説明

歩行車

【課題】
サドルの着脱作業をより行い易くするとともに、サドルがガタつくことなく使用者が安心して利用できる歩行車を提供する。
【解決手段】
サドル13を有する座部ユニット4は、着脱手段3によって歩行車1の前縦枠部9と上枠部10に取り付け及び取り外し可能に設けられている。着脱手段3は、座部ユニット4が取着される取付ベース15の上方に設けられ上枠部10に懸架可能な曲折部31bと、取付ベース15を前縦枠部9に固定する固定部32とを備えている。固定部32は、前縦枠部9の中途位置であって座部ユニット4方向に突出形成される雌ネジ部33と、雌ネジ部33の形成位置に対応する位置の取付ベース15に雌ネジ部33が嵌入可能に形成される嵌入孔35と、雌ネジ部33に対して螺進退可能に取付ベース15に設けられるネジ部材36とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単独歩行時に転倒可能性のある高齢者の移動や、下肢障害のある患者の歩行運動を行う歩行車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、以前に、下記特許文献1に開示されるサドル着脱昇降式歩行車を創出している。この歩行車は、昇降部17のベース15の鉤穴27をフレーム3のピン26に引掛け、ベース15下部をノブネジ28でフレーム3に固定することにより、サドルを着脱する構成である(例えば、図4参照)。
【特許文献1】特開2005−21327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示される歩行車においては、昇降部17の取り付けに際して、先ず小径の鉤穴27をピン26に挿し込んで引掛ける作業が必要であり、この作業は決して行い易いものではなかった。
【0004】
又、ピン26軸と鉤穴27との間に介在する僅かな空隙によって昇降部がガタつき、更には、ベース15上部においてはベース部15をフレーム3の前方向に押し付ける力が弱く前後方向にベース15上部がガタつき、サドルに腰を掛け歩行運動等を行う使用者が不安感を感じるという問題点を有していた。
【0005】
本発明はこれらの諸問題を解決すべくなされたものであって、その目的は、サドルの着脱作業をより行い易くするとともに、サドルがガタつくことなく使用者が安心して利用できる歩行車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現する為、請求項1記載の発明は、使用者が入出可能な空間を有するとともに床面を走行可能なベース枠と、該ベース枠に使用者が腰を掛けるサドルと該サドルを上下昇降作動させる昇降機構部とからなる座部ユニットの取り付け及び取り外しを可能とする着脱手段とを有する歩行車であって、前記着脱手段は、前記昇降機構部の取付ベースにおいて前記ベース枠に懸架可能に設けられる曲折部と、前記取付ベースを前記ベース枠に固定する固定部とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、曲折部が広幅の鉤状を呈していることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、固定部が、ベース枠から昇降機構部方向へ突出して設けられる雌ネジ部と、該雌ネジ部の形成位置に対応する位置の取付ベース面に前記雌ネジ部が嵌入可能に形成される嵌入孔と、前記雌ネジ部に対して螺進退可能に取付ベースに設けられるネジ部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、座部ユニットの取り付け及び取り外しを可能とする着脱手段は、昇降機構部の取付ベースにおいてベース枠に懸架可能に設けられる曲折部と、取付ベースを歩行車のベース枠に固定する固定部とを備えるものであるから、曲折部を介して座部ユニットをベース枠の上方から懸架した後、固定部にて取付ベースをベース枠に対して固定する操作のみによって、座部ユニットの取り付け及び取り外しが極めて容易に行えることになる。
【0010】
又、座部ユニットを取り外すことによって、サドルに馴染めない人やサドル補助の必要が無い人が通常の座部ユニットを具備しない歩行車としても使用でき汎用性を向上できる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、曲折部が広幅の鉤状を呈しているから、座部ユニットをベース枠に安定に懸架でき、ガタつきを抑制することができ、サドルに腰を掛け起立動作を行う使用者が感じる不安感を軽減できる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、固定部が、ベース枠から昇降機構部方向へ突出して設けられる雌ネジ部と、雌ネジ部の形成位置に対応する位置の取付ベース面に雌ネジ部が嵌入可能に形成される嵌入孔と、雌ネジ部に対して螺進退可能に取付ベースに設けられるネジ部材を備える構成とされるから、座部ユニットの取り付けに際して、曲折部をベース枠に懸架した後、取付ベースの嵌入孔に雌ネジ部を嵌入することで、座部ユニットをベース枠に対して仮固定でき、座部ユニットが不必要に揺れ動くことなく、極めて簡易にネジ部材を雌ネジ部に進出させ座部ユニットをベース枠に本固定できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は歩行車1を示す正面図、図2は歩行車1を示す右側面図、図3は歩行車1を示す平面図、図4は歩行車1の座部ユニット4を拡大して示す右側面図、図5は歩行車1の固定部32を拡大して示す部分断面図である。
【0014】
歩行車1は、床面を走行可能なベース枠2と、ベース枠2に着脱手段3によって取り付け及び取り外し可能とされる座部ユニット4と、ベース枠2の左右にそれぞれ立設される外筒5に高さ調節自在に内筒6が内嵌挿通されてなる筒部7によって下方支持される左右一対の肘掛け41・41とを主たる構成要素としている。
【0015】
ベース枠2は、前辺8aと左辺8bと右辺8cから一体形成される平面視略U字形状の下枠部8と、前辺8aの中央部に立設され座部ユニット4が取り付けられる幅広状の前縦枠部9と、前縦枠部9上端部と左・右辺8b・8cの略中央位置にそれぞれ立設される外筒5上部とに連結固着された平面視略U字形状の上枠部10とからなる。左辺8bと右辺8cの下面であって前端寄り位置にはそれぞれ双輪キャスター11・11が、後端位置にはキャスター12・12がそれぞれ取着されている。
【0016】
外筒5に対する内筒6の高さ調節は自転車等のサドル高さ調節用部品として用いられる既知のクイックレバー39を操作して行う。図2中、実線で示すクイックレバー39を左廻り方向に回転操作し、一点鎖線で示す位置にレバー39が至ると、外筒5に対する内筒6の固定が解除され内筒6が移動自在となる。この状態で内筒6を押し上げ又は押し下げすることで肘掛け41の高さ調節を行う。レバー39を初期位置(実線で示すレバー39位置)に戻し操作すると内筒6が外筒5に対して固定され移動不自在となる。尚、このクイックレバー39の操作は非力な女性の患者であっても容易且つ確実に行えるように配慮がなされている。
【0017】
それぞれの内筒6上端部には左・右辺8b・8cと同方向に延在するとともに内筒6に対して略直交状にパイプ材でなる肘掛けフレーム40が固着され、肘掛けフレーム40の上側外周面にそれぞれ略矩形状の肘掛け41が固着されている。又、それぞれの肘掛けフレーム40後端側には歩行時等に患者の背部を支持する略く字形状の背部サポート42の基部が内嵌され、背部サポート42先部にはゴム製のグリップ47が嵌着されている。図2に示すように肘掛けフレーム40から突出する背部サポート42の長さは複数段階に設定が行え、且つ、背部サポート42は水平位置と垂下位置のいずれかに位置変更が可能に設けられている。
【0018】
図1に示すように左右の内筒6・6上方部にはパイプ材からなる連結材43が横架されており、連結材43の左右端位置に正面視でハの字状にグリップ44・44が設けられている。連結材43は患者の胸部をサポートする機能を兼ねている。
【0019】
図4に示すように座部ユニット4は、使用者が腰を掛ける平面視略三角フラスコ形状のサドル13と、サドル13を上下に昇降作動させる昇降機構部14とから構成される。昇降機構部14は、平面視略コ字形状の取付ベース15の左右側面部15b上方部に一端が横軸16・16にてそれぞれ軸着されるとともにサドル13が取り付けられるサドル取付部材18前端部に他端が横軸17・17にてそれぞれ軸着され互いに平行配置される上リンク片19・下リンク片20からなる四節平行リンク21と、シリンダ部22a下方部が左右側面部15bの下方に横軸23にて軸着されるとともにロッド部22b上端部がサドル取付部材18の下方部にブラケット25を介して横軸24にて軸着されるロック機構付きのガススプリング22とから構成される。
【0020】
ガススプリング22はシリンダ部22aに対してロッド部22bを伸縮させることによって、四節平行リンク21の昇降作動、即ち、サドル13の上下昇降作動を補助するとともに、サドル13を任意の高さ位置に固定する役割を果たす部材である。
【0021】
サドル取付部材18にはガススプリング22のロック機構を解除操作し、シリンダ部22aに対してロッド部22bを伸縮可能とする操作レバー26が設けられている。操作レバー26の前端寄りの中途位置は回転軸27にてサドル取付部材18に回転可能に軸着され、前端位置は側面視略三角形状のリンク金具28の第一頂角部にピン29で枢着されている。リンク金具28は第二頂角部において回転軸30にてサドル取付部材18に回転可能に軸着され、第三頂角部においてブラケット25と横軸24で枢着されている。
【0022】
操作レバー26は該レバー26とサドル13とを同時に片手把持することによりロッド部22bのロック機構を解除操作できるようサドル13下面に近接して配置されている。操作レバー26とサドル13を同時に把持すると、リンク金具28が回転軸30を支点として回転することによって、ブラケット25を介してロッド部22bが押圧される。
【0023】
この押圧によってシリンダ部22aに対するロッド部22bのロック機構が解除され、ロッド部22bは伸縮が可能となる。この状態でサドル13を上下に昇降作動させる。サドル13は四節平行リンク21の作用によって水平状態を維持しながら昇降作動する。
【0024】
上述した座部ユニット4は、着脱手段3を介して前縦枠部9と上枠部10とに取り付け及び取り外し可能に設けられている。以下、着脱手段3の構成について図4及び図5を参照して説明する。
【0025】
着脱手段3は、取付ベース15の正面部15aに沿って当着される板部材31と、取付ベース15を前縦枠部9に固定する固定部32とから構成される。板部材31は横幅が正面部15aの横幅より広幅状に形成されるとともに縦幅が正面部15aの縦幅と略同等とされる起立部31aと、起立部31a上方部に一体形成される曲折部31bとを有している。
【0026】
曲折部31bは起立部31aの横幅より若干広幅の鉤状を呈しており、上枠部10の前辺10aに懸架可能に形成されている。この広幅形状の曲折部31bによって取付ベース15上方部が安定に上枠部10に懸架できることになる。
【0027】
固定部32は、板部材31と対向する側(昇降機構部14側)であって前縦枠部9の中途位置に突出形成される雌ネジ部33(ボス34)と、雌ネジ部33の形成位置に対応する位置の取付ベース15の正面部15bに雌ネジ部33が嵌入可能に形成される嵌入孔35と、雌ネジ部33に対して螺進退可能に取付ベース15に設けられるネジ部材36とから構成される。
【0028】
図5に示すように取付ベース15の左右側面部15a両端面には抜け止め板37が固着されている。抜け止め板37にはネジ部材36の芯部36aが挿通可能な挿通孔46が刻設され、挿通孔46を挿通した芯部36a先部が雌ネジ部33に螺進退可能に配置されている。図5中、38はナット、39はカラーで、これらの部材は、芯部36aが挿通孔46から抜け出るのを防止する機能を果たしている。図5中、48は座金、45は前縦枠部9に当着される板部材である。
【0029】
次に、上述した歩行車1の使用方法について説明をする。ベース枠2から座部ユニット4が取り外されており、使用に際して取り付ける必要性がある場合は以下の手順により座部ユニット4の取り付け作業を行う。
【0030】
まず、取付ベース15の曲折部31bを上枠部10の前辺10aに懸架し、前縦枠部9に形成される雌ネジ部33を取付ベース15の嵌入孔35に嵌まるよう取付ベース15の位置を微調整する。ネジ部材36を回転させ芯部36aを雌ネジ部33に螺合させ、取付ベース15をベース枠2に固定する。
【0031】
サドル13と操作レバー26を同時に把持し、シリンダ部22aに対するロッド部22bのロック機構を解除し、サドル13を四節平行リンク21を介して下限位置(図2中、一点鎖線で示す座部ユニット4の位置)にまで下降作動させる。操作レバー26から手を離すとロッド部22bのロック機構は自動的に有効となり、サドル13は下限位置にて固定される。
【0032】
歩行車1を不図示の他の車椅子に接近させ、双輪キャスター11・11をロック状態にする。水平位置にある背部サポート42・42を垂下位置に変更した状態で、患者をサドル13上に着座させる。
【0033】
再度、サドル13と操作レバー26を同時に把持し、ロッド部22bのロック機構を解除し、サドル13を適宜な高さ位置まで上昇作動させ、患者の起立動作を補助する。クイックレバー39を回転操作し、患者ごとの身長に応じた最適な高さ位置となるよう肘掛け41・41の高さを調節する。
【0034】
背部サポート42・42を垂下位置から水平位置に戻し、背部サポート42・42を患者の背中に当接する位置まで収縮させる。双輪キャスター11・11のロックを解除する。患者はグリップ44・44を把持し肘掛け41・41に肘を載置した状態で歩行運動を行う。
【0035】
歩行運動を終える場合は、操作レバー26を操作しサドル13を他の車椅子の座席シートと同程度の高さ位置にまで下降させ、患者を歩行車1から前記車椅子の座席シートへ移乗させる。
【0036】
サドル13を使用する必要性のない患者或いはサドル13に馴染めない患者等が本発明の歩行車1を利用する場合は、ベース枠2から座部ユニット4を取り外す作業を行う。まず、ネジ部材36の頭部36bを把持し、芯部36a先部が雌ネジ部33から退出する方向へネジ部材36を回転操作する。
【0037】
取付ベース15を後方へ僅かだけ引き寄せ雌ネジ部33を嵌入孔35から抜脱する。取付ベース15を持ち上げ、上枠部10に懸架状態にある曲折部31bを上枠部10から離脱する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、単独歩行時に転倒可能性のある高齢者の移動や、下肢障害のある患者の歩行運動を行う歩行車に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係る歩行車の正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る歩行車の右側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る歩行車の平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る歩行車の座部ユニットを拡大して示す右側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る歩行車の固定部を拡大して示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 歩行車
2 ベース枠
3 着脱手段
4 座部ユニット
13 サドル
14 昇降機構部
15 取付ベース
31 板部材
31a起立部
31b曲折部
32 固定部
33 雌ネジ部
35 嵌入孔
36 ネジ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が入出可能な空間を有するとともに床面を走行可能なベース枠と、該ベース枠に使用者が腰を掛けるサドルと該サドルを上下昇降作動させる昇降機構部とからなる座部ユニットの取り付け及び取り外しを可能とする着脱手段とを有する歩行車であって、前記着脱手段は、前記昇降機構部の取付ベースにおいて前記ベース枠に懸架可能に設けられる曲折部と、前記取付ベースを前記ベース枠に固定する固定部とを備えることを特徴とする歩行車。
【請求項2】
曲折部は広幅の鉤状を呈していることを特徴とする請求項1記載の歩行車。
【請求項3】
固定部は、ベース枠から昇降機構部方向へ突出して設けられる雌ネジ部と、該雌ネジ部の形成位置に対応する位置の取付ベース面に前記雌ネジ部が嵌入可能に形成される嵌入孔と、前記雌ネジ部に対して螺進退可能に取付ベースに設けられるネジ部材を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の歩行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−98009(P2007−98009A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294901(P2005−294901)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)