説明

樹脂配管

【課題】外層にナイロンを含む3層構造の樹脂チューブは、フッ酸等、薬液雰囲気では使用できない。フッ酸等薬液雰囲気で使用でる樹脂配管を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂によって形成された内層12とナイロンによって形成された中間層14を備え、ナイロン層14を、フッ素樹脂によって形成された最外層18により被覆した樹脂配管10を得る。さらに内層12と前記中間層とは、接着剤層16によって接着されている樹脂配管10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水(UPW)、薬液等の液体輸送ラインだけでなく、フッ酸等の過酷な雰囲気中においても使用できる樹脂配管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置、液晶表示装置等を製造する場合、各種薬液等のほか、超純水(UPW)(水素またはオゾンを含む超純水、所謂、水素水・オゾン水を含む)が、樹脂配管を通して輸送、供給されることが多い。このように、半導体装置等の製造の際に超純水が用いられる理由は、洗浄工程等に使用される水中に酸素が溶存酸素の形で多量に含まれていると、当該溶存酸素により自然酸化膜が形成されるためである。また、最近では、超純水を用いた場合にも、同様に自然酸化膜が形成されることが指摘されており、超純水中の酸素、パーティクル、金属成分を徹底的に除去することが行われている。
【0003】
例えば、シリコン結晶を用いて半導体装置を形成する場合、酸素と水が共存していると、シリコン表面に自然酸化膜(SiOx)が形成される。特に、水溶液中に酸素が含まれると表面が酸化されるとともにシリコン表面がエッチングされ、表面マイクロラフネスが増加することも指摘されている。
【0004】
近年、Si(100)結晶表面より、PMOSFETの電流駆動能力が大きいSi(110)結晶表面が注目されているが、この表面は、Si(100)表面に比べても水溶液中でのエッチングが激しい。このため、通常、Si表面の洗浄は、水溶液を用いたウェット洗浄が行われるが、その場合、水溶液中に酸素を混入させないことが必要である。
【0005】
特願2004-299808(特許文献1)は、半導体製造装置、液晶製造装置等に使用される配管として、フッ素樹脂を2層に積層したフッ素樹脂2重チューブを開示している。特許文献1で開示されたフッ素樹脂2重チューブは、内側層チューブと外側層チューブとを備え、内側層チューブは、耐食性、耐薬品性に優れたフッ素樹脂(例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、または、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE))によって構成され、他方、外側層チューブは、ガスの透過を抑制できるフッ素樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))によって構成されており、内側層チューブと外側層チューブとは溶着された構成を有している。
【0006】
特許文献1に示されたフッ素樹脂2重チューブは、優れた耐食性、耐薬品性、及び、ガス非透過性を有すると共に、内側層チューブと外側層チューブとを強固に接合できると云う利点を備えている。
【0007】
本発明者等は、先に特願2007−35779号(特許文献2)において、PFAによって形成された内層と、ナイロンによって形成された外層とを備えた樹脂配管を提案した。
【0008】
【特許文献1】特願2004−299808号
【特許文献2】特願2007−35779号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、内側層チューブと外側層チューブとの間の剥離強度が3.0N/cm以上であるフッ素樹脂2重チューブを開示している。更に、特許文献1は、酸素透過量及び酸素透過係数を規定し、これら酸素透過量及び酸素透過係数を低下できることも指摘している。
【0010】
特許文献1によれば、内側層チューブと外側層チューブとして、それぞれ、PFA層及びPVDF層を備えたフッ素2重チューブは、両層間に親水化処理を施さない場合、0.135(grams・mil/100in2・24hr・atm)の酸素透過係数を示し、他方、両層間に親水化処理を施した場合、0.025(grams・mil/100in2・24hr・atm)の酸素透過係数を示すことが開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に示されたように、外側層チューブとしてPVDFを使用した場合、PVDFは柔軟性を有していないため、直線的な配管には適していても、種々の形状に曲折して配管する場合には、不向きであると云う欠点がある。
【0012】
一方、特許文献2は半導体製造装置、液晶製造装置等で要求される酸素透過量、酸素透過係数、及び、可撓性を備えた樹脂配管を開示している。この樹脂配管は超純水(UPW)、薬液等を液体輸送するラインに適している。ここで、半導体製造装置、液晶製造装置等では、単に、液体輸送ラインを樹脂配管によって構成するだけでなく、フッ酸等の薬液に晒される部分にも配管される場合がある。このような部分に、特許文献2に開示された樹脂配管を使用した場合、外層を構成するナイロンはフッ酸等の薬品に弱く、薬品によっては溶け出してしまうと云う欠点がある。
【0013】
本発明の目的は、各種の薬品に晒される雰囲気でも使用できる樹脂配管を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、半導体製造装置、液晶製造装置等で要求される酸素透過量、酸素透過係数、及び、可撓性を備えると共に、耐薬品性をも備えた樹脂配管を提供することである。
【0015】
本発明の更に他の目的は、10ppb以下の溶存酸素量を達成できるように5×10(個・cm/cmsecPa)以下の酸素透過係数を維持できる樹脂配管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、フッ素樹脂によって形成された内層と、当該内層上に配置され、ナイロンによって形成された中間層とを備え、前記中間層上に、更に、フッ素樹脂によって形成された最外層とを含むことを特徴とする樹脂配管が得られる。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様において、前記内層と前記最外層のフッ素樹脂は同一のフッ素樹脂であることを特徴とする樹脂配管が得られる。
【0018】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様において、前記内層と前記最外層のフッ素樹脂は、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂(PFA)であることを特徴とする樹脂配管が得られる。
【0019】
本発明の第4の態様によれば、第1〜3の態様のいずれかにおいて、前記ナイロンはナイロン6又はナイロン6とナイロン12の共重合体であることを特徴とする樹脂配管が得られる。
【0020】
本発明の第5の態様によれば、第1〜4の態様のいずれかにおいて、前記内層と前記中間層とは、接着剤層によって接着されていることを特徴とする樹脂配管が得られる。
【0021】
本発明の第6の態様によれば、第5の態様において、前記接着剤層はフッ素系接着剤層であることを特徴とする樹脂配管が得られる。
【0022】
本発明の第7の態様によれば、第1〜6の態様のいずれかにおいて、前記最外層を形成するフッ素樹脂は前記中間層のナイロン上に接着剤を介することなく被覆されていることを特徴とする樹脂配管が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フッ酸等に晒されるような過酷な雰囲気においても外部的に溶け出すことなく、且つ、輸送される内部の超純水等にも影響を与えない樹脂配管が得られる。即ち、雰囲気中に含まれるフッ酸等の薬液が透過するのを抑制できるだけでなく、配管内の液体が配管外へ透過するのを抑制できる樹脂配管が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
また、図1を参照すると、本発明の第1の実施形態に係る樹脂配管は、4層構造を有する樹脂配管10であり、図示された樹脂配管10は、フッ素樹脂によって形成された内層12、ナイロンによって形成された中間層14、内層12と中間層14との間に設けられた接着剤層16、及び、フッ素樹脂によって形成された最外層18とによって構成されている。
【0025】
図示された樹脂配管の内層12を形成するフッ素樹脂は、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)であり、また、最外層18を形成するフッ素樹脂もPFAであることが望ましい。更に中間層14を形成するナイロンはナイロン6、又は、ナイロン6とナイロン12との共重合体であることが望ましく、且つ、接着剤層16はフッ素系接着剤によって形成することが好ましい。
【0026】
具体的な樹脂配管10の例としては、PFAによって形成された厚さ0.2mmの内層12、フッ素系接着剤によって形成された厚さ0.1mmの接着剤層16、ナイロンによって形成された厚さ0.7mmの中間層14、及び、PFA層によって形成された厚さ0.1mmの最外層18を備えた樹脂配管を上げることができる。
【0027】
このように、内層12は、超純水、その他の薬液、気体に対して不活性で耐久性に優れたフッ素樹脂であるPFAによって形成され、他方、最外層18もPFAによって形成されている。この構成によれば、当該樹脂配管がフッ酸等の薬液に晒されるような過酷な雰囲気内に配置されても、最外層18が薬液によって侵食されることはないし、且つ、内層12が薬液によって侵食されることもない。
【0028】
また、ナイロンによって形成された中間層14をPFAの内層12上に接着剤層16により接着することによって、外部からの酸素透過量及び酸素の透過係数を低減させることができた。
【0029】
更に、図示された例では、最外層18を形成するPFA層は接着剤を介することなく、中間層14上に被覆されている。
【0030】
図2を参照して、図1に示された4層構造の樹脂配管10の製造方法を説明する。ここでは、内層12、接着剤層16、及び、中間層14によって構成される3層構造の樹脂チューブ20は、通常の手法を用いて既に製作されているものとする。3層構造の樹脂チューブ20は図2に示されたクロスヘッドダイ22の後部から送り込まれ、図の矢印方向(即ち、右方向)に引き出されている。
【0031】
一方、図示されたクロスヘッドダイ22には、送り方向に対して直角方向から、フッ素樹脂(ここでは、PFA)がノズル24を介して押し出され、押し出されたPFAチューブ26は樹脂チューブ20と共に送り方向に引き出され、樹脂チューブ20上にPFA層が被着される。この結果、図1に示された最外層18を備えた4層構造の樹脂配管10が得られる。
【0032】
次に、図3を参照して、本発明に係る樹脂配管の透過係数を測定する測定系について説明する。図3に示すように、サンプルチューブ33としてセットされた4層構造の樹脂配管に、脱気フィルタ(図示せず)を介して超純水(UPW)(脱気UPW)を供給する。図示された測定系において、サンプルチューブ30に対するガスの透過は、ガスとサンプルチューブ30の接触面積、接触時間、圧力、温度に比例して増加し、厚さに反比例する。したがって、単位時間、単位圧力、単位厚さ当たりの透過量(透過係数)は、以下の式(1)により算出した。
【0033】
透過係数=
(透過物質の量×サンプルの厚さ)/(サンプルの面積×接触時間×透過物質の圧力差)=(個・cm)/(cm・sec・Pa) (1)
【0034】
図3に示された測定系を用いて測定した結果、4層構造の本発明に係る樹脂配管は、最外層を有しない3層構造の樹脂配管と同等の酸素透過係数(1.3×10(個・cm)/(cm・sec・Pa))を有することが判明した。更に、24時間経過後の溶存酸素濃度は0.6ppb以下であることも判った。
【0035】
上に述べた実施形態では、ナイロンとPFAとの組み合わせたチューブについてのみ説明したが、ナイロン又はPVDFと、他のフッ素樹脂、例えば、ETFE、PTFE、PVDC、FEP等とを組み合わせることができる。この場合、内層として、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、中性水溶液、有機溶剤のいずれかに対して耐性を示す材料を用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るチューブは、容器間の配管に適用できるだけでなく、薬液供給用、超純水輸送用等以外の半導体製造装置、液晶製造装置内の配管等、薬液に晒される雰囲気の配管にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る第1の実施形態に係る樹脂配管を説明するための断面図である。
【図2】図1に示された樹脂配管を製造する方法を説明する概略図である。
【図3】本発明に係る樹脂配管の特性を測定する測定系を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
10 樹脂配管
12 内層
14 中間層
16 接着剤層
18 最外層
20 3層構造の樹脂チューブ
22 クロスヘッドダイ
24 ノズル
26 PFAチューブ
30 サンプルチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂によって形成された内層と、当該内層上に配置され、ナイロンによって形成された中間層とを備え、前記中間層上に、更に、フッ素樹脂によって形成された最外層とを含むことを特徴とする樹脂配管。
【請求項2】
請求項1において、前記内層と前記最外層のフッ素樹脂は同一のフッ素樹脂であることを特徴とする樹脂配管。
【請求項3】
請求項2において、前記内層と前記最外層のフッ素樹脂は、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂(PFA)であることを特徴とする樹脂配管。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記ナイロンはナイロン6又はナイロン6とナイロン12の共重合体であることを特徴とする樹脂配管。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記内層と前記中間層とは、接着剤層によって接着されていることを特徴とする樹脂配管。
【請求項6】
請求項5において、前記接着剤層はフッ素系接着剤層であることを特徴とする樹脂配管。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記最外層を形成するフッ素樹脂は前記中間層のナイロン上に接着剤を介することなく被覆されていることを特徴とする樹脂配管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−154505(P2009−154505A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338690(P2007−338690)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】