説明

樹脂製歯車

【課題】高強度、高耐熱で低コスト化が可能な樹脂製歯車を提供する。
【解決手段】金属製ブッシュ2と、この周囲に配置される樹脂成形部とを備え、樹脂成形部が、径方向において軸芯を共通する複数層により構成され、最外層30と、それよりも内側の層31とで、樹脂成形体の樹脂及び充填物の構成比又は構成物を異ならせている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪車・二輪車業界では、年々厳しくなる排ガス規制や燃費向上要求への対応を目的として、構成部品に対する軽量化、コンパクト化の要求が強くなっており、エンジン内部やエンジン周辺部品の樹脂化が進められている。
この流れは歯車においても同様で、近年では、高強度で高耐熱性の樹脂が開発され、エンジン内部及び周辺にて、樹脂製歯車が、金属製歯車と噛み合う相手歯車として、軽量化と、歯の噛み合い時の騒音抑制とを目的として使用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3075281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジン内部やエンジン周辺部品で使用される場合は、高負荷、高温雰囲気での使用となるため、高強度、高耐熱の補強有機繊維を樹脂製歯車に使用する。この補強有機繊維は高コストであるため、樹脂製歯車のコストも必然的に高くなる。
【0005】
本発明は、高強度、高耐熱で低コスト化が可能な樹脂製歯車を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のものに関する。
(1)金属製ブッシュと、この周囲に配置される樹脂成形部とを備え、前記樹脂成形部が、径方向において軸芯を共通する複数層により構成され、最外層と、それよりも内側の層とで、樹脂成形体の樹脂及び充填物の構成比又は構成物を異ならせた樹脂製歯車。
(2)項(1)において、樹脂成形部が、樹脂と補強繊維とを含み、補強繊維の含有率を、最外層にて、それよりも内側の層よりも大となす、樹脂製歯車。
(3)項(1)又は(2)において、最外層と、最外層より内側の層とが、互いの凹凸により係合する、樹脂製歯車。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属製ブッシュの周囲に配置される樹脂成形部が、径方向において軸芯を共通する複数層により構成され、この樹脂形成部を、歯が形成される最外層と、この最外層よりも内側の層とに分けることで、樹脂、補強繊維、樹脂及び補強繊維の種類を変化させるか、樹脂、補強繊維、樹脂及び補強繊維の種類は同じであるが、その割合を変化させることにより、樹脂製歯車にとって最も重要な歯を形成する最外層の強度を弱めることがなく、最外層よりも内側の層に、安価なものを用いることができ、全体のコストを下げることができる。
【0008】
また、樹脂成形部が、樹脂と補強繊維とを含み、補強繊維の含有率を、最外層にて、それよりも内側の層よりも大となす場合には、樹脂製歯車全体として補強繊維の使用量を減らすことができるため、重要な歯を形成する最外層の強度を維持しつつ、コストを下げることができる。
更に、層の境界を互いの凹凸により係合させる場合は、層間の界面剥離が起こりにくく、歯車強度の保持性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に用いる歯を形成する前の樹脂製歯車の1実施例を示す断面図である。
【図2】本発明に用いる金属製ブッシュの実施例であり、(A)は水平断面図、(B)は縦断面図を示す。
【図3】本発明にて述べる複数層の中の1層を作成する工程図を示す。
【図4】本発明に用いる樹脂製回転体の成形金型の概略断面図を示す。
【図5】本発明に用いる樹脂製回転体の1実施例を示す。
【図6】本発明に用いる樹脂製回転体の他の1実施例を示す。
【図7】本発明に用いる樹脂製回転体の他の1実施例を示す。
【図8】耐久評価試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<金属製ブッシュ>
本発明にて述べる金属製のブッシュは、その周囲に樹脂成形部を設けるものであり、その中央部に回転軸を締結する。
金属製ブッシュは、金属粉末を所定形状に成形して焼結したものを好ましく用いることができるが、金属塊を切削加工したもの、鍛造加工したもの等を用いることもできる。
【0011】
金属製ブッシュの形状は、特に限定されるものではないが、回転時に部分的な応力が掛かり難い円筒形状が好ましく、更には円弧となっている外周部に、複数の周り止め部を構成する突出部が、周方向に所定の間隔を空けて形成されることが好ましい。また、金属製ブッシュに軸が一体に成形されていてもよい。
【0012】
図1を用いて、より具体的に述べると、金属製ブッシュ2は、図示を省略する回転軸に嵌合する貫通孔3を有し、外周部に回り止め部となる、複数の突出部4Aを一定角度間隔にて設けている。
複数の突出部4Aの軸線方向に測った厚み寸法L2は、金属製ブッシュ2の軸線方向に測った厚み寸法L1よりも小さい。そして周り止め部を構成する突出部4Aは、頂部の厚さが厚く基部の厚さが薄いアンダーカット形状とすることで、樹脂成形部6の抜けをより一層防止し易くなる。
【0013】
そして、このアンダーカットの角度、即ち、金属製ブッシュ2の横断面に対する角度θが、5〜40°のものを用いることが好ましい。更に、回転方向への負荷に耐える周り止め部の作用を高めるためには、図2(A)、(B)に示すように、周り止め部となる突出部が、少なくともh1及びh2の異なる突出量を有する2種類の突出部4A及び4Bが、交互に配列されたものが好ましい。このようなアンダーカットの形状を持ち、角度θが5〜40°の2種類の突出部4A、4Bを用いると、後述する樹脂成形部内に、回り止め部としての複数の突出部4Aが完全に埋まった状態となり、両者間の機械的結合の強度を十分なものとすることができる。
尚、隣り合う二つの突出部間(4Aと4Aの間)に形成される凹部内(4B部分)に樹脂成形部の一部が入ることによっても、前述の機械的強度は当然にして増加する。
【0014】
<樹脂成形部>
本発明にて述べる樹脂成形部6は、先に述べた金属製ブッシュ2の周囲に配置されるものであり、樹脂により成形されたものである。
【0015】
<複数層>
先に述べた樹脂成形部は、径方向において複数層により構成される。
本発明にて述べる複数層は、全ての層の軸芯が共通(同じに)したものであり、歯を形成する最外層と、この最外層よりも内側となる層(以下、「内層」とも言う。)との、最低限2層を有する。
また、最外層と内層とは、その各々が複数層を有するように、配置することもできる。
【0016】
最外層と内層との違いは、樹脂成形体の樹脂及び充填物の構成比又は構成物を異ならせたことであり、より具体的には、樹脂そのものが異なる、補強繊維等の充填物が異なる、樹脂そのもの及び充填物の両方が異なる、充填物は同じであるが充填比率が異なる、又は、樹脂そのもの及び充填比率が異なる、ことを意味する。
尚、最外層と内層では、最外層に歯が設けられることから、最外層の強度を内層の強度に比較し、高くなるようにする。
【0017】
<最外層>
本発明にて述べる最外層は、径方向において最も外側に設置され歯車の歯が設けられる層である。
【0018】
(補強繊維)
最外層に用いる補強繊維は、融点又は分解温度が、250℃以上の繊維から選択されることが好ましい。このような補強繊維を用いることで、成形時の成形温度や加工温度、実使用時の雰囲気温度において、補強繊維が熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた樹脂製歯車とすることができる。
【0019】
補強繊維として好適に用いられるものを、より具体的に述べると、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びポリビニルアルコール系繊維から選ばれた少なくとも1種以上の繊維を使用することができる。
中でも、パラ系アラミド繊維と、メタ系アラミド繊維と、フィブリル化処理した微細繊維とを、混合して用いることが、特に好ましく、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とフィブリル化処理した微細繊維を混合して用いることで、高い強度、耐熱性を得ることができる。
【0020】
(樹脂)
最外層に用いる樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れでも良く、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等から選ばれた1以上の樹脂と、この樹脂の種類に応じて硬化剤を組み合わせたものが使用できる。
【0021】
これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとアミン硬化剤の混合物100質量部に対し、5質量部以下の触媒(例えば、オクチルブロマイドを使用)とからなる樹脂を使用することが好ましい。
尚、この触媒は、5質量部を超えて添加すると、硬化時間が短くなって繊維基材に樹脂が充分含浸される前に樹脂が硬化してしまうため、樹脂含浸不良の問題が発生し易くなる。
【0022】
<内層>
本発明にて述べる最外層よりも内側の層は、最も外側に設置された層の内側に設置され、歯車の歯が設けられない層である。
【0023】
(補強繊維)
最外層よりも内側に用いる補強繊維は、最外層と同様に、融点又は分解温度が、250℃以上の繊維から選択されることが好ましい。具体的には、先に述べた最外層に用いることができる補強繊維を、任意に使用することができ、最外層に使用した補強繊維と、内層に使用した補強繊維とで、同一のものを用いても、異種繊維を用いても良い。
【0024】
同一の補強繊維を用いた場合は、補強繊維の含有率を、最外層と内層とで変えることができ、比較的強度を要求されない、金属製ブッシュに近い層の補強繊維含有率を減らし、コストを低減することができる。
具体的には、最外層と内層の2層にする場合は、内層の補強繊維含有率を、最外層の補強繊維含有率の95〜10%とすることで、樹脂製歯車全体での補強繊維使用量を減らし、コストを低減することができる。
【0025】
また、最外層と複数の内層で構成する場合は、最外層から金属製ブッシュ側に向けて、層ごとに段階的に補強繊維含有率を最外層の95〜50%とする、あるいは最内層が最外層の補強繊維含有率の80〜10%となるように徐々に変化させることで、樹脂製歯車全体での補強繊維使用量を減らし、コストを低減することができる。
【0026】
最外層と内層とで、異種補強繊維を用いる場合には、樹脂製歯車の構造上、歯先側の負荷と比較し、金属製ブッシュに近い側は負荷が少ないため、最外層より内側の層で安価な繊維を使用することが、樹脂製歯車の強度的に可能になり、コスト低減効果を向上させることができる。
また、内層は、金属製の相手歯車に接触することがないため、金属に対する攻撃性の高い繊維であっても使用することができ、高強度の有機繊維に比較し、強度が同等以上であるが安価な無機繊維を用いることができる。
【0027】
無機繊維は、特に限定されるものではないが、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、ボロン繊維、セラミック繊維の中から選択される1つ又は複数の繊維の組合せを用いることが好ましく、これにより、樹脂製歯車を軽量で機械的強度が優れるものとすることができる。その中でも、ガラス繊維は安価なため好ましい。
【0028】
(樹脂)
内層に用いる樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れでも良く、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等から選ばれた1以上の樹脂と、この樹脂の種類に応じて硬化剤を組み合わせたものが使用できる。
【0029】
これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとアミン硬化剤の混合物100質量部に対し、5質量部以下の触媒(例えば、オクチルブロマイドを使用)とからなる樹脂を使用することが好ましい。
尚、この触媒は、5質量部を超えて添加すると、硬化時間が短くなって繊維基材に樹脂が充分含浸される前に樹脂が硬化してしまうため、樹脂含浸不良の問題が発生し易くなる。
【0030】
<最外層と内層との係合>
本発明の樹脂製歯車は、最外層と内層とで、樹脂成形体の樹脂及び充填物の構成比又は構成物を異ならせているため、界面が発生する。そこで、最外層と内層との界面にて、界面破壊を起こしにくくするため、境界部分を互いの凹凸により係合させることが好ましい。
より具体的には、最外層と内層とが、同時に見えるように側面から見た際、境界部分が、波線、山谷線、凹凸線等となるようにすることができる。尚、前記各線は、局所的な応力が発生しにくいように、波、山谷、凹凸等を、等間隔にて発生させることが好ましい。
【0031】
<複数層の作製>
(補強繊維の異なる複数層の作製)
補強繊維の異なる複数層は、例えば、分散液中に、補強繊維及び必要に応じて分散剤を投入し、充分に攪拌した抄造スラリーを用いて作製される。
尚、分散液は、特に制限されるものではないが、環境負荷が少ないことから、水を用いることが好ましい。
【0032】
図3は、補強繊維層(複数層のうちの1層)を作製する際の、工程図を示している。補強繊維層は、図3(A)に示す抄造圧縮装置7等を用いて作製することができる。この抄造圧縮装置7で用いる金型は、圧縮動作時に補強繊維集積体8(図3(B)参照)が、金属製ブッシュ2の径方向外側に広がるのを規制する筒状金型10と、この筒状金型10の内部に配置されて金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に位置する部分を軸線方向の両側から挟み且つ圧縮動作時に補強繊維集積体8が金属製ブッシュ2の径方向内側に広がるのを規制する一対のブッシュ支持用金型11及び12と、筒状金型10と一対のブッシュ支持用金型11及び12の間に位置して、圧縮動作時に補強繊維集積体8を軸線方向両側から挟んで圧縮する一対の圧縮用金型13及び14を備えている。
【0033】
そしてこの金型では、下側の圧縮用金型14に透水性を付与するため、下側の圧縮用金型14には、水を排水するための貫通孔15が形成されている。この貫通孔15には、真空吸引するためのポンプを取付けることが好ましく、ポンプを取り付けることで、排水を短時間で完了することができる。
【0034】
尚、この例では、排水時の補強繊維の流出防止のために、下側の圧縮用金型14上には底部材16が配置されている。底部材16には、金網を使用でき、そのメッシュサイズは、10〜250メッシュであることが好ましい。250メッシュより大きくなると、水と補強繊維の濾過抵抗が大きくなり、金型の内部に入れた補強繊維を含む抄造スラリーを、ポンプで吸引して水分を金型から排水させても、補強繊維と水の分離に要する時間が長くなり、製造サイクルが長くなる。また、メッシュサイズが10メッシュより小さいと、繊維長が長い補強繊維を使用しても、網目(貫通孔)が大きいために補強繊維の多くが水と共に流出し補強繊維集積体8の繊維量が著しく低下してしまう問題が発生する。
尚、メッシュサイズは、「JIS G 3555」に規定されるものを用いる。
【0035】
一対のブッシュ支持用金型11及び12は、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に補強繊維が入り込まないように、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に位置する部分を、筒状金型10の中心線が延びる方向の両側から挟んで支持する。
尚、この例では、下側のブッシュ支持用金型12、上側のブッシュ支持用金型11、下側の圧縮用金型14、上側の圧縮用金型13、及び筒状金型10はそれぞれ単独で上下に移動可能に構成されている。
【0036】
金属製ブッシュ2を一対のブッシュ支持用金型11及び12の間に挟む場合には、図3(A)に示すように、上側のブッシュ支持用金型11が上方向に移動する。
そして金属製ブッシュ2を、下側のブッシュ支持用金型12の上に位置決めした後に、図3(B)に示すように、上側のブッシュ支持用金型11を下方向に移動して、一対のブッシュ支持用金型11及び12の間に金属製ブッシュ2を挟持する。
【0037】
補強繊維と水とを混合して形成した抄造スラリーは、図3(B)に示すように、筒状金型10の上側の開口部から供給される。そして真空吸引をして、下側の圧縮用金型14に設けた複数の貫通孔15から水分を排出することにより、金属製ブッシュ2の外周部の周囲を囲む補強繊維集積体8を形成する。
このように、一対のブッシュ支持用金型11及び12を用いると、金属製ブッシュ2の位置決めと支持を簡単に行うことができる。
【0038】
また、補強繊維集積体8の外周面の形状は、筒状金型10の内周面の形状によって定まる。その結果、筒状金型10の内周面を歯車形状とすることにより、補強繊維集積体8の外周面に歯車形状の凹凸を形成することも可能になる。
尚、抄造スラリーの供給は、前記開口部の複数の場所から行ってもよい。
【0039】
次に、補強繊維集積体8を回転軸の軸線方向に圧縮して、補強繊維層を形成する第2のステップについて説明する。
前述の抄造圧縮装置7で用いる金型であれば、一対の圧縮用金型13及び14で補強繊維集積体8を圧縮した場合に、金属製ブッシュ2の径方向の内側及び外側の両方向に補強繊維が膨出するのを確実に阻止することができる。
下側の圧縮用金型14に設けた複数の貫通孔15から水分を排出した後、図3(C)に示すように、金属製ブッシュ2が一対の圧縮用金型13と14の間の中央に位置する状態となる位置まで、上側の圧縮用金型13を下降させる。
【0040】
その後、図3(D)に示すように、金属製ブッシュ2が、一対の圧縮用金型13及び14の中央に位置する状態で、一対の圧縮用金型13及び14をそれぞれ移動させ、補強繊維集積体8が所定の厚みとなるまで圧縮する。
尚、圧縮を行う時間及び温度は、使用する補強繊維の種類によって任意であるが、前記圧縮の際、上側の圧縮用金型13にヒータを取り付け、加熱した状態で圧縮することにより、抄造後の補強繊維に含まれる水分を取り除く時間を、短縮することができるとともに、圧縮後の補強繊維層5の厚みの経時変化を抑えることができる。
【0041】
好ましくは使用する分散液、本例では水の沸点以上の温度:100〜180℃で、0.5〜10分間圧縮することにより、厚みの経時変化のほとんど無い補強繊維層5を得ることができる。
また、前記圧縮の際、下側の圧縮用金型14の貫通孔15から真空吸引した状態で圧縮することにより、抄造後の補強繊維層5に含まれる水分を取り除く時間を短縮することができる。
【0042】
複数層は、図3を用いて説明した方法で、先ず最も内側の層となる部分を作製し、順次筒状金型10の内径を変えて、外側となる層の部分を作製する。
具体的には、まず、内層の外径寸法に合わせた内径寸法の筒状金型10の抄造圧縮装置で金属製ブッシュと一体となった補強繊維層を作製し、次に最外層の外径寸法に合わせた内径寸法の筒状金型10の抄造装置で、内層の外側に内層と異なる繊維により補強繊維層(最外層)を作製する。
【0043】
内層が複数の場合は、内径寸法の異なる筒状金型10を複数(内層の数と同じ数)使用し作製する。
尚、前述した方法では、径の異なる筒状金型を交換することで、1つの抄造圧縮装置により各層を作製しているが、各々の層を製造する専用の抄造圧縮装置を、層の数だけ準備し、内側となる層より順次作製することもできる。
【0044】
(樹脂の含浸硬化)
樹脂の含浸硬化について、以下に述べる。
図4に示すように、補強繊維層5を備えた樹脂製歯車成形用素材21を、金型23内に配置した後に、金型23に樹脂を注入して補強繊維層5に樹脂を含浸させ、その後硬化させて、樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を成形する。
【0045】
金型23は、固定金型25と、固定金型25の中心に配置して上下方向に変位する移動金型27と、この移動金型27と対になって金属製ブッシュ2を挟持する上金型29とを備えている。
上金型29の押圧部29Aが、固定金型25内に挿入されて、金属製ブッシュ2を押圧すると、移動金型27は、上金型29の挿入量に応じて下方に変位する。
上金型29で、固定金型25の開口部を完全に塞いだ後に、固定金型25内に樹脂が注入される。この際、樹脂は、固定金型25内を真空にすることで、素早く注入することができる。
【0046】
その後、樹脂が硬化したら、補強繊維層5を芯材として成形された樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を金型23から取り出して、樹脂製回転体の製造を完了する。
このようにして成形した樹脂製回転体の樹脂成形体の外周部に、機械加工を施して歯を形成すれば樹脂製歯車を得ることができる。
【0047】
(樹脂が異なる複数層の作製)
最外層と内層とで、樹脂が異なる場合は、まず、内層の外径寸法に合わせた内径寸法の筒状金型10(図3参照)の抄造圧縮装置で、金属製ブッシュと一体となった補強繊維層を作製し、これに図4を用いて説明した方法で液状樹脂を含浸・硬化させ、内層を作製する。
次に、金属製ブッシュと一体になった内層を、最外層の外径寸法に合わせた内径寸法の筒状金型10の抄造圧縮装置で補強繊維層(最外層)を作製し、図4を用いて説明した方法で内層と異なる樹脂を含浸・硬化させ樹脂製回転体を製造する。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(最外層に用いる抄造スラリーの作製)
先ず、抄造スラリーを製造するために、補強繊維の投入時濃度が、4g/リットルとなる量の水を満たしたタンクを用意する。
次に、このタンク内に、樹脂成形体中の補強繊維総量が、40体積%となる量のパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とフィブリル化処理した微細繊維とを、投入する。
【0049】
本実施例にて用いた補強繊維は、短繊維として、アスペクト比200で単繊維繊度:1.7detx、繊維長:3mm長のパラ系アラミド繊維“帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ(登録商標)」”を50質量%、アスペクト比200で単繊維繊度:2.2detx、繊維長:3mm長のメタ系アラミド繊維“帝人テクノプロダクツ製「コーネックス(登録商標)」”を45質量%、そしてフリーネス値300mlまでフィブリル化処理した微細繊維“デュポン株式会社製「ケブラー(登録商標)」”を5質量%となる量を混合している。
更に、攪拌機でタンク内の水を攪拌し、補強繊維を分散させる。
【0050】
(最外層より内側の層に用いる抄造スラリーの作製)
最外層に用いるスラリーと同様の方法で、アスペクト比200で単繊維繊度:1.7detx、繊維長:3mm長のパラ系アラミド繊維“帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ(登録商標)」”を40質量%、アスペクト比200で単繊維繊度:2.2detx、繊維長:3mm長のメタ系アラミド繊維“帝人テクノプロダクツ製「コーネックス(登録商標)」”を35質量%、そしてフリーネス値300mlまでフィブリル化処理した微細繊維“デュポン株式会社製「ケブラー(登録商標)」”を25質量%となる量を混合している。なお、この抄造スラリーは、樹脂成形体中の補強繊維総量が、40体積%となるようにしている。
更に、攪拌機でタンク内の水を攪拌し、補強繊維を分散させる。
【0051】
(最外層より内側の層の作製)
図3(A)に示す抄造圧縮装置7(第1の抄造装置)を用いて、下側のブッシュ支持用金型12上に金属製ブッシュ2(炭素鋼の焼結合金製)を位置決めする。使用する金属製ブッシュ2は、突出部4A及び4Bの形状は、h1=2mm、h2=0.5mmであり、アンダーカット形状であり、金属製ブッシュ2の仮想中心横断面と側面との間の角度θが20°である(図2参照)。
尚、ここで使用する筒状金型10の内径は60mmとした。
【0052】
そして、図3(B)に示すように、上側のブッシュ支持用金型11を下方向に移動して、一対のブッシュ支持用金型11及び12の間に金属製ブッシュ2を挟持する。ここで、下側の圧縮用金型14の位置は、金属製ブッシュ2の軸方向中央から底部材16上面迄の距離が40mmとなる位置とした。この抄造圧縮装置7内に、先に述べた最外層より内側の層に用いる抄造スラリーを充填する。そして、真空吸引をして下側の圧縮用金型14に設けた複数の貫通孔15から水を排水することにより、抄造スラリー中の水を分離して、円筒状の補強繊維集積体8を得る。尚、排水時に貫通孔15より補強繊維が流出するのを防止するために、底部材16を100メッシュの金網とした。
【0053】
次に、金属製ブッシュ2の回り止め部にさらに強固に繊維を喰い込ませるために圧縮を行う。図3(C)に示すように、150℃に加熱した上側の圧縮用金型13を、金属製ブッシュ2の軸方向中央から上側の圧縮用金型13下面までの距離が40mmとなる位置まで下降させる。この位置は、金属製ブッシュ2が、一対の圧縮用金型13と14の間の中央に位置する状態となる位置である。
【0054】
そして、図3(D)に示すように、金属製ブッシュ2が、一対の圧縮用金型13と14の間の中央に位置する状態で、一対の圧縮用金型13及び14をそれぞれ同速度(5mm/s)で相互に近づく方向に移動させ、補強繊維集積体8が、厚み:10mmとなるまで圧縮する。
加熱した状態で2分間圧縮することにより、金属製ブッシュ2と一体化した補強繊維層5を得た。尚、前記圧縮の際、下側の圧縮用金型14の貫通孔15から真空吸引した状態で圧縮している。
【0055】
(最外層の作製)
最外層より内側の層の作製と同様の抄造圧縮装置7に、内径:60mmの筒状金型に換えて、内径:80mmの筒状金型を使用する。
作製した最外層より内側の層と一体化した金属製ブッシュを、内径:80mmの筒状金型を設置した抄造圧縮装置に載置し、最外層より内側の層と同様の方法で、先に述べた最外層に用いる抄造スラリーを充填し、最外層を作製し、金属製ブッシュ2と一体化した補強繊維層5を得た。
【0056】
(樹脂の含浸硬化)
次に、図4に示すように、上記の工程で得られた金属製ブッシュ2と一体化した補強繊維層5を、200℃に加熱した移動金型27に配置して型締めする。そして、固定金型25内部を、圧力90kPa以下に減圧した後、2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリン:69質量部、4,4’−ジアミノジフェニルメタン:31質量部を混合した樹脂を温度140℃で溶解し、更にオクチルブロマイド:1質量部を加えて撹拌した樹脂を金型内部に注入して、補強繊維層5に含浸させ、金型23内で加熱硬化し樹脂製回転体を得る。
樹脂製回転体は、図5に示すように、金属製ブッシュ2、その周囲に複数層が配置される。そして、この樹脂製回転体を切削加工により歯を形成し、以下の表1に示す寸法の樹脂製歯車を得た。
【0057】
【表1】

【0058】

<実施例2>
最外層と最外層より内側の層に用いる抄造スラリーの補強繊維の配合は、「テクノーラ(登録商標)」”を50質量%、「コーネックス(登録商標)」”を45質量%、「ケブラー(登録商標)」”を5質量%とした。そして、最外層に用いる抄造スラリーは、樹脂成形体中の補強繊維総量が、40体積%となるようにした。また、最外層より内側の層に用いる抄造スラリーは、樹脂成形体中の補強繊維総量が、30体積%となるようにした。その他については、実施例1と同様の方法で樹脂製歯車を得た。
【0059】
<実施例3>
最外層より内側の層にアラミド短繊維の代替としてガラス短繊維を使用した以外は、実施例1と同様の方法で樹脂製歯車を得た。
本実施例にて用いたガラス短繊維は、繊維径11μmのモノフィラメント(組成:Eガラス)を集束したストランドを1.5mmに切断したものである。
【0060】
<実施例4>
実施例1において最外層と最外層より内側の層の境界を凹凸により係合するような形状とした。それ以外は実施例1と同様の方法で樹脂製歯車を得た。
境界の凹凸は、山径(凸の外側の径)を65mm、谷径(凹の内側の径)を55mmとし、30度刻みで12箇所とした。形状は、図6に示すように直線で山と谷をつないだ形状とした。
【0061】
<実施例5>
本実施例においては、3種類の抄造装置を使用して作製する。第1の抄造装置は、筒状金型10の内径が60mm(実施例1で最外層作製に用いるものと同じ)で、第2の抄造装置は、筒状金型10の内径が70mmで、第3の抄造装置は、筒状金型10の内径が80mmとした。
【0062】
先ず、第1の抄造装置を使用し、実施例3と同様のガラス短繊維で外径60mmの補強繊維層を作製する。
次に、この外径60mmの補強繊維層と一体化した金属製ブッシュを、第2の抄造装置にセットし、外径70mmの補強繊維層を作製する。なお、このときの抄造スラリーは、実施例2で最外層より内側の層に用いたものと同様の樹脂成形体中の補強繊維総量が、30体積%となるようにしたものを使用した。
次に、この外径70mmの補強繊維層と一体化した金属製ブッシュを、第3の抄造装置にセットし、外径80mmの補強繊維層を作製する。なお、このときの抄造スラリーは、実施例1で最外層に用いたものと同様の樹脂成形体中の補強繊維総量が、40体積%となるようにしたものを使用した。
その後の工程(樹脂含浸〜硬化〜歯部加工)は実施例1と同様の方法で樹脂製歯車を得た(図7)。
【0063】
<比較例>
最外層より内側の層を設けない以外は、実施例1と同様の方法で樹脂製歯車を得た。
【0064】
上記実施例1〜5及び比較例で得られた樹脂製歯車について、材料コスト試算結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】

実施例1、4では、補強繊維の配合比率を、最外層より内側の層と最外層とで異ならせている。これにより、補強繊維の中で最も高価なパラ系アラミド繊維“帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ(登録商標)」の使用量を減らすことができる。
実施例2、3、5では、最外層より内側の層にガラス短繊維を使用している。これにより、使用するアラミド短繊維の全体量をかなり減らすことが可能である。具体的は、比較例と比べ、実施例2で12%、実施例3で15%、実施例5で20%使用量を減らすことができる。
【0067】
但し、コストを抑えることができても、耐久性が低下しては意味をなさないので、以下の表3に示す条件にて、入力トルクを変化させた耐久評価試験を行った。その結果を図8に示す。
【0068】
【表3】

【0069】

図8に示すとおり、実施例1〜3及び5の耐久性は、比較例と比較してほぼ同等であり、歯車強度の低下は見られない。
また、実施例4は、同じ入力トルクでの耐久寿命が、他の実施例と比較して若干長い(若干耐久性が高い)。これは、最外層と最外層より内側の層の境界を凹凸により係合するような形状としているため、層間の界面剥離が起こりにくく、歯車強度の保持性を高くすることができるためと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
2…金属製ブッシュ、3…貫通孔、4A…突出部、4B…突出部、5…補強繊維層、6・・・樹脂成形部、7…抄造圧縮装置、8…補強繊維集積体、10…筒状金型、11…ブッシュ支持用金型、12…ブッシュ支持用金型、13…圧縮用金型、14…圧縮用金型、15…貫通孔、16…底部材、20…第1の抄造層、21…樹脂製歯車成形用素材、22…樹脂硬化物、23…金型、25…固定金型、27…移動金型、29…上金型、29A…押圧部、30…最外層、31…最外層より内側の層1、32…最外層より内側の層2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製ブッシュと、この周囲に配置される樹脂成形部とを備え、前記樹脂成形部が、径方向において軸芯を共通する複数層により構成され、最外層と、それよりも内側の層とで、樹脂成形体の樹脂及び充填物の構成比又は構成物を異ならせた樹脂製歯車。
【請求項2】
請求項1において、樹脂成形部が、樹脂と補強繊維とを含み、補強繊維の含有率を、最外層にて、それよりも内側の層よりも大となす、樹脂製歯車。
【請求項3】
請求項1又は2において、最外層と、最外層より内側の層とが、互いの凹凸により係合する、樹脂製歯車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate