説明

水処理用濾材、その製造方法及びこれを用いた水処理方法

【課題】原水を効率的に処理でき且つ軽量の水処理用濾材、その製造方法及びこれを用いた水処理方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る水処理用濾材の製造方法は、多孔性の有機材料担体に、まず酸化剤溶液を含浸させる第一処理工程S1と、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させるとともに、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体を前記マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる第二処理工程S2と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理用濾材、その製造方法及びこれを用いた水処理方法に関し、特に、マンガン酸化物を担持した水処理用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水等の原水が、人の飲用や工業的利用に適しない高濃度の鉄やマンガンを含有する場合、当該原水中の鉄やマンガンを除去する水処理が行われる。
【0003】
このような水処理は、例えば、二酸化マンガンを担持した砂(いわゆるマンガン砂)を濾材として用い、当該マンガン砂で原水をろ過する方法がある。また、マンガン砂に代えて二酸化マンガンを担持した多孔性担体を濾材として用いることも提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
従来、これらの濾材に二酸化マンガンを担持する方法としては、担体をまずマンガン塩水溶液に浸漬し、次いで、当該担体を過マンガン酸塩水溶液に浸漬し、その後当該担体を洗浄して乾燥させるという方法が用いられていた。この方法によれば、酸化された状態の二酸化マンガンを担持した濾材を製造することができるため、ろ過前に予め原水に添加する酸化剤の量を低減することができる。
【特許文献1】特開平02−253842号公報
【特許文献2】特開平11−128742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、原水を必ずしも効率よく処理することができていなかった。すなわち、マンガン砂を用いる場合には、ろ過抵抗が大きいため、原水をろ過する効率を高めることが難しく、また、当該マンガン砂を充填するろ過塔を大型で耐圧性の高いものとする必要があった。
【0006】
さらに、水処理に伴いマンガン砂に捕捉された鉄やマンガンの酸化物をろ過塔から排出するため、当該ろ過塔に逆方向の通水やバブリング(いわゆる逆洗)を行う場合には、当該マンガン砂が重い(見かけ密度が約1.5kg/L)ことから多量の水及び高い水圧が必要となり、設備のイニシャルコストやランニングコストが高くなる原因の一つとなっていた。また、重いマンガン砂の輸送や交換にも多大な労力やコストを要していた。
【0007】
また、従来、特に有機材料からなる多孔性の担体を用いる場合には、当該担体に担持させる二酸化マンガンの量を高めるには限界があった。また、担体に対する二酸化マンガンの付着力が低いため、いったん付着した二酸化マンガンが担体から容易に脱離してしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、原水を効率的に処理でき且つ軽量の水処理用濾材、その製造方法及びこれを用いた水処理方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の製造方法は、多孔性の有機材料担体に、まず酸化剤溶液を含浸させる第一処理工程と、次いで、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させるとともに、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体を前記マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる第二処理工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、原水を効率的に処理でき且つ軽量の水処理用濾材の製造方法を提供することができる。
【0010】
また、前記第二処理工程において、前記酸化剤溶液を保持し且つ前記マンガン塩溶液と接触した状態の前記有機材料担体を減圧下で加熱することにより乾燥させることとしてもよい。こうすれば、加熱に伴う有機材料担体の変形を効果的に回避しつつ効率よく乾燥を行うことができる。また、前記有機材料担体は、連続気泡を有する樹脂発泡体であることとしてもよい。こうすれば、原水を効率的に処理でき且つ通水性に優れた水処理用濾材を製造することができる。また、前記第二処理工程の後さらに、乾燥させた前記有機材料担体に前記酸化剤溶液を含浸させる追加第一処理工程と、次いで、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させるとともに、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体を前記マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる追加第二処理工程と、を1回又は複数回行うこととしてもよい。こうすれば、原水をより効率的に処理できる水処理用濾材を製造することができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水処理用濾材は、上記いずれかの製造方法により製造されたことを特徴とする。本発明によれば、原水を効率的に処理でき且つ軽量の水処理用濾材を提供することができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水処理用濾材は、多孔性の有機材料担体と、前記有機材料担体に担持されたマンガン酸化物と、を有し、前記有機材料担体において前記マンガン酸化物により被覆されている面積の割合が10%以上であることを特徴とする。本発明によれば、原水を効率的に処理でき且つ軽量の水処理用濾材を提供することができる。
【0013】
また、前記有機材料担体には、二酸化マンガン水和物(MnO・HO)に換算して5g/L以上の前記マンガン酸化物が担持されていることとしてもよい。こうすれば、原水をより効率的に処理できる水処理用濾材を提供することができる。また、前記有機材料担体は、連続気泡を有する樹脂発泡体であることとしてもよい。こうすれば、原水を効率的に処理でき且つ通水性に優れた水処理用濾材を提供することができる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水処理方法は、上記いずれかの水処理用濾材を用いて水を処理することを特徴とする。本発明によれば、原水を効率的に処理できる水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る水処理用濾材、その製造方法及びこれを用いた水処理方法について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0016】
まず、本実施形態に係る水処理用濾材の製造方法(以下、「本製造方法」という。)について説明する。図1は、本製造方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【0017】
図1に示すように、本製造方法は、多孔性の有機材料担体に、まず酸化剤溶液を含浸させる第一処理工程S1と、次いで当該酸化剤溶液を保持した当該有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させるとともに、当該酸化剤溶液を保持した当該有機材料担体を当該マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる第二処理工程S2と、を含む。
【0018】
第一処理工程S1では、まず多孔性の有機材料担体を準備する。この有機材料担体は、有機材料から構成され、溶液を保持できる多孔構造を有する基材であれば特に限られず、任意の種類のものを適宜選択して用いることができる。
【0019】
すなわち、その表面及び内部に、外部と連通した多数の微細な空隙が形成された有機材料担体を好ましく用いることができる。具体的に、有機材料担体は、例えば、独立気泡、半独立気泡又は連続気泡を有する樹脂発泡体とすることができ、これらのうち半独立気泡又は連続気泡を有する樹脂発泡体を好ましく用いることができる。更には、通水性の点で、連続気泡を有する樹脂発泡体をより好ましく用いることができる。
【0020】
この樹脂発泡体としては、後述する酸化剤に対する耐性に優れた樹脂の発泡体を好ましく用いることができる。すなわち、例えば、主鎖が炭素−炭素(C−C)結合から構成される樹脂の発泡体を好ましく用いることができる。発泡体を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル等のビニル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル等のニトリル系樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂及びこれらのうち2種以上の共重合体からなる群より選択される1種又は2種以上を含む樹脂を用いることができる。共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系樹脂とビニル系樹脂との共重合体や、アクリロニトリル−スチレン樹脂等のニトリル系樹脂とスチレン系樹脂との共重合体を好ましく用いることができる。より具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニルを好ましく用いることができる。また、6−ナイロンや6,6−ナイロン、ポリフタルアミド樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリエーテルエステルアミド樹脂等のポリアミド系樹脂やポリエチレンテレフタレートやポリ乳酸等のポリエステル系樹脂を用いることもできる。
【0021】
このような樹脂発泡体を用いることにより、酸化剤による有機材料担体の劣化を効果的に回避することができる。なお、例えば、ポリウレタン樹脂は酸化剤と接触した場合に劣化が生じやすい。
【0022】
また、樹脂発泡体としては、その見かけ密度が20〜70kg/mの範囲のものを用いることができ、25〜55kg/mの範囲のものを好ましく用いることができる。見かけ密度がこの範囲内である樹脂発泡体は、大きな表面積を有し、通水性に優れ、軽量なものとなる。したがって、この樹脂発泡体を用いた水処理用濾材を充填したろ過塔の逆洗を行う場合には、例えば、従来のマンガン砂に比べて少量の水と低い水圧で当該水処理用濾材を容易に分散させることができるため、当該水処理用濾材に捕捉された鉄やマンガンの酸化物を効率よく排出することができる。
【0023】
また、樹脂発泡体としては、任意の形状のものを用いることができる。すなわち、樹脂発泡体のブロックを細かくカットして得られる粒状の樹脂発泡体を用いる場合には、当該樹脂発泡体の粒状体の形状は、例えば、立方体、直方体、球体、円柱体、円錐体等、任意の形状とすることができる。この場合、樹脂発泡体粒としては、2〜20mmのサイズのものを用いることができ、2〜10mmのサイズのものを好ましくは用いることができる。また、例えば、板状に成形された樹脂発泡体を用いることもできる。
【0024】
また、有機材料担体は、例えば、有機繊維の織布や不織布等の有機繊維体とすることもできる。この有機繊維体としても、後述する酸化剤に対する耐性に優れた有機繊維から構成されるものを好ましく用いることができる。すなわち、例えば、オレフィン系繊維、ビニル系繊維、スチレン系繊維、アクリル系繊維及びこれらのうち2種以上の共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体やアクリロニトリル−スチレン樹脂)繊維からなる群より選択される1種又は2種以上を含む繊維を用いることができる。より具体的には、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、エチレン−酢酸ビニル共重合体繊維、ポリ酢酸ビニル繊維を好ましく用いることができる。また、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、セルロース系繊維を用いることもできる。
【0025】
また、有機材料担体は、後述する酸化剤溶液やマンガン塩溶液との親和性が高い表面特性を有するものを好ましく用いることができる。すなわち、例えば、上述した樹脂発泡体や有機繊維体のうち、酸化剤耐性に優れ且つ適度な親水性を有するものを好ましく用いることができる。具体的に、例えば、グリセリン脂肪酸エステル等の親水化剤を含有するマスターバッチを添加した上述の樹脂から成形した発泡体を好ましく用いることができる。
【0026】
第一処理工程S1では、このような有機材料担体に対して、最初に酸化剤溶液を含浸させる。すなわち、有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させる前に、酸化剤溶液と接触させる。具体的に、例えば、未だマンガン塩溶液と接触していない乾燥状態の有機材料担体を酸化剤溶液に浸漬する。この処理によって、有機材料担体の外部から内部にまで酸化剤溶液を浸透させ、当該有機材料担体の材料骨格表面を酸化剤で効果的に処理することができる。
【0027】
酸化剤溶液としては、酸化剤を含有するものであれば特に限られず任意の組成のものを適宜選択して用いることができる。すなわち、例えば、過マンガン酸ナトリウム溶液や過マンガン酸カリウム溶液等の過マンガン酸塩溶液、次亜塩素酸溶液、過酸化水素溶液を用いることができる。
【0028】
酸化剤溶液における酸化剤の濃度は、後述するマンガン酸化物の生成を可能とする範囲であれば特に限られず任意の値とすることができる。すなわち、例えば、過マンガン酸塩溶液における過マンガン酸塩の濃度は、10〜40g/Lの範囲とすることができる。過マンガン酸塩の濃度をこのような範囲とすることにより、後述する有機材料担体へのマンガン酸化物の担持を効果的に行うことができる。
【0029】
こうして、第一処理工程S1においては、酸化剤溶液が含浸された、すなわち、その多孔構造に酸化剤溶液を保持した有機材料担体を得ることができる。具体的に、容器内で有機材料担体に酸化剤溶液を含浸させた場合には、例えば、デカンテーション等の操作によって、当該容器から余分な酸化剤溶液を排出することにより、多孔構造に飽和量の酸化剤溶液を保持した有機材料担体を得ることができる。
【0030】
続く第二処理工程S2においては、まず、酸化剤溶液を保持した有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させる(図1の工程S2a)。すなわち、酸化剤溶液を含有する湿潤状態の有機材料担体を、乾燥させることなく、そのままマンガン塩溶液と接触させる。
【0031】
マンガン塩溶液としては、マンガン塩を含有する溶液であれば特に限られず任意の組成のものを適宜選択して用いることができる。すなわち、例えば、塩化マンガン溶液、硫酸マンガン溶液又は硝酸マンガン溶液を用いることができる。
【0032】
マンガン塩溶液におけるマンガン塩の濃度は、後述するマンガン酸化物の生成を可能とする範囲であれば特に限られず任意の値とすることができる。すなわち、有機材料担体と接触させるマンガン塩溶液に含有されるマンガン塩の量は、例えば、当該有機材料担体が保持している酸化剤溶液に含有される酸化剤の量に対し、1.5モル当量〜10モル当量の範囲内とすることができ、2モル当量〜10モル当量の範囲内とすることが好ましく、さらに2モル当量〜5モル当量とすることが好ましい。有機材料担体に接触させるマンガン塩の量をこのような範囲とすることで、後述する有機材料担体へのマンガン酸化物の担持を効果的に行うことができる。
【0033】
また、マンガン塩溶液におけるマンガン塩の濃度(例えば、塩化マンガン水溶液における塩化マンガン四水和物の濃度)は、100〜400g/Lの範囲とすることができ、好ましくは150〜300g/Lの範囲とすることができ、より好ましくは150〜250g/Lの範囲とすることができる。マンガン塩の濃度をこのような範囲とすることにより、後述する有機材料担体へのマンガン酸化物の担持を効果的に行うことができる。なお、このマンガン塩濃度は、例えば、有機材料担体の見かけ体積と使用するマンガン塩溶液の体積との関係等に応じて適宜調整することができる。
【0034】
第二処理工程S2においては、続いて、酸化剤溶液を保持し且つマンガン塩溶液と接触した状態の有機材料担体をそのまま乾燥させる(図1の工程S2b)。すなわち、有機材料担体に保持されている酸化剤溶液と、当該有機材料担体と接触しているマンガン塩溶液と、のそれぞれから徐々に水分を除去する。
【0035】
この乾燥の過程で、有機材料担体に保持されている酸化剤溶液の体積を減少させることにより、マンガン塩溶液を当該有機材料担体の内部に速やかに浸透させることができる。この結果、有機材料担体は、供給された酸化剤溶液とマンガン塩溶液とのほぼ全量を、その内部に保持することができる。しかも、こうして有機材料担体に保持された酸化剤溶液及びマンガン塩溶液は、乾燥に伴い濃縮されているため、当該有機材料担体の内部で当該酸化剤と当該マンガン塩との反応速度を高め、マンガン酸化物を効率よく生成することができる。
【0036】
また、この第二処理工程S2においては、酸化剤溶液を保持し且つマンガン塩溶液と接触した状態の有機材料担体を減圧下で加熱することにより乾燥させることもできる。すなわち、減圧乾燥下で、有機材料担体の内部におけるマンガン酸化物の生成反応を進行させる。この場合、有機材料担体を構成する有機材料の軟化点や融点より低い温度での加熱によって、当該有機材料担体に保持されている酸化剤溶液及びマンガン塩溶液の水分を効率よく蒸発させて、当該有機材料担体の内部におけるマンガン酸化物の生成反応をより効率よく進行させることができる。
【0037】
本製造方法によれば有機材料担体にマンガン酸化物が効果的に担持された水処理用濾材を製造することができる。すなわち、本製造方法によれば、有機材料担体の内部で酸化剤とマンガン塩とを効果的に反応させることにより、当該有機材料担体の材料骨格表面において、二酸化マンガンを主成分とするマンガン酸化物を効果的に形成することができる。
【0038】
より具体的に、有機材料担体において、その多孔構造に基づく大きな面積の材料骨格表面の全体に、マンガン酸化物を効果的に分散させた状態で担持させることができる。また、有機材料担体に担持するマンガン酸化物の量を効果的に高めることができる。
【0039】
さらに、有機材料担体に対するマンガン酸化物の付着力を効果的に高めることができる。すなわち、本製造方法では、上述のとおり、第一処理工程S1において、未処理の有機材料担体の材料骨格表面を、まず酸化剤で処理する。このため、続く第二処理工程S2においては、材料骨格表面で、当該材料骨格表面に強固に付着したマンガン酸化物を効率よく生成させることができる。
【0040】
図2は、本製造方法の他の例に含まれる主な工程を示す説明図である。図2に示すように、この例に係る本製造方法は、上述の例と同様の第一処理工程S1及び第二処理工程S2に加えて、追加第一処理工程S3及び追加第二処理工程S4を含む。
【0041】
すなわち、この場合、第二処理工程S2の後さらに、乾燥させた有機材料担体に酸化剤溶液を含浸させる追加第一処理工程S3と、次いで当該酸化剤溶液を保持した当該有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させるとともに、当該酸化剤溶液を保持した当該有機材料担体を当該マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる追加第二処理工程S4と、を1回又は複数回行う。
【0042】
具体的に、第一処理工程S1においては、未処理の有機材料担体に、まず酸化剤溶液を含浸させる。そして、第二処理工程S2においては、この酸化剤溶液を保持した有機材料担体をマンガン塩溶液と接触した状態で、そのまま乾燥させる。この結果、有機材料担体にマンガン酸化物を効果的に担持させることができる。
【0043】
その後、追加第一処理工程S3においては、既にマンガン酸化物が担持された、乾燥状態の有機材料担体に、再び酸化剤溶液を含浸させる。続く追加第二処理工程S4においては、酸化剤溶液が再び浸み込んだ湿潤状態の有機材料担体を、乾燥させることなく、そのままマンガン塩溶液と接触させる(図2の工程S4a)。そして、上述の第二処理工程S2と同様に、酸化剤溶液を保持し且つマンガン塩溶液と接触した状態の有機材料担体をそのまま乾燥させる(図2の工程S4b)。この結果、新たなマンガン酸化物をさらに有機材料担体に担持させることができる。
【0044】
また、必要に応じて、これら追加第一処理工程S3及び追加第二処理工程S4を複数回繰り返す(図2の工程S5)。この場合、いったん追加第二処理工程S4で乾燥させた有機材料担体に、再び酸化剤溶液を含浸させ(追加第一処理工程S3)、次いで当該酸化剤溶液を保持した有機材料担体を再びマンガン塩溶液と接触させた状態でそのまま乾燥させる(追加第二処理工程S4)。
【0045】
このように、追加第一処理工程S3及び追加第二処理工程S4を含む追加処理を行うことにより、有機材料担体に担持するマンガン酸化物の量をより増加させることができる。また、追加処理の繰り返し回数を増加させることによって、有機材料担体に担持されるマンガン酸化物の量をさらに増加させることができる。すなわち、追加処理を繰り返す回数によって、有機材料担体に担持するマンガン酸化物の量を制御することができる。
【0046】
図3及び図4は、本製造方法を実施する具体的な態様の一例についての説明図である。なお、ここでは、有機材料担体として粒状の樹脂発泡体10を用いる場合について説明する。図3及び図4に示す例では、第一処理工程S1を図3Aに示す容器20内で実行し、第二処理工程S2を図3Bに示す容器30内で実行する。
【0047】
すなわち、第一処理工程S1においては、未だマンガン塩溶液と接触していない樹脂発泡体10を、所定の容器20内で酸化剤溶液L1に浸漬する。ここで、樹脂発泡体10の孔径や空隙が小さい場合や、当該樹脂発泡体10が親水性に乏しい場合等、酸化剤溶液L1を当該樹脂発泡体10の内部に含浸させにくい場合には、所定のポンプ等を用いて容器20内を減圧し脱気することとしてもよい。こうすれば、樹脂発泡体10の内部に保持されている気体を速やかに酸化剤溶液L1に置換して、当該樹脂発泡体10に当該酸化剤溶液L1を効率よく含浸させることができる。
【0048】
次いで、この酸化剤溶液L1を保持した樹脂発泡体10を、回転可能であり、且つ密閉可能な容器30に移す。すなわち、例えば、まず、デカンテーション等の操作により、図3Aに示す容器20から、樹脂発泡体10が保持しきれない余剰の酸化剤溶液L1を排出する。次いで、容器20に残った、飽和量の酸化剤溶液L1を保持した樹脂発泡体10をそのまま図3Bに示す容器30に移す。
【0049】
そして、この容器30内において第二処理工程S2を実行する。すなわち、まず、図4Aに示すように、酸化剤溶液を保持した樹脂発泡体10を容器30に入れるとともに、当該容器30の減圧、加熱及び回転を開始する。
【0050】
具体的に、容器30の減圧は、当該容器30の吸引口部31に接続されたポンプ等の不図示の減圧手段により行う。容器30の加熱は、ヒータ等の不図示の加熱手段により行う。容器30の回転は、ロータ等の不図示の回転手段により行う。この容器30の回転によって、樹脂発泡体10を構成する多数の粒状体を効率よく撹拌することができる。なお、図3B及び図4に示す矢印Rは、容器30の回転方向を示し、図4に示す矢印Pは、容器30から気体を排出する方向を示す。
【0051】
こうして、この例に係る第二処理工程S2においては、樹脂発泡体10とマンガン塩溶液との接触に先立って、当該樹脂発泡体10の減圧乾燥及び撹拌を開始する。
【0052】
次に、図4Bに示すように、容器30内において、酸化剤溶液を保持した樹脂発泡体10をマンガン塩溶液L2と接触させる。ここで、容器30内にマンガン塩溶液L2を供給する方法は特に限られず、例えば、当該容器30内の樹脂発泡体10に当該マンガン塩溶液L2を吹き付け、注入し又は滴下することにより行うことができる。容器30内が減圧されているため、マンガン塩溶液L2の注入は容易に且つ効率よく行うことができる。
【0053】
また、供給するマンガン塩溶液L2の量は特に限られないが、図4Bに示す例では、樹脂発泡体10の一部のみが当該マンガン塩溶液L2に浸漬する程度の量となっている。すなわち、樹脂発泡体10を構成する多数の粒状体の一部は、マンガン塩溶液L2の液面より上方に露出して、減圧状態の気相に晒されている。ただし、容器30が回転しているため、樹脂発泡体10は、マンガン塩溶液L2への浸漬と、気相への暴露と、を交互に繰り返されることとなる。
【0054】
ここで、当初の樹脂発泡体10(図4Aに示す樹脂発泡体10)は、その多孔構造に保持可能な最大限の酸化剤溶液を保持しているが、減圧乾燥及び撹拌によって、当該酸化剤溶液の体積は徐々に減少する。このため、マンガン塩溶液L2が供給されると、樹脂発泡体10は、酸化剤溶液の体積の減少分に相当する量の当該マンガン塩溶液L2を新たに保持することができる。
【0055】
さらに、酸化剤溶液を保持した樹脂発泡体10をマンガン塩溶液L2と接触させた状態で、減圧乾燥及び撹拌を続けることにより、酸化剤溶液及びマンガン塩溶液の体積はさらに減少する。このため、第二処理工程S2の途中で、容器30内に供給された酸化剤溶液及びマンガン塩溶液のほぼ全量は樹脂発泡体10の内部に保持されることとなる。すなわち、図4Cに示すように、もはや樹脂発泡体10に保持されず容器30内に溜まっている溶液は殆どなくなる。
【0056】
そして、酸化剤溶液及びマンガン塩溶液の全量を保持した樹脂発泡体10の減圧乾燥及び撹拌をさらに継続すると、最終的に、容器30内の水分は全て排出され、当該樹脂発泡体10を完全に乾燥することができる。
【0057】
このような第二処理工程S2における乾燥の過程では、濃縮された酸化剤溶液とマンガン塩溶液とを樹脂発泡体10の内部で接触させ、当該樹脂発泡体10に担持されたマンガン酸化物を効率よく生成することができる。しかも、樹脂発泡体10の骨格材料表面は、マンガン塩溶液との接触に先立って、予め酸化剤溶液で直接処理されているため、当該骨格材料表面に強固に付着したマンガン酸化物を効率よく生成することができる。
【0058】
次に、本実施形態に係る水処理用濾材(以下、「本材」という。)について説明する。本材は、多孔性の有機材料担体と、当該有機材料担体に担持されたマンガン酸化物と、を有する水処理用濾材であり、上述した本製造方法によって効率よく且つ確実に製造することができる。
【0059】
本材のマンガン酸化物は、上述したように、多孔性の有機材料担体に、まず酸化剤溶液を含浸させ(第一処理工程S1)、次いで当該有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させ(第二処理工程S2の工程S2a)、最後に当該酸化剤溶液を保持した当該有機材料担体を当該マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる(第二処理工程S2の工程S2b)という過程において、当該有機材料担体の材料骨格表面及びその近傍で酸化剤とマンガン塩とが化学的に反応することにより形成される。
【0060】
したがって、本材に担持されているマンガン酸化物は、酸化剤とマンガン塩との酸化還元反応によって、有機材料担体の材料骨格表面に形成された二酸化マンガンを主成分として含有する。そして、このマンガン酸化物は、例えば、有機材料担体の表面に付着した微粒子として観察される。
【0061】
本材においては、マンガン酸化物を、多孔性の有機材料担体の材料骨格表面に効果的に分散された状態で担持することができる。すなわち、例えば、本材の有機材料担体においてマンガン酸化物により被覆されている面積の割合(以下、「被覆率」という。)は10%以上とすることができる。
【0062】
より具体的に、この被覆率は、例えば、10〜70%の範囲とすることができ、好ましくは15〜70%の範囲とすることができ、より好ましくは20〜70%の範囲とすることができ、特に好ましくは30〜70%の範囲とすることができる。
【0063】
この被覆率は、有機材料担体の材料骨格表面のうち、マンガン酸化物により被覆されている表面の面積の割合を百分率で表した値(%)として算出される。すなわち、例えば、本材の電子顕微鏡写真において、有機材料担体部分の面積(材料骨格面積)と、当該有機材料担体部分のうちマンガン酸化物により被覆されている部分の面積(被覆面積)と、をそれぞれ算出し、当該被覆面積を当該材料骨格面積で除することにより、被覆率を算出することができる。これら材料骨格面積及び被覆面積は、例えば、パーソナルコンピュータにインストールされた画像解析用ソフトウェアを用いて、電子顕微鏡写真の画像データを解析することにより算出することができる。
【0064】
なお、被覆率の測定に供する本材の試料は、例えば、次のように調製することができる。すなわち、マンガン酸化物を担持した有機材料担体からなる乾燥状態の本材50mgを、上水道の蛇口から流出する水道水(例えば、蛇口の直径10mm、流量6L/分以上)の下で3分間、手で揉み洗いする。この洗浄操作を5回繰り返すことにより、有機材料担体の材料骨格表面に付着していないマンガン酸化物や、電子顕微鏡による測定時に剥がれ落ちる程度に弱く付着しているマンガン酸化物を十分に取り除く。その後、本材を80℃で3時間以上加熱することにより乾燥させる。こうして得られた本材の試料を上述のとおり電子顕微鏡で観察して被覆率を算出する。
【0065】
このように、本材は、有機材料担体の材料骨格表面が広くマンガン酸化物により覆われた水処理用濾材とすることができる。したがって、本材においては、有機材料担体の多孔性に特有の大きな表面積を有効に利用して、担持させたマンガン酸化物を効果的に機能させることができる。
【0066】
また、本材においては、水処理の効率を効果的に高めることのできる十分な量のマンガン酸化物を有機材料担体に担持することができる。すなわち、例えば、本材の有機材料担体には、二酸化マンガン水和物(MnO・HO)に換算して5g/L以上のマンガン酸化物を担持することができる。
【0067】
さらに、本材におけるマンガンの担持量は、例えば、好ましくは10g/L超とすることができ、より好ましくは15g/L以上とすることができ、特に好ましくは20g/L以上とすることができる。
【0068】
この担持量は、本材の見かけ体積(L)あたりにマンガン酸化物として担持されているマンガンの重量(g)を二酸化マンガン水和物に換算して表した値(g/L)として算出される。すなわち、例えば、社団法人日本水道協会により定められた方法(JWWA A 103 6.4.2 マンガン付着量のC法)に準じた方法により測定された、所定体積の本材から溶出させたマンガンイオンの量に基づいて、担持量を算出することができる。
【0069】
また、本材においては、マンガン酸化物を、有機材料担体の材料骨格表面に強固に付着させることができる。すなわち、本材は、有機材料担体の材料骨格表面に効果的に分散され且つ強固に付着した、十分な量のマンガン酸化物を有することができる。
【0070】
したがって、本材は、水処理に有効な処理能力を高いレベルで長期間安定して発揮する、機能性及び耐久性に優れた水処理用濾材とすることができる。また、本材は、多孔性の有機材料を担体として用いているため、軽量で、大きな表面積を有し、柔軟性が高い。したがって、本材は、操作性、ろ過性能、逆洗効率に優れた水処理用濾材となる。
【0071】
次に、本実施形態に係る水処理方法(以下、「本処理方法」という。)について説明する。本処理方法は、本材を水処理用濾材として用いる水処理方法である。すなわち、本処理方法においては、処理の対象となる水(以下、「原水」という。)を本材でろ過する。したがって、本処理方法によれば、原水に比べて鉄やマンガンの濃度が低減された水(以下、「処理水」という。)を製造することができる。具体的には、例えば、原水の鉄やマンガンの濃度を上水水質基準(水道法「水質基準に関する省令第101号」)以下にまで低減した処理水を製造することができる。
【0072】
なお、原水は、鉄やマンガンを所定の基準値より高い濃度で含有する水であれば特に限られない。すなわち、本処理方法においては、例えば、井戸水、表流水、伏流水等の地下水や湖沼水を処理の対象とすることができる。
【0073】
図5は、本処理方法で用いられる水処理用装置の主な構成を示す説明図である。図5に示すように、この装置は、濾材40として本材が充填されたろ過塔50、当該ろ過塔50に流入する原水を保持する原水部60、当該原水に添加される酸化剤を保持する酸化剤部70、及び当該ろ過塔50から流出する処理水を保持する処理水部80を備えている。
【0074】
本処理方法においては、ポンプ等の動力手段(不図示)を作動させて、原水部60に貯蔵されている原水と、酸化剤部70に貯蔵されている酸化剤溶液と、をろ過塔50に流入させる。図5に示す例においては、原水が流通する配管61と、酸化剤溶液が流通する配管71と、がろ過塔50の上流側で合流しており、当該酸化剤溶液が添加された当該原水が当該ろ過塔50に流入するようになっている。なお、原水は、原水部60に保持することなく、原水源から直接採取し、配管61を経てろ過塔50に流入させてもよい。
【0075】
ろ過塔50に流入した原水は、当該ろ過塔50に保持されている濾材40によりろ過される。すなわち、ろ過塔50に流入した原水中に添加された酸化剤と、当該ろ過塔50に保持されている濾材40に担持されているマンガン酸化物と、の作用により、当該原水に含有されている鉄やマンガンが酸化され、生成された酸化物が当該原水中に析出する。
【0076】
この析出物が濾材40に捕捉されることにより、原水から鉄やマンガンが除去される。そして、原水に比べて鉄やマンガンの濃度が低減された処理水は、ろ過塔50から流出し、配管81を通って処理水部80に流入し貯蔵される。
【0077】
なお、処理水を処理水部80から再びろ過塔50に流入させる循環路(不図示)を設けることにより、当該処理水を当該ろ過塔50内の濾材40で繰り返しろ過することもできる。また、使用に伴い、濾材40に捕捉されている鉄やマンガンの酸化物の量が増加してろ過抵抗が増加した場合には、ろ過塔50内において逆方向に水を流通させたり、当該ろ過塔50の下方からブロア−によりバブリングを行ったり、又はこれらの組み合わせを行ったりする洗浄処理(いわゆる逆洗)を行うことにより、当該酸化物を当該ろ過塔50外に排出し、本材を再生することもできる。
【0078】
本処理方法においては、濾材として本材を用いることにより、水処理の効率を効果的に高めることができる。すなわち、本材の通水抵抗は、マンガン砂等の従来の濾材に比べて低い。このため、本処理方法においては、単位時間当たりに進む水の直線距離を表す流速Lv(Line Velocity、m/hr)を増加させることができる。このため、ろ過装置のコンパクト化が可能になる。
【0079】
また、上述のとおり、本材は、マンガン酸化物の担持量が高められ、しかも当該マンガン酸化物は多孔性の有機材料担体の材料骨格表面に広く分散して担持されている。このため、本処理方法においては、高流速であっても原水に含有される鉄やマンガンを効果的に除去することができる。
【0080】
また、上述のとおり、本材においては、マンガン酸化物が有機材料担体の材料骨格表面に強固に付着している。すなわち、本材が有するマンガン酸化物は、原水のろ過や逆洗といった通水に晒されても有機材料担体から脱離し難い。このため、本処理方法においては、長期間にわたって安定的に水処理を実施することができる。
【0081】
次に、本製造方法及び本材を用いた本処理方法の具体的な実施例について説明する。
【0082】
[実施例1]
実施例1においては、種々の水処理用濾材を製造して、その特性を評価した。まず、本製造方法を実施して2種類の本材を製造した。
【0083】
多孔性の有機材料担体としては、半独立気泡と連続気泡とを有する樹脂発泡体を用いた。この樹脂発泡体は、70重量部の低密度ポリエチレン(LDPE)と、30重量部のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、親水化剤としてグリセリン脂肪酸エステルを含有する15重量部の親水化マスターバッチと、を溶融混合して得られた親水性樹脂を発泡成形することにより製造された。そして、この樹脂発泡体ブロックを細かく切断することにより得られた2〜10mm角の多数の樹脂発泡体粒(以下、「発泡体粒」という。)を有機材料担体として用いた。
【0084】
酸化剤溶液としては、過マンガン酸ナトリウムを20g/Lの濃度で含有する水溶液を用いた。マンガン塩溶液としては、塩化マンガン四水和物を200g/Lの濃度で含有する水溶液を用いた。
【0085】
第一の本材(以下、「本材1」という。)は、図1に示す本製造方法により製造した。すなわち、第一処理工程S1では、まず乾燥状態の発泡体粒を濃縮フラスコに入れ、次いで当該濃縮フラスコ内に過マンガン酸ナトリウム水溶液を入れ、その後、当該濃縮フラスコを回転エバポレータにセットした。
【0086】
次に、回転エバポレータを作動させて濃縮フラスコの回転を開始するとともに、減圧装置により当該濃縮フラスコ内の減圧を開始した。そして、5kPa以下に減圧された濃縮フラスコ内で、発泡体粒を、過マンガン酸ナトリウム水溶液に浸漬された状態で1時間保持した。これにより、発泡体粒に過マンガン酸ナトリウム水溶液を含浸させた。
【0087】
その後、減圧を解き、発泡体粒に保持されていない余分な過マンガン酸ナトリウム水溶液をデカンテーションにより濃縮フラスコから排出した。この結果、濃縮フラスコには、過マンガン酸ナトリウム水溶液を保持した発泡体粒が残された。これにより、見かけ体積1Lの発泡体粒に、300mLの過マンガン酸ナトリウム水溶液が保持された。
【0088】
続く第二処理工程S2では、濃縮フラスコ内の1Lの発泡体粒内に、150mLの塩化マンガン水溶液を加えた(工程S2a)。発泡体粒中に保持された過マンガン酸ナトリウムと、濃縮フラスコ内に加えられた塩化マンガンと、のモル比は、1:3.6であった。すなわち、過マンガン酸ナトリウムに対して3.6モル当量の塩化マンガンが供給された。その後、濃縮フラスコを回転エバポレータにセットした。
【0089】
次に、濃縮フラスコの回転及び減圧を開始するとともに、さらに、ヒータによる当該濃縮フラスコの加熱を開始した。そして、5kPa以下に減圧され、且つ70〜75℃に加熱された減圧乾燥下、回転する濃縮フラスコ内で、過マンガン酸ナトリウム水溶液を保持した発泡体粒を塩化マンガン水溶液と接触させた状態で3時間保持することにより乾燥させた(工程S2b)。この間、濃縮フラスコが回転させることによって、発泡体粒を塩化マンガン水溶液にまんべんなく接触させた。
【0090】
この3時間の減圧乾燥によって、濃縮フラスコ内の過マンガン酸ナトリウム水溶液及び塩化マンガン水溶液の水分を徐々に蒸発させ、これらの水溶液を徐々に濃縮した。また、発泡体粒に保持されていた水分が徐々に蒸発して当該発泡体粒が乾燥するとともに、減少した水分に相当する量の濃縮された塩化マンガン水溶液が当該発泡体粒の内部へ浸入した。そして、発泡体粒の内部において、過マンガン酸ナトリウムと塩化マンガンとの化学反応が高濃度で進行することによって、当該発泡体粒の骨格表面上にマンガン酸化物が生成していった。こうして、マンガン酸化物が担持された発泡体粒からなる水処理用濾材である本材1を製造した。
【0091】
第二の本材(以下、「本材2」という。)は、図2に示す本製造方法により製造した。すなわち、まず、上述の本材1の場合と同様に、第一処理工程S1及び第二処理工程S2からなる処理を実施し、さらに追加第一処理工程S3と追加第二処理工程S4とからなる追加処理を1回実施した。
【0092】
すなわち、追加第一処理工程S3においては、まず、上述のように第一処理工程S1及び第二処理工程S2を経て製造した本材1の一部を濃縮フラスコ内に入れ、1Lの本材1に対して800mLの過マンガン酸ナトリウム水溶液を加えた。次いで、この濃縮フラスコを回転エバポレータにセットして回転させるとともに、減圧装置による減圧を開始した。そして、5kPa以下に減圧された濃縮フラスコ内で、発泡体粒を、過マンガン酸ナトリウム水溶液に浸漬された状態で1時間保持した。これにより、発泡体粒に過マンガン酸ナトリウム水溶液を再び含浸させた。
【0093】
その後、減圧を解き、発泡体粒に保持されていない余分な過マンガン酸ナトリウム水溶液をデカンテーションにより濃縮フラスコから排出した。この結果、濃縮フラスコには、過マンガン酸ナトリウム水溶液を保持した発泡体粒が残された。これにより、見かけ体積1Lの発泡体粒に、300mLの過マンガン酸ナトリウム水溶液が保持された。
【0094】
続く追加第二処理工程S4では、濃縮フラスコ内の1Lの発泡体粒内に、150mLの塩化マンガン水溶液を加えた(工程S4a)。なお、発泡体粒中に保持された過マンガン酸ナトリウムと、濃縮フラスコ内に加えられた塩化マンガンと、のモル比は、1:3.6であった。すなわち、過マンガン酸ナトリウムに対して3.6モル当量の塩化マンガンが供給された。その後、濃縮フラスコを回転エバポレータにセットした。
【0095】
次に、上述の第二処理工程S2と同様に、濃縮フラスコの回転及び減圧乾燥を開始し、5kPa以下に減圧され、且つ70〜75℃に加熱された濃縮フラスコ内で、過マンガン酸ナトリウム水溶液を保持した発泡体粒を塩化マンガン水溶液と接触させた状態で3時間保持して乾燥させた(工程S4b)。こうして、マンガン酸化物がさらに担持された発泡体粒からなる水処理用濾材である本材2を製造した。
【0096】
また、この実施例1では、本製造方法とは異なる製造方法を実施して、2種類の水処理用濾材(以下、「比較材1」、「比較材2」という。)を製造した。
【0097】
比較材1は、上述の本材1,2の場合と同様の発泡体粒と、過マンガン酸ナトリウムを40g/Lの濃度で含有する水溶液と、塩化マンガン四水和物を100g/Lの濃度で含有する水溶液と、を用いた方法により製造した。すなわち、まず乾燥状態の発泡体粒を濃縮フラスコに入れ、次いで当該濃縮フラスコ内に塩化マンガン水溶液を入れ、その後、当該濃縮フラスコを回転エバポレータにセットした。
【0098】
次に、回転エバポレータを作動させて濃縮フラスコの回転を開始するとともに、減圧装置により当該濃縮フラスコ内の減圧を開始した。そして、5kPa以下に減圧された濃縮フラスコ内で、発泡体粒を、塩化マンガン水溶液に浸漬された状態で1時間保持した。これにより、発泡体粒に塩化マンガン水溶液を含浸させた。
【0099】
その後、減圧を解き、発泡体粒に保持されていない余分な塩化マンガン水溶液をデカンテーションにより濃縮フラスコから排出した。この結果、濃縮フラスコには、塩化マンガン水溶液を保持した発泡体粒が残された。これにより、見かけ体積1Lの発泡体粒に、300mLの塩化マンガン水溶液が保持された。
【0100】
続いて、濃縮フラスコ内の1Lの発泡体粒内に、150mLの過マンガン酸ナトリウム水溶液を加えた。発泡体粒中に保持された塩化マンガンと、濃縮フラスコ内に加えられた過マンガン酸ナトリウムと、のモル比は、3.6:1であった。その後、濃縮フラスコを回転エバポレータにセットした。
【0101】
その後、上述の本材1,2の場合と同様に減圧乾燥を実施して、5kPa以下に減圧され、且つ70〜75℃に加熱された減圧乾燥下、回転する濃縮フラスコ内で、塩化マンガン水溶液を保持した発泡体粒を過マンガン酸ナトリウム水溶液と接触させた状態で3時間保持することにより乾燥させた。こうして、マンガン酸化物が担持された発泡体粒からなる水処理用濾材である比較材1を製造した。
【0102】
比較材2は、上述の本材1,2と同様の発泡体粒及び過マンガン酸ナトリウム水溶液と、塩化マンガン四水和物を20g/Lの濃度で含有する水溶液と、を用いた方法により製造した。
【0103】
すなわち、乾燥状態の発泡体粒を、まず塩化マンガン水溶液に浸漬した。次いで塩化マンガン水溶液を保持した発泡体粒を、さらに過マンガン酸ナトリウム水溶液に浸漬した。
【0104】
そして、この塩化マンガン水溶液及び過マンガン酸ナトリウム水溶液に1回ずつ浸漬した発泡体粒を、乾燥させることなく、再び当該塩化マンガン水溶液と過マンガン酸ナトリウム水溶液とに順次浸漬する追加処理を4回繰り返した。
【0105】
その後、このように5回の処理が施された発泡体粒を乾燥させることなく、そのまま上水道の蛇口から流出する水道水で10分間洗浄した。次いで洗浄後の発泡体粒を目開き1mmのステンレスメッシュ容器に入れ、振り幅約15cmで振ることにより脱水した。この脱水により、発泡体粒から水分が滴り落ちることはなくなった。そして、脱水後の発泡体粒を75℃〜85℃で3時間以上加熱することにより乾燥させた。こうして、マンガン酸化物が担持された発泡体粒からなる水処理用濾材である比較材2を製造した。
【0106】
図6には、各濾材の主な製造条件を示す。すなわち、図6には、本材1、本材2、比較材1及び比較材2のそれぞれについて、過マンガン酸ナトリウム水溶液(A溶液)における過マンガン酸ナトリウム(過マンガン酸塩)の濃度(g/L)、塩化マンガン水溶液(B溶液)における塩化マンガン四水和物(マンガン塩)の濃度(g/L)、当該A溶液及びB溶液を発泡体粒に接触させた順序、当該A溶液及びB溶液で当該発泡体粒を処理した回数、及び乾燥方法を示している。
【0107】
次に、上述のようにして製造された本材1、本材2、比較材1及び比較材2のそれぞれについて、その特性を評価した。すなわち、まず、発泡体粒に担持されているマンガン酸化物に含有されているマンガンの量を評価した。
【0108】
このマンガンの担持量は、社団法人日本水道協会により定められた方法(JWWA A 103 6.4.2 マンガン付着量のC法)に準じた方法で測定した。すなわち、まず上述のようにして製造した乾燥状態の濾材(マンガン酸化物が担持された発泡体粒)を約50mg秤量し、容量500mLの共栓試薬瓶に入れた。
【0109】
次にこの試薬瓶に300mLの精製水を入れて密栓し、振り幅約15cmで150回、1分間振り混ぜた。その後、直ちに洗浄後の水を全量捨てた。この洗浄操作を、洗浄後の水の濁度が50以下になるまで繰り返した。
【0110】
次に、洗浄後の濾材を80℃で3時間以上加熱することにより乾燥させた。そして、乾燥後の濾材を0.001gの単位まで正確に秤量し、測定用の試料とした。この試料に、36〜40℃に加温した10mLの塩酸(1+1)を加えて、36〜40℃の恒温槽中に1時間静置した。
【0111】
その後、この溶液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を回収した。さらにフィルターに捕捉された試料を精製水で洗浄し、洗浄後の水を上述のろ液と混合し、合計の体積を100mLに調整した。この混合液の1mLを容量の20mLのメスフラスコに採り、精製水を加えて20mLの溶液とし、この溶液に含有されるマンガンの量をICP発光分析装置(ICPS−8100、株式会社島津製作所)により測定した。なお、検量線は、メルク株式会社製のICPマルチエレメントスタンダードIV(Ag,Al,B,Ba,Bi,Ca,Cd,Co,Cr,Cu,Fe,Ga,In,K,Li,Mg,Mn,Na,Ni,Pd,Sr,Ti,Znからなる23元素の各々を1000mg/L含有する希硝酸溶液)を、超純水製造装置(MILLIPORE Milli−Q Synthesis、ミリポア株式会社)で製造した超純水で順次希釈し、10、5、1、0mg/L(0mg/Lは超純水のみ)の濃度の溶液を調製し、これらを基準にして作成した。
【0112】
測定されたマンガンの量に基づいて、発泡体粒の見かけ体積(L)あたりに担持されていた二酸化マンガン水和物(MnO・HO)の量(g)を、担持量(g/L)として算出した。
【0113】
また、本材1、本材2、比較材1及び比較材2のそれぞれについて、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。すなわち、まず上述のようにして製造した乾燥状態の濾材(マンガン酸化物が担持された発泡体粒)50mgを、上水道の蛇口から流出する水道水(蛇口の直径10mm、流量6L/分以上)の下で3分間、手で揉み洗いした。この洗浄操作を5回繰り返すことにより、発泡体粒の材料骨格表面に付着していないマンガン酸化物や、電子顕微鏡による測定時に剥がれ落ちる程度に弱く付着しているマンガン酸化物を十分に取り除いた。その後、濾材を80℃で3時間以上加熱することにより乾燥させた。乾燥後の濾材からSEM観察用の試料を作製し、そのSEM写真を撮影した。
【0114】
このSEM写真を用いて、本材1、本材2、比較材1及び比較材2のそれぞれについて、マンガン酸化物による被覆率を評価した。すなわち、上述のようにして作製したSEM観察用の試料について、拡大率100倍でSEM写真を撮影した。そして、パーソナルコンピュータにインストールされた画像用ソフトウェア(Adobe Photoshop 5.0J、アドビシステムズ株式会社)及び解析用のフリーウェア(Digitizer for Bitmap Ver.1.01 Rev.2、HONGU Akinori & MYKA Lab.)を用いて、SEM写真の画像解析を行った。
【0115】
すなわち、SEM写真に示されている濾材のうち1mm×1mmの範囲(以下、「評価範囲」という。)に着目し、当該評価範囲のうち、空洞の部分と、それ以外の発泡体粒部分と、を識別した。なお、空洞部分(発泡体の孔を形成する空間部分)と発泡体粒部分(発泡体粒の材料骨格部分)との識別はコンピュータのディスプレイ画面上で容易に行うことができた。次いで、この評価範囲内の発泡体粒部分の面積を求めた。
【0116】
さらに、この評価範囲内の発泡体粒部分のうち、マンガン酸化物部分(マンガン酸化物で被覆されている部分)と、それ以外の部分(マンガン酸化物で被覆されていない部分)と、を識別した。なお、発泡体粒部分とマンガン酸化物部分との識別は、濾材の製造に供される前の、マンガン酸化物が担持されていない発泡体粒そのものSEM写真に基づいて容易に行うことができた。次いで、このマンガン酸化物部分の面積を求めた。
【0117】
そして、発泡体粒部分の面積に対するマンガン酸化物部分の面積の割合を百分率で表した値として被覆率(%)を算出した。本材1、本材2、比較材1及び比較材2のそれぞれについて、5つの評価範囲から算出した被覆率の算術平均値を求めた。
【0118】
また、本材1、本材2、比較材1及び比較材2のそれぞれについて、マンガン酸化物の剥がれやすさを評価した。すなわち、上述のSEM用試料の作製過程における洗浄操作の前後で、各濾材の外観を目視により観察した。そして、洗浄前に比べて、洗浄後に濾材の色が黒色から濃い茶色を経てさらに薄い茶色へと変化した場合には、当該洗浄によってマンガン酸化物が脱離したと判断し、マンガン酸化物が剥がれやすいと評価した。
【0119】
図7には、各濾材の評価結果を示す。すなわち、図7には、本材1、本材2、比較材1及び比較材2のそれぞれについて、担持されたマンガン酸化物の様子を観察した結果、二酸化マンガン水和物に換算したマンガン酸化物の担持量(g/L)、及びマンガン酸化物による被覆率(%)を示している。
【0120】
また、図8〜図12にはSEM写真(拡大率100倍)の一例を示す。図8及び図9は、それぞれ本材1及び本材2のSEM写真である。図10及び図11は、それぞれ比較材1及び比較材2のSEM写真である。図12は、酸化マンガンが担持されていない発泡体粒のSEM写真である。なお、図8〜図11と図12とを比較すると、図8、図9及び図11には、図12には見られない白色の微粒子が発泡体粒の表面に付着していることがわかる。この白色の微粒子がマンガン酸化物である。
【0121】
図7、図8及び図9に示すように、SEM下でマンガン酸化物の担持状態を観察した結果、本材1及び本材2において、マンガン酸化物の微粒子は、発泡体粒の表面に広く分散された状態で担持されていた。これに対し、図11に示すように、比較材2において、マンガン酸化物の微粒子は発泡体粒の表面の一部に凝集した状態で偏って担持されていた。
【0122】
なお、比較材1においては、図7に示すように二酸化マンガン水和物の担持量は8〜10g/Lと算出されたにもかかわらず、図10に示すように、SEM観察下で発泡体粒に付着していたマンガン酸化物の微粒子の量はわずかであった。これは、SEM用の試料を作製する途中の洗浄によって比較材1のマンガン酸化物が発泡体粒から容易に脱離して除去されたためと考えられた。
【0123】
また、図7に示すように、マンガン酸化物の剥がれやすさを観察した結果、本材1及び本材2については、洗浄の前後で色の変化はほとんどなく、マンガン酸化物の脱離があったとしても極めてわずかであることが確認された。これに対して、比較材1及び比較材2については、洗浄の前後で色が黒色から薄い茶色まで大きく変化し、洗浄によるマンガン酸化物の脱離が確認された。特に、比較材1については、上述のとおり、SEM観察においてマンガン酸化物が非常に少なく、マンガン酸化物の付着力が極めて弱かったと考えられた。
【0124】
また、図7に示すように、マンガンの担持量を評価した結果、本材1及び本材2の担持量はそれぞれ12〜16g/L及び20〜23g/Lであり、比較材1及び比較材2のそれより大きかった。特に、製造過程で第一処理工程S1及び第二処理工程S2に加えて追加第一処理工程S3及び追加第二処理工程S4からなる追加処理を実施した本材2の担持量は、当該第一処理工程S1及び第二処理工程S2のみを行い当該追加処理を実施しなかった本材1のそれより大きかった。
【0125】
また、乾燥前に洗浄された比較材2の担持量は、本材1及び本材2と同様の減圧乾燥を経て製造された比較材1のそれに比べて小さかった。ただし、担持量の測定に供された比較材1は、強い洗浄が施されていないものであった。これに対し、上述のとおり、SEM用試料の作製の洗浄が施された比較材1においては、マンガン酸化物が当該洗浄により容易に脱離した。このため、比較材1を実際に水処理用濾材として使用した場合には、通水や逆洗によってマンガン酸化物が容易に脱離し、その処理機能が低下することが推測された。
【0126】
また、図7に示すように、マンガン酸化物による被覆率を評価した結果、本材1及び本材2の被覆率はそれぞれ10〜25%及び50〜70%であり、比較材1及び比較材2のそれより顕著に大きかった。特に、製造過程で追加処理を実施した本材2の被覆率は、当該追加処理を実施しなかった本材1のそれより大きかった。また、比較材1は、本材1や本材2と比べて、被覆率が極めて低かった。
【0127】
[実施例2]
実施例2においては、上述の実施例1で製造した本材1、比較材2又は市販のマンガン砂(フェロライトMC、株式会社トーケミ)を水処理用濾材として用いた水処理方法を実施した。
【0128】
水処理装置としては、図5に示すように、ろ過塔50、原水部60、酸化剤部70及び処理水部80を備えた装置を用いた。具体的に、ろ過塔50は、その径が25mm、高さが1500mmの円筒状容器であった。そして、このろ過塔50に、高さが1000mmとなるように濾材40を充填した。原水としては井戸水を用いた。原水に添加する酸化剤としては、次亜塩素酸を用いた。
【0129】
そして、次亜塩素酸が2〜5ppmの濃度で添加された原水をろ過塔50に流入させて、当該ろ過塔50内の濾材40により当該原水に含有されていた鉄及びマンガンを除去する水処理を行った。なお、ろ過塔50の流入口における次亜塩素酸の濃度の調整は、処理水部80に回収される処理水中に0.2〜1.0ppmの次亜塩素酸が残存するように、酸化剤部70内の次亜塩素酸濃度と当該ろ過塔50の流入口への次亜塩素酸溶液の流量とを調節することで行った。
【0130】
本材1及び比較材2を用いた場合には、流速は10m/hrとした。一方、マンガン砂を用いた場合には、ろ過抵抗(差圧)が大きく、10m/hrでの通水が不可能であったため、流速は5m/hrとした。なお、原水は循環させず(いわゆるワンパス)、ろ過塔50から流出した処理水はそのまま処理水部80に回収された。原水及び処理水における鉄及びマンガンの濃度は、ICP発光分析装置(ICPS−8100、株式会社島津製作所)により測定した。
【0131】
図13には、濾材として本材1、比較材2又はマンガン砂を用いたそれぞれの場合について、水処理時の流速(m/hr)、原水中の鉄及びマンガンの濃度(mg/L)、処理水中の鉄及びマンガンの濃度(mg/L)を示している。そして、処理水中の鉄濃度が0.30mg/L以下、マンガン濃度が0.05mg/L以下である場合には、当該処理水は鉄及びマンガンの上水水質基準(水道法「水質基準に関する省令第101号」)を満たしていると評価した。
【0132】
図13に示すように、本材1を用いた水処理方法により製造された処理水においては、鉄濃度が0.10mg/L、マンガン濃度が0.01mg/Lであり、当該処理水は水質基準を満たすものであった。
【0133】
これに対し、比較材2を用いた水処理方法により製造された処理水においては、鉄濃度が0.15mg/Lであったが、マンガン濃度が0.10mg/Lと高く、当該処理水は水質基準を満たさなかった。
【0134】
一方、マンガン砂を用いた水処理方法により製造された処理水においては、鉄濃度が0.07mg/L、マンガン濃度が0.03mg/Lであり、当該処理水は水質基準を満たすものであった。
【0135】
このように、本材1を用いた水処理方法においては、大きな流速で効率よく水処理を行うことができ、しかも水質基準を満たす処理水を効率よく製造することができた。
【0136】
[実施例3]
実施例3においては、上述の実施例1で製造した本材1及び上述の実施例2で用いたマンガン砂を水処理用濾材として用い、上述の実施例2より大きな規模の水処理方法を実施した。
【0137】
水処理装置としては、上述の実施例2と同様に、図5に示すように、ろ過塔50、原水部60、酸化剤部70及び処理水部80を備えた装置を用いた。具体的に、ろ過塔50は、その径が100mm、高さが1700mmの円筒状容器であった。このろ過塔50に、高さが1000mmとなるように濾材40を充填した。
【0138】
原水としては井戸水を用いた。原水に添加する酸化剤としては、次亜塩素酸を用いた。そして、次亜塩素酸が2〜5ppmの濃度で添加された原水をろ過塔50に流入させて、当該ろ過塔50内の濾材40により当該原水に含有されていた鉄及びマンガンを除去する水処理を行った。なお、ろ過塔50の流入口における次亜塩素酸の濃度の調整は、処理水部80に回収される処理水中に0.2〜1.0ppmの次亜塩素酸が残存するように、酸化剤部70内の次亜塩素酸濃度と当該ろ過塔50の流入口への次亜塩素酸溶液の流量とを調節することで行った。
【0139】
本材1を用いた場合には、流速は50m/hrとした。一方、マンガン砂を用いた場合には、ろ過抵抗(差圧)が大きく、50m/hrでの通水が不可能であったため、流速は10m/hrとした。なお、原水は循環させず(いわゆるワンパス)、ろ過塔50から流出した処理水はそのまま処理水部80に回収された。
【0140】
原水及び処理水における鉄の濃度はJIS−K−57−4に則って測定した。また、原水及び処理水におけるマンガンの濃度はJIS−K−56−4に則って測定した。
【0141】
図14には、濾材として本材1又はマンガン砂を用いたそれぞれの場合について、水処理時の流速(m/hr)、原水中の鉄及びマンガンの濃度(mg/L)、処理水中の鉄及びマンガンの濃度(mg/L)を示している。
【0142】
図14に示すように、本材1を用いた水処理方法により製造された処理水においては、鉄濃度が0.05mg/L、マンガン濃度が0.02mg/Lであり、当該処理水は水質基準を満たすものであった。
【0143】
また、マンガン砂を用いた水処理方法により製造された処理水においては、鉄濃度が0.05mg/L、マンガン濃度が0.03mg/Lであり、当該処理水は水質基準を満たすものであった。
【0144】
このように、本材1を用いた水処理方法においては、大きな流速で効率よく水処理を行うことができ、しかも水質基準を満たす処理水を効率よく製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の製造方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の製造方法の他の例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の製造方法の具体的な実施態様の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の製造方法に含まれる第二処理工程の具体的な実施態様の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る水処理方法において用いられる水処理用装置の一例について、主な構成を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の製造方法における製造条件の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の特性を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の一例についての電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の一実施形態に係る水処理用濾材の他の例についての電子顕微鏡写真である。
【図10】水処理用濾材の一例についての電子顕微鏡写真である。
【図11】水処理用濾材の他の例についての電子顕微鏡写真である。
【図12】樹脂発泡体粒の電子顕微鏡写真である。
【図13】本発明の一実施形態に係る水処理方法を実施した結果の一例を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る水処理方法を実施した結果の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0146】
10 有機材料担体、20,30 容器、31 吸引口部、40 濾材、50 ろ過塔、60 原水部、70 酸化剤部、80 処理水部、61,71,81 配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性の有機材料担体に、まず酸化剤溶液を含浸させる第一処理工程と、
次いで前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させるとともに、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体を前記マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる第二処理工程と、
を含む
ことを特徴とする水処理用濾材の製造方法。
【請求項2】
前記第二処理工程において、前記酸化剤溶液を保持し且つ前記マンガン塩溶液と接触した状態の前記有機材料担体を減圧下で加熱することにより乾燥させる
ことを特徴とする請求項1に記載された水処理用濾材の製造方法。
【請求項3】
前記有機材料担体は、連続気泡を有する樹脂発泡体である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された水処理用濾材の製造方法。
【請求項4】
前記第二処理工程の後さらに、
乾燥させた前記有機材料担体に前記酸化剤溶液を含浸させる追加第一処理工程と、
次いで前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体をマンガン塩溶液と接触させるとともに、前記酸化剤溶液を保持した前記有機材料担体を前記マンガン塩溶液と接触した状態のまま乾燥させる追加第二処理工程と、
を1回又は複数回行う
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された水処理用濾材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された方法により製造された
ことを特徴とする水処理用濾材。
【請求項6】
多孔性の有機材料担体と、
前記有機材料担体に担持されたマンガン酸化物と、
を有し、
前記有機材料担体において前記マンガン酸化物により被覆されている面積の割合が10%以上である
ことを特徴とする水処理用濾材。
【請求項7】
前記有機材料担体には、二酸化マンガン水和物(MnO・HO)に換算して5g/L以上の前記マンガン酸化物が担持されている
ことを特徴とする請求項6に記載された水処理用濾材。
【請求項8】
前記有機材料担体は、連続気泡を有する樹脂発泡体である
ことを特徴とする請求項6又は7に記載された水処理用濾材。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれかに記載された水処理用濾材を用いて水を処理する
ことを特徴とする水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−149091(P2010−149091A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332860(P2008−332860)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】