説明

植物工場のミスト散布装置

【課題】植物工場における温度、湿度などの環境条件を有効に制御できる環境調整装置を提供する。
【解決手段】栽培室1内に多段に形成した栽培棚2を設置し、各段の上方にミストを散布するスプレイノズル3を、下方に一定の水位で養液aを湛水する水槽4を、それぞれ配置する。スプレイノズル3はスプレイ管5を介してスプレイ装置6に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレイノズルの噴霧口から出る数ミクロンから数十ミクロンにまで細かくされたミストを栽培施設内に散布し、換気することなく閉鎖空間における温度、湿度などの環境条件を有効に制御する植物工場のミスト散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物工場は、環境の調節が可能な閉鎖された空間において、光、温度、湿度、炭酸ガス濃度、照度、養液濃度、pHなど植物成長に影響を与える生育環境を人工的に制御することで、露地栽培に比べ天候不順などの自然環境や病虫害などに左右されることなく、高品質の無農薬野菜を一年中安定栽培し、安定価格で、安定供給できるメリットがある。
【0003】
また、植物の成長能力を最大限に引き出すためには光合成速度を高める必要があり、この光合成速度は、光条件、温度、湿度、炭酸ガス濃度などに依存することが知られている。
そのため効率よく良好に植物を育成するためには、換気装置や炭酸ガス供給装置などの環境調整機器を配備して栽培室内の換気、温度調整、湿度調整、その他栽培植物の生育に最適な環境条件を一元的に管理し、光条件、温度、湿度、炭酸ガス濃度などを細かく制御する必要がある。ところが植物工場に換気装置を設置して栽培室内を換気すると、中の空気が外に逃げてせっかく最適に制御された炭酸ガス濃度が低下してしまう。
【0004】
そのため特許文献1には、図3に示すように、植物工場11の上部に人工照明設備12を備える栽培台13の上に透明性材料製の仕切りカバー14を設け、植物工場11内全体の環境ではなく、該カバー14内の環境のみを高濃度CO2雰囲気にして植物15の生育を促進させる方法が提案されている。
【0005】
図示省略してあるが、該カバー14内には空調装置からの適度な湿度をもった冷または暖空気及びCO2供給装置からのCO2ガスを供給する管路が接続され、該カバー14内で栽培される植物15の最適環境が維持されるようになっている。これにより環境維持に要するエネルギを最小にすることができ、また、仕切りカバー14上方の作業空間を換気できるので、作業者にとってよりよい環境が維持できる。
【0006】
しかしながらこのような仕切りカバー14を設けると、その設置や取り外しに手間が掛かり、作業効率が大幅に低下する。また、植物の生育環境を細かく制御するためには多くのセンサが必要になるが、センサは植物の作付けや収穫時は作業の邪魔になるので一時的に取り除いたり、最適な測定場所を探して数を増やしたり場所を変えたりする。そのためこのような仕切りカバー14があるとセンサの数の変更や移動が容易にできなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−30660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は以上のような点であり、本発明は、植物工場における温度、湿度などの環境条件を有効に制御できる環境調整装置を提供することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのため本発明は、栽培施設内にスプレイノズルを配置し、このスプレイノズルからミストを散布して換気することなく栽培施設内の温度、湿度を制御することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、栽培施設内にスプレイノズルを配置し、このスプレイノズルからミストを散布して換気することなく栽培施設内の温度、湿度を制御する。そのため温度、湿度を制御しても中の空気が外に逃げないので、栽培施設内の炭酸ガス濃度を常に一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施した植物工場のミスト散布装置の構成図である。
【図2】スプレイ装置の構成図である。
【図3】従来の植物工場の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1に、本発明を実施した植物工場のミスト散布装置の構成図を示す。
植物工場のミスト散布装置は、栽培室1内に多段に形成した栽培棚2を設置し、各段の上方にミストを散布するスプレイノズル3を、下方に一定の水位で養液aを湛水する水槽4を、それぞれ配置する。スプレイノズル3はスプレイ管5を介してスプレイ装置6に接続する。
【0014】
養液aは、タンクTからポンプPにより不純物を除去するフィルタ槽Fを経由して三方弁Vで分岐し、一方は熱交換器7で冷却されてスプレイ装置6に供給される。他方は三方弁Vから最上段に位置する水槽4に供給され、次に左右の排水管8を通して下段の水槽4に順次供給され、最後に最下段に位置する水槽4の排水管8を通してタンクTに還流する。
【0015】
タンクTに還流した養液aは再度ポンプPによって各段の水槽4に供給される。これにより養液aが満遍なく全ての水槽4に行き渡り、生長むらのない均一な野菜が生育される。
【0016】
排水管8は、その入口部分が水槽4の底面から所定の高さに設定され、養液aの水位が一定に保てるようになっている。養液aをこのようにポンプPで連続的あるいは間欠的に循環させることで養液中の溶存酸素量を多量にし、根の呼吸作用が十分行えるようにする。また、養液aの一部を熱交換器7で冷却してスプレイ装置6に供給し、ミスト状にして栽培棚2上方のスプレイノズル3から噴霧する。これにより換気することなく栽培棚2上方の半閉鎖空間の温度を制御できる。従って、換気により炭酸ガス濃度が低下することがなくなる。
【0017】
スプレイ装置6は、図2に示すように、コンプレッサ61、液タンク62、レギュレタ63で構成し、スプレイ管5の先端にスプレイノズル3を取り付ける。スプレイ管5は空送管51と液送管52で構成し、液タンク62には栽培室1のタンクTから供給された養液aが充填されている。スプレイ装置6は、このようなスプレイ式のほか、超音波振動やプラズマ放電と送風器を組み合わせたものなどでもよい。
【0018】
以上の構成で、コンプレッサ61からの圧縮空気がレギュレタ63で圧力調整され、密閉構造の液タンク62を加圧する。これにより一定量の養液aが液送管52を通してスプレイノズル3へ圧送される。コンプレッサ61の圧縮空気は空送管51を介してスプレイノズル3にも供給されるので、スプレイノズル3の先端から圧縮空気がジェット噴射し、液送管52を通して圧送された養液aをミスト化して噴霧する。
【0019】
噴霧されたミストは、栽培棚2の植物の表面やその近傍で蒸発し、その際に植物から蒸発潜熱を奪う。その結果、植物の温度を一時的に下げることができる。同時に、高温時における光合成速度の低下を防ぐ。その理由を以下に述べる。
【0020】
植物は高温になると葉内水蒸気張力が高まり蒸散速度が増加する。そのため気孔を閉じて水分の蒸散を防ぐが、これにより光合成に必要な二酸化炭素を気孔から多く取り込めなくなる。その結果、光量や炭酸ガス濃度が十分でも光合成速度が低下する。ところが温度が上昇し葉内水蒸気張力が高まっても、ミストを散布すると大気中の湿度が高くなる。大気の湿度が高く相対湿度にあまり差がない場合は蒸散速度はさほど変化しない。従って、気孔が開いたままになり、多くの二酸化炭素を取り込め、光合成速度の低下を防ぐことができる。このように光合成の増進には、気孔の開度を大きくし、葉面境界層を薄く拡散抵抗を小さくしてCO2の気孔への取入れをしやすくしなければならないが、そのためには室内の空気が適度な湿度を保つ必要がある。
【符号の説明】
【0021】
1 栽培室
2 栽培棚
3 スプレイノズル
4 水槽
5 スプレイ管
51 空送管
52 液送管
6 スプレイ装置
61 コンプレッサ
62 液タンク
63 レギュレタ
7 熱交換器
8 排水管
11 植物工場
12 人工照明設備
13 栽培台
14 仕切りカバー
15 植物
F フィルタ槽
P ポンプ
T タンク
V 三方弁
a 養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培施設内にスプレイノズルを配置し、
このスプレイノズルからミストを散布して換気することなく栽培施設内の温度、湿度を制御することを特徴とする植物工場のミスト散布装置。
【請求項2】
前記ミストは栽培施設内の水槽が湛水する養液をミスト化して噴霧したものであることを特徴とする請求項1記載の植物工場のミスト散布装置。
【請求項3】
前記養液をミスト化する経路に熱交換機を設置し、
この熱交換機で養液を冷却することを特徴とする請求項2記載の植物工場のミスト散布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−21938(P2013−21938A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157381(P2011−157381)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000141794)株式会社宮入バルブ製作所 (12)
【Fターム(参考)】