉鎖端側の気室とに仕切る伸縮自在のベローズなどの仕切り部材をシリンダ内部のロッド挿入端側に固定してロッドを出入り自在に挿入し、液室に作動油などの液体を充填し、圧縮ガスを封入したものがある(特許文献1,2参照)。気室のガス圧を仕切り部材を介して液室に作用させることにより、ベローズの内容積を狭めるようにロッドをシリンダ内に引き込む方向に付勢する。しかして、シリンダを支持構造物に連結し、ロッドを架空線に連結して、架空線を支持構造物に引き留めれば、温度変化によって架空線が伸縮しても、気室内のガスが膨張収縮するので、架空線をほぼ一定の張力に維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−240328
【特許文献2】特開2001−20987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のテンションバランサにおいては、液室と気室とを仕切り部材で隔絶しなければ、ガスの一部が液体中に吸収され、圧縮ガスの圧力の低下やキャビテーションを引き起こし、所期の性能が維持できないとされている。しかしながら、温度変化による架空線の伸縮は徐々に行われ、架空線を引き留めるテンションバランサの作動油は流速が極めて遅いため、キャビテーションの発生はなく、また作動油にガスが吸収されても微量であるため、容積変化がほとんどなく、吸収されたガスも圧縮ガスの一部として作用するため、吸収されたガスの影響はないのが実状である。かえって、仕切り部材が構造を複雑化し、その不具合や故障に対する調整作業の負担が大きい。また、このような製作上の難点がコストに反映されてガス圧式テンションバランサの普及を阻害している。
そこで、本発明は、作動油と圧縮ガスとの仕切りをなくした簡易な構造で、コンパクトに構成でき、製作が容易で、性能を長期にわたり維持する安価なガス圧式テンションバランサを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明においては、支持構造物又は架空線の一方に連結されるシリンダ2に、一端が支持構造物又は架空線の他方に連結されるロッド3の他端側を出入り自在に気密に挿入し、このロッドに固定したピストン4によりシリンダ2内のロッド挿入端側に高圧室6を形成し、高圧室6に作動油を充填し、この高圧室6にアキュムレータ5を連通させ、その内部に作動油を収容して高圧室6と互いに作動油を流通させるようにすると共に、油面上の残余の内部空間に作動油と仕切ることなく圧縮ガスを封入した。アキュムレータ5から高圧室6への作動油を介した圧縮ガスの圧力により高圧室6を拡張するようにロッド3をシリンダ2に引き込む方向へ付勢することにより、連結される架空線をほぼ一定の張力で支持構造物に引き留めるようにガス圧式テンションバランサを構成した。
アキュムレータ10にはシリンダ2を内蔵し、ロッド3を出入り自在に気密に挿入し、シリンダ2との間に収容空間を形成して作動油及び圧縮ガスを収容し、この収容空間をシリンダ2に開口する連通孔11により高圧室6に連通させた。
また、支持構造物又は架空線の一方に、内部を高圧室16を形成する隔壁15を有するシリンダ13を連結し、支持構造物又は架空線の他方に、シリンダ13の高圧室16に出入り自在に気密に挿入したロッド14の一端を連結し、他端側を隔壁15に摺動自在に気密に貫通させ、ロッド14の隔壁貫通端側にその出入り動により高圧室16の容積を増減させるための大径部14aを設け、さらにシリンダ13の高圧室16に、ロッド14が没する位置まで作動油を収容すると共に、油面上の残余の内部空間に圧縮ガスを封入した。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ガスと作動油とを仕切ることなく収容するので、構造が簡易になり、コンパクト化することができるし、従来の仕切り部材の不具合や故障に対する調整作業の労力を省くことができ、しかも圧縮ガスの圧力や作動油の量の設定、維持のための作業労力を軽減し、製作コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1の実施形態のガス圧式テンションバランサの縦断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態のガス圧式テンションバランサの一部を切り欠いた斜視図である。
【図3】第2の実施形態のガス圧式テンションバランサの縦断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態のガス圧式テンションバランサの縦断面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の一形態について、図面を参照して説明する。
図1において、ガス圧式テンションバランサ1は、円筒状のシリンダ2と、このシリンダ2の内部に挿入されるロッド3と、このロッド3の先端部に固定されたピストン4と、シリンダ2の上部に設けられたアキュムレータ5とを備えている。
シリンダ2の一方の端壁は電車線などの架空線を引き留める支持構造物に連結され、他方の端壁からロッド3が出入り自在に気密に挿入される。
ロッド3の外部端には架空線が連結される。
ピストン4は、シリンダ2の内面に軸線方向に摺動自在に嵌合しており、シリンダ2内をロッド挿入端側の高圧室6と反対側の低圧室7とに仕切る。高圧室6内には作動油が充填され、低圧室7内は端壁に穿たれた通気孔7aにより大気圧とする。
アキュムレータ5はシリンダ2の一方の端壁の上部に固定され、その内部に作動油を収容し、通油管8によりシリンダ2の高圧室6に連通して、高圧室6との間で作動油を互いに流通させることができる。アキュムレータ5の作動油の油面上の残余の内部空間には、例えば窒素ガス等の高圧の圧縮ガスが気密に封入されている。
なお、シリンダ2のロッド挿入孔やピストン4の外周には必要なシール部材を備えている。
【0009】
このガス圧式テンションバランサにおいては、シリンダ2内の高圧室6の油圧が作動油を介してアキュムレータ5の圧縮ガスの圧力と同等になり、ピストン4が低圧室7側に移動しようとするので、ロッド3をシリンダ2の内部に引き込む方向に付勢する。従って、ロッド3に連結する架空線に所定の張力を付与する。温度変化により圧縮ガス及び作動油の体積が変化して、ロッド3が長さ方向に変位するが、このロッド3の変位量を架空線の伸縮長さと同等にするように、作動油の体積及び圧縮ガスの圧力を予め設定しておけば、温度変化にかかわらず架空線の張力を一定に維持することができる。このように、ガス圧式テンションバランサにおいては、作動油の体積と圧縮ガスの圧力とを所定値に調整して、両者を仕切ることなくアキュムレータ5に収容するので、構造が簡易になり、製作が容易で安価に提供できるし、コンパクト化でき、しかも従来の仕切り手段の不具合や故障がなくなり、性能を維持し易く、長期使用に耐える。
【0010】
他の実施形態を図2ないし図4に示す。なお、以下において先の実施形態と同一の構成部分については同一符号を付して説明を省略する。図2ないし図4において、ガス圧式テンションバランサ9のアキュムレータ10は円筒状を成し、その内部にシリンダ2を下側の偏心位置に同一の軸線方向に固定している。アキュムレータ10の両端は端蓋10aによりシリンダ2と共に閉鎖されている。シリンダ2の低圧室7は一方の端蓋10aに穿たれた通気孔7aにより外部に連通している。一方の端蓋10aは電車線などの架空線を引き留める支持構造物に連結される。アキュムレータ10とシリンダ2との間には、作動油を収容して連通孔11によりシリンダ2の高圧室6に連通し、高圧室6との間で作動油を互いに流通させることができる収容空間が形成される。収容する作動油は、少なくともシリンダ2が没する高さ位置の油面とする。アキュムレータ10の油面上の残余の内部空間には高圧の窒素ガスが封入される。
【0011】
このガス圧式テンションバランサ9においても、作動油と圧縮ガスとを仕切ることなくアキュムレータ10に収容する。そして、先の実施形態と同様にして、ロッド3をシリンダ2の内部に引き込む方向に付勢するので、ロッド3に連結する架空線に所定の張力を付与する。温度変化による架空線の伸縮長さと、圧縮ガス及び作動油の体積変化に伴うロッド3の変位とを同等にするように、作動油の体積及び圧縮ガスの圧力を予め設定しておけば、温度変化にかかわらず架空線の張力を一定に維持することができる。
【0012】
さらに他の実施形態を図5,図6に示す。同図において、ガス圧式テンションバランサ12は、円筒状のシリンダ13と、このシリンダ13の内部に挿入されるロッド14とを備えている。
シリンダ13は、その両端が閉鎖しており、一方の閉鎖端に架空線を引き留める支持構造物が連結されると共に、通気孔17aが設けられている。シリンダ13には、軸線方向の中間部分に内部をロッド挿入側の高圧室16と反対側の低圧室17とに仕切る隔壁15を備えている。高圧室16の内部には作動油を収容し、作動油の油面上の残余の内部空間に高圧の圧縮ガスが気密に封入される。低圧室17は通気孔17aにより外部に連通している。
ロッド14はシリンダ13の軸線より下方に偏心して位置し、シリンダ13の他方の端壁から軸線方向に摺動自在に気密に挿入され、シリンダ13内で作動油に没し、さらに隔壁15を軸線方向に摺動自在に気密に貫通する。ロッド14の外部端には架空線が連結される。ロッド14は隔壁15の貫通端側に大径部14aを備えており、高圧室16内への大径部14aの進退によりシリンダ13の容積が変化する。
【0013】
このガス圧式テンションバランサ12においても、作動油と圧縮ガスとを仕切ることなくシリンダ13に収容する。シリンダ13の圧縮ガスの圧力と作動油の油圧とは同等になり、シリンダ13の容積を拡張しようと働くので、ロッド14の大径部14aを押し出す方向、すなわちロッドの外部端側をシリンダ2の内部に引き込む方向に付勢する。従って、ロッド13に連結する架空線に所定の張力を付与する。温度変化による架空線の伸縮長さと、圧縮ガス及び作動油の体積変化に伴うロッド14の変位とを同等にするように、作動油の体積及び圧縮ガスの圧力を予め設定しておけば、温度変化にかかわらず架空線の張力を一定に維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、例えばトロリ線等の架空線を支持構造物に対して所定の張力を維持しつつ引き留めるのに有効である。
【符号の説明】
【0015】
1 ガス圧式テンションバランサ
2 シリンダ
3 ロッド
4 ピストン
5 アキュムレータ
6 高圧室
7 低圧室
9 ガス圧式テンションバランサ
10 アキュムレータ
12 ガス圧式テンションバランサ
13 シリンダ
14 ロッド
14a 大径部
15 隔壁
16 高圧室
17 低圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造物又は架空線の一方に連結されるシリンダと、
他方に一端が連結され他端側が前記シリンダに出入り自在に気密に挿入されるロッドと、
このロッドに固定され前記シリンダ内のロッド挿入端側に高圧室を形成するピストンと、
前記シリンダの高圧室に連通し高圧室に充填される作動油を互いに流通させるように作動油を収容すると共に、油面上の残余の内部空間に作動油と仕切ることなく圧縮ガスを封入するアキュムレータとを具備し、
前記作動油を介した圧縮ガスの圧力により高圧室を拡張するようにロッドをシリンダに引き込む方向へ付勢することにより、連結される架空線をほぼ一定の張力で前記支持構造物に引き留めることを特徴とするガス圧式テンションバランサ。
【請求項2】
前記アキュムレータは、前記シリンダを内蔵すると共に前記ロッドを出入り自在に気密に挿入させ、シリンダとの間に作動油及び圧縮ガスを収容する収容空間を形成し、
この収容空間がシリンダ外周壁に開口する連通孔により前記高圧室に連通することを特徴とする請求項1に記載のガス圧式テンションバランサ。
【請求項3】
支持構造物又は架空線の一方に連結されるシリンダと、
このシリンダ内に高圧室を形成する隔壁と、
前記支持構造物又は架空線の他方に一端が連結され、他端側が前記シリンダの高圧室に出入り自在に気密に挿入されると共に前記隔壁を摺動自在に気密に貫通し、その出入り動による前記高圧室の容積を増減するために隔壁の貫通端側に大径部を有するロッドとを具備し、
前記シリンダの高圧室には、前記ロッドが没する位置まで作動油を収容すると共に、油面上の残余の内部空間に作動油と仕切ることなく圧縮ガスを封入することを特徴とするガス圧式テンションバランサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−909(P2011−909A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143550(P2009−143550)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)