説明

栓体

【課題】栓体が食器洗い機で高温水洗浄されたときでも、栓部材と栓カバー部材の組み合わせ目から空気断熱室内への浸水を防止する。
【解決手段】携帯飲料容器3に着脱可能であり、空気断熱室2の底壁4が形成された栓部材5と、空気断熱室2の天井壁6が形成された栓カバー部材7とを上下に組み合わせて空気断熱室2が形成されると共に、該組み合わせによって栓部材5の周壁8の上端と栓カバー部材7の下端間の配置空間9に圧縮状態に配置されたパッキン10が空気断熱室2を気密に密封している栓体1で、栓カバー部材7の下面に、前記組み合わせによって周壁8の外側に位置する支持壁20を設け、この支持壁20が空気断熱室2の内圧上昇による周壁8の外側への倒れを抑えることにより、栓体1の全体を80℃の温水に20分間浸けてもパッキン10の密封が維持されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、飲料容器の容器口を閉塞する栓体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料容器に着脱可能な栓体として、空気断熱室を有するものが利用されている。この種の栓体は、栓部材と栓カバー部材の成型を容易にするため、空気断熱室の底壁が形成された栓部材と、空気断熱室の天井壁が形成された栓カバー部材とを上下に組み合わせて空気断熱室が形成されるようになっている(特許文献1)。
【0003】
空気断熱室は、気密構造のものと、飲料容器内の負圧解消用に空気断熱室を通じて栓体の弁から外気を容器内に導入可能としたものがある。気密構造のものでは、栓部材と栓カバー部材の組み合わせによって栓部材の周壁上端と栓カバー部材の下端間の配置空間に圧縮状態に配置されたパッキンが空気断熱室を気密に密封するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3144339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の栓体では、外側となる栓部材の熱容量を少なくするため、栓カバー部材に周壁を形成することで空気断熱室の内周の大部分又は全部を構成するようにしている。栓部材と栓カバー部材の組み合わせによって栓部材の周壁上端と栓カバー部材の下端間の配置空間に配置されるパッキン保持構造のため、空気断熱室の内圧が上昇し、栓カバー部材の周壁が外側に倒れる現象が起こり得た。この現象が起こると、パッキンの圧縮代が減少するが、特に問題視されていなかった。これは、飲料容器に熱水を入れる使用条件でも、パッキンの密封が破れないように栓体の放熱性を設計できること、また、係る使用条件下でパッキンの密封が破れることを許容しても栓体の容器口の閉塞機能が喪失する訳でもなく断熱性の低下位しか発生しないこと、また、飲料容器から外された栓体を考えても、通常、パッキンの密封が破れるような空気断熱室の内圧上昇が起こる事態を想定できないことが理由に挙げられる。
【0006】
ところが、近年、高温水を洗浄に用いる機能を備えた食器洗い機が一般家庭に普及し出した。栓体の正規の洗浄方法は、飲料容器から栓体を外し、自然温度の水洗浄を行い自然乾燥であるが、誤って、食器洗い機で高温水洗浄される可能性が懸念される。係る高温水洗浄では、一般に、洗浄時間が20分程度であり、この間、洗浄室内の雰囲気温度が高い。このため、栓体に与えられた熱の逃げ場がなく、空気断熱室の内圧が上昇し、パッキンの密封が破れる懸念がある。密封が破れてから温度低下で空気断熱室の内圧が低下するとき、栓部材と栓カバー部材の組み合わせ目を通じて周辺の空気が空気断熱室内へ吸い込まれるので、組み合わせ目付近の水気が空気断熱室内へ浸水する恐れがある。この浸水は、容易には蒸発せず、好ましくない。
【0007】
そこで、この発明の課題は、栓体が食器洗い機で高温水洗浄されたときでも、栓部材と栓カバー部材の組み合わせ目から空気断熱室内への浸水を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明は、飲料容器に着脱可能であり、空気断熱室の底壁が形成された栓部材と、該空気断熱室の天井壁が形成された栓カバー部材とを上下に組み合わせて該空気断熱室が形成されると共に、該組み合わせによって該栓部材の周壁上端と該栓カバー部材の下端間の配置空間に圧縮状態に配置されたパッキンが該空気断熱室を気密に密封している栓体において、前記栓カバー部材の下面に、前記組み合わせによって前記周壁の外側に位置する支持壁が設けられており、この支持壁が前記空気断熱室の内圧上昇による前記周壁の外側への倒れを抑える構成を採用した。
【0009】
栓カバー部材の下面には、栓部材との組み合わせによって栓部材の周壁の外側に位置するように支持壁を設けることができる。この支持壁が空気断熱室の内圧上昇による前記周壁の外側への倒れを抑えるようにすれば、パッキンの密封が破れることを防止できる。したがって、この発明の構成によれば、栓体が食器洗い機で高温水洗浄されたときでも、栓部材と栓カバー部材の組み合わせ目から空気断熱室内への浸水を防止することができる。
【0010】
具体的には、栓体の全体を80℃の温水に20分間浸けても前記支持壁により前記パッキンの密封が維持されるようにするとよい。この密封維持性を与えておけば、凡その家庭用の食器洗い機での高温水洗浄に対応して空気断熱室内への浸水を無くすことができる。
【0011】
例えば、パッキン保持構造と支持壁の具体例として、前記パッキンの内周が前記栓カバー部材の周壁外面に嵌着されており、前記組み合わせによって前記栓カバー部材の周壁外面及び下端と前記栓部材の周壁内面とで前記配置空間が形成され、該配置空間内で前記パッキンが径方向に圧縮されるようになっており、前記支持壁が前記栓部材の周壁の外側への倒れを前記パッキンと同高さのところで抑える構成を採用することができる。
【0012】
別の具体例として、前記パッキンの内周が前記栓カバー部材の周壁外面に嵌着されており、前記組み合わせによって前記栓カバー部材の周壁外面及び下端と前記栓部材の周壁内面とで前記配置空間が形成され、該配置空間内で前記パッキンが上下方向に圧縮されるようになっており、前記支持壁が前記栓部材の周壁の外側への倒れを前記パッキンと同高さのところで抑える構成を採用することができる。
【0013】
さらに別の具体例として、前記パッキンが前記栓カバー部材の下面のパッキン溝に保持されており、前記パッキン溝と前記栓部材の周壁の上端とで前記配置空間が形成されており、前記支持壁が前記パッキン溝の外側の溝壁から下方に延長されており、前記組み合わせによって前記栓部材の周壁上端が前記パッキンの下面に突き合わされる構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、この発明は、前記栓カバー部材の下面に、前記組み合わせによって前記周壁の外側に位置する支持壁を設け、この支持壁で前記空気断熱室の内圧上昇による前記周壁の外側への倒れを抑えるようにしたので、栓体が食器洗い機で高温水洗浄されたときでも、栓部材と栓カバー部材の組み合わせ目から空気断熱室内への浸水を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る栓体が飲料容器に装着された状態の側面を図中左半分に示し、鉛直平面上の断面を図中右半分に示した半断面図
【図2】図1のパッキン付近の拡大図
【図3】第1実施形態に係る栓体の分解図
【図4】第2実施形態に係るパッキン付近を図2と同じ断面で示した断面図
【図5】第3実施形態に係るパッキン付近を図2と同じ断面で示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図3に示すように、この発明の第1実施形態に係る栓体1は、空気断熱室2を有し、飲料容器3に着脱可能なものである。空気断熱室2は、空気断熱室2の底壁4が形成された栓部材5と、空気断熱室2の天井壁6が形成された栓カバー部材7とを上下に組み合わせて空気断熱室2が形成される。該組み合わせによって栓部材5の周壁8の上端と栓カバー部材7の下端間の配置空間9に圧縮状態に配置されたパッキン10が空気断熱室2を気密に密封している。
【0017】
飲料容器3は、上面に容器口が開放されている。飲料容器3は、例えば、正規の容量を250ml〜350mlの範囲に設定することができる。飲料容器3として、適宜の断熱容器を用いることができ、例えば、真空二重容器を用いることができる。
【0018】
栓部材5と栓カバー部材7は、それぞれ合成樹脂の射出成形により一部品に形成されている。
【0019】
栓部材5の周壁8は、水平断面形状が円環状とされている。底壁4の前記円環状の中心位置で雌ねじ軸部11が形成されている。栓カバー部材7の天井壁6を貫通してねじ部材12を雌ねじ軸部11に螺合することにより、栓部材5の周壁8と栓カバー部材7の天井壁6とが全周に亘って上下に突き合わされる。このねじ止めにより、両部材5,7が組み合わされた状態に維持されている。ねじ部材12は、天井壁6の外面に固着された化粧部材13で覆い隠されている。したがって、通常、栓部材5と栓カバー部材7とが分解されることはない。底壁4の外面には、飲料容器3の内周との間を密封する容器口パッキン14が嵌着されている。
【0020】
パッキン10の内周は、栓カバー部材7の周壁15の外面に嵌着されている。この嵌着状態で前記組み合わせを行うことによって、栓カバー部材7の周壁15の外面及び下端と栓部材5の周壁8の内面とで配置空間9が形成される。
【0021】
上記のように組み立てられた栓体1は、栓カバー部材7に設けられた雄ねじ部16により飲料容器3に螺着可能となっている。飲料容器3内に面する栓部材5ではなく、栓カバー部材7に雄ねじ部16を設けることにより、断熱性を高めている。なお、栓部材5に雄ねじ部を設けることもできる。
【0022】
前記の配置空間9は、栓部材5と栓カバー部材7との組み合わせを行うことで圧縮状態のパッキン10が占有する空間である。配置空間9の任意の鉛直平面上における径方向幅は、自然状態のパッキン10よりも狭く設定されている。これにより、前記組み合わせを行うことで配置空間9内で前記パッキンが径方向に圧縮されるようになっている。
【0023】
また、栓部材5の周壁8が突き合わされる栓カバー部材7の下端は、パッキン10を受ける部分よりも上方に位置した円周溝17の底面とされている。前記組み合わせによって、栓部材5の周壁8が突き合わされると、周壁8の内面かつ上端の円錐面部18がパッキン10に接触後、さらに両部材5,7が締結されてから周壁8が円周溝17に突き当たる。このとき、前記組み合わせによって、パッキン10は、栓カバー部材7の周壁15及び下端と栓部材5の周壁8の円錐面部18とで内側斜め上方に向って圧縮され、その結果、上下方向にも圧縮されるようになっている。
【0024】
仮に、周壁15が無く、空気断熱室2の内圧が上昇すると、周壁8が全体として自由に外側に倒れることができるならば、配置空間9の径方向幅及び上下方向幅がいずれも拡大するので、パッキン10の径方向圧縮代及び上下方向圧縮代は、いずれも減少することになる。なお、周壁8の内面と底壁4との間に連続する複数のリブ19により、周壁8の内外への倒れに対する強度が高められている。複数のリブ19は、周壁15から周方向複数個所で下方に延びる各延長壁の間に嵌る。リブ19と延長壁の周方向係合により、栓部材5と栓カバー部材7とが相対的に回り止めされている。周壁8のうち周壁15と水平に対向する部分は、内面側にリブ19を形成できず、その外面側にもパッキン10を嵌着するためリブを形成することが困難なので、強度を高め難い。
【0025】
栓カバー部材7の下面には、前記組み合わせによって栓部材5の周壁8の外側に位置する支持壁20が設けられている。この支持壁20は、前記円環状の中心と同心の円環壁になっている。支持壁20の内面と周壁8の外面とで栓部材5と栓カバー部材7の組み合わせ目が形成されている。支持壁20は、空気断熱室2の内圧上昇によって周壁8が外側へ倒れようとすると、これをパッキン10と同高さのところで受け、効果的に周壁8の外側への倒れを抑える。
【0026】
栓体1の全体を80℃の温水に20分間浸けても支持壁20によりパッキン10の密封が維持されるように、栓カバー部材7の周壁15,支持壁20、栓部材5の周壁8、及びパッキン10の圧縮代の関係が設定されている。
【0027】
したがって、第1実施形態によれば、凡その家庭用の食器洗い機で栓体1が高温水洗浄されたときでも、栓部材5と栓カバー部材7の組み合わせ目から空気断熱室2内への浸水が生じる心配はない。
【0028】
この発明の第2実施形態を図4に基いて説明する。以下、第1実施形態と同じに考えられる構成要素の説明を省略し、相違点を中心に述べる。図示から明らかなように、第2実施形態は、栓部材の周壁8の円錐面部18でパッキン10を押すことを止め、パッキン10が栓カバー部材の周壁15及び下端と栓部材の周壁8とで径方向にのみ圧縮されるように変更したものである。この例では、周壁8の外側への倒れを許すと、パッキン10の密封が破れ易いので、支持壁20を設ける意義が大きい。
【0029】
この発明の第3実施形態を図5に基いて説明する。第3実施形態は、パッキン21が栓カバー部材の下面のパッキン溝22に保持されている。パッキン溝22と栓部材の周壁23の上端とで配置空間24が形成されている。支持壁25がパッキン溝22の外側の溝壁から下方に延長されている。栓部材及び栓カバー部材が締結される組み合わせによって栓部材の周壁23の上端突起部26がパッキン21の下面に突き合わされてから、さらに締結される。このため、パッキン溝22の内面及び周壁23の上端突起部26によりパッキン21が上下方向に圧縮され、気密に密封される。周壁23の外側への倒れを許すと、上端突起部26がパッキン21から下側へ逃げることになるので、密封が破れ得るが、支持壁25により周壁23の外側への倒れを抑えることができる。支持壁25は、溝壁と一連に形成されるので、金型の複雑化を避けることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 栓体
2 空気断熱室
3 飲料容器
4 底壁
5 栓部材
6 天井壁
7 栓カバー部材
8,23 周壁
9,24 配置空間
10,21 パッキン
11 雌ねじ軸部
12 ねじ部材
15 周壁
17 円周溝
18 円錐面部
20,25 支持壁
22 パッキン溝
26 上端突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料容器に着脱可能であり、空気断熱室の底壁が形成された栓部材と、該空気断熱室の天井壁が形成された栓カバー部材とを上下に組み合わせて該空気断熱室が形成されると共に、該組み合わせによって該栓部材の周壁上端と該栓カバー部材の下端間の配置空間に圧縮状態に配置されたパッキンが該空気断熱室を気密に密封している栓体において、前記栓カバー部材の下面に、前記組み合わせによって前記周壁の外側に位置する支持壁が設けられており、この支持壁が前記空気断熱室の内圧上昇による前記周壁の外側への倒れを抑えることを特徴とする栓体。
【請求項2】
全体を80℃の温水に20分間浸けても前記支持壁により前記パッキンの密封が維持される請求項1に記載の栓体。
【請求項3】
前記パッキンの内周が前記栓カバー部材の周壁外面に嵌着されており、前記組み合わせによって前記栓カバー部材の周壁外面及び下端と前記栓部材の周壁内面とで前記配置空間が形成され、該配置空間内で前記パッキンが径方向に圧縮されるようになっており、前記支持壁が前記栓部材の周壁の外側への倒れを前記パッキンと同高さのところで抑える請求項1又は2に記載の栓体。
【請求項4】
前記パッキンの内周が前記栓カバー部材の周壁外面に嵌着されており、前記組み合わせによって前記栓カバー部材の周壁外面及び下端と前記栓部材の周壁内面とで前記配置空間が形成され、該配置空間内で前記パッキンが上下方向に圧縮されるようになっており、前記支持壁が前記栓部材の周壁の外側への倒れを前記パッキンと同高さのところで抑える請求項1から3のいずれか1項に記載の栓体。
【請求項5】
前記パッキンが前記栓カバー部材の下面のパッキン溝に保持されており、前記パッキン溝と前記栓部材の周壁の上端とで前記配置空間が形成されており、前記支持壁が前記パッキン溝の外側の溝壁から下方に延長されており、前記組み合わせによって前記栓部材の周壁上端が前記パッキンの下面に突き合わされる請求項1又は2に記載の栓体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−97978(P2011−97978A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252706(P2009−252706)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【Fターム(参考)】