説明

機能粉およびそれを用いた水処理方法

【課題】水処理において、不純物を効率よく吸着し、磁気で高速分離でき、作業性の良い機能粉の提供。
【解決手段】表面に疎水性基および親水性基が配置された磁性体粒子。ここで不純物を吸着する機能を有する疎水性基の数をM、水中に安定に分散するための機能を有する親水性基の数をNとしたとき、0.2<M/N<0.8の関係を満たし、不純物吸着性と分散安定性とを両立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質浄化や固液分離等を行なうのに有用な機能粉に関するものである。特に、本発明は被処理水中で分離すべき物質と結合させ、磁気分離技術により捕捉して、当該物質を被処理水中から分離するのに有用な機能粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、工業排水などの廃水の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには水の浄化、すなわち水中から不純物などを分離することが必要である。液体から不純物などを分離する方法としては、各種の方法が知られており、たとえば膜分離、遠心分離、活性炭吸着、オゾン処理、凝集による浮遊物質の除去などが挙げられる。このような方法によって、水に含まれるリンや窒素などの環境に影響の大きい化学物質を除去したり、水中に分散した油類、クレイなどを除去したりすることができる。これらのうち、膜分離はもっとも一般的に使用されている方法のひとつであるが、水中に分散した油を除去する場合には膜の細孔に油が詰まり易く、膜の寿命が短くなり易いという問題がある。このため、水中の油類を除去するには膜分離は適切でない場合が多い。このため重油等の油類が含まれている水から、それらを除去する手法としては、例えば重油の浮上性を利用して、水上に設置されたオイルフェンスにより水の表面に浮いている重油を集め、表面から吸引および回収する方法、または、重油に対して吸着性をもった疎水性材料を水上に敷設し、重油を吸着させ回収する方法等が挙げられる。
【0003】
また、固液分離等を目的とし、フィルターを用いて被処理水を濾過して有機物などからなる不純物等(以下、簡単のために不純物という)を分離し除去する浄化装置が知られている。このような浄化装置においては、微細な開口部を有するフィルターを具備してなりそのフィルターを被処理水が通過するように構成される。被処理水中の不純物は、その投影面積(または投影直径)が、フィルターの開口部投影面積(または開口部径)よりも大きい場合は通過できずに捕捉分離され、フィルターを透過した水が浄化水として回収される。さらに、同じフィルターで処理を繰り返すと、フィルターの入口側に不純物が順次堆積し圧力損失が増大して通水量が低下するという問題が発生する。このような問題が発生した場合、処理をいったん停止し、フィルターに浄化水などをを逆方向から流してフィルターに堆積した不純物を除去しなければならない。
【0004】
また、フィルターで分離できない微細な不純物を分離する必要がある場合には、凝縮剤によって、フィルターにより分離できる数百マイクロメートル程度の大きさの凝集体を形成させて、分離する。具体的には、被処理水に硫酸バン土やポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を添加し、被処理水中にアルミニウムイオン等を発生させ、撹絆により不純物を凝集させる。相対的に大きい凝集体にすることによりフィルターで汚不純物を除去することができ、水質の高い浄化水を得ることができる。分離された凝集体は、スラッジとしてそのまま、あるいはコンポスト化されて、処分場や焼却場に運搬される。
【0005】
しかし、このようにフィルターを用いた分離方法では、いくつかの改良すべき点が存在する。
【0006】
まず、不純物が堆積したフィルターを洗浄水の逆流により洗浄し、その洗浄水と被処理物の混合水をスラッジとして分離部系から排除する構成であるため、一般的にスラッジの含水率が極めて大きくなる。ここでスラッジをトラックで処分場や焼却場に運搬する場合、コンポスト化する場合も含めて、運搬コストを下げるために含水率を小さくすることが好ましい。このためには一般的には遠心脱水機やベルトプレス機等の脱水手段を使用してスラッジの脱水処理が行われる。含水率の大きいスラッジの場合、脱水能力に優れた脱水手段が必要となり、その装置のコストや運転エネルギー費が増大する。
【0007】
また、分離処理を継続的に行う場合には、濾過処理、すなわち不純物のフィルターへの堆積、とフィルターに堆積した不純物の洗浄とを交互に行なう必要があり、濾過処理を定期的に中断する必要があり、処理量の低下を招くという課題があった。
【0008】
さらに、大量の被処理水の濾過を行なうには大面積のフィルターを使用しなければならず、浄化装置が大きくなるという問題がある。また、凝集剤を用いて回収する方法は、コストの面で不利となる。
【0009】
以上のように、フィルターを用いて不純物を除去する方法には改良の余地があった。
【0010】
一方、特許文献1に示されているように、磁性体粒子の表面に疎水性皮膜を形成させて磁性体粒子に油分吸着性を持たせ、それを水上に散布し、油分、すなわち不純物を吸着した磁性体粒子を水と共に汲み上げ、磁気分離浄化装置によって重油を回収する方法が検討されている。ここで、磁気分離浄化装置は磁気力によって磁性体粒子を集め、回収する装置である。
【0011】
また磁気分離浄化装置は、磁性体粒子に磁気力を作用させ分離回収を行うものであるが、表面に疎水性皮膜が形成されていない磁性体粒子を、凝集剤と共に被処理水中に添加し、被処理水中に含まれる非磁性物質を磁性体粒子と凝集させ、磁性体粒子を核とした凝集体を形成させ、磁気力によってそれを分離回収することもできる。このように、表面に疎水性皮膜を有する磁性体粒子を用いなくても、前処理を施すことによって磁気分離によって分離・回収することができる。
【0012】
しかし、本発明者らの検討によれば、引用文献1に記載されたような表面に疎水性皮膜を有する磁性体粒子は、表面が疎水性であるために被処理水への分散性が不十分であり、改良の余地があることがわかった。分散性が不十分であると、不純物が十分に磁性体粒子に吸着しないために、不純物除去も不十分となってしまう傾向にあった。
【特許文献1】特開2000−176306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記のような課題を解決し、被処理水に含まれる不純物を効率よく、かつ低コストで分離可能な機能性微粒子、およびそれを用いた水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による機能粉は、表面に疎水性基および親水性基が配置された磁性体粒子からなる機能粉であって、前記疎水性基の数をM、前記親水性基の数をNとしたとき、0.2<M/N<0.8を満たすことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明による水処理方法は、不純物を含んでなる水に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の機能粉を分散させ、前記機能粉の表面に前記不純物を吸着させ、吸着後の機能粉を磁力を利用して前記水から分離することを含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水処理において有用な機能粉、すなわち被処理水中に含まれる不純物、特に有機系の汚濁物を効率よく吸着し、吸着後には磁気を用いて高速分離できる、作業性のよい機能粉が提供される。さらに、本発明によれば、前記の機能粉を用いた、効率が良く、低コストの水処理方法が提供される。この水処理方法では、水中に浮遊している物質を吸着した機能粉を溶液に均一に分散した状態から磁気をかけることで1点に集中させることが容易であり、水を浄化するだけではなく、水中に浮遊している目的物質を回収することにも用いることができる。
【0017】
なお、本発明における機能粉は、表面に疎水性基および親水性基が配置されているために、水と油(不純物)との両方に対して親和性が高い。疎水性基(すなわち親油性基)により不純物と結合し、親水性基の作用により水中における分散安定性が高い。この結果、不純物を吸着した機能粉は水中に安定に分散して懸濁状態となり、磁気により効率よく不純物を回収することができる。さらに、本発明による機能粉において、疎水性基と親水性基とは、それぞれ独立に配置することができるため、その数の比を制御することが可能であり、目的とする被処理水に応じて、最適な疎水性または親水性を有する機能粉を選択することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
機能粉
本発明の機能粉に用いられる磁性体粒子は、磁性体からなるものであれば、特に限定されるものではない。用いられる磁性体は、室温領域において強磁性を示す物質であることが望ましい。しかし、本発明の実施に当ってはこれらに限定されるものではなく、強磁性物質を全般的に用いることができ、例えば鉄、および鉄を含む合金、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、などが挙げられる。これらのうち水中での安定性に優れたフェライト系化合物であればより効果的に本発明を達成することができる。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。また、磁性体粒子は、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されない。用いるに当って望ましい磁性体粒子の粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すれば良く、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。鋭角な角を持つ粒子であると、表面を被覆するポリマー層を傷つけ、樹脂複合体の形状を維持しにくくなってしまうことがあるためである。これらの磁性粉は、必要であればCuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理が施しされていてもよい。
【0019】
なお、本発明において磁性体粒子とは、その粒子がすべて磁性体で構成される必要はない。すなわち、非常に細かい磁性体粉末が樹脂等のバインダーで結合されたものであってもよい。また、磁性体粒子は、その表面が腐食防止などの目的で表面処理されていてもよい。すなわち、後述するように、最終的に得られる機能粉が、水処理において磁力によって回収される際に、磁力が及ぶだけの磁性体を含有することだけが必要である。
【0020】
また、磁性体粒子の平均粒子径は0.1〜20μmであればよく、好ましくは0.2〜5μmである。平均粒子径が0.1μm小さい場合、磁場による力が小さくなるために磁気による回収が困難になる可能性合があり、20μm大きい場合は有効な比表面積が小さくなるために不純物の回収率が悪くなる可能性がある。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法により測定されたものである。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。また、そのほかX線回折測定、透過型電子顕微鏡(TEM)測定により測定することもできる。
【0021】
磁性体粒子の表面に、疎水性基または親水性基を配置する方法は任意の方法を用いることができる。しかしながら、機能粉が被処理水中に分散されたときに、疎水性基または親水性基が磁性体粒子から脱離すると、被処理水が汚染されてしまう場合がある。したがって、これらの基が磁性体粒子の表面から脱離しないように磁性体粒子の表面に化学的に結合していることが好ましい。なお、ここで疎水性基とは有機物に対する親和性の高い基であり、具体的には脂肪族基、芳香族基などが挙げられる。また、親水性基とは水との親和性が高い基であり、具体的には水酸基またはカルボキシル基が好ましい。
【0022】
磁性体粒子が、マグネタイトなどの磁性体のみからなるものである場合、その表面は酸化物の酸素原子が露出している。したがって、その表面を適当に処理し、表面に水酸基を形成させることで、疎水性基または親水性基を有する有機物と反応しやすくすることができる。このように磁性体粒子の表面を処理する方法としては、エタノールなどの有機溶媒による洗浄、UV洗浄、プラズマ処理等が挙げられる。
【0023】
また、微細な磁性体粉末と樹脂などのバインダーとからなる組成物から形成された磁性体粒子を用いる場合には、バインダーに有機物と反応しえる官能基を導入しておくことで、疎水性基または親水性基を磁性体粒子と化学的に結合させることもできる。
【0024】
さらに、磁性体粒子の表面をカップリング剤により処理することも可能である。この方法では、磁性体粒子の表面にカップリング剤を反応させ、磁性体表面に化学結合したカップリング剤に、疎水性基または親水性基を有する有機物を反応させるものである。この方法によれば、磁性体粒子の表面に疎水性基および親水性基をより堅牢に固定することができ、被処理水の逆汚染を防げるので好ましい。
【0025】
なお、このようにカップリング剤を反応させて両親媒性基を磁性体粒子の表面に配置する場合には、カップリング剤の反応に先立って、前記したように磁性体粒子の表面に洗浄などの処理により水酸基を形成させることが好ましい。このとき、磁性体粒子の表面に水酸基を形成させるために行う処理は、簡便であることからアルコール洗浄が好ましい。
【0026】
好ましいカップリング剤としては、磁性体表面への反応性や結合強度の観点から、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。特に、疎水性基または親水性基を有する有機物との反応性の観点から、有機物と反応し得る官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。有機物と反応性の官能基としては、アミノ基、アミン基、水酸基、カルボキシル基などが挙げられる。例えばアミノ基またはアミン基を有するシランカップリング剤としては、具体的には、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。これらのうち、特に、3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0027】
なお、このようにカップリング剤を反応させて両親媒性基を磁性体粒子の表面に配置する場合には、カップリング剤の反応に先立って、前記したように磁性体粒子の表面に洗浄などの処理により水酸基を形成させることが好ましい。このとき、磁性体粒子の表面に水酸基を形成させるために行う処理は、簡便であることからアルコール洗浄が好ましい。
【0028】
磁性体粒子の表面に、疎水性基および親水性基を配置するには、磁性体粒子の表面に疎水性基を有する有機物と、親水性基を有する有機物とをそれぞれ反応させて配置させるのが一般的である。ここで磁性体粒子の洗浄などにより表面に直接配置された水酸基を親水性基として用いることもできるが、このような水酸基は酸化されやすい傾向がある。したがって、カップリング剤を介して磁性体粒子の表面に親水性基または疎水性基を配置することが好ましく、特にカップリング剤により磁性体粒子表面に反応性基を配置し、その一部に疎水性基を有する有機物を反応させて疎水性基を配置し、残余の反応性基に親水性基を有する有機物を反応させて親水性基を配置することが好ましい。例えば、前記したアミノ基を有するシランカップリング剤で磁性体粒子表面を処理して、その表面にアミノ基(すなわち反応性基)を配置し、このアミノ基の一部に、それを介して炭化水素鎖(すなわち疎水性基)を有するカルボン酸とイオン的に結合させ、次いで残余のアミノ基に水酸基(すなわち親水性基)を有するポリオールなどを反応させることにより、疎水性基と親水性基との両方を磁性体粒子表面に配置することができる。
【0029】
疎水性基を導入する場合に用いることができるカルボン酸としては、飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸などが挙げられる。飽和脂肪族カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、デカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトラドコサン酸、ヘキサドコサン酸、オクタドコサン酸、オクタドコサン酸などのモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのジカルボン酸が挙げられる。また、ポリメタクリル酸、アクリル酸などのポリマー状カルボン酸も挙げることができる。カルボキシル基を2以上有するカルボン酸を用いた場合、これらのカルボン酸は、それぞれアミノ基などと反応し、分子鎖の末端がそれぞれアミノ基に結合するものと考えられる。
【0030】
不飽和脂肪族カルボン酸としては9−ヘキサデセン酸、cis−9−オクタデセン酸、cis,cis−9,12−オクタデカジエン酸、9,12,15−オクタデカントリエン酸、6,9,12−オクタデカトリエン酸、9,11,13−オクタデカトリエン酸、8,11−イコサジエン酸、5,8,11−イコサトリエン酸、5,8,11−イコサテトラエン酸、cis−15−テトラドコサン酸などが挙げられる。
【0031】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、メチル安息香酸、キシリル酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、β−イソジュリル酸、α−イソジュリル酸、α−トルイル酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、ο−、m−、またはp−アニス酸、1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフタレンカルボン酸、9−アントラセンカルボン酸などのモノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸が挙げられる。さらに ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸ピロメリト酸などの多価カルボン酸なども挙げられる。
【0032】
なお、一般に疎水性基としては炭素数が8以上、好ましくは10以上の脂肪族基、炭素数6以上、好ましくは8以上、の芳香族基などが挙げられる。ただし、炭素数が少ないものを用いた場合であっても、後述するようにM/Nの比を調整し、炭素数が少ない基を相対的に多く配置することで、本発明の効果を得ることも可能である。また、ここでいう脂肪族基または芳香族基の炭素数は、カルボキシル基の炭素数を含めたものである。
【0033】
また、親水性基を導入することができる有機物としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどのポリオール、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、酒石酸などのオキシ酸などが挙げられる。ここでこれらの親水性基を導入するための有機物は、炭素数が多いと親水性が下がるので、水酸基またはカルボキシル基あたりの炭素数が少ないことが好ましい。
【0034】
また、カップリング剤として、アミノ基などの代わりに、水酸基を有するカップリング剤を用い、その水酸基の一部に、疎水性基である炭化水素基を有するハロゲン化炭化水素を反応させることによっても、磁性体粒子表面に疎水性基および親水性基を配置することができる。この場合、ハロゲン化炭化水素と反応せずに残っている水酸基は、そのまま機能粉の表面に配置された親水性基として作用しえる。
【0035】
以上の通り、本願発明による機能粉は、磁性体粒子の表面に疎水性基と親水性基とが配置されている。ここで、本発明においては疎水性基の数をM、親水性基の数をNとすると、0.2<M/N<0.8、好ましくは0.3<M/N<0.6の関係を満たすことが必要である。この関係を満たすことにより、水に対する分散安定性と、不純物(油分)に対する吸着性を両立させている。したがって、M/Nが過度に高いと油分の吸着性能は高くても安定的な水中への分散性は低下する傾向にある。またM/Nが過度に低いと、水中での分散安定性は高くなるが、吸着能が低下する傾向にある。したがって、例えば機能粉として平均粒子径の小さいものを用いる場合、平均粒子径の大きな粒子に比べて分散性はよいので、相対的に疎水性基の数を多くし、吸着能を高くするなどの調整も可能である。なお、ここで疎水性基の数および親水性基の数は、機能粉全体における数であっても、単位表面積あたりの数であってもよい。また、磁性体粒子に反応させるカップリング剤の量と、その後に反応させる疎水性基を有する有機物などの量から、比M/Nを算出することもできる。
【0036】
水処理方法
本発明による水処理方法は、不純物を含んでなる水から、不純物を分離するものである。ここで、不純物とは、処理しようとする水に含まれており、その水を利用するに当たって除去すべきものを意味する。また、このように被処理水から分離する有機物を便宜的に不純物と呼んでいるが、その有機物を再利用するために分離するものであってもよい。
【0037】
本発明においては、機能粉の表面に配置された疎水性基によって、被処理水中の油類などの有機物を吸着する。したがって、本発明における水処理方法は、不純物として有機物、特に油類を含む水を処理するものであることが好ましい。ここで油類とは、一般に常温において液体であり、水に難溶性であり、粘性が比較的高く、水よりも比重が低いものをいう。より具体的には、動植物性油脂、炭化水素、芳香油などである。これらは、脂肪酸グリセリド、石油、高級アルコールなどに代表される。これらの油類はそれぞれ有する官能基などに特徴があるので、それに応じて樹脂複合体を構成するポリマーを選択することがこのましい。
【0038】
本発明による水処理方法は、まず、前記の不純物を含んでなる水に、前記の機能粉を分散させる。機能粉の表面には疎水性基が配置されており、その疎水性基と不純物との親和性により、不純物が機能粉に吸着される。本発明による機能粉の吸着率は、不純物濃度や分散させる機能粉の添加量にも依存するが、非常に高いものである。具体的には、十分な量の樹脂複合体を添加した場合には、一般に80%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の不純物が樹脂複合体の表面に吸着される。
【0039】
機能粉の表面に不純物を吸着させた後、機能粉が分離され、水から不純物が除去される。ここで、機能粉を分離する際には、磁力が利用される。すなわち、コアに用いられている磁性体粒子が磁石により吸引されるので、機能粉を簡便に回収することができる。ここで、重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力による分離を、磁気による分離と併用することも可能であり、それらの併用により、作業性を改善し、さらに迅速に回収をすることが可能となる。
【0040】
水処理の対象とされる水は特に限定されない。具体的には工業排水、下水、生活排水などに用いることができる。処理しようとする水に含まれる不純物濃度も特に限定されないが、過度に不純物濃度が高い場合には、機能粉が多量に必要となるため、別の手段により不純物濃度を下げてから本発明による水処理方法に付すほうが効率的である。具体的には、本発明による水処理方法は、不純物濃度が1%以下の水に用いることが好ましく、0.1%以下の水に用いることがより好ましい。
【0041】
処理後に回収された機能粉は、再生して再利用することも可能であり。再生するためには吸着された不純物を機能粉表面から除去することが必要である。このような不純物除去を行うためには、溶媒による洗浄を用いることが好ましい。この場合に用いられる溶媒は、粒子表面の疎水性基や親水性基を破壊せず、不純物を溶解しえる溶媒、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサンおよびそれらの混合物を用いることが好ましい。また、それ以外の溶媒であっても、不純物の種類、ポリマーの種類に応じて利用が可能である。
【0042】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
実施例1
磁性体粒子(平均粒子径10μm)を準備し、その表面を洗浄して、水酸基を形成させた。具体的には、エタノール中に磁性体粒子を添加し、室温で攪拌した後、5,000rpmで3分間遠心分離を行って上澄みを除去した後、さらに超純水で同様に3回洗浄を行った。その後、100℃で30分乾燥させ、完全に水分を除去した。
【0044】
次に精製された磁性体粒子に、3−アミノプロピルトリエトキシシランを反応させた。すなわち、洗浄された磁性体粒子3gに3−アミノプロピルトリエトキシシランを磁性体粒子の表面の半分を被覆する量添加し、室温で10時間反応させた。反応後、未反応3−アミノプロピルトリエトキシシランをエタノールで3回、超純水を用いて3回洗浄した。
【0045】
IR測定装置を用いて、表面処理された磁性体粒子の観察を行った。用いた測定方法はAttenuated Total Refraction法(ATR法)である。Si−O(800〜1100cm−1)、O−H (3500〜3900cm−1)のピークが観察された。
【0046】
さらに表面処理後の磁性体粒子のIRを測定したところ、3−アミノプロピルトリエトキシシラン由来のC−H(2982〜2822cm−1)のピークが観察されたことから、磁気微粒子表面にシリル基を介してアミノ基が導入されたことを確認した。
【0047】
得られた表面処理後の磁性体粒子を無水のテトラヒドロフラン(THF)中に分散させ、これに大過剰のオクタン酸を加え、2時間攪拌した。反応後、未反応オクタン酸をTHFと超純水を用いてそれぞれ3回洗浄して、粒子の表面にカップリング剤を介してカルボン酸塩が結合した粒子を得た。更に親水基としてポリエチレングリコールを選択し、カルボン酸を介して被覆を行って、機能粉を得た。得られた機能粉のM/Nは0.5であった。
【0048】
得られた機能性微粒子の平均粒子径は、X線回折測定、透過型電子顕微鏡(TEM)測定のいずれにおいても10μmと決定でき、また表面修飾したことで粒子の形状になんら影響のないことが確認された。
【0049】
水20ml、油70μlを含む50mlの比色管に得られた機能粉0.1gを加え、1分間振とうさせて油を機能粉に吸着させた。この試料の600nmの光透過率を測定して、水に対する分散性を評価した。光透過率は10%であり、機能粉は均一に分散していることがわかった。
【0050】
比色管から磁石を用いて機能粉を除去し、代替フルオロカーボン溶媒H−997(商品名:堀場製作所株式会社製)を10ml加えて未吸着の油を抽出し、油分濃度計OCMA−305(商品名:堀場製作所株式会社製)で未吸着の油の濃度を測定した。その結果、未吸着の油の濃度は5ppm以下であった。
【0051】
実施例2
オクタン酸をデカン酸に変更した以外は実施例1と同様にして機能粉を合成し、同様の方法で評価した。
【0052】
実施例3
オクタン酸をテトラデカン酸に変更した以外は実施例1と同様にして機能粉を合成し、同様の方法で評価した。
【0053】
実施例4
オクタン酸をステアリン酸に変更した以外は実施例1と同様にして機能粉を合成し、同様の方法で評価した。
【0054】
実施例5
オクタン酸を安息香酸に変更した以外は実施例1と同様にして機能粉を合成し、同様の方法で評価した。
【0055】
実施例6
オクタン酸を2−ナフタレンカルボン酸に変更した以外は実施例1と同様にして機能粉を合成し、同様の方法で評価した。
【0056】
比較例1
オクタン酸をプロピオン酸に変更した以外は実施例1と同様にして機能粉を合成し、同様の方法で評価した。プロピオン酸は、その炭素数が3であり、本発明においては疎水性基の範囲外である。
【0057】
比較例2
オクタン酸をヘキサン酸に変更した以外は実施例1と同様にして機能粉を合成し、同様の方法で評価した。ヘキサン酸は、その炭素数が6であり、本発明においては疎水性基の範囲外である。
【0058】
比較例3
精製された磁性体粒子に、デカントリエトキシシランを反応させた。すなわち、洗浄した磁性体粒子3gに大過剰のデカントリエトキシシランを加え室温で10時間反応させた。反応後、未反応デカントリエトキシシランをエタノールで3回、超純水を用いて3回洗浄した。実施例1と同様の方法で評価した。
【0059】
得られた結果は表1に示すとおりであった。
【0060】
本発明による機能粉(炭素数が8以上のカルボン酸を用いた場合:実施例1〜4)は、油の吸着能が優れていること、分散性についても優れていたことが判明した。また、芳香族カルボン酸を用いた場合も吸着性と分散性が優れていることがわかった(実施例5および6)。
【0061】
炭素数が6個以下のカルボン酸を用いた機能粉(比較例1および2)は分散性は優れているものの、油の吸着性は不十分であった。また、官能基を持たないアルキル基で修飾した磁性体粒子(比較例3)は油の吸着性は優れているものの、分散性は劣っていた。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に疎水性基および親水性基が配置された磁性体粒子からなる機能粉であって、前記疎水性基の数をM、前記親水性基の数をNとしたとき、0.2<M/N<0.8の関係を満たすことを特徴とする機能粉。
【請求項2】
前記磁性体粒子の平均粒子径が0.1〜20μmである、請求項1に記載の機能粉。
【請求項3】
前記疎水性基が炭化水素基を有する、請求項1または2に記載の機能粉。
【請求項4】
前記親水基が、水酸基、またはカルボキシル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の機能粉。
【請求項5】
前記磁性体粒子表面をカップリング剤で表面処理した後、疎水性基を有する有機物および親水性基を有する有機物の少なくともひとつを反応させることにより得られた、請求項1〜4のいずれか1項に記載の機能粉。
【請求項6】
不純物を含んでなる水に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の機能粉を分散させ、前記機能粉の表面に前記不純物を吸着させ、吸着後の機能粉を磁力を利用して前記水から分離することを含んでなることを特徴とする、水処理方法。
【請求項7】
前記の不純物を含んでなる水が工業排水である、請求項8に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記の吸着後の樹脂複合体を、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、、およびそれらの混合物から選ばれるいずれか1種類の有機溶媒により洗浄して再生し、さらなる水処理に利用する請求項6または7に記載の水処理方法。

【公開番号】特開2010−75825(P2010−75825A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246102(P2008−246102)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】