説明

水中流出油回収船

【課題】水中の油流出源に近い領域において早期に且つ迅速に油を回収することが可能で、これにより海洋汚染などの水質汚染の拡大を阻止することが可能な手段を提供する。
【解決手段】船体2と、船体2に対し昇降可能に支持された油捕集用箱体4と、船体2に対し油捕集用箱体4を昇降させる昇降手段6と、油捕集用箱体4内の油含有水を回収する回収手段8とを備えた水中流出油回収船。油捕集用箱体4は、側壁部41と頂壁部42とを有し、底部43が開放されている。昇降手段6は、昇降駆動源と、昇降駆動源により巻き上げられ及び繰り出され且つ先端が油捕集用箱体4に接続されたロープ61とを備える。回収手段8は、吸引駆動源と、油捕集用箱体4の内部に連通するように先端が油捕集用箱体の頂壁部42に接続された吸引ホース81とを備える。水中流出油回収船は、更に、回収された油含有水から油を分離する処理手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に係るものであり、特に海底油田事故等に際して油井から海水中に流出する原油等を回収する船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底油田において事故または破壊活動により油井から海中へと大量の原油が流出すると、深刻な海洋汚染が引き起こされる。この海洋汚染の発生を抑止するには、油井からの原油流出自体をできるだけ早く止めるのがよいのであるが、海底油田の場合には、水深が深い位置からの原油流出だけに、作業は容易ではない。実際、2010年メキシコ湾原油流出事故をみても分かるように、原油流出自体を止めることは事実上不可能である。
【0003】
そこで、実際には、タンカー座礁等により海面に流出した原油の回収と同様に、海底油田事故の場合にも、海面上に到達して浮遊する原油を回収して処理することがなされている。このような流出原油の回収処理に関しては、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−311132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような海中への原油流出による海洋汚染の程度をできるだけ小さなものとするためには、できるだけ流出位置に近い領域において、できるだけ早期に且つできるだけ迅速に原油を回収することが好ましいことは、もちろんである。
【0006】
しかし、海底油田事故の場合には、原油流出位置が水深の深い位置であるため、従来、流出位置に近い領域において早期に且つ迅速に原油を回収することは事実上困難であるとされていた。
【0007】
そこで、本発明は、以上のような技術的課題に鑑みて、海水中等の水中に原油などの油の流出源(流出位置)が存在する場合において、流出源に近い領域において早期に且つ迅速に油を回収することが可能で、これにより海洋汚染などの水質汚染の拡大を阻止することが可能な手段を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以上の如き目的を達成するものとして、
船体と、該船体に対し昇降可能に支持された油捕集用箱体と、前記船体に対し前記油捕集用箱体を昇降させる昇降手段と、前記油捕集用箱体内の油含有水を回収する回収手段とを備えた水中流出油回収船であって、
前記油捕集用箱体は、側壁部と頂壁部とを有し、底部が開放されており、
前記昇降手段は、昇降駆動源と、該昇降駆動源により巻き上げられ及び繰り出され且つ先端が前記油捕集用箱体に接続されたロープとを備えており、
前記回収手段は、吸引駆動源と、前記油捕集用箱体の内部に連通するように先端が前記油捕集用箱体の頂壁部に接続された吸引ホースとを備えている、
ことを特徴とする水中流出油回収船、
が提供される。
【0009】
本発明の一態様においては、前記水中流出油回収船は、更に、回収された前記油含有水から油を分離する処理手段を備える。本発明の一態様においては、前記水中流出油回収船は、更に、回収した前記油含有水を油を分離する外部の処理手段へと送給する送給手段を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、海水中等の水中に原油などの油の流出源が存在する場合において、流出源に近い領域において早期に且つ迅速に油を回収することが可能で、これにより海洋汚染などの水質汚染の拡大を阻止することが可能な水中流出油回収船が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による水中流出油回収船の一実施形態を示す模式的斜視図である。
【図2】図1の実施形態の水中流出油回収船の使用状態を示す模式的斜視図である。
【図3】図1の実施形態の水中流出油回収船の使用状態を示す模式的斜視図である。
【図4】図1の実施形態の水中流出油回収船の使用状態を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明による水中流出油回収船の一実施形態を示す模式的斜視図であり、図2及び図3はいずれもその使用状態を示す模式的斜視図である。
【0013】
本実施形態の水中流出油回収船は、船体2と、該船体2に対し昇降可能に支持された油捕集用箱体4と、前記船体2に対し前記油捕集用箱体4を昇降させる昇降手段6と、前記油捕集用箱体4内の油含有水を回収する回収手段8とを備える。
【0014】
油捕集用箱体4は、側壁部41と頂壁部42とを有し、底部43が開放されている。油捕集用箱体4は、船体2に形成された箱体収容のためのスペース21内に適合して収容される。このスペース21は、例えば、船体2の複数のホールドのうちの1つのホールドに相当する大きさを持ち、その寸法は、例えば、船首尾方向寸法、船幅方向寸法及び高さが20m〜40mである。
【0015】
昇降手段6は、船体2上に位置する不図示の昇降駆動源(例えばウィンチ)と、該昇降駆動源により巻き上げられ及び繰り出され且つ先端が油捕集用箱体4の頂壁部42の四隅部に接続されたロープ61とを備えている。
【0016】
回収手段8は、船体2上に位置する不図示の吸引駆動源(例えば吸引ポンプ)と、油捕集用箱体4の内部に連通するように先端(下端)が油捕集用箱体4の頂壁部42に接続された吸引ホース81とを備えている。吸引ホース81は、複数設けてもよい。また、図において、符号82は予備ホースを示す。この予備ホース82は、適宜の目的で使用することができ、吸引ホースとして使用してもよいし、或いは、船体2側から油捕集用箱体4の内部へと水または気体を供給して油含有水を攪拌することで吸引ホースの詰まりを防止する目的で使用してもよい。
【0017】
図示はされていないが、本実施形態の水中流出油回収船は、更に、回収された油含有水から油を分離する処理手段を備えることができる。この処理手段は、船体2の1つのホールド内に配置することができる。また、この処理手段により分離された油を、船体2の他のホールドに貯留することができる。
【0018】
また、本実施形態の水中流出油回収船は、回収された油含有水を、油を分離する外部の処理手段へと送給する送給手段(例えば送給ポンプと送給パイプとからなるもの)を備えることができる。尚、この送給手段は、以上のような自船内の処理手段を有するか否かに拘わらず、配置することができる。従って、自船内の処理手段を有する場合において、自船での処理能力が不足する場合には、送給手段により自船以外に配置された外部の処理手段へと送給することで、対処することができる。
【0019】
以下、本実施形態の水中流出油回収船の動作につき、説明する。
【0020】
海底油田での事故発生により、図2に示されるように、油井を構成する油パイプの折損によりパイプ開口Pが形成され、ここから原油が噴出する。或いは、油パイプが抜け落ちて海底に原油噴出口が形成されることもある。このような折損パイプ開口Pまたは原油噴出口が、原油流出源となる。
【0021】
海底油田での事故発生があると、水中流出油回収船が事故現場に急派される。水中流出油回収船の油捕集用箱体4は、航行中等の平常時においては、船体2のスペース21内に適合して収容されている。
【0022】
水中流出油回収船は、事故現場に到着すると、投錨し、更に、図2に示されるように、昇降手段6の昇降駆動源によりロープ61を繰り出すことで、油捕集用箱体4を船体2から離脱させ降下させる。その際、吸引ホース81も繰り出される。油捕集用箱体4を、更に降下させ、図3に示されるように、海底に着床させ、原油流出源を覆うようにする。
【0023】
しかる後に、回収手段8の吸引駆動源(例えば吸引ポンプ)を作動させて、油捕集用箱体4の内部にある油含有水を吸引ホース81を介して回収する。回収された油含有水は、自船内の処理手段により油分離処理される。自船での処理能力が不足する場合には、送給手段により自船以外に配置された外部の処理手段へと送給して、同様な油分離処理を行うことができる。
【0024】
以上のような油回収により海洋汚染を防止しながら、被害の心配のない状態で、原油流出源を塞いで原油流出自体を止めるための対処を効率良く行うことができる。
【0025】
油含有水の回収及び処理には通常長期間を要するが、それが終了した後には、昇降手段6の昇降駆動源によりロープ61を巻き上げることで、油捕集用箱体4を船体2のスペース21内へと引き込む。その際、吸引ホース81も巻き上げられる。
【0026】
尚、図4に示されるように、折損パイプ開口Pが海底からかなり上方に位置する場合にあっても、同様に、油捕集用箱体4を適宜位置決めすることで原油流出源を覆うようにすることができ、上記と同様にして、油捕集用箱体4の内部にある油含有水を吸引ホース81を介して回収することができる。
【0027】
以上の実施形態では、油流出が海底油田の油井の破損に基づく原油流出であるが、本発明は、その他の原因による油流出例えば海底パイプラインにおける油流出等にも同様に適用することができる。また、油は、原油に限定されず、例えば重油などであってもよい。
【符号の説明】
【0028】
2 船体
21 スペース
4 油捕集用箱体
41 側壁部
42 頂壁部
43 開放底部
6 昇降手段
61 ロープ
8 回収手段
81 吸引ホース
82 予備ホース
P 折損パイプ開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、該船体に対し昇降可能に支持された油捕集用箱体と、前記船体に対し前記油捕集用箱体を昇降させる昇降手段と、前記油捕集用箱体内の油含有水を回収する回収手段とを備えた水中流出油回収船であって、
前記油捕集用箱体は、側壁部と頂壁部とを有し、底部が開放されており、
前記昇降手段は、昇降駆動源と、該昇降駆動源により巻き上げられ及び繰り出され且つ先端が前記油捕集用箱体に接続されたロープとを備えており、
前記回収手段は、吸引駆動源と、前記油捕集用箱体の内部に連通するように先端が前記油捕集用箱体の頂壁部に接続された吸引ホースとを備えている、
ことを特徴とする水中流出油回収船。
【請求項2】
前記水中流出油回収船は、更に、回収された前記油含有水から油を分離する処理手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載の水中流出油回収船。
【請求項3】
前記水中流出油回収船は、更に、回収した前記油含有水を油を分離する外部の処理手段へと送給する送給手段を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の水中流出油回収船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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