説明

構造物及び避雷導線の設置方法

【課題】むね上げ導体や避雷導線が通路と干渉することを回避する。
【解決手段】避雷設備を備えると共に屋根に通路が設けられた構造物であって、避雷設備を構成するむね上げ導体あるいは避雷導線の前記通路と交差する部位が屋根に形成された溝に埋設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物及び避雷導線の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、LNGタンクのような構造物(建築物)は、避雷設備を備えている。また、この避雷設備の受雷部としては、JISに規定されている突針やむね上げ導体が知られている。突針は、例えばLNGタンクの屋根に所定間隔で複数設けられ、むね上げ導体は、LNGタンクの屋根表面に沿って所定間隔で設けられる。いずれの受雷部であっても、引下げ導線等の避雷導線を介して地中に埋設された接地極(接地導体)に接続される。構造物への落雷があった場合、当該落雷による電流が突針やむね上げ導体→避雷導線→接地極→大地に流れて構造物が保護される。
このような構造物の避雷設備に関連する従来技術として、下記特許文献1には、建築物の屋根に設けられる避雷用導体の設置方法及びその装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−161239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、LNGタンクのような円筒形の大型構造物では、屋根の外周近傍に作業者が歩行する通路(歩廊)が円環状に設けられている。このような通路を備えると共にむね上げ導体を受雷部とする避雷設備を備えるLNGタンクでは、屋根上に設けられるむね上げ導体が通路を横切ることになる。すなわち、避雷設備は、LNGタンクが完成した後に付帯設備としてLNGタンクに設けられるものなので、屋根上に通路が完成した後にむね上げ導体が屋根上に設けられる。したがって、むね上げ導体は、屋根上に完成した通路を横切る状態で設けざるを得ない。一方、通路を備えると共に突針を受雷部とする避雷設備を備えるLNGタンクでは、屋根上に設けられる避雷導線が通路を横切ることになる。このようなむね上げ導体や避雷導線は、作業者の通路上での歩行の障害となるものであり、場合によっては作業者の歩行によって断線する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、むね上げ導体や避雷導線が通路と干渉することを回避することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、構造物に係る第1の解決手段として、避雷設備を備えると共に屋根に通路が設けられた構造物であって、避雷設備を構成するむね上げ導体あるいは避雷導線の前記通路と交差する部位が屋根に形成された溝に埋設される、という手段を採用する。
【0007】
構造物に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記埋設部は、前記むね上げ導体あるいは前記避雷導線の複数個所を屋根に固定する固定具と、前記溝に充填された充填材からなる、という手段を採用する。
【0008】
構造物に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、屋根は液化天然ガスあるいは液化石油ガスを貯留する低温タンクの屋根である、という手段を採用する。
【0009】
また、本発明では、避雷導線の設置方法に係る第1の解決手段として、避雷設備を備えると共に屋根に通路が設けられた構造物であって、避雷設備を構成するむね上げ導体あるいは避雷導線の前記通路と交差する部位を屋根に予め形成した溝に埋設状態に収容する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、むね上げ導体あるいは避雷導線が屋根に形成された溝に埋設されるので、むね上げ導体や避雷導線が通路と干渉することを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るLNGタンクAにおける避雷設備Bの設置状態を示す上面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るLNGタンクAにおける避雷設備Bの要部拡大図であり、(a)は上面図、(b)はむね上げ導体4の延在方向における縦断面図、(c)はむね上げ導体4の延在方向に直交する方向おける縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るLNGタンクAは、周知のように円筒形状の構造物であり、図1に示すように屋根1、通路2、むね上げ導体3、引下げ導線(避雷導線)4、接地導線5(接地極)及び導線埋設部6を備える。これら各構成要素のうち、むね上げ導体3、引下げ導線(避雷導線)4及び接地導線5(接地極)は、避雷設備Bを構成するものである。
【0013】
LNGタンクAは、コンクリート製の外槽とメンブレンからなる内槽とからなる2重殻構造を有しており、内槽内にLNG(液化天然ガス)を貯留する大型構造物である。一般にLNGタンクには地上式と地下式とがあるが、本LNGタンクAは、地上に建設される地上式であり、屋根1の地上からの高さは数十メートルに及ぶ。屋根1は、コンクリート製であり、地上に円筒状に立設されたコンクリート躯体の頂部に円形ドーム状に設けられる。通路2は、このような円形ドーム状の屋根1の周縁に作業者が歩行する歩廊として円環状に設けられている。このような通路2は、LNGタンクAのメンテナンス等の目的で作業者が通行するために設けられる付帯設備である。
【0014】
むね上げ導体3は、図示するように屋根1上に所定間隔で設けられる導体板であって、円形の屋根1を同心円状に5ブロックに区画する合計6本の環状むね上げ導体3aと、当該環状むね上げ導体3a間を放射状に複数個所で接続する複数の放射状むね上げ導体3bとからなる。このような環状むね上げ導体3aと放射状むね上げ導体3bとは、図示するように全体として網の目状に接続されている。これらむね上げ導体3は、例えばアルミニウム製の板状部材である。
【0015】
なお、屋根1上には、図示するようにLNGポンプ・プラットフォームと安全弁プラットフォームとが備えられており、環状むね上げ導体3a及び放射状むね上げ導体3bは、これら各プラットフォームを回避する状態で設けられている。LNGポンプ・プラットフォームは、LNGタンクA内に貯留されたLNG(貯留物)を外部に払い出すLNGポンプをLNGタンクA内に垂下すると共にLNGを外部に取り出すために払出口が設けられる構造部位であり、安全弁プラットフォームは、LNGタンクAの内圧が異常上昇した際に安全装置として機能する安全弁が設けられた構造部位である。
【0016】
引下げ導線4は、合計6本の環状むね上げ導体3aのうち、最外周に位置する環状むね上げ導体3aと接地導線5とを接続するものであり、図示するようにLNGタンクAの側壁部表面に一定間隔を空けて鉛直状態に設けられている。なお、図1では、合計6本の環状むね上げ導体3aが設けられると共に合計24本の引下げ導線4が設けられているが、これら環状むね上げ導体3a、引下げ導線4、また放射状むね上げ導体3bの本数は、LNGタンクAの大きさに応じて適宜設定されるものである。接地導線5は、図示するように、LNGタンクAの周囲の地中に円環状に設けられる導線であり、上記引下げ導線4と相互接続されている。
【0017】
導線埋設部6は、図示するように、通路2と放射状むね上げ導体3bとの交差部に設けられるものであり、放射状むね上げ導体3bを屋根1中に埋設している部分である。この導線埋設部6は、本LNGタンクAの最も特徴とする構成要素であり、図2の拡大図を参照して詳しく説明する。
【0018】
図2に示すように、導線埋設部6は、所定長さに亘って屋根1上に形成された長尺溝1aに放射状むね上げ導体3bを収容すると共に、長尺溝1aの両端近傍に設けられた固定具6aによって放射状むね上げ導体3bの2箇所を屋根1に固定し、さらにモルタル等の充填材6bによって当該充填材6bの表面が屋根1の表面と面一となるように長尺溝1aを埋めたものである。このような導線埋設部6は、通路2との交差部に設けられるものであり、通路2の一部を構成するものである。
【0019】
なお、この導線埋設部6では、充填材6bがコンクリートに比較して柔らかいので、固定具6aによって放射状むね上げ導体3bの2箇所を屋根1に固定している。固定具6aを設けない場合には、通路2を作業員が通過した際に放射状むね上げ導体3bが比較的柔らかい充填材6b中である程度移動する虞が生じ、放射状むね上げ導体3bが場合によっては破断する虞があるので好ましくない。
【0020】
次に、このように構成されたLNGタンクAの要部機能について説明する。
本LNGタンクAに備えられた避雷設備Bでは、むね上げ導体3が雷を受けると、当該雷による電流(雷電流)は、むね上げ導体3→引下げ導線4(避雷導線)→接地導線5を経由して大地に流れる。すなわち、このような避雷設備Bによれば、雷電流が本LNGタンクAの内部を流れることを回避することができるので、LNGタンクAを保護することができる。
【0021】
また、本LNGタンクAによれば、通路2と交差する各放射状むね上げ導体3bについて導線埋設部6が設けられているので、放射状むね上げ導体3bが通路2と干渉することを回避することができる。したがって、本LNGタンクAによれば、各放射状むね上げ導体3bが作業者の通路2上での歩行の障害となることがなく、また作業者が通路2を歩行することによって放射状むね上げ導体3bが断線して避雷設備Bが機能不全に陥ることもない。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態の避雷設備Bは、むね上げ導体3を受雷部とするものであるが、本発明にこれに限定されない。突針を受雷部として備える避雷設備にも本発明は適用可能である。すなわち、複数の突針を受雷部として備える避雷設備を備えた構造物では、複数の突針は屋根上に配線される避雷導線及び構造物の側部に設けられる引下げ導線によって接地導線に接続される。したがって、複数の突針を受雷部として備える避雷設備を備えた構造物では、屋根上に配線される避雷導線が通路と干渉するが、当該避雷導線を屋根上に埋め込み収容することによって干渉を回避することができる。
【0023】
(2)また、上記実施形態では、低温タンクの一種であるLNGタンクAに本願発明を適用した場合について説明したが、本発明における構造物はLNGタンクに限定されない。本発明は、例えばLPGタンク等の低温タンクの他、屋根に通路が設けられると共に当該通路とむね上げ導体あるいは避雷導線が交差するような構造物に適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
A…LNGタンク(構造物)、B…避雷設備、1…屋根、2…通路、3…むね上げ導体、4…引下げ導線(避雷導線)、5…接地導線、6…導線埋設部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
避雷設備を備えると共に屋根に通路が設けられた構造物であって、
避雷設備を構成するむね上げ導体あるいは避雷導線の前記通路と交差する部位が屋根に形成された溝に埋設されることを特徴とする構造物。
【請求項2】
前記埋設部は、前記むね上げ導体あるいは前記避雷導線の複数個所を屋根に固定する固定具と、前記溝に充填された充填材からなることを特徴とする請求項1記載の構造物。
【請求項3】
屋根は液化天然ガスあるいは液化石油ガスを貯留する低温タンクの屋根であることを特徴とする請求項1または2記載の構造物。
【請求項4】
避雷設備を備えると共に屋根に通路が設けられた構造物であって、
避雷設備を構成するむね上げ導体あるいは避雷導線の前記通路と交差する部位を屋根に予め形成した溝に埋設状態に収容することを特徴とする避雷導線の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−65393(P2012−65393A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205645(P2010−205645)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)