説明

植物栽培装置

【課題】簡易な構造で植物栽培トレイを振動させて植物株の受粉を促進する植物栽培装置を提供すること。
【解決手段】植物株Pを育成する植物栽培トレイ110と、多列・多段に配置されて植物栽培トレイ110を収容する栽培トレイ収容棚120とを備える植物栽培装置100であって、栽培トレイ収容棚120の少なくとも1基が、植物栽培トレイ110の下方に位置して植物栽培トレイ110を振動させる振動機構150を備えている植物栽培装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜類、果菜類または花類などの植物株を、屋内または温室内などに設置されて、多列・多段に設けられた栽培トレイ収容棚上に多数配置された植物栽培トレイによって栽培する植物栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公知の植物栽培装置は、温室、植物工場のような閉鎖空間において、自然光若しくは人工照明の下、多段・多列に設置された栽培トレイ収容棚上に多数配置された植物栽培トレイに多数の植物株を植生して栽培するものであり、季節や天候に左右されずに無農薬の野菜類や果実類、花類を一年中生産できるので、個人的規模の園芸から野菜工場と称されるような大規模な農業にまで拡大している。
この植物栽培トレイに植物を植生するやり方として、ロックウール、ヤシ殻などの無機若しくは有機の固形培地を使用して植物を育成する固形培地栽培や、養液を充填した植物栽培トレイを使用して植物を栽培する水耕栽培などが広く知られている。
【0003】
固形培地栽培は、例えば、植物栽培トレイに、ロックウール、ヤシ殻などの無機培地若しくは有機培地に植物株を植生した育種ポットを多数収容した植物栽培トレイを栽培トレイ収容棚に載置して、栽培トレイ収容棚の上方に設置した人工照明の下に植物株を栽培するもので、適宜に灌水、施肥、受粉などの作業を行いながら植物株を育成するものである。
一方水耕栽培は、例えば、植物株の生育に必要な栄養分を水に溶解した養液を植物栽培槽に貯留し、植物栽培槽に貯留した養液の上方に植物株を支持して養液に植物株の根を浸して植物株に養液を吸収させて植物株を育成する栽培方法であり、通常、植物栽培槽に養液を供給及び回収する養液循環システムを備えていて、従前の養液循環システムは、循環タンクから養液が植物株を栽培する植物栽培槽に供給され、植物栽培槽を通過した養液は排液として循環タンクに回収されるものであった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−088425号公報(全文、図1乃至図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの植物栽培装置は、通常、閉鎖された空間において植物株を栽培するものであるから、自然環境で栽培される植物株のように昆虫や風などを媒介とする受粉が期待し難く、果実を得ることを目的とするような栽培には不向きであるという問題があった。
特に果実を得ることが重要な果菜類を栽培する場合には、開花期に別途マルハナバチ等の昆虫を導入して受粉を図るか、成長ホルモン等を散布したり、人手により雄ずいの花粉を雌ずいに受粉させる等の人工受粉の手当てを講ずるかする必要があり、別のプロセスを導入することで植物栽培の作業が煩雑なものとなってしまうという問題があった。
また、固形培地栽培の場合は、前述したような植物株の受粉の問題の他に、各栽培トレイ収容棚に載置された植物栽培トレイに対し、灌水、施肥等のための設備を設ける必要があり、設備が複雑となったり植物栽培作業が全体として煩雑となったりして、高コストになってしまうという問題があった。
【0006】
一方、前述したような植物株の受粉について同様の問題を有している点共通する水耕栽培の場合は、その他に、前述したような養液循環システムを備えるものであって、当該養液循環システムは常に一定の品質の養液を供給して局所的な養分の不足や酸素不足を生じないものである点では有意義なものであるが、植物株が必要とする養液の量よりかなり多量の養液を循環させるものであるから、多数の植物栽培槽を備える大規模な水耕栽培装置になると循環させる養液も大量に必要となったり、養液を循環させる循環システムも大規模となって装置全体が高コストになるという問題があった。
そこで、このような問題点を解消するものとして、養液を補給するのみで排出を行わない、非循環型の水耕栽培装置の研究が進められていて、非循環型の水耕栽培装置は、養液を栽培槽に供給する供給系のみとして排出側の経路を設置しない構造としたものであって、養液循環システムを使用した水耕栽培装置と比べて使用する養液の量を大幅に減少することができる点便利なものであるが、植物栽培槽に給液から一方的に養液が供給されるだけで、しかも供給される養液の量が少量となるため、植物栽培槽の内部での養液の流動が少なく、養液が供給される給液栓の付近と給液栓から離れた周辺部とでは養液の濃度、性状に偏りが生じたり、養液中の溶存酸素量が少量となり易く、その結果、一つの植物栽培槽の中でも栽培位置により植物株の生育に偏りが生じて、生育が十分でなく商品価値の低い植物株が生じてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、簡易な構造で植物株を栽培する植物栽培トレイを振動させて植物の受粉を促進する植物栽培装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本請求項1に係る発明は、植物株を育成する植物栽培トレイと、多列・多段に配置されて前記植物栽培トレイを収容する栽培トレイ収容棚とを備える植物栽培装置であって、前記栽培トレイ収容棚の少なくとも1つが、前記植物栽培トレイの下方に位置して植物栽培トレイを突き上げて振動させる振動機構を備えていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0009】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記振動機構が複数の偏心回転体を備えて、該偏心回転体を回転させて前記植物栽培トレイの底面を突き上げて振動させることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0010】
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記植物栽培トレイが下面を矩形とする直方体形状を呈するものであり、前記振動機構が前記植物栽培トレイ底面の4隅のうち少なくともいずれか1隅の近傍を突き上げて振動させることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0011】
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記振動機構の偏心回転体が、外周面に凹凸を有していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記振動機構が、停止位置において前記栽培トレイ収容棚に載置された植物栽培トレイの底面に非接触状態で位置していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0013】
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記栽培トレイ収容棚が、前記植物栽培トレイを搬入する搬入口に該搬入口を開閉する開閉扉と該開閉扉と対向する側に搬入された植物栽培トレイと近接して位置する後方側壁とを備えていて、前記振動機構が前記開閉扉を閉塞した状態で前記植物栽培トレイを突き上げて振動させることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0014】
本請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記植物栽培トレイが内部に養液を貯留して植物株を育成する植物栽培槽であるとともに、前記栽培トレイ収容棚が前記植物栽培槽に養液を供給する給液機構を備えていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0015】
本請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記植物栽培トレイを任意の栽培トレイ収容棚に移載する栽培トレイ移載機構を備えていて、前記栽培トレイ収容棚のうちの特定の1または複数の栽培トレイ収容棚が、前記植物株の栽培に付帯する作業を実行する作業ステーションとして構成されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0016】
本請求項9に係る発明は、請求項8に記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記作業ステーションが、前記振動機構を備えていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0017】
本請求項10に係る発明は、請求項8または請求項9に記載された植物栽培装置の構成に加えて、前記作業ステーションが、前記給液機構を備えていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0018】
本請求項1に係る発明は、植物株を育成する植物栽培トレイと多列・多段に配置されて植物栽培トレイを収容する栽培トレイ収容棚とを備える植物栽培装置であって、栽培トレイ収容棚の少なくとも1つが、植物栽培トレイの下方に位置して植物栽培トレイを突き上げて振動させる振動機構を備えていることにより、植物株の開花時期に振動機構を駆動して植物栽培トレイを介して植物株を振動させるため、植物株の受粉を促進することができる。
特に、閉鎖した空間で行われる植物栽培装置の場合には、昆虫、風などによる受粉を期待し難く、本発明のように振動機構を設けることにより花粉を飛散させて受粉を促進するため、植物株をより確実に受粉させることができる。
したがって、本発明の振動機構を設けることにより、トマト、ナス、ピーマンなどの果実を得ることを目的とする植物株を栽培する場合でも、別途受粉のための手立てを講ずる必要がなくなり、植物栽培装置により低コストで効率よく育成、栽培することができる。
【0019】
また、植物栽培トレイを振動させる振動機構を特定の栽培トレイ収容棚に備えるようにしたので、植物栽培トレイ自体は特に余分な機構を備えることのない単純な構造のものを使用するため、多数使用する植物栽培トレイは単純な構造のものを使用することができてコストの上昇を抑えることができる。
さらに、振動機構を栽培トレイ収容棚の少なくとも1基に備えるようにして、振動機構を備えていない栽培トレイ収容棚と併存するようにしたことにより、開花時期など限られた特定の期間のみに使用される振動機構を、栽培トレイ収容棚の全てに設けることなく一部の栽培トレイ収容棚のみに設置しておき、人手または移載機構により植物栽培トレイを適宜に移動して、開花期に至った植物栽培トレイを順次振動機構を備える栽培トレイ収容棚に載置して所定期間振動させて受粉を促進するようにして、設置される振動機構の数を減らして植物栽培装置全体の構成を簡易なものとしたため、植物栽培装置を構造簡易な低コストのものとすることができる。
【0020】
本請求項2に係る発明の植物栽培装置は、請求項1に係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、振動機構が複数の偏心回転体を備えてこの偏心回転体を回転させて植物栽培トレイの底面を突き上げて振動させることにより、植物栽培トレイを偏心回転体の回転方向および上下方向に大きく振動させるため、植物栽培トレイを上下振動させる機構を複雑な構造とすることなく、振動機構を単純な構造で低コストのものとすることができる。
【0021】
本請求項3に係る発明の植物栽培装置は、請求項1または請求項2に係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、植物栽培トレイが下面を矩形とする直方体形状を呈するものであり、振動機構が植物栽培トレイ底面の4隅のうち少なくともいずれか1隅の近傍を突き上げて振動させることにより、従前よく知られた矩形の植物栽培トレイを使用するとともに、その隅を突き上げて振動させて植物栽培トレイを傾動、振動させて植物栽培トレイ内の植物株をより大きく上下、左右に振動させるため、植物株の花房にある雄ずいを大きく振動させることで花粉を効果的に飛散させて植物株の受粉を一層確実なものとすることができる。
【0022】
本請求項4に係る発明の植物栽培装置は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、振動機構の偏心回転体が外周面に凹凸を有していることにより、植物栽培トレイが偏心回転体の全体形状に起因する上下、左右振動に加え、偏心回転体の外周面に設けた凹凸による短周期の振動によっても振動されるので、植物栽培トレイが偏心回転体の全体形状に起因する上下、左右振動に加えて、偏心回転体の外周面に設けた凹凸による短周期の振動を加えられるため、このような二つの振動の相互作用による複雑な振動により植物株の花房に対して受粉に好適な振動を加えて、植物の受粉をさらに一層確実なものとすることができる。
【0023】
本請求項5に係る発明の植物栽培装置は、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、振動機構が停止位置において栽培トレイ収容棚に載置された植物栽培トレイの底面に非接触状態で位置していることにより、植物栽培トレイを移載する際に栽培トレイ収容棚に設けられた振動機構が植物栽培トレイの搬入・搬出作業の邪魔とならないため、植物栽培トレイを突き上げ駆動させる振動機構が存在するにも拘わらず、植物栽培トレイの搬出、搬入作業を円滑に遂行することができる。
【0024】
本請求項6に係る発明の植物栽培装置は、請求項1乃至請求項5のいずれかに係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、栽培トレイ収容棚が植物栽培トレイを搬入する搬入口に該搬入口を開閉する開閉扉とこの開閉扉と対向する側に搬入された植物栽培トレイと近接して位置する後方側壁とを備えていて、振動機構が開閉扉を閉塞した状態で植物栽培トレイを突き上げて振動させることにより、振動機構の動作により植物栽培トレイが上下・左右に激しく振動したとしても、栽培トレイ収容棚に載置された植物栽培トレイが搬入口からはみ出して落下することが防止されるため、栽培トレイ収容棚に振動機構を設けて植物栽培トレイを上下左右に揺動・振動させることで植物株の花粉を飛散させて受粉を促進することができるとともに、振動機構の作動に派生して生じ易い、植物栽培トレイの落下というような事故を未然に防止することができる。
【0025】
本請求項7に係る発明の植物栽培装置は、請求項1乃至請求項6のいずれかに係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、植物栽培トレイが内部に養液を貯留して植物株を育成する植物栽培槽であるとともに、栽培トレイ収容棚が植物栽培槽に養液を供給する給液機構を備えていることにより、従来の養液循環システムを備える植物栽培装置と比べて排液回収系を設けることがないとともに、植物栽培トレイにおいて減少した量に見合うだけの養液を供給するのみとして、従前の養液循環システムのように大量の養液を使用することがないため、植物栽培装置の構造を大幅に簡便化できるとともに、養液の総量を大幅に低減しつつ安定した植物株の水耕栽培を実現することができる。
【0026】
また、栽培トレイ収容棚が植物栽培トレイの下方に位置して植物栽培トレイを振動させる振動機構を備えていることにより、植物栽培トレイに貯留されている養液が適宜に振動、撹拌されて、給液機構から供給さる肥料等の養分が植物栽培トレイ全体に分散されて養液が均質化されるため、植物栽培トレイで栽培される植物株に生育の不揃が生ずることなく均一に成長させて、ロスの少なく安定した効率的な植物株の栽培・育成を達成することができるとともに、植物栽培トレイに貯留される養液を振動、撹拌することにより養液中に空気中の酸素を取り込ませるため、エアポンプを設けることなく低コストで養液中の溶存酸素量を増加させて、植物株の根の酸素不足に起因する根腐れ、あるいはこれに派生する病気の虞を軽減して、植物株の健全、良好な育成を達成することができる。
さらに、植物栽培トレイ底面の所望箇所を突き上げ振動させることで植物栽培トレイをシーソー的に交互傾動させ、植物栽培トレイ中の養液を上下・左右に盛んに流動させることで植物株の根の隅々まで養液をゆき渡らせて、根の奥に停滞する養液を洗い流して新鮮な養液と接触させて充分な養分と溶存酸素を根の隅々まで行き渡らせるとともに、植物栽培トレイ中における養液液面の変動により根を間欠的に気曝状態として空気中の酸素を供給するため、根腐れ等の発生する虞が少なく植物株の良好な生育を促進することができる。
【0027】
加えて、植物栽培トレイに貯留されている養液のPH、各種成分の濃度などをセンサ等で検出して厳格に管理する場合にも、植物栽培トレイを振動させて植物栽培トレイに貯留される養液を振動・撹拌することにより、植物栽培トレイ中のいかなる箇所で検出を行ったとしても検出値がばらつくことがなくなるため、養液の精度の高い管理が可能となって、栽培する植物株をさらに一様、良好に育成することができる。
【0028】
本請求項8に係る発明の植物栽培装置は、請求項1乃至請求項7のいずれかに係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、植物栽培トレイを任意の栽培トレイ収容棚に移載する栽培トレイ移載機構を備えていて、栽培トレイ収容棚のうちの特定の1または複数の栽培トレイ収容棚が前記植物株の栽培に付帯する作業を実行する作業ステーションとして構成されていることにより、多段・多列に栽培トレイ収容棚を設置した植物栽培装置のなかで、栽培トレイ移載機構により他の栽培トレイ収容棚に載置されていた植物栽培トレイを適宜の時期に特定の箇所に設けた作業ステーションに移送して、養液の補給・撹拌や植物株の受粉などの作業を実行し、作業の終了した植物栽培トレイを栽培トレイ移載機構により栽培トレイ収容棚に戻すというように作業を遂行するため、植物栽培に付帯する作業は特定の作業ステーションにおいて集中して実行するものとして作業効率を向上させることができるとともに、栽培トレイ移載機構を採用したことにより植物栽培トレイの移載作業を自動化したため、植物栽培装置を立体的な大規模のものとしても植物栽培トレイの移載等の作業負担を大幅に軽減することができる。
【0029】
本請求項9に係る発明の植物栽培装置は、請求項8に係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、作業ステーションが振動機構を備えていることにより、特定の時期にのみ行われる振動による受粉作業を実行する振動機構を特定の作業ステーションに設けてその他の栽培トレイ収容棚は簡素なものとしたため、前述したような植物株の受粉作業を円滑に実行できるにも拘らず植物栽培装置を全体として簡素な構造で低コストのものとすることができる。
【0030】
本請求項10に係る発明の植物栽培装置は、請求項8または請求項9に係る植物栽培装置が奏する効果に加えて、作業ステーションが給液機構を備えていることにより、特定の時期にのみ行われる植物栽培トレイに対する給液作業を実行する給液機構を特定の作業ステーションに設けてその他の栽培トレイ収容棚は簡素なものとしたため、前述したような植物栽培トレイへの給液および養液の管理を実行できて植物株を良好に育成できるにも拘らず植物栽培装置を全体として簡素な構造で低コストのものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施例である植物栽培装置の全体側面図。
【図2】図1に示す植物栽培装置の要部斜視図。
【図3】図1に示す植物栽培装置に使用される植物栽培トレイの一部断面斜視図。
【図4】図1に示す振動機構の作動説明図。
【図5】本発明の第2実施例である植物栽培装置に使用される振動機構の斜視図。
【図6】本発明の第3実施例である植物栽培装置に使用される振動機構の斜視図。
【図7】本発明の第4実施例である植物栽培装置の全体側面図。
【図8】図7に示す植物栽培装置の要部斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の植物栽培装置は、植物株を育成する植物栽培トレイと、多列・多段に配置されて植物栽培トレイを収容する栽培トレイ収容棚とを備える植物栽培装置であって、栽培トレイ収容棚の少なくとも1つが植物栽培トレイの下方に位置して植物栽培トレイを突き上げて振動させる振動機構を備えていて、植物株を栽培する植物栽培トレイを振動させて植物の受粉を促進するものであれば、その具体的な実施態様はいかなるものであっても何ら構わない。
【0033】
すなわち、本発明の植物栽培装置は、野菜、穀物、果実、観賞用植物等、いかなる植物を栽培するものであってもよく、種子、苗等の何れの状態から生育を開始するものであってもよく、また、いかなる状態で生育を完了するものであってもよいが、植物株の受粉を有効に促進することからは、穀物、果実を目的とする植物栽培に好適である。
【0034】
また、本発明の植物栽培装置は、人工光で栽培されるものに限らず、ビニールハウス等、太陽光等の自然光により栽培されるものであってもよいし、植物栽培槽に養液を貯留する湛液型の植物栽培装置のほか、霧状の液肥を植物全体または根部に噴霧する噴霧耕型の植物栽培装置、ロックウール、土壌、パミスサンド、ヤシ殻など無機若しくは有機の固形培地を使用する固形培地耕型の植物栽培装置などいずれのタイプの植物栽培装置であっても構わない。
さらに、本発明の植物栽培装置は、pH、EC、溶存酸素濃度など養液の性質をセンサ等で検出して供給する養液の性状を自動的に調整するものであってもよい。
加えて、本発明の植物栽培装置は、大規模な植物工場のような施設であってもよいし、逆に、家庭などで小規模に棚を組んで植物栽培を行うような小規模なものであっても何ら構わない。
【0035】
栽培トレイ収容棚に設けられる振動機構の偏心回転体としては、種々の形態のものが考えられるが、回転軸回りに回転するものであって、部分的に突出部を備えているというように、回転角度により回転軸からの距離を異にする部分を備えていて、植物栽培トレイの底面を適宜に突き上げて植物栽培トレイを傾動させるものであれば、いかなる形状であっても構わず、また、その外周面に、角形、丸形などの突起を備えるものであれば、突き上げ態様をさらに複雑にして、植物栽培トレイに複雑な振動を引き起こして点、好ましい。
このように、植物栽培トレイを突き上げ、振動させる振動形態を複雑な態様とする点では、各偏心回転体の取付角をそれぞれ異なるものとすることも有効である。
また、当該偏心回転体は、植物栽培トレイの隅部を突き上げるようにしたほうが、植物栽培トレイを傾斜させて植物栽培トレイ内の養液を流動させ易くなる点、有利である。
さらに、栽培トレイ収容棚の搬入口に設けられる開閉扉は、栽培トレイ搬入機構と同期してあるいは独立してモータ等により開閉駆動されるものであってもよいし、また人手により開閉されるものであってもよい。
【実施例1】
【0036】
以下に、本発明の実施例である植物栽培装置について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施例である植物栽培装置100の全体側面図であり、図2は、図1に示す植物栽培装置100の要部斜視図であり、図3は、図1に示す植物栽培装置100に使用される植物栽培トレイ110の一部断面斜視図であり、図4は、図1に示す振動機構150の作動説明図である。
【0037】
本発明の第1実施例である植物栽培装置100は、図1乃至図4に示されるように、水耕栽培型の植物栽培装置であるが、複数の植物株Pを栽培可能な植物栽培トレイ110を各々収容可能で、多段および多列に配置されて植物栽培トレイ110を載置する栽培トレイ収容棚120と、栽培トレイ収容棚120の後方側に位置して、栽培トレイ収容棚120に載置された植物栽培トレイ110に養液Lを供給する給液機構130と、各々の栽培トレイ収容棚120に設けられて、任意の栽培トレイ収容棚120に搬入・搬出移動させる植物栽培トレイ搬入機構140を備えるとともに、栽培トレイ収容棚120には、植物栽培トレイ110を振動させる振動機構150が設けられている。
【0038】
本実施例の植物栽培装置100は、図1に示されるように、栽培トレイ収容棚120を上下方向に3段備えるものであり、各栽培トレイ収容棚120の上方には植物株Pに対して光を照射する栽培用照明装置を備えている。
栽培トレイ収容棚120の後方側面には給液管132が配置されていて、植物栽培装置100の下方に設置した養液タンク131から、ポンプなどを使用して給液管132、給液栓133および給液口134を経由して各植物栽培トレイ110に養液Lを供給するもので、これら養液タンク131、給液管132、給液栓133および給液口134により給液機構130を構成している。
【0039】
図1および図2に示されるように、それぞれの栽培トレイ収容棚120には、植物栽培トレイ110を載置する載置面の搬入口側に一対の搬入ローラ141、奥側に一対の支持ローラ142、およびこれらのローラ141、143を駆動するモータ143より構成される栽培トレイ搬入機構140が設置されていて、植物栽培トレイ110の搬入・搬出を容易にしている。
栽培トレイ収容棚120にはまた、植物栽培トレイ110を搬入する搬入口に、上下方向に移動して搬入口を開放・閉鎖する開閉扉121が、また搬入部と対向する奥側には載置された植物栽培トレイ120と対向する後方側壁122が、それぞれ設置されていて、植物栽培トレイ120が落下することを防いでいる。
【0040】
さらに、栽培トレイ収容棚120には、本発明の最も特徴とする振動機構150が設けられていて、第1実施例の植物栽培装置100においては、振動機構150は、栽培トレイ収容棚120に差し渡して設置された回転軸151と、当該回転軸151の両端部近傍および中央部付近に一体的に設けた偏心回転体152、およびこれらを回転駆動する駆動モータ153を備えている。
第1実施例に使用される振動機構150では、偏心回転体152は一部が径方向に突出したカム形状を呈するものであり、駆動モータ153により回転駆動される偏心回転体152の突出部が植物栽培トレイ110の底面を突き上げることにより、植物栽培トレイ110を傾動・振動させるものである。
【0041】
この偏心回転体152は、図1に示されるように、搬入部側に取り付けられる偏心回転体152と奥側に取り付けられる偏心回転体152とで取付角を異にしておく(図1におけるΘ)と、植物栽培トレイ110の底部を突き上げるタイミングを搬入口側と奥側とで異ならせて植物栽培トレイ110を交互に傾動させることができるので、植物栽培トレイ110内に植生されている植物株Pを大きく振動させることができて、開花した花房の雄ずいから花粉を大きく飛散させて、雌ずいへの受粉を促進することができる。
また、これらの偏心回転体152は、その停止位置においては、図1に示されるように、いずれも植物栽培トレイ110の底面位置より下方で、植物栽培トレイ110の底面と非接触となる位置に位置付けられるように設定されているので、植物栽培トレイ110を搬入口から搬入する際に、偏心回転体152の突出部が植物栽培トレイ110の搬入経路に突出してその搬入操作に支障をきたすことがない。
【0042】
また、本発明の第1実施例である植物栽培装置100において使用される植物栽培トレイ110について図3に基づいて説明する。
本第1実施例に使用される植物栽培トレイ110は、上方が開放された深さの浅い箱状の本体容器112に養液Lを貯留するものであり、当該本体容器112の上に、表面に形成された多数の孔に植物株Pを保持するスポンジ状の育床ベットを装着した平板状の育床パネル111を着脱自在に載置した湛液型の植物栽培槽として構成されている。
本第1実施例において使用される植物栽培トレイ110の育床パネル111には、搬入口と反対側に位置付けられる側に、給液口134と対向して位置して、給液口134から養液Lを供給される開口が形成されている。
したがって、植物栽培トレイ110は、養液Lを供給・回収するための機構や振動機構のような付帯的な作業のための機構を一切備えることのない、極めて簡便な構造のものとして構成される。
【0043】
以上に記載した第1実施例の植物栽培装置100の作用を、図4に基づいて以下に説明する。
図4(a)、(b)、(c)は、振動機構150の回転状態と、当該振動機構150の回転に応じて植物栽培トレイ110がどのような挙動をとるかを、時系列に示したものである。
まず、(a)は、振動機構150の偏心回転体152が起動した直後の状態を示し、次に、(b)は、図示右方の偏心回転体152が突出して植物栽培トレイ110の右側を突き上げた状態、また、(c)は、図示左方の偏心回転体152が突出して植物栽培トレイ110の左側を突き上げた状態を、それぞれ示している。
【0044】
両側の偏心回転体152は、取付角を異にして同期回転するので、当初は(a)に示されるように、いずれの偏心回転体152もその突部を植物栽培トレイ110の底面より下方に位置しているが、反時計回りに回転するにつれて、まず右方の偏心回転体152が植物栽培トレイ110の右側下方の底面に接して、次いで当該底面を突き上げ上昇させて植物栽培トレイ110を左下がりに傾斜させる。
その後、右方の偏心回転体152が下降してゆくにつれて植物栽培トレイ110の右側が下降するとともに、左方の偏心回転体152が突出して植物栽培トレイ110の左方底面を突き上げ上昇させて、植物栽培トレイ110を逆方向の右下がりに傾斜させる。
その後、一端、双方の偏心回転体152ともに下降して植物栽培トレイ110を水平状態とした後、再度上記(a)〜(c)の状態を繰り返す。
【0045】
以上の作動から理解されるように、偏心回転体152の突出、下降に応じて植物栽培トレイ110の右方または左方が交互に上昇、下降して植物栽培トレイ110がシーソー状に揺動、振動されるため、開花時期にある植物株Pの場合には、植物株Pに開花した花房を大きく揺らせて花粉を飛散させ、植物栽培トレイ110にある植物株Pの間で受粉させることができる。
したがって、風媒受粉、虫媒受粉が期待し難い閉鎖空間での植物栽培であっても、振動機構150により植物株Pに振動を加えて受粉を促すことができるので、別途昆虫を導入したり、人工授粉などの手立てを講ずる必要がなく、低コストで果実栽培などにも適した植物栽培を実現することができる。
また、栽培トレイ収容棚120に開閉扉121および後方側壁122を設置しているので、植物栽培トレイ110が盛んに上下、左右振動したとしても、これらの開閉扉121、後方側壁122によって載置棚120から飛び出して落下しまうことが防止できる。
【0046】
養液を貯留する植物栽培トレイ110に対して養液Lを供給する場合には、前述したような偏心回転体152の回転により喚起こされる植物栽培トレイ110のシーソー状の揺動、振動により、植物栽培トレイ110に貯留されている養液Lが植物栽培トレイ110の一側から他方側へ交互に流動を繰り返すので、植物栽培トレイ110に貯留されている養液Lが盛んに撹拌されて、全体として極めて均一性の高い品質の良好な養液Lとすることができる。
さらに、左右、上下に流動する養液Lが栽培される植物株Pの根の細部にまで充分にゆき渡るとともに、振動しつつ交互に流動する養液Lによって細かな根の周りに停滞する養液Lも洗い流されて新しい養液Lが供給されるため、根の表面全体に養分と溶存酸素を充分に行き渡らせることができる。
加えて、養液Lの流動により液面が激しく変動することにより根が間欠的に気曝されて空中酸素が供給されるため、植物株Pに根腐れ等が発生する虞も大幅に軽減され、植物株Pの良好な生育を図ることができる。
【0047】
なお、本第1実施例では、振動機構150を全ての栽培トレイ収容棚120に設けているが、植物栽培トレイ110を振動させる頻度が低い場合には、特定の栽培トレイ収容棚120にのみ振動機構を設けるようにして、それぞれの植物栽培トレイ110について振動を加える作業が必要となった時期に人手または自動の移載手段により植物栽培トレイ110を振動機構を備える栽培トレイ収容棚120に移動させて、所望の植物栽培トレイ110に対して振動機構を加えるようにすると、移載作業が生ずるものの、振動手段の数を低減させることができて、植物栽培装置100の構造を簡素化することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、本発明の第2実施例である植物栽培装置に使用される振動機構250について、図5に基づいて以下に説明する。
図5は、本発明の第2実施例に使用される振動機構250の斜視図である。
第2実施例において使用される振動機構250は、偏心回転体252として略楕円形状を呈する形状で、その外周面に三角状の振動突起253を多数設けたものを使用していて、略楕円形状の一方の焦点の付近に回転軸251を固定している。
【0049】
本第2実施例においても、左右の回転軸251に装着される偏心回転体252の取付角を異にして装着して、植物栽培トレイ110を有効に傾動、振動させるように調整されている。
本第2実施例の場合は、偏心回転体252の外周面に設けられた三角状の振動突起253により植物栽培トレイ110を小刻みに振動させるため、偏心回転体252の楕円形状に起因する大きな上下、左右振動と三角状の振動突起253に起因する小刻みな振動とが相俟って、開花した花房の雄ずいから効果的に花粉を飛散させて植物株Pの受粉を一層確実なものとするとともに、植物栽培トレイ110に貯留されている養液Lにさらに複雑な液流動を生じさせて、撹拌による養液Lの均一化、根の間に滞留する養液Lの洗い流し、根の細部まで養分および溶存酸素を行き渡らせること、根の間欠的な気曝などの効果が一層良好となる。
【実施例3】
【0050】
また、本発明の第3実施例である植物栽培装置に使用される振動機構350について、図6に基づいて以下に説明する。
図6は、本発明の第3実施例に使用される振動機構350の斜視図である。
第3実施例において使用される振動機構350は、偏心回転体352として略楕円形状を呈する形状であってその一方の焦点付近に回転軸351を固定していることは、前述した第2実施例の場合と同様であるが、その外周面に球面状の振動突起353を多数設けたものを使用していて、各回転軸351の両端部側にそれぞれ一対、総計で4個の偏心回転体352を装着したものである。
【0051】
また、本第3実施例においては、左右の回転軸351に対し偏心回転体352を、略逆ハの字状に装着していて、前述した2つの実施例と同様に偏心回転体352の取付角を異にして装着している。
本第3実施例の場合にも、偏心回転体352の外周面に設けられた球面状の振動突起353により植物栽培トレイ110を小刻みに振動させるため、第2実施例の場合と同様に、偏心回転体352の楕円形状に起因する大きな上下、左右振動と球面状の振動突起353に起因する小刻みな振動とが相俟って、開花した花房の雄ずいから効果的に花粉を飛散させて植物株Pの受粉を確実なものとすること、および、植物栽培トレイ110に貯留されている養液Lにさらに複雑な液流動を生じさせて、撹拌による養液の均一化、根の間に滞留する養液Lの洗い流し、根の細部まで養分および溶存酸素を行き渡らせること、根の間欠的な気曝などの効果が一層良好となる。
【0052】
なお、振動機構350において、それぞれの回転軸351に固定する偏心回転体352の取付角は、同一回転軸351については同じ取付角としてもよいが、同一回転軸351においても異なる取付角で偏心回転体352を装着して植物栽培トレイ110を突き上げるタイミングを異ならせる、または、2つの回転軸351に配置した4個または6個の偏心回転体352全ての取付角を異ならせて植物栽培トレイ110の各隅が上昇するタイミングを異ならせるようにして、より複雑な振動形態を実現するようにして、植物株Pの受粉に好適な揺れを実現したり、植物栽培トレイ110内における養液Lの流動形態を2次元的若しくは3次元的な流動を形成するようにして、養液Lをより有効に撹拌したり、根に対する洗い流し、気曝等の効果をさらに改良することもできる。
また、各偏心回転体352を逆方向に回転させるようにして、植物栽培トレイ110を突き上げる態様を変更するようにしてもよい。
さらに、各偏心回転体352の回転速度を可変として、栽培する植物株Pの種類、振動目的(例えば受粉を促進するときと養液Lを撹拌するときとでは回転速度を異ならせるなど)により、植物栽培トレイ310を振動する速度を変更するようにすると、栽培する植物株Pに応じて、より精密な栽培管理を実現することが可能となる。
【0053】
以上のようにして得られた本発明の第1実施例乃至第3実施例の植物栽培装置100は、植物株Pを育成する植物栽培トレイ110と、多列・多段に配置されて植物栽培トレイ110を収容する栽培トレイ収容棚120とを備える植物栽培装置100であって、栽培トレイ収容棚120が植物栽培トレイ110の下方に配置されて、植物栽培トレイ110の底面を突き上げ振動させる複数の偏心回転体152、252、352である振動機構150、250、350を備えていることにより、多数使用される植物栽培トレイ110を簡素な構造のものとして植物栽培装置100全体を簡素化できるとともに、植物栽培トレイ110を上下左右に揺動・振動させて開花時期の植物栽培トレイ110内に植生された植物株Pの花房から花粉を飛散させて植物株Pの受粉を促進させて、従前閉じられた空間においての栽培であって風、昆虫などを媒介とした受粉が困難であった植物栽培装置100について、受粉作業を簡素な機構により著しく簡便に達成することができる。
【0054】
また、栽培トレイ収容棚120が植物栽培トレイ110に養液Lを供給する給液機構130を備えているとともに、植物栽培トレイ110を内部に養液Lを貯留する植物栽培槽としてこれを突き上げて振動させる振動機構150、250、350を備えていることにより、植物栽培トレイ110に貯留される養液Lが適宜に振動、撹拌されて、給液機構130から供給される肥料等の養分が植物栽培トレイ110全体に分散されて養液Lを均一化するため、植物栽培トレイ110で栽培される植物株Pに生育の不揃が生ずることなく均一に成長して、ロスの少なく安定して効率的な植物株Pの栽培、育成を達成することができる。
さらに、植物栽培トレイ110の所望箇所を突き上げ振動させることで植物栽培トレイ110をシーソー的に傾動、振動させて、植物栽培トレイ110中の養液Lを上下・左右に流動させることで植物株Pの根の隅々まで養液Lをゆき渡らせて、根の奥に停滞する養液Lを洗い流して新鮮な養液Lと接触させて根の隅々まで養分と溶存酸素とを充分に行き渡らせるとともに、養液Lの液面の変動により根を間欠的に気曝状態として空気中の酸素を供給することにより、植物株Pの良好な生育を促進することができる。
加えて、栽培トレイ収容棚120に、搬入口を開閉する開閉扉121と開閉扉121と対向する側に後方側壁122とを設けたことにより、振動機構150により喚起される揺動・振動に派生して生じ易い植物栽培トレイ110の落下というような事故を未然に防止することができるなど、その効果は甚大である。
【実施例4】
【0055】
次に、本発明の第4実施例である植物栽培装置について、図7および図8に基づいて以下に説明する。
図7は、本発明の第4実施例である植物栽培装置400の全体側面図であり、図8は、図7に示す植物栽培装置400の要部斜視図である。
【0056】
本第4実施例の植物栽培装置400は、図7に示されているように、複数の植物株Pを栽培可能な植物栽培トレイ410を各々収容可能で、多段・多列に配置された栽培トレイ収容棚420と、植物栽培トレイ410を任意の栽培トレイ収容棚420に入出移動させて移載する栽培トレイ移載機構470とを備え、最下段の栽培トレイ収容棚を栽培に付帯して必要な作業を実行する作業ステーション460として構成するとともに、栽培トレイ移載機構470には植物栽培トレイ410から植物株Pを個別に把持移動可能なハンドリング機構480が設けられている。
各段の栽培トレイ収容棚420および作業ステーション460は、横に2列設けられるとともに、栽培トレイ移載機構470も各段の2列の栽培トレイ収容棚420および作業ステーション460と対応して、2つの植物栽培トレイ410を並べて載置可能に構成されている。
【0057】
図8には、作業ステーション460に栽培トレイ移載機構470から植物栽培トレイ410を移載する様子が示されているが、栽培トレイ移載機構470は、2つの植物栽培トレイ410を並べて載置可能な栽培トレイ移載棚471を上下に移動可能に構成されている。
各栽培トレイ収容棚420においては、生育に必要な照明、温度、湿度等の環境が調整され、給液、受粉などに関しては適宜のタイミングで植物栽培トレイ410を栽培トレイ移載機構470によって作業ステーション460に移動させて実行することとしている。
図8には、左方の植物栽培トレイ410が栽培トレイ移載機構470の栽培トレイ移載棚471に載置されていて、一方、右方の植物栽培トレイ410は作業ステーション460に移載されている状態が示されている。
また、図8において左方の作業ステーション460に示されているとおり、作業ステーション460の下方には振動機構450を構成する回転軸451および偏心回転体452が設置されていて、栽培トレイ移載棚471との間に開閉扉421が、また手前側に後方側壁422が、それぞれ設けられている。
【0058】
作業ステーション460には、前述した各実施例と同様の給液機構430、振動機構450や、植物株Pの状態、養液Lの性状を検出する検出機構(図示せず)などが設けられていて、作業ステーション460では、植物栽培トレイ410を栽培トレイ移載機構470によって作業ステーション460に移動させた際に、養液Lの供給や、養液濃度の調整、植物栽培トレイ410の振動、また、必要によりハンドリング機構480による植物株Pの間引き、など各種の作業が実行される。
なお、図8では右方の側にのみ給液機構430が示されているが、左方の作業ステーション460にも給液機構430を設けてよいことは当然である。
【0059】
以上のように、本第4実施例である植物栽培装置400は、ごく簡素な構造で多数設置された栽培トレイ収容棚420と、振動機構450、給液機構430およびセンサ類などを設備した作業ステーション460と、これらの間で植物栽培トレイ410を移載する栽培トレイ移載機構470を備えていて、また第1実施例において使用していたと同様の、簡素な構造の植物栽培トレイ410を多数使用して、植物株Pを栽培するものである。
第4実施例の植物栽培装置400においては、栽培トレイ移載機構470によって、植物栽培トレイ410を自動的に移載するものであり、植物栽培装置400において植物栽培トレイ410を移載する作業負担を大幅に軽減している。
【0060】
また、振動機構450による受粉作業若しくは養液Lの振動・撹拌作業や給液機構430による養液Lの供給作業は、植物株Pの生育において継続的に行う必要がなく適宜の磁気に実行すればよいことであるから、これらの作業を実行する機構は各栽培トレイ収容棚420に設けることなく、作業ステーション460に集中的に配置して植物栽培装置400の簡素化を図っている。
すなわち、本第4実施例の植物栽培装置400においては、通常は栽培トレイ収容棚420に載置された植物栽培トレイ410において植物株Pを育成しているが、受粉、給液など植物の栽培に付帯する作業が必要となった植物栽培トレイ410を、栽培トレイ移載機構470によって作業ステーション460に移載して、作業ステーション460においてこれらの作業を実行し、作業が終了した植物栽培トレイ410は、再び栽培トレイ移載機構470によって栽培トレイ収容棚420に戻される。
これにより、付帯的な作業を行うため必要な機構を作業ステーション460という特定の箇所のみに設置しても、植物栽培トレイ410を栽培トレイ移載機構470を活用して適宜に移載することにより、各植物栽培トレイ410について、前述したような作業を滞りなく遂行することができる。
【0061】
したがって、本第4実施例の植物栽培装置400においても、前述した第1実施例の植物栽培装置100の場合と同様に、植物栽培トレイ410を上下左右に揺動・振動させて開花時期の植物栽培トレイ410内に植生された植物株Pの花粉を飛散させて植物株の受粉を促進させること、および、植物栽培トレイ410に貯留されている養液Lにさらに複雑な液流動を生じさせて、撹拌による養液の均一化や、根に滞留する養液Lの洗い流し、および、根の細部まで養分および溶存酸素を行き渡らせること、根の間欠的な気曝などの効果を確実に奏することができる。
【0062】
なお、以上の説明においては、養液Lを駐留した植物栽培トレイ410を採用した水耕栽培型の植物栽培装置400に基づいて本発明を説明したが、振動機構450を採用することにより植物株Pの受粉が促進されて、他に複雑な機構を設置することも受粉のための煩雑な作業を行うこともなくなること、および、特定の作業ステーション460に植物株Pの栽培に付帯する、灌水、施肥などの作業を実行する機構を設置してこれらの作業を実行するようにして装置全体の構造を簡易なものとしつつ作業性を向上することができること、などの点は、植物株Pを植生した固形培地型の育種ポットを多数収容した植物栽培トレイを使用して植物株Pを栽培する固形培地型の植物栽培装置の場合でも同様である。
【0063】
以上のようにして得られた本発明の第4実施例である植物栽培装置400によれば、前述した各実施例の奏する効果に加えて、本発明の振動機構450を栽培トレイ移載装置470を有するような大規模な植物栽培装置400にも適用することができるとともに、植物Pの栽培において実行される各種の作業に必要な設備はすべて作業ステーション460に設けて栽培トレイ収容棚420等その他の箇所には付帯設備を設けることがないので、植物の栽培に付帯して必要となる作業は遺漏なく実行できるにも拘わらず植物栽培装置400を全体として簡易で低コストなものとできる。
さらに、植物の栽培に付帯する作業を作業ステーション460という特定の箇所で集中的に実行するため作業効率を大幅に改善することができるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0064】
100、 400 ・・・ 植物栽培装置
110、 410 ・・・ 植物栽培トレイ
111 ・・・ 育床パネル
112 ・・・ 本体容器
120、 420 ・・・ 栽培トレイ収容棚
121、 461 ・・・ 開閉扉
122、 462 ・・・ 後方側壁
130、 430 ・・・ 給液機構
131、 431 ・・・ 養液タンク
132、 432 ・・・ 給液管
133、 433 ・・・ 給液栓
134、 434 ・・・ 給液口
140 ・・・ 栽培トレイ搬入機構
141 ・・・ 搬入ローラ
142 ・・・ 支持ローラ
143 ・・・ 搬入モータ
150、 450 ・・・ 振動機構
151、 451 ・・・ 回転軸
152、252、352、452 ・・・ 偏心回転体
253、353 ・・・ 振動突起
460 ・・・ 作業ステーション
470 ・・・ 栽培トレイ移載機構
471 ・・・ トレイ移載棚
480 ・・・ ハンドリング機構
P ・・・ 植物株
L ・・・ 養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物株を育成する植物栽培トレイと、多列・多段に配置されて前記植物栽培トレイを収容する栽培トレイ収容棚とを備える植物栽培装置であって、
前記栽培トレイ収容棚の少なくとも1つが、前記植物栽培トレイの下方に位置して植物栽培トレイを突き上げて振動させる振動機構を備えていることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記振動機構が複数の偏心回転体を備えて、該偏心回転体を回転させて前記植物栽培トレイの底面を突き上げて振動させることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記植物栽培トレイが下面を矩形とする直方体形状を呈するものであり、前記振動機構が前記植物栽培トレイ底面の4隅のうち少なくともいずれか1隅の近傍を突き上げて振動させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記振動機構の偏心回転体が、外周面に凹凸を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記振動機構が、停止位置において前記栽培トレイ収容棚に載置される植物栽培トレイの底面に非接触状態で位置していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記栽培トレイ収容棚が前記植物栽培トレイを搬入する搬入口に該搬入口を開閉する開閉扉と、該開閉扉と対向する側に搬入された植物栽培トレイと近接して位置する後方側壁とを備えていて、
前記振動機構が前記開閉扉を閉塞した状態で前記植物栽培トレイを突き上げて振動させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項7】
前記植物栽培トレイが内部に養液を貯留して植物株を育成する植物栽培槽であるとともに、
前記振動機構を備えている栽培トレイ収容棚が前記植物栽培槽に養液を供給する給液機構を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項8】
前記植物栽培トレイを任意の栽培トレイ収容棚に移載する栽培トレイ移載機構を備えていて、
前記栽培トレイ収容棚のうちの特定の1または複数の栽培トレイ収容棚が、前記植物株の栽培に付帯する作業を実行する作業ステーションとして構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項9】
前記作業ステーションが、前記振動機構を備えていることを特徴とする請求項8に記載の植物栽培装置。
【請求項10】
前記作業ステーションが、前記給液機構を備えていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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