説明

水性グラビアインキ

【課題】VOCに該当する物質を含まず環境に配慮しつつ、印刷物に泳ぎの発生が少なく高品質の印刷物が得られる水性グラビアインキ、及びこれを用いた印刷物を提供する。
【解決手段】ポリアルキレングリコールを1〜15質量%含む水性グラビアインキ、及びこれを用いた印刷物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性グラビアインキに関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷方法は、建装材をはじめとし、雑誌などの各種書籍、広告、パッケージ(包装材)、ラベル、その他の各種印刷物に広く使用される印刷方法である。そして、グラビア印刷に使用するグラビア印刷インキは、イソプロピルアルコールやトルエンといった有機溶剤に、バインダーとしての樹脂および着色剤としての顔料を溶解・分散させた溶剤系のグラビアインキが広く使用されている。この溶剤系のグラビア印刷インキは、高品質な印刷物を与えることが可能である一方、近年、揮発性有機化合物(VOC)の揮散による大気汚染や人体に対する健康被害や生物に対する影響などの問題が指摘されている。
【0003】
これらの問題に対応するために毒性の低い溶剤を用いたグラビアインキ、あるいは水性グラビアインキが種々提案されている。そこで、シクロヘキサン系の毒性の低い脂肪族有機溶剤を使用するなどの手法が提案されているが、これらの溶剤では、毒性の問題は低下するものの、インキ中のVOC含有量を低下させることはできない。
また、媒体として水を用いる水性グラビアインキも多数提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示される水性グラビアインキは、版摩耗性などの印刷適性に優れているが、印刷した際に濃淡が生じる、いわゆる泳ぎといった現象を発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4151801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、VOCに該当する物質を含まず環境に配慮しつつ、印刷物に泳ぎの発生が少なく高品質の印刷物が得られる水性グラビアインキ、及びこれを用いた印刷物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアルキレングリコールを必須の成分とすることで、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0007】
1.ポリアルキレングリコールを1〜15質量%含む水性グラビアインキ。
2.ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が、100〜2000である上記1に記載の水性グラビアインキ。
3.ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールである上記1又は2に記載の水性グラビアインキ。
4.上記1〜3のいずれかに記載の水性グラビアインキを用いた印刷物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、VOCに該当する物質を含まず環境に配慮しつつ、印刷物に泳ぎの発生が少なく高品質の印刷物が得られる水性グラビアインキ、及びこれを用いた印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[水性グラビアインキ]
本発明の水性グラビアインキは、ポリアルキレングリコールを1〜15質量%含むものである。本発明の水性グラビアインキの好ましい態様としては、ポリアルキレングリコールのほか、顔料などの着色剤、バインダー樹脂及び水を含み、さらに必要に応じて、ワックス類、増粘剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、充填剤、潤滑剤、滑剤などの添加物を加えたものが挙げられる。
【0010】
《ポリアルキレングリコール》
本発明に用いられるポリアルキレングリコールとしては、アルキレン構造を構成するアルキレン基の炭素数が2〜6であるポリアルキレングリコールが好ましく用いられる。なかでも、印刷物の品質と乾燥性、及び汎用性を考慮すると、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリブチレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールがより好ましく用いられる。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、印刷物の品質及び乾燥性の観点から、100〜2000が好ましく、100〜1500がより好ましく、100〜1000がさらに好ましい。また、ポリアルキレングリコールは一種でも、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本発明の水性グラビアインキにおけるポリアルキレングリコールの含有量は、1〜15質量%の範囲であることを要し、1〜10質量%の範囲であることが好ましい。含有量が上記範囲内であれば、優れた印刷物の品質及び乾燥性が得られる。
【0012】
《着色剤》
本発明で用いられる着色剤としては顔料が好ましい。顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系などの有機顔料や、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム、マイカ(雲母)などの無機顔料が、大気汚染や人体に対する健康被害や生物に対する影響などの観点から好ましく挙げられる。本発明の水性グラビアインキにおいて、顔料の含有量は、塗工性の観点から、1〜20質量%の範囲が好ましく、より好ましくは1〜10質量%の範囲である。
【0013】
《バインダー樹脂》
本発明の水性グラビアインキに用いられるバインダー樹脂としては、溶解型、ハイドロゾル型、エマルジョン型の天然樹脂または合成樹脂、あるいはそれらの変性樹脂などの一種又はそれ以上の混合物を使用することができる。
【0014】
このような樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル系モノマー、(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマーやそのN−アルコキシ置換体及びN−メチロール置換体、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのスチレン系モノマー、ジアリルフタレート、アリルグリジジルエーテル、トリアリルイソシアヌレートなどのアリルモノマー、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドンなどの重合性二重結合を有するモノマーなどの一種又はそれ以上と、カルボキシル基を有するアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸の一種又はそれ以上との共重合体からなる樹脂が挙げられる。
【0015】
より具体的には、アルカリ溶液可溶性(メタ)アクリル系共重合体、ポリアルリルアミド系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリN−ビニルピロリドン系樹脂、水溶性ポリウレタン系樹脂(2液硬化型ポリウレタン系樹脂)、水溶性ポリエステル系樹脂、水溶性ポリアミド系樹脂、水溶性アミノ系樹脂、水溶性フェノール系樹脂などの水溶性合成樹脂、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖類などの水溶性天然高分子、天然ゴム、合成ゴム、ポリ酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリウレタン−ポリアクリル系樹脂変性又はこれらの混合樹脂などである。
【0016】
本発明においては、上記のようなバインダー樹脂の一種又はそれ以上を使用し、当該樹脂に適する溶解型、ハイドロゾル型、または、エマルジョン型などの形態で使用することができる。
本発明の水性グラビアインキにおいて、バインダー樹脂の含有量は、10〜40質量%の範囲が好ましく、10〜30質量%の範囲がより好ましい。バインダー樹脂の含有量が上記範囲内であれば、優れた印刷物の品質及び乾燥性が得られると同時に、良好な塗工性も得られる。
【0017】
《水》
本発明で用いられる水は、通常の工業用水を用いることができる。本発明の水性グラビアインキにおいて、水の含有量は、乾燥性と塗工性の観点から、30〜80質量%の範囲が好ましく、35〜70質量%の範囲がより好ましい。
【0018】
《その他添加剤》
本発明の水性グラビアインキは、本発明の目的を妨げない範囲において、必要に応じて種々の添加剤を配合してもよい。これらの添加剤としては、ワックス類、増粘剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、充填剤、潤滑剤、滑剤などが挙げられる。
【0019】
《調製方法》
本発明の水性グラビアインキは、通常の方法により調製することができ、例えばポリアルキレングリコール、着色剤、バインダー樹脂及びその他添加剤を、ボールミル、アトライタ、サンドミルなどにより水に溶解分散させることにより調製することができる。また、本発明の水性グラビアインキは、予めポリアルキレングリコール、着色剤、バインダー樹脂及びその他添加剤をボールミル、アトライタ、サンドミルなどにより練肉分散させてから、水を加えて希釈することによっても得られる。
【0020】
[印刷物]
本発明の印刷物は、本発明の水性グラビアインキを用いて得られるものである。本発明の水性グラビアインキは、通常のフレキソ印刷、グラビア印刷、凸版印刷などの一般的な印刷方式の他、塗布方式としては、グラビアコート方式、リバースコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、カーテンコート方式、スロットオリフィス方式、スプレーコート方式などの各方式に使用することができる。また、印刷にあたっては、1回又は数回に分けても、また異なる方式を複数組み合わせて印刷又は塗布してもよい。
【0021】
本発明の水性グラビアインキは、VOCを含まず環境に配慮したものである。そして、この水性グラビアインキを印刷して得られた印刷物は、印刷物に泳ぎの発生が少なく高品質のものである。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0023】
実施例及び比較例で得られたグラビアインキについて、下記の評価を行った。
(1)泳ぎの評価
実施例及び比較例で得られたグラビアインキを用いて、常法に従い、コート紙にグラビア印刷でベタ印刷を行った。得られた印刷物について、下記の基準で評価した。
○ :インキの泳ぎ(色の濃淡)が全くない
× :インキの泳ぎ(色の濃淡)が著しい
(2)乾燥性の評価
実施例及び比較例で得られたグラビアインキを用いて、常法に従い、コート紙にグラビア印刷でベタ印刷を行った。得られた印刷物について、下記の基準で評価した。
○ :30秒未満で完全に乾燥した
△ :30秒以上60秒未満で完全に乾燥した
× :完全に乾燥するのに60秒以上かかった
(3)環境対応性
実施例及び比較例で得られたグラビアインキについて、下記の基準で評価した。
○ :VOC(揮発性有機化合物)は全く含まれていない
× :VOC(揮発性有機化合物)が含まれている
【0024】
実施例1〜3
第1表に示されるインキ成分を、試験用サンドミルで1時間練肉分散させた後、ポリプロピレングリコール及び水の混合溶媒に分散させて、水性グラビアインキを調製した。得られた水性グラビアインキについて、泳ぎの評価、乾燥性の評価を行った。各評価結果を第1表に示す。
【0025】
比較例1〜3
第1表に示されるインキ成分を、試験用サンドミルで1時間練肉分散させた後、第1表に示される溶媒に分散させて、グラビアインキを調製した。得られたグラビアインキについて、泳ぎの評価、乾燥性の評価を行った。各評価結果を第1表に示す。

【0026】
【表1】

*1,アクリル樹脂(「ジョンクリル741(商品名)」;BASFジャパン株式会社製)
*2,フタロシアニンブルー(「シアニンブルーA734(商品名)」;大日精化工業株式会社製)
*3,炭酸カルシウムとシリカとの混合物(炭酸カルシウム:「白艶華T−DD(商品名)」;白石工業株式会社製,シリカ:「AEROSIL300(商品名)」,日本アエロジル株式会社製,混合比は炭酸カルシウム:シリカ=14:1)
*4,疎水性シリカ(「SNデフォーマー777(商品名)」;サンノプコ株式会社製)及びシリコーン系消泡剤(「SNデフォーマー1060(商品名)」;サンノプコ株式会社製)を、1:1(質量比)の割合で混合して使用した。
*5,ウレタン変性ポリエーテル(「SNシックナー621N(商品名)」;サンノプコ株式会社製)
*6,アセチレングリコール(「サーフィノール420(商品名)」;エアープロダクツジャパン株式会社製)
*7,「サンニックスPP−1000(商品名)」;三洋化成工業株式会社製,重量平均分子量:1000
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の水性グラビアインキは、建装材をはじめとし、各種多様な印刷物、例えば、雑誌などの各種書籍、広告、パッケージ(包装材)、ラベル、その他の各種印刷物に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコールを1〜15質量%含む水性グラビアインキ。
【請求項2】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が、100〜2000である請求項1に記載の水性グラビアインキ。
【請求項3】
ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールである請求項1又は2に記載の水性グラビアインキ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水性グラビアインキを用いた印刷物。