説明

構造物劣化曲線算出システムおよびライフサイクルコスト評価方法

【課題】橋梁などの構造物のアセットマネージメントの一部として劣化予測を行うことができる構造物劣化曲線算出システムを提供する。
【解決手段】橋梁などの構造物のアセットマネージメントに用いられる構造物劣化曲線算出システム1であって、構造物の劣化状況の点検データを入力する入力手段10と、入力された点検データから経過年数に対する劣化度を示す劣化曲線を算出する演算手段20と、入力された点検データと劣化曲線を表示する表示手段30とを備え、演算手段20は、点検データを所定の経過年数区間ごとに抽出する経過年数分類部23と、経過年数区間ごとに分類された劣化度の平均を算出する平均劣化度算出部24と、経過年数区間ごとに算出された平均劣化度より最小二乗法を用いて劣化曲線を算出する劣化曲線算出部25とを備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁などの構造物のアセットマネージメントに用いられる構造物劣化曲線算出システムおよびライフサイクルコスト評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、道路や鉄道など多くの多くの社会資本が整備された。これまでに建設された橋梁の経過年数を平均すると30〜40年であり、今後建設後50年を経過する橋梁は一気に増加し、老朽化が進展していく橋梁に対する適切なアセットマネージメント(維持管理)が必要となってきている。
【0003】
橋梁を保守管理するためのシステムとして、特許文献1に示すようなものがあった。この保守管理システムは、作業時点において橋梁の状態に応じた適切な処置を選択して指示するものである。
【0004】
橋梁などの構造物に対するアセットマネージメントの取り組みは、大部分の市町村では、スクラップ・アンド・ビルド型の維持管理が中心であり、構造物の点検も殆んど実施されていなかったが、前記の保守管理システムを用いれば、構造物の寿命を延ばすことができる。
【特許文献1】特開平10−18228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、市町村などの自治体の内部で、橋梁などの構造物のアセットマネージメントを効率的に行うには、決められた予算内で構造物の補修等を効率的に行う必要がある。そのためには、多くの構造物を点検調査し、その劣化状態や劣化予測等に応じて、補修の優先順位を決定し、資産価値を維持させながら、公共サービスを提供することが重要となる。特に、構造物の劣化に対して、補修の時期が遅れると、その後の補修コストが増大するとともに資産価値も低下してしまうので、劣化予測は重要な事項である。
【0006】
しかしながら、前記した従来の保守管理システムでは、橋梁の状態に応じた適切な補修を行うことができるが、劣化予測を行うことはできず、多くの構造物の補修の優先順位を決定することはできなかった。
【0007】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、橋梁などの構造物のアセットマネージメントの一部として劣化予測を行うことができる構造物劣化曲線算出システムおよびそれを利用したライフサイクルコスト評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、橋梁などの構造物のアセットマネージメントに用いられる構造物劣化曲線算出システムであって、前記構造物の劣化状況の点検データを入力する入力手段と、入力された前記点検データから経過年数に対する劣化度を示す劣化曲線を算出する演算手段と、入力された前記点検データと劣化曲線を表示する表示手段とを備え、前記演算手段は、前記点検データを所定の経過年数区間ごとに抽出する経過年数分類部と、経過年数区間ごとに分類された劣化度の平均を算出する平均劣化度算出部と、経過年数区間ごとに算出された平均劣化度より最小二乗法を用いて劣化曲線を算出する劣化曲線算出部とを備えて構成されたことを特徴とする構造物劣化曲線算出システムである。
【0009】
このような構成によれば、橋梁などの構造物の劣化予測を行うことができ、各構造物の補修の優先順位を適切に決定することができる。これによって、少ない補修コストで各構造物の資産価値を維持させながら、構造物の管理を行え、アセットマネージメントを効率的に行うことができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記演算手段は、前記構造物の構造形式ごとに前記劣化曲線を算出することを特徴とする請求項1に記載の構造物劣化曲線算出システムである。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記演算手段は、前記構造物の部位ごとに前記劣化曲線を算出することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の構造物劣化曲線算出システムである。
【0012】
請求項2および3のような構成によれば、構造形式あるいは部位ごとに、傾向を有する正確な劣化曲線を算出することができ、より効率的なアセットマネージメントを行うことができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記経過年数分類部は、前記点検データのうち経過年数が所定値以上で劣化度が所定値以下のものは劣化が遅い別グループとして別分類し、前記演算手段は、前記別グループ以外のデータで前記劣化曲線を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の構造物劣化曲線算出システムである。
【0014】
このような構成によれば、劣化が進行していない点検データを別グループに別分類して、その別グループ以外のデータで劣化曲線を算出することで、データ全体の劣化傾向の遅延化を防止でき、劣化度が安全側に評価されるのを防止できるので、より正確な劣化曲線を算出することができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の構造物劣化曲線算出システムにより算出された構造物劣化曲線に基づいてライフサイクルコストの評価を行うライフサイクルコスト評価方法であって、劣化度に応じた各部位ごとの補修方法とそれに対応する補修費用を算出しておき、前記構造物劣化曲線と算出された前記補修費用より、トータルのライフサイクルコストが最も安くなる補修時期を求めることを特徴とするライフサイクルコスト評価方法である。
【0016】
このような方法によれば、トータルのライフサイクルコストが最も安くなる補修時期および補修方法を求めることができ、少ない補修コストで各構造物の資産価値を維持させながら、構造物の管理を行え、アセットマネージメントを効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、橋梁などの構造物のアセットマネージメントの一部として劣化予測を行うことができ、各構造物の補修の優先順位を適切に決定することができ、少ない補修コストで各構造物の資産価値を維持させながら、構造物の管理を行え、アセットマネージメントを効率的に行うことができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
本実施形態に係る構造物劣化曲線算出システムは、橋梁などの構造物のアセットマネージメントの一部として劣化予測を行うためのシステムである。近年では、例えば橋梁のアセットマネージメントの一例として、「橋梁中長期維持管理計画」なるものが計画されている。この橋梁中長期維持管理計画は、自治体が所有する全橋梁を適切に維持管理するために必要な予算について概算するとともに橋梁の補修の順序や方法などの補修方針を決定するために策定されるものである。
【0020】
ここで、橋梁中長期維持管理計画策定の流れを、図1のフローチャートに従って説明する。まず、各橋梁の点検・調査を行い、現状の劣化状況の把握と諸元の整理を行う(STEP1)。橋梁の点検・調査は、下記の表1に示すような項目を、遠望目視点検にて行う。目視点検は、遠望目視に限られるものではなく、詳細なデータが必要な場合は近傍目視にて点検するようにしてもよい。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示すように、点検結果一覧には、橋梁ごとに橋梁名、長さ、設置路線および設置市町村名、交差物などが表示されている。また、橋梁ごとに構造形式、完成年および点検年月日が記載されている。点検場所は構造物の部位ごとに区分されている。詳しくは、躯体となる重要部位とその他部位に区分されている。重要部位は、上部工、下部工、支承および伸縮装置に分けられている。上部工は、主桁と副部材と床版とに区分され、下部工は、躯体と基礎とに区分され、支承は、本体とモルタルとアンカーとに区分されている。なお、伸縮装置は一項目である。その他部位(付属部位)は、落橋防止装置、橋面工およびその他部位に分けられている。橋面工は、舗装と地覆と縁石と防護柵とに区分され、その他部位は、排水装置と点検施設と遮音施設と照明施設と添架物とに分割されている。落橋防止装置は一項目である。なお、表1で示した点検場所の区分は、一例であって、これに限定されるものではなく、地域ごとに区分項目を変更してもよいのは勿論である。
【0023】
区分された各部位ごとに記入される劣化度の判定区分は、下記の表2に示すような基準を用いる。
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示すように、劣化度の判定区分は、五段階で評価される。劣化度の進行している状態から、I、II、III、IV、OKと表示され、Iが、損傷が著しく、交通安全確保の支障となる恐れがある状態、IIが、損傷が大きく、詳細点検を実施し補修の要否の検討を行う必要がある状態、IIIが、損傷が認められ、追跡調査を行う必要がある状態、IVが、損傷が認められ、その程度を記録する必要がある状態、OKが、点検の結果から損傷の認められない状態をそれぞれ示す。
【0026】
構造形式は、例えば、鋼橋、PC−T桁橋、PC−床版橋、PC−中空床版橋、RC−床版橋、RC−ラーメン橋、その他構造(木橋等)の七項目に区分されている。なお、この構造形式の区分は、一例であって、これに限定されるものではなく、地域ごとに区分項目を変更してもよいのは勿論である。
【0027】
各橋梁の点検・調査が終了したならば、図1に示すように、評価区分の設定、対象部材の選定および供用年数の設定を行う(STEP2)。
【0028】
評価区分の設定は、前記した構造形式の違いで各橋梁を七項目に区分するようにする。なお、評価区分の設定は、構造形式による区分のみに限られるものではなく、例えば、温度環境で区分したり、塩害地域か非塩害地域かで区分したりというように、環境条件により区分するようにしてもよい。
【0029】
対象部材の選定は、主桁、床版、橋台、橋脚、支承(鋼製、ゴム)の六項目に区分するようにする。橋梁は、主桁、床版、橋台、舗装、高欄などの多くの部材で構成されているが、後記するライフサイクルコスト評価(以下「LCC評価」という)で対象とする部材は、橋梁全体に占める工事費の割合が大きい、前記の六項目とした。
【0030】
供用年数の設定は、LCC評価を行うに当たり、従来型の架替えによる維持管理方法との比較を行うために、当該橋梁の供用年数(耐用年数)を設定する必要がある。そこで、旧建設省土木研究所において昭和61年から平成8年までに架設工事を実施した一般道路、主要地方道、一般都道府県道の15m以上の橋梁、47855橋を対象とした架設理由、供用年数、構造形式等のアンケート調査より、橋梁の供用年数を設定した。
【0031】
前記アンケート調査結果の構造形式別の平均供用年数は、鋼橋が34年、RC橋が45年、PC橋が28年、混合橋が42年となる。なお、平均供用年数には、河川改修や道路線形に伴なう改良工事や機能上の問題で架け替えられたものも含んでいる。調査結果のうち、上部構造の損傷による架替え橋梁の平均供用年数は、昭和61年度調査では約42年、平成8年度調査では、約45年となっている。
【0032】
また、供用年数の構成比率の変化では、経過年数が長くなるにつれて損傷による架替えの比率が高くなる傾向にあり、経過年数が51年以上の橋梁の場合には、昭和61年度検査では概ね30%、平成8年度検査では概ね20%が損傷により架け替えられている。
【0033】
前記STEP2が終了した後、劣化予測を行う(STEP3)。劣化予測は平均劣化曲線を用いて行う。劣化予測を行うためには劣化度の推移が必要であるが、本実施の形態における点検・調査は簡易であり、劣化度の判定は橋梁を構成する部材の代表(最低)ランクのみであるので、前記点検・調査結果から個々の橋梁ごとに劣化度の推移を算出することは不可能である。そこで、前記工程で分類した橋梁グループの区分(構造形式の区分)に対して、評価の対象部材ごとに平均劣化曲線を算出する。以下に平均劣化曲線を算出する工程を説明する。
【0034】
このSTEP3の工程は、図2に示すように、点検データを入力した(STEP3−1)後に、点検データを構造形式ごとに分類する(STEP3−2)とともに、評価の対象部位ごとに分類する(STEP3−3)。そして、分類された点検データの劣化の進行が通常か遅いかを判定して、劣化の進行が遅い場合は、これを別グループとして分類する(STEP3−4)。その後、分類された点検データを所定の経過年数区間ごとに分類し(STEP3−5)、経過年数区間ごとに分類された劣化度の平均を算出する(STEP3−6)。そして、最後に平均劣化度より最小二乗法を用いて劣化曲線を算出する(STEP3−7)。
【0035】
以上のSTEP3の工程は、本実施形態に係る構造物劣化曲線算出システムを用いて行われる。図3に示すように、かかる構造物劣化曲線算出システム1は、構造物の劣化状況の点検データを入力する入力手段10と、入力された点検データから経過年数に対する劣化度を示す劣化曲線を算出する演算手段20と、入力された点検データと劣化曲線を表示する表示手段30と、入力された点検データを記憶する記憶手段50とを備えている。
【0036】
入力手段10は、STEP3−1の工程で用いられるものであって、例えばキーボードにて構成され、演算手段20に接続されており、点検データの各項目を演算手段20に入力できるようになっている。入力手段10で入力された点検データはデータベースなどからなる記憶手段50に記憶される。表示手段30は、モニターにて構成され、演算手段20に接続されており、入力された点検データを記憶手段50から読み込んで表やグラフで表示できるようになっている。また、演算手段20には、印刷手段40となるプリンターが接続されており、表やグラフなどを印刷できるようになっている。
【0037】
演算手段20は、例えば、記憶手段50とともにコンピュータにて構成されており、入力されて記憶手段50に記憶された点検データを読み込んで、所定の構造形式および評価の対象部位ごとに抽出する評価対象分類部21と、分類された点検データのうち、その橋梁の経過年数が所定値以上で劣化度が所定値以下のものは劣化が遅い別グループとして別分類する劣化状態分類部22と、分類された点検データを経過年数区間ごとに抽出する経過年数分類部23と、経過年数区間ごとに分類された劣化度の平均を算出する平均劣化度算出部24と、経過年数区間ごとに算出された平均劣化度より最小二乗法を用いて劣化曲線を算出する劣化曲線算出部25からなるプログラムを備えている。
【0038】
評価対象分類部21は、STEP3−2およびSTEP3−3の工程で用いられる部分であって、入力されて記憶手段50に記憶された点検データを読み込んで、鋼橋、PC−T桁橋、PC−床版橋、PC−中空床版橋、RC−床版橋、RC−ラーメン橋、その他構造(木橋等)の七項目の構造形式に区分して抽出し、さらに、この七項目の中で、主桁、床版、橋台、橋脚、支承(鋼製、ゴム)の六項目にそれぞれ区分して抽出する。
【0039】
劣化状態分類部22は、STEP3−4の工程で用いられる部分であって、分類された点検データの経過年数と劣化度をチェックして、経過年数が20年以上で劣化度がOKである部材と、経過年数が30年以上で劣化度がIVである部材は、劣化の進行が遅い別グループとして別に分類する。
【0040】
ここで、図6に示すように、構造形式および劣化状態で分類された対象部材ごとに、各点検データを、経過年数を横軸(X軸)、劣化度を縦軸(Y軸)にとったグラフにプロット(図6中、黒丸にて示す)する。
【0041】
経過年数分類部23は、STEP3−5の工程で用いられる部分であって、入力された点検データの完成年と点検日の項目より経過年数を算出し、経過年数を5年ごとに分類しつつ抽出する。なお、経過年数区間は5年に限られるものではなく、精度の高い劣化曲線を算出する場合は、経過年数区間を短くすればよく、劣化曲線の精度が低くてもよい場合は、経過年数区間を長くすればよい。
【0042】
平均劣化度算出部24は、STEP3−6の工程で用いられる部分であって、5年ごとに分類された各部材の劣化度を平均して、その劣化度の平均値を、図4に示すように経過年数区間の中間部(例えば、15年から20年の区間の場合、17.5年の部分)に平均劣化度としてプロット(図4中、白丸にて示す)する。なお、分類された各部材の経過年数と劣化度をそれぞれ平均して、劣化度の平均値を経過年数の平均値に対応する部分にプロットするようにしてもよい。
【0043】
劣化曲線算出部25は、STEP3−7の工程で用いられる部分であって、図5に示すように、経過年数区間ごとに算出された平均劣化度のプロット点より指数分布を用いて、最小二乗法により、経過年数と劣化度の相関を求め、劣化曲線を以下の数式(1)を基に求める。
【0044】
Y=A−ab・・・数式(1)
ここで、Yは劣化度、Xは経過年数、aおよびbは最小二乗法によって求められた係数を示す。また、Aは、定数を示し、本実施形態では、前記五段階の劣化区分の区分数に1を加えた数値「6」としている。図6は、以上の手順によって算出された劣化曲線を示したグラフの一例であって、曲線は予想される劣化状態を示す劣化曲線を示す。このように算出されたグラフは、それぞれ記憶手段50に記憶されており、読み込まれて表示手段30に表示されるとともに、印刷手段40にて印刷可能である。なお、前記数式(1)は、一例であって、プロット点の状態に応じて適宜変えられる。
【0045】
平均劣化度算出部24は、同様の手順によって、構造形式ごとで分類され、劣化状態も分類されたすべての対象部位(別グループ以外のデータ、および別グループのデータもすべて)ごとに劣化曲線の算出を行う。
【0046】
これら算出された劣化曲線のうち、劣化の進行が遅い別グループを除いたデータより、(1)鋼橋は全部材が経過年数約50年で劣化度がIになる。(2)PC−T桁橋は主桁、床版が経過年数約40年で、橋台、橋脚、支承(鋼)は経過年数約50年で劣化度がIになる。などの傾向を見ることができる。このように、構造形式ごとで分類され、劣化状態も分類されたすべての対象部位ごとに劣化の傾向を得ることができる。
【0047】
次に、算出された劣化曲線に基づいてLCC評価を行う(図1のSTEP4)。まず、下記の表3乃至表8に示すように、各部位ごとの補修方法とそれに対応する補修費用を算出する(なお、本実施形態の表3乃至表8では、補修費の具体的数値は省略している)。この補修方法と補修費用は、積算資料や過去の補修工事の実績を基に材質や部材ごとに劣化度に応じて設定している。補修は、劣化度に応じた補修工法を選定し、現状の劣化度は補修工事を実施することでOKの状態に復元することとする。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【0053】
【表8】

【0054】
そして、次にLCC(橋梁の解体までの維持管理のトータルコスト)の算出を以下の手順で行う。まず、補修による維持管理を行う橋梁と、架替えによる維持管理を行う橋梁とに分類する。そして、グループ分けした部材ごとについて劣化度ごとにLCCを評価し、適切なLCCを算出する。橋梁全体のLCCは、各部材の最適LCCを合計して求める。
【0055】
ここで、図7に補修工事による橋梁の健全度の状態と補修費用の推移の一例を示したグラフを示す。なお、図7中、上側の曲線が橋梁の健全度(グラフ左側の数値が大きいほど健全である)を示し、下側の直線は補修費の累計(グラフ右側に金額を表示)を示す。図7のグラフは、構造物劣化曲線と算出された補修費用より求められている。図7のグラフより、劣化が進行する前に補修を行うと補修費用が比較的少なく済むとともに橋梁を常に健全な状態で維持でき、劣化が進行した後に補修を行うと補修費用が多くかかることが分かる。これによって、各部材ごとについて劣化度に応じたLCCを比較することができ、橋梁単位でトータルのLCCが最も安くなる最適な補修時期を求めることができる。本実施形態では、健全度が3のときに補修工事を行うようにするのが、LCCが安くなって好ましいことが分かり、健全度が3となる年次は、図7のX軸を見れば分かる。
【0056】
次に、図7で得られた内容と、橋梁の維持管理の全体予算とを考慮して、補修を実施する橋梁の優先順位を決定する。
【0057】
このように、将来的な劣化を予測して補修の優先順位を決めることで、適切な予算を決定することができ、効率的な補修を行うことができる。
【0058】
以上のことを踏まえて、中長期維持管理計画(アセットマネージメント)を検討する(図1のSTEP5)。以下に中長期維持管理計画の策定条件を示す。なお、本実施の形態では橋梁数が約600である場合を想定している。
【0059】
(1)全ての橋梁を架け替えた場合の費用に対して、単年度補修予算制約が無制限で維持していく場合の100年間のLCC(維持管理のトータルコスト)とBHI(健全度指数)の推移を評価する。(2)単年度補修予算制約を無制限とした場合の最適補修戦略を実施した場合の100年間のLCCおよびBHIの推移を評価する。(3)予算制約額を複数与えて前記(2)の手順を繰り返す。
【0060】
(1)の策定条件の結果より、補修により維持管理を行った場合、全橋を架替えとした場合と比較すると、所定年経過後(例えば約15年後)時点から経済的に有利となることが分かる。これは、今後、15年経過程度で、更新計画や更新時期を迎える橋梁が増加するためである。100年経過時点で、全橋架替えのトータルコストは、維持補修のトータルコストの4倍以上にもなることが分かった。
【0061】
(2)の策定条件の結果より、単年度のトータル補修コストでは、初年度に多額(例えば約10億円)の補修費用が発生し、その後しばらく1億〜10億円の補修費用で推移している。後半の所定年度経過時点(約80年経過時点)では、非常に多額(例えば約30億円)の補修費用が発生していることが分かる。これは、補修のタイミングがこの年度に集中したためと考えられる。BHIについては、現状が0.8程度であり、最適補正案により維持管理した場合のBHIは、0.75〜0.9程度の間で推移している。また、(3)の手順によれば、予算制約額ごとにLCCおよびBHIの推移を評価することで、最適な予算制限額を設定することができる。
【0062】
なお、前記の策定条件は、(1)乃至(3)の条件に限られるものではなく、橋梁の規模や数に応じて適宜変更すればよい。
【0063】
以上のように、各策定条件を比較することで、決められた予算内で、BHIを高く保持して橋梁の資産価値を維持しながら補修できる中長期維持管理計画を選択することができる。
【0064】
すなわち、本発明によれば、橋梁などの構造物の劣化予測を行うことができるので、各構造物の補修の優先順位を適切に決定することができる。これによって、正確な条件で前記の検討を行うことができ、少ない補修コストで各構造物の資産価値を維持させながら、橋梁(構造物)の管理を行え、アセットマネージメントを効率的に行うことができる。
【0065】
また、本実施の形態においては、演算手段20は、構造物の構造形式ごとに点検データを分類するとともに、構造物の部位ごとに点検データを分類して劣化曲線を算出するように構成されているので、構造形式あるいは部位ごとに、傾向を有する正確な劣化曲線を算出することができ、より効率的なアセットマネージメントを行うことができる。
【0066】
さらに、経過年数分類部は、点検データのうち経過年数が所定値以上で劣化度が所定値以下のものは劣化が遅い別グループとして別分類して、演算手段20が、別グループ以外のデータに関して劣化曲線を算出するように構成されているので、データ全体の劣化傾向の遅延化を防止でき、劣化度が安全側に評価されるのを防止でき、より正確な劣化曲線を算出することができる。
【0067】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施の形態では、構造物として橋梁を例に挙げて説明したが、橋梁以外の構造物にも適用可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】橋梁中長期維持管理計画策定のフローチャートである。
【図2】劣化予測のフローチャートである。
【図3】本発明に係る構造物劣化曲線算出システムを実施するための最良の形態を示した構成図である。
【図4】経過年数に対する劣化度の分布を示したグラフである。
【図5】経過年数と劣化度の相関を示したグラフである。
【図6】経過年数に対する劣化曲線を示したグラフである。
【図7】補修工事による健全度の状態と補修費の推移を示したグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1 構造物劣化曲線算出システム
10 入力手段
20 算出手段
21 評価対象分類部
22 劣化状態分類部
23 経過年数分類部
24 平均劣化度算出部
25 劣化曲線算出部
30 表示手段
40 印刷手段
50 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁などの構造物のアセットマネージメントに用いられる構造物劣化曲線算出システムであって、
前記構造物の劣化状況の点検データを入力する入力手段と、入力された前記点検データから経過年数に対する劣化度を示す劣化曲線を算出する演算手段と、入力された前記点検データと劣化曲線を表示する表示手段とを備え、
前記演算手段は、前記点検データを所定の経過年数区間ごとに抽出する経過年数分類部と、経過年数区間ごとに分類された劣化度の平均を算出する平均劣化度算出部と、経過年数区間ごとに算出された平均劣化度より最小二乗法を用いて劣化曲線を算出する劣化曲線算出部とを備えて構成された
ことを特徴とする構造物劣化曲線算出システム。
【請求項2】
前記演算手段は、前記構造物の構造形式ごとに前記劣化曲線を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物劣化曲線算出システム。
【請求項3】
前記演算手段は、前記構造物の部位ごとに前記劣化曲線を算出する
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の構造物劣化曲線算出システム。
【請求項4】
前記経過年数分類部は、前記点検データのうち経過年数が所定値以上で劣化度が所定値以下のものは劣化が遅い別グループとして別分類し、
前記演算手段は、前記別グループ以外のデータで前記劣化曲線を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の構造物劣化曲線算出システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の構造物劣化曲線算出システムにより算出された構造物劣化曲線に基づいてライフサイクルコストの評価を行うライフサイクルコスト評価方法であって、
劣化度に応じた各部位ごとの補修方法とそれに対応する補修費用を算出しておき、
前記構造物劣化曲線と算出された前記補修費用より、トータルのライフサイクルコストが最も安くなる補修時期を求める
ことを特徴とするライフサイクルコスト評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−291440(P2008−291440A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135364(P2007−135364)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000241957)北海道電力株式会社 (78)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】