説明

椅子付き手摺装置

【課題】操作が簡単で且つ使用上の安全性の高い椅子付き手摺装置を提供する。
【解決手段】手摺体1と、該手摺体1の中段部11a間に跨って上下方向に回動可能に取付けられた椅子体2を備えるとともに、該椅子体2を、展開姿勢では手摺体1からその前方へ延出させて人の着座を可能とし、収納姿勢では手摺体1側に収納されるように構成する。係る構成によれば、使用者は、椅子体2を収納姿勢に設定した状態で手摺部12を掴んで歩行等の動作を補助する手摺機能と、椅子体2を展開姿勢に設定して使用者の着座を可能とする椅子機能と、椅子体2を展開姿勢に設定した状態で該椅子体2に着座した使用者が手摺部12を掴んで自己の姿勢変更を補助する手摺・椅子複合機能を、任意に選択して使用することができ、椅子付き手摺装置の使用価値の多様化が図れるとともに、使用者側における利便性の向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、手摺装置に関し、さらに詳しくは展開・収納可能な椅子を備えた椅子付き手摺装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
手摺は、歩行時に手摺を掴むことで身体を安定させて安全且つ容易に歩行できるように補助することを主たる目的とするが、これに止まらず、例えば、人が立った姿勢から腰を下ろすときとか、腰を下ろした姿勢から立ち上がるときに、手摺を掴んでこれに体重の一部を預けることで腰に掛かる負担を軽減させることも目的の一つとしている。
【0003】
このような手摺の使用態様に鑑みれば、単に手摺を備えるのみではなく、該手摺に椅子が付設されていれば、歩行時あるいは腰の上げ下げ時に、例え一時的にであっても椅子に腰掛けて休むことができれば、進退疲労の軽減という点において有効であり、特に手すりを使用する者が高齢者等の身体的弱者である場合には、その効果は極めて顕著なものと考えられる。このような観点から、椅子付きの手摺が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載された椅子付き手摺は、屋内において、土間から框に上がる場合とか、框側から土間側へ下りる場合等の段差の有る場所での移動を補助することを主目的とするものであって、段差部分の異動に際して、その手摺部分を掴んで身体の移動を補助させるという手摺本来の目的に沿った使用態様の他に、例えば、土間から框に上がるときに、先ず椅子に腰掛けて体を安定させ、しかる後、手摺部分を掴んで体を引き上げることで框側での立ち上がり動作を容易にするとか、逆に框側から土間に下りるときに、先ず框側において椅子に腰掛けて体を安定させ、しかる後、手摺部分を掴んで体重を手摺側に預けながら体を移動させることで土間側での立ち上がりを容易にせんとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−305210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上掲の特許文献1に記載された椅子付き手摺は、土間に設置した左右一対の支柱と該一対の支柱の上端間に跨る手摺笠木でなる手摺部分と、該左右一対の支柱の中段部に取付けられた座面で構成されるとともに、該座面の先端側には支持脚が備えられている。そして、座面の非使用時には、座面側に上記支持脚を折り畳んだ状態でこれを上記支柱側へ収納する一方、座面の使用時には、収納状態にある座面を上記支持脚と一体に前方側へ回動降下させ、該座面が略水平となった時点で該座面側から振り出された上記支持脚の先端を土間に接地させ、該支持脚によって座面に座った人の体重を支えるようにしている。
【0007】
このため、座面の使用に際しては、上記支持脚の接地操作が必要であって、その取扱が煩雑であり、特に使用者が高齢者等の身体的弱者であるような場合には、その接地操作が難しく、使用勝手が悪いという問題があった。また、座面の他に支持脚が備えられた構成であることから、その構造が複雑化するとともに、製造コストが高くつくという問題もあった。さらに、座面の振り出し状態においてはその前端側において上記支持脚が立設した状態となっていることから、手摺の近くを人が通る場合に、この支持脚に足を引っ掛けるということも考えられ、使用上の安全性の確保という点において好ましくない。
【0008】
一方、特許文献1に記載された椅子付き手摺は、座面を支柱側へ収納した状態においては、上記一対の支柱の内面と上記座面の側部が近接した構成となっていることから、上記座面を振り出し状態から支柱側へ収納するとき、支柱の内面と座面の側部の間に指先等が挟まれる恐れがあり、操作の安全性の確保という点において問題となり、特に目視での状態確認が困難な視覚障害者とか、動作が緩慢で且つ注意力も散漫になり易い高齢者等の操作に際しては、上記問題は看過できないものとなる。
【0009】
そこで本願発明は、操作が簡単で且つ使用上の安全性の高い椅子付き手摺装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0011】
本願の第1の発明では、左右一対の支柱部11、11と該各支柱部11、11の上端間に跨って設けられた手摺部12で構成される手摺体1と、上記一対の支柱部11、11の中段部11a、11a間に跨って上下方向に回動可能に取付けられた椅子体2を備えるとともに、上記椅子体2を、上記手摺体1からその前方へ延出して人の着座を可能とする展開姿勢と、上記手摺体1側に収納される収納姿勢の間で姿勢を変更し得るように構成したことを特徴としている。
【0012】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る椅子付き手摺装置において、上記手摺体1と上記椅子体2を、回転支持部3を介して回動可能とするとともに、上記回転支持部3は、上記椅子体2が上記展開姿勢に設定された状態において該椅子体2の下方側への回動を規制する構成であることを特徴としている。
【0013】
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明に係る椅子付き手摺装置において、上記椅子体2が上記収納姿勢に設定された状態において、上記手摺体1の上記一対の支柱部11,11及び手摺部12と、上記椅子体2の外周部との間に、少なくとも人の手の甲が通過し得る大きさの隙間が形成されるように、上記手摺体1と上記椅子体2の形状を相対的に設定したことを特徴としている。
【0014】
本願の第4の発明では、上記第2の発明に係る椅子付き手摺装置において、上記椅子体2の上記収納姿勢を、該椅子体2が上記手摺体1の上記一対の支柱部11,11の軸心を通る面よりも後方側へ傾倒し且つ上記回転支持部3によってそれ以上の後傾が規制された位置としたことを特徴としている。
【0015】
本願の第5の発明では、上記第2の発明に係る椅子付き手摺装置において、上記回転支持部3に、該回転支持部3の軸方向に作用する付勢力を受けて、上記手摺体1と上記椅子体2の相対回動方向に摩擦抵抗を発生する制動部40を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本願発明では次のような効果が得られる。
【0017】
(a)本願の第1の発明に係る椅子付き手摺装置によれば、左右一対の支柱部11、11と該各支柱部11、11の上端間に跨って設けられた手摺部12で構成される手摺体1と、上記一対の支柱部11、11の中段部11a、11a間に跨って上下方向に回動可能に取付けられた椅子体2を備えるとともに、上記椅子体2を、展開姿勢では上記手摺体1からその前方へ延出させて人の着座を可能とし、収納姿勢では上記手摺体1側に収納されるように構成しているので、この椅子付き手摺装置の使用者は、上記椅子体2を収納姿勢に設定した状態で上記手摺部12を掴んで歩行等の動作を補助する手摺機能と、上記椅子体2を展開姿勢に設定して使用者の着座を可能とする椅子機能と、上記椅子体2を展開姿勢に設定した状態で該椅子体2に着座した使用者が上記手摺部12を掴んで自己の姿勢変更(即ち、立ち動作と座り動作)を補助する手摺・椅子複合機能を、必要に応じて選択することができ、椅子付き手摺装置の使用価値の多様化が図れ、使用者側における利便性の向上に寄与するものである。
【0018】
(b)本願の第2の発明に係る椅子付き手摺装置によれば、上記(a)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記手摺体1と上記椅子体2を、回転支持部3を介して回動可能とするとともに、上記回転支持部3を、上記椅子体2が上記展開姿勢に設定された状態において該椅子体2の下方側への回動を規制する構成としているので、上記椅子体2を展開姿勢に設定してこれを人の着座に供する場合、使用者は上記椅子体2を単に収納姿勢から収納姿勢側へ回動させる操作を行うのみで良く、該椅子体2に着座した人の体重は上記回転支持部3を介して上記手摺部12側において支持される。このため、例えば、特許文献1に示されるように、座面の張出操作を行うのに並行して支持脚の接地操作を行う必要があるような場合に比して、部品点数の低減による構造の簡略化及び低コスト化が図れるとともに、使用に際しての操作性の向上が図れる。
【0019】
また、上記椅子体2を展開姿勢に設定した状態にあっては、該椅子体2の下方側には歩行の障害となるような部材は存在しないので、例えば、特許文献1に示されるように、座面の下側に支持脚が立設状態で存在する場合のようにこの支持脚に歩行者が足を引っ掛けるという恐れが皆無であり、椅子付き手摺装置を使用する上での安全性がより一層高められる。
【0020】
(c)本願の第3の発明に係る椅子付き手摺装置によれば、上記(a)又は(b)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記椅子体2が収納姿勢に設定された状態においては上記手摺体1の上記一対の支柱部11,11及び手摺部12と上記椅子体2の外周部との間に、少なくとも人の手の甲が通過し得る大きさの隙間が形成されるように、上記手摺体1と上記椅子体2の形状を相対的に設定しているので、上記椅子体2を展開姿勢から跳ね上げて収納姿勢側へ姿勢変更するような場合に、例え使用者が上記椅子体2の側部を持って操作を行ったような場合であっても、使用者の手が上記椅子体2の側部と上記手摺体1の上記一対の支柱部11,11及び手摺部12の内面との間に挟まれるということが未然に且つ確実に防止され、それだけ椅子付き手摺装置の操作上における安全性が高められる。
【0021】
(d)本願の第4の発明に係る椅子付き手摺装置によれば、上記(b)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記椅子体2の上記収納姿勢を、該椅子体2が上記手摺体1の上記一対の支柱部11,11の軸心を通る面よりも後方側へ傾倒し且つ上記回転支持部3によってそれ以上の後傾が規制された位置としているので、上記椅子体2を収納姿勢に設定した状態において該椅子体2が収納姿勢から展開姿勢側へ不用意に回動することが可及的に阻止され、使用上の安全性の更なる向上が期待できる。
【0022】
(e)本願の第5の発明に係る椅子付き手摺装置によれば、上記(b)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記回転支持部3に、該回転支持部3の軸方向に作用する付勢力を受けて、上記手摺体1と上記椅子体2の相対回動方向に摩擦抵抗を発生する制動部40を備えているが、この制動部40による制動作用は上記椅子体2が展開姿勢と収納姿勢の間で相対回動する場合における回動範囲の全域において一定に維持されることから、例えば、上記椅子体2の姿勢変更に伴う回動操作に際して該椅子体2に対する操作力をどの時点で解除しても(即ち、どの時点で椅子体2から手を離しても)該椅子体2はその位置で位置保持され、これによって操作上における安全性が更に向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願発明の第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置において椅子体を展開姿勢に設定した状態を示す斜視図である。
【図2】上記椅子付き手摺装置において椅子体を収納姿勢に設定した状態を示す斜視図である。
【図3】上記椅子付き手摺装置において椅子体を収納姿勢に設定した状態における正面図である。
【図4】図1に示した回転支持部の分解図である。
【図5】上記回転支持部の組立状態における断面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】本願発明の第2の実施形態に係る椅子付き手摺装置において椅子体を展開姿勢に設定した状態を示す斜視図である。
【図8】上記椅子付き手摺装置において椅子体を収納姿勢に設定した状態を示す斜視図である。
【図9】上記椅子付き手摺装置において椅子体を収納姿勢に設定した状態における正面図である。
【図10】本願発明の第3の実施形態に係る椅子付き手摺装置において椅子体を展開姿勢に設定した状態を示す斜視図である。
【図11】上記椅子付き手摺装置において椅子体を収納姿勢に設定した状態を示す斜視図である。
【図12】上記椅子付き手摺装置において椅子体を収納姿勢に設定した状態における正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
A:第1の実施形態
図1〜図3には、本願発明の第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z1を示している。この椅子付き手摺装置Z1は、主として屋外設置を意図したものであって、次述の手摺体1と椅子体2及び回転支持部3を備えて構成される。
【0025】
「手摺体1」
上記手摺体1は、所定径のステンレス管を略「コ」字形に屈曲成形して構成され、所定間隔をもって略平行に対峙する左右一対の直管部分をそれぞれ支柱部11,11とし、これら各支柱部11,11の先端部を接続するように位置する直管部分を手摺部12としている。また、上記一対の支柱部11,11間には、補強材4が配置され、該補強材4によって上記一対の支柱部11,11の相対位置が一定に保持されるとともに、手摺体1全体としての剛性が確保されている。
【0026】
そして、この実施形態では、上記手摺体1は、上記支柱部11,11の下端寄りの所定長さ部分が地中に埋設固定された状態で設置され、その設置状態における剛性が確保されている。なお、係る固定構造に限定されるものではなく、例えば、上述のように上記支柱部11,11の下端寄りの所定長さ部分を地中に埋設固定するのに代えて、上記支柱部11,11の下端に固定ブラケット(図7〜図9の符号5を参照)を取り付け、該固定ブラケットをアンカー部材によって床面側に固定して設置することもできる。この設置構造は、手摺装置を後付け設置する場合に好適な手法である。
【0027】
「椅子体2」
上記椅子体2は、次述の椅子フレーム21と座部22を備えて構成される。
【0028】
上記椅子フレーム21は、所定径のステンレス管を略「コ」字形に屈曲成形して構成され、所定間隔をもって略平行に対峙する左右一対の直管部分をそれぞれ側フレーム部21a,21aとし、該側フレーム部21a,21aの先端部を接続するように位置する直管部分を前フレーム部21bとしている。この左右一対の側フレーム部21a,21aの切落し端部は、後述する回転支持部3に取付けられ、該回転支持部3と一体化される。
【0029】
上記座部22は、断面略長矩形のアルミ押出形材で構成される直板23を、上記椅子フレーム21の上記一対の側フレーム部21a,21a間に橋渡し状に複数本(この実施形態では三本)を列設固定して構成される。
【0030】
このように構成された上記椅子体2は、上記一対の側フレーム部21a,21aの端部にそれぞれ取り付けられた後述の回転支持部3,3を介して、上記手摺体1の左右一対の支柱部11,11の中段部に取り付けられ、該回転支持部3,3の枢支機能によって、図1に示すように上記椅子体2が上記手摺体1からその前方側へ延出した展開姿勢と、図2に示すように上記椅子体2が上方に跳ね上げられて上記手摺体1の左右の支柱部11,11の間を通ってその上部(即ち、上記椅子体2の前端部)が該支柱部11、11よりも僅かに後方側へ傾倒した収納姿勢に択一的に位置設定される。
【0031】
また、図2に示すように上記椅子体2が収納姿勢に設定された状態においては、図3に示すように、上記手摺体1の各支柱部11及び手摺部12の内面と上記椅子体2の椅子フレーム21の外面との間に、少なくとも手の甲が進入し得るような間隔をもつ隙間6が形成されるように、上記手摺体1と上記椅子体2の形状が相対的に設定されている。
【0032】
「回転支持部3」
上記回転支持部3は、上述のように、上記手摺体1に対して上記椅子体2を上下方向に回動自在に枢支することを主たる機能(即ち、枢支機能)とするものであるが、係る枢支機能の他に、上記椅子体2の回動範囲の規制機能と、上記椅子体2の展開姿勢での回動規制機能(荷重支持機能)と、上記椅子体2の回動動作に所定の制動力を付与する制動力付与機能を併せもつものである。
【0033】
即ち、上記回転支持部3は、図4〜図6に示すように、次述の固定軸体31と回転軸体32及びブッシュ33を備えている。
【0034】
上記固定軸体31は、図4及び図5に示すように、取付軸部39を介して上記手摺体1の支柱部11に固定されるものであって、鍔部31aと軸部31bからなる異形軸体とされる。また、上記軸部31bは、図6(イ)、(ロ)に示すように、その周方向の一部を小径部41とし、他の一部を大径部42とした構成とされ、且つこの小径部41と大径部42の間の段差部は軸方向に延びる係合面43,44とされている。
【0035】
上記回転軸体32は、図4及び図5に示すように、軸穴51を備えた穴付き軸体で構成される。上記軸穴51は、図6(イ)、(ロ)に示すように、その周方向の一部を大径穴52とし、他の一部を小径穴53とした構成とされ、且つこの大径穴52と小径穴53の間の段差部は軸方向に延びる係合面54、55とされている。
【0036】
そして、図5に示すように、上記固定軸体31の軸部31b部分は上記回転軸体32の軸穴51内に嵌入される。この嵌入状態においては、図6(イ)、(ロ)に示すように、上記固定軸体31の上記軸部31bに設けられた上記大径部42が、上記回転軸体32の軸穴51に設けられた上記大径穴52内に位置している。この場合、上記大径穴52の周方向長さが上記大径部42の周方向長さよりもの長くなるようにこれら両者の寸法が相対的に設定されているので、上記固定軸体31に対して上記回転軸体32は、図6(イ)に示すように該回転軸体32側の係合面55が上記固定軸体31側の係合面44に係合して該回転軸体32がそれ以上に矢印b方向へ回動するのが規制された位置と、図6(ロ)に示すように該回転軸体32側の係合面54が上記固定軸体31側の係合面43に係合して該回転軸体32がそれ以上に矢印a方向へ回動するのが規制された位置との間で相対回動し得るようになっている。
【0037】
また、上述のように、上記回転支持部3の上記固定軸体31は上記手摺体1の支柱部11に固定され、上記回転軸体32は上記椅子体2の椅子フレーム21に固定されていることから、上記回転軸体32が上記固定軸体31に対して相対回動することで、上記椅子体2は上記回転支持部3を中心として上記手摺体1に対して上下方向に相対回動することになる。
【0038】
そして、図6(イ)に示す上記回転軸体32の回動位置では、上記椅子体2は図1に示すように上記手摺体1から前方へ跳ね出した展開姿勢とされる。また、この展開姿勢では、上記椅子体2には人の着座によってその体重が掛かるが、この体重による上記回転軸体32に作用する回転モーメントは、上記固定軸体31の係合面44と上記回転軸体32の係合面55の係合による回動規制作用を介して上記手摺体1によって支持され、従来のように上記回転軸体32に支持脚を設ける必要はない。
【0039】
これに対して、図6(ロ)に示す上記回転軸体32の回動位置では、上記椅子体2は図2に示すように上記手摺体1側に側手摺体1よりもやや後傾状態で収納された収納姿勢とされる。
【0040】
以上が上記回転支持部3の「枢支機能」と「回動範囲規制機能」及び「回動規制機能(荷重支持機能)」である。
【0041】
一方、図5に示すように、上記回転軸体32はカラー35を介してその一方の端面が上記固定軸体31の鍔部31aに当接される。また、上記回転軸体32の他方の端面側には、一対の皿バネ36,36を介してブッシュ33が配置され、しかもこのブッシュ33はボルト38によって上記固定軸体31側に締結されている。
【0042】
従って、上記皿バネ36,36の撓曲変形により生じた軸力によって上記回転軸体32は上記カラー35を介して上記固定軸体31の鍔部31aに押圧付勢され、該固定軸体31と回転軸体32の接触部(即ち、上記カラー35の一方の面と上記固定軸体31の鍔部31aの面、及び上記カラー35の他方の面と上記回転軸体32の一方の端面)には、上記固定軸体31と上記回転軸体32の相対回転方向に摩擦力が発生し、これが上記固定軸体31と回転軸体32の相対回転に対して摩擦抵抗として作用する。
【0043】
しかも、この摩擦抵抗は、上記固定軸体31と回転軸体32の相対回転位置によって変化することなく常時一定に保持される。このため、上記皿バネ36の撓曲変形量、即ち、上記ボルト38の締め込み量を適宜調整して摩擦抵抗のように大きさを適正に設定することで、上記椅子体2を収納姿勢と展開姿勢の間で回動操作する場合に過大な操作抵抗を生じることなく容易に操作することができるとともに、上記椅子体2に対する回動操作力をその操作範囲のどの位置で解除しても上記椅子体2の姿勢をその位置で保持させることができることになる。これが上記回転支持部3の「制動力付与機能」であり、この実施形態では、上記固定軸体31と回転軸体32と上記皿バネ36及びボルト38によって特許請求の範囲中の「制動部40」が構成される。
【0044】
以上のように、上記手摺体1に上記回転支持部3を介して上記椅子体2を展開・収納可能に取付けて構成される椅子付き手摺装置Z1においては、以下のような作用効果が得られる。
【0045】
この実施形態の椅子付き手摺装置Z1では、上記手摺体1の中段部に上記回転支持部3を介して上記椅子体2を上下方向に回動可能に取付けて構成され、上記椅子体2が展開姿勢に設定された状態では該椅子体2に人が着座することができ、また該椅子体2が収納姿勢に設定された状態では該椅子体2が上記手摺体1側に収納されるようにしているので、この椅子付き手摺装置Z1の使用者は、
(イ)上記椅子体2を収納姿勢とした状態で、上記手摺体1の上記手摺部12を掴んで歩行等の動作を容易且つ安全に行う本来的な機能である「手摺機能」と、
(ロ)上記椅子体2を展開姿勢として使用者の着座に供する「椅子機能」と、
(ハ)上記椅子体2を展開姿勢とした状態で該椅子体2に着座した使用者が上記手摺部12を掴んで自己の姿勢変更を補助する「手摺・椅子複合機能」を、
必要に応じて選択することができ、椅子付き手摺装置Z1の使用価値の多様化が図れるとともに、使用者側における利便性も向上することになる。
【0046】
この実施形態の椅子付き手摺装置Z1では、上記手摺体1と上記椅子体2を、上記回転支持部3を介して回動可能としているが、この回転支持部3は、椅子体2が展開姿勢に設定され該椅子体2に人が着座してここに体重が掛かってもこれを支持することができる構成となっていることから、上記椅子体2を収納姿勢から展開姿勢に姿勢変更させる場合、単に上記椅子体2の回動操作のみを行えばよく、例えば、例えば、従来のように、座面の張出操作を行うとともに支持脚の接地操作を行う必要がある場合に比して、構造の簡略化、低コスト化及び操作性の向上が図れる。
【0047】
この実施形態の椅子付き手摺装置Z1では、上記椅子体2を展開姿勢に設定した状態にあっては、該椅子体2の下方側には歩行の障害となるような部材は存在しないので、例えば、座面の下側に支持脚が立設状態で存在する場合のようにこの支持脚に歩行者が足を引っ掛けるという恐れが皆無であり、使用上の安全性がより一層促進され、特に使用者が歩行に支障がある高齢者等である場合には、その効果はより顕著なものとなる。
【0048】
この実施形態の椅子付き手摺装置Z1では、上記椅子体2が収納姿勢に設定された状態において、上記手摺体1の周縁に位置する上記一対の支柱部11,11及び手摺部12と、上記椅子体2の上記椅子フレーム21との間に、少なくとも人の手の甲が通過し得る大きさの隙間6が形成されるように、上記手摺体1と上記椅子体2の形状が相対的に設定されているので、上記椅子体2を展開姿勢から跳ね上げて収納姿勢に姿勢変更するような場合に、例え使用者が上記椅子体2の側部を持って操作を行ったような場合であっても、使用者の手が上記椅子体2の側部と上記手摺体1の間に挟まれるということが未然に且つ確実に防止され、使用に際しての操作上の安全性が確保される。
【0049】
この実施形態の椅子付き手摺装置Z1では、上記椅子体2が収納姿勢に設定された状態においては、該椅子体2が上記手摺体1よりも後方側へ傾倒し且つ上記回転支持部3によってそれ以上の後傾が規制されるようになっているので、上記椅子体2が収納姿勢から展開姿勢側へ不用意に回動することが可及的に阻止され、使用上の安全性の更なる向上が期待できる。
【0050】
この実施形態の椅子付き手摺装置Z1では、上記回転支持部3が、上記皿バネ36の付勢力を受けて、上記手摺体1と上記椅子体2の相対回動方向に接触抵抗を発生するように構成されており、しかもその制動作用は上記椅子体2が展開姿勢と収納姿勢の間で姿勢変更される場合の回動範囲の全域において一定に維持されるものであることから、上記椅子体2の回動操作に際して該椅子体2に対する操作力をどの時点で解除しても(即ち、どの時点で椅子体2から手を離しても)該椅子体2はその位置で位置保持されるので、操作上の安全性が更に向上することになる。
【0051】
B:第2の実施形態
図7〜図9には、本願発明の第2の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z2を示している。この椅子付き手摺装置Z2は、上記第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z1とその基本構成を同じとするものであって、該第1の実施形態の椅子付き手摺装置Z1と異なる点は、上記手摺体1及び上記椅子体2の形体のみである。
【0052】
即ち、この第2の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z2は、設置スペースが狭小な場所でも容易に設置できるという点を意図したものであって、上記手摺体1の上記支柱部11,11間の間隔を、上記第1の実施形態の椅子付き手摺装置Z1におけるそれよりも狭くするとともに、上記支柱部11,11間の間隔を狭くしたことに対応させて、これら支柱部11,11間に補強材4を設けず、また上記手摺部12を半円弧状の湾曲形体としている。
【0053】
また、上記手摺部12の湾曲形体に合わせて、上記椅子体2の前縁形状も湾曲形体としている。さらに、上記手摺体1の上記各支柱部11,11下端に固定ブラケット5を設け、該固定ブラケット5をアンカー部材によって床面側に固定するようにしている。
【0054】
これら以外の構成、即ち、上記手摺体1と上記椅子体2との間に上記隙間6を形成する点、上記手摺体1と上記椅子体2が上記回転支持部3を介して連結される点、該回転支持部3の機能等は、全て上記第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z1と同様である。また、これらの構成によって得られる作用効果も同じである。従って、上記第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z1と共通する部材についてはこれと同様の符号を付した上で、第1の実施形態の該当説明を援用する。
【0055】
C:第3の実施形態
図10〜図12には、本願発明の第3の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z3を示している。この椅子付き手摺装置Z3は、上記第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z1とその基本構成を同じとするものであって、該第1の実施形態の椅子付き手摺装置Z1と異なる点は、上記手摺体1及び上記椅子体2の形体のみである。
【0056】
この第3の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z3は、十分な設置スペースが確保できる場所に設定し、且つ同時に多人数の者が使用できるという点を意図したものであって、具体的にはベンチを意識した構成となっている。即ち、この椅子付き手摺装置Z3は、上記手摺体1の幅寸法及び上記椅子体2の幅寸法を共に広く設定したものである。そして、上記椅子体2の表面(即ち、着座側の面)の幅方向中央に補助手摺7を設けたものである。
【0057】
上記以外の構成、即ち、上記手摺体1と上記椅子体2との間に上記隙間6を形成する点、上記手摺体1と上記椅子体2が上記回転支持部3を介して連結される点、該回転支持部3の機能等は、全て上記第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z1と同様である。また、これらの構成によって得られる作用効果も同じである。従って、上記第1の実施形態に係る椅子付き手摺装置Z1と共通する部材についてはこれと同様の符号を付した上で、第1の実施形態の該当説明を援用する。
【符号の説明】
【0058】
1 ・・手摺体
2 ・・椅子体
3 ・・回転支持部
4 ・・補強材
5 ・・固定ブラケット
6 ・・隙間
7 ・・補助手摺
11 ・・支柱部
12 ・・手摺部
21 ・・椅子フレーム
22 ・・座部
Z1〜Z3 ・・椅子付き手摺装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の支柱部(11)、(11)と該各支柱部(11)、(11)の上端間に跨って設けられた手摺部(12)で構成される手摺体(1)と、
上記一対の支柱部(11)、(11)の中段部(11a)(11a)間に跨って上下方向に回動可能に取付けられた椅子体(2)を備えるとともに、
上記椅子体(2)は、上記手摺体(1)からその前方へ延出して人の着座を可能とする展開姿勢と、上記手摺体(1)側に収納される収納姿勢の間で姿勢を変更し得るように構成されていることを特徴とする椅子付き手摺装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記手摺体(1)と上記椅子体(2)が回転支持部(3)を介して回動可能とされるとともに、
上記回転支持部(3)は、上記椅子体(2)が上記展開姿勢に設定された状態において該椅子体(2)の下方側への回動を規制するように構成されていることを特徴とする椅子付き手摺装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記椅子体(2)が上記収納姿勢に設定された状態において、上記手摺体(1)の上記一対の支柱部(11)、(11)及び手摺部(12)と、上記椅子体(2)の外周部との間に、少なくとも人の手の甲が通過し得る大きさの隙間(6)が形成されるように、上記手摺体(1)と上記椅子体(2)の形状が相対的に設定されていることを特徴とする椅子付き手摺装置。
【請求項4】
請求項2において、
上記椅子体(2)の上記収納姿勢は、該椅子体(2)が上記手摺体(1)の上記一対の支柱部(11)、(11)の軸心を通る面よりも後方側へ傾倒し且つ上記回転支持部(3)によってそれ以上の後傾が規制された位置であることを特徴とする椅子付き手摺装置。
【請求項5】
請求項2において、
上記回転支持部(3)には、該回転支持部(3)の軸方向に作用する付勢力を受けて、上記手摺体(1)と上記椅子体(2)の相対回動方向に摩擦抵抗を発生する制動部(40)が備えられていることを特徴とする椅子付き手摺装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−172708(P2011−172708A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38486(P2010−38486)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(599117255)株式会社 シコク (28)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】