説明

気体燃料計測装置及びガスタービン制御システム

【課題】コストの増加を抑えつつ、高精度な気体燃料性状の計測を実現すると共に、高精度なガスタービンの燃焼制御を実現する。
【解決手段】気体燃料の性状を計測する気体燃料計測装置であって、前記気体燃料の発熱量、比重及び特定成分濃度を計測し、一定周期で各計測値を出力するガスクロマトグラフと、前記気体燃料の特定成分濃度を計測し、前記ガスクロマトグラフよりも短い周期で計測値を出力する濃度計と、前記ガスクロマトグラフから得られた前記特定成分濃度の計測値と、同時期に前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値とに基づいて、同時期に前記ガスクロマトグラフから得られた前記発熱量及び前記比重の計測値を補正する補正演算装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体燃料計測装置及びガスタービン制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、燃料ガスと空気との予混合気を希薄な状態で燃焼させることにより、Nox排出量の削減を実現可能なDLE(Dry Low Emission)燃焼方式を採用したガスタービンが主流となっている。このようなDLE燃焼方式(予混合燃焼方式ともいう)のガスタービンは、燃焼器での燃焼振動や失火等の発生を回避するために、極めて高精度な燃料性状の計測及びその計測値に基づく燃焼制御が要求される。
【0003】
従来では、燃料性状として、燃料ガスの低位発熱量(LHV:Lower Heating Value)と、燃料ガスの空気に対する比重(SG:Specific Gravity)とをガスクロマトグラフを用いて高精度に計測し、それらの計測値から算出したウォッベ指数(WI:Wobbe Index)に基づいて燃料ガスの流量制御を行っていた(下記特許文献1参照)。なお、ウォッベ指数WIは、低位発熱量LHVを比重SGの平方根で除算することで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−291845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
周知のように、ガスクロマトグラフは、カラムを通して被計測ガスに含まれる各成分を分離した上で各成分の計量を行うという原理上、被計測ガスのサンプリングから計測値の出力までに5分から10分程度の時間を要するという特徴がある。従って、ガスクロマトグラフから5分ないし10分周期で得られる個々の計測値は十分に精度の高いものであるが、被計測ガス、つまり燃料ガスの性状が変動すると、その性状変動に計測値が追従しきれずに時間遅れ(応答遅れ)による誤差が発生し、高精度な燃焼制御が困難となる。
【0006】
このようなガスクロマトグラフの欠点を補うために、燃料ガス(例えば天然ガス)に含まれる炭化水素のSG−LHV特性がほぼ線形関数で表されることを利用し、密度計を用いて燃料ガスの密度(比重SG)を計測し、その計測値と予め求めておいたSG−LHV特性から低位発熱量LHVを推定する手法が挙げられる。
この手法は、炭化水素の混合比が変動しても、SGとLHVの関係が線形関数上で移動するのみであるので、比較的性状が安定しているLNGの気化によって得られた天然ガスを用いる場合には適用できるが、ガス田から直接引き込まれた天然ガスのようにCOやN等の不活性成分が多く含まれている場合には、SGとLHVの関係が線形関数から外れることになり、LHVの推定が困難になるという問題がある。
【0007】
この他、燃焼式カロリーメータを使用して燃料ガスの一部をサンプリングして燃焼させてカロリー(LHV)を計測する手法も考えられるが、計測装置が大掛かりとなり、コストの増加を招くという問題がある。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、以下の2点を目的とする。
(1)コストの増加を抑えつつ、高精度な気体燃料性状の計測を実現する。
(2)高精度なガスタービンの燃焼制御を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、気体燃料計測装置に係る第1の解決手段として、気体燃料の性状を計測する気体燃料計測装置であって、前記気体燃料の発熱量、比重及び特定成分濃度を計測し、一定周期で各計測値を出力するガスクロマトグラフと、前記気体燃料の特定成分濃度を計測し、前記ガスクロマトグラフよりも短い周期で計測値を出力する濃度計と、前記ガスクロマトグラフから得られた前記特定成分濃度の計測値と、同時期に前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値とに基づいて、同時期に前記ガスクロマトグラフから得られた前記発熱量及び前記比重の計測値を補正する補正演算装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、気体燃料計測装置に係る第2の解決手段として、気体燃料の性状を計測する気体燃料計測装置であって、前記気体燃料の発熱量及び特定成分濃度を計測し、一定周期で各計測値を出力するガスクロマトグラフと、前記気体燃料の特定成分濃度を計測し、前記ガスクロマトグラフよりも短い周期で計測値を出力する濃度計と、前記気体燃料の比重を計測し、前記ガスクロマトグラフよりも短い周期で計測値を出力する比重計と、前記ガスクロマトグラフから得られた前記特定成分濃度の計測値と、同時期に前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値とに基づいて、同時期に前記ガスクロマトグラフから得られた前記発熱量及び前記比重計から得られた前記比重の計測値を補正する補正演算装置と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、気体燃料計測装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記補正演算装置は、前記ガスクロマトグラフから得られた前記特定成分濃度の計測値及び同時期に前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値と、予め前記ガスクロマトグラフを用いて求めておいた、前記発熱量と前記特定成分濃度との相関関係及び前記比重と前記特定成分濃度との相関関係とに基づいて、前記発熱量及び前記比重の計測値を補正することを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、気体燃料計測装置に係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記補正演算装置は、前記発熱量と前記特定成分濃度との相関関係を表す近似関数及び前記比重と前記特定成分濃度との相関関係を表す近似関数に基づいて予め作成された、前記ガスクロマトグラフ及び前記濃度計から得られる前記特定成分濃度を変数とする発熱量補正系数及び比重補正係数の演算式に対して、前記ガスクロマトグラフ及び前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値を代入することで前記発熱量補正系数及び前記比重補正係数を算出することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明では、ガスタービン制御システムに係る解決手段として、ガスタービンと、前記ガスタービンの燃焼器に接続された燃料供給ラインと、前記燃料供給ラインに介挿された燃料流量制御弁と、上記第1〜第4のいずれか一つの解決手段を有し、前記燃料供給ラインに流れる気体燃料の性状を計測する気体燃料計測装置と、前記気体燃料計測装置から得られる前記気体燃料の発熱量及び比重の計測値に基づいてウォッベ指数を算出し、前記ウォッベ指数に基づいて前記燃料流量制御弁の開度を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る気体燃料計測装置によれば、ガスクロマトグラフから得られた気体燃料の特定成分濃度の計測値と、同時期に濃度計から得られた気体燃料の特定成分濃度の計測値とに基づいて、同時期にガスクロマトグラフから得られた気体燃料の発熱量及び比重の計測値を補正するので、時間遅れによる誤差が抑制された高精度な発熱量と比重の計測値を得ることができる。ここで、濃度計としては、例えば赤外線分析計のような比較的安価な計器を利用することができる。つまり、本発明に係る気体燃料計測装置によれば、コストの増加を抑えつつ、高精度な気体燃料性状の計測を実現することができる。
【0015】
また、本発明に係るガスタービン制御システムによれば、前述の気体燃料計測装置から得られる高精度な発熱量と比重の計測値を基にウォッベ指数を算出し、このウォッベ指数に基づいて燃料流量制御弁の開度を制御するので、高精度なガスタービンの燃焼制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係るガスタービン制御システムAのブロック図である。
【図2】本実施形態における燃料ガス性状の計測原理に関する第1説明図である。
【図3】本実施形態における燃料ガス性状の計測原理に関する第2説明図である。
【図4】第2実施形態に係るガスタービン制御システムBのブロック図である。
【図5】本実施形態の変形例に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係るガスタービン制御システムAの概略構成を示すブロック図である。この図1に示すように、ガスタービン制御システムAは、ガスタービン1、燃料供給ライン2、燃料流量制御弁3、サンプリング装置4、気体燃料計測装置5及びガスタービン制御装置6から構成されている。なお、図1において、実線矢印は燃料ガスを表し、点線矢印は電気信号を表している。
【0018】
ガスタービン1は、例えば、燃料ガスと空気との予混合気を希薄な状態で燃焼させることにより、Nox排出量の削減を実現可能なDLE燃焼方式(予混合燃焼方式)を採用したガスタービンである。燃料供給ライン2は、ガスタービン1の燃焼器(図示省略)に接続された燃料ガス供給用の配管である。天然ガス等の燃料ガスは、燃料供給ライン2を介してガスタービン1の燃焼器へ供給される。なお、図1では図示を省略しているが、ガスタービン1の燃焼器には、圧縮空気を供給するための空気供給ラインも接続されている。
【0019】
燃料流量制御弁3は、燃料供給ライン2に介挿された自動調節弁であり、ガスタービン制御装置6から入力される燃料流量制御信号FCに応じて開度が制御される。つまり、燃料流量制御弁3の開度制御によって、ガスタービン1に供給される燃料ガスの流量が制御される。サンプリング装置4は、燃料供給ライン2における燃料流量制御弁3の上流側に介挿されており、燃料供給ライン2に流れる燃料ガスの一部を分岐させて(サンプリングして)気体燃料計測装置5へ導くものである。
【0020】
気体燃料計測装置5は、サンプリング装置4を介して燃料供給ライン2から導入される燃料ガスの性状を計測するものであり、ガスクロマトグラフ5a、赤外線分析計5b及び補正演算装置5cから構成されている。気体燃料計測装置5内に導入された燃料ガスは、ガスクロマトグラフ5aと赤外線分析計5bとのそれぞれに分配される。
【0021】
ガスクロマトグラフ5aは、燃料ガスの低位発熱量LHV、空気に対する比重SG及び二酸化炭素(CO)濃度を計測し、一定周期で各計測値LHV_gc、SG_gc、CO2_gcを補正演算装置5cへ出力する。前述のように、ガスクロマトグラフ5aは、カラムを通して被計測ガス(燃料ガス)に含まれる各成分を分離した上で各成分の計量を行うという原理上、高精度ではあるが、燃料ガスのサンプリングから計測値の出力までに5分から10分程度の時間を要するという特徴がある。つまり、ガスクロマトグラフ5aは、5分ないし10分周期で各計測値LHV_gc、SG_gc、CO2_gcを出力する。
【0022】
赤外線分析計5bは、非分散型赤外吸収法(ND−IR法)を利用したガス分析計であり、燃料ガスの二酸化炭素(CO)濃度を計測し、ガスクロマトグラフ5aよりも短い周期で計測値CO2_irを補正演算装置5cへ出力する。この赤外線分析計5bは、その計測原理上、ガスクロマトグラフ5aより精度の点で劣るが、ガスクロマトグラフ5aと比較してほぼ連続的と看做せるような極めて短い周期(数秒オーダー)で計測値CO2_irを出力できるという特徴がある。
【0023】
補正演算装置5cは、例えばメモリやCPU(Central Processing Unit)コア、入出力インターフェース等が一体的に組み込まれたマイクロコンピュータであり、ガスクロマトグラフ5aから得られたCO濃度の計測値CO2_gcと、同時期に赤外線分析計5bから得られたCO濃度の計測値CO2_irとに基づいて、同時期にガスクロマトグラフ5aから得られた低位発熱量LHV及び比重SGの計測値LHV_gc、SG_gcを補正し、その補正後の計測値LHV_c、SG_cをガスタービン制御装置6へ出力する。
【0024】
ガスタービン制御装置6は、気体燃料計測装置5(補正演算装置5c)から得られる燃料ガスの低位発熱量LHV及び比重SGの計測値LHV_c、SG_cに基づいてウォッベ指数WIを算出し、このウォッベ指数WIに基づいて燃料流量制御弁3の開度を制御する(燃料ガス流量を制御する)ための燃料流量制御信号FCを燃料流量制御弁3へ出力する。また、このガスタービン制御装置6は、ガスタービン1の空気供給ラインに介挿された空気流量制御弁(図示省略)の開度を制御する(空気流量を制御する)ための空気流量制御信号ACを空気流量制御弁に出力する。
【0025】
続いて、上記のように構成されたガスタービン制御システムAの動作、つまり気体燃料計測装置5による燃料ガス性状の計測動作及びガスタービン制御装置6によるガスタービン1の燃焼制御動作(燃料流量制御)について詳細に説明する。
【0026】
<燃料ガス性状の計測原理>
始めに、気体燃料計測装置5による燃料ガス性状の計測動作についての理解を容易にするために、本実施形態における燃料ガス性状の計測原理について説明する。
図2(a)に示すように、ガスクロマトグラフ5aは、5分ないし10分周期で燃料ガス性状(低位発熱量LHV及び比重SG等)の計測値LHV_gc、SG_gcを出力する。このようなガスクロマトグラフ5aから5分ないし10分周期で得られる個々の計測値は十分に精度の高いもの(真値に極めて近いもの)であるが、燃料ガス性状が短期的に変動すると、その性状変動に計測値が追従しきれずに最大2ステップ分(2周期分)の時間遅れ(応答遅れ)による誤差が発生する。
【0027】
本願発明者は、ある地域から産出される天然ガスについて、ガスクロマトグラフを用いて計測された一定期間分の性状データを検証したところ、天然ガスに含まれる不活性成分の内、特に二酸化炭素(CO)の濃度が大きく且つ濃度変動が大きい場合に、ウォッベ指数WIの算出に必要な低位発熱量LHV及び比重SGが大きく変動することを見出した。
【0028】
そこで、本願発明者は、上記一定期間分の天然ガスの性状データを使用して、CO濃度と低位発熱量LHVとの関係、及びCO濃度と比重SGとの関係を調査したところ、図3(a)に示すように、CO濃度と低位発熱量LHVとが明確な相関関係にあることを見出し、図3(b)に示すように、CO濃度と比重SGとが低位発熱量LHVほどではないが、ある程度の相関関係にあることを見出した。
【0029】
図3(a)に示すように、CO濃度と低位発熱量LHVとの相関関係は、指数関数によって高精度に近似できることがわかる(全てのデータが近似関数曲線から±1%以内の範囲に収まっている)。これは、CO濃度と低位発熱量LHVとの相関関係を予め求めておけば、燃料ガスのCO濃度計測値から低位発熱量LHVを推定可能であることを意味している。以下では、CO濃度と低位発熱量LHVとの相関関係を表す近似関数(指数関数)を下記(1)式で定義する。なお、下記(1)式において、A、Bは定数、eは自然対数の底である。
【0030】
【数1】

【0031】
また、図3(b)に示すように、CO濃度と比重SGとの相関関係は、CO濃度と低位発熱量LHVとの相関関係に比べてやや相関が低く、ほぼ平行な2つのデータ系列が存在するように見えるが、相関の高い一方のデータ系列は指数関数によって他方のデータ系列と比べて精度良く近似できることがわかる。これは、CO濃度と比重SGとの相関関係を予め求めておけば、燃料ガスのCO濃度計測値から比重SGを推定可能であることを意味している。以下では、CO濃度と比重SGとの相関関係を表す近似関数(指数関数)を下記(2)式で定義する。なお、下記(2)式において、C、Dは定数、eは自然対数の底である。
【0032】
【数2】

【0033】
ここで、CO濃度の計測手法が問題となるが、ガスクロマトグラフ5aから得られるCO濃度の計測値CO2_gcは、他の計測値LHV_gc、SG_gcと同様に最大2ステップ分の時間遅れによる誤差を含んでいる。これに対し、赤外線分析計5bは、ガスクロマトグラフ5aより精度の点で劣るが、ガスクロマトグラフ5aと比較してほぼ連続的と看做せるような極めて短い周期でCO濃度の計測値CO2_irを出力できるため、時間遅れによる誤差を無視できる(図2(b)参照)。
【0034】
つまり、ガスクロマトグラフ5aから得られるCO濃度の計測値CO2_gcは、最大2ステップ分過去の値であって現在値ではないが、赤外線分析計5bから得られるCO濃度の計測値CO2_irは現在値と看做せることができるため、同時期に得られたCO2_gcとCO2_irとの差分がなくなるように(言い換えれば、CO2_gcがCO2_irに一致するように)補正を行うことにより、時間遅れによる誤差が抑制された高精度な低位発熱量LHVと比重SGの計測値を得ることができる。
【0035】
具体的には、ガスクロマトグラフ5aから得られる低位発熱量LHVの計測値LHV_gcに含まれる時間遅れ誤差を補正するための発熱量補正係数Z_LHV_co2は、同時期にガスクロマトグラフ5a及び赤外線分析計5bから得られるCO濃度の計測値CO2_gc、CO2_irと上記(1)式とに基づいて導出された下記(3)式によって算出することができる。
【0036】
【数3】

【0037】
また、ガスクロマトグラフ5aから得られる比重SGの計測値SG_gcに含まれる時間遅れ誤差を補正するための比重補正係数Z_SG_co2は、同時期にガスクロマトグラフ5a及び赤外線分析計5bから得られるCO濃度の計測値CO2_gc、CO2_irと上記(2)式とに基づいて導出された下記(4)式によって算出することができる。
【0038】
【数4】

【0039】
従って、最終的に、時間遅れによる誤差を含まない低位発熱量LHVと比重SGの計測値(補正後の計測値LHV_c、SG_c)は、下記(5)式及び(6)式で表される。
【0040】
【数5】

【0041】
このように、予めガスクロマトグラフを用いて、燃料ガスのCO濃度と低位発熱量LHVとの相関関係及びCO濃度と比重SGとの相関関係を求めておくと共に、これらの相関関係を表す近似関数を基に発熱量補正係数Z_LHV_co2と比重補正係数Z_SG_co2の演算式を作成しておき、同時期にガスクロマトグラフ5a及び赤外線分析計5bから得られたCO濃度の計測値CO2_gc、CO2_irを上記演算式に代入することにより、同時期にガスクロマトグラフ5aから得られた低位発熱量LHVの計測値LHV_gcと比重SGの計測値SG_gcに含まれる時間遅れ誤差を補正することができる。
【0042】
なお、本願発明者の試算では、補正前の計測値LHV_gcと計測値SG_gcとを用いて算出したウォッベ指数WI(=LHV_gc/√SG_gc)は、時間遅れによる1%以上の大きな誤差が発生していたが、補正後の計測値LHV_cと計測値SG_cとを用いて算出したウォッベ指数WI(=LHV_c/√SG_c)は、時間遅れによる誤差が0.6%以下に抑えられていることが確認された。
【0043】
つまり、本実施形態における燃料ガス性状の計測原理によれば、ガスクロマトグラフ5aの欠点(高精度ではあるが燃料ガス性状が短期的に変動した場合、時間遅れによる誤差が発生する)を大幅に改善でき、時間遅れ誤差が抑制された高精度な(現在値に近い)低位発熱量LHVの計測値LHV_cと比重SGの計測値SG_cを得ることができる。
【0044】
<気体燃料計測装置5による燃料ガス性状の計測動作>
続いて、上述した燃料ガス性状の計測原理を前提として、本実施形態の気体燃料計測装置5による燃料ガス性状の計測動作について説明する。
なお、ガスタービン1の運転中(燃料ガスの供給中)において、赤外線分析計5bからは、ほぼ連続的に燃料ガスのCO濃度の計測値CO2_irが出力されるが(図2(b)参照)、ガスクロマトグラフ5aからは、5分ないし10分周期で燃料ガスの低位発熱量LHV、比重SG及びCO濃度の計測値LHV_gc、SG_gc及びCO2_gcが出力され、今回ステップでの計測値が確定するまでは前回ステップの計測値が5分ないし10分間継続して出力される(図2(a)(b)参照)。
【0045】
気体燃料計測装置5の補正演算装置5cは、ガスクロマトグラフ5aから出力される低位発熱量LHV、比重SG及びCO濃度の計測値LHV_gc、SG_gc及びCO2_gcと、赤外線分析計5bから出力されるCO濃度の計測値CO2_irとを一定のサンプリング周期でサンプリングする。このサンプリング周期は、ガスクロマトグラフ5aの計測周期(5分ないし10分)より短く、赤外線分析計5bの計測周期(数秒オーダー)より十分長く設定されている。
【0046】
従って、補正演算装置5cが、サンプリングタイミング毎にガスクロマトグラフ5aから取得した(サンプリングした)計測値LHV_gc、SG_gc及びCO2_gcは、最大2ステップ分過去の値であるが、赤外線分析計5bから取得した計測値CO2_irは現在値と看做すことができる。
【0047】
補正演算装置5cは、内部メモリに上記(3)式及び(4)式を予め記憶しており、上記のように同時期にサンプリングした各計測値の内、CO濃度の計測値CO2_gc及びCO2_irを上記(3)式及び(4)式に代入することにより、発熱量補正係数Z_LHV_co2及び比重補正係数Z_SG_co2を算出する。
【0048】
また、補正演算装置5cは、内部メモリに上記(5)式及び(6)式を予め記憶しており、上記(5)式に基づいて、同時期にサンプリングした各計測値の内、低位発熱量LHVの計測値LHV_gcに発熱量補正係数Z_LHV_co2を乗算することにより、時間遅れ誤差が補正された計測値LHV_cを算出すると共に、上記(6)式に基づいて、比重SGの計測値SG_gcに比重補正係数Z_SG_co2を乗算することにより、時間遅れ誤差が補正された計測値SG_cを算出する。
【0049】
補正演算装置5cは、上記の処理で得られた、時間遅れ誤差が補正されて現在値(真値)に極めて近い高精度な低位発熱量LHVの計測値LHV_c及び比重SGの計測値SG_cをガスタービン制御装置6へ出力する。このように、補正演算装置5cからガスタービン制御装置6へ一定のサンプリング周期で高精度な低位発熱量LHVの計測値LHV_c及び比重SGの計測値SG_cが出力されることになる。
【0050】
<ガスタービン制御装置6によるガスタービン1の燃焼制御動作>
続いて、ガスタービン制御装置6によるガスタービン1の燃焼制御動作(燃料流量制御)について説明する。
なお、上記のように、ガスタービン制御装置6には、気体燃料計測装置5(補正演算装置5c)から一定周期で高精度な低位発熱量LHVの計測値LHV_c及び比重SGの計測値SG_cが入力されることになる。
【0051】
一般的に、ガスタービン1の燃焼器への入熱量H(MJ/hr)は、低位発熱量LHV(MJ/Nm)と燃料流量Qf(Nm/h)を用いて、下記(7)式で表される。
【0052】
【数6】

【0053】
また、燃料流量Qfは、オリフィス(流量計、燃料流量制御弁3、燃料ノズルに相当)に対して、下記(8)式で表される。なお、下記(8)式において、Cは流量係数、Aはオリフィス面積(m)、ΔPはオリフィス前後差圧(Pa)、ρfは燃料密度(kg/m)、ρanは標準状態の空気密度(kg/Nm)、SGは燃料比重(空気=1.0)、Tnは標準状態の温度(K)、Tfは燃料ガス温度(K)、Pnは標準状態の圧力(Pa)、Pfは燃料ガス圧力(Pa)である。
【0054】
【数7】

【0055】
従って、流量係数C、オリフィス面積A、オリフィス前後差圧ΔP、燃料ガス温度Tf及び燃料ガス圧力Pfの計測値が得られており、さらに、下記(9)式からウォッベ指数WIを知ることで、ガスタービン1の燃焼器への入熱量Hが決定できる。或いは、目標とする入熱量が決まっており、且つ燃料流量制御弁3の流量係数、オリフィス面積の開度特性が既知であれば、燃料流量制御弁3の開度を決定することができる。
【0056】
【数8】

【0057】
つまり、ガスタービン制御装置6は、気体燃料計測装置5から一定周期で得られる低位発熱量LHVの計測値LHV_c及び比重SGの計測値SG_cを用いて、上記(9)式からウォッベ指数WIを算出し、上記制御原理に基づいてウォッベ指数WIから燃料流量制御弁3の開度を決定し、この決定した開度、つまり燃料ガス流量となるように燃料流量制御弁3を制御する(燃料流量制御信号FCを出力する)。なお、この時、ガスタービン制御装置6は、ガスタービン1の燃焼器へ供給される空気流量が一定となるように不図示の空気流量制御弁を制御する(空気流量制御信号ACを出力する)。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、気体燃料計測装置5から時間遅れ誤差が抑制された高精度な低位発熱量LHVの計測値LHV_c及び比重SGの計測値SG_cを得ることができる。ここで、時間遅れ誤差の補正に使用される赤外線分析計5bは、比較的安価な計器であるので、本実施形態によれば、コストの増加を抑えつつ、高精度な気体燃料性状の計測を実現することができる。
また、本実施形態によれば、前述の気体燃料計測装置5から得られる高精度な低位発熱量LHVの計測値LHV_c及び比重SGの計測値SG_cを基にウォッベ指数WIを算出し、このウォッベ指数WIに基づいて燃料流量制御弁3の開度を制御する(燃料流量を制御する)ので、高精度なガスタービン1の燃焼制御を実現することができる。
【0059】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
燃料ガスのCO濃度が減少すると、通常ならば比重SGが低下するが、C2やC3のような他の成分濃度が急増すると、逆に比重SGが上昇することがある。このような燃料ガスの性状変動が発生した場合、補正前の計測値SG_gcよりも補正後の計測値SG_cの方が誤差が大きくなる可能性がある。第2実施形態は、このような燃料ガスの性状変動にも対応可能なものである。
【0060】
図4は、第2実施形態に係るガスタービン制御システムBの概略構成を示すブロック図である。この図4に示すように、ガスタービン制御システムBは、比重計5dを新たに加えた気体燃料計測装置5’を備えている点で第1実施形態のガスタービン制御システムAと異なっている。ガスタービン制御システムBにおいて、気体燃料計測装置5’以外の他の構成については第1実施形態と同様であるので、以下での説明を省略する。
【0061】
サンプリング装置4を介して気体燃料計測装置5’内に導入された燃料ガスは、ガスクロマトグラフ5aと赤外線分析計5bと比重計5dとのそれぞれに分配される。この比重計5dは、燃料ガスの比重SGを計測し、ガスクロマトグラフ5aよりも短い周期で計測値SG_gcを補正演算装置5cへ出力するものである。
この比重計5dは、赤外線分析計5bと同様に、ガスクロマトグラフ5aより精度の点で劣るが、ガスクロマトグラフ5aと比較してほぼ連続的と看做せるような極めて短い周期で計測値SG_gcを出力できるという特徴がある。
なお、ガスクロマトグラフ5aからは、燃料ガスの低位発熱量LHV及びCO濃度の計測値LHV_gc、CO2_gcのみが出力される。
【0062】
補正演算装置5cは、ガスクロマトグラフ5aから出力される低位発熱量LHV及びCO濃度の計測値LHV_gc及びCO2_gcと、赤外線分析計5bから出力されるCO濃度の計測値CO2_irと、比重計5dから出力される比重SGの計測値SG_gcを一定のサンプリング周期でサンプリングする。
【0063】
補正演算装置5cが、サンプリングタイミング毎にガスクロマトグラフ5aから取得した(サンプリングした)計測値LHV_gc及びCO2_gcは、最大2ステップ分過去の値であるが、赤外線分析計5bから取得した計測値CO2_irと比重計5dから取得した計測値SG_gcは現在値と看做すことができる。
【0064】
補正演算装置5cは、第1実施形態と同様に、上記のように同時期にサンプリングした各計測値の内、CO濃度の計測値CO2_gc及びCO2_irを上記(3)式及び(4)式に代入することにより、発熱量補正係数Z_LHV_co2及び比重補正係数Z_SG_co2を算出する。
【0065】
また、補正演算装置5cは、第1実施形態と同様に、上記(5)式に基づいて、同時期にサンプリングした各計測値の内、低位発熱量LHVの計測値LHV_gcに発熱量補正係数Z_LHV_co2を乗算することにより、時間遅れ誤差が補正された計測値LHV_cを算出すると共に、上記(6)式に基づいて、比重SGの計測値SG_gcに比重補正係数Z_SG_co2を乗算することにより、時間遅れ誤差が補正された計測値SG_cを算出する。
【0066】
このような第2実施形態において、上記(6)式に代入される比重SGの計測値SG_gcは、比重計5dから得られた時間遅れ誤差の無い現在値に近い値であるので、通常ならば比重SGが低下するところを逆に上昇するような燃料ガスの性状変動が発生した場合でも、補正前の計測値SG_gcより補正後の計測値SG_cの方が誤差を低く抑えることができる。
【0067】
以上、本発明の第1及び第2実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、以下のような変形例が挙げられる。
(1)上記第1及び第2実施形態では、ウォッベ指数WIの算出に必要な発熱量として低位発熱量LHVを計測する場合を例示したが、この低位発熱量LHVに替えて、高位発熱量HHV(Higher Heating Value)を算出し、この高位発熱量HHVと比重SGとからウォッベ指数WIを算出するようにしても良い。
【0068】
(2)上記第1及び第2実施形態では、燃料ガスの特定成分濃度(CO濃度)を計測する濃度計として、赤外線分析計5dを用いる場合を例示したが、連続的と看做せるようなガスクロマトグラフ5aより短い周期で計測値を出力可能な濃度計であれば、どのような濃度計を用いても良い。また、燃料ガスの特定成分濃度として必ずしもCO濃度を計測する必要はなく、燃料ガスに含まれる成分の内、低位発熱量LHVと比重SGの変動に大きく影響する成分の濃度を計測すれば良い。
【0069】
(3)上記第1及び第2実施形態では、燃料ガスのCO濃度と低位発熱量LHVとの相関関係及びCO濃度と比重SGとの相関関係を、指数関数によって近似する場合を例示したが、これらの相関関係を他の関数によって近似しても良い。また、これらの相関関係を表すテーブルデータを用意しておき(補正演算装置5cの内部メモリに記憶しておき)、このテーブルデータを近似関数の替わりに用いても良い。
【0070】
(4)上記第1及び第2実施形態において、赤外線分析計5dのドリフトが想定される場合(真値に対するCO濃度の計測値CO2_irの誤差が大きい場合)には、図5に示すように、赤外線分析計5dからガスクロマトグラフ5aと同じサンプリングタイミングでサンプリングしたCO濃度の計測値CO2_irを保持しておき、数サンプリング後に、赤外線分析計5dからサンプリングしたCO濃度の計測値CO2_irと、保持しておいた計測値CO2_irとの差分をZ_LHV_co2及び比重補正係数Z_SG_co2の算出に用いても良い。
【符号の説明】
【0071】
A、B…ガスタービン制御システム、1…ガスタービン、2…燃料供給ライン、3…燃料流量制御弁、4…サンプリング装置、5、5’…気体燃料計測装置、6…ガスタービン制御装置、5a…ガスクロマトグラフ、5b…赤外線分析計、5c…補正演算装置、5d…比重計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料の性状を計測する気体燃料計測装置であって、
前記気体燃料の発熱量、比重及び特定成分濃度を計測し、一定周期で各計測値を出力するガスクロマトグラフと、
前記気体燃料の特定成分濃度を計測し、前記ガスクロマトグラフよりも短い周期で計測値を出力する濃度計と、
前記ガスクロマトグラフから得られた前記特定成分濃度の計測値と、同時期に前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値とに基づいて、同時期に前記ガスクロマトグラフから得られた前記発熱量及び前記比重の計測値を補正する補正演算装置と、
を備えることを特徴とする気体燃料計測装置。
【請求項2】
気体燃料の性状を計測する気体燃料計測装置であって、
前記気体燃料の発熱量及び特定成分濃度を計測し、一定周期で各計測値を出力するガスクロマトグラフと、
前記気体燃料の特定成分濃度を計測し、前記ガスクロマトグラフよりも短い周期で計測値を出力する濃度計と、
前記気体燃料の比重を計測し、前記ガスクロマトグラフよりも短い周期で計測値を出力する比重計と、
前記ガスクロマトグラフから得られた前記特定成分濃度の計測値と、同時期に前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値とに基づいて、同時期に前記ガスクロマトグラフから得られた前記発熱量及び前記比重計から得られた前記比重の計測値を補正する補正演算装置と、
を備えることを特徴とする気体燃料計測装置。
【請求項3】
前記補正演算装置は、前記ガスクロマトグラフから得られた前記特定成分濃度の計測値及び同時期に前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値と、予め前記ガスクロマトグラフを用いて求めておいた、前記発熱量と前記特定成分濃度との相関関係及び前記比重と前記特定成分濃度との相関関係とに基づいて、前記発熱量及び前記比重の計測値を補正することを特徴とする請求項1または2に記載の気体燃料計測装置。
【請求項4】
前記補正演算装置は、前記発熱量と前記特定成分濃度との相関関係を表す近似関数及び前記比重と前記特定成分濃度との相関関係を表す近似関数に基づいて予め作成された、前記ガスクロマトグラフ及び前記濃度計から得られる前記特定成分濃度を変数とする発熱量補正系数及び比重補正係数の演算式に対して、前記ガスクロマトグラフ及び前記濃度計から得られた前記特定成分濃度の計測値を代入することで前記発熱量補正系数及び前記比重補正係数を算出することを特徴とする請求項3に記載の気体燃料計測装置。
【請求項5】
ガスタービンと、
前記ガスタービンの燃焼器に接続された燃料供給ラインと、
前記燃料供給ラインに介挿された燃料流量制御弁と、
前記燃料供給ラインに流れる気体燃料の性状を計測する請求項1〜4のいずれか一項に記載の気体燃料計測装置と、
前記気体燃料計測装置から得られる前記気体燃料の発熱量及び比重の計測値に基づいてウォッベ指数を算出し、前記ウォッベ指数に基づいて前記燃料流量制御弁の開度を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とするガスタービン制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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