説明

植物の栽培方法、植物の栽培装置

【課題】周囲の温度に影響されず、花芽の分化の促進を含め、花芽分化の時期を確実にコントロールすることができ、しかも1つの管路によって花芽分化時期のコントロールと栽培適温の保持の両方を行うことができる植物の栽培方法、植物の栽培装置を提供する。
【解決手段】水タンク15内の10℃に冷却された養液を連結管11、分岐管13を介して一対の養液供給管9へ送る。一対の養液供給管9はイチゴSのクラウン部Cの近傍に配置されているので、花芽の分化を促進したい場合には、上記のように10℃に冷却された養液を一対の養液供給管9に供給する。これにより、クラウン部Cが冷却されて、花芽の分化が促進される。また、養液Yが土壌8に含浸されて土壌8が冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイチゴ等の植物の栽培方法、植物の栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イチゴ等を栽培する場合において収量を多くするためには、花芽の分化を促進して実が多くつくようにし、更に栽培に適した温度に保つようにする必要がある。
そこで、特許文献1に記載されたイチゴ苗の花芽分化促進と栽培を行う水耕栽培方法がある。この水耕栽培方法は、冷却用チラーユニットによって冷却された約10℃〜15℃の冷水を、循環管路によって育苗ベッドのイチゴ苗のクラウン部分を対象に供給して、花芽分化の促進を行うと共に、同一のチラーユニットによって、別の循環経路を用いて養水を約15℃〜25℃の栽培適温に保ち、花芽分化したイチゴ苗を定植した栽培ベッドに供給することにより、育成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−183332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の栽培方法では、クラウン部分に冷水を供給するため、供給した直後はクラウン部が冷温状態となるが、周囲の温度によっては短時間でクラウン部の温度が上昇してしまい、花芽分化の促進を十分に行うことができないおそれがある。
また、上記従来の栽培方法は育苗ベッドに冷水を供給する循環管路と栽培ベッドに養水を供給する循環管路とを別々に備えている。すなわち、2つの循環管路を備える必要があり、栽培方法の実施が煩雑になったり、栽培装置のコストが高くなったりする等の問題もある。
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、周囲の温度に影響されず、花芽の分化の促進を含め、花芽分化の時期を確実にコントロールすることができ、しかも1つの管路によって、養液の供給、花芽分化時期のコントロールおよび栽培適温の保持を行うことができる植物の栽培方法、植物の栽培装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、栽培用容器に収容された土壌に植えられた植物の近傍にまたは植物に接触して配置された養液供給管に所定温度の養液を供給する工程と、前記養液供給管の周面に所定間隔で配置された送出穴から養液を送出して前記養液を土壌に供給する工程と、前記養液の温度を調節する工程とから成ることを特徴とする植物の栽培方法である。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載した植物の栽培方法において、養液供給管は曝される温度によって花芽が分化するか否かに影響を与える栽培植物の感温部の近傍または感温部に接触して配置され、前記養液供給管に供給される養液の温度を変更することによって感温部が曝される温度を変更することを特徴とする植物の栽培方法である。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した植物の栽培方法において、養液供給管の送出穴から送出された養液は土壌に滞留して、土壌温度が調節されることを特徴とする植物の栽培方法である。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した植物の栽培方法を実施するための植物の栽培装置であって、栽培用容器と、前記栽培用容器に収容され植物が植栽される土壌と、前記植えられた植物の近傍に配置され周面に養液送出穴が形成された養液供給管と、前記養液の温度を調節する養液温度制御手段と、前記養液を養液供給管へ送る養液送給手段とを具備することを特徴とする植物の栽培装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の植物の栽培方法、植物の栽培装置によれば、周囲の温度に影響されず、花芽の分化の促進を含め、花芽分化の時期を確実にコントロールすることができるようになる。
しかも1つの管路によって養液の供給、花芽分化時期のコントロールおよび栽培適温の保持を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る植物の栽培装置の斜視図である。
【図2】図1の植物栽培装置の栽培ベッドの部分破断斜視図である。
【図3】図1の植物栽培装置の栽培ベッドの部分平面図である。
【図4】図1の植物の栽培装置によって植物の栽培方法を実施した場合の土壌等の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る植物の栽培方法、当該植物の栽培方法を実施するための植物の栽培装置1を図面にしたがって説明する。
まず、植物の栽培装置1の栽培ベッド2の構成を説明する。
符号3は架台を示し、金属パイプを組み合わせることによって構成されている。架台3の上部には防水性のプラスチックシート5が支持されており、このプラスチックシート5は、その中央部が垂下するように備えられている。更に、架台3の上部にはメッシュシート7が支持されており、このメッシュシート7はプラスチックシート5の内側に備えられている。メッシュシート7はプラスチックシート5と同様に、その中央部が垂下するように備えられている。メッシュシート7の外面(下面)とプラスチックシート5の内面(上面)との間に隙間が形成されている。
上記プラスチックシート5とメッシュシート7によって栽培容器が構成されている。
メッシュシート7によって構成される凹部にはヤシの実の繊維等から成る土壌8が収容されている。
以上のように栽培ベッド2は構成されており、この栽培ベッド2は温室内に設置されている。
【0012】
符号9は軟式プラスチック製の養液供給管を示し、この養液供給管9の周面には10cm間隔で養液送出穴10が形成されている。
養液供給管9は2本設けられており、土壌8上に平行に配置されて栽培ベッド2の長手方向へ延び、その先端部は閉鎖されている。
【0013】
符号11は硬質プラスチック製の連結管を示し、この連結管11の途中部分には硬質プラスチック製の分岐管13が接続されている。連結管11の先端部と、分岐管13の先端部は一対の養液供給管9の基端部にそれぞれ接続されている。
連結管11の基端部は水タンク15に接続されており、連結管11の途中にはポンプ17が設けられている。
連結管11、分岐管13およびポンプ17によって養液送給手段は構成されている。
【0014】
符号19は硬質プラスチック製の吸引管を示し、この吸引管19の先端部は水タンク15に接続されており、基端部はヒートポンプ本体21に接続されている。また、吸引管19の途中にはポンプ23が設けられている。
また、ヒートポンプ本体21には供給管25の基端部が接続され、供給管25の先端部は水タンク15に接続されている。水タンク15には水または養液Yが貯留される。
【0015】
ヒートポンプ本体21には図示しない制御装置が接続されており、ヒートポンプ本体21、制御装置等によってヒートポンプシステムが構成されている。また、水タンク15内には図示しない温度センサが備えられている。
吸引管19、ヒートポンプ本体21、ヒートポンプ本体21等のヒートポンプの制御装置、ポンプ23および供給管25によって養液温度制御手段が構成されている。
【0016】
次に、植物の栽培装置1による植物の栽培方法について説明する。
図2、図3に示すように、栽培植物としてのイチゴSは土壌8に15cm間隔で二列に植えられており、一対の養液供給管9の外側に位置している。また、一対の養液供給管9はイチゴSのクラウン部Cの近傍に配置されている。クラウン部Cは周辺温度によって花芽が分化するか否かに影響を与える感温部のことである。イチゴSはクラウン部Cが20℃以下の温度に一定時間以上曝されると、花芽の分化が促進される。
一対の養液供給管9はイチゴSのクラウン部Cの近傍に備えたが、養液供給管9を移動して、クラウン部Cに乗せた状態にしてもよい。この場合には養液供給管9がクラウン部Cに直に接触することになり、周囲の温度の影響を受けずに花芽分化をより効果的に促進することができる。
【0017】
(養液の温度を調節する工程)
図示しないヒートポンプ制御装置を操作してポンプ23を作動させ、水タンク15内の水を吸引してヒートポンプ本体21へ送る。ヒートポンプ本体21では供給された水の熱交換を行い、冷却して水タンク15へ送る。そして、この動作を繰り返して、図示しない温度センサによって検知される水タンク15内の水の温度を10℃に保つようにする。
上記のようにして水タンク15内の養液Yの温度を10℃に調節する。
【0018】
(養液供給管に所定温度の養液を供給する工程)
ポンプ17を作動させて、水タンク15内の10℃に冷却された養液Yを連結管11、分岐管13を介して一対の養液供給管9へ送る。
前記したように、一対の養液供給管9はイチゴSのクラウン部Cの近傍に配置されているので、花芽の分化を促進したい場合には、上記のように10℃に冷却された養液Yを一対の養液供給管9に供給する。これにより、クラウン部Cが冷却されて、周囲の温度に影響されず花芽の分化が促進される。一対の養液供給管9に養液Yが供給されると、クラウン部Cが冷却されるだけでなく、一対の養液供給管9も冷却されて、その状態をある程度の時間保つことができるので、クラウン部Cの冷却が安定的に行われることになる。従って、花芽の分化を確実に促進することができる。
【0019】
また、一対の養液供給管9に供給された養液Yは養液送出穴10から送出されて土壌8に含浸する。そして、余分な養液Yは土壌8を透過し、更にメッシュシート7を通過して、プラスチックシート5上に落下して、図示しない排出路を通って回収される。
上記のように養液Yは10℃程度に冷却されているので土壌8が15℃に冷却され、この土壌8が冷却された状態はある程度の時間保たれる。従って、外気温が高くなる夏季においても、土壌温度が適温に安定的に調節されることになり、イチゴの根が高温に曝されて、イチゴSに障害が発生するのを防止することが可能である。養液Yは当然のことであるがイチゴSが養分として利用する。
なお、養液供給管9に設けられた図示しない機構によって、養液供給管9が長尺なものでも、すべての養液送出穴10からほぼ等しい量の養液Yを送出することができるようになっている。
【0020】
上記した養液供給管9への10℃の養液Yの供給は、例えば6月初旬では、午前6時から1時間置きに約3分間、養液送出穴10から300ccずつの送出を5回行う。
図4は水タンク15内の養液Yの温度(aで示す線)、養液供給管9の温度(bで示す線)、外気温度(cで示す線)、温室内の温度(dで示す線)、土壌8の温度(eで示す線)の変化を示す線グラフである。このグラフでは横軸の右から左への進行が時間経過を示し、縦軸が温度(℃)を示す。
このグラフに示すように、外気温、温室内の温度が上昇しても、土壌8に冷却された養液Yが滞留するので、かなり長い間温度があまり変化せず、ほぼ一定を保っている。従って、根が過度な高温にされるのを防止でき、イチゴに障害が発生するのを防ぐことが可能となる。
【0021】
このように養液供給管9に10℃の養液Yを供給することによって、イチゴSの花芽の分化を促進することができる。従って、実の収量を2割から3割増加させることができる。
また、周囲の温度に影響されず、花芽の分化の促進を含め、花芽分化の時期を確実にコントロールすることができるようになる。
しかも1つの管路(養液供給管9)によって、養液Yの供給、花芽分化時期のコントロールおよび栽培適温の保持を行うことができるようになる。
【0022】
なお、上記にように養液Yを冷却する場合だけでなく、ヒートポンプシステムによって養液Yを加温することも可能であり、花芽の分化を遅らせて所望の時期に実Mを収穫することができる。また、加温した養液Yを土壌8に供給することにより、冬季において根が過度な低温にされるのを防止でき、イチゴに障害が発生するのを防ぐことが可能となる。
【0023】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記実施の形態では栽培植物としてイチゴを示したが、メロン等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の植物の栽培方法、植物の栽培装置はイチゴ等を栽培する農業において利用可能であり、植物の栽培装置は植物の栽培装置の製造業においても利用可能である。
養液供給管9への10℃の養液Yの供給は、例えば6月初旬では、午前6時から1時間置きに約3分間、養液送出口10から300ccずつの送出を5回行う。
また、上記実施の形態では養液Yの温度10℃、養液Yの供給を午前6時から1時間置きに約3分間、養液Yの1回当たりの供給量を300ccとしたが、本発明はこれに限定されず、これらは季節、温室内の温度等によって適宜変更する。
上記実施の形態に係る養液供給管9の周面には10cm間隔で養液送出穴10を形成したが、これ以外に15cm間隔、20cm間隔等、養液送出穴10の間隔を適宜変更してもよい。
また、養液供給管9を介して供給される養液Yの温度は10℃に限定されるものではなく、気温等に応じて5℃〜15℃の範囲で適宜変更する。
【符号の説明】
【0025】
1…植物の栽培装置 2…栽培ベッド 3…架台
5…プラスチックシート 7…メッシュシート 8…土壌
9…養液供給管 10…養液送出穴 11…連結管
13…分岐管 15…水タンク
17…ポンプ 19…吸引管 21…ヒートポンプ本体
23…ポンプ 25…供給管
S…イチゴ C…クラウン部
Y…養液 M…実

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培用容器に収容された土壌に植えられた植物の近傍にまたは植物に接触して配置された養液供給管に所定温度の養液を供給する工程と、前記養液供給管の周面に所定間隔で配置された送出穴から養液を送出して前記養液を土壌に供給する工程と、前記養液の温度を調節する工程とから成ることを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項2】
請求項1に記載した植物の栽培方法において、養液供給管は曝される温度によって花芽が分化するか否かに影響を与える栽培植物の感温部の近傍または感温部に接触して配置され、前記養液供給管に供給される養液の温度を変更することによって感温部が曝される温度を変更することを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した植物の栽培方法において、養液供給管の送出穴から送出された養液は土壌に滞留して、土壌温度が調節されることを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した植物の栽培方法を実施するための植物の栽培装置であって、栽培用容器と、前記栽培用容器に収容され植物が植栽される土壌と、前記植えられた植物の近傍に配置され周面に養液送出穴が形成された養液供給管と、前記養液の温度を調節する養液温度制御手段と、前記養液を養液供給管へ送る養液送給手段とを具備することを特徴とする植物の栽培装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−34438(P2013−34438A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174181(P2011−174181)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(500010004)株式会社サカエ (1)
【Fターム(参考)】