説明

水中のホウ素含有量を低減させて飲用に適した水を製造する方法

【課題】水中のホウ素含有量を低減させて飲用に適した水を製造する方法。
【解決手段】ホウ素含有水を逆浸透膜分離装置に通し、膜を透過して装置を出た水を、次いでホウ素元素やその化合物に対してキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通して、膜透過水中に残存するホウ素含有量を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中のホウ素含有量を低減させて飲用に適した水を製造する方法に関する。特に、本発明は、海水やかん水の淡水化処理、浄(上)水処理等、水中のホウ素含有量を低減させる方法に関する。また、本発明は、ホウ素含有量が低減された飲用に適したミネラル含有水を製造する方法にも関する。更に、本発明は、ホウ素含有量が低減され、塩等の溶質が濃縮された水及び1価イオンが濃縮された1価イオン濃縮水を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな水源の確保のために、逆浸透膜(以下、RO膜という)を用いた海水淡水化事業が進められている。また、井戸水しか無く、その水質が悪い地域では、RO膜を使用して浄化が行われている。RO膜を使用して海水等を浄化処理すれば、ホウ素等の一部のものを除き溶質の90%以上が除かれることから、ホウ素を除く水道水質管理項目の基準値あるいは指針値をほぼ満たす水質の淡水を得ることができる。
【0003】
ホウ素は、例えば海水中に約5mg/l程度(分析方法により若干異なる)含まれており、従来の海水淡水化RO膜による生産水のホウ素濃度は0.8〜1.5mg/l程度(水温、原水水質による)である。自然に存在する淡水中にも一般にホウ素は、約0〜2mg/l程度含まれる。
【0004】
ホウ素に関しては、日本の水道法の規定に基づき、平成16年4月1日施行の水質基準に関する省令において、ホウ素及びその化合物は、ホウ素の量に関して、1.0mg/l以下が示され、WHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドラインで暫定値0.5mg/l以下が示され、最も厳しい値を設定していると思われる韓国においては0.3mg/l以下さえ示されている。ホウ素の量に関する日本の水道水の水質基準の要件が、世界的に見て緩やかであり、早晩引き下げられるのは必定である。
【0005】
ホウ素除去法として、海水をRO膜に通水して、ホウ素等の溶質が除去された膜透過水を取り出し、この膜透過水を陽イオン交換樹脂層に通水して、膜透過水中に残存するホウ素をイオン交換により除去する水処理方法が提案された(例えば特許文献1を参照)。しかし、ホウ素選択性吸着イオン交換樹脂により海水から選択的にホウ酸を捕捉する場合に、イオン交換に機能する部位として外周面と細孔部とがあるが、細孔部は拡散が遅くて実質的に全官能基がイオン交換に寄与し得ないので、イオン交換樹脂全体としては有効活用率が極めて低く、且つイオン交換し得る元素の絶対量も不十分とならざるを得ない。しかも、イオン交換樹脂は、イオン性のカチオンやアニオンを捕捉するため、ホウ素以外の金属イオン等を捕捉してイオン交換性能が早く低下する。更に、従来の粒状イオン樹脂では、上述したように細孔部への拡散が遅いため、非処理液に対してかなり長時間接触させなければ十分な除去効果を得ることができず、また実質的に有効な比表面積を拡大するために粒径を余りに小さくすると、圧力損失が大きくなる等の欠点があった。
【0006】
一方、ホウ素等の金属又はそれらの化合物とのキレート形成能を有する新規な繊維が提案されている(例えば特許文献2を参照)。このキレート形成性繊維は、ホウ素等の金属元素又はそれらの化合物に対して優れた捕捉性能を有するが、他の金属イオンに対してはキレート形成能を持たない。そのため、このキレート形成性繊維単独では、海水等を脱塩処理して淡水化するのに利用することはできない。
【0007】
このように、飲料水において、ホウ素の含有量を低減させることが強く望まれている。
【0008】
また、海水等は、人間にとって必要なカリウム、カルシウム、マグネシウム等のミネラルを豊富に含む資源である。かかるミネラルを豊富に含む資源から、直接飲用に適したミネラルを豊富に含有するミネラル含有水を製造することができるならば望ましいことである。
【0009】
更に、海水等から、ホウ素の含有量が低減され、塩等の溶質が濃縮された水及び1価イオンが濃縮された1価イオン濃縮水を製造することができるならば望ましいことである。
【特許文献1】特開平10−15356号公報
【特許文献2】再表98−42910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記事情に鑑み、飲料用水において、ホウ素の含有量を簡便に低減させる方法を提供することである。本発明の目的は、また、飲用に適したミネラル含有水を製造する方法も提供することである。本発明の目的は、更に、ホウ素の含有量が低減され、塩等の溶質が濃縮された濃縮水及び1価イオンが濃縮された1価イオン濃縮水を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、海水淡水化やホウ素含有水処理において、ホウ素選択性のキレート形成性繊維を用いることにより、ホウ素の含有量を簡便に低減させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者は、海水等から塩化ナトリウムのような塩を除き、ホウ素の含有量を簡便に低減させることにより、有用なミネラルを豊富に含むミネラル含有水を直接製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。更に、本発明者は、海水等から得られる溶質が濃縮された濃縮水及び1価イオンが濃縮された1価イオン濃縮水のホウ素の含有量を簡便に低減させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして本発明によれば、以下の1〜12の発明が提供される。
1.ホウ素含有水を逆浸透膜分離装置に通し、膜を透過して装置を出た水を、次いでホウ素やその化合物に対してキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通して、膜透過水中に残存するホウ素含有量を低減させて飲用に適した水を製造する方法。
2.ホウ素含有水を、ホウ素やその化合物に対してキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通してホウ素含有量を低減させ、次いで逆浸透膜分離装置に通して膜を透過する溶質が除去された飲用に適した水と膜を透過せずに溶質が濃縮された非透過水とを製造する方法。
3.ホウ素含有水を電気透析装置に通し、1価イオンが除去された脱1価イオン化水を、次いでホウ素やその化合物に対して優れたキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通して、脱1価イオン化水中に残存するホウ素含有量を低減させて飲用に適したミネラル含有水を製造する方法。
4.ホウ素含有水を、ホウ素やその化合物に対して優れたキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通してホウ素含有量を低減させ、次いで電気透析装置に通して1価イオンが除去された飲用に適したミネラル含有水と1価イオンが濃縮された1価イオン濃縮水とを製造する方法。
5.キレート形成性繊維が、繊維にキレート官能基を化学反応で結合させたものである上記1〜4のいずれか一に記載の方法。
6.前記電気透析装置が、陽イオン膜として1価イオン選択性膜を使用する上記3又は4に記載の方法。
7.前記ホウ素含有水が海水又はかん水である上記1〜6のいずれか一に記載の方法。
8.飲用に適した水は、ホウ素含有量が1.0mg/l以下でありかつミネラルをほとんど含有しないものである上記1、2、5、7のいずれか一に記載の方法。
9.飲用に適したミネラル含有水は、ホウ素含有量が1.0mg/l以下でありかつ1価イオンが選択的に低減されたものである上記3〜7のいずれか一に記載の方法。
10.ホウ素含有量が0.5mg/l以下である上記8又は9に記載の方法。
11.ホウ素含有量が0.3mg/l以下である上記10に記載の方法。
12.前記キレート形成性繊維は、繊維の分子中にアミノ基と、炭素に結合した少なくとも2個のヒドロキシル基とを持った基を有し、ホウ素やその化合物に対したものである上記1〜11のいずれか一に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ホウ素含有水中のホウ素濃度を簡便にかつ効率的に低減させることができ、ホウ素の量に関する飲料水の水質基準の要件を、世界的に満足させることができる。また、ホウ素の含有量が低減され、かつ人間にとって必要なカリウム、カルシウム、マグネシウム等のミネラルを豊富に含む飲用に適したミネラル含有水を簡便に得ることができる。これより、飲料水とミネラル含有水とを任意の割合で配合しても、ホウ素の量に関する飲料水の水質基準の要件を、世界的に満足させることができる。更に、ホウ素の含有量が低減され、塩等の溶質が濃縮された濃縮水及び1価イオンが濃縮された1価イオン濃縮水を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第一の実施形態を図面を参照しながら説明する。図1において、海水等、ホウ素を含有する被処理水1を処理する水処理装置は、必要に応じて濾過槽等の前処理装置2と、RO膜を設けた膜分離装置3と、キレート形成性繊維充填塔4とを備えてなる。
【0015】
キレート形成性繊維充填塔4はホウ素選択性のキレート形成性繊維床5を内部に充填してなる。
【0016】
このような水処理装置で処理を行う際には、被処理水1を必要に応じて前処理装置2に導入して精密濾過等を行い、浮遊物質等が十分に除去された濾過水6を得る。この濾過水6を膜分離装置3のRO膜に供給して、濾過水6中のホウ素等の溶質を膜分離により除去する。RO膜を透過してこれらの溶質が低減された水を透過水7として得、これらの溶質がRO膜を透過しないで濃縮された水を非透過水9として得る。
【0017】
このRO膜透過水7を更にキレート形成性繊維充填塔4に導入し、キレート形成性繊維床5を通過させて、RO膜透過水7中に残存するホウ素とキレートを形成させることによりホウ素を除去し、処理水8を得る。
【0018】
このようにして得られた処理水8は、ホウ素やその他の溶質をほとんど含んでおらず、ホウ素含有量については、日本の水道水の水質基準の要件1.0mg/l以下、更にWHOの飲料水水質ガイドラインで暫定値0.5mg/l以下、なお更に韓国における水質基準0.3mg/l以下を十分に下回るか、あるいは検出限界以下であり、飲用に適した水である。
【0019】
この実施形態に従って海水淡水化処理を行う場合に、処理水8中のホウ素の目標値を、例えば0.1mg/l以下と設定し、処理水8中のホウ素濃度を連続して検出していて、処理水8中のホウ素濃度が0.1mg/lを越える際に、キレート形成性繊維床を代える。
【0020】
ホウ素を捕捉したキレート形成性繊維床の交換は、例えばキレート形成性繊維充填塔4を並列に2個以上有し、ホウ素を捕捉したキレート形成性繊維床へのRO膜透過水7の供給を停止し、別のキレート形成性繊維充填塔へのRO膜透過水7の供給を開始するのが好ましい。別のキレート形成性繊維充填塔にRO膜透過水7を供給する間に、ホウ素を捕捉したキレート形成性繊維床を充填塔から取り出して新たなキレート形成性繊維を充填塔に充填することができる。また、別のキレート形成性繊維充填塔にRO膜透過水7を供給する間に、ホウ素を捕捉したキレート形成性繊維床を、例えば塩酸や硫酸等の強酸水溶液で処理することにより、キレートを形成して捕捉されたホウ素を簡単に離脱させることができ、それにより容易に再生することができる。
【0021】
膜分離装置3において、RO膜として、例えば酢酸セルロース膜や合成高分子膜(ポリビニール系、架橋アラミド系、架橋ポリアミド系等)等を用いることができる。また、RO膜は、中空糸型、スパイラル型等、種々のものを用いることができ、モジュール形状のものを使用するのが好都合である。
【0022】
本発明において用いるキレート形成性繊維は、それ自体知られているものである。キレート形成性繊維は、繊維にキレート官能基を化学反応で結合させたものである。本発明においては、キレート形成性繊維の内、ホウ素に対して優れたキレート形成能をもつものを使用する。このようなキレート官能基の例は、例えば特許文献2に記載されており、かかるキレート官能基を化学反応で結合させたキレート形成性繊維を本発明において用いてよい。
【0023】
このようなキレート形成性繊維には、繊維の分子中にアミノ基と、2個以上のヒドロキシル基、とりわけ隣接する炭素に結合した少なくとも2個のヒドロキシル基とを持った基を有し、ホウ素やその化合物に対して優れたキレート形成能を有している繊維状のキレート捕捉材がある。
上記ホウ素やその化合物とのキレート形成能を与えるために繊維分子中に導入される好ましい基を一般式で示すと、下記一般式[1]で表わすことができる:
【化1】

[式中、Gは糖アルコール残基または多価アルコール残基、Rは水素原子、アルキル基または−G(Gは上記と同じ意味を表わし、上記Gと同一もしくは異なる基であってもよい)を表わす]。
【0024】
その中でも特に好ましいのは、前記式[1]中のGが、D−グルカミンからアミノ基を除いた残基またはジヒドロキシプロピル基であり、Rが水素または低級アルキル基である。
【0025】
これらホウ素やその化合物とのキレート形成性能(以下、類金属キレート形能と言うことがある)を与えるために繊維分子中に導入される好ましい基は、繊維分子中の反応性官能基(ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基等)等に直接結合していてもよく、あるいは架橋結合によって間接的に結合していても構わない。またベースとなる繊維としては、天然繊維、再生繊維、合成繊維のいずれも使用可能であるが、上記のようなキレート形成能を有する基を効率よく導入する上で特に好ましいのは天然繊維もしくは再生繊維である。
【0026】
このような金属キレート形成性繊維の製法は、特許文献2に記載されている。
【0027】
本発明において、ホウ素のキレート形成性繊維は、例えばキレスト(株)社よりキレストファイバーGCP、GRY、GRY−L、GRY−LW等として市販されているものを好適に用いることができる。特に、キレストファイバーGRY−LWを使用するのが好ましい。
【0028】
本発明の第一の実施形態の変形を図2に示す。この変形に従って処理を行う際には、被処理水11を必要に応じて前処理装置12に導入して精密濾過等を行い、浮遊物質等が十分に除去された濾過水16を得る。この濾過水16をキレート形成性繊維充填塔14に導入し、キレート形成性繊維床15を通過させて、水中のホウ素とキレートを形成させることによりホウ素を除去する。キレート形成性繊維充填塔14を出たホウ素含有量が低減された水17を膜分離装置13のRO膜に供給して、水17中の塩等の溶質を膜分離により除去し、RO膜を透過してこれらの溶質が低減された水を透過水18として得、これらの溶質がRO膜を透過しないで濃縮された水を非透過水19として得る。
【0029】
このようにして得られた透過水18は、ホウ素やその他の溶質をほとんど含んでおらず、ホウ素含有量については、日本の水道水の水質基準の要件1.0mg/l以下、更にWHOの飲料水水質ガイドラインで暫定値0.5mg/l以下、なお更に韓国における水質基準0.3mg/l以下を十分に下回るか、あるいは検出限界以下であり、飲用に適した水である。また、非透過水19中には、塩等の溶質が濃縮されて含有され、ホウ素はほとんど含有されていない。これより、非透過水19は、更に脱ホウ素処理を施さないで、食品や医薬・化粧品分野において有効に用いることができる。
【0030】
この第一の実施形態の変形に従って海水淡水化処理を行う場合に、キレート形成性繊維充填塔14を出た水17中のホウ素濃度を連続して検出していて、水17中のホウ素濃度がある値を越える際に、キレート形成性繊維床を代える。かかる操作は、第一の実施形態で説明したのと同様にして実施する。
【0031】
次に、本発明の第二の実施形態を図面を参照しながら説明する。図3において、海水等、ホウ素を含有する被処理水101を処理する水処理装置は、必要に応じて濾過槽等の前処理装置102と、電気透析装置103と、キレート形成性繊維充填塔104とを備えてなる。
【0032】
電気透析装置103は、イオン交換膜で仕切られた部屋からなり、イオン交換膜は、陽イオンだけを選択的に透過させる陽イオン膜と、陰イオンだけを選択的に透過させる陰イオン膜とが交互に組み付けられている。本発明において、電気透析装置103を通る海水等から、ナトリウムイオンや塩素イオン等を極力脱塩し、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の有用なミネラルは脱塩せずにできるだけ多く残るようにするのが好ましい。しかし、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の所望の金属イオンを透過させずに残留させる陽イオン膜は存在しない。そのため、陽イオン膜として1価イオン選択性膜を使用する。これにより、海水等からナトリウム、カリウム、塩素イオン等の1価イオンが選択的に除かれ、2価以上のイオンは除去されずに原水中に存在するものがほとんど残留する。
【0033】
電気透析装置103において用いるかかる1価イオン選択性膜として、例えば(株)アストム社製の品番k−192を挙げることができる。また、陰イオン交換膜(アニオン膜)としては、任意のものを使用することができるが、例えば(株)アストム社製の品番A−501を挙げることができる。
【0034】
このような水処理装置で処理を行う際には、被処理水101を必要に応じて前処理装置102に導入して精密濾過等を行い、浮遊物質等が十分に除去された濾過水106を得る。この濾過水106を電気透析装置103に供給して、濾過水106中の溶解1価イオン類をイオン交換膜を透過させ、これらの1価イオン類が低減された水を脱1価イオン化水107として得、1価イオン類が濃縮された水を濃縮水109として得る。
【0035】
この脱1価イオン化水107を更にキレート形成性繊維充填塔104に導入し、キレート形成性繊維床105を通過させて、脱1価イオン化水107中に残存するホウ素とキレートを形成させることによりホウ素を除去し、ミネラル含有水108を得る。
【0036】
電気透析装置103は、脱塩利用率(濃縮倍率)を適度に調整して脱1価イオン化水107中のミネラル分を所望の通りに調整することができる。
【0037】
また、キレート形成性繊維は、他の金属イオン、例えばMg、Ca、Zn、Na、K等の金属、あるいはその他の陰イオン、例えばフッ素、塩素、沃素等のハロゲンイオン等が共存する場合でも類金属成分と選択的にキレートを形成するという特性を有している。そのため、脱1価イオン化水107中に残存するホウ素とキレートを形成させることによりホウ素を除去し、ミネラル分を低減させずにミネラル含有水108を得ることができる。
【0038】
このようにして得られたミネラル含有水108は、1価イオンが低減されるが2価以上の金属イオン等を豊富に含有する。ミネラル含有水108は、またホウ素をほとんど含んでおらず、ホウ素含有量については、日本の水道水の水質基準の要件1.0mg/l以下、更にWHOの飲料水水質ガイドラインで暫定値0.5mg/l以下、なお更に韓国における水質基準0.3mg/l以下を十分に下回るか、あるいは検出限界以下であり、飲用に適したミネラル含有水である。
【0039】
この実施態様に従って海水からミネラル含有水を製造する場合に、ミネラル含有水108中のホウ素の目標値を、例えば0.1mg/l以下と設定し、ミネラル含有水108中のホウ素濃度を連続して検出していて、ミネラル含有水108中のホウ素濃度が0.1mg/lを越える際に、キレート形成性繊維床を代える。
【0040】
本発明の第二の実施形態の変形を図4に示す。この変形に従って処理を行う際には、被処理水201を必要に応じて前処理装置202に導入して精密濾過等を行い、浮遊物質等が十分に除去された濾過水206を得る。この濾過水206をキレート形成性繊維充填塔204に導入し、キレート形成性繊維床205を通過させて、水中のホウ素とキレートを形成させることによりホウ素を除去する。キレート形成性繊維充填塔204を出たホウ素含有量が低減された水207を電気透析装置203に供給して、水207中の溶解1価イオン類をイオン交換膜を透過させ、これらの1価イオン類が低減された水をミネラル含有水208として得、1価イオン類が濃縮された水を濃縮水209として得る。
【0041】
このようにして得られたミネラル含有水208は、1価イオンが低減されるが2価以上の金属イオン等を豊富に含有し、ホウ素をほとんど含んでおらず、ホウ素含有量については、日本の水道水の水質基準の要件1.0mg/l以下、更にWHOの飲料水水質ガイドラインで暫定値0.5mg/l以下、なお更に韓国における水質基準0.3mg/l以下を十分に下回るか、あるいは検出限界以下である。また、濃縮水209中には、塩化ナトリウム等の1価イオン類が濃縮されて含有され、ホウ素はほとんど含有されていない。これより、濃縮水209は、更に脱ホウ素処理を施さないで、食品や水産分野において有効に用いることができる。
【0042】
本発明の方法に従って海水から得られる飲用に適した水及びミネラル含有水は、共に世界的なホウ素の水質基準を満足する。これより、ミネラル含有水に飲用に適した水を混合してミネラル分の濃度の異なる水を製造する場合に、ホウ素の水質基準を気にせずに、自由な割合で配合することができる。
【0043】
更に、本発明に従って海水処理を行う場合に、海水をキレート形成性繊維充填塔に通し、キレート形成性繊維充填塔を出た水は、ホウ素が除去されるが、塩素イオン、EDTA硬度、硫酸イオン等は低減されず、キレート形成性繊維充填塔の前後で顕著な変動は認められない。これより、従来塩やニガリ等、海水をそのまま原料にして作られていた製品についても、キレート形成性繊維充填塔を出た水を原料にして作る場合には、ホウ素が除去されて安全である。
【実施例】
【0044】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
実施例1
図1に示す通りの水処理装置を使用し、海水の淡水化処理を行った。被処理水1として三浦沖海洋深層水を500L/h通水した。キレート形成性繊維床5として、キレスト(株)社より入手したキレストファイバーGRY−LW15kg(固形分)をキレート形成性繊維充填塔4としてのボンベ(直径30cm×高さ105cm)に50L充填した。空間速度(SV)は10h-1であった。
【0046】
得られた結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2
図3に示す通りの水処理装置を使用し、ミネラル含有水を製造した。電気透析装置103において、陽イオン膜(カチオン膜)として1価イオン選択性膜である(株)アストム社製のk−192を、陰イオン交換膜(アニオン膜)として(株)アストム社製のA−501を使用した。被処理水11として三浦沖海洋深層水を500L/h通水した。キレート形成性繊維床15として、キレスト(株)社より入手したキレストファイバーGRY−LW15kg(固形分)をキレート形成性繊維充填塔14としてのボンベ(直径30cm×高さ105cm)に50L充填した。空間速度(SV)は10h-1であった。
【0049】
得られた結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表中、ナトリウムは、厚生労働省告示第261号に従って分析し、硫酸イオンはイオンクロマトグラフ法に従って分析し、その他は厚生労働省告示第370号に従って分析した。また、ホウ素は、ICP法に従って分析した。海水中の有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)は、塩素イオンを多く含むため測定不可であった。海水の味は、飲用検査不可であった。
【0052】
表1から分かる通りに、処理量が91.4トンで、処理水中のホウ素濃度が0.1mg/lを越えたので運転を停止した。
【0053】
表2から、脱塩水は、ナトリウム、カリウム及び塩素イオン等の1価イオンが除去されるが、マグネシウムやカルシウム等の2価イオンは、原水とほぼ同じ濃度で残存することが分かる。また、キレート形成性繊維は、他の金属イオン、例えばMg、Ca、Zn、Na、K等の金属、あるいはその他の陰イオン、例えばフッ素、塩素、沃素等のハロゲンイオン等が共存する場合でもホウ酸と選択的にキレートを形成するという特性を有していることが分かる。
【0054】
実施例3
図2に示す装置を使用し、被処理水1として三浦沖海洋深層水を17mL/分で通水した。キレート形成性繊維床15として、キレストファイバーGRY−LW15g(固形分)をキレート形成性繊維充填塔14としてのボンベ(内径2.5cm×高さ11.5cm)に56.5mL充填した。空間速度(SV)は18.1h-1であった。
【0055】
海洋深層水の性状は、下記の通りであった:
ホウ素濃度 : 4.4mg/L(ICP発光分光分析)
EDTA硬度 : 6400mgCaCO3/L(EDTA滴定)
塩素イオン濃度 : 19000mg/L(イオンクロマトグラフィ)
硫酸イオン濃度 : 2400mg/L(イオンクロマトグラフィ)
【0056】
キレート形成性繊維充填塔14を出た水17の性状は、図5〜7に示す通りである。
図5〜7から、海洋深層水をキレート形成性繊維充填塔14に通して処理した場合に、ホウ素濃度は床容積約200まで定量下限(0.01mg/L)以下であり、キレート形成性繊維を使用して海洋深層水中のホウ素が良好に除去されることが分かる。また、塩素イオン、EDTA硬度、硫酸イオン等は低減されず、キレート形成性繊維充填塔14の前後で顕著な変動は認められない。
【0057】
これより、キレート形成性繊維充填塔14を出た水は、ホウ素が除去されて安全である。従って、従来塩やニガリ等、海水をそのまま原料にして作られていた製品についても、キレート形成性繊維充填塔14を出た水17を原料にして作る場合には、ホウ素が除去されて安全である。
【0058】
また、キレート形成性繊維充填塔14を出た水は、ホウ素濃度が低減されていることから、RO膜分離装置13を透過しない非透過水19からもホウ素が除去されることが分かる。
【0059】
上述したのと同様のことが、図4に示す装置に関しても言え、キレート形成性繊維充填塔204を出た水は、ホウ素濃度が低減されていることから、電気透析装置203の濃縮水209からもホウ素が除去されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の水中のホウ素含有量を低減させて飲用に適した水を製造する方法は、一般的に海水やかん水の淡水化処理、浄(上)水処理等、水中のホウ素含有量を低減させるのに利用することができる。また、本発明のホウ素含有量を低減させて飲用に適したミネラル含有水を製造する方法は、健康食品等の食品、バイオ、添加剤等の医薬・化粧品、栽培液・土壌改良等の農業分野を含む広い分野において原材料として利用することができる。本発明の方法において副生物として製造される非透過水は、更に脱ホウ素処理を施さないで、発酵促進剤、製塩、製菓等の食品分野や温浴・添加剤等の医薬・化粧品分野において有効に用いることができる。また、本発明の方法において副生物として製造される濃縮水は、更に脱ホウ素処理を施さないで、製塩、製菓、食肉加工等の食品や水産加工等の水産分野において有効に用いることができる。従来塩やニガリ等、海水をそのまま原料にして作られていた製品についても、キレート形成性繊維充填塔を出た水を原料にして作る場合には、ホウ素が除去されて安全である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第一の実施形態の水処理方法を実施する水処理装置の概略全体構成を示す。
【図2】本発明の第一の実施形態の変形の水処理方法を実施する水処理装置の概略全体構成を示す。
【図3】本発明の第二の実施形態の水処理方法を実施する水処理装置の概略全体構成を示す。
【図4】本発明の第二の実施形態の変形の水処理方法を実施する水処理装置の概略全体構成を示す。
【図5】図2又は図4において、充填塔14又は204をそれぞれ出た水の性状を示す。
【図6】図2又は図4において、充填塔14又は204をそれぞれ出た水の性状を示す。
【図7】図2又は図4において、充填塔14又は204をそれぞれ出た水の性状を示す。
【符号の説明】
【0062】
1 被処理水
3 RO膜分離装置
4 充填塔
5 キレート形成性繊維床
7 透過水
8 処理水
9 非透過水
11 被処理水
13 RO膜分離装置
14 充填塔
15 キレート形成性繊維床
18 透過水
19 非透過水
101 被処理水
103 電気透析装置
104 充填塔
105 キレート形成性繊維床
108 ミネラル含有水
109 濃縮水
201 被処理水
203 電気透析装置
204 充填塔
205 キレート形成性繊維床
208 ミネラル含有水
209 濃縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素含有水を逆浸透膜分離装置に通し、膜を透過して装置を出た水を、次いでホウ素やその化合物に対してキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通して、膜透過水中に残存するホウ素含有量を低減させて飲用に適した水を製造する方法。
【請求項2】
ホウ素含有水を、ホウ素やその化合物に対してキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通してホウ素含有量を低減させ、次いで逆浸透膜分離装置に通して膜を透過する溶質が除去された飲用に適した水と膜を透過せずに溶質が濃縮された非透過水とを製造する方法。
【請求項3】
ホウ素含有水を電気透析装置に通し、1価イオンが除去された脱1価イオン化水を、次いでホウ素やその化合物に対して優れたキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通して、脱1価イオン化水中に残存するホウ素含有量を低減させて飲用に適したミネラル含有水を製造する方法。
【請求項4】
ホウ素含有水を、ホウ素やその化合物に対してキレート形成能を有するキレート形成性繊維を充填した装置に通してホウ素含有量を低減させ、次いで電気透析装置に通して1価イオンが除去された飲用に適したミネラル含有水と1価イオンが濃縮された1価イオン濃縮水とを製造する方法。
【請求項5】
キレート形成性繊維が、繊維にキレート官能基を化学反応で結合させたものである請求項1〜4のいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
前記電気透析装置が、陽イオン膜として1価イオン選択性膜を使用する請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記ホウ素含有水が海水又はかん水である請求項1〜6のいずれか一に記載の方法。
【請求項8】
飲用に適した水は、ホウ素含有量が1.0mg/l以下でありかつミネラルをほとんど含有しないものである請求項1、2、5、7のいずれか一に記載の方法。
【請求項9】
飲用に適したミネラル含有水は、ホウ素含有量が1.0mg/l以下でありかつ1価イオンが選択的に低減されたものである請求項3〜7のいずれか一に記載の方法。
【請求項10】
ホウ素含有量が0.5mg/l以下である請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ホウ素含有量が0.3mg/l以下である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記キレート形成性繊維は、繊維の分子中にアミノ基と、炭素に結合した少なくとも2個のヒドロキシル基とを持った基を有し、ホウ素やその化合物に対してキレート形成能を有しているものである請求項1〜11のいずれか一に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−192422(P2006−192422A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173607(P2005−173607)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(501114280)三浦ディーエスダブリュ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】