説明

水滴除去アタッチメントおよびそのアタッチメントを備える収穫装置

【課題】本発明は、立毛状態の植物の収穫において効果的に水滴を除去する技術を提供する。
【解決手段】本発明は、前方に進行しつつ立毛状態の植物を収穫する収穫装置本体に装着される水滴除去アタッチメントを提供する。この水滴除去アタッチメントは、水滴除去部210と、支持構造体220と、を備える。水滴除去部210は、立毛状態の植物に付着している水滴を除去する。支持構造体220は、収穫装置本体100の前方であって、収穫装置本体100の前端部から離隔した位置に水滴除去部210を支持する。水滴除去210は、進行方向にほぼ垂直でほぼ水平面内の回転軸の周りに回転しつつ、立毛状態の植物に対して前方方向に衝突する回転部材211W1、211W2を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立毛状態の植物を収穫する植物収穫装置に関し、特に、収穫直前に植物から水滴を除去する技術に関する。立毛状態の植物には、たとえば出穂している状態の食用稲、飼料用稲、大豆、および麦が含まれる。植物収穫装置には、たとえば自脱コンバインや汎用コンバイン(直流コンバインとも呼ばれる。)、いわゆるホールクロップ収穫機といった種々の装置が含まれる。
【0002】
稲や大豆、麦といった立毛状態の植物から穀類を収穫する収穫装置として、いわゆるコンバインが普及している。一方、飼料用稲の穂と茎葉を同時に収穫する収穫装置として、いわゆるホールクロップ収穫機も普及しつつある。コンバインは、刈取りや脱穀を含む一連の工程を実行する各機構を備えている。ホールクロップ収穫機は、刈取りや密封を含む一連の工程を実行する各機構を備えている。このような複数の機構を有する収穫装置では、収穫時に付着した水滴が各機構の作動負担を増大させるので、収穫対象である立毛状態の植物から予め水滴を除去することが望まれている。
【0003】
水滴の除去は、従来は、たとえば日照によって乾燥を待つか、あるいはたとえば水田の両端から引っ張った縄を利用して水滴を落下させるといった方法によらなければならなかった。縄を利用する方法は、水田の両端から引っ張られた縄を横方向に移動させることによって稲穂上を滑らせて水滴を落下させるので、人的な負担が大きく、大規模な圃場では利用できない。このような問題に対して、たとえば棒状の部材をコンバインの横方向に突き出して水滴を除去する技術も提案されている。これらの技術では、棒状の部材で稲穂を遥動させて水滴を落下させる方法や棒状の部材から空気を噴出させて水滴を除去する方法が提案されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−86833号公報
【特許文献2】特開2000−279014号公報
【特許文献3】実願昭57−79769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの方法は、収穫時において収穫経路に隣接する領域の水滴を除去する方法なので、収穫開始時においては、水滴が除去される前の状態での収穫を余儀なくされていた。このような状況は、収穫開始時において、収穫装置の各機構に水分や植物が付着してしまうことを意味し、収穫装置の負担軽減という観点からは効果が極めて限定されたものとなっていた。
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、立毛状態の植物の収穫において効果的に水滴を除去する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成や態様として例示される技術を提供することができる。 第1構成例は、前方に進行しつつ立毛状態の植物を収穫する収穫装置本体に装着される水滴除去アタッチメントを提供する。この水滴除去アタッチメントは、水滴除去部と、支持構造体と、を備える。水滴除去部は、立毛状態の植物に付着している水滴を除去する。支持構造体は、収穫装置本体の前方であって、収穫装置本体の前端部から水平方向に離隔した位置に水滴除去部を支持する。水滴除去部は、進行方向にほぼ垂直でほぼ水平面内の回転軸の周りに回転しつつ、立毛状態の植物に対して前方方向に衝突する回転部材を有する。
【0008】
第1構成例の水滴除去アタッチメントでは、水滴除去部が収穫装置本体の前方であって、収穫装置本体の前端部から水平方向に離隔した位置に装備されているので、植物から水滴が除去された直後の収穫を実現することができる。これにより、収穫開始から収穫時の水滴除去を確実に実現することができる。一方、水滴除去部は、進行方向にほぼ垂直でほぼ水平面内の回転軸の周りに回転しつつ、立毛状態の植物に対して前方方向に衝突する回転部材を有するので、回転数を調整することによって植物に対する衝突速度や頻度を自由に調整することができる。さらに、水滴除去部は、収穫装置本体の前方であって、収穫装置本体の前端部から水平方向に離隔した位置に配置されているので、一旦進行方向に遥動させられた立毛状態の植物の姿勢が復元した状態で収穫することができる。この際の植物の大きな動きによって、立毛状態の植物が空間的に分散されるので、水滴の落下を促進して再付着を抑制することができる。これにより、収穫開始から収穫時の効果的な水滴除去を実現することができる。
【0009】
さらに、たとえば回転部材の回転速度や形状を工夫することによって植物の種類や水滴の付着状況に応じた適切な水滴除去を簡易に実現させるための設計自由度を提供することができる。なお、水滴除去アタッチメントは、広い意味を有し、必ずしも収穫装置本体に装着されるための別体として存在する必要は無く、収穫装置本体に一体的に統合されて製造販売されるものも含まれる。また、「所定の方向」は、広い意味を有し、たとえば「予め設定された収穫時の収穫装置本体の進行方向」や「収穫装置本体の前方と刈取部の前方のいずれの方向(刈取部が左右に遥動可能な場合)」を含む。
【0010】
第2構成例は、第1構成例のアタッチメントにおいて、回転部材が回転に応じて回転の接線方向と回転軸に平行な方向の双方の成分を有する遥動を植物に与えるように構成されたリールバーを有している。このリールバーは、立毛状態の植物の穂を回転軸方向に滑らせつつ接戦方向に押すことができるので、立毛状態の植物の穂の巻きつきを抑制するとともに、植物の穂の部分に複雑な動きをさせることができる。これにより、主として穂の巻きつきに起因する穂の脱落を抑制しつつ、効果的に水滴を除去することができる。
【0011】
第3構成例は、第2構成例のアタッチメントにおいて、リールバーが、水平面内において回転軸の方向に対して傾斜する部分を有することによって、回転の接線方向と回転軸に平行な方向の双方の成分を有する遥動を植物に与えるように構成されている。第3構成例は、この傾斜の角度が可変なので、植物の種類に応じて適切な遥動を与えて、植物の種類に適した穂の脱落抑制と効果的な水滴除去とを実現することができる。
【0012】
第4構成例は、第2構成例のアタッチメントにおいて、リールバーが、植物から受ける反作用に応じて回転可能に装着された回転遥動部を有する。回転遥動部は、植物から受ける反作用に応じた回転によって植物の穂の巻きつきを開放することができるので、さらに効果的に穂の脱落を抑制することができる。
【0013】
第5構成例は、第2ないし第4構成例のいずれかの水滴除去アタッチメントにおいて、水滴除去部が、中空中心軸部材と、一対の回転軸受けと、を有している。中空中心軸部材は、気体供給孔と、気体供給孔から供給された気体を排出の中心軸が鉛直下方の方向に対して進行方向の前後60度の角度の範囲内に入るように排出する少なくとも2個の気体排出孔と、を有する。一対の回転軸受けは、中空中心軸部材に対して回転可能に回転部材を支持する。これにより、リールバーの打撃後に残存する付着水を離脱させることができるとともに、植物から分離された水滴を迅速に地表に落として植物への再付着を抑制することもできる。
【0014】
第6構成例は、第1ないし第5のいずれかの水滴除去アタッチメントにおいて、収穫装置本体が、収穫装置本体の進行を可能とする車両と、その車両に対して上下方向に遥動可能に装備されている刈取部とを有する。支持構造体は、刈取部に装着されるように構成された刈取部側装着部を有しているので、刈取部の遥動機能を活かして地表面の凹凸や傾斜に応じた適切な高さで水滴の除去を実行することができる。
【0015】
第7構成例は、第1ないし第6のいずれかの水滴除去アタッチメントにおいて、支持構造体が、水滴除去部を鉛直方向の位置が可変に装着されるように構成された水滴除去部側装着部を有している。このように、水滴除去部を鉛直方向に可変に装着することができるので、たとえば植物の種類に応じて適切な高さで水滴の除去を実現することができる。
【0016】
なお、本発明は、上述の構成例(装置)に限られず、たとえば水滴除去方法、水滴を除去しつつ収穫する方法、並びに水滴除去アタッチメントを有する収穫装置といった種々の構成で実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、立毛状態の植物の収穫において効果的に水滴を除去することができるとともに、上述の各構成例を実現する設計自由度を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る収穫装置10の構成を示す側面図。
【図2】本発明の実施例に係る収穫装置10の構成を示す平面図。
【図3】本発明の実施例に係る収穫装置10の構成を示す正面図。
【図4】本発明の実施例に係る水滴除去アタッチメント200の構成を示す側面図。
【図5】本発明の実施例に係る水滴除去部210の構成を示す下面図。
【図6】本発明の実施例に係る水滴除去部210の駆動機構の概要を示す断面図。
【図7】本発明の実施例に係る2本のリールバーの幾何学的な位置関係と水滴除去の様子を示す説明図。
【図8】本発明の変形例に係る4本のリールバーの幾何学的な位置関係と水滴除去の様子を示す説明図。
【図9】実施例と変形例におけるリールバーの地表高さを比較した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、たとえば以下の特徴を単独あるいは組み合わせて備えることによってさらに好ましい形態として実現することもできる。
(特徴1)水滴除去部は、油圧モータで回転部材を駆動させる。収穫装置の内部機構等は、一般的に油圧駆動で作動するので、それらと動力源を共通化することによって簡易な構成を実現するとともに信頼性を高めることができる。
(特徴2)水滴除去部側装着部は、油圧アクチュエータで水滴除去部の鉛直方向の位置を変化させることができる。これにより、多種の植物を収穫する場合や植物の状態(たとえば寝た状態)に応じて柔軟な運用を実現することができる。
(特徴3)支持構造体は、油圧アクチュエータで水滴除去部と収穫装置本体の水平方向の離隔距離を変化させることができる。これにより、多種の植物を収穫する場合や植物の状態(たとえば寝た状態)に応じて柔軟な運用を実現することができる。
【0020】
以下では、上述の特徴を踏まえて本発明の作用や効果を明確に説明するために、本発明の実施の形態を、次のような順序に従って説明する。
A.本発明の実施例に係る収穫装置の構成と作動内容:
B.変形例:
【0021】
A.本発明の実施例に係る収穫装置の構成と作動内容:
図1は、本発明の実施例に係る収穫装置10の構成を示す側面図である。図2は、本発明の実施例に係る収穫装置10の構成を示す平面図である。図3は、本発明の実施例に係る収穫装置10の構成を示す正面図である。収穫装置10は、収穫装置本体100と水滴除去アタッチメント200とを備えている。収穫装置本体100は、稲や大豆、麦といった立毛状態の植物を刈取る刈取部110と、刈取られた植物を裁断してロールベールを形成する飼料用のクローラ120と、を備えるホールクロップ収穫機である。なお、本実施例では、ホールクロップ収穫機に本発明が適用されているが、たとえば自脱型コンバインや汎用コンバインにも本発明を適用することができる。
【0022】
水滴除去アタッチメント200は、図1に示されるように、アタッチメント固定部材222、223を使用して刈取部110に固定されている。刈取部110は、分草体111と、引起し装置112(図2、図3)と、掻込み搬送装置113(図1)と、センサ114(図1)と、これらを一体的に支持する支持構造体としてのフレーム115(図1)と、を備えている。分草体111は、立毛状態の植物の茎葉部を分草する。引起し装置112は、分草された茎葉部を引起す。掻込み搬送装置113は、引起され、刈刃(図示せず)で刈取られた茎葉部をクローラ120の供給搬送装置127に搬送する。センサ114は、刈取部110の下端の地上からの高さを検知する。
【0023】
刈取部110は、地表の凹凸や傾斜に対応して適切に刈取ができるように、クローラ120に対して上下に遥動可能に装備されている。フレーム115(図1)は、遥動支持部125と、油圧アクチュエータ126と、を使用してクローラ120に装備されている。フレーム115は、遥動支持部125を中心として上下に遥動可能である。油圧アクチュエータ126は、センサ114からのセンサ入力に応じて刈取部110の下端の地上からの高さを適切な高さに操作する。これにより刈取部110は、圃場の地上高さの変動に応じて刈取部110を上下に遥動させつつ適切な高さで刈取りを行うことができる。
【0024】
刈取部110は、前述のように、掻込み搬送装置113(図1)を介して、刈取られた植物をクローラ120の供給搬送装置127に供給する。供給搬送装置127は、刈取部110の掻込み搬送装置113の上下動に応じて供給搬送装置127の受け取り位置を変動させることができる。クローラ120の供給搬送装置127に供給された植物は、クローラ120が有するロールベール形成機構121によって、細断されるとともに高密度にロール成形されて円筒状のロールベールが形成される。
【0025】
ロールベールは、その後にフィルム(図示せず)でラッピングされて高品質なサイレージづくりが可能となる。サイレージは、良質な粗飼料として直接給与されるだけでなく、混合飼料(Total Mixed Ration:TMR)としても利用可能である。さらに、サイレージに乳酸菌等を添加することによって、発酵品質を向上させて安定化を図るようにしてもよい。
【0026】
図4は、本発明の実施例に係る水滴除去アタッチメント200の構成を示す側面図である。水滴除去アタッチメント200は、水滴除去部210と、支持構造体220とを備えている。支持構造体220は、収穫装置本体100の前方であって、収穫装置本体の前端部(本実施例では、分草体111の前端)から水平方向に離隔した位置に水滴除去リール211を支持することができる。支持構造体220は、枠状構造体221と、左右4個のアタッチメント固定部材222、223と、左右4組の締結部材(ボルトとナット)225と、を備えている。枠状構造体221には、水滴除去部210を固定するための多数の締結孔224が形成されている。
【0027】
枠状構造体221は、左右4個のアタッチメント固定部材222、223を使用して刈取部110のフレーム115に固定されている(図1参照)。これにより、水滴除去アタッチメント200は刈取部110とともに上下に遥動するので、水滴除去アタッチメント200の地上からの高さが地表の凹凸や傾斜に応じて適切な位置に維持されることになる。
【0028】
図5は、本発明の実施例に係る水滴除去部210の構成を示す下面図である。図6は、本発明の実施例に係る水滴除去部210の駆動機構の概要を示す断面図である。水滴除去部210は、水滴除去リール211と、リール支持フレーム212と、リール軸受け板214と、油圧モータ213と、駆動チェーン215と、駆動ギア211Gと、を備えている。リール支持フレーム212には、リール支持軸受け板214が固定されている。なお、図6では、図示が省略されているが、リールバー211W1、211W2は、穂先に接触する際に、穂先との摩擦を緩和する方向に回転自在に構成されているので(詳細については後述)、穂先が受ける摩擦ダメージを抑制して穂先を健全な状態に保護することができる。また、図2や図6では、油圧モータ213、駆動チェーン215と、および駆動ギア211Gが左側に装備された構成が例示されているが、左右いずれの側に装備しても良い。
【0029】
リール軸受け板214は、図4に示されるように、水滴除去リール211を固定支持(非回転)する一対の軸受け214B(図6)を備えている。リール軸受け板214には、油圧モータ213が固定されている。油圧モータ213は、スプロケット213Sを回転駆動する可変速油圧モータである。油圧モータ213は、駆動チェーン215を介して水滴除去リール211の駆動ギア211Gを矢印の方向に減速比3(必要に応じてスプロケット213Sの交換等によって変更可能)で回転駆動させる。なお、油圧モータ213の仕様は、水滴除去リール211の回転に必要なトルクに応じて決定される。
【0030】
リール支持フレーム212は、左右4組の締結部材225を4個の締結孔224に貫通させて締結することによって、枠状構造体221に締結されている。締結位置(上下位置)は、多数の締結孔224の中から左右4組の締結部材225を締結する孔を適切に選択することによって調整可能である。なお、リール支持フレーム212は、たとえば油圧アクチュエータを介して上下移動可能に枠状構造体221に固定するようにしてもよく、さらに、水滴除去リール211の前後位置も調整可能とするようにしてもよい。こうすれば、収穫対象の植物の変動その他の状況変化に応じて適切かつ簡易に対応することができる。なお、特許請求の範囲における「水滴除去部側装着部」は、リール支持フレーム212を固定するこれらの構成を全て含む広い意味を有している。
【0031】
水滴除去リール211の構成は以下のとおりである。水滴除去リール211は、図5や図6に示されるように、アルミ又は樹脂(あるいは同等の強度の他の材料)の2枚の側板211SL、211SRと、2枚の側板211SL、211SRの各々を補強する補強用円盤211DL、211DR(図6では省略)と、2本のリールバー211W1、211W2と、4個の自在継手211U1L、211U1R、211U2L、211U2R(図6では省略)と、中間支持部材211R1、211R2と、中空中心軸部材211Cと、側板211SRに固定されている駆動ギア211Gと、一対のベアリング211BRとを備えている。中空中心軸部材211Cは、たとえばクローラ120が有する電動ブローワ(図示せず)から供給される圧縮空気を供給するための気体供給孔211iと、付着水を離脱して地上に落とすための空気を吐出する複数の気体排出孔211hと、封止部材211Pと、を有している。本実施例では、2枚の側板211SL、211SRには、外径840mmで厚みが5mmのアルミ円盤が使用されている。
【0032】
水滴除去リール211の接続状態は以下のとおりである。2枚の側板211SL、211SRは、一対のベアリング211BRを介して中空中心軸部材211Cに対して回転可能に接続されている。2本の中間支持部材211R1、211R2は、駆動ギア211Gと、2枚の側板211SL、211SRと、を回転軸からシフトした位置で貫通して、これらを相互に高い剛性(特に回転剛性)で結合している。2本の中間支持部材211R1、211R2は、本実施例では、外形20mmで内径10mmの金属パイプとして構成されている。2本の中間支持部材211R1、211R2の取り付けにおいて、2枚の側板211SL、211SRの間隔が1700mmに調整されている。また、中間支持部材211R1、211R2の数は、3本以上であっても良い。
【0033】
リールバー211W1は、左側の側板211SLに対して自在継手211U1L(図5)を使用して接続されるとともに、右側の側板211SRに対して自在継手211U1Rを使用して接続されている。リールバー211W2は、左側の側板211SLに対して自在継手211U2Lを使用して接続されるとともに、右側の側板211SRに対して自在継手211U2Rを使用して接続されている。なお、2本のリールバー211W1、211W2は、本実施例では、2枚の側板211SL、211SRに対して直径800mmの位置に接続されている。
【0034】
水滴除去リール211における2本のリールバー211W1、211W2の回転軸に対する傾斜は以下の構成で実現されている。リールバー211W1の傾斜については、自在継手211U1Lを左側の側板211SLの締結孔211Sh1(図4)に固定するとともに、自在継手211U1Rを右側の側板211SRの締結孔211Sh2に対応する位置の図示しない孔に固定することによって実現されている。一方、リールバー211W2の傾斜については、自在継手211U2Lを左側の側板211SLの締結孔211Sh4に固定するとともに、自在継手211U2Rを右側の側板211SRの締結孔211Sh3に対応する位置の図示しない孔に固定することによって実現されている。なお、傾斜角は、たとえば固定する締結孔を変えることによって変更することができるし、あるいは2枚の側板211SL、211SRの相対的な角度を変えることによっても変更することができる。
【0035】
本実施例では、4個の自在継手211U1L、211U1R、211U2L、211U2Rは、さらに、2本のリールバー211W1、211W2の各々を2枚の側板211SL、211SRに対して回転させることもできる。これにより、収穫対象の植物が2本のリールバー211W1、211W2に巻きついても植物に過度なダメージを与えることなく解くことができる。なお、4個の自在継手211U1L、211U1R、211U2L、211U2Rについては、説明を分かりやすくするために、概念的な図として示されている。
【0036】
このように、水滴除去部210は、上述の構成を採用することによって中空中心軸部材211Cに対して傾斜した2本のリールバー211W1、211W2を回転駆動させることができる。これにより、2本のリールバー211W1、211W2で立毛状態の植物に衝撃力を与えて表面付着水を落とすことができる。さらに、同時に、水滴除去部210は、リール軸受け板214に対して固定されている中空中心軸部材211Cを使用し、複数の気体排出孔211hから空気を噴出させて残留する付着水を落とすとともに、離脱した水滴を地上に落として再付着を抑制することができる。
【0037】
図7は、本発明の実施例に係る2本のリールバー211W1、211W2の幾何学的な位置関係と水滴除去の様子を示す説明図である。図7では、リールバー211W1が、水滴除去リール211の回転駆動によって収穫対象植物CP(立毛状態の植物)に衝突している様子を示している。リールバー211W1は、水滴除去リール211の回転Rot1によって接線方向Mに移動している。接線方向Mに移動しているリールバー211W1は、収穫対象植物CPに対して接線方向Mに加速度m1を発生させるだけでなく、接線方向Mに対して垂直な方向に加速度m2を発生させることができる。
【0038】
接線方向Mに垂直な方向の加速度m2は、リールバー211W1の傾斜によって発生する。リールバー211W1の傾斜は、回転Rot1の回転方向に回転位相を定義したときの位相角のズレによって形成されている。リールバー211W1の位相角は、本実施例では、側板211SLの側で30度だけ位相が進み、側板211SRの側で30度だけ位相が遅れることによって、相対的に60度のズレが発生している。この位相のズレは、前述のように調整可能である。
【0039】
接線方向Mに垂直な方向の加速度m2は、以下の一連の作用効果を発生させることができる。
(1)衝突開始時(打撃):リールバー211W1の収穫対象植物CPに対する衝突開始時においては、傾斜による逃げを与えることができる。これにより、接線方向Mの過度の打撃を和らげることができる一方、リールバー211W1の回転軸方向の加速度m2を発生させて水滴除去に寄与させることができる。
(2)衝突後(ずらし):衝突後においては、リールバー211W1の回転軸方向に収穫対象植物CPを移動させることができる。これにより、収穫対象植物CP上の打撃位置をずらしつつ加速度を印加させることができる。移動に伴って収穫対象植物CPの根元から打撃点の位置が離れていくからである。
(3)くぐり抜け:水滴除去リール211の回転軸方向に収穫対象植物CPの穂先を動かすことができるので、その穂先をリールバー211W1の軸方向に移動させてリールバー211W1の下をくぐらせる際の負担を軽減させることができる。
【0040】
このように、本実施例は、収穫対象植物CPに対して単純に打撃を加えるだけで水滴を除去するのではなく、「打撃」、「ずらし」、「くぐり抜け」の各工程をスムーズに進めるとともに、複雑な加速度を発生させて効率的な水滴の除去を実現することができる。この結果、水滴除去と、収穫対象植物CPに対するダメージ(たとえば穂の離脱)の低減とを効果的に両立することができる。
【0041】
本実施例は、さらに、2本のリールバー211W1、211W2の各々を2枚の側板211SL、211SRに対して回転させることもできるので(回転Rot2)、「ずらし」において2本のリールバー211W1、211W2と収穫対象植物CPの摩擦を小さくして、収穫対象植物CPへのダメージを低減させることもできる。加えて、本実施例の水滴除去部210は、リール軸受け板214に対して固定されている中空中心軸部材211Cを使用し、複数の気体排出孔211hから水滴を地上に落とすための空気を地表面の方向に吐出することができるので、風Wで水滴を離脱させるだけでなく、離脱した水滴の再付着を抑制することもできる。
【0042】
B.変形例:
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。具体的には、たとえば以下のような変形例も実施可能である。
【0043】
B−1.第1変形例:上述の実施例では、一対の側板211SL、211SRの間に渡ってリールバー211W1、211W2が接続されているが、図8に示されるように、たとえば一対の側板211SL、211SRの間に少なくとも一枚の中間板211SMを備える構成としてもよい。この変形例では、1本のリールバー211W1が2本のリールバー211W1L、211W1Rに分割されて長さがほぼ半分となっている。このため、この変形例では、位相角のズレも実施例の半分でほぼ同一の傾斜角を得ることができる。
【0044】
図9は、実施例と変形例におけるリールバーの地表高さを比較した説明図である。実施例では、リールバー211W1の傾斜に起因して高さδ1だけ中央部において上昇しているのに対して、変形例では、上昇量が高さδ2に低減されている。このように、一対の側板211SL、211SRの間に少なくとも一枚の中間板211SMを備える構成とすれば、リールバーの地表高さの変動を低減させることができるので、特に中央部における水滴除去を効果的に実現することができる。ただし、中間板211SMは、植物の横方向の移動を制限するという面を有しているので、かかる制限と高さの変動のトレードオフの問題となる。
【0045】
よって、中間板を少なくとも一つ設ける変形例の構成は、水滴除去リールの幅や収穫対象の植物の種類に応じて適切に対応するための設計自由度を提供するものとして利用価値が高い。具体的には、水滴除去リールの幅(回転軸方向の長さ)が長いときには、中間板を設けて(あるいは数を増やして)、リールバーの地表高さの過度の変動を抑制させることができる。
【0046】
B−2.第2変形例:上述の実施例では、本発明は、ホールクロップ収穫機に適用されているが、前述のように、たとえば自脱コンバインや汎用コンバイン(直流コンバインとも呼ばれる。)に適用しても良い。本発明は、立毛状態の植物を収穫する植物収穫装置に広く適用することができる。立毛状態の植物には、たとえば出穂している状態の食用稲、飼料用稲、大豆、および麦が含まれる。
【0047】
B−3.第3変形例:上述の実施例では、上下方向にのみ遥動可能な刈取部を備える収穫装置に本発明が適用されているが、たとえば「上下方向の遥動不能」、「上下方向と左右の双方の遥動(あるいはスライド)が可能」、あるいは「固定」の刈取部を備える収穫装置に適用することも可能である。さらに、水滴除去アタッチメントは、刈取部に装着する構成だけでなく、クローラに装着するようにしてもよい。ただし、刈取部に装着すれば、水滴除去アタッチメントが刈取部とともに上下に遥動するので、水滴除去アタッチメントの地上からの高さが地表の凹凸や傾斜に応じて適切な位置に維持されることになる。なお、特許請求の範囲における「前方」は、広い意味を有し、たとえば「予め設定された収穫時の収穫装置本体の進行方向」や「刈取部が左右に遥動可能な場合には、収穫装置本体の前方と刈取部の前方の双方」を含む。
【0048】
B−4.第4変形例:上述の実施例では、リールバーが、植物から受ける反作用に応じて回転可能に一対の側板に装着されているが、必ずしもリールバー全体が回転する必要は無く、リールバーの一部が回転する構成としてもよい。なお、特許請求の範囲における「回転遥動部」は、たとえば回転可能なリールバーの一部と、回転可能なリールバーの全体とを含む広い概念を有している。
【0049】
B−5.第5変形例:上述の実施例では、リールバーや中間支持部材を2本ずつ使用する構成が例示されているが、たとえばリールバーや中間支持部材が3本以上であっても良い。また、リールバーと中間支持部材の数は必ずしも一致させる必要はなく、たとえばリールバーが3本で中間支持部材が4本のように中間支持部材の数の方が多くてもよく、あるいはリールバーが5本で中間支持部材が3本のようにリールバーの数の方が多くてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10…収穫装置
100…収穫装置本体
110…刈取部
111…分草体
112…引起し装置
113…掻込み搬送装置
114…センサ
115…フレーム
120…クローラ
121…ロールベール形成機構
125…遥動支持部
126…油圧アクチュエータ
127…供給搬送装置
200…水滴除去アタッチメント
210…水滴除去部
211W1、211W2…リールバー
211Sh1〜211Sh4…締結孔
211…水滴除去リール
211U1L、211U1R、211U2L、211U2R…自在継手
211C…中空中心軸
211G…駆動ギア
211h…気体排出孔
211i…気体供給孔
211L1、211R1…中間支持部材
211W1、211W2…リールバー
211BR…ベアリング
211SL、211SR…側板
212…リール支持フレーム
213…油圧モータ
214…リール軸受け板
215…駆動チェーン
220…支持構造体
221…枠状構造体
222、223…アタッチメント固定部材
224…締結孔
225…締結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方に進行しつつ立毛状態の植物を収穫する収穫装置本体に装着される水滴除去アタッチメントであって、
前記立毛状態の植物に付着している水滴を除去する水滴除去部と、
前記収穫装置本体の前方であって、前記収穫装置本体の前端部から水平方向に離隔した位置に前記水滴除去部を支持する支持構造体と、
を備え、
前記水滴除去部が、前記進行方向にほぼ垂直でほぼ水平面内の回転軸の周りに回転しつつ、前記立毛状態の植物に対して前方方向に衝突する回転部材を有する水滴除去アタッチメント。
【請求項2】
請求項1記載の水滴除去アタッチメントであって、
前記回転部材が、前記回転に応じて、前記回転の接線方向と前記回転軸に平行な方向の双方の成分を有する遥動を前記植物に与えるように構成されたリールバーを有する水滴除去アタッチメント。
【請求項3】
請求項2記載の水滴除去アタッチメントであって、
前記リールバーが、水平面内において前記回転軸の方向に対して傾斜する部分を有することによって、前記回転の接線方向と前記回転軸に平行な方向の双方の成分を有する遥動を前記植物に与えるように構成されており、
前記傾斜の角度が、可変である水滴除去アタッチメント。
【請求項4】
請求項2または3に記載の水滴除去アタッチメントであって、
前記リールバーが、前記植物から受ける反作用に応じて回転可能に装着された回転遥動部を有する水滴除去アタッチメント。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の水滴除去アタッチメントであって、
前記水滴除去部が、
気体供給孔と、前記気体供給孔から供給された気体を排出の中心軸が鉛直下方の方向に対して前記進行方向の前後60度の角度の範囲内に入るように排出する少なくとも2個の気体排出孔と、を有する中空の中空中心軸部材と、
前記中空中心軸部材に対して回転可能に前記回転部材を支持する一対の回転軸受けと、
を備える水滴除去アタッチメント。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水滴除去アタッチメントであって、
前記収穫装置本体が、前記収穫装置本体の進行を可能とする車両と、前記車両に対して上下方向に遥動可能に装備されている刈取部とを有し、
前記支持構造体が、前記刈取部に装着されるように構成されたアタッチメント固定部材を有している水滴除去アタッチメント。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水滴除去アタッチメントであって、
前記支持構造体が、前記水滴除去部を鉛直方向の位置が可変に装着されるように構成された水滴除去部側装着部を有している水滴除去アタッチメント。
【請求項8】
収穫装置であって、
所定の方向に進行しつつ立毛状態の植物を収穫する収穫装置本体と、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の水滴除去アタッチメントと、
を備える収穫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−41489(P2011−41489A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190462(P2009−190462)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【出願人】(509233932)有限会社ドリームファームスズカ (1)
【Fターム(参考)】