説明

核酸増幅法

【課題】安価かつ簡便に検出可能な新規恒温増幅法を提供すること。
【解決手段】ニッキングエンザイム認識配列を含むプライマーを用いて分析対象核酸にニッキングエンザイム認識配列を導入し、前記プライマーとニッキングエンザイムと鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを用いて、前記分析対象核酸の特定領域を恒温増幅することを特徴とする核酸増幅法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸(DNAもしくはRNA)増幅方法に関する。より詳しくは、ニッキングエンザイムの認識部位を有するプライマーと鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを用いた、新規な恒温核酸増幅法に関する。
【背景技術】
【0002】
生命現象の研究において、DNAやRNAの増幅は様々な目的に用いられている。例えば、ある遺伝子の発現解析及び発現量を定量する方法として、コンペティティブPCR法(非特許文献1)やリアルタイムPCR法(非特許文献2)などが知られている。これらはいずれも一般的な核酸増幅法であるPCR(Polymerase chain reaction)法(非特許文献3)を応用して、増幅された遺伝子から発現量を判定する方法である。
【0003】
上記解析に用いる核酸増幅法は、二本鎖鋳型DNAの一本鎖への変性、一本鎖鋳型DNAへのプライマーのアニーリング、プライマーからの相補鎖の伸長の3つ、もしくは変性、伸長の2つの工程からなっていて、高温度から低温度へのサイクルを繰り返す工程が不可欠となる。この工程を行うために、PCR法は正確な温度制御を行うことが可能なサーマルサイクラーを使用して行う必要がある。また、装置及び反応液を設定温度にするために要する時間はサイクル数に応じて増大していくため、解析に時間がかかってしまう。
【0004】
そこで、上記問題点を解決するために恒温条件下で実施可能な核酸増幅法が開発された。例えば、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法 (非特許文献4)、SDA(strand displacement amplification)法 (非特許文献5)、3SR(self-sustained sequence replication)法 (非特許文献6)、TMA(transcription-mediated amplification)法 (特許文献1)、Qβ replicase amplification法 (特許文献2)、LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法 (非特許文献7)などが主な方法として知られている。これらの恒温核酸増幅法は一定温度で保温された反応混合物中で、プライマーの伸長や、一本鎖伸長産物へのプライマーのアニーリングや、それに続くプライマーの伸長が行われる。
【0005】
これらの恒温核酸増幅法のうち鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを利用する方法(SDA法、LAMP法)では、増幅の起点となるプライミングサイトを設けるために基質としてdATPのかわりにdATPαSを使用したり(SDA法)や、プライマー伸長産物が自己ループを形成するように設計されている(LAMP法)。このため、SDA法では酵素による基質の取り込み効率が低く、その結果増幅効率が落ちるといった問題や、LAMP法ではプライマー設計が困難でさまざまな検査項目に対して最適のプライマーを設計することが困難であるなどの問題をかかえており、これらの問題を解決できる核酸の恒温核酸増幅方法が求められている。
【0006】
一方、ニッキングエンザイムを用いて二本鎖DNAの片方にニックを精製させ、生じたニックをプライミングサイトとして15塩基程度のオリゴヌクレオチドを合成させる方法も報告されている(非特許文献8)が、この方法では20塩基を超える核酸増幅はできない。
【特許文献1】日本国特許第3241717号
【特許文献2】日本国特許第2710159号
【非特許文献1】A. Wang, et al., Proc Natl Acad Sci USA, 86, 9717-9721(1989)
【非特許文献2】S. H. Aliyu, et al., Journal of Antimicrobial, 54, 968 (2004)
【非特許文献3】R. K. Saiki, et al., Science, 239, 487-491 (1988)
【非特許文献4】J. Compton, et.al., Nature, 350, 91-92 (1991)
【非特許文献5】G. T. Walker, et. al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 89, 392-396 (1992)
【非特許文献6】J.C. Guatelli, et al., Proc Natl Acad Sci USA, 87, 1874-1878 (1990)
【非特許文献7】T. Notomi, et al., Nucleic Acids Research, 28, e63 (2000)
【非特許文献8】Jeffrey Van Ness, et al., Proc Natl Acad Sci USA, Vol.100, No.8, 4504-4509 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、従来の恒温増幅法の問題点を解決し、安価かつ簡便に遺伝子の発現、もしくはその定量を可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼとニッキングエンザイムを用いた恒温増幅法を発明した。本発明では、標的配列を認識する配列の5'末端側にニッキングエンザイムの認識配列を含むアンカー配列を有する増幅用プライマーを用いる。標的遺伝子にアニールしたプライマーが伸長した結果、両末端にニッキングエンザイムの認識配列を有する二本鎖DNAが生じる。二本鎖DNAに対してニッキングエンザイムを作用させ、二本鎖DNAのうちの一方の鎖だけホスホジエステル結合が切断されたニックを生じさせる。生じたニックをプライミングサイトとして用いることで標的配列の増幅が可能となる。ニックはニッキングエンザイムの認識配列に対して1つずつ生じるため、二本鎖DNAの両末端に1つずつのニックが生じることになる。このニックに対して鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼと基質を作用させると、DNA鎖が合成される。鎖置換活性のため、熱変性ステップを経ることなく恒温にてDNA鎖の伸長が進行し、両末端にニッキングエンザイムの認識配列を有する二本鎖DNAが再生する。鎖置換型活性によって剥がされたDNA鎖には、増幅プライマーあるいはその相補鎖DNAがハイブリダイズし、新たなDNA合成の起点となる。
【0009】
つまり、本発明によれば、二本鎖DNAに対してニッキングエンザイムの認識配列を導入し、ニッキングエンザイムによって二本鎖DNAにニックを生じさせ、生じたニックからDNA鎖を伸長させて二本鎖DNAを合成する。ニッキングエンザイムによって二本鎖DNAにニックが生じ、生じたニックをプライミングサイトとしてDNA鎖が伸長するステップが実質的に30℃〜75℃の恒温条件下で繰り返され、標的配列の恒温増幅が可能となる。
【0010】
本発明では、二本鎖核酸を構成する各鎖にニッキングエンザイムの認識配列を導入し、各ニックの位置からDNA鎖を伸長させるため、2つのニックの位置に挟まれた領域が増幅される領域となる。通常ニッキングエンザイムの認識配列は5〜7塩基であり、認識配列の内部あるいは認識配列から4塩基程度3'側のホスホジエステル結合にニックを生じさせる。標的遺伝子に特異的にハイブリダイズする配列として15〜25塩基長程度の塩基配列を有し、さらにその5'末端側に必要に応じて適当なリンカー配列(0〜5塩基長)を有し、さらにその5'末端側にニッキングエンザイムの認識配列(5〜7塩基長)を有するプライマーを用いてニッキングエンザイムの認識配列を導入する。このためニックの生じるサイトはプライマー3'末端から10〜30塩基程度の位置になる。以上のようなプライマーを用いて両末端にニッキングエンザイムの認識配列を有するDNAを作成するため、2つのニックの位置に挟まれる領域は少なくとも21塩基以上となる。従って本発明で増幅されるDNA領域の長さは少なくとも21塩基長以上となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の核酸増幅方法は、通常の基質であるdATPを使用して容易にプライマー設計が可能であり、安価かつ簡便な恒温核酸増幅法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1のフローを図1に示す。本発明は核酸配列を増幅、検出するための方法であって、標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な(相補的な)配列を有する配列2と、前記配列2の5’末端側に配置され標的遺伝子1の塩基配列に対して非相補でニッキングエンザイムの認識配列を含む配列3とを有するプライマー4と、標的遺伝子1に対してプライマー4よりも上流側(プライマー4の伸張方向と反対側)にハイブリダイズしかつ標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な(相補的な)配列5を有するプライマー6と、標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な(相補的な)配列を有する配列12と、前記配列12の5'末端側に配置され標的遺伝子1の塩基配列に対して非相補でニッキングエンザイムの認識配列を含む配列13とを含むプライマー14と、標的遺伝子1に対して14よりも上流側(プライマー14の伸張方向と反対側)にハイブリダイズしかつ標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な(相補的な)配列15を有するプライマー16とを用いて、前期標的遺伝子1を鋳型としてプライマー4とプライマー14とプライマー6とプライマー16が伸張する第1の工程と、第1の工程の結果得られるニッキングエンザイムの認識配列を含む二本鎖DNA8に対してニッキングエンザイムを作用させてニックを有する二本鎖DNA9を生じさせる第2の工程と、ニックを有する二本鎖DNA9のニックをプライミングサイトとして、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを作用させてDNA鎖を伸張させ、ニッキングエンザイムの認識配列を含む二本鎖DNA8が再生する第3の工程とを有することを特徴とする遺伝子増幅方法に関する。
【0013】
本発明の第1の発明フローのうち、ニッキングエンザイムの認識配列を含む二本鎖DNA8が得られるまでの詳細を図2に示す。標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な配列を有する配列2と、ニッキングエンザイムの認識配列を含む配列3とを有するプライマー4と、標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な配列を有する配列12と、ニッキングエンザイムの認識配列を含む配列13とを含むプライマー14を、前記標的遺伝子1を鋳型として伸張させる。標的遺伝子1に対してプライマー4よりも上流側(プライマー4の伸張方向と反対側)にハイブリダイズしかつ標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な配列5を有するプライマー6が、第1の工程で得られたプライマー4の伸張産物21を剥がしながら伸張し、また標的遺伝子1に対してプライマー14よりも上流側(プライマー14の伸張方向と反対側)にハイブリダイズしかつ標的遺伝子1の塩基配列に対して特異的な配列15を有するプライマー16が、第1の工程で得られたプライマー14の伸張産物31を剥がしながら伸張する。プライマー伸張産物21と31とがハイブリダイズして二本鎖DNA32となり、二本鎖DNA32が伸張してニッキングエンザイムの認識配列を含む二本鎖DNA33が生じる。二本鎖DNA33は図1中の二本鎖DNA8に相当し、かくして標的遺伝子のそれぞれの鎖にニッキングエンザイムの認識配列を導入することができる。
【0014】
本発明の第2の発明フローを図3に示す。ニッキングエンザイムの認識配列を含む標的遺伝子41に対して、特異的な(相補的な)配列を有する配列42と前記配列42の5’末端側に配置され標的遺伝子42の塩基配列に対して非相補でニッキングエンザイムの認識配列を含む配列43とを有するプライマー44と、標的遺伝子41に対してプライマー44よりも上流側(プライマー44の伸張方向と反対側)にハイブリダイズしかつ標的遺伝子41の塩基配列に対して特異的な(相補的な)配列45を有するプライマー46と、標的遺伝子41に対して特異的な(相補的な)配列52を含むプライマー54とを用いて、ニッキングエンザイムの認識配列を含む標的遺伝子41を鋳型として伸張させる。なお、プライマー44とプライマー54は、標的遺伝子41のニッキングエンザイムの認識配列53を挟むような位置にそれぞれハイブリダイズするように設計しておく。
【0015】
標的遺伝子41に対して特異的な(相補的な)配列45を有するプライマー46が、プライマー44の伸張産物51を剥がしながら伸張する。剥がされた伸張産物51に対して標的遺伝子41に対して特異的な配列を有する配列52を含むプライマー54がハイブリダイズして伸張し、ニッキングエンザイムの認識配列を複数有する二本鎖DNA55が生じる。その後、ニッキングエンザイムを作用させてニックを有する二本鎖DNA54を生じさせる。生じたニックをプライミングサイトとして、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを作用させてDNA鎖を伸張させ、ニッキングエンザイムの認識配列を含む二本鎖DNA55が再生する。再度二本鎖DNA53に対してニッキングエンザイムを作用させて、ニックを有する二本鎖DNA54を生じさせ、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼによってニックをプライミングサイトとしてDNA鎖を伸張させ、二本鎖DNA55が生じる。この工程が繰り返されることによって標的遺伝子の特定領域を増幅することができる。
【0016】
本発明の第3の発明フローを図4に示す。増幅対象である標的RNA61に対して、特異的な(相補的な)配列を有する配列62と前記配列62の5’末端側に配置され標的RNA61の配列に対して非相補でニッキングエンザイムの認識配列を含む配列63とを有するプライマー64を用いて逆転写反応を行う。逆転写反応によりニッキングエンザイムの認識配列を含むcDNA65が生じる。cDNA65に対して、特異的な(相補的な)配列(つまり標的RNAの相補配列に対して特異的な(相補的な)配列)を有する配列72とニッキングエンザイムの認識配列を含む配列73とを有するプライマー74と、cDNA65に対してプライマー74よりも下流側(プライマー74の伸張方向と反対側)にハイブリダイズしかつcDNA65の塩基配列に対して特異的な(相補的な)配列75を有するプライマー76とを用いて、cDNA65を鋳型として伸張させる。cDNA65に対して特異的な配列を有するプライマー76が、プライマー74の伸張産物81を剥がしながら伸張する。剥がされた伸張産物81に対して、プライマー64がハイブリダイズして伸張し、ニッキングエンザイムの認識配列を複数有する二本鎖DNA83が生じる。その後、ニッキングエンザイムを作用させてニックを有する二本鎖DNA84を生じさせる。生じたニックをプライミングサイトとして、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを作用させてDNA鎖を伸張させ、ニッキングエンザイムの認識配列を含む二本鎖DNA83が再生する。再度二本鎖DNA83に対してニッキングエンザイムを作用させて、ニックを有する二本鎖DNA84を生じさせ、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼによってニックをプライミングサイトとしてDNA鎖を伸張し二本鎖DNA83を得る。この工程が繰り返されることによって標的RNAを実質的に30℃〜75℃の恒温条件下で増幅することができる。
【0017】
なお、本発明で利用可能なニッキングエンザイムの例としては、BstNB(認識配列:GAGTC)、N.Alw I(認識配列:GGATC)、N.BbvC IA(認識配列:GCTGAGG)、N.BbvC IB(認識配列:CCTCAGC)等を挙げることができる。また、本発明で利用可能な鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼの例としては、BstDNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(exo-)DNAポリメラーゼ、Deep Vent DNAポリメラーゼ、Deep Vent(exo-)DNAポリメラーゼ、9°Nm DNAポリメラーゼ、Therminator DNAポリメラーゼ、E coli. DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント、Klenowフラグメント(3'→5'exo-)、Phi29 DNAポリメラーゼ等を挙げることができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
1. 実施例1で使用したプライマー
フォワード側ニッキングエンザイム認識配列導入プライマー:
5'- gtggt gagtc acaac ggtgg ctgga cccca ggc -3' (配列番号1)
フォワード側プライマー:
5'- caagg gcctt tgcgt cag -3' (配列番号2)
リバース側ニッキングエンザイム認識配列導入プライマー:
5'- gtggt gagtc acaac gcccc tgggc tcacc ccc -3' (配列番号3)
リバース側プライマー:
5'- atctg ggaga caggc agg -3' (配列番号4)
【0019】
2. 実施例1で使用した反応液の組成(括弧内は終濃度の値を示す)
Tris-HCl pH8.2 (15 mM), KCl (80 mM), (NH4)2SO4(5 mM), MgSO4 (1 mM), MgCl2 (5 mM)、DTT (0.5 mM), dATP (0.3 mM), dCTP (0.3 mM), dGTP (0.3 mM), dTTP (0.3 mM), TritonX-100 (0.05%)
【0020】
3. 実施例1で使用した酵素の組成
BstDNAポリメラーゼ 8U、N. BstNB Iニッキングエンザイム 10U
【0021】
本発明の第1の発明フローを用いて標的遺伝子の増幅が可能かを確認するために、増幅産物を電気泳動で検出した。鋳型はヒトゲノムを用い、インシュリン遺伝子を増幅するために上記1.に記載のプライマーを使用した。プライマー4は、5'末端より1〜10塩基はニッキングエンザイムの認識配列を含む配列、11〜15塩基はリンカー配列、16〜33塩基はインシュリン遺伝子に特異的な配列からなるニッキングエンザイム認識配列導入用フォワードプライマーである。プライマー6はインシュリン遺伝子に特異的な配列からなるフォワードプライマーである。プライマー14は5'末端より1〜10塩基はニッキングエンザイムの認識配列を含む配列、11〜15塩基はリンカー配列、16〜33塩基はインシュリン遺伝子に特異的な配列からなるニッキングエンザイム認識配列導入用リバースプライマーである。プライマー16はインシュリン遺伝子に特異的な配列からなるリバースプライマーである。
【0022】
増幅反応液の組成及び酵素の組成は上記2.及び3.に示したとおりである。鋳型となる検体ヒトゲノム、プライマーを含む反応液を60℃に設定したヒートブロックに設置して120分間インキュベートした。その後、得られた反応生成物をチップ電気泳動装置SV1210(日立ハイテクノロジーズ)で電気泳動分析した。電気泳動結果を図5の電気泳動イメージ90に示す。レーン1はマーカを電気泳動した結果、レーン2は反応性生物を電気泳動した結果をそれぞれ示す。その結果、予測された112bpの増幅産物91が確認できた。この結果は、本発明の第1の方法により目的の増幅産物が得られたことを示しており、本発明を用いて遺伝子を恒温増幅し、検出できることが確認できた。
【0023】
〔実施例2〕
1. 実施例2で使用したプライマー
逆転写用ニッキングエンザイム認識配列導入プライマー:
5'-catta gagtc tgttg tcgca agcac cctat cag-3' (配列番号5)
フォワード側ニッキングエンザイム認識配列導入プライマー:
5'-catta gagtc tgttg aatgc ctgga gattt ggg-3' (配列番号6)
フォワード側プライマー:
5'-tttct tggat aaacc cgc-3' (配列番号7)
【0024】
2. 実施例2で使用したモレキュラービーコンプローブ
検出用モレキュラービーコンプローブ:
5'‐cgacg tggga aatcg cgtgt agtat gggac gtcg‐3' (配列番号8)
【0025】
3. 実施例2で使用した反応液の組成(括弧内は終濃度の値を示す)
Tris-HCl pH8.4 (35 mM), KCl NaCl (50 mM), (NH4)2SO4(5 mM), MgSO4 (1 mM), MgCl2 (5 mM)、DTT (0.5 mM), dATP (0.3 mM), dCTP (0.3 mM), dGTP (0.3 mM), dTTP (0.3 mM), TritonX-100 (0.05%)
【0026】
4. 実施例2で使用した酵素の組成
BstDNAポリメラーゼ 16U、N. BstNB Iニッキングエンザイム 10U
【0027】
本発明の第3の発明フローを用いて標的遺伝子の増幅が可能かを確認するために、増幅産物をリアルタイム検出装置を用いて検出した。鋳型はC型肝炎ウイルス(HCV, Hepatitis C Virus)から抽出したRNAを用い、ウイルスRNAを逆転写し、増幅するために上記1.に記載のプライマーを使用した。プライマー64は、5'末端より1〜10塩基はニッキングエンザイムの認識配列を含む配列、11〜15塩基はリンカー配列、16〜33塩基はウイルスRNAに特異的な配列からなる逆転写用ニッキングエンザイム認識配列導入プライマーである。プライマー74は5'末端より1〜10塩基はニッキングエンザイムの認識配列を含む配列、11〜15塩基はリンカー配列、16〜33塩基はウイルスRNAから逆転写反応により得られたcDNAに特異的な配列からなるニッキングエンザイム認識配列導入用フォワードプライマーである。プライマー76はウイルスRNAから逆転写反応により得られたcDNAに特異的な配列からなるフォワードプライマーである。検出プローブは上記2.記載のモレキュラービーコンプローブを使用した。モレキュラービーコンプローブは5'末端にFAM、3'末端にBHQ1が標識されており、5'末端から1〜6塩基と、29〜34塩基はステム配列、7〜28塩基は増幅産物とハイブリダイズする配列である。
【0028】
増幅反応液の組成及び酵素の組成の具体例は上記3.及び4.に示したとおりである。まず逆転写用プライマーを用いて、従来法に従って逆転写反応を行い、cDNAを作製した。具体的には鋳型となる検体RNA、逆転写用プライマーを含む反応液を42℃に設定したヒートブロックに設置して60分間インキュベートした。同時に、ウイルスRNAを含まないサンプルにおいても、陰性反応として同様の逆転写反応を行った。その後、得られた逆転写産物に逆転写用プライマー、フォワード用の2種のプライマーを含む反応液を63℃に設定した蛍光マイクロプレートリーダー(コロナ電気)に設置して、反応液の蛍光強度の時間変化を測定した。陰性反応も同様の測定を行った。測定結果を図6のグラフ95に示す。横軸は時間、縦軸はFAMの蛍光強度を示し、グラフ中、黒丸のプロットは増幅産物に由来する蛍光強度を示し、白三角のプロットはウイルスRNAを含まない陰性反応由来の蛍光強度を示しており、それぞれの結果を同じグラフにプロットしたものである。黒丸のプロットはFAMの蛍光強度が時間とともに増加しており、これにより本発明の第3のフローにより増幅産物が生じたことが確認できた。一方、白三角のプロットでは蛍光強度は変化せず、増幅産物が生成していないことがわかった。以上より、本発明を用いて標的RNAを増幅し、検出できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、遺伝子解析における核酸(DNAもしくはRNA)の増幅に有用である。また、ウイルス、原核細胞生物、真核細胞生物等の特定の遺伝子の有無の判定方法及び該方法で増幅された核酸の検出方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の第1の発明フローを示した図である。
【図2】図2は、本発明の第1の発明フローのうち、ニッキングエンザイムの認識配列を含む二本鎖DNAが得られる過程を示した図である。
【図3】図3は、本発明の第2の発明フローを示した図である。
【図4】図4は、本発明の第3の発明フローを示した図である。
【図5】図5は、本発明の第1の発明フローによって得られた増幅産物を電気泳動解析した図である。
【図6】図6は、本発明の第3の発明フローによる増幅過程をリアルタイム検出した結果を示した図である。
【符号の説明】
【0031】
1、41…標的遺伝子
2、5、12、15、42、45、52、62、72、75…標的遺伝子に特異的な配列
3、13、43、53、63、73…ニッキングエンザイム認識配列
4、6、14、16、44、46、54、64、74、76…プライマー
8、32、33、55、83…二本鎖DNA
9、54、84…ニックを有する二本鎖DNA
21、31、51、81…プライマー伸長産物
61…標的RNA
65…cDNA
90…電気泳動イメージ
91…増幅産物
95…リアルタイム検出における蛍光強度を示すグラフ
【配列表フリーテキスト】
【0032】
配列番号1 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、インシュリン遺伝子とハイブリダイズするフォワードプライマー
配列番号2 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、インシュリン遺伝子とハイブリダイズするフォワードプライマー
配列番号3 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、インシュリン遺伝子とハイブリダイズするリバースプライマー
配列番号4 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、インシュリン遺伝子とハイブリダイズするリバースプライマー
配列番号5 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、C型肝炎ウイルスRNAとハイブリダイズするリバースプライマー
配列番号6 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、C型肝炎ウイルスRNAから作製したcDNAとハイブリダイズするフォワードプライマー
配列番号7 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、C型肝炎ウイルスRNAから作製したcDNAとハイブリダイズするフォワードプライマー
配列番号8 ‐人工配列の説明:本発明に使用する、C型肝炎ウイルスRNAから作製したcDNAとハイブリダイズするモレキュラービーコンプローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象核酸の一方鎖の一部と相補的な第1配列と、前記第1配列の5’末端に配置され前記一方鎖と非相補的でニッキングエンザイムの認識配列を1箇所含む第2配列とを有する第1プライマーと、前記一方鎖の前記第1配列と相補的な配列の領域より3’末端側の領域の一部と相補的な第3配列からなる第2プライマーと、前記分析対象核酸の他方鎖の一部と相補的な第4配列と、前記第4配列の5’末端に配置され前記他方鎖と非相補的でニッキングエンザイムの認識配列を1箇所含む第5配列とを有する第3プライマーと、前記他方鎖の前記第4配列と相補的な配列の領域より3’末端側の領域の一部と相補的な第6配列からなる第4プライマーと、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼとを用いて、前記分析対象核酸を鋳型として前記第1プライマー及び前記第3プライマーの伸長鎖からなる核酸を生成する工程と、
ニッキングエンザイムを用いて、前記核酸中の各伸長鎖にニックを生成する工程と、
前記各伸長鎖上のニックをプライミングサイトとして前記核酸を増幅する工程とを有する核酸増幅方法。
【請求項2】
前記第1配列、第3配列、第4配列、及び第6配列がそれぞれ15〜25塩基長である、請求項1に記載の核酸増幅方法。
【請求項3】
前記第2配列及び第5配列がそれぞれ1〜5塩基長の任意のリンカー配列を含む、請求項1又は2に記載の核酸増幅方法。
【請求項4】
分析対象核酸はニッキングエンザイムの認識配列を1箇所含んでおり、さらに分析対象核酸の一方鎖の一部と相補的な第1配列と、前記第1配列の5'末端に配置され前記一方鎖と非相補的でニッキングエンザイムの認識配列を1箇所含む第2配列とを有する第1プライマーと、前記一方鎖の前記第1配列と相補的な配列の領域より3'末端側の領域の一部と相補的は第3配列からなる第2プライマーと、前記分析対象核酸の他方鎖の一部と相補的な第4配列を有し、前記第4配列と前記第1配列とが前記分析対象核酸に含まれるニッキングエンザイムの認識配列を挟むように位置している第3プライマーと、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼとを用いて、前記分析対象核酸を鋳型として前記第1プライマー及び前記第3プライマーの伸長鎖からなる核酸を生成する工程と、
ニッキングエンザイムを用いて、前記核酸中の各伸長鎖にニックを生成する工程と、
前記各伸長鎖上のニックをプライミングサイトとして前記核酸を増幅する工程とを有する核酸増幅方法。
【請求項5】
前記第1配列、第3配列、及び第4配列がそれぞれ15〜25塩基長である、請求項4に記載の核酸増幅方法。
【請求項6】
前記第2配列が1〜5塩基長の任意のリンカー配列を含む、請求項4又は5に記載の核酸増幅方法。
【請求項7】
分析対象核酸上の増幅される領域の長さが21塩基以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸増幅方法。
【請求項8】
前記分析対象核酸がRNAであり、逆転写反応によりニッキングエンザイムの認識配列を分析対象核酸に導入する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の核酸増幅方法。
【請求項9】
増幅反応が30℃から75℃の実質的恒温条件下で行なわれることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の核酸増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−136451(P2008−136451A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328211(P2006−328211)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】