説明

植物育成装置及び植物育成方法

【課題】栽培対象となる植物の様々な部位に効果的にストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させる。
【解決手段】植物育成装置1は、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液(ラジカル、過酸化水素水が含まれる荷電微粒子液)3を発生させて放出する機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化性物質の含有量の多い植物を栽培するための植物育成装置及び植物育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、植物育成に当たって、植物にUV−Bを照射をして植物にストレスを与えることで植物中のアスコルビン酸及び/又はポリフェノールを増加させる植物育成方法が特許文献1により知られている。
【0003】
ところが、植物に対してUV−Bを照射する従来例にあっては、照射対象となっている植物の一部の部位にしかUV−Bが照射されず、葉の裏側や葉と葉の間、あるいは葉や茎の陰、あるいは障害物の陰に隠れた部位や植物の下部等はUV−Bが照射されず、植物中のアスコルビン酸及び/又はポリフェノールを増加させる効果を充分に発揮させ難いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−086272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来例の問題点に鑑みて発明したものであって、栽培対象となる植物の様々な部位に効果的にストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させることができる植物育成装置及び植物育成方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のような構成になっている。
【0007】
本発明の植物育成装置1は、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液3を発生させて放出する機能を有することを特徴としている。
【0008】
このような構成とすることで、本発明の植物育成装置1で、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液3を発生させることができる。このように植物育成装置1で発生させた微粒子液3を、植物2を栽培している空間に放出することで、微粒子液3が、植物2を栽培している空間を浮遊して、栽培している対象となる植物2の、葉の裏側や葉と葉の間、あるいは葉や茎の陰、あるいは障害物の陰に隠れた部位や植物2の下部に付着して、対象となる植物2の様々な部位においてストレスを与えて、各部位において抗酸化性物質の含有量を増加させることができる。
【0009】
ここで、粒子水がナノメータサイズであることが好ましい。
【0010】
このように植物育成装置1で発生させて放出される微粒子液3がナノメータサイズと極めて小さく且つ極めて軽いので、植物2を栽培している空間を遠くまで浮遊すると共に狭い隙間や物の陰になっている所にも浮遊して、対象となる植物2の各部位に微粒子液3を付着させることができる。
【0011】
また、植物2にストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液3が、ラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液であることが好ましい。
【0012】
このような構成とすることで、ラジカル、過酸化水素により植物2の様々な部位にストレスを与えて、植物2の様々な部位において抗酸化性物質の含有量を増加させることができる。
【0013】
また、上記植物2中で増加する抗酸化性物質が、アスコルビン酸及び/又はポリフェノールであることが好ましい。
【0014】
アスコルビン酸はビタミンCとよばれ、人の生体内では作り出すことができない成分であって、抗酸化作用に加えてメラニンの抑制やコラーゲン合成の促進作用があり、また、ポリフェノールは、抗酸化作用に加えて、植物細胞の生成、活性化などを助ける働きを持つと共に、人に対してはホルモン促進作用がある。したがって、人に対する抗酸化作用に加えて上記、植物や人に対する様々な有用な作用を併せもっている。
【0015】
また、微粒子液3の放出モードとして、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させる植物育成用微粒子液放出モードと、該植物育成用微粒子液放出モードにおける微粒子液3の放出量よりも多い放出量の殺菌用微粒子液放出モードとを有し、植物育成用微粒子液放出モードと殺菌用微粒子液放出モードとを選択して運転することが好ましい。
【0016】
このような構成とすることで、本発明の植物育成装置1は、植物2を育成している環境の変化や、植物2の生育状態等に応じて、植物育成用微粒子液放出モードと、殺菌用微粒子液放出モードとを選択して運転することができる。これにより植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させることと、微粒子液3を多く放出して植物2の生育を阻害する病原菌を殺菌(あるいは繁殖を抑制)することとを選択しでき、状況に応じた効果的な育成ができる。
【0017】
また、植物2を育成している周囲環境の湿度が所定値よりも低いと植物育成用微粒子液放出モードで運転し、湿度が所定値よりも高いと殺菌用微粒子液放出モードで運転することが好ましい。
【0018】
植物2の生育を阻害する病原菌は湿度に大きく影響され、植物2の殆どの病害は高湿度で発病するので、周囲環境が低湿度の雰囲気下では植物育成用微粒子液放出モードで運転して植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させ、周囲環境が高湿度になると殺菌用微粒子液放出モードで運転することにより効果的に殺菌できる。
【0019】
また、帯電微粒子液中にイオン、オゾンを含むものであることが好ましい。
【0020】
このように、帯電微粒子液中にイオン、オゾンを含むことで、更に、帯電微粒子液を植物2に放出することにより、少ない放出量の帯電微粒子水で植物2に対して効果的にストレスを与えて、より効果的に植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させることができる。
【0021】
また、微粒子液の発生が、放電電極4と、放電電極4に水分を供給する液供給手段5とを備え、放電電極4に供給された水分に高電圧を印加することで、微粒子液が発生するものであることが好ましい。
【0022】
このように放電電極4に供給した水分に高電圧を印加するという簡単な構成で、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液3を発生させて放出することができる。
【0023】
また、絶縁スペーサ6と、絶縁スペーサ6に隣接して又は近傍に配置される電極部7とを具備し、電極部7に高電圧を印加することで、絶縁スペーサ6に沿って形成される微小空間8内でマイクロプラズマ放電を行うマイクロプラズマ発生装置9と、該マイクロプラズマ放電により発生した物質を液体に溶解させて過酸化水素を含んだ液とし、この過酸化水素を含んだ液を液供給手段5により前記放電電極4に供給するものであることが好ましい。
【0024】
このような構成とすることで、過酸化水素を含んだ液を静電霧化して帯電微粒子液を生成することができ、これにより水を静電霧化した場合より、ラジカル、過酸化水素を含む帯電微粒子を生成するに当たって、ラジカル、過酸化水素がリッチな帯電微粒子液を生成することができる。したがって、このようにラジカル、過酸化水素がリッチな帯電微粒子液は少ない放出量で、植物2に対して効果的にストレスを与え、対象となる植物2が効果的に抗酸化性物質の含有量を増加させることができる。
【0025】
また、本発明の植物育成方法は、上記の植物育成装置1で発生させた微粒子液3を植物に対して放出することで、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させることを特徴とする。
【0026】
このような方法を採用することで、微粒子液3を、植物2の、葉の裏側や葉と葉の間、あるいは葉や茎の陰、あるいは障害物の陰に隠れた部位や植物2の下部にも確実に付着させて、対象となる植物2の様々な部位においてストレスを与えて、植物2の各部位において抗酸化性物質の含有量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、上記のように構成したので、簡単な構成の装置及び方法で、栽培している対象となる植物の各部位に効果的にストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の植物育成装置を植物育成場に設けて植物育成をしている状態を示す概略説明図である。
【図2】同上の植物育成装置の一実施形態の概略構成図である。
【図3】同上の植物育成装置の他の実施形態の概略構成図である。
【図4】同上の植物育成装置の更に他の実施形態の概略構成図である。
【図5】同上の植物育成装置の更に他の実施形態の概略構成図である。
【図6】本発明の実施例、比較例の2週目、3週目における芽ネギ中の総アスコルビン酸含有量の測定結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例、比較例の2週目、3週目における芽ネギ中の総フェノール物質含有量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0030】
本発明の植物育成装置1は、ビニールハウス、植物育成ボックスのような植物育成場10に設置される。本発明の植物育成装置1は、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液3を発生させて放出する機能を有している。
【0031】
上記植物育成装置1で発生させて放出される植物2に対してストレスを与えるための物質を含む微粒子液3はナノメータサイズのものが好ましい。
【0032】
ここで、植物育成装置1で発生させて植物2に向けて放出する微粒子液をナノメータサイズとすることで、ミクロンサイズの微粒子液に比べて、極めて小さく且つ極めて軽いので、植物育成装置1から放出されたナノメータサイズの微粒子液が、植物育成場10内の空間を遠くまで長時間浮遊すると共に狭い隙間や物の陰になっている所にも浮遊することができ、対象となる植物2の各部位に微粒子液3を付着させることができるようにするためである。
【0033】
また、上記植物2にストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液3としては、例えば、ラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液を挙げることができる。
【0034】
植物2にこれらラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液が付着して植物2に対してストレスを与えると、植物2は抗酸化性物質の生産が増進され、抗酸化性物質の含有量の多い植物2を栽培することができる。
【0035】
上記ラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液によりストレスを与えられた植物2が増産する抗酸化性物質としては、例えば、アスコルビン酸やポリフェノールを挙げることができる。
【0036】
アスコルビン酸は、ビタミンCとよばれ、人の生体内では作り出すことができない成分であり、抗酸化作用に加えて、メラニンの抑制やコラーゲン合成の促進などの様々な性質を有しており、新鮮な野菜では、多くは還元型として存在する。
【0037】
また、ポリフェノールは、人に対して抗酸化作用のほか、ホルモン促進作用などの効力を与える物質し、植物に対しては植物細胞の育成、活性化などを助ける働きを持っている。また、ポリフェノールは種類が多く、特に、カテキンやクロロゲン酸等に代表されるオルトジフェノールは、強い抗酸化能であるラジカル消去能を有している。
【0038】
したがって、本発明の植物育成装置1を、ビニールハウスのような植物育成場10に設置し、植物育成装置1で発生させたラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液を生成して放出することで、ラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液が植物2を栽培している植物育成場10内の空間を浮遊し、栽培している対象となる植物2の、葉の裏側や葉と葉の間、あるいは葉や茎の陰、あるいは障害物の陰に隠れた部位や植物2の下部に付着して、対象となる植物2の様々な部位においてストレスを与えて、植物2の各部位において上記した抗酸化性物質の生産を促進し、植物細胞の育成、活性化を助長しながら抗酸化性物質の含有量の多い植物を栽培することができる。
【0039】
このようにして栽培した抗酸化性物質の含有量の多い植物は、人が食物として摂取することで、体内にアスコルビン酸やポリフェノール等の抗酸化性物質を多く摂取できることになり、人に対して抗酸化作用の効力があり、更に、メラニンの抑制やコラーゲン合成の促進、ホルモン促進作用等の効力を発揮することができ、人の組成の老化を抑制する効果を高めることができる。
【0040】
図2には本発明の植物育成装置1の一例の概略構成図が示してある。本実施形態においては植物育成装置1を静電霧化装置1aで構成した例が示してある。植物育成装置1を構成する静電霧化装置1aは、放電電極4と、放電電極4に水を供給するための液供給手段5と、放電電極4に供給された水分に高電圧を印加して静電霧化するための高電圧印加手段11とを備えていて、放電電極4に供給された水分に高電圧を印加して静電霧化することでラジカル、過酸化水素が含まれたナノメータサイズの帯電微粒子液を大量に生成して放出するようになっている。
【0041】
実施形態では液供給手段5として空気中の水分を冷却することで結露水を生成する例が示してある。空気中の水分を冷却して結露水を生成する例としてペルチェユニット12の例が示してあり、ペルチェユニット12の冷却部13により空気中の水分を冷却して結露水を生成することで放電電極4に水を供給するようになっている。
【0042】
ペルチェユニット12は熱伝導性の高いアルミナや窒化アルミニウムからなる絶縁板の片面側に回路を形成してある一対のペルチェ回路板14を、互いの回路が向き合うように対向させ、多数列設してある熱電素子15を両ペルチェ回路板14間で挟持すると共に隣接する熱電素子15同士を両側の回路で電気的に接続させ、ペルチェ入力リード線16を介してなされる電源35からの熱電素子15への通電により一方のペルチェ回路板14側から他方のペルチェ回路板14側に向けて熱が移動するように構成したものである。更に、上記一方の側のペルチェ回路板14の外側には冷却部13を接続してあり、また、上記他方の側のペルチェ回路板14の外側には放熱部17が接続してある。ペルチェユニット12の冷却部13には放電電極4の後端部が接続してある。
【0043】
放電電極4は絶縁材料からなる筒体18で囲まれており、筒体18の周壁には筒体18内外を連通する開口が設けてある。また、筒体18の先端開口部にリング状をした対向電極19が配設され、放電電極4の軸心の延長線上にリング状の対向電極19のリングの中心が位置するように放電電極4と対向電極19とが対向している。また、高電圧印加手段11による高電圧の印加、ペルチェユニット12への通電等は制御部22により制御するようになっている。なお、本発明においては対向電極19を設けないものであってもよい。
【0044】
上記植物育成装置1は、ペルチェユニット12に通電することで、冷却部13が冷却され、冷却部13が冷却されることで放電電極4が冷却され、空気中の水分を結露して放電電極4に水(結露水)を供給するようになっている。
【0045】
このように放電電極4に水が供給された状態で放電電極4と対向電極19との間に高電圧を印加すると、放電電極4と対向電極19との間にかけられた高電圧により放電電極4の先端部に供給された水と対向電極19との間にクーロン力が働いて、水の液面が局所的に錐状に盛り上がり(テーラーコーン)が形成される。このようにテーラーコーンが形成されると、該テーラーコーンの先端に電荷が集中してこの部分における電界強度が大きくなって、これによりこの部分に生じるクーロン力が大きくなり、更にテーラーコーンを成長させる。このようにテーラーコーンが成長し該テーラーコーンの先端に電荷が集中して電荷の密度が高密度となると、テーラーコーンの先端部分の水が大きなエネルギー(高密度となった電荷の反発力)を受け、表面張力を超えて分裂・飛散(レイリー分裂)を繰り返してラジカル、過酸化水素、イオン、オゾンを含むナノメータサイズの帯電微粒子液が大量に生成させて放出口20(図2では筒体18の先端開口部を放出口としている例を示している)から植物育成場10内の空間に放出される。この場合、図1のように植物育成装置1にファン37を設けることで、ファン37の送風に乗って帯電微粒子水を植物育成場10内の空間の遠くまでより効果的に飛翔させることができる。
【0046】
上記のようにして発生・放出するラジカル、過酸化水素を含む帯電微粒子液はナノメータサイズと極めて小さく且つ極めて軽いものであるから、植物2を栽培している空間を遠くまで浮遊すると共に葉と葉の間などの狭い隙間や物の陰になっている所にも浮遊して、対象となる植物2の様々な部位に微粒子液3を付着させ、植物2の様々な部位において植物2にストレスを与えて抗酸化性物質の生産を促進し、植物細胞の育成、活性化を助長しながら抗酸化性物質の含有量の多い植物を栽培することができる。また、本実施形態では、静電霧化により生成したナノメータサイズの帯電微粒子液にはラジカル、過酸化水素に加え、イオン、オゾンを含んでいるので、植物2に対してより効果的にストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液3を発生させて放出する機能を有している。
【0047】
ここで、本発明の植物育成装置1は、微粒子液3の放出モードとして、植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させる植物育成用微粒子液放出モードと、該植物育成用微粒子液放出モードにおける微粒子液3の放出量よりも多い放出量の殺菌用微粒子液放出モードとを有しており、植物育成用微粒子液放出モードと殺菌用微粒子液放出モードとを選択して運転するようになっている。
【0048】
植物育成装置1における微粒子液3の放出量の調整は、例えば以下のようにして行う。
【0049】
周波数制御をして静電霧化の際に単位時間当たりの帯電微粒子水の発生量を調整することにより行うことができる。殺菌用微粒子液放出モードにおいては単位時間当たりの帯電微粒子水の発生量が多く、植物育成用微粒子液放出モードにおいては単位時間当たりの帯電微粒子水の発生量を少なくする。
【0050】
また、他の例としては、印加する電圧又は電流を調整することで、静電霧化により発生する帯電微粒子液の発生量を調整することで植物育成装置1で発生させて放出する帯電微粒子液の放出量を調整することができる。
【0051】
これにより、植物育成装置1で発生した帯電微粒子液を植物育成場10内に放出した場合、植物育成場10内で栽培している植物に対し、例えば、一定時間における植物(例えば葉)の単位面積当たりに付着する帯電微粒子液の量、つまり、ラジカル、過酸化水素の量を、植物育成用微粒子液放出モードの場合よりも殺菌用微粒子液放出モードの場合が多くなるようにできる。
【0052】
上記植物育成用微粒子液放出モードの場合における帯電微粒子液の発生・放出量は、対象とする植物に対して抗酸化性物質の生産を促進するのに最も適したストレスを与えることができる量とし、殺菌用微粒子液放出モードの場合における帯電微粒子液の発生・放出量は、対象とする植物に発生する病原菌を殺菌するのに最も適した量に設定する。
【0053】
通常の植物2の栽培中は、植物育成装置1を植物育成用微粒子液放出モードで運転するのであるが、育成中の植物2に病原菌が発生したり、あるいは植物育成場10内の環境が病原菌の発生の可能性が高い状態になると、植物育成装置1を殺菌用微粒子液放出モードで運転して、植物育成用微粒子液放出モードの運転中よりも微粒子液3の放出量を多くして、病原菌を効果的に殺菌する。
【0054】
植物育成用微粒子液放出モードを長時間続けると、植物に対して単位面積当たりに付着するラジカル、過酸化水素の量が多くなりすぎて、かえって植物に対してダメージを与えることになるので、植物育成用微粒子液放出モードの運転開始から一定時間経過すると植物育成用微粒子液放出モードを停止したり、あるいは、植物育成用微粒子液放出モードの運転と運転停止とを一定時間毎に交互に繰り返すようにしたり、あるいは、植物育成場10内の環境が病原菌を発生し難い環境になると植物育成用微粒子液放出モードの運転を停止するようにしたりする。
【0055】
ここで、植物2の生育を阻害する病原菌は湿度に大きく影響され、植物2の殆どの病害は高湿度で発病するので、周囲環境が低湿度の雰囲気下では植物育成用微粒子液放出モードで運転して植物2に対してストレスを与えて植物2中の抗酸化性物質の含有量を増加させ、周囲環境が高湿度になると殺菌用微粒子液放出モードで運転するようにしてもよい。
【0056】
上記、植物育成用微粒子液放出モード、殺菌用微粒子液放出モードのいずれで運転するのかの選択は、図3に示すような手動選択手段23により植物育成用微粒子液放出モード、殺菌用微粒子液放出モードのいずれかを選択して目的とするモードで植物育成装置1を運転するようにしてもよく、あるいは、図4のように制御部22に自動選択手段25を設けて両モードのいずれかを自動的に選択するようにしてもよい。自動選択手段25により両モードのいずれかを選択する場合、例えば、植物育成装置1をオンにして運転を開始した場合、最初は植物育成用微粒子液放出モードで運転し、植物育成場10内の環境が病原菌を発生しやすい環境になると殺菌用微粒子液放出モードの運転となるように自動選択手段25により制御する。
【0057】
この場合、殺菌用微粒子液放出モードの運転となるためのトリガーとしては、例えば、植物育成場10内の湿度を検出する湿度センサ27を設け、湿度センサ27で検出する湿度が所定値よりも低いと植物育成用微粒子放出モードで運転し、湿度が所定値よりも高くなると、殺菌用微粒子液放出モードの運転を行う。
【0058】
例えば、炭素病は湿度60%状態になると発病し易いので、例えば、植物育成用微粒子液放出モードの運転中に、植物育成場10内の湿度が60%以上になると殺菌用微粒子液放出モードで運転し、湿度が60%以下になるか、又は、殺菌用微粒子液放出モードの運転を停止し、植物育成用微粒子液放出モードの運転に切り替えるか、又は植物育成装置1の運転を停止する。
【0059】
また、他の例としては、植物に対して所定時間毎に自動潅水装置により水を与える場合、潅水の開始、あるいは潅水の終了をトリガーとして殺菌用微粒子液放出モードの運転を行うようにしてもよい。
【0060】
次に、本発明の植物育成装置1の他の実施形態を図5に基づいて説明する。本実施形態における植物育成装置1は、マイクロプラズマ発生装置9と、静電霧化装置1aとで構成してある。
【0061】
マイクロプラズマ発生装置9は、絶縁スペーサ6の両側に電極部7を隣接して又は近傍に配置し、絶縁スペーサ6と電極部7には共に、その厚み方向に貫通する0.1〜数mm程度の径の貫通孔が形成してあり、また、両電極部7間に高電圧を印加するための高電圧印加部30を設けて構成してあり、両電極部7間に高電圧を印加することで、微小空間8である上記貫通孔内でマイクロプラズマ放電によりヒドロキシラジカル、スーパオキサイド等のラジカル、硝酸イオン、窒素酸化物等の成分を含むマイクロプラズマが高密度で発生するようになっている。
【0062】
図5において、31はペルチェユニットを用いた冷却装置でペルチェユニットの冷却部側に設けた冷却板32を冷却することで空気中の水分を結露させ、冷却板32に結露した水を流路33に流すようになっている。
【0063】
該流路33には上記マイクロプラズマ発生装置9で発生したマイクロプラズマが放出され、マイクロプラズマが水に溶解する。該マイクロプラズマが溶解した水中には過酸化水素が存在する(つまり、上記のようにマイクロプラズマにはヒドロキシラジカル、スーパオキサイド等のラジカルが含まれており、これらヒドロキシラジカル、スーパーオキサイドから過酸化水素が生成される)。
【0064】
過酸化水素を含む液が液溜め部34に溜められ、該液溜め部34の過酸化水素を含む液を毛細管などの液供給手段5により前記放電電極4に供給し、高電圧印加手段11により高電圧を印加することで放電電極4に供給された過酸化水素を含む液を静電霧化して、ラジカル、過酸化水素を含むナノメータサイズの帯電微粒子液を大量に生成し、ファン37から送られる風に乗って外部に放出される。
【0065】
このように本実施形態においても、発生する帯電微粒子液にラジカル、過酸化水素を含んでいるのであるが、前述のように本実施形態においては過酸化水素を含む液を静電霧化するので、前述の水を静電霧化した実施形態の場合に比べて、帯電微粒子中においてラジカル、過酸化水素がリッチな状態となる。したがって、本実施形態の植物育成装置1において発生させた帯電微粒子液は、前述の水を静電霧化して発生させた帯電微粒子液に比べ、植物2に対して単位面積当たりに付着する帯電微粒子液の量を少なくてしても、植物に対して単位面積当たりに付着するラジカル、過酸化水素の量をほぼ同じ、つまり対象とする植物2に対して抗酸化性物質の生産を促進するのに最も適したストレスを与えることができる量とすることが可能となる。
【0066】
したがって、例えば、高さが高く、広い植物育成場10において、背の高い植物2を栽培しているような場合、天井から帯電微粒子液を放出して広い範囲に浮遊させて植物2に付着させる際は植物2の単位面積当たり付着する帯電微粒子液の量を少なくなるが、このような場合でも植物に対して単位面積当たりに付着する過酸化水素の量をほぼ同じにできる。
【0067】
次に、本発明の実施例と比較例につき説明する。
【0068】
[実施例]
水耕栽培で生育させた芽ネギを播種後27日から3週間、内容量が50リットルで外気導入用の送風ファンを設けた人工気象器(宇部興産株式会社製)内に入れて栽培した。
【0069】
人工気象器内の環境は、25℃、湿度50%を保った。また、12時間周期で人工照明の点灯と、消灯を繰り返した。人工照明は、照度8364lx、光合成有効光量子束密度118.4μmolm−2−1とした。
【0070】
また、人工気象器の側部の上部に設けた外気導入用の送風ファンに隣接して図2示す植物育成装置1を配設し、植物育成装置1を24時間毎日連続運転をしてラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液を発生させて放出し、送風に乗せて芽ネギを栽培している人工気象器内に飛翔させた。
【0071】
2週目、3週目における芽ネギ中の総アスコルビン酸含有量をヒドラジン法により測定した。また、2週目、3週目における芽ネギ中の総フェノール物質含有量をフォーリン・チオカルト法で測定した。
【0072】
[比較例]
植物育成装置1を設けない以外は実施例と同じ条件で芽ネギの栽培を行った。
【0073】
2週目、3週目における芽ネギ中の総アスコルビン酸含有量をヒドラジン法により測定した。また、2週目、3週目における芽ネギ中の総フェノール物質含有量をフォーリン・チオカルト法で測定した。
【0074】
上記実施例、比較例の2週目、3週目における芽ネギ中の総アスコルビン酸含有量の測定結果を図6に示し、2週目、3週目における芽ネギ中の総フェノール物質含有量を図7に示している。
【0075】
図6、図7から明らかなように、2週目、3週目のいずれも実施例のものが、比較例のものよりも芽ネギ中のアスコルビン酸含有量、総フェノール物質含有量よりも多い。これにより、本発明の植物育成装置1を用いて微粒子液を発生させて、植物2に対して放出することで植物中の抗酸化性物質の含有量が増加することが判明する。
【符号の説明】
【0076】
1 植物育成装置
2 植物
3 微粒子液
4 放電電極
5 液供給手段
6 絶縁スペーサ
7 電極部
8 微小空間
9 マイクロプラズマ発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に対してストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液を発生させて放出する機能を有することを特徴とする植物育成装置。
【請求項2】
粒子水がナノメータサイズであることを特徴とする請求項1記載の植物育成装置。
【請求項3】
植物にストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させるための物質を含む微粒子液が、ラジカル、過酸化水素が含まれる帯電微粒子液であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の植物育成装置。
【請求項4】
上記植物中で増加する抗酸化性物質が、アスコルビン酸及び/又はポリフェノールであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の植物育成装置。
【請求項5】
微粒子液の放出モードとして、植物に対してストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させる植物育成用微粒子液放出モードと、該植物育成用微粒子液放出モードにおける微粒子液の放出量よりも多い放出量の殺菌用微粒子液放出モードとを有し、植物育成用微粒子液放出モードと殺菌用微粒子液放出モードとを選択して運転することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の植物育成装置。
【請求項6】
植物を育成している周囲環境の湿度が所定値よりも低いと植物育成用微粒子液放出モードで運転し、湿度が所定値よりも高いと殺菌用微粒子液放出モードで運転することを特徴とする請求項5記載の植物育成装置。
【請求項7】
帯電微粒子液中にイオン、オゾンを含むことを特徴とする請求項3記載の植物育成装置。
【請求項8】
微粒子液の発生が、放電電極と、放電電極に水分を供給する液供給手段とを備え、放電電極に供給された水分に高電圧を印加することで、微粒子液が発生するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の植物育成装置。
【請求項9】
絶縁スペーサと、絶縁スペーサに隣接して又は近傍に配置される電極部とを具備し、電極部に高電圧を印加することで、絶縁スペーサに沿って形成される微小空間内でマイクロプラズマ放電を行うマイクロプラズマ発生装置と、該マイクロプラズマ放電により発生した物質を液体に溶解させて過酸化水素を含んだ液とし、この過酸化水素を含んだ液を液供給手段により前記放電電極に供給するものであることを特徴とする請求項8記載の植物育成装置。
【請求項10】
上記請求項1乃至請求項9のいずれかに記載された植物育成装置で発生させた微粒子液を植物に対して放出することで、植物に対してストレスを与えて植物中の抗酸化性物質の含有量を増加させることを特徴とする植物育成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−36213(P2011−36213A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188632(P2009−188632)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】