説明

楽音合成装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電子楽器用の楽音合成装置に関し、特に多数の周波数成分を含む信号から、複数の共振峰を有するくし形フィルタを用いて所望の周波数成分を取り出すようにした楽音合成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】複数の共振峰を有するくし形フィルタを、遅延回路を含むループ回路で構成し、このくし形フィルタにホワイトノイズ信号を入力して、所望の周波数成分を取り出し、楽音として利用するようにした楽音合成装置が従来より知られている(特公昭59−19354号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】一般にホワイトノイズ信号は非常に低い周波数成分を含むため、上記のようなループ回路で構成したくし形フィルタに、ループ一周分の遅延時間より長い時間ホワイトノイズ信号を入れ続けると、同じ符号のフィードバック信号が何度も加算されて演算限界を越えてしまい(演算回路でオーバーフローが発生し)、楽音を全く発生できないといった問題が発生する。
【0004】本願請求項1記載の発明はこの問題を解決するためになされたものであり、ホワイトノイズ信号や、ホワイトノイズを基に作られた信号、さらに正または負に偏った信号などに含まれる非常に低い周波数成分をフィードバックすることに起因する不具合を解消することができる楽音合成装置を提供することを目的とする。
【0005】また、本願請求項2記載の発明は、上記不具合を解消するとともに、発生する楽音を高品位に保つことを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本願請求項1記載の発明は、入力信号を遅延させる遅延手段及び該遅延された信号を前記遅延手段の入力側にフィードバックするフィードバック手段を含むループ手段と、発生すべき楽音の音高を指定する音高指定手段と、該音高指定手段により指定された音高に対応する遅延時間を前記遅延手段に設定する遅延時間設定手段とを備えた楽音合成装置において、前記ループ手段の一周分の遅延時間よりも長い周期成分を含む信号を発生させ、前記入力信号として前記ループ手段に信号を入力する信号発生手段と、前記ループ手段の前段または前記ループ手段の中に、入力信号の所定の低周波成分を減衰させる低域減衰手段を設けるようにしたものである。
【0007】また、本願請求項2記載の発明は、入力信号を遅延させる遅延手段及び該遅延された信号を前記遅延手段の入力側にフィードバックするフィードバック手段を含むループ手段と、発生すべき楽音の音高を指定する音高指定手段と、該音高指定手段により指定された音高に対応する遅延時間を前記遅延手段に設定する遅延時間設定手段とを備えた楽音合成装置において、前記ループ手段の一周分の遅延時間よりも長い周期成分を含む信号を発生させ、前記入力信号として前記ループ手段に信号を入力する信号発生手段と、前記ループ手段の前段または前記ループ手段の中に、入力信号の所定の低周波成分を減衰させる低域減衰手段と、前記ループ手段の後段において前記所定の低周波成分の周波数特性を補正する補正手段を設けるようにしたものである。
【0008】
【作用】信号発生手段から出力される信号の周波数成分のうち、所定の低周波成分が減衰される。
【0009】また、低減減衰手段によって減衰される所定の低周波成分の周波数特性が、ループ手段の後段において補正される。
【0010】
【実施例】以下本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0011】図1は、本発明の一実施例に係る電子楽器の全体構成を示すブロック図である。鍵盤1、フットペダル2及びパネル3は制御装置4に接続されている。鍵盤1は、鍵が押鍵されたことを示すキーオン信号KON、離鍵されたことを示すキーオフ信号KOFF、及びそれらに伴って音高を示すキーコード信号KC、押鍵速度等を示すイニシャルタッチデータIT及び押下後の鍵の押圧状態を示すアフタータッチデータATを制御装置4に供給する。フットペダル2は、フットペダルの踏み込み量を示すフットペダル信号FPを、またパネル3は、演奏者が選択した音色を示す音色信号TNをそれぞれ制御装置4に供給する。制御装置4は、鍵盤1、フットペダル2及びパネル3から入力される信号に基づいて楽音合成用の各種制御パラメータの値を決定し、該決定した制御パラメータ値を楽音形成装置5へ供給する。
【0012】楽音形成装置5は、入力される制御パラメータ値に応じた楽音信号を発生させ、D/A(デジタル−アナログ)変換器6を介してサウンドシステム7へ供給する。サウンドシステム7は増幅器、スピーカ等から成り、楽音信号を楽音として発音する。
【0013】図2は、制御装置4の構成を示すブロック図であり、制御装置4は、時変動パラメータ制御部11、制御データメモリ12、変換制御部13及びパラメータアサイン制御部14から成る。
【0014】時変動パラメータ制御部11には、キーオン信号KON、キーオフ信号KOFF、キーコード信号KC、イニシャルタッチデータIT、アフタータッチデータAT及びフットペダル信号FPが入力される。時変動パラメータ制御部11は、エンベロープジェネレータ(EG)及び低周波発振器(LFO)を含み、入力される各種信号に基づいてエンベロープデータEG1〜EGn及び低周波発振器の出力データLFO1〜LFOnを決定し、パラメータアサイン制御部14へ供給する。EG1〜EGnは、発音すべき楽音のエンベロープを決定するためのデータであり、LFO1〜LFOnはパラメータを周期的に変化させるためのデータである。
【0015】制御データメモリ12には、音色信号TNが供給され、制御データメモリ12は入力された音色信号TNに対応する制御データを読み出して各制御部11,13,14へ供給する。
【0016】変換制御部13には、キーコード信号KC、イニシャルタッチデータIT、アフタータッチデータAT及びフットペダル信号FPが入力される。変換制御部13は、キーコード信号KCを後述の遅延回路に設定すべき遅延時間に変換するとともに、イニシャタッチデータIT、アフタータッチデータAT及びフットペダル信号FPを変換テーブルを用いて変換し、また、それらをキーコード信号KCによってスケーリングして制御信号cont1〜contnとしてパラメータアサイン制御部14に供給する。ここで変換テーブルは、例えばフットペダルの踏み込み量をそれに対応する制御信号に変換するテーブルなどから構成される。変換制御部13から出力される制御信号cont1〜contnは、演奏者が意図する音高及び時変動要素を反映したものとなる。
【0017】パラメータアサイン制御部14は、主として音色信号TNに対応した制御データに基づいて、マトリックス制御を行うものであり、入力される各種制御データ、制御信号に基づき、制御係数C1〜C7,Q1〜Q3等を決定し、楽音形成装置5へ供給する。制御係数C1〜C7,Q1〜Q3等は、楽音形成装置5内のフィルタや遅延回路の特性を制御する係数である。
【0018】図2に示す制御装置によれば、演奏者による鍵盤及びフットペダルの操作に対応し、選択された音色を有する楽音を合成するための各種制御係数が楽音形成装置5へ供給される。
【0019】図3は、楽音形成装置5の構成を示すブロック図である。
【0020】ホワイトノイズ発生部21は、ホワイトノイズ信号を発生するものであり、その出力は、2次ローパスフィルタ(LPF)22及び乗算器23を介して加算器28に接続されるとともに、2次バンドパスフィルタ(BPF)24を介して発振器25の変調入力に接続されている。発振器25は、方形波、鋸歯状波又は三角波信号を発生し、該発生した信号を変調入力に供給される信号で周波数変調して出力するものである。発振器25には、制御係数として変調の深さを制御する係数FMD1、発振周波数を制御する係数PIT1及び発振信号波形(方形波、鋸歯状波又は三角波)を選択制御する係数WFが供給されており、これらの係数値により、変調の深さ、発振周波数及び波形が決定される。なお、後述するが、本楽音合成装置の発生する楽音の音高は、遅延回路によって決定されるので、この発振器の周波数は発生音高に合わせる必要はなく固定であっても良い。逆に固定であった方が音高毎に音色が異なるようになり、変化に富んだ楽音を得ることができる。
【0021】発振器25は、2次ローパスフィルタ(LPF)26及び乗算器27を介して加算器28に接続されている。
【0022】2次LPF22,2次BPF24及び2次LPF26には、それぞれカットオフ周波数を制御するフィルタ係数C1〜C3及びレゾナンス量を制御するフィルタ係数Q1〜Q3が供給されており、これらの係数値によりそれぞれのフィルタのカットオフ周波数及びレゾナンス量が決定される。乗算器23,27にはそれぞれノイズレベルを制御する係数NS及び発振器25の出力信号レベルを制御する係数OS1が供給されており、これらの係数値により、加算器28に入力されるノイズレベル及びこれに加算される発振器25の出力信号レベルが決定される。
【0023】加算器28の出力は、ハイパスフィルタ(HPF)29を介して第1のループ回路101の加算器30に接続されている。HPF29には、カットオフ周波数を制御するフィルタ係数Chが供給され、この係数値によりHPF29のカットオフ周波数が決定される。第1のループ回路101は、加算器30、1次ローパスフィルタ(LPF)31、オールパスフィルタ(APF)32、遅延回路33及び乗算器34がループ状に接続された回路である。ここでAPF32は、周波数によって位相のみ変化し、振幅は変化しないようなフィルタである。1次LPF31、APF32、遅延回路33及び乗算器34には、それぞれカットオフ周波数を制御するフィルタ係数C4、位相特性を制御するフィルタ係数C6、遅延時間を制御する係数DL1及びフィードバックゲインを制御する係数g1が供給されており、これらの係数値により、フィルタのカットオフ周波数、遅延時間及びフィードバックゲインが決定される。
【0024】第1のループ回路101の出力(APF32の出力)は、非線形変換部35及びハイパスフィルタ(HPF)36を介して第2のループ回路102の加算器37に接続されている。非線形変換部35は、入力信号を非線形変換して出力するものであり、複数の非線形変換テーブルの一つを選択することによって変換特性が決定されるように構成されている。この変換回路35には、非線形変換テーブルの選択を制御する係数TBLが供給されており、この係数値によってテーブルが選択される。また、HPF36は、HPF29と同一の構成を有し、同一のフィルタ係数Chが供給されている。
【0025】第2のループ回路102は、第1のループ回路101と同様に、加算器37、1次ローパスフィルタ(LPF)38、オールパスフィルタ(APF)39、遅延回路40及び乗算器41がループ状に接続された回路であり、同様にフィルタ係数C5,C7、遅延時間制御係数DL2及びフィードバックゲイン係数g2が供給されている。
【0026】第2のループ回路102の出力(APF39の出力)は、ハイパスフィルタ(HPF)42、バンドパスフィルタ(BPF)43及びローパスフィルタ(LPF)44の入力に接続されており、HPF42,BPF43及びLPF44はそれぞれ乗算器45,46,47を介して加算器48に接続されている。フィルタ42〜44、乗算器45〜47及び加算器48により、イコライザ103が構成されている。
【0027】フィルタ42〜44及び乗算器45〜47には、それぞれイコライザの特性を制御する係数eg1〜3及びel1〜3が供給されており、これらの係数値によりイコライザ103の特性が決定される。
【0028】イコライザ103の出力(加算器48の出力)は乗算器49に接続されており、乗算器49の出力が楽音形成装置5の出力として、D/A変換器6に接続されている。乗算器49には、楽音信号の出力レベルを制御する係数OUTが供給されており、この係数値により楽音信号の出力レベルが決定される。
【0029】次に、以上のように構成される楽音形成装置5の動作を説明する。
【0030】ホワイトノイズ発生部21から出力されるホワイトノイズ信号は、2次LPF22及び乗算器23を介して加算器28に入力される。一方、ホワイトノイズ信号は、2次BPF24を介して発振器25にも入力され、このノイズ信号により発振器25の発振信号が周波数変調され、ゆらぎを持った信号となる。発振信号の周波数及び波形、変調の深さは、それぞれ制御係数PIT1,WF及びFMD1によって制御される。発振器25の出力信号は、2次LPF26及び乗算器27を介して加算器28に入力され、ホワイトノイズ信号に加算される。
【0031】このように、ノイズで変調された信号を加算することにより、単なるホワイトノイズだけを発生される場合に比べ合成される楽音に所望の特徴(くせ)を付加することができる。
【0032】そして、2次LPF22、2次LPF24,26、乗算器23,27及び発振器25に供給される各種制御係数(C1,Q1等)の値を変更することにより、付加される特徴を適宜変更することができる。
【0033】加算器28の出力は、HPF29を介して第1のループ回路101に入力される。ここで、HPF29の特性は、図4(b)に示すように設定されており(同図の曲線A,Bがそれぞれ図3のA点,B点に対応する)、カットオフ周波数はフィルタ係数Chにより変更される。このHPF29は、ホワイトノイズ信号に含まれる直流に近い低周波成分を減衰させるために挿入されたものであり、挿入したことによる効果は後述する。
【0034】第1のループ回路101は、図4(a)に示すような振幅特性を有し、いわゆるくし形フィルタとして作用する。図4(a)において、周波数f1が合成される楽音の基本周波数に相当し、周波数f2,f3,…はその高調波成分である。ただし、APF32により位相遅延が周波数によって変化するため、共振峰の周波数f2,f3,…は周波数f1を整数倍したところから若干ずれている。また、1次LPF31により、共振峰のレベルは周波数が高くなるほど低下する特性となっている。そして、それに伴ない高域の利得減少のため周波数f5近傍の方がf1近傍に比べて、共振峰が鋭さを失い鈍くなっている。更に、くし形フィルタの特性は自然楽器の振動体の特性と同様のため、自然な響を得ることができる。
【0035】ここで、基本周波数f1は、1次LPF31、APF32及び遅延回路33の全体の遅延時間によって決まるので、1次LPF31及びAPF32が所望の特性となるようにフィルタ係数C4,C6が設定され、これらのフィルタ回路の位相遅延時間と遅延回路33の遅延時間の和が発音させたい音高の基本周波数f1の逆数(負帰還の場合は逆数の1/2)となるように、遅延回路33の制御係数DL1が設定される。
【0036】ループ回路101においては、加算器30でループ回路の入力信号と遅延信号が加算されるため、入力信号に直流成分若しくは直流に近い低周波成分が含まれていると、常に同相(同じ符号)で加算され、加算器30がオーバーフローするという不具合が発生する場合があるが、本実施例では、図4(a)に斜線で示した部分は、HPF29により減衰されているので、そのような不具合を回避することができる。
【0037】非線形変換部35は、制御係数TBLの値に応じて例えば図5に示すような4種類のテーブルのうちの一つを選択する。すなわちTBL=0のときには、入力信号をそのまま出力するテーブル(同図(a))を選択し、TBL=1のときには入力信号の絶対値が所定値以上となると出力信号を一定とするテーブル(同図(b))を選択し、TBL=2のときには、入力信号に微妙な変化をつけて出力するテーブルを選択し(同図(c))、TBL=3のときには、入力信号を逆極性として出力するテーブルを選択する(同図(d))。
【0038】このように非線形変換部35で変換された信号は、直流成分に近い低周波数成分が増加している場合があるため、HPF36を介して第2のループ回路102に入力される。本実施例では、HPF36のフィルタ係数Chは、HPF29のフィルタ係数と同一のものを用いているが、異なる値の係数を用いるようにしてもよい。
【0039】第2のループ回路102は、図4(a)に示すに第1のループ回路101の特性と略同一の特性となるよう、各制御係数C5,C7,DL2,g2の値が設定される。第2のループ回路102は、図4(a)に示す各共振峰(f1,f2,…)をより急峻なものとして、必要な周波数成分をより強調し、音程感を増すようにするために設けたものであり、各制御係数C5,C7,DL2,g2の値は第1のループ回路101の制御係数の値と同一としてもよい。
【0040】このようにして発生した楽音は、低音域に不足を感じる場合が多い。というのは、図4(a)の斜線部のみを理想的に減衰させるHPFは基本的には存在しない。存在しても非常に高価であり現実的でないからである。それゆえ、オーバーフロー防止のために調整すると、本来必要な音域まで減衰してしまうのである。図4R>4(b)でもf1のノイズレベルが必要以上に下がっているのがうかがえる。このためイコライザ103は、主にHPF29及び36によって減衰する低周波数成分の周波数特性を補正するために設けたものであり、所望の特性が得られるように各制御係数eg1〜eg3,el1〜el3の値が設定される。これにより、発生する楽音がHPF29及び36を挿入したことによって低音域に不満のある音色となることを防止することができる。
【0041】以上のように、本実施例によれば、HPF29及び36を設けたことにより、ループ回路101,102の加算器30,37におけるオーバーフローを防止することができる。また、更にイコライザ103を設けたことにより、HPF29及び36を挿入したことによる音色の劣化を防止することができる。
【0042】なお、HPF29は第1のループ回路101の中、例えば加算器30と1次LPF31との間、あるいは遅延回路33と乗算器34との間などに設けるようにしてもよい。また、HPF36についても同様である。
【0043】また、信号源はホワイトノイズ信号を発生するものに限らず、ループ回路101又は102の一周分の遅延時間よりも長い周期成分を含む信号を発生するものであっても、同様の効果を奏する。
【0044】図6は本発明の第2の実施例に係る楽音形成装置5の構成を示すブロック図である。同図において、図3に示す構成要素と同一のものは、同一の符号を付して示している。
【0045】本実施例では、図3のHPF29,36に代えて第1及び第2のエンコーダ104,106が設けられ、更に第1のループ回路101と非線形変換部35との間には、第1のデコーダ105が新たに設けられている。また、図3のイコライザ103に代えて第2のデコーダ107が設けられている。
【0046】以上の点以外は、図3の装置と同一である。
【0047】第1のエンコーダ104は、遅延回路51、乗算器52及び加算器53から成り、乗算器52には0から1の間の値に設定される制御係数aが供給されている。
【0048】エンコーダ104は、入力信号と、該入力信号の遅延信号をa倍した信号との差を出力するように構成されており、全体として1次のFIR型ハイパスフィルタとしての特性を有する。
【0049】第1のデコーダ105は、加算器54、遅延回路55及び乗算器56から成り、乗算器56には第1のエンコーダ104と同一の制御係数aが供給されている。デコーダ105は、入力信号と、出力信号の遅延信号をa倍した信号との和を出力するように構成されており、エンコーダ104と逆の特性を有する。すなわち、エンコーダ104と直列に接続すれば伝達関数が1となるような特性を有する。
【0050】第1のエンコーダ104により、直流成分に近い低周波成分が減衰されて、第1のループ回路101に入力されるので、加算器30におけるオーバーフローを防止することができる。さらに第1のデコーダ105により、エンコーダ104で減衰された低周波成分が完全に補正されるので、音色の劣化を防止することができる。
【0051】第2のエンコーダ106及び第2のデコーダ107は、それぞれ第1のエンコーダ104及び第1のデコーダ107と同一の構成を有し、本実施例では遅延回路57,61の遅延時間も遅延回路51,55と同一とし、制御係数aも同一としている。これらによって、非線形変換部35で発生する直流成分に近い低周波成分が発生する場合にも、それによる弊害を防止することができる。
【0052】なお、第2のエンコーダ106及び第2のデコーダ107の特性は、それぞれ第1のエンコーダ104及び第1のデコーダ105の特性と同一でなくてもよく、第2のエンコーダ106の特性とデコーダ107の特性とが逆特性になっていればよい。これらエンコーダとデコーダの間の回路が線形回路であれば、その特性は完全に補正される。しかし、非線形回路があるとそれは成立しない。それゆえ、非線形変換部35の前後でそれぞれエンコード、デコードを行うのである。非線形変換部35がなければ、2つのループをはさんで1対のエンコーダ、デコーダがあれば足りる。
【0053】また、エンコーダ104及び106は、それぞれ第1及び第2のループ回路101,102内に配置するようにしてもよい。その場合デコーダは同じ型のものではなく、伝達関数の逆演算により求めたものを使えば、完全な補正ができる。
【0054】図7は、本発明の第3の実施例に係る楽音形成装置5の構成を示すブロック図である。同図において、図3に示す構成要素と同一のものは、同一の符号を付して示している。
【0055】本実施例では、発振器60、乗算器61,62が新たに設けられており、発振器60の出力は乗算器67を介して第1のループ回路101の加算器30に接続されるとともに、乗算器62を介して第2のループ回路102の加算器37に接続されている。また、イコライザ103は削除され、第2のループ回路102の出力が乗算器49に接続されている。
【0056】発振器60の変調入力は、2次BPF24の出力が接続されており、発振器60にはさらに変調の深さを制御する係数FMD2及び発振周波数を制御する係数PIT2が供給されている。発振器60の発振信号波形は正弦波としている。また、乗算器61,62には、発振器出力信号レベルの制御係数OS2,OS3が供給されている。
【0057】以上の点以外は図3の実施例と同一である。
【0058】本実施例では、発振器60の周波数は、くし形フィルタ101または102の基本共振周波数f1にセットされ、発振器60の出力をループ回路101,102に加えることにより、合成すべき楽音に必要な低周波成分が付加される。これにより、HPF29,36を挿入したことによる音色の劣化を防止することができる。
【0059】なお、発振器60において正弦波信号をホワイトノイズ信号で変調して付加するようにしたのは、基本振動f1のみ安定し過ぎてしまうことを避け、適切なゆらぎを与えることにより、不自然な感じを与えないようにするためである。このように、制御係数FMD2はゆらぎを与える程度にしか使わないため、さほど大きな値を用いない。
【0060】また、発振器60の出力信号を加える箇所は、ループ回路101,102内又はループ回路101,102の後段でもよい。
【0061】なお、発振器60の波形は正弦波が望ましいが、三角波等比較的倍音の少ない波形で代用できる。また、倍音を有する波形を用いたり、FMD2を大きくとる場合には、発振器60の発振周波数はf1のオクターブ下にする変形も考えられる。
【0062】
【発明の効果】以上詳述したように請求項1の楽音合成装置によれば、信号発生手段から出力される信号の周波数成分のうち、所定の低周波成分が減衰されるので、ループ手段に含まれる演算回路でオーバーフローが発生することを防止することができる。
【0063】請求項2の楽音合成装置によれば、低域減衰手段によって減衰される所定の低周波成分の周波数特性が、ループ手段の後段において補正されるので、低域減衰手段で減衰された所定の低周波成分を補償し、音色の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る電器楽器の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図1の楽音形成装置の第1の実施例の構成を示すブロック図である。
【図4】図3のループ回路及びハイパスフィルタの特性を説明するための図である。
【図5】図3の非線形変換部の変換特性を示す図である。
【図6】図1の楽音形成装置の第2の実施例の構成を示すブロック図である。
【図7】図1の楽音形成装置の第3の実施例の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 鍵盤
4 制御装置
5 楽音形成装置
21 ホワイトノイズ発生部
29,36 ハイパスフィルタ
101,102 ループ回路
103 イコライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 入力信号を遅延させる遅延手段及び該遅延された信号を前記遅延手段の入力側にフィードバックするフィードバック手段を含むループ手段と、発生すべき楽音の音高を指定する音高指定手段と、該音高指定手段により指定された音高に対応する遅延時間を前記遅延手段に設定する遅延時間設定手段とを備えた楽音合成装置において、前記ループ手段の一周分の遅延時間よりも長い周期成分を含む信号を発生させ、前記入力信号として前記ループ手段に信号を入力する信号発生手段と、前記ループ手段の前段または前記ループ手段の中に、入力信号の所定の低周波成分を減衰させる低域減衰手段とを設けたことを特徴とする楽音合成装置。
【請求項2】 入力信号を遅延させる遅延手段及び該遅延された信号を前記遅延手段の入力側にフィードバックするフィードバック手段を含むループ手段と、発生すべき楽音の音高を指定する音高指定手段と、該音高指定手段により指定された音高に対応する遅延時間を前記遅延手段に設定する遅延時間設定手段とを備えた楽音合成装置において、前記ループ手段の一周分の遅延時間よりも長い周期成分を含む信号を発生させ、前記入力信号として前記ループ手段に信号を入力する信号発生手段と、前記ループ手段の前段または前記ループ手段の中に、入力信号の所定の低周波成分を減衰させる低域減衰手段と、前記ループ手段の後段において前記所定の低周波成分の周波数特性を補正する補正手段とを設けたことを特徴とする楽音合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】第2707911号
【登録日】平成9年(1997)10月17日
【発行日】平成10年(1998)2月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−81546
【出願日】平成4年(1992)3月3日
【公開番号】特開平5−249975
【公開日】平成5年(1993)9月28日
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【参考文献】
【文献】特開 平3−233499(JP,A)