説明

検査装置および検査方法

【課題】 導電性接着剤の電気的特性を非破壊で正確に検査できる検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】 接着樹脂と導電性フィラーからなる導電性接着剤によって接合された接合部を有する試験体を、荷重試験部10における試験体保持部に固定する。制御部2は、駆動制御部8を制御し、上記接合部に荷重を繰り返し加えさせながら、抵抗値測定部9を制御し、上記接合部の抵抗値を測定させ、測定結果をデータ蓄積部4に記憶させる。また、制御部2は、測定した抵抗値と予め設定された判定基準値とを判定部5に比較させ、上記接合部の電気的特性の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤の接合状態を検査する検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、家電製品や自動車など、さまざまな装置において、プリント基板などの微細な電子部品を用いた電子回路が用いられている。これらの電子回路に用いられる電子部品あるいは配線等の微細な接合部は、従来、はんだによって接合されていた。
【0003】
しかし、近年、はんだ接合の代替として、環境代替技術、低温加工性などの点ではんだよりも優れている、導電性接着剤が期待されている(例えば非特許文献1参照)。導電性樹脂は、一般に、エポキシ樹脂などの接着樹脂と、銀や銅などの導電性フィラーとが混合されてなる。
【0004】
導電性樹脂をプリント配線基板などの電子部品の接合に用いる場合、これらの電子部品は自動車や家電製品など多様な装置に使用され、その使用中はさまざまな環境に晒されるため、環境試験(温度サイクル試験など)前後での導電性接着剤の劣化を考慮する必要がある。
【0005】
導電性接着剤には、電気的特性として低接触抵抗、機械的特性として高接着強度、化学的特性として低吸湿率,難燃性、物理的特性として低膨張率,高熱伝導率、が求められる。このうち、導電性接着剤の劣化には、主に、機械的特性(接合強度)の低下と、電気的特性(導電性)の低下がある。機械的特性の低下は、エポキシ樹脂自体の材料劣化によるものであり、導電性に問題がなければ、電子回路の機能性能には大きく影響しない。しかし、導電性が低下すると、電子回路の機能性能に大きな影響を及ぼす。つまり、導電性接着剤においては、微小な抵抗値(導電性)の変化が電子回路の故障の原因となる。したがって、導電性接着剤における接合不良のうち、導電性の低下が特に問題であり、導電性の変化を適切に評価する必要がある。
【0006】
従来、導電性樹脂の評価は、導電性材料による接合部を含む試験体を、環境条件を変化させること(環境試験)によって劣化促進させた後、引張試験や剪断強度試験などのような接合強度試験を行い、試験体の動作確認や、接合部断面の光学顕微鏡などによる観察を行うことによってなされている。すなわち、環境試験による試験体の劣化度合いに基づいて、導電性接着剤の接合性(機械的特性)、導電性(電気的特性)の評価を行っている。
【非特許文献1】菅沼克昭編著,「ここまできた導電性接着剤技術」,初版,工業調査会、2004年1月20日,p.198−203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の導電性接着剤の評価方法では、使用環境に応じた微小な抵抗値変化(導電性変化)を測定できないという問題がある。
【0008】
すなわち、従来は、環境試験後に接合強度試験を行い、接合部断面の光学顕微鏡などによる観察を行っている。このため、試験体に破壊検査を行うことになり、環境条件や接合強度条件を変化させた場合の微小な抵抗値変化については評価することができない。すなわち、特定の条件下における「静的な電気特性」しか評価できず、例えば試験体に加わる荷重条件等が変化する場合の「動的な電気特性」については評価できない。
【0009】
また、破壊検査を伴う上記従来の方法では、実際の製品状態での試験体に対する接合状態の観測が困難である。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電性接着剤の電気的特性を非破壊で正確に検査できる検査装置および検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の検査装置は、上記の課題を解決するために、接着樹脂と導電性フィラーとからなる導電性接着剤によって接合された接合部の、電気的特性の劣化を検出する検出装置であって、上記接合部に荷重を繰り返し加える荷重手段と、上記接合部における電気抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定するように、上記荷重手段および上記抵抗値測定手段の動作を制御する制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0012】
電気的特性(電気的接合性)が劣化した接合部では、導電性フィラー間に接着樹脂が入り込み、導電性フィラー表面を接着樹脂でコーティングしたような状態となっている。すなわち、接合部における、導電性フィラーと接着樹脂との分布状態が不均一になっている。このため、荷重を印加しながら、接合部の抵抗値を測定すると、荷重の変化に応じて抵抗値が大きく変動する。
【0013】
そこで、上記構成のように、上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定することにより、荷重の変化に応じた抵抗値の変化を検出でき、上記接合部の電気的特性の良否を、非破壊検査によって正確に検出できる。
【0014】
また、上記制御手段は、上記接合部に繰り返し加える荷重の、荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数のうち少なくとも1つが、予め設定された条件となるように、上記荷重手段の動作を制御するものであってもよい。
【0015】
上記の構成によれば、上記接合部に繰り返し加える荷重の、荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数のうち少なくとも1つが、予め設定された条件となるように設定される。したがって、例えば、接合部に加える荷重の条件を、検査対象である試験体の組成、サイズなどの条件に応じて予め設定しておくことにより、異なる複数種類の試験体に対して、上記接合部の電気的特性の良否を、非破壊検査によって正確に検出できる。
【0016】
また、ユーザからの指示を受け付ける入力部を備え、上記制御手段は、上記入力部を介して入力された条件に基づいて、上記荷重手段の動作を制御する構成としてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、上記荷重手段の動作の制御条件を、ユーザが任意に設定できる。これにより、例えば、検査する試験体の組成、サイズなどに応じて、上記接合部に加える荷重の条件を適宜設定することができる。
【0018】
また、上記制御手段は、上記接合部に一定の大きさの電流を通電させ、上記接合部の電圧降下を電気抵抗値として測定させるように、上記抵抗値測定手段の動作を制御する構成としてもよい。
【0019】
上記接合部における電気的特性が劣化し、導電性フィラーと接着樹脂との分布状態が不均一になっている場合、荷重を印加しながら上記接合部の抵抗値を測定すると、荷重の変化に応じて抵抗値が大きく変動する。したがって、上記の構成のように、上記接合部に一定の大きさの電流を通電し、上記接合部の電圧降下を電気抵抗値として測定することで、上記接合部の電気的特性の良否を、非破壊検査によって正確に検出できる。
【0020】
また、上記抵抗値測定手段によって測定した電気抵抗値と、予め設定された判定基準値との大小を比較する判定手段を備え、上記制御手段は、上記判定手段の比較結果に基づいて、上記接合部の電気的特性の良否を判定する構成としてもよい。
【0021】
上記の構成によれば、上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定するとともに、上記測定した電気抵抗値を、予め設定された判定基準値と比較する。これにより、上記接合部の電気的特性の良否を、適切に判定することができる。
【0022】
本発明の検査方法は、上記の課題を解決するために、接着樹脂と導電性フィラーとからなる導電性接着剤によって接合された接合部の、電気的特性の劣化を検出する検査方法であって、上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定する工程を含むことを特徴としている。
【0023】
上記の検査方法によれば、上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定する。
【0024】
電気的特性が劣化した接合部では、導電性フィラーと接着樹脂との分布状態が不均一になっている。このため、荷重を印加しながら、接合部の抵抗値を測定すると、荷重の変化に応じて抵抗値が大きく変動する。
【0025】
そこで、上記方法のように、上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定することにより、荷重の変化に応じた抵抗値の変化を検出でき、上記接合部の電気的特性の良否を、非破壊検査によって正確に検出できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の検査装置は、以上のように、導電性接着剤によって接合された接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定する。それゆえ、上記接合部の電気的特性の良否を、非破壊検査によって正確に検出できる。
【0027】
本発明の検査方法は、導電性接着剤によって接合された接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定する工程を含む。それゆえ、上記接合部の電気的特性の良否を、非破壊検査で正確に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る検査装置1の概略構成を示すブロック図である。また、図2は、検査装置1における荷重試験部10の外観を示す正面図である。なお、検査装置1は、導電性接着剤によって接合された接合部を有する試験体に荷重を繰り返し加えることにより、実際の使用環境(振動環境、落下環境など)における上記接合部の導電性の経時的変化(動的な電気的特性)を正確に検査するためのものである。
【0029】
図1に示すように、検査装置1は、制御部2、入力部3、データ蓄積部4、判定部5、表示部6、荷重検出部7、駆動制御部8、抵抗値測定部9、荷重試験部10、タイマー(計時手段)11、メモリー12を備えている。
【0030】
荷重試験部10は、図2に示すように、試験体保持部21、一対のガイド部22・22、駆動部23、ロードセル支持部24、ロードセル25、試験部26を備えている。
【0031】
試験体保持部21は、測定対象物(観測対象物)である試験体を固定保持するものである。すなわち、図2に示すように、測定時には、試験体保持部上に試験体30が載置され、固定される。
【0032】
ガイド部22・22は、ロードセル支持部24の両端部を試験体保持部21に対して鉛直方向(垂直方向)に移動可能に支持するものである。
【0033】
駆動部23は、ロードセル支持部24を、ガイド部22・22に沿って変位(移動)させるための駆動力を供給するモータである。なお、駆動部23の動作は、駆動制御部8(図1参照)によって制御されるようになっており、ロードセル支持部24をガイド22・22に沿って繰り返し上下方向に変位させる。
【0034】
ロードセル支持部24は、ロードセル25を支持するものであり、上記したように、両端部をガイド22・22によって試験体保持部21に対して鉛直方向に移動可能に支持されている。
【0035】
ロードセル25は、上部をロードセル支持部24に固定されており、下部を試験部26に接続されている。
【0036】
試験部26は、ロードセル25に固定されており、駆動部23によってロードセル支持部24、ロードセル25、試験部26が一体的にガイド22・22に沿って上下方向に変位(移動)を繰り返すようになっている。また、試験部26は、測定時には、試験体30の表面に接触するように位置設定される。これにより、駆動部23によって供給される駆動力が、試験体30に荷重力として加えられる。
【0037】
なお、ロードセル25は、荷重検出部7(図1参照)に接続されており、荷重検出部7によって、試験体に加えられた荷重が検出されるようになっている。
【0038】
試験体30は、上記したように、試験体保持部21上に載置される。なお、図2に示す例では、試験体30は、プリント基板33とICパッケージ31とが、接合部32によって接合されてなり、接合部32には、エポキシ樹脂と銀フィラーとが混合された導電性接着剤が用いられている。すなわち、図2に示した試験体30は、導電性接着剤からなる複数の端子(バンプ)によって構成された接合部(導電性接合部)32によってICパッケージ31をプリント基板33に接続することで、両者の電気的接続を実現する、BGA(Ball Grid Array)を用いたフリップチップ方式のICパッケージである。
【0039】
また、図2に示すように、配線27が導電性接着剤からなる端子の1つである端子(導電性接続端子)32aに接続され、配線28が他の端子(導電性接続端子)32bに接続されている。また、端子32aと端子32bとは、ICパッケージ31を介して電気的に接続されている。なお、各端子に対する配線の接続法は図2に示した方法に限るものではない。例えば、図7に示すように、ICパッケージ31の端子とプリント基板33とを、各端子を介して交互に配線してもよい。すなわち、試験体の接合部における各端子を、ICパッケージ31およびプリント基板33の内部パターンを交互に介するように直列に配線してもよい。この場合、全ての接合部(端子)についての接合状態を評価できる。また、配線27および配線28は、抵抗値測定部9(図1参照)に接続されている。
【0040】
また、図2には、試験体30が、BGAを用いたフリップチップ方式のICパッケージである場合の例を示したが、検査装置1によって電気的特性を評価する試験体は、これに限るものではなく、導電性接着剤による接合部を含むものであれば適切に評価できる。例えば、ワイヤボンディング方式のICパッケージや、基板に設けられたパッド(例えば銅パッド)に導電性接着剤によって配線(例えば銅線)を接続した一般的な電子回路の配線などであってもよい。
【0041】
入力部3は、試験体に加える荷重の荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数、試験体に関する情報(組成、種類、名称、サイズ等)、試験体の性能の良否を判断するための判定基準値、などの設定入力を受け付け、制御部2に伝達するものである。ユーザは、入力部3を介してこれらの情報を入力することができる。
【0042】
データ蓄積部4は、入力部3に入力された各設定条件、測定開始からの経過時間、サイクル数、測定結果、試験体に関する情報などを記憶するものである。
【0043】
判定部5は、測定結果の抵抗値(電気抵抗値)と、入力部3に入力された判定基準値とを比較し、試験体の電気的特性の良否を判断するものである。なお、判定基準値は特に限定されるものではないが、検査装置1では劣化前の(製造直後の)試験体30に対する抵抗変化率±50%を判定基準値としている。
【0044】
表示部6は、制御部2の指示に応じて、各種情報を表示してユーザに呈示するものである。例えば、設定入力時には、上記した各入力項目について、ユーザからの入力を待機している旨を順次表示するとともに、ユーザから入力された情報を表示する。これにより、ユーザは、表示部6に表示された順序で必要な情報を順次入力でき、また、入力した情報の適否を表示部6に表示された内容を参照することで確認できる。また、測定時には、測定開始からの経過時間、その時点での荷重サイクル数、測定した抵抗値などを表示する。なお、表示する内容はこれに限らず、制御部2の判断やユーザの設定などによって適宜変更してもよい。
【0045】
荷重検出部7は、上記したように、ロードセル25に接続されており、試験体30に加わる荷重を検出し、検出結果を制御部2に伝達する。
【0046】
駆動制御部8は、制御部2からの指示に応じて、例えば一定の速度,荷重力で、試験体30に圧縮または引張力を繰り返し加えるように、荷重試験部10に備えられた駆動部23の駆動制御を行う。
【0047】
抵抗値測定部9は、配線27および28によって試験体30に一定電流(一定の大きさの電流)を通電し、試験体30の電圧降下を抵抗値として検出することによって、試験体30の導体抵抗変化を測定する。また、抵抗値測定部9は、検出結果(測定結果)を制御部2に伝達する。
【0048】
タイマー11は、試験開始からの経過時間を計測する計時手段である。
【0049】
メモリー12は、入力部3に入力された情報や、測定結果などを一時的に記憶しておく一時記憶手段である。
【0050】
制御部2は、検査装置1における各部の動作を制御する、検査装置1の中枢部である。すなわち、入力部3に入力された設定条件に基づいて、荷重検出部7の検出結果を参照しながら駆動制御部8を制御して試験体30に設定された荷重を加え、抵抗値測定部9を制御して試験体30の抵抗値を連続的に測定させる。さらに、判定部5を制御し、測定結果と、入力部3に予め入力された判定基準値とを比較させ、試験体30の導電性の良否を判断させる。また、入力部3に入力された各設定条件や測定結果などのデータをデータ蓄積部4に記憶させる。また、表示部6に各種情報を表示させる。
【0051】
ここで、検査装置1における検査処理について、図3を参照しながら説明する。図3は、検査装置1における処理の流れを示すフローチャートである。
【0052】
検査を行う際、ユーザは、まず、検査対象となる試験体を荷重試験部10における試験体保持部21に固定し、導電性接着剤によって接合された接合部32に抵抗値測定用の配線27,28を接続する。
【0053】
次に、入力部3に、荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数、試験体に関する情報(組成、種類、名称、サイズ等)、試験体の性能の良否を判断するための判定基準値、などを入力する。
【0054】
この際、制御部2は、ユーザからの入力(設定入力)が完了したか否かを判断する(S1)。そして、入力が完了していない場合(S1がNoの場合)、制御部2は、引き続き入力が完了することを監視する。一方、ユーザによる入力が完了した場合(S1がYesの場合)、制御部2は、入力された情報をデータ蓄積部4に記憶させる(S2)。なお、検査装置1では、入力された情報をメモリー12に一時的に記憶させておき、ユーザによる入力が完了したときに、入力された情報をデータ蓄積部4に記憶させるようになっている。ただし、これに限らず、入力された項目ごとに、入力された情報をデータ蓄積部4に順次記憶させるようにしてもよい。
【0055】
その後、制御部2は、ユーザによる試験部26のゼロ値設定が完了したか否かを判断する(S3)。すなわち、ユーザは、上記の入力操作が完了すると、荷重試験部10における試験部26を試験体30に接触(当接)させ、そのときの荷重および伸び(試験部26の位置)をゼロ値として設定する。
【0056】
ゼロ値設定が完了してない場合(S3がNoの場合)、制御部2は、ユーザによってゼロ値設定がなされることを待機する。一方、ゼロ値設定が完了した場合(S3がYesの場合)、制御部2は、試験開始指示があったか否かを判断する(S4)。なお、この試験開始指示は、例えば、ユーザが入力部3を介して行う。また、ゼロ値設定が完了した場合、制御部2は、設定されたゼロ値に対応する試験体の位置、荷重などをデータ蓄積部4や図示しないメモリーなどに記憶させるようにしてもよい。
【0057】
そして、試験開始指示が入力されていない場合(S4がNoの場合)、制御部2は、引き続き試験開始指示が入力されることを待機する。
【0058】
一方、試験開始指示が入力された場合(S4がYesの場合)、制御部2は、抵抗値測定部9を制御し、配線27および28を介して、試験体30に一定電流を通電させる(S5)。なお、制御部2は、試験が終了するまで、試験体30に一定電流を通電させる。
【0059】
さらに、制御部2は、抵抗値測定部9を制御し、試験体30の電圧降下を抵抗値として検出させ、データ蓄積部4に初期抵抗値として記憶させる(S6)。
【0060】
その後、制御部2は、駆動制御部8を制御し、入力部3を介して設定された荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数で試験体30に荷重を加えさせる(S7)。すなわち、制御部2は、駆動制御部8に、荷重試験部10に備えられた駆動部23を駆動させ、また、その動作を制御させる。
【0061】
そして、制御部2は、抵抗値測定部9を制御し、一定時間ごと(例えば1秒ごと)に、試験体30の電圧降下を抵抗値として検出させ、データ蓄積部4に記憶させる(S8)。すなわち、制御部2は、荷重試験開始と同時に試験体30の抵抗値の測定を開始するとともに、タイマー11によって荷重を加え始めてからの時間計測を開始し、一定時間毎に抵抗値を連続測定する。
【0062】
その後、制御部2は、所定の荷重サイクル数(入力部3に入力された荷重サイクル数)が終了したか否かを判断する(S9)。そして、所定の荷重サイクル数が完了していない場合(S9がNoの場合)、制御部2は、引き続き、一定時間毎に抵抗値の検出および記憶を行う。一方、所定の荷重サイクル数が完了した場合(S9がYesの場合)、制御部2は、抵抗値測定部9による通電および抵抗測定、駆動部23による試験体30への荷重の付与を終了させ、荷重試験を終了する。
【0063】
次に、上記の試験を行った結果の一例について説明する。図4は、検査装置1によって試験を行うために作製した、試験体(接合信頼性評価用基板)30aの断面図である。この図に示すように、試験体30aは、プリント配線板41、銅パッド42、銅線43、接合部44を含む。
【0064】
プリント配線板41は、板厚1.6mmの片面銅張ガラスエポキシ基板からなる。また、プリント配線板41には直径1.2mmの穴部45が2つ設けられている。また、プリント配線板41における一方の面には、上記の各穴部45の周囲に、穴部45と同心円を形成するように、直径2.2mmの銅パッド42が形成されている。
【0065】
銅線43は、直径1mmであり、両端がそれぞれ異なる穴部45を通って、プリント配線板41の他方の面(銅パッド42が設けられていない面)側から一方の面(銅パッド42が設けられている面)側に突き出すように配置されている。また、銅線43の両端部は、導電性接着剤からなる接合部44によって、銅パッド42と電気的かつ機械的に接合されている。
【0066】
接合部44は、エポキシ樹脂(組成比38%)、銀フィラー(組成比72%)の導電性接着剤からなる。
【0067】
このような構成からなる試験体30aに対して、荷重速度6mm/分、変位量0.4mm、荷重力(引張力)5N、サイクル回数10回の設定条件で、上記の試験(引張評価)を行った。なお、接合劣化が生じる前の試験体30aと、環境試験によって接合劣化が生じた後の試験体30aについて、同様の試験を行った。
【0068】
図5(a)は、上記の試験において試験体30aに印加した荷重(入力信号、荷重信号)と経過時間との関係の一例を示すグラフである。この図に示すように、各試験体30aに、一定の速度(6mm/分)で約5Nの引張力を繰り返し(10回)加えた。
【0069】
図5(b)は、環境試験によって接合劣化が生じる前の試験体30aについて、上記の試験を行った結果得られた、抵抗値(導体抵抗値)と経過時間との関係を示すグラフである。この図に示すように、接合劣化が生じていない試験体30aでは、荷重に対して抵抗値(導体抵抗値)はほぼ一定であり、変化しなかった。
【0070】
図5(c)は、環境試験によって接合劣化が生じた後の試験体30aについて、上記の試験を行った結果得られた、抵抗値(導体抵抗値)と経過時間との関係を示すグラフである。この図に示すように、接合劣化が生じた試験体30aでは、荷重に対して抵抗値(導体抵抗値)が大きく変化した。
【0071】
ここで、劣化前後で抵抗値が変化する理由について説明する。図6(a)は、接合劣化が生じる前の試験体30aにおける銅パッド(被接合体)42と接合部44との界面を示す断面図である。この図に示すように、劣化前の試験体30aにおける接合部44では、銀フィラー(金属フィラー)が一様に分布しており、安定な電気的接合状態を保っている。
【0072】
図6(b)は、接合劣化が生じた試験体30aにおける銅パッド(被接合体)42と接合部44との界面を示す断面図である。この図に示すように、劣化後の試験体30aにおける接合部44では、銀フィラー(金属フィラー)中にエポキシ樹脂が入り込んでおり、これによって電気的接合不良が生じる。すなわち、接合部44に周囲温度変化などの環境変化が繰り返されると、エポキシ樹脂が膨張と収縮を繰り返し、それにより、電気的接続に寄与する金属フィラー間に除々にエポキシ樹脂が入り込み、金属フィラー表面をエポキシ樹脂でコーティングしたような状態となり、電気的抵抗値が上昇する。この電気的接合不良が、試験体30aに荷重を加えた場合の導体抵抗値の変化として現れる。
【0073】
なお、試験体30aについて、抵抗値の変化と、電気的接合状態の劣化度合いとを比較検討した結果、電気的接合不良は、製造直後の試験体(劣化前の試験体)における接合部の初期抵抗値に対する、環境試験を行った試験体または実環境に一定時間放置した後の試験体(劣化後の試験体)における接合部の抵抗値変化率が、±50%の範囲を超えると起こることがわかった。例えば、初期抵抗値が1Ωの試験体に対して圧縮試験を行う場合、電気的接合不良が生じている試験体では抵抗値が1.5Ωを超える。また、例えば、初期抵抗値が1Ωの試験体に対して引張試験を行う場合、電気的接合不良が生じている試験体では抵抗値が0.5Ω以下となる。
【0074】
したがって、検査装置1では、この試験体を検査する場合の判定基準値を劣化前の試験体30aにおける抵抗値の±0.5Ω(±50%)に設定しておくことにより、試験体30aの電気的接合状態の良否を判定部5で適切に判断することができる。すなわち、判定部5において、測定結果の抵抗値と、入力部3に入力された判定基準値(この場合±0.5Ω)とを比較し、試験体30aの電気的特性の良否を判断することができる。
【0075】
また、荷重速度、荷重力、変位、荷重サイクル数の各条件を変化させて、試験体30aに対する接合性評価試験を行った。その結果、荷重速度を10mm/分より速くした場合、変位を5mmより大きくした場合、荷重サイクル数を20回より多くした場合には、接合部44が破壊されてしまい、試験結果の再現性が得られなかった。また、荷重速度を1mm/分未満とした場合、荷重力を1N未満とした場合、変位を1mm未満とした場合、荷重サイクル数を10回未満とした場合には、抵抗値の変化が小さく、正確な測定が困難であった。したがって、荷重速度は1mm/分以上10mm/分以下、荷重力は1N以上、変位は0.1mm以上5mm以下、荷重サイクル数は10回以上20回以下とすることが好ましい。
【0076】
以上のように、本実施形態にかかる検査装置1では、試験体に対して所定の荷重条件(変位、荷重力、荷重速度、荷重サイクル数など)の荷重を加えながら、導電性接着剤による接合部の導体抵抗値を測定する。
【0077】
これにより、導電性接着剤による接合部における電気的接続状態の劣化の有無を、試験体の破壊検査を行うことなく検出することができる。
【0078】
より詳細には、電気的接合性が劣化した試験体では、接合部において、金属フィラー間にエポキシ樹脂が入り込み、金属フィラー表面をエポキシ樹脂でコーティングしたような状態となっている。すなわち、接合部における、金属フィラーと接着樹脂との分布状態が不均一になっている。このため、荷重を印加しながら、接合部の抵抗値を測定した場合、荷重の変化に応じて抵抗値が大きく変動する。したがって、本実施形態にかかる検査装置1のように、接合部に荷重を繰り返し加えながら抵抗値を測定することで、電気的接合状態の良否を、非破壊検査によって検出できる。
【0079】
また、検出装置1では、予め設定された判定基準値と測定結果とを比較し、その比較結果から試験体の電気的接合状態の良否を判定する判定部5を備えている。これにより、ユーザは、試験体の電気的接続状態の良否を、容易かつ確実に認識することができる。
【0080】
また、検査装置1では、試験体の接合部に荷重を繰り返し加えながら抵抗値の経時変化を測定することにより、実際の使用環境(振動環境、落下環境など)での「動的な電気的特性」を正確に検査できる。
【0081】
また、本実施形態では、荷重試験対象の導電性接着剤として、エポキシ樹脂(接着樹脂)と銀フィラー(導電性フィラー)とが混合されてなる導電性接着剤を用いているが、これに限るものではない。例えば、導電性接着剤における接着樹脂として、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、あるいはこれらの混合物などを用い、導電性フィラーとして、銀、銅、金、パラジウム、カーボン、ニッケル、銀−銅合金、銀メッキ銅粉、あるいはこれらの混合物などを用いてもよい。
【0082】
また、本実施形態にかかる検査装置1は、接着樹脂の組成比が10%以上50%未満、導電性フィラーの組成比が50%以上90%未満の導電性接着剤による接合部の電気的接合性の評価に特に適している。すなわち、これらの導電性接着剤による接合部の検査を行う場合、特に再現性のよい試験結果が得られる。
【0083】
また、本実施形態にかかる検査装置1は、接合部の寸法(面積)が10mm以上50mm以下の試験体における電気的接合性の評価に特に適している。すなわち、検査装置1では、接合部の寸法(面積)が1mm以上50mm以下の試験体に対して、特に再現性のよい試験結果が得られる。
【0084】
また、検査装置1において試験体に加える荷重は、荷重速度1mm/分以上10mm/分以下、荷重力1N以上、変位0.1mm以上5mm以下、荷重サイクル数10回以上20回以下であることが好ましい。試験体に加える荷重の条件をこのように設定することにより、試験体の接合部を破壊させることなく、再現性の評価結果が得られ、また、測定および判定に十分な精度の測定結果が得られる。
【0085】
また、検査装置1において、荷重試験中に、測定した抵抗値、測定開始(荷重付与開始)からの経過時間、その時点での荷重サイクル数、入力部3に入力された各種設定条件などを、表示部6に表示させるようにしてもよい。これにより、例えば、ユーザが表示部6に表示された情報に基づいて、入力した情報の適否を確認したり、試験中に測定結果を確認したりできる。
【0086】
また、検査装置1では、ユーザが入力部3を介して、荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数、試験体に関する情報(組成、種類、名称、サイズ等)、試験体の性能の良否を判断するための判定基準値などを入力するものとしたが、入力部3の構成は特に限定されるものではない。例えば、キー入力装置などを備え、ユーザがキー操作を行うことで入力するものであってもよい。あるいは、パソコンなどの外部機器と接続するためのインターフェースを備え、このインターフェースを介して検出装置1に接続されたパソコン等の装置から種々の設定が送信される構成としてもよい。
【0087】
また、検査装置1では、荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数を、入力部3に予め入力しておき、入力された条件で荷重を印加するものとしたが、これに限らず、例えば、荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数のうち、少なくとも1つを設定するようにしてもよい。
【0088】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、導電性接着剤による接合部の電気的特性の劣化検査に適用できる。特に、使用環境に応じた導電性接着剤の劣化状況や電気的特性を非破壊で正確に検査できるので、プリント基板(プリント実装基板)や、液晶表示デバイス(LCD),プラズマディスプレイパネル(PDP;Plasma display panel)などの表示デバイスなどに用いられる導電性接着剤の接合性評価に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態にかかる検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる検査装置における、荷重試験部の概略構成を示す正面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる検査装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態にかかる検査装置によって、接合性評価を行った試験体の一例の構成を示す断面図である。
【図5】(a)は、本発明の一実施形態にかかる検査装置によって試験体に印加した荷重信号と経過時間との関係の一例を示すグラフである。(b)は、本発明の一実施形態にかかる検査装置によって、(a)に示した条件で、環境試験によって接合劣化が生じる前の試験体について評価試験を行った結果を示すグラフである。(c)は、本発明の一実施形態にかかる検査装置によって、(a)に示した条件で、環境試験によって接合劣化が生じた後の試験体について評価試験を行った結果を示すグラフである。
【図6】(a)は、接合劣化が生じる前の試験体における銅パッドと接合部との界面を示す断面図である。(b)は、接合劣化が生じた試験体における銅パッドと接合部との界面を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる検査装置によって接合評価を行う試験体について、試験体に含まれる各端子を内部パターンで交互に配線した状態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 検査装置
2 制御部(制御手段)
3 入力部(入力手段)
4 データ蓄積部(記憶手段)
5 判定部(判定手段)
6 表示部
7 荷重検出部(荷重手段)
8 駆動制御部(荷重手段)
9 抵抗値測定部(抵抗値測定手段)
10 荷重試験部(荷重手段)
23 駆動部(荷重手段)
24 ロードセル支持部(荷重手段)
25 ロードセル(荷重手段)
26 試験部(荷重手段)
27,28 配線(抵抗値測定手段)
30 試験体
32 接合部
32a,32b 導電性接続端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着樹脂と導電性フィラーとからなる導電性接着剤によって接合された接合部の、電気的特性の劣化を検出する検出装置であって、
上記接合部に荷重を繰り返し加える荷重手段と、
上記接合部における電気抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、
上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定するように、上記荷重手段および上記抵抗値測定手段の動作を制御する制御手段とを備えていることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
上記制御手段は、
上記接合部に繰り返し加える荷重の、荷重速度、荷重力、変位量、荷重サイクル数のうち少なくとも1つが、予め設定された条件となるように、上記荷重手段の動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
ユーザからの指示を受け付ける入力部を備え、
上記制御手段は、上記入力部を介して入力された条件に基づいて、上記荷重手段の動作を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
上記制御手段は、
上記接合部に一定の大きさの電流を通電させ、上記接合部の電圧降下を電気抵抗値として測定させるように、上記抵抗値測定手段の動作を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
上記抵抗値測定手段によって測定した電気抵抗値と、予め設定された判定基準値との大小を比較する判定手段を備え、
上記制御手段は、上記判定手段の比較結果に基づいて、上記接合部の電気的特性の良否を判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
接着樹脂と導電性フィラーとからなる導電性接着剤によって接合された接合部の、電気的特性の劣化を検出する検査方法であって、
上記接合部に荷重を繰り返し加えながら、上記接合部の電気抵抗値を測定する工程を含むことを特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−53052(P2006−53052A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235074(P2004−235074)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】