説明

機能性ウェブスリット体

【課題】 種々の農業用資材や生活資材である機能性ウェブに、さらに柔軟性や面積拡大、又は機能材の密度アップ、ウェブの立体化、通水性や通気性等の特性を、簡便な手段で付与された機能性資材を提示する。
【解決手段】 農業用資材としては、種子、肥料、防虫剤など、生活資材としては抗菌剤、防臭剤、防かび剤等の機能材が含有されているウェブに、多条のスリット目が入れられている、機能性ウェブスリット体であり、さらにこの機能性ウェブスリット体にシワ加工が施されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能材を含むウェブに多条のスリット目が入れられた機能性ウェブスリット体に関し、機能材として肥料や農薬等を含む農業資材や、抗菌、防かび、消臭剤等を含む生活用資材などに使用される機能性資材に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布等の布状物に種々の機能性材料を含有させて、機能性を有する布状物として応用することが試みられてきた(特開2001−146673号公報、特開2001−316968号公報)。しかし、かかる機能性を有する布状物に、大きな伸縮性や伸度が求められる場合がある。また、適宜面積を拡大することが求められる場合があり、また逆に、単位面積当たりの機能材料の存在密度を高めたい場合もある。また、立体的な形状にして厚みを増大することが求められる場合がある。さらに、通気性、通水性を付与する性能を付与することが求められてきた。これらの特性を別々の手段で行っていては、煩雑でコストもかかるので、簡便な手段で、これらの特性の全てを実現できる方策が求められていた。
【0003】
また農業においても、マルチ資材等に種々の機能剤を含ませて、高度の機能を有する農業資材が求められてきた(特開2007−209204)。また家庭内における抗菌、消臭等の用途においても、柔軟性や面積の拡大など、さらに高度の特性を有する資材が求められるようになった。また、オムツ等の衛材においても、抗菌、消臭機能と組み合わせトップシートとして使用し、尿等をオムツ中の吸収剤中にウェブのスリットを通じて吸収させることにおいて、高通水性、柔軟性があるウェブが求められていた。
【0004】
従来、種々の小孔が開けられたウェブが用いられているが、孔開きウェブでは、穴の大きさを大きくすることもできず、拡幅によって面積を拡げることもできない。また、孔開きウェブでは、ウェブを立体化やカサ高にすることもできなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−146673号公報(第2頁)。
【特許文献2】特開2001−316968号公報(第2頁)。
【特許文献3】特開2007−209204号公報(第1頁)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を除くためになされたものであって、その目的とするところは、種々の農業用資材や生活資材である機能性ウェブに、さらに柔軟性や面積拡大、単位面積当たりの機能材料の密度アップ、立体化、通水性や通気性等の特性を簡便な手段で付与する方式を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、機能材が含有されているウェブに、多条のスリット目が入れられている、機能性ウェブスリット体に関する。また本発明は、前記機能性ウェブスリット体にシワ加工が施されている、前記機能性ウェブスリット体に関する。また本発明は、前記機能材が農薬、肥料、種子、防虫剤、除草剤の内の少なくとも1種である、前記機能性ウェブスリット体に関する。また本発明は、前記ウェブが生分解性不織布である前記機能性ウェブスリット体に関する。また本発明は、前記機能材が抗菌剤、防かび剤、消臭剤、ガス吸収剤、乾燥剤の内の少なくとも1種を有する、前記機能性ウェブスリット体に関する。さらに本発明は、前記機能材が抗菌剤、消臭剤の内の少なくとも1種であり、オムツ用トップシートとして使用される、前記機能性ウェブスリット体に関する。
【0008】
本発明は、機能材料を含有するウェブに関する。ウェブとは、2次元的に広がりをもつシート状物で、不織布、紙、フィルム、織布、ニット等がある。本発明におけるウェブには、不織布が特に適合し、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布、湿式不織布、乾式不織布、トウ開繊不織布、経緯直交不織布などが使用される。本発明のウェブは、上記の同種または異種の複数のウェブが積層接着されたウェブも使用される。また本発明におけるウェブには、構成するポリマーや繊維自身が、抗菌・防臭機能や、オイルキャッチ機能を有する繊維から構成されていてもよい。
【0009】
本発明における機能性材料とは、ウェブを構成するポリマーや繊維以外に、ウェブに含有させた新たな薬剤や材料をいう。具体的には、ウェブが農業用資材であるマルチ不織布やマルチフィルム等の農業用資材である場合は、農薬、肥料、種子、防虫剤、除草剤等である。また、他の機能材として、抗菌剤、防かび剤、消臭剤、芳香付与剤等の生活資材として使用される薬剤がある。また乾燥剤やガス吸収剤等の機能材料を使用して、乾燥用ウェブやガス吸収用ウェブとしても使用される。抗菌、防臭剤としては活性炭や銀などの無機系、アルキルジメチルベンザルコニウム塩などの有機系、テルペンやヒノキチオールなどの天然系など、各種素材が使用できる。また、機能材が油吸収材である場合は、オイルキャッチャーとしても使用される。また、抗菌、防臭、通水性能を有し、柔軟性を備えたウェブがオムツのトップシートとして求められている。
【0010】
本発明の機能材はウェブに含有されている。含有の方法は、溶剤に溶解や分散させた状態でウェブに含ませ、乾燥等の手段で溶剤を除去する手段で行われる。他の手段として、機能材が固体の場合、機能材とウェブの少なくとも片方に接着剤を付与して、ウェブと接合させる手段も用いられる。また複数のウェブの間にサンドイッチさせて保持させてもよい。また、機能性ウェブ、例えば抗菌不織布、防臭不織布として市販されている不織布等をそのまま用いてもよい。
【0011】
本発明における機能性ウェブに多条のスリット目が入れられていることを特徴とする。多条とは、1平方メータ当たり少なくとも10以上で、数100から数1000、必要に応じて数万の場合もある。スリットとは、直線的な切れ目であって、丸穴や四角穴などの面積をもって開けられた穴とは異なる。スリット目は、スリット目の方向に100mm当たり100gの荷重をかけられた状態で、スリット幅2mm以下である。スリットの長さは、2〜1000mmであることが好ましく、通常、5〜100mmの範囲が使用される。そしてそのスリット目のアスペクト比(長さ/巾)は、好ましくは10以上で100,000以下、さらに好ましくは50以上、100以上であることが最も好ましい。あまり小さなスリットは、本発明のスリットの効果が少なく、あまり大きなスリットは、ウェブとしての安定性を損ねるからである。
【0012】
本発明におけるスリットのスリット方向は、ウェブの縦方向、横方向、斜め方向など任意の方向から選ばれる。また、縦方向と横方向など、複数の方向が混在していてもよい。また、スリット目は、スリット目を目開きさせることで、拡幅させる場合や、立体的にする場合は、千鳥配置のスリット目が好ましい。拡幅されることが好ましくない場合は、一定間隔毎にスリットされていない部分を設け、その間に平行な切れ目が入れられる。
【0013】
本発明におけるスリットは、張力下に走行するウェブに回転刃を押し当てることで形成することができる。ウェブの走行速度と刃の回転速度を調整することで、スリット目の長さを調整することができる。また、一定の刃物と受け架台(受け台またはロール)との間にウェブを挟み、刃物で押し切る方法をとることもできる。また、ウェブ製造時にウェブ原料中に異物を入れ、ウェブを延伸することにより入る切れ目を利用することもできる。
【0014】
本発明のウェブに千鳥状のスリットが入れられている場合は、スリット方向と直角方向に張力がかけられることで、スリット目が開き、張力方向に面積が拡がる。目開きされることで、面積が拡大するばかりでなく、通気性、通水性も増す。また、目開きにより、ウェブの厚みが増し、立体化する効果もある。厚みが増すことや立体化が好ましくない場合は、ウェブに平面的な力(プレスやニップロールなど)を作用させて押しつぶされることで、簡単に平面化することもできる。
【0015】
本発明の機能性ウェブスリット体は、ウェブにシワ加工が施されていることが好ましい。シワ加工により、ウェブに多数のシワ又は溝と畝を形成せせる。また、シワ加工によりウェブが柔軟になり、伸縮性が与えられ、またウェブの厚みが増し(カサ高性)て、立体化する効果がある。また、シワ加工することにより、ウェブの表面積が多くなるので、機能材料を単位面積当たりの密度を高めたウェブとすることもできる。シワ加工の方法として、蒸気等で加熱処理されたウェブを、厚いゴムシートやフェルトの屈曲表面を通過させて、これらの表面でウェブが伸長状態から収縮する際、ウェブをタテ方向に収縮させるサンフォライズ加工を用いることもでき、また、シワ加工の他の方法として、マイクレックス(登録商標)加工やギアクリンプなどを用いることもできる。
【0016】
機能材が農薬、肥料、種子、防虫剤、除草剤の内の少なくとも1種を含むことにより、本発明の機能性ウェブスリット体は農業資材、特にマルチシートとして有効である。本発明のウェブがスリットを有する農業資材であることより、雨水や散水を均一に効率よく土の中へ浸透させることができる。育てたい苗の発芽を妨げるウェブ部分を、スリット目を拡大することにより取り除き、ウェブに発芽穴を容易に作ることができる。
【0017】
農業用資材として使用されるウェブは、生分解性ウェブからなることが好ましい。生分解性ウェブで、土の中での分解速度をコントロールすることにより、発芽後にウェブを田畑から取り除く手間を省略することができる。生分解性ウェブは、綿やスフなどのセルローズ系などの天然素材も使用される。また、ポリ乳酸やポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、トウモロコシを原料とする1、3−プロパンジオ−ルポリエステル等の合成化学によって生成された繊維やフィルムからなるウェブも使用することができる。合成化学系の生分解性ポリマーは、土中の分解速度を種々にコントロールされたものが製造されている。
【0018】
本発明の機能性スリット体は、生活資材の分野でも種々に使用される。例えば、セルローズ系不織布や紙素材に抗菌、防臭機能を附加して、家庭用ワイパー、制汗シート等に使用される。また、産業用の各種フィルター類にも使用される。さらに、オイル吸着性を有するウェブを本発明の機能性スリット体に応用することにより、カサ高でオイル含有量が大きく、またスリットにより流水抵抗の少ないオイルキャチャーとして使用される。
【0019】
オムツにおけるトップシートは、尿等を吸収するパルプや高吸水性ポリマー素材などからなる中芯層と肌との界面にあるシートである。本発明によるトップシートは、抗菌・防臭機能を有し、シワ加工によって柔軟性が与えられて肌に優しく、かつ、通水性を適宜コントロールできる特性を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、機能性ウェブにスリットやシワ加工が施されることにより、機能性ウェブの薬剤等がもつ機能性に、下記に示す他の特性を効果的に発現できることに特徴がある。本発明のスリットされている機能性ウェブは、大きな伸縮性や伸度を有し、またスリットを有することにより柔軟性も有する。また、スリットされていることにより、適宜面積を拡大することや立体的な形状にして厚みを増大することや、カサ高性を与えることもできる。また、スリットにより、通気性、通水性を付与でき、さらに拡幅の程度により通気量や通水量をコントロールすることも可能である。これらの特性を、これまでは別々の手段で行っており、煩雑でコストもかかっていたが、本発明では、簡便な手段で、これらの特性の全てを実現できる。
【0021】
また、本発明の機能性ウェブスリット体は、ウェブにシワ加工が施されていることが好ましいが、シワ加工によりウェブが柔軟になり、伸縮性が与えられ、またウェブの厚みが増し、カサ高性もまして、立体化する効果を有する。さらに、シワ加工を施すことで、ウェブの単位面積当たりの表面積が増すので、機能材料をより多く含浸させることを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明における実施の態様の例を図で説明する。図1は、本発明における機能性ウェブスリット体の態様を示す模式図である。A図は、機能性ウェブ1に縦方向に千鳥状にスリット2を入れた図を示す。このウェブ1を、横方向(矢印方向)に力を加えると拡幅され、立体化された態様をB図で示す。機能性ウェブ1のスリット2間に形成される幹部3と枝部4からなり、幹部3は、左側を上にして、右側に約45度方法下側に傾斜して、厚みをもった立体化された態様となる。それに平面的な圧力を加えると、平面化されて、C図の態様となる。
【0023】
図2は、本発明の機能性ウェブスリット体における他のスリットの態様を示す模式図である。D図は、機能性ウェブ11に一定間隔毎にスリット12が入れられないゾーン13を設けた場合である。このようにスリットされていないゾーン13があると、拡幅を殆どせず、一定の通気量や通水量を保ちたい場合に有効である。E図は、A図とD図の中間の場合で、機能性ウェブ15にスリット16が入れられていないゾーン17を狭くし、スリット16が若干量だけ相互に入り組んでいる場合を示す。農業用途やフィルター用途などのように、あまり大きな拡幅を求めないが、若干量の通気量や通水量をコントロールしたい場合に有効である。
【0024】
図3は、本発明における機能性ウェブスリット体のさらに他の態様を示す模式図である。F図は、機能性ウェブ21にスリット22が横方向に入っている場合の例を示す。G図では、機能性ウェブ25に、タテ方向のスリット26と横方向のスリット27が入っている例を示す。また、図示していないが、スリット目は斜め方向でもよい。
【0025】
図4は、本発明におけるシワ加工が施された機能性ウェブの態様を示す模式図である。H図は、ギアクリンプ方式などによりシワないし折り目が入っている態様を示す。Ha図は平面図で、機能性ウェブ31にヨコ方向に、直線的にシワないし折り目32が入っている。Hb図は、Ha図のA−Aにおける点線部の厚み方向における断面を拡大して示してある。なお、図では機能性ウェブ31に入れられているスリットの図示は、煩雑になるので省略して示している。
【0026】
図5は、サンフォライズ加工やマイクレックス(登録商標)加工のような、圧縮収縮加工によるシワ加工が施されている例を示す。Ia図は、機能性ウェブ41に横方向にランダムな多数のシワ42が入っている。Ib図は、Ia図のB−Bにおける点線部の厚み方向における断面で、拡大して示している。なお、図では機能性ウェブ41に入れられているスリットの図示は、煩雑になるので省略して示している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明における機能性ウェブスリット体の態様を示す模式図。
【図2】本発明における機能性ウェブスリット体の他の態様を示す模式図。
【図3】本発明における機能性ウェブスリット体のさらに他の態様を示す模式図。
【図4】本発明におけるシワ加工が施された機能性ウェブの態様を示す模式図。
【図5】本発明におけるシワ加工が施された機能性ウェブの他の態様を示す模式図。
【符号の説明】
【0028】
1:機能性ウェブ、 2:スリット、 3:幹部、 4:枝部。
11:機能性ウェブ、 12:スリット、 13:スリットされていないゾーン。
15:機能性ウェブ、 16:スリット、 17:スリットされていないゾーン。
21:機能性ウェブ、 22:スリット、 25:機能性ウェブ、
26:タテ方向のスリット、 27:ヨコ方向のスリット。
31:機能性ウェブ、 32:シワないし折り目。
41:機能性ウェブ、 42:シワ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能材が含有されているウェブに、多条のスリット目が入れられている、機能性ウェブスリット体。
【請求項2】
前記機能性ウェブスリット体にシワ加工が施されている請求項1の機能性ウェブスリット体。
【請求項3】
前記機能材が農薬、肥料、種子、防虫剤、除草剤の内の少なくとも1種である請求項1の機能性ウェブスリット体。
【請求項4】
前記ウェブが生分解性不織布である請求項3の機能性ウェブスリット体。
【請求項5】
前記機能材が抗菌剤、防かび剤、消臭剤、ガス吸収剤、乾燥剤の内の少なくとも1種を有する請求項1の機能性ウェブスリット体。
【請求項6】
前記機能材が抗菌剤、消臭剤の内の少なくとも1種であり、オムツ用トップシートとして使用される請求項1の機能性ウェブスリット体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−155734(P2009−155734A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331500(P2007−331500)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000143488)株式会社高分子加工研究所 (12)
【Fターム(参考)】