説明

水冷ケーシングの腐食防止構造

【課題】ケーシングを水冷手段により高温雰囲気から保護するとともにガス中の腐食成分による露点腐食を防止し、ケーシングの寿命を向上させることができる水冷ケーシングの腐食防止構造を提供する。
【解決手段】高温腐食性ガスが通流若しくは滞留する空間2を形成するケーシング本体3を備え、前記ケーシング本体3内の熱源からの輻射熱と対面する側に水冷ジャケット4が配設された水冷ケーシング1の腐食防止構造において、前記水冷ジャケット4が配設されたケーシング内面に対して、微小隙間11を介して金属製の結露防止板5が配設され、該結露防止板5は水冷ジャケット4から外れた位置でケーシング本体3に支持されるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の腐食性ガスが通流又は滞留するケーシングにおいて、該ケーシングを高温腐食性ガスの熱から保護するために壁面に水冷手段を備え この水冷により腐食性ガスが冷却されてケーシングが露点腐食することを防止可能な水冷ケーシングの腐食防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温ガスが通流又は滞留するダクトや煙道、配管、炉体等のケーシングにおいては、該ケーシングを高温ガスの熱から保護するために、ケーシング壁面の少なくとも一部に水冷手段を備えた構造が多く採用されている。
しかし、例えば溶融排ガス、焼却排ガス、或いはメッキ処理等の化学工場から排出される工場排ガス、製鉄工場からの工場排ガスなどのように、塩化水素、塩素、硫黄酸化物等の腐食性分を含む高温腐食性ガスにおいては、水冷手段で露点以下まで冷却されることにより結露してしまい、腐食成分が壁面に付着してケーシングを腐食、損傷することがあった。
【0003】
ここで、一例として、図7に灰溶融設備が備える水冷ケーシングの構造を示す。同図に示されるように、溶融炉50内には、灰が溶融されて生成した溶融スラグ60と溶融メタル61が溜まっており、該溶融スラグ60はオーバーフローして出滓部58から排出される。排出された溶融スラグ60は、スラグコンベア20上に落下し搬送される。このスラグコンベア20は水冷ケーシング1で囲繞されている。該ケーシング1内には溶融スラグ60とともに排ガスも排出され、該排ガスはケーシング1から排ガスダクト65に送給され、後段の排ガス処理設備に送られるようになっている。
【0004】
前記溶融炉50の出滓部58では、溶融スラグ60が1200℃以上の高温で排出されるとともに、排ガスも950℃以上の高温で排出されるため、ケーシング本体3を熱から保護するために、該ケーシング1に水冷ジャケット4等の水冷手段を設けている。該水冷ジャケット4は、溶融排ガスと溶融スラグ60からの輻射熱により最も高温になるケーシング1上面に設けられる。しかしながら、このようなケーシングにおいて、ガス中に腐食成分が含まれている場合には、冷却手段近傍が冷却されることによりガスが露点以下まで温度低下し、結露が生じて腐食成分がケーシング壁面に付着し、ケーシングが腐食、損傷してしまう。露点には、水露点、塩酸露点、酸露点(硫酸露点)が存在するが、中でも酸露点が最も温度が高く、腐食性ガス中に硫黄酸化物を多く含む場合には特に結露が生じやすい。
【0005】
このような露点腐食を防止する構成として、特許文献1(特開平10−339425号公報)には、ダクト本体の内面に補強リブを介してライニング材を施工し、ダクト内を流れる排ガス中の硫酸の結露によるダクト本体の腐食を防止するようにした構成が開示されている。さらに、ダクト本体の外周面全体を保温材で囲繞して、ダクト内面温度の低下を防止するようにしている。
また、特許文献2(特開平9−250737号公報)には、高温腐食性ガスの煙道部に配設されたマンホールやダンパの開閉板の露点腐食を防止するために、開閉板に電熱ヒータを内蔵し、結露温度以上に加熱するようにした構成が開示されている。
さらにまた、水冷ジャケットを備えた構成として、特許文献3(特開2005−241211号公報)には、電気炉からの排ガスが通流する配管ダクトにおいて、該配管ダクトが二重構造の水冷ジャケット式となっており、運転停止時の結露によるダクト内腐食を低減するために、ジャケット内に温水を供給するようにした構成が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−339425号公報
【特許文献2】特開平9−250737号公報
【特許文献3】特開2005−241211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、従来より露点腐食を防止するために様々な方法が提案、実用化されている。特許文献1に記載される構成では、ライニング材による腐食成分の付着防止と、保温材によるダクト温度低下の防止を目的としているが、これは水冷ジャケットを備えておらずダクト全体を保温する構成としており、これを高温の排ガスに適用した場合、ライニング材を介してダクト本体温度が高温となるため、耐熱性の高いケーシング材料を用いなければならず、コストが嵩むという問題があった。また、不定形のライニング材を施工する構成であるため、腐食が生じた場合にこれを交換することが困難であった。
そこで、ケーシングを高温雰囲気から保護するために、ケーシング内面に断熱材を貼設することも考えられるが、一般に断熱材は多孔質材料で形成されるため、腐食成分を孔部に保持してしまい、よりケーシングの腐食が進行する惧れがあるため、好ましくない。
【0008】
また、特許文献2に記載される構成は、温度差が大きい部位に電熱ヒータを内蔵して結露を防止する構成としているが、温度差が大きい部位が広範囲に及ぶ場合には設備コストが増大し、さらに電力消費量が増大するという問題があった。
さらに、特許文献3に記載される構成は、運転停止時における結露防止を目的としており、これに対して本発明では運転時に適用できるものを対象としているため構成が異なる。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、ケーシングを水冷手段により高温雰囲気から保護するとともにガス中の腐食成分による露点腐食を防止し、ケーシングの寿命を向上させることができる水冷ケーシングの腐食防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、高温腐食性ガスが通流若しくは滞留する空間を形成するケーシングを備え、前記ケーシング内の熱源からの輻射熱と対面する側に水冷手段が配設された水冷ケーシングの腐食防止構造において、
前記水冷手段が配設されたケーシング面の内側に、微小隙間を介して金属製の結露防止板が配設され、該結露防止板は前記水冷手段から外れた位置で前記ケーシングに支持されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、水冷手段が配設されたケーシング面の内側に、微小隙間を介して結露防止板を配設することにより、熱源からの輻射熱によって該結露防止板が昇温し、腐食性ガスとの接触面が露点以下に温度低下することを防止できる。従って、ケーシングに腐食成分が結露して腐食、損傷することを防止し、ケーシングの寿命を向上させることが可能である。
また、水冷手段と結露防止板の間に微小隙間を設けているため伝熱が阻害され、水冷手段を結露防止板により不要に加熱してしまうことを防止できるとともに、結露防止板が水冷手段により冷却されることを防止できる。尚、水冷手段と結露防止板の間は微小隙間としているため、ある程度の熱は水冷手段の表面に伝わるようになっており、該微小隙間に入り込んだ高温腐食性ガスにより水冷手段表面が結露することを防止できる。
本発明において、前記ケーシングは、高温腐食性ガスが通流又は滞留するダクトや煙道、配管、炉本体等であり、前記熱源は、高温腐食性ガスを含み、溶融設備に適用する場合には、溶融スラグ、溶融メタル等も熱源となり得る。
【0011】
また、平板状に形成された前記結露防止板の両端部を前記ケーシングに固定し、該結露防止板を前記輻射熱による熱膨張により前記熱源側に撓ませて前記微小隙間を形成させたことを特徴とする。
このように、結露防止板の熱膨張を利用して微小隙間を形成させることにより、施工が簡単で且つ適切な間隔の微小隙間を形成することが可能となる。尚、結露防止板をケーシングと同一材料で形成した場合であっても、ケーシングと結露防止板とは温度が生じるため撓みが発生し、微小隙間を形成することができる。
【0012】
また、高温腐食性ガスが通流若しくは滞留する空間を形成するケーシングを備え、前記ケーシング内の熱源からの輻射熱と対面する側に水冷手段が配設された水冷ケーシングの腐食防止構造において、
前記水冷手段が配設されたケーシング面と前記熱源との間に金属製の結露防止板が配設され、該結露防止板と前記ケーシング内面との間の隙間にパージガスを供給するパージガス供給手段が設けられたことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、結露防止板は水冷手段と直接接しないため、該結露防止板を露点以上の温度に維持することができ、露点腐食を防止可能である。
また、水冷手段と結露防止板の間にパージガスを流すことにより、水冷手段と結露防止板の間の隙間に腐食性ガスが滞留することを防止できる。また、パージガスにより腐食性ガスの腐食成分濃度が低下するため、水冷手段の表面が露点以下であっても、腐食を防止することが可能である。
このとき、前記隙間を貫通させ、前記パージガス供給手段により供給されたパージガスが通流するように構成することが好ましい。これにより、腐食性ガスが一箇所に留まることなく常に流れていくため、隙間に面するケーシング表面の腐食をより一層防止可能である。
【0014】
さらに、前記ケーシングに対して前記結露防止板を支持する際の接触部位が、点接触若しくは線接触であることを特徴とする。
これにより、冷却手段からの冷熱が結露防止板に伝わることを最小限に抑え、結露防止板の温度を高く維持することが可能となる。
さらにまた、前記結露防止板は、前記ケーシングに対して着脱可能に支持されることを特徴とする。これにより万が一結露防止板が腐食した場合であっても、容易に交換することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上記載のごとく本発明によれば、水冷手段が配設されたケーシング面の内側に、微小隙間を介して結露防止板を配設することにより、熱源からの輻射熱によって該結露防止板が昇温し、腐食性ガスとの接触面が露点以下に温度低下することを防止できる。従って、ケーシングに腐食成分が結露して腐食、損傷することを防止し、ケーシングの寿命を向上させることが可能である。
また、水冷手段と結露防止板の間に微小隙間を設けているため伝熱が阻害され、水冷手段を結露防止板により不要に加熱してしまうことを防止できるとともに、結露防止板が水冷手段により冷却されることを防止できる。尚、水冷手段と結露防止板の間は微小隙間としているため、ある程度の熱は水冷手段の表面に伝わるようになっており、該微小隙間に入り込んだ高温腐食性ガスにより水冷手段表面が結露することを防止できる。
さらに、結露防止板の熱膨張を利用して微小隙間を形成させることにより、施工が簡単で且つ適切な間隔の微小隙間を形成することが可能となる。
【0016】
また、水冷手段が配設されたケーシング面と前記熱源との間に金属製の結露防止板が配設され、該結露防止板と前記ケーシング内面との間の隙間にパージガスを供給する構成とすることにより、結露防止板が水冷手段と直接接しないため、該結露防止板を露点以上の温度に維持することができ、露点腐食を防止可能である。また、水冷手段と結露防止板の間にパージガスを流すことにより、水冷手段と結露防止板の間の隙間に腐食性ガスが滞留することを防止できる。また、パージガスにより腐食性ガスの腐食成分濃度が低下するため、水冷手段の表面が露点以下であっても、腐食を防止することが可能である。
【0017】
さらに、ケーシングに対して結露防止板を支持する際の接触部位が、点接触若しくは線接触であることにより、冷却手段からの冷熱が結露防止板に伝わることを最小限に抑え、結露防止板の温度を高く維持することが可能となる。
さらにまた、結露防止板がケーシングに対して着脱可能に支持されることにより、万が一結露防止板が腐食した場合であっても、容易に交換することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1〜図4は、本発明の実施形態に係る腐食防止構造を備えた水冷ケーシングの断面図、図5は本発明の実施形態が適用される溶融設備を示す断面図、図6は図5のA矢視図である。
【0019】
本実施形態における水冷ケーシングの腐食防止構造は、高温腐食性ガスが通流又は滞留するダクトや煙道、配管、炉体等のケーシングを適用対象とする。具体的には、溶融排ガス、焼却排ガス、或いはメッキ処理等の化学工場から排出される工場排ガス、製鉄工場からの工場排ガスなどのように、塩化水素、塩素、硫黄酸化物等の腐食性分を含む高温腐食性ガスが発生する設備に用いられる。以下の実施形態においては、一例として灰溶融設備に適用した場合につき説明する。
【0020】
最初に、図5及び図6を参照して、灰溶融設備を説明する。この設備は、図5に示すように、灰を溶融処理する溶融炉50と、該溶融炉50から出滓部58を介して出滓される溶融スラグ60(又は溶融メタル61)を搬送するスラグコンベア20と、該スラグコンベア20のスラグ落下部位を囲繞する水冷ケーシング1と、を備える。
前記溶融炉50は、同図には一例としてプラズマ式溶融炉を示しているが、これに限定されるものではなく、他にも電気抵抗式溶融炉、バーナ式溶融炉、旋回式溶融炉、反射式溶融炉等の溶融炉全般に適用可能である。
【0021】
該溶融炉50は、炉蓋から主電極51が垂下され、これに対向して炉底から炉底電極52が挿設されている。主電極51は不図示の可動装置により昇降可能で、炉底電極52は炉本体に固定される。該溶融炉50では、これらの電極51、52間に直流電源により直流電流を通流して炉内にプラズマアークを発生させる。炉内に投入された灰は、プラズマアーク熱及び前記電極51、52間を流れる電流のジュール熱により溶融処理され、溶融スラグ60として炉底に溜まる。また溶融スラグ60の下部には比重差により溶融メタル61が形成されている。溶融後は、適宜出滓部58より排出される。出滓部58は、炉本体に設けられた出滓口と、該出滓口から排出された溶融物を流下させる出滓樋からなる。
炉本体の側壁及び蓋部の内側は不定形耐火材54で形成され、炉底には、侵食に強いアーチ状の耐火レンガ56が内側に配設され、その下に耐火レンガ55が配設される。これらの耐火物の外表面は鋼板製のケーシング53で被覆されている。尚、夫々の耐火物の配置、構造は特に上記に限定されない。
【0022】
図6に示すように前記スラグコンベア20は、空冷式若しくは水冷式が用いられるが、ここでは一例として空冷式コンベアにつき説明する。溶融炉50からオーバーフローして排出された溶融スラグ60は、出滓部58を介してスラグコンベア20上に落下する。
前記スラグコンベア20は、駆動部を備えた無端状チェーン22と、該無端状チェーン22に所定間隔で複数設けられたトレイ21とから構成される。該スラグコンベア20のトレイ21内に溜まった溶融スラグ60は、図中矢印方向に搬送されながら空冷される。
また、溶融炉50内には、灰の溶融とともに溶融メタル61が蓄積されていくが、適宜溶融炉50を傾動させることにより該溶融メタル61をスラグコンベア20に排出するようになっている。
【0023】
前記水冷ケーシング1は、出滓部58近傍のスラグコンベア20を囲繞するごとく設けられる。該水冷ケーシング1は、空間2を形成する金属製のケーシング本体3と、水冷ジャケット4と、該水冷ジャケット4に対して微小隙間11若しくは隙間を介して取り付けられた結露防止板5とから構成される。尚、ここでは水冷ジャケット4がケーシング本体3の内側に配設された構成としているが、ケーシング本体3の外側に配設してもよいし、ケーシング本体3の一面を水冷ジャケット4自体で構成してもよい。
また、該水冷ケーシング1には、排ガスダクト65が接続されており、溶融炉50から溶融スラグ60とともに排出された溶融排ガス(高温腐食性ガス)が、該水冷ケーシング1を通って前記排ガスダクト65に送られるようになっている。該排ガスダクト65は、排ガス処理設備に接続される。
前記水冷ケーシング1の少なくとも上面には、水冷ジャケット4からなる水冷手段が設けられている。該水冷手段は、図示した水冷ジャケット4以外にも、水冷配管等のように冷却水を循環させることにより冷却を行う他の構成としてもよい。また、水冷ジャケット4は、水冷ケーシング1の上面以外にも、ケーシング側面、底面に設けてもよい。以下の第1実施形態及び第2実施形態において、水冷ケーシング1の具体例につき詳細に説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本第1実施形態に係る腐食防止構造を備えた水冷ケーシングの断面図である。同図において、ケーシング本体3の上面に貼設された水冷ジャケット4は二重構造を有しており、内部に冷却水通路4aを有する。冷却水通路4aに冷却水を通流することによりケーシング本体3を冷却するようになっている。
水冷ジャケット4の露出面側には、微小隙間11を介して結露防止板5が配設されている。前記結露防止板5は、軟鋼等の金属材料で形成されている。また、該結露防止板5は、ケーシング本体3の取り付け面と略同一の形状を有する。図1に示すケーシング本体3においては、平板形状となっている。
前記結露防止板5は、水冷ジャケット4から外れた位置で、固定手段によりケーシング本体3に支持されている。固定手段としては、溶接、或いはボルト止め構造等の締結などが挙げられる。好適には、ケーシング本体3に対する結露防止板5の支持部は、点接触又は線接触していることが好ましい。
また、ケーシング本体3に対する結露防止板5の支持部において、結露防止板5の肉厚を他の部位より大とすることが好ましい。さらに好適には他の部位に比べて1.5〜2.5倍の肉厚とする。
【0025】
また、前記微小隙間11は、施工段階で予め該微小隙間11を設けて結露防止板5を取り付けてもよいし、結露防止板5の熱膨張を利用して微小隙間11が形成されるようにしてもよい。該微小隙間は、数ミリ〜数センチであることが好ましい。
結露防止板5の熱膨張を利用して微小隙間11を形成する場合、以下のように行う。
前記結露防止板5を、ケーシング本体3の取付面と略同一幅の平板5aと、該平板5aの端部がケーシング側面に沿うごとく折曲されたフランジ5bと、からなるコの字状に形成し、施工時にこれを水冷ジャケット4に密接させて取り付け、溶接部7で溶接して固定する。溶融炉運転時、ケーシング本体3内に高温の溶融排ガス(腐食性ガス)と溶融スラグ60が通流し、一方水冷ジャケット4には冷却水が通流することから、結露防止板5はケーシング本体3より大きく熱膨張し、その中心部が空間2側に撓むこととなる。この撓みにより水冷ジャケット4と結露防止板5との間に微小隙間11が形成される。
さらにまた、本実施形態のごとく、高温熱源となる溶融スラグ60が存在する場合には、該溶融スラグ60に対面する位置から外れた位置において、結露防止板5がケーシング本体3に支持されていることが好ましい。
【0026】
上記構成に示すように、水冷ジャケット4が配設されたケーシング面の内側に、微小隙間11を介して結露防止板5を配設することにより、高温の溶融排ガス及び高温の溶融スラグからの輻射熱によって該結露防止板5が昇温し、腐食性ガスとの接触面が露点以下に温度低下することを防止できる。従って、ケーシング本体3に腐食成分が結露して腐食、損傷することを防止し、ケーシング本体3の寿命を向上させることが可能である。
また、水冷ジャケット4と結露防止板5の間に微小隙間11を設けているため伝熱が阻害され、水冷ジャケット4を結露防止板5により不要に加熱してしまうことを防止できるとともに、結露防止板5が水冷ジャケット4により冷却されることを防止できる。尚、水冷ジャケット4と結露防止板5の間は微小隙間11としているため、ある程度の熱は水冷ジャケット4の表面に伝わるようになっており、該微小隙間11に入り込んだ高温腐食性ガスにより水冷ジャケット4表面が結露することを防止できる。
実際に発明者らが本実施形態を用いて腐食評価実験を行った結果、腐食速度が従来の1/10以下となった。
【0027】
また、ケーシング本体3と結露防止板5の支持部においては、水冷ジャケット4の冷熱が結露防止板5に直接伝わることにより露点を下回る可能性があるが、この部位の肉厚を他の部位より大とすることにより、露点腐食に対する耐久性を高く保つことができる。
さらに、結露防止板5を着脱可能に構成することが好ましく、これにより万が一結露防止板5が腐食した場合であっても、容易に交換することが可能となる。
【0028】
(第2実施形態)
図2は、本第2実施形態に係る腐食防止構造を備えた水冷ケーシングの断面図である。尚、本第2実施形態において、上記した第1実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
同図において、水冷ケーシング1は、金属製ケーシング本体3と、該ケーシング本体3の上面に貼設された水冷ジャケット4と、該水冷ジャケット4の露出面側に、隙間12を介して配設された結露防止板6と、前記隙間12にパージガスを供給するガス供給手段8と、を備えている。
前記結露防止板6は、水冷ジャケット4から外れた位置で、固定手段によりケーシング本体3に支持されている。ここでは、平板状の結露防止板6の端部をケーシング本体3側面に対して溶接し、この溶接部7にて結露防止板6を支持するようにしている。
前記隙間12は、上記第1実施形態の微小隙間11よりも大である。該隙間12は、数センチ〜十数センチであることが好ましい。この隙間12に、ガス供給手段8によりパージガスを供給する。パージガスは、空気、窒素等が用いられる。
【0029】
本第2実施形態によれば、結露防止板6は水冷ジャケット4と直接接しないため、該結露防止板6を露点以上の温度に維持することができ、露点腐食を防止可能である。
さらに、水冷ジャケット4と結露防止板6の間にパージガスを流すことにより、水冷ジャケット4と結露防止板6の間の隙間12に腐食性ガスが滞留することを防止できる。また、パージガスにより腐食性ガスの腐食成分濃度が低下するため、水冷ジャケット4の表面が露点以下であっても、腐食を防止することが可能である。
【0030】
さらに、図3及び図4に、上記した第2実施形態の応用例を示す。
図3に示す腐食防止構造は、平板状の結露防止板9の端部を、水冷ジャケット4から離間した側に、断面かぎ状となるように折曲させ、溶接部7でケーシング本体3の側面に溶接して固定している。即ち、結露防止板9は、水冷ジャケット4に対して隙間12を介して配置された平板9aと、該平板9aから延設される折曲部9bとからなり、これにより隙間12は断面コの字状に形成される。
水冷ジャケット4の近傍のケーシング本体3は、該水冷ジャケット4からの冷熱により温度が低くなるため、上記構成のように水冷ジャケット4から出来るだけ離間した位置で結露防止板9を支持することにより、結露防止板9の温度低下を抑制し、露点以上に維持することが可能となる。
図4に示す腐食防止構造は、平板10aと折曲部10bとから結露防止板10を構成し、夫々をボルト止め構造の締結手段15により支持する構成としている。このような締結手段15を用いることにより、取替えが容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、ケーシングを水冷手段により高温雰囲気から保護するとともにガス中の腐食成分による露点腐食を防止し、ケーシングの寿命を向上させることができるため、溶融排ガス、焼却排ガス、或いはメッキ処理等の化学工場から排出される工場排ガス、製鉄工場からの工場排ガスなどのように、塩化水素、塩素、硫黄酸化物等の腐食性分を含む高温の腐食性ガスが発生する設備に幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る腐食防止構造を備えた水冷ケーシングの断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る腐食防止構造を備えた水冷ケーシングの断面図である。
【図3】図2を応用した腐食防止構造を備えた水冷ケーシングの断面図である。
【図4】図2を応用した他の腐食防止構造を備えた水冷ケーシングの断面図である。
【図5】本発明の実施形態が適用される溶融設備を示す断面図である。
【図6】図5のA矢視図である。
【図7】従来の水冷ケーシングを備えた溶融設備の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 水冷ケーシング
2 空間
3 ケーシング本体
4 水冷ジャケット
5、6、9、10 結露防止板
7 溶接部
8 ガス供給手段
11 微小隙間
12 隙間
15 締結手段
20 スラグコンベア
21 トレイ
22 無端状ベルト
50 溶融炉
58 スラグ出滓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温腐食性ガスが通流若しくは滞留する空間を形成するケーシングを備え、前記ケーシング内の熱源からの輻射熱と対面する側に水冷手段が配設された水冷ケーシングの腐食防止構造において、
前記水冷手段が配設されたケーシング面の内側に、微小隙間を介して金属製の結露防止板が配設され、該結露防止板は前記水冷手段から外れた位置で前記ケーシングに支持されていることを特徴とする水冷ケーシングの腐食防止構造。
【請求項2】
平板状に形成された前記結露防止板の両端部を前記ケーシングに固定し、該結露防止板を前記輻射熱による熱膨張により前記熱源側に撓ませて前記微小隙間を形成させたことを特徴とする請求項1記載の水冷ケーシングの腐食防止構造。
【請求項3】
高温腐食性ガスが通流若しくは滞留する空間を形成するケーシングを備え、前記ケーシング内の熱源からの輻射熱と対面する側に水冷手段が配設された水冷ケーシングの腐食防止構造において、
前記水冷手段が配設されたケーシング面と前記熱源との間に金属製の結露防止板が配設され、該結露防止板と前記ケーシング内面との間の隙間にパージガスを供給するパージガス供給手段が設けられたことを特徴とする水冷ケーシングの腐食防止構造。
【請求項4】
前記ケーシングに対して前記結露防止板を支持する際の接触部位が、点接触若しくは線接触であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の水冷ケーシングの腐食防止構造。
【請求項5】
前記結露防止板は、前記ケーシングに対して着脱可能に支持されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の水冷ケーシングの腐食防止構造。
【請求項6】
前記隙間を貫通させ、前記パージガス供給手段により供給されたパージガスが通流するようにしたことを特徴とする請求項3記載の水冷ケーシングの腐食防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−17653(P2010−17653A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180275(P2008−180275)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】