説明

水力発電システム

【課題】 勾配を有するトンネルから排水される湧水を有効利用できる水力発電システムを提供すること。
【解決手段】 水力発電システム1は、勾配αを有するトンネル2に沿って配され、トンネル2よりも低所へ延びてトンネル2からの湧水3を集めて流す流路4と、流路4の下端側に配された水力発電手段5とを備えている。流路4は、トンネル2に沿って配される傾斜管路6と、傾斜管路6の下端6aと水力発電手段5とを接続する誘導管路7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルからの湧水等の排水を利用する水力発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳地帯を通過する高速道路や自動車専用道路、一般道路では、車両の高速通行を確保するために、長いトンネルがしばしば施工される。
このようなトンネル内には、大量の湧水が流出する。そのため、トンネルの安全を確保するために、湧水をトンネル外に排出する必要がある。
通常、このような湧水は、特に使用されないまま下流側に排水されている。
【0003】
しかしながら、例えば、延長約10kmにもわたる長大トンネルの場合、約12トン/分にものぼる湧水量のトンネルがある。近年、省エネルギー等の観点から、資源を有効に利用することが叫ばれており、このような大量の湧水についても何らかの有効活用を図る手段が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、勾配を有するトンネルから排水される湧水を有効利用できる水力発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る水力発電システムは、勾配を有するトンネルに沿って少なくとも一部が配され、前記トンネルよりも低所へ延びて前記トンネルからの排水を集めて流す流路と、
前記流路の下端側に配された水力発電手段とを備えていることを特徴とする。
【0006】
この水力発電システムは、流路の一部がトンネルに沿って勾配を有して配されているので、流路を流れる排水に位置エネルギー及びこれに基づく運動エネルギーを与えることができる。従って、このエネルギーを用いて水力発電手段を駆動して発電することができる。
【0007】
また、本発明に係る水力発電システムは、前記水力発電システムであって、前記流路が、前記トンネルに沿って配される傾斜管路と、該傾斜管路の下端と前記水力発電手段とを接続する誘導管路とを備えていることを特徴とする。
この水力発電システムは、傾斜管路を、例えば、湧水等の排水を効率よく集め、かつ流す管路とし、誘導管路を、湧水等のエネルギーを効率よく伝達する管路とすることによって、排水が有するエネルギーを好適に水力発電手段に伝達することができる。
【0008】
また、本発明に係る水力発電システムは、前記水力発電システムであって、前記流路が、内部で前記傾斜管路を水没させた状態で配する流路本管を備え、前記傾斜管路の上端が開口し、かつ、側面が水密構造となっていることを特徴とする。
この水力発電システムは、傾斜管路が流路本管内で水没しているので、傾斜管路内全体に排水を充填することができる。従って、傾斜管路の上端を取水地点とすることができ、傾斜管路内の水の全体ヘッドを水力発電手段に有効利用することができる。
【0009】
また、本発明に係る水力発電システムは、前記水力発電システムであって、前記傾斜管路が、前記流路本管の途中から下流側に配されていることを特徴とする。
この水力発電システムは、流路本管に対する傾斜管路の上端の位置によって、傾斜管路に流れる排水のヘッドと流量とを変化させることができ、発電に必要なヘッドと流量とを調整することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各種トンネルのメンテナンス用の電源として、現状の電力系と併用することができ、湧水等の排水の有効活用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る第1の実施形態について、図1を参照して説明する。
本実施形態に係る水力発電システム1は、高所2aと低所2bとの間で勾配αを有するトンネル2に沿って配され、トンネル2よりも低所へ延びてトンネル2からの湧水3を集めて排水するために流す流路4と、流路4の下端側に配された水力発電手段5とを備えている。
【0012】
流路4は、トンネル2に沿って配される傾斜管路6と、傾斜管路6の下端6aと水力発電手段5とを接続する誘導管路7とを備えている。
傾斜管路6は、トンネル2の全長にわたって配されている。そのため、傾斜管路6の勾配は、トンネル2の勾配と略同一となっている。
【0013】
傾斜管路6の管壁には、トンネル2の高所2a側から湧水3を管路内に集めるための不図示の水抜き孔が、所定の配置で形成されている。
誘導管路7は、傾斜管路6の下端6aに一端7aが接続され、下流側の他端7bがそこから略鉛直下方に延びて配されている。誘導管路7の長さは、トンネル2の低所2bに対して水力発電手段5の配設位置が所定の標高差となるように規定されている。
【0014】
水力発電手段5は、水車8と、この水車8に連結された回転軸10と、回転軸10の回転力によって電気エネルギーを発生させる発電機11とを備えている。
水車8は、誘導管路7の他端7bの近傍の途中で、誘導管路7を流れる湧水3が水車8に当たってこれを回転させることが可能な位置に配されている。発電機11は、不図示の電源と接続されている。
【0015】
次に、本実施形態に係る水力発電システム1の作用・効果について説明する。
まず、トンネル2から湧き出た湧水3は、傾斜管路6に配された不図示の水抜き孔から傾斜管路6内に取り込まれる。そして、その位置における湧水3の位置エネルギーが傾斜管路6の勾配によって運動エネルギーに変換され、取り込まれた湧水3が下流側に流れる。傾斜管路6内を流れる湧水3がトンネル2の低所2b側に流れるにつれて、流量が増大するのにともない、その運動エネルギーも増大する。
【0016】
このようなエネルギーを有する湧水3が、傾斜管路6から誘導管路7に導入され、誘導管路7の高さ分のエネルギーがさらに追加されて水車8に当たってこれを回転させる。
こうして、水車8に接続された回転軸10が回転し、発電機11によって電力が生じる。
なお、水車8を回転させた後の湧水3は、誘導管路7の他端7bから排水される。
【0017】
この水力発電システム1によれば、流路4の傾斜管路6がトンネル2に沿って勾配を有して配されているので、流路4を流れる排水に位置エネルギー及びこれに基づく運動エネルギーを与えることができる。従って、このエネルギーを用いて水力発電手段5を駆動して発電することができる。
【0018】
例えば、高所2aと低所2bとの勾配を2%としたトンネルに適用した場合、この間における水の落差は約200mにも及ぶ。この場合、湧水量12トン/分に対して、トータル発電効率を50%とした場合、約200kWの発電量を得ることができる。
【0019】
また、流路が傾斜管路6と誘導管路7とを備えているので、傾斜管路6を、例えば、湧水3等の排水を効率よく集め、かつ流す管路とし、誘導管路7を、湧水3等のエネルギーを効率よく伝達する管路として、それぞれ好適な管路を設置することができる。そして、湧水3が有するエネルギーを好適に水力発電手段に伝達することができる。
【0020】
従って、得られた電力を図示しない電源に供給することにより、湧水3を有効利用することができる。
例えば、高速道路等では、トンネル2を含めて種々のメンテナンス作業が行われるが、これに必要な電力を確保する必要がある。また、トンネル2の照明装置や道路端の照明装置、サービスエリアやパーキングエリア内の設備等にも電力が必要である。通常、これらの設備への電力供給は、商用電力を利用している。しかし、上述のようにして得られた電力を併用することによって、商用電力の使用量を減らすことができる。従って、湧水3をクリーンエネルギーとして利用することができ、かつ、二酸化炭素排出量の削減につなげることができる。
【0021】
また、積雪地帯を通る高速道路の場合には、得られた電力を融雪設備に利用することもできる。
この場合、湧水の温度が外気温度よりも高温のため、加熱ヒータ等によって融雪用の水を加熱する必要がなく、湧水をそのまま利用することができる。その分、融雪設備の消費電力を低減させることができる。
【0022】
次に、第2の実施形態について図2及び図3を参照しながら説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る水力発電システム20の流路21が、内部で傾斜管路23を湧水3に水没させた状態で配する流路本管25を備えているとした点である。
【0023】
この場合、傾斜管路23の上端23aのみが開口し、かつ、側面が水密構造となっている。
傾斜管路23は、流路本管25の途中から下流側に配されている。例えば、トンネル2の高所2aと低所2bとの標高差を約200mとした場合、傾斜管路23の上端23aと下端23bとの標高差は、その中間の100mとなる。
【0024】
流路本管25は、略U字溝形状となっており、上記第1の実施形態における傾斜管路23のように、管壁には、トンネル2の高所2a側から湧水3を管路内に集めるための不図示の水抜き孔が、所定の配置で形成されている。
【0025】
次に、本実施形態に係る水力発電システム20の作用・効果について説明する。
トンネル2から湧き出た湧水3は、流路本管25に配された不図示の水抜き孔から流路本管25内に取り込まれる。そして、取り込まれた湧水3は流路本管25内を下流側に流れ、その一部が傾斜管路23内に取り込まれる。
この際、傾斜管路23が、流路本管25内で水没するように配されているので、傾斜管路23の上端が取水地点となって、傾斜管路23の全体が水圧管路となる。
【0026】
この水力発電システム20によれば、傾斜管路23が流路本管25内で水没しているので、傾斜管路23内全体に湧水3による排水を充填することができる。従って、例えば、傾斜管路23の径を1m、流量を1トン/secとした場合、損失ヘッドとして7〜8m程度を考慮することによって、傾斜管路23内の水の全体ヘッドを水力発電手段に有効利用することができる。
【0027】
また、流路本管25に対する傾斜管路23の上端23aの位置を、より上流側又はより下流側に移動させることによって、傾斜管路23に流れる湧水3のヘッドと流量とを変化させることができ、発電に必要なヘッドと流量とを調整することができる。
【0028】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、トンネル2の断面は略円形となっているので、図4に示すように、トンネル25内の道路26の下方に形成された空間部27内の底部を流路本管28とする流路30としてもよい。また、図5(a)、(b)に示すように、流路本管31が、例えば、トンネル32の道路26下方のケーブル33類が挿通されるエリア35以外の場所36に配設されていてもよい。
この場合、流路37がトンネル32内に形成されるので、トンネル32内のスペースを有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水力発電システムの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る水力発電システムの構成を示す概略図である。
【図3】図2のI-I断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る水力発電システムにおいて、(a)図2のI-I位置に相当する位置における断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る水力発電システムにおいて、(a)図2のI-I位置に相当する位置における断面図、(b)II-II位置に相当する位置における断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1,20 水力発電システム
4,21 流路
5 水力発電手段
6,23 傾斜管路
7 誘導管路
25 流路本管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
勾配を有するトンネルに沿って少なくとも一部が配され、前記トンネルの低所側に延びて前記トンネルからの排水を集めて流す流路と、
前記流路の下端側に配された水力発電手段とを備えていることを特徴とする水力発電システム。
【請求項2】
前記流路が、前記トンネルに沿って配される傾斜管路と、
該傾斜管路の下端と前記水力発電手段とを接続する誘導管路とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の水力発電システム。
【請求項3】
前記流路が、内部で前記傾斜管路を水没させた状態で配する流路本管を備え、
前記傾斜管路の上端が開口し、かつ、側面が水密構造となっていることを特徴とする請求項2に記載の水力発電システム。
【請求項4】
前記傾斜管路が、前記流路本管の途中から下流側に配されていることを特徴とする請求項3に記載の水力発電システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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