説明

柱脚のピン接合構造

【課題】柱脚に回転性能を付加し、固定度の小さいピン接合の柱脚構造を提供する。
【解決手段】柱材4と、平面視円型のベースプレート5と、ベースプレート5を介して柱材4の下端部に設けられた転がり部6からなる柱脚本体部1と、ベース基礎3に固定され、ベース基礎3の上面部に当接する柱脚支承底板部7と、柱脚支承底板部7の周囲に立設する柱脚支承側板部8からなる上方開放の函体である柱脚支承材2とからなり、柱脚本体部1は柱脚支承材2内に、転がり部6が柱脚支承底板部7に当接して立設し、ベースプレート5の側部が、ベースプレート5と柱脚支承側板部8との間のベースプレート固定材11を介して柱脚支承材により支持されるとともに、柱脚支承側板部7間に取り付けられた柱脚押さえ材12により、柱脚本体部1の、柱脚支承材2からの抜けが規制され、柱脚の軸力とせん断力が柱脚支承材2を介してベース基礎3へ伝達される柱脚のピン接合構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨の建物の柱脚構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨の建物の柱脚構造として、図8に示すように、柱の端部に溶接されたエンドプレートを介して、コンクリート基礎に埋め込まれたアンカーボルトに固定することで、柱脚とコンクリート基礎を一体化することが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−199587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この柱脚構造では、柱脚とコンクリート基礎が剛接合であるため、柱脚に生じた曲げモーメントがコンクリート基礎に伝達されてしまう。
【0005】
比較的規模の小さい建物では、柱脚とコンクリート基礎をピン接合とし、コンクリート基礎に曲げモーメントを伝達しない構造とすることで経済的な設計ができる場合がある。
【0006】
そこで、従来の柱脚構造をピン接合であると仮定して、鉄骨構造を構成すると、柱脚の回転性能が小さく固定度があるため、基礎に曲げモーメントが生じ、アンカーボルトが破断してしまう場合があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑み、柱脚に回転性能を付加し、固定度の小さいピン接合の柱脚構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、柱材と、ベースプレートと、該ベースプレートを介して該柱材の下端部に設けられた転がり部からなる柱脚本体部と、
ベース基礎に固定され、ベース基礎上面部に当接する柱脚支承底板部と、該柱脚支承底板部の周囲に立設する柱脚支承側板部からなる上方開放の函体である柱脚支承材とからなり、
該柱脚本体部は該柱脚支承材内に、転がり部が柱脚支承底板部に当接して立設し、ベースプレート側部が柱脚支承材により支持されるとともに、
柱脚支承側板部間に取り付けられた柱脚押さえ材により、柱脚本体部の、柱脚支承材からの抜けが規制され、
柱脚の軸力とせん断力が柱脚支承材を介してベース基礎へ伝達されることを特徴とする柱脚のピン接合構造により解決される。
【0009】
この柱脚のピン接合構造では、柱脚本体部は該柱脚支承材内に、転がり部が柱脚支承底板部に当接して立設し、ベースプレート側部が柱脚支承材により支持されているので、柱脚本体部は、回転性能が付加されながら、柱脚支承材に支持されるので、固定度の小さいピン接合の柱脚構造を実現することができる。
【0010】
また、この柱脚構造を簡易な構造で実現しているので、低コストでピン接合構造を実現することができる。さらに、ピン接合構造とすることで、ベース基礎に曲げモーメントが伝達されないため、ベース基礎に基礎梁が不要となり、ベース基礎も低コストで実現することができる。
【0011】
この柱脚のピン接合構造において、ベースプレートが平面視円型であるとよい。
【0012】
ベースプレートが平面視円型をしているので、曲げモーメントの発生を方向性なく防止することができる。
【0013】
さらに、この柱脚のピン接合構造において、前記ベースプレートと柱脚支承側板部との間に、ベースプレート固定材が介設されているとよい。
【0014】
ベースプレート固定材が介設されているので、ベースプレートが平面視円型であったとしても、柱脚支承材の柱脚支承側板部で形成される外形は、ベースプレート固定材にあわせて円型である必要はなく、任意の形状であってもよく、例えば、組み立てやすい角形にすることもできる。
【0015】
また、ベースプレート固定材が、モルタルであるとよい。
【0016】
この柱脚の施工時に、ベースプレートと柱脚支承側板部との間に流動性のあるモルタルを打設し、モルタルが硬化することでベースプレート固定材が成型されるので、ベースプレートの平面視形状と柱脚支承材の柱脚支承側板部で形成される外形が異なっていたとしても、ベースプレートと柱脚支承側板部との間にベースプレート固定材を介設することができる。また、施工時に流動体であるモルタルを打設することで、ベースプレートと柱脚支承側板部との間がどんな形状であっても、しっかりとベースプレート固定材を介設することができる。
【0017】
また、この柱脚のピン接合構造において、ベースプレートと柱脚押さえ材との間に弾性体が介設されているとよい。
【0018】
ベースプレートと柱脚押さえ材との間に弾性体が介設されていることで、柱脚押さえ材により、ベースプレートが押えられ、柱脚本体部が柱脚支承材にしっかりと固定されながら、弾性体の作用により、遊びが確保されるため、曲げモーメントの発生しない柱脚のピン接合構造を実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は以上のとおりであるから、柱脚に回転性能を付加し、固定度の小さいピン接合の柱脚構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図(イ)は、本発明の実施形態である柱脚構造を示す断面正面図、図(ロ)は、同平面図、図(ロ)は、図(イ)のA−A線断面図である。
【図2】本柱脚構造の作動状況を示す断面正面図である。
【図3】図(イ)乃至図(ヘ)は、本柱脚構造の施工方法を順次説明する断面書面図である。
【図4】本発明の他の実施形態の柱脚構造を示す断面正面図である。
【図5】本発明の他の実施形態の柱脚構造を示す断面正面図である。
【図6】本発明の他の実施形態の柱脚構造に用いられる転がり部を示す斜視図である。
【図7】本発明の他の実施形態の柱脚構造を示す断面正面図である。
【図8】図(イ)は、従来技術の柱脚構造を示す正面図、図(ロ)は、同平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に示す鉄骨建物の柱脚構造において、1は柱脚本体部、2は柱脚支承材、3はベース基礎である。
【0023】
柱脚本体部1は、角形鋼管からなる柱材4と、柱材4の端部に設けられ、柱材4の外径より大きい断面円型の鋼製のプレートからなるベースプレート5と、ベースプレート5の柱材4と反対側の面に設けられる、半球体型をした鋼製の転がり部6とからなる。柱材4とベースプレート5と転がり部6とは、それぞれ溶接により接合される。
【0024】
柱脚支承材2は、ベース基礎2の上面部に当接する柱脚支承底板部7とその周囲に立設する柱脚支承側板部8からなる上方開放の函体であり、柱脚支承底板部7には、ベース基礎3に固定されたアンカーボルト9‥を挿通させるための孔があけられており、柱脚支承材2はアンカーボルト9‥でベース基礎3にしっかりと固定される。
【0025】
柱脚本体部1は、転がり部6を柱脚支承底板部7に当接させて柱脚支承材2内に設置される。ベースプレート5と柱脚支承側板部8との間には、ベースプレート5の外周に設けられ、ベースプレート5の上端面から柱脚支承底板部7の上面までの高さを有する鋼板製のベースプレート側材10を介して、ベースプレート固定材11が設けられ、ベースプレート5を支持し、柱脚本体部1を柱脚支承材2内に立設させている。なお、ベースプレート5の下端面と柱脚支承底板部7とベースプレート側材10によって仕切られた空間12は空隙である。また、ベースプレート固定材11は、後述するように本柱脚施工時に打設させるモルタルからなる。
【0026】
半球体型の転がり部6と柱脚支承底板部7との当接、ベースプレート5の側面とベースプレート側材10との非一体化、およびベースプレート固定材11を介した柱脚支承側板部8によるベースプレート5の支持により、柱脚本体部1は、柱脚支承材2内で、転がり部6と柱脚支承底板部7との当接点を支点とした微小な曲げが許容され、回転剛性が極めて小さいため、本柱脚構造は曲げモーメントを発生しないピン接合構造が成立する。
【0027】
13,13は柱脚押さえ材であって、相対する柱脚支承側板部8,8間に取り付けられ、ベースプレート5を上面から押圧することで、柱脚本体部1を支持および柱脚支承材2からの抜けを規制する。なお、ベースプレート5の上面と柱脚押さえ材13間に介設される14は弾性体であって、柱脚押さえ材13が、柱脚本体部1を支持しながら、柱脚本体部1が、柱脚支承材2内で、転がり部6と柱脚支承底板部7との当接点を支点とした微小な曲げが許容されるために設けられる。
【0028】
図2に示すように、この柱脚構造は、ピン接合構造であるので、柱脚本体部1に曲げモーメントは発生せず、柱脚本体部1に発生する柱軸力とせん断力は、柱脚支承材2を介してベース基礎3に伝達される。つまり、柱軸力は、転がり部6および柱脚支承底板部7を介してベース基礎3に伝達され、せん断力は、ベースプレート5、ベースプレート固定材11および柱脚支承側板部8を介してベース基礎3に伝達される。なお、柱脚本体部1が一定の変形角を越えた場合には、柱脚押さえ材13により、柱脚の曲げが規制される。
【0029】
この柱脚構造を簡易な構造で実現しているので、低コストでピン接合構造を実現することができる。さらに、ピン接合構造とすることで、基礎に曲げモーメントが伝達されないため、基礎に基礎梁が不要となり、基礎構造も低コストで実現することができる。
【0030】
また、ベースプレートが平面視円型をしているので、曲げモーメントの発生を方向性なく防止することができる。
【0031】
さらに、ベースプレート固定材として施工時に流動性のあるモルタルを使用しているので、後述するこの柱脚構造の施工方法により、ベースプレートと柱脚支承側板部との間に流動性のあるモルタルを打設し、モルタルが硬化することでベースプレート固定材が成型されるので、ベースプレートの平面視形状と柱脚支承材の柱脚支承側板部で形成される外形が異なっていたとしても、ベースプレートと柱脚支承側板部との間にベースプレート固定材を介設することができる。
【0032】
次に、本柱脚構造の施工方法について説明する。
【0033】
図3(イ)に示すように、柱脚支承材2をベース基礎3に、ベース基礎3に埋設されたアンカーボルト9により固定する。なお、柱脚支承材2は、ベース基礎3のコンクリート打設、型枠脱型後に取り付けてもよいが、ベース基礎3のコンクリート打設前に、柱脚支承材2を基礎型枠に取り付けた後、コンクリートを打設してもよい。
【0034】
次に、図3(ロ)に示すように、柱脚本体部1を吊り上げ、柱脚支承材2内に建て込む。柱脚本体部1を柱脚支承材2内の所定位置に仮置きした後、ベースプレート5と柱脚支承側板部8との間に、楔15‥を挿入し、柱脚本体部1を柱脚支承材2内に仮固定する。
【0035】
次に、図3(ハ)に示すように、柱脚本体部1を梁などに固定した後、楔15‥を取り外し、ベースプレート5の外周部に、ベースプレート側板10を取り付ける。ベースプレート側板10は、ペースプレート5の外周形状に合わせて事前に屈曲させられた一枚の鋼板であってもよいし、一枚の平状の鋼板を取り付け時にベースプレート5の外周形状に合わせて屈曲させてもよいし、複数の鋼板からなるものであってもよい。なお、ベースプレート側板10の高さは、柱脚支承底板部7からベースプレート5の上面部までの高さに合うように揃えられている。
【0036】
次に、図3(ニ)に示すように、柱脚支承側板部8とベースプレート側板10との間のベースプレート固定材11としてのモルタルを充填し、硬化させる。モルタルの充填高さは、ベースプレート側板10の天端と同じベースプレート5の上面高さとする。
【0037】
最後に、図3(ホ)に示すように、弾性体14を介して、柱脚押さえ材13,13を柱脚支承側板間に取り付け、柱脚本体部1を柱脚支承材2内に支持する。
【0038】
柱脚のベース基礎3への取り付け後、必要に応じて、図3(ヘ)に示すように、一階土間コンクリート16,16などを打設してもよいが、その場合には、柱脚部分はコンクリートで被覆しない。
【0039】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、転がり部として、半円球型の場合について示したが、柱脚の曲げの支点となるものであれば、その形状に限定はなく、図4に示すように非半円球型であってもよいし、図5に示すように、柱脚支承底板部が平板状ではなく、転がり部と柱脚支承底板部の一方が凹でもう一方が凸となっており、両者の組み合わせで、柱脚の曲げの支点となっていてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、転がり部が半円球型をしており、ベースプレートが平面視円型をしており、転がり部を支点として柱脚が全方向に回転することができる場合について示したが、建物の構造上、回転する向きに方向性がある場合には、例えば、転がり部は、図6に示すように、半円筒状であってもよい。
【0041】
また、柱脚支承材とベース基礎との取り合いについても、上記実施形態に限定される必要はなく、例えば、図7に示すように、柱脚支承材がベース基礎内に埋め込まれ、柱脚のせん断力を、柱脚支承側板部を介してダイレクトにベース基礎に伝達されるようになされていてもよい。ここで、請求項のベース基礎上面部とは、ベース基礎の上平面部のみを意味するのではなく、図7に示すように、ベース基礎の上面に凹部がある場合には、凹部内の上面部を含む意味で用いられているのはいうまでもない。
【0042】
また、上記の実施形態では、ベースプレートの周囲にベースプレート側材を設け、ベースプレート側材と柱脚支承側板部の間に、ベースプレート固定材としてモルタルを設けた場合についてしめしたが、ベースプレート側材は必ずしも必要なく、ベースプレート固定材としてモルタルを柱脚施工時に打設せず、定型の材料を用いる場合では、ベースプレートと柱脚支承側板部との間に、ベースプレート側材なしでベースプレート固定材を介設させてもよい。この場合、定型の材料に、プレキャストされたモルタルも含むことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1・・・柱脚本体部
2・・・柱脚支承材
3・・・ベース基礎
4・・・柱材
5・・・ベースプレート
6・・・転がり部
7・・・柱脚支承底板部
8・・・柱脚支承側板部
9・・・アンカーボルト
10・・・ベースプレート側材
11・・・ベースプレート固定材
13・・・柱脚押さえ材
14・・・弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材と、ベースプレートと、該ベースプレートを介して該柱材の下端部に設けられた転がり部からなる柱脚本体部と、
ベース基礎に固定され、ベース基礎上面部に当接する柱脚支承底板部と、該柱脚支承底板部の周囲に立設する柱脚支承側板部からなる上方開放の函体である柱脚支承材とからなり、
該柱脚本体部は該柱脚支承材内に、転がり部が柱脚支承底板部に当接して立設し、ベースプレート側部が柱脚支承材により支持されるとともに、
柱脚支承側板部間に取り付けられた柱脚押さえ材により、柱脚本体部の、柱脚支承材からの抜けが規制され、
柱脚の軸力とせん断力が柱脚支承材を介してベース基礎へ伝達されることを特徴とする柱脚のピン接合構造。
【請求項2】
ベースプレートが平面視円型である請求項1に記載の柱脚のピン接合構造。
【請求項3】
前記ベースプレートと柱脚支承側板部との間に、ベースプレート固定材が介設されている請求項1乃至2に記載の柱脚のピン接合構造。
【請求項4】
ベースプレート固定材が、モルタルである請求項3に記載の柱脚のピン接合構造。
【請求項5】
ベースプレートと柱脚押さえ材との間に弾性体が介設された請求項2乃至4に記載の柱脚のピン接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−158942(P2012−158942A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20309(P2011−20309)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)