説明

植物栽培用吊りフックおよび植物栽培方法

【課題】紐よりも太い横パイプにも掛けることができ、茎や実が畝や地面から離れた状態を保持でき、茎の生長に伴って茎を茎受け部内に下ろす際に、実を傷めない植物栽培用吊りフックおよび植物栽培方法を提供する。
【解決手段】U状の茎受け部1aと、このU状の茎受け部1aの一方の上部に連設された吊り用フック部1bとを有する植物栽培用吊りフックにおいて、吊り用フック部1bの内部開口を、掛けるべき横パイプの径よりも大径とし、茎受け部1aの下部に、棒状の脚部1cを連設し、茎受け部1aの先端に茎を係止可能な段部1dを形成した植物栽培用吊りフック。これにより、横紐のみならず横パイプにも吊りフック1を掛けることができ、畝又は地面に立てた縦パイプに脚部1cを差し込むことで、植物栽培用吊りフックを地面から直接支持することができる。段部1dに上の茎を仮止めすることにより実を傷めることがなく、収穫率を上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト等の茎が蔓状に伸びる植物のハウス栽培、水耕栽培を行うときに用いる植物栽培用吊りフックおよびそれを用いた植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トマトやミニトマト等を長期間栽培する場合、地面に直接茎を這わせたり、ビニールシート上に茎を這わせたりしていることにより、茎が病気になり、枯れたり実に傷が入って商品として出荷できなかったりし、生産ロスが大きい。
また、茎を紐で束ねて吊り上げる方法では作業に手間がかかり、生産者にとって重労働である。
【0003】
そこで本願発明者は先に、図9に示す構成の植物栽培用吊りフックを発明し、特許文献1として出願した。同図に示すように、この吊りフック20は、U状の茎受け部20aと、このU状の茎受け部20aの一方の上部に連設された横紐吊り用フック部20bとを有する。横紐吊り用フック部20bの上部には縦紐係止部20cが設けられ、この縦紐係止部20cには、誘引用縦紐は通り抜けるが、誘引用縦紐の結び目は通過できない大きさの切欠穴20dが設けられている。茎受け部20aの先端20eは、外側に開いた形状をしている。
【0004】
この吊りフック20を使用するには、横紐吊り用フック部20bを横紐に掛けるか、上部から吊り下げた縦紐の端部を結んで結び目を付け、この結び目が切欠穴20dで止まるようにして縦紐係止部20cのまわりに巻き付けることにより吊り下げ、茎受け部20aの内部に茎を入れて茎を空間に支持する。
この吊りフック20によれば、横紐吊り用フック部20bを横紐または縦紐にワンタッチで吊すことができ、U状の茎受け部20aに茎を入れることで、簡単に茎の収納作業を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−345345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前掲の図9に示した吊りフック20は、トマト等の生産者に徐々に使用されているが、使用されるに伴い、生産者からは次のような要望も出されてきた。
【0007】
1.横紐吊り用フック部20bを横紐に掛けたり縦紐に吊したりして使用するが、紐だけでなく、紐よりも太い横パイプに掛けられるようにして欲しい。
2.畝に近い、低い位置で吊りフック20を取り付けると、茎や実の重量で吊りフック20が畝に接近し、実が畝に着いて裂果、裂皮が発生し、商品として出荷できなくなるので、畝に着かないように茎や実を支持できるようにして欲しい。
3.茎の生長に伴って、茎が垂れないように吊りフック20の茎受け部20a内に茎を入れていくが、茎受け部20a内に既に入っている茎の上に新たに次の茎を入れる際、新たな茎に付いている実と既に入っている茎に付いている実が重なって、実を傷めることがあるので、それを避けるようにして欲しい。
【0008】
本発明は、このような従来の吊りフックについての要望に応えるべく開発されたものであり、紐よりも太い横パイプにも掛けることができ、茎や実が畝や地面から離れた状態を保持でき、さらに、茎の生長に伴って茎を茎受け部内に下ろす際に、実が重ならずに実を傷めない構造の植物栽培用吊りフックおよび植物栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の植物栽培用吊りフックは、U状の茎受け部と、このU状の茎受け部の一方の上部に連設された吊り用フック部とを有する植物栽培用吊りフックにおいて、前記吊り用フック部の内部開口を、掛けるべき横パイプの径よりも大径とし、前記茎受け部の下部に、棒状の脚部を連設し、前記茎受け部の先端に茎を係止可能な段部を形成したことを特徴とする。
本発明の植物栽培用吊りフックは、吊り用フック部の内部開口を、掛けるべき横パイプの径よりも大径としたことにより、横紐のみならず横パイプにも掛けることができ、適用範囲が広くなる。また、茎受け部の下部に、棒状の脚部を連設したことにより、畝又は地面に立てた縦パイプに脚部を差し込むことで、植物栽培用吊りフックを地面から直接支持することができる。また、茎受け部の先端に茎を係止可能な段部を形成したことにより、茎の生長に伴って茎を茎受け部内に下ろす際に、実が重ならずに実を傷めることがないため、収穫率を上げることができる。
【0010】
本発明の植物栽培用吊りフックを用いた植物栽培方法は、茎が蔓状に伸びる植物の複数の苗を長い畝に沿って栽培するに際し、畝の長手方向に沿って支柱を所定間隔で立設し、これらの支柱間に、横パイプ及び/又は横紐を複数段に張り、上方に伸びる茎の先端部は上段、中段の前記横パイプ及び/又は横紐に吊り下げ、根に近い茎の部分は、培地から所定空間が空くように、下段の横パイプ及び/又は横紐に所定間隔で支持された前記植物栽培用吊りフックの茎受け部の内部に通し、前記複数の苗の茎を前記植物栽培用吊りフックに束ねて支持することにより、培地に茎や実が接地しないようにすることを特徴とする。
これにより、茎や実の腐れや病気、カビを防止することができる。
【0011】
本発明の植物栽培用吊りフックを用いた植物栽培方法は、茎が蔓状に伸びる植物の複数の苗を長い畝に沿って栽培するに際し、畝の長手方向に沿って支柱を所定間隔で立設し、これらの支柱間に、横パイプ及び/又は横紐を複数段に張り、上方に伸びる茎の先端部は上段、中段の前記横パイプ及び/又は横紐に支持し、根に近い茎の部分は、培地から所定空間が空くように、畝又は地面に所定間隔で立てたパイプの内部に脚部が差し込まれた前記植物栽培用吊りフックの茎受け部の内部に通し、前記複数の苗の茎を前記植物栽培用吊りフックに束ねて支持することにより、培地に茎や実が接地しないようにすることを特徴とする。
これにより、植物栽培用吊りフックは畝や地面よりも高い位置に支持されるため、茎や実の重みで植物栽培用吊りフックが横紐を引っ張って下方に沈むことで茎や実が接地することを効率的に防止し、接地による茎や実の腐れや病気、カビを防止することができる。
【0012】
これらの植物栽培方法において、生長した茎を前記植物栽培用吊りフックの茎受け部に入れる際、既に入っている茎に付いている実と新たに入れようとする茎に付いている実や茎が重なる場合には、植物栽培用吊りフックの段部に新たに入れようとする茎を載せることにより、茎の生長に伴って茎を茎受け部内に下ろす際に、実が重ならずに実を傷めることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の植物栽培用吊りフックによれば、U状の茎受け部と、このU状の茎受け部の一方の上部に連設された吊り用フック部とを有する植物栽培用吊りフックにおいて、吊り用フック部の内部開口を、掛けるべき横パイプの径よりも大径とし、茎受け部の下部に、棒状の脚部を連設し、茎受け部の先端に茎を係止可能な段部を形成したことにより、紐よりも太い横パイプにも掛けることができ、茎や実が畝や地面から離れた状態を保持でき、さらに、茎の生長に伴って茎を茎受け部内に下ろす際に、実が重ならずに実を傷めることがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックを示すものであり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)におけるA矢視図、(d)は(a)におけるB矢視図、(e)は(a)におけるC−C断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックを横パイプに掛けた状態の斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックを横紐に掛けた状態の斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックの脚部を縦パイプに差し込んだ状態の斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックの使用状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックの使用状態を示す全体斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る植物栽培用吊りフックの他の使用状態を示す斜視図である。
【図9】従来の植物栽培用吊りフックの例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。
図1及び図2に示すように、本実施の形態の植物栽培用吊りフック(以下、単に「吊りフック」ということがある。)1は、U状の茎受け部1aと、この茎受け部1aの一方の上部に連設された吊り用フック部1bと、茎受け部1aの下部に設けた棒状の脚部1cと、茎受け部1aの他方の端部に設けたL状の段部1dとを有している。また、吊り用フック部1bには、上部の2つの凸部1fと内側の溝1gとからなる縦紐掛け部1eが設けられている。
【0016】
茎受け部1aは、図2(e)に示すように内側の面が平らであり、茎が当たる部分を面状にして、茎が自重で傷つきにくくしている。
吊り用フック部1bは、支柱間に掛け渡される横パイプの径よりも大径としている。
吊りフック1全体は、例えば耐候性ポリプロピレン等の農業資材用プラスチックで一体成形されている。
【0017】
図3〜図8は、本実施の形態の吊りフック1の使用例を示すものである。
図3は、吊りフック1の吊り用フック部1bを横パイプ2に掛けて使用する例を示している。
【0018】
図4は、吊りフック1の吊り用フック部1bを横紐3に掛けて使用する例を示している。この例では、上下の横紐3のうち、上部の横紐3に吊りフック1を掛け、下部の横紐3に脚部1cが当たるようにして、茎受け部1a内に収容した茎や実の重さで吊りフック1が揺れないように、脚部1cと下部の横紐3とで、ストッパーの機能を持たせている。
【0019】
図5は、吊りフック1の脚部1cを、畝や地面に立てた縦パイプ4に差し込んで、吊りフック1を地面から所定の高さで支持した例を示している。図4に示すように吊りフック1を横紐3に掛けて使用する場合、当初は地面から相当上の高さに吊りフック1の茎受け部1aがあっても、吊りフック1の茎受け部1a内に納められる茎や実の重量が次第に重くなっていくにつれて横紐3が下に引っ張られ、吊りフック1も下降する。そうすると、茎や実が地面に接し、接地による茎や実の腐れや病気、カビが発生しやすくなる。これに対し、縦パイプ4と脚部1cで吊りフック1が沈まないように支持することにより、茎や実が接地することを防止することができる。
【0020】
図6は、吊りフック1の段部1dに茎を載せた状態を示すものである。茎の生長に伴って、茎が垂れないように吊りフック1の茎受け部1a内に茎を入れていくが、茎受け部1a内に既に入っている茎の上に新たに次の茎を入れる際、新たな茎に付いている実と既に入っている茎に付いている実が重なって、実を傷めることがあるので、その際は、段部1dに新たな茎を載せて、実どうしが重ならないようにする。実を収穫して実どうしが重ならない状態になれば、その茎を茎受け部1aに納めることで、さらに新たな茎を入れる際に段部1dを利用することが可能となる。
【0021】
図7は、横紐誘引で茎を支持している例を示している。横紐誘引の場合は、畝の長手方向に所定間隔で支柱5が立設されており、この支柱5に高さを異ならせて複数の横紐3を巻き付けて茎の支持を行うようにしている。一番下の横紐3には所定間隔で吊りフック1の吊り用フック部1bを掛ける。上方に伸びる茎11は、留め具6で上部横紐7に止めた吊り紐8に、誘引クリップ9や止めクリップ10を用いて支持する。茎の根本部の水平に伸びる茎12は束にして吊りフック1に収める。このようにすると、茎12が地面よりも高い位置で支持され、茎や実が接地することがなくなる。
【0022】
このように、茎12は吊りフック1の茎受け部1aに載せられているだけであるので、ビニールハウス内の結露による水滴や、雨漏り、また消毒時の葉面散布の時に茎に水滴が垂れても、通気性が良いために、茎が長期間、濡れたままになることがない。したがって、疫病や、多種のカビ病等にかかりにくく、消毒時、茎全体に薬品がかかるので、病気になりにくくなる。
【0023】
また、吊りフック1の茎受け部1aは茎12に接する部分が平面状であるので、茎12と茎受け部1aが面接触となり、荷重が分散されて茎12を傷つけることが少ない。
【0024】
なお、図7の例では、吊りフック1は、横紐3に吊り用フック部1bを掛けることにより畝の上部に吊り下げたが、吊り紐誘引の場合は、畝の長手方向上部に張った針金線(図示せず)から所定間隔で誘引用縦紐(図示せず)を吊し、長い誘引用縦紐の下端を、吊りフック1の吊り用フック部1bに形成されている縦紐掛け部1eの2つの凸部1fの間と溝1g(図2参照)に数回巻き付ける。そうすると、2つの凸部1fと溝1g内に二重、三重に巻き付けられた誘引用縦紐の摩擦により、吊りフック1は、誘引用縦紐の下端に係留されることになる。このように、吊りフック1は、誘引用縦紐を使用しても、地面よりも高い位置で支持することができ、吊りフック1の茎受け部1aに茎を通すことで、茎や実が接地することがなくなる。
【0025】
図8は、本実施の形態の吊りフック1を、水耕栽培(養液栽培)の茎の支持に用いた例を示している。この例では、溶液を循環させる発泡スチロールの樋13の側壁の固定用穴に差し込んだ樋固定用パイプ13aの上部に、吊りフック1の脚部1cを差し込んで吊りフック1を立てるものである。このように支持した吊りフック1の茎受け部1aに水耕栽培の植物の茎を収納することで、茎や葉や実の腐れを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、紐よりも太い横パイプにも掛けることができ、茎や実が畝や地面から離れた状態を保持でき、さらに、茎の生長に伴って茎を茎受け部内に下ろす際に、実が重ならずに実を傷めない吊りフックとして、ハウス栽培、水耕栽培等の植物栽培に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 吊りフック
1a 茎受け部
1b 吊り用フック部
1c 脚部
1d 段部
1e 縦紐掛け部
1f 凸部
1g 溝
2 横パイプ
3 横紐
4 縦パイプ
5 支柱
6 留め具
7 上部横紐
8 吊り紐
9 誘引クリップ
10 止めクリップ
11 上方に伸びる茎
12 水平に伸びる茎
13 樋
13a 樋固定用パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
U状の茎受け部と、このU状の茎受け部の一方の上部に連設された吊り用フック部とを有する植物栽培用吊りフックにおいて、
前記吊り用フック部の内部開口を、掛けるべき横パイプの径よりも大径とし、
前記茎受け部の下部に、棒状の脚部を連設し、
前記茎受け部の先端に茎を係止可能な段部を形成した
ことを特徴とする植物栽培用吊りフック。
【請求項2】
請求項1記載の植物栽培用吊りフックを用いた植物栽培方法であって、
茎が蔓状に伸びる植物の複数の苗を長い畝に沿って栽培するに際し、
畝の長手方向に沿って支柱を所定間隔で立設し、これらの支柱間に、横パイプ及び/又は横紐を複数段に張り、
上方に伸びる茎の先端部は上段、中段の前記横パイプ及び/又は横紐に支持し、根に近い茎の部分は、培地から所定空間が空くように、下段の横パイプ及び/又は横紐に所定間隔で支持された前記植物栽培用吊りフックの茎受け部の内部に通し、
前記複数の苗の茎を前記植物栽培用吊りフックに束ねて支持することにより、培地に茎や実が接地しないようにすることを特徴とする植物栽培方法。
【請求項3】
請求項1記載の植物栽培用吊りフックを用いた植物栽培方法であって、
茎が蔓状に伸びる植物の複数の苗を長い畝に沿って栽培するに際し、
畝の長手方向に沿って支柱を所定間隔で立設し、これらの支柱間に、横パイプ及び/又は横紐を複数段に張り、
上方に伸びる茎の先端部は上段、中段の前記横パイプ及び/又は横紐に支持し、根に近い茎の部分は、培地から所定空間が空くように、畝又は地面に所定間隔で立てたパイプの内部に脚部が差し込まれた前記植物栽培用吊りフックの茎受け部の内部に通し、
前記複数の苗の茎を前記植物栽培用吊りフックに束ねて支持することにより、培地に茎や実が接地しないようにすることを特徴とする植物栽培方法。
【請求項4】
生長した茎を前記植物栽培用吊りフックの茎受け部に入れる際、既に入っている茎に付いている実と新たに入れようとする茎に付いている実や茎が重なる場合には、前記植物栽培用吊りフックの段部に新たに入れようとする茎を載せることを特徴とする請求項2又は3記載の植物栽培方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate