説明

水濡れ環境用の滑り止めシート

【課題】まな板等の調理具、水濡れ環境で使用される浴室マット等の滑り止めとして使用できる滑り止めシートを提供する。
【解決手段】複数の凸状部がシート基体に形成され、凸状部先端が柔軟なエラストマー樹脂により形成され、それぞれ独立して柱状に立設されており、凸状部の頂上は平滑な面に形成され、頂上面と凸状部側面とは明確に角付けされている水濡れ環境用の滑り止めシートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水濡れした環境にも適用できる滑り止めシートに係わり、例えば、水濡れ環境で使用されるまな板等の調理具、水濡れ環境で使用される浴室マット等の滑り止めとして使用できる水濡れ環境用の滑り止めシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば、水濡れしたステンレス製の調理台上でまな板が滑るという問題に対して滑り止めの提案がされており、例えば、まな板の底面に凸型の突起を形成し、これに熱可塑性弾性材料を結合した滑り止め付きまな板(特許文献1参照)、また、自体がゴム状弾性材料により形成され、表面に凹凸パターン、吸盤等を形成したまな板用滑り止めシート(特許文献2参照)、等が提案されている。
【0003】
特許文献1の滑り止め付きまな板では、剛性の高いまな板本体の底面に滑り止めの凸型突起を形成しているがこの様な形状の突起では水濡れ環境では効果が不十分であり、また、調理台が平坦でない場合等には接触面積が減少して更に効果が発揮できず、また、両面使用が一般的なまな板自体の使用面が片面だけとなって使用者には受け入れ難いものである。
【0004】
特許文献2のまな板用滑り止めシートでは、まな板と別体の滑り止めシートをまな板の下に敷いて使用するため、調理台の平坦性を許容してまな板の利用度も向上する。しかしながら、滑り止めに吸盤等を採用しても垂直方向の吸着力には優れるものの、水濡れ環境下では水平方向には依然として滑りやすく滑り止めの効果が十分なものではなかった。
【0005】
この様に、従来からの滑り止めに対する対策は、単にゴム状弾性材料を使用したり、これらの表面に単に凹凸等を付することで対応するのが一般的であり、これらの対策は乾燥した環境では効果を発揮するものの、水濡れした環境では十分な効果を示すものではなかった。そのため、乾燥した環境ではもとより、この様な水濡れした環境においても十分な滑り止め機能を有する滑り止めシートの開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特表2006−501017号公報
【特許文献2】特開2005−021565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者は、特に水濡れした環境においても十分な滑り止め性能を有しており、例えば、環境上水濡れ作業が通例な調理具、或いは、水濡れ環境の浴室回り等の滑り止めに応用でき、これらの下に敷くことで容易に使用できる滑り止めシートを開発することについて鋭意検討した結果、従来の単なる凹凸又は吸盤等を設けることでは、水濡れした調理台等との接触面に介在する水膜が潤滑剤となって十分な滑り止め効果が得られていないことに着目して、本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明の目的は、乾燥環境下はもとより、水濡れ環境下でも十分な滑り止め機能を有する水濡れ環境用の滑り止めシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、凸状部がシート基体の表面に複数形成されてなる滑り止めシートであり、凸状部は、少なくとも先端が柔軟なエラストマー樹脂により形成され、シート基体の表面からそれぞれ独立して柱状に立設されており、凸状部の頂上は平滑な面に形成された頂上面を有し、頂上面と凸状部側面とは明確に角付けされてなり、水濡れ環境における静摩擦係数が1以上の滑り止め性能を有していることを特徴とする水濡れ環境用の滑り止めシートである。
【0010】
本発明の滑り止めシートは、この様な形態の凸状部をシート基体の表面に複数形成したことにより、水濡れ環境下においても十分な滑り止め機能を有しており、例えば、水濡れしたステンレス製の調理台と水濡れしたまな板との間に本発明の滑り止めシートを介在させることによって、調理作業でのまな板の滑りを防止することができる。
【0011】
本発明では、シート基体の表面に形成される凸状部は、シート基体の表面からそれぞれ独立して柱状に立設する凸状部を複数有しているため、まな板又は調理台が平坦性に欠ける場合でも、滑り止めシート自体が変形して多くの独立した凸状部がまな板及び調理台と当接しやすくなると共に、柱状に立設する凸状部によってまな板上に作用する荷重を応力として調理台へ有効に伝達して、凸状部先端と調理台との間に押しつけ応力を作用させる。
【0012】
そして、凸状部は、少なくとも先端が柔軟なエラストマー樹脂により形成され、凸状部の頂上は平滑な面に形成された頂上面を有しているため、上記の押しつけ応力の作用によって、凸状部先端の柔軟なエラストマー樹脂が調理台表面に密着するが、この際、平滑な面に形成された凸状部の頂上面によって、凸状部と調理台に介在する水膜がより完全に近い状態で排水排除され、凸状部先端と調理台表面とが真空的な密着状態となって、まな板に作用する水平方向の応力に対する滑り止めの耐力となる。
【0013】
更に、本発明では、凸状部の頂上面と凸状部側面とは明確に角付けされているため、上記の頂上面によって水膜を排除する上で、明確に角付けされた頂上面の輪郭によって水膜を断ち切りやすく、また水の侵入を阻止して、凸状部と調理台に介在する水膜を有効に排除して密着を促進すると共に、明確に角付けされた頂上面の輪郭が水平方向の応力に対する抗力となって、更に滑り止めの効果を向上させる。
【0014】
そして、上記のように形成された水濡れ環境用の滑り止めシートは、水濡れ環境における静摩擦係数が1以上の滑り止め性能を有していることが好ましく、水濡れ環境における静摩擦係数が1以上の滑り止め性能であれば、滑り止め性能試験の結果から、水濡れ環境下で使用される物品の滑りを防止して作業性、安全性等を向上させることができる。また、水濡れ環境における静摩擦係数が高いほど滑り止め性能が高まり、更に好ましくは、1.3以上又は1.5以上の静摩擦係数が例示できる。尚、水濡れ環境における静摩擦係数は、試験方法として、JISK7125(プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数試験方法)に準じて行なわれる試験により得られた静摩擦係数である。ここで、静摩擦力は摩擦面が接触する時間と共に増加するため、接触時間を30秒と規定する。
【0015】
また、本発明では、凸状部の頂上面はできる限り平滑な面に形成されているのが好ましく、例えば、凸状部の頂上面を算術平均粗さRaが5μm以下の表面粗さ(JISB0601による)に形成するのがよく、好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは2μm以下であり、或いは、凸状部の頂上面を表面に光沢を有するほどの鏡面状に形成すること等が例示できる。これによれば、凸状部先端の柔軟なエラストマー樹脂が調理台表面に介在する水膜をより完全に排水排除し、凸状部先端と調理台表面とをより密着状態にすることができ滑り止めの耐力を大きくできる。これに対して、凸状部の頂上面が平滑でない場合には、凸状部先端と調理台表面に介在する水膜を十分に排除することができず水膜が潤滑剤に転じ、滑り止めの効果が不十分となる。
【0016】
更に、本発明では、凸状部の頂上面と凸状部側面とは成形上可能な限り明確に角付けされていることが好ましい。角付けが明確であるほど水平方向の抗力を向上させ滑り止めの効果が高まり、角付けが不足して角部が大きく丸まっていると水平方向の抗力が不足する。そのため、凸状部の頂上面と凸状部側面との角付けは、角部の形状が半径500μm以下のR形状に近似する形状に形成することが例示でき、好ましくは半径300μm以下であり、更に好ましくは半径200μm以下、又は半径100μm以下のR形状に近似する形状が例示できる。
【0017】
また、本発明では、凸状部は、少なくともその先端又は全体が柔軟なエラストマー樹脂により形成されていることが好ましい。エラストマー樹脂としては、例えば、スチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、塩化ビニール系エラストマー、塩素化ポリエチレン、シリコンゴム、合成ゴム、天然ゴム、等のエラストマー樹脂が例示でき、熱可塑性、熱硬化性を問わず使用できる。とりわけ、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系の熱可塑性エラストマー樹脂は加工性もよく、機械的強度及び耐摩耗性にも優れており好ましく適用できる。
【0018】
また、凸状部を形成するエラストマー樹脂は適度な粘着性を有することで滑り止め耐力を向上できるので、エラストマー樹脂に適宜な粘着付与材を配合することが好ましい。粘着付与材としては、ロジン、ロジン誘導体、ポリテルペン、テルペンフェノール樹脂、その他石油留分から合成される石油樹脂等が例示できる。
【0019】
そして、エラストマー樹脂は柔軟であることが好ましいが、柔らかすぎると滑り止め時の耐力が低下し、また、硬すぎると調理台等の凹凸に対する追随密着性が低下して滑り止め効果を低下させる。硬度としては、30〜90度(デュロメータA硬度JISK6253による)の範囲で使用可能であり、好ましくは概ね40〜70度の柔軟なエラストマー樹脂が例示できる。
【0020】
ここで、凸状部の形状について、凸状部の横断面形状は、円形、楕円形、半円形、矩形、方形、多角形、模様形等が例示できる。平坦性に欠ける調理台等への適用を考慮すれば、長尺的に長く延在する横断面形状よりも単一的に独立した横断面形状とすることが好ましく、それぞれが単一的に独立した凸状部とすることでより多くの凸状部がまな板及び調理台と当接しやすくなり好ましい。また、滑り止めの方向性をより少なくする観点から、円形の横断面形状を持つ凸状部を複数均一的に配設することが例示できる。
【0021】
そして、凸状部の縦断面形状については、矩形、方形、台形、円弧形及びこれらを組み合わせた形状等の縦断面形状が例示でき、まな板上に作用する荷重を応力として調理台等へ有効に伝達しやすい形状で固状に形成されていることが好ましい。また、凸状部は、その全体が略々台形に近似する縦断面形状を有し、凸状部先端の上底よりもシート基体に接する下底が大きく形成されていることでもよく、これによれば、表面に凸状部を持つ水濡れ環境下で使用される滑り止めシートにあっては、使用中の汚れの付着や細菌の繁殖等に対して洗浄時の死角となる凸状部の根元付近の洗浄がしやすくなり、その衛生性を向上させることができる。
【0022】
これらの凸状部の縦断面形状は、具体的には、頂上からシート基体に向かって拡がる台形や、頂上からシート基体に向かって円弧状に拡がる富士山形状や、凸状部の頂上付近が矩形でありここからシート基体に向かって拡がる台形と組み合わせた形状や、凸状部の頂上付近が矩形でありここからシート基体に向かって円弧状に拡がる縦断面形状等が例示でき、この様な凸状部全体が略々台形に近似する縦断面形状であって、凸状部先端の上底よりもシート基体に接する下底の方が大きい縦断面形状が例示でき、シート表面からのブラシ洗浄等によって凸状部側面や汚れのたまりやすい凸状部の根元部分の洗浄を容易にできる。尚、上底と下底の大きさの比率は、凸状部中央の縦断面における上底の長さに対して概ね1〜1.5の比率で下底の長さを形成することが例示できる。
【0023】
更に、凸状部の高さについては、シート基体から概ね0.1〜5mmの範囲で設定可能であるが、高さが低すぎると凸状部での水膜の排除が好ましくなく、また高さが高すぎると凸状部の洗浄がしにくくなると共に、凸状部の変形が大きくなり滑り止め耐力が失われる。これらを考慮すれば、凸状部の高さはシート基体の表面から概ね0.1〜3mmの範囲に形成されていることを例示できる。更に好ましくは、0.3〜2mmの高さが例示でき、滑り止め耐力が高く凸状部及びシート基体表面の洗浄性が優れたものにできる。尚、凸状部の高さはシート基体の表面から凸状部の頂上面までの垂直距離である。
【0024】
そして、凸状部は、個々の頂上面の面積が1〜900mmの大きさでシート基体に均一的に配列されることが例示でき、好ましくは1〜400mmの大きさが例示でき、頂上面の面積が大きすぎると上部方向からの荷重に対する単位面積当たりの応力が小さくなり有効に水膜が排除できなくなり、頂上面の面積が小さすぎると成形が困難となる上、凸状部自体が変形して好ましい滑り止め効果が得られない。
【0025】
また、頂上面の合計面積はシート基体の全面積に対して概ね20〜60%の割合に形成されていることが例示でき、好ましくは20〜40%の割合が例示でき、これによれば、調理台等の不均一な面に対しても数多くの凸状部が当接することができ、有効な滑り止め作用を機能させることができる。頂上面の形成割合が低すぎると滑り止めが有効に機能せず、頂上面の形成割合が高すぎると凸状部が密集して洗浄がしにくくなり不衛生なものとなる。
【0026】
また、上記のような凸状部は、シート基体の両面に形成されており、シート基体に対して略対称に形成されることを例示でき、これによれば、例えばまな板と調理台の間に敷いて使用すれば、両面の凸状部に対して有効に応力が伝達して、まな板及び調理台の両方に対しての滑りを防止することができる。尚、シート基体の両面に形成される凸状部の位置関係において、必ずしも完全(100%)に両面対称の位置関係に形成されていなくてもよく、有効に応力を伝達できる観点からすれば、両面での一方の凸状部と他方の凸状部とは概ね60%以上の割合で両面の凸状部が符合する位置関係であればよい。また、両面の凸状部は異なる形状の凸状部を両面に設けるようにしてもよい。
【0027】
更に、これらの凸状部は、全体にシート状のシート基体上に形成されているのがよい。シート基体としては、凸状部の形成と同時に一体的に成形されるエラストマー樹脂のシート基体でもよく、凸状部と異なるエラストマー樹脂によるシート基体でもよい。また、他のプラスチックによるシート基体上にエラストマー樹脂の凸状部を形成することでもよく、更に、他のプラスチックによってシート基体及び凸状部を形成して更に凸状部先端をエラストマー樹脂とするもの等の構成を例示することができる。
【0028】
また、凸状部は、シート基体の片面に設けるようにして、他方の面を平坦に成形した滑り止めシートとしてもよく、この場合には、当該滑り止めシートを例えばまな板等の裏面に貼着して調理台とのまな板の滑りを防止するようにしてもよい。
【0029】
また、少なくとも、凸状部のエラストマー樹脂には抗菌剤を配合しておくことが好ましい。水濡れ環境における滑り止めシートを細菌の繁殖を抑制した衛生的な環境に保つことができる。また、抗菌剤はシート基体にも配合しておくことが好ましい。
【0030】
ここで、シート基体は、耐水性に優れる材料であればよく、例えば、プラスチック又はゴム等のシート類、金属シート類、メッシュ状シート類、織布状シート類、及びこれらのシートの単層体でもよく、更にこれらのシート材料を複合したり積層したもの等が例示できる。尚、本発明では、シート基体は、シート基体と凸状部が同一材料で一体的に形成されたとしても、凸状部を除くシート状の基体部分をシート基体と称している。
【0031】
そして、本発明の滑り止めシートは水濡れ環境で使用される観点から、立てかけ保管可能な剛性が付与されているのがよい。これによれば、柔軟なエラストマー樹脂で一体的に成形した滑り止めシートでは全体が柔軟で立てかけると折れ曲がり有効に水切り乾燥が行えず、吊すなどして水切り乾燥しなければならないのに対して、シート基体に剛性が付与されるため、その取扱性を容易にすると共に、まな板のように立てかけて水切り乾燥ができ、滑り止めシートの衛生性の維持が容易となる。
【0032】
そのため、本発明では、滑り止めシートを立てかけて保管するに必要なシート剛性として、片持ち支持による自重たわみ量として、片持ち支持長さが100mmでの自重たわみが30mm以下となるシート剛性を有することが例示でき、好ましくは20mm以下の自重たわみとなるシート剛性が例示でき、このようなシート剛性であれば使用洗浄後の滑り止めシートを壁などに対して良好に立てかけられることができ、水切り乾燥保管がしやすく衛生性が保てる。尚、片持ち支持による自然たわみ量とは、幅50mmの対象シートを100mmの長さで水平に片持ち支持固定した時の水平基準位置からの対象シート先端の自重自然垂れ下がり量であり、標準状態で支持固定後1分経過後の測定値である。
【0033】
そして、本発明の滑り止めシートは、少なくともシート基体の内部又は表面には、凸状部を形成するエラストマー樹脂より剛性の高いプラスチックを配設して、立てかけ保管可能な剛性を付与することが例示でき、この様なプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリロブタジエン、ウレタン、ポリ塩化ビニール、凸状部を形成するエラストマー樹脂より剛性の高いエラストマー等のプラスチックが例示でき、これらはエラストマー樹脂との接着性に優れており、これらの樹脂によるフィルム、シート等をシート基体に配設してその剛性を高めることができる。
【0034】
また、エラストマー樹脂及び/又はシート基体は、例えば青色等に着色しておくことが好ましい。青色の食材は少なく、万が一破断片等が食材へ混入した場合等に発見することを容易とする。
【0035】
尚、本発明の水濡れ環境用の滑り止めシートは、適宜形状の型を使用して成形するプラスチックの射出成形、プレス成形、押出成形等の公知のプラスチック成形手段で製造することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の水濡れ環境用の滑り止めシートは、乾燥環境下はもとより、水濡れ環境下でも十分な滑り止め性能を有しており、水濡れ環境下で使用される物品の滑りを防止して作業性、衛生性等を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付図面に示す実施例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0038】
[第1実施例]
図1は、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの第1実施例を示す図である。
図1(a)は本第1実施例における水濡れ環境用の滑り止めシート10を示す正面図である。図1(b)は水濡れ環境用の滑り止めシート10を示す上面図である。図1(c)は水濡れ環境用の滑り止めシート10を示す一部縦断面を付記した部分拡大上面図である。水濡れ環境用の滑り止めシート10は、全体が柔軟なエラストマー樹脂15により一体的に形成され、シート基体11の表面に複数の凸状部12が形成されている。凸状部12は、シート基体11の表面からそれぞれ独立して柱状に立設されており、凸状部12の頂上は平滑な面に形成された頂上面14を有しており、頂上面14と凸状部側面13とは明確に角付けされている。
【0039】
凸状部12は、熱可塑性のスチレン系エラストマー樹脂よりなり、デュロメータA硬度が53度の柔軟なエラストマー樹脂15により形成される直径5mmで高さ1mmの円柱状であり、円形の横断面と矩形の縦断面形状に形成されている。凸状部12の頂上面14は、光沢を有する程の鏡面状の平滑な面に形成され、表面粗さ形状測定器(東京精密製サーフコム)によれば表面粗さRaが0.2μmであった。また、凸状部12の頂上面14と凸状部側面13とは明確に角付けされており、50倍の拡大映像によれば角部の形状が概略半径80μm程度のR形状に近似する形状を持つ縦断面形状が観察できた。
【0040】
更に、凸状部12は、厚さ2mmのシート基体11に対して均一的に配列され、凸状部12はシート基体11の両面に形成されており、シート基体11に対して対称に形成されている。そして、凸状部12の頂上面14の面積は約20mmであり、片面の頂上面14の合計面積はシート基体の全面積に対して概ね35%の割合に形成されている。
【0041】
[第2実施例]
次に、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの第2実施例について説明する。尚、本実施例において、第1実施例に示す構成と同一の構成については、同一符号を付すことでその説明を省略する。
図2は、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの第2実施例を示す図である。
【0042】
図2は、本第2実施例における水濡れ環境用の滑り止めシート20を示す図である。図2(a)は水濡れ環境用の滑り止めシート20を示す正面図である。図2(b)は水濡れ環境用の滑り止めシート20を示す上面図である。図2(c)は水濡れ環境用の滑り止めシート20を示す一部縦断面を付記した部分拡大上面図である。水濡れ環境用の滑り止めシート20は、全体が柔軟なエラストマー樹脂15により一体的に形成され、シート基体11の表面に複数の凸状部12が形成されている。凸状部12は、シート基体11の表面からそれぞれ独立して柱状に立設されており、凸状部12の頂上は平滑な面に形成された頂上面14を有しており、頂上面14と凸状部側面13とは明確に角付けされている。尚、本第2実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート20は、第1実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート10と比較して、凸状部12の形状が異なるだけでその他については第1実施例と同様である。
【0043】
本第2実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート20の凸状部12は、柔軟なエラストマー樹脂15により形成される直径5mmで高さ1mmの略円柱状であり、横断面形状は円形であって、縦断面形状は凸状部の頂上付近が矩形でありここからシート基体に向かって拡がる台形と組み合わせた形状に形成されており、凸状部12は、その全体が略々台形に近似する縦断面形状を有し、凸状部先端の上底よりもシート基体に接する下底が大きい直径6mmに形成されている。
【0044】
また、凸状部12の頂上面14の表面粗さは、表面粗さRaが1.7μmの平滑な面に形成されており、更に、凸状部12の頂上面14と凸状部側面13とは第1実施例と同様に明確に角付けされている。
【0045】
[第3実施例]
次に、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの第3実施例について説明する。尚、本実施例において、第1実施例に示す構成と同一の構成については、同一符号を付すことでその説明を省略する。
図3及び図4は、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの第3実施例を示す図である。
【0046】
図3は、本第3実施例における水濡れ環境用の滑り止めシート30を示す図である。図3(a)は水濡れ環境用の滑り止めシート30を示す正面図である。図3(b)は水濡れ環境用の滑り止めシート30を示す上面図である。図3(c)は水濡れ環境用の滑り止めシート30を示す一部縦断面を付記した部分拡大上面図である。水濡れ環境用の滑り止めシート30は、シート基体11の表面に柔軟なエラストマー樹脂15による複数の凸状部12が形成されている。凸状部12は、シート基体11の表面からそれぞれ独立して柱状に立設されており、凸状部12の頂上は平滑な面に形成された頂上面14(表面粗さRaが3.6μm)を有しており、頂上面14と凸状部側面13とは第1実施例と同様に明確に角付けされている。尚、本第3実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート30は、第2実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート20と比較して、凸状部12の形状が異なる点及びシート基体11の構成が異なる点以外は第2実施例と同様である。
【0047】
本第3実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート30の凸状部12は、柔軟なエラストマー樹脂15により形成される直径5mmで高さ1mmの略円柱状であり、横断面形状は円形であって、縦断面形状は凸状部の頂上付近が矩形でありここからシート基体に向かって円弧状に拡がる形状に形成されており、凸状部12は、その全体が略々台形に近似する縦断面形状を有し、凸状部先端の上底よりもシート基体に接する下底が大きく直径6mmに形成されており、凸状部12の根元付近の汚れを容易に洗浄することができる。
【0048】
また、本第3実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート30は、シート基体11の内部に、エラストマー樹脂より剛性の高いシート状のプラスチック36を配設して立てかけ保管が可能な剛性を付与したものである。総厚2.6mmのシート基体11の略中心に配設されるプラスチック36は、ポリプロピレン樹脂による厚さ0.6mmのプラスチックシートである。
【0049】
水濡れ環境用の滑り止めシート30は、片持ち支持による100mm長さでの自重たわみが11mmとなるシート剛性を有しており、壁などに対して良好に立てかけられることができた。因みに、プラスチック36の厚さを0.4mmとした時のシート剛性は自重たわみが23mmで立てかけ可能な剛性であり、また、第1実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート10のシート剛性は自重たわみが72mmで立てかけ保管ができないものであった。
【0050】
図4は、本第3実施例における水濡れ環境用の滑り止めシート30の変形例を示す図であり、第1変形例(図4(a))、第2変形例(図4(b))及び第3変形例(図4(c))を示す一部縦断面を付記した部分拡大上面図である。
【0051】
図4(a)の第1変形例の水濡れ環境用の滑り止めシート40は、本第1実施例における水濡れ環境用の滑り止めシート10と同一の凸状部12で構成されている。水濡れ環境用の滑り止めシート40は、シート基体11の表面となる凸状部12を除く部分に、柔軟なエラストマー樹脂15より剛性の高いフィルム状のプラスチック46をシート基体11の両面に配設して構成されている。プラスチック46は、ポリプロピレン樹脂による厚さ0.2mmのフィルムであり、水濡れ環境用の滑り止めシート40の成形と同時に熱融着一体化されている。
【0052】
尚、本第1変形例の水濡れ環境用の滑り止めシート40は、片持ち支持による100mm長さでの自重たわみが2mmとなるシート剛性を有しており壁などに対して良好に立てかけられることができる。また、凸状部12の根元回りのシート基体11がプラスチック46で形成されているため、汚れの付着が少なくまた洗浄がしやすい構成となっている。
【0053】
図4(b)の第2変形例の水濡れ環境用の滑り止めシート50は、凸状部12の形状が他の実施例と異なり、凸状部12が頂上からシート基体に向かって円弧状に拡がる富士山形状に形成されて、凸状部全体が略々台形に近似する縦断面形状で凸状部先端の上底よりもシート基体に接する下底の方が大きい縦断面形状を有しており、凸状部12の根元付近の汚れを容易に洗浄することができる。
【0054】
また、水濡れ環境用の滑り止めシート50は、シート基体11の表面となり、また凸状部12を除くシート基体11の全体がシート状のプラスチック56によって形成されている。プラスチック56は、エラストマー樹脂15よりD硬度64度のエラストマー樹脂による厚さ2mmのシートであり、水濡れ環境用の滑り止めシート50の成形と同時に熱融着一体化され、片持ち支持による100mm長さでの自重たわみが15mmとなるシート剛性を有して立てかけ保管可能であると共に、凸状部12の根元回りのシート基体11がプラスチック56で形成され、汚れの付着が少なくまた洗浄がしやすい構成となっている。
【0055】
図4(c)の第3変形例の水濡れ環境用の滑り止めシート60は、凸状部12の形状が他の実施例と異なり、凸状部12が頂上からシート基体に向かって拡がる台形に形成される凸状部全体が略々台形に近似する縦断面形状であり、凸状部先端の上底よりもシート基体に接する下底の方が大きい縦断面形状を有しており、凸状部12の根元付近の汚れを容易に洗浄することができる。
【0056】
また、水濡れ環境用の滑り止めシート60は、凸状部12の内部及びシート基体11内部がポリプロピレンによるプラスチック66によって構成されており、その全体の表層部が厚さ0.7mmのエラストマー樹脂15によって形成されている。この時のシート基体の総厚さは1.8mmである。本第3変形例の水濡れ環境用の滑り止めシート60は、片持ち支持による100mm長さでの自重たわみが10mmとなるシート剛性を有しており他の変形例と同様の滑り止め効果を有し、洗浄性に優れ、立てかけ保管可能な剛性を有している。
【0057】
[第4実施例]
次に、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの第3実施例について説明する。
本第4実施例は、第1実施例と同様の構成において、凸状部12の頂上面14の表面粗さRaが4.6μmであり、頂上面14と凸状部側面13との角付けが角部のR形状が約半径500μmに形成されたものであり、その他については、第1実施例と同様である。
【0058】
[比較例]
次に、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの滑り止め性能試験を実施するに当たり、性能比較のための比較例として第1実施例と同様の仕様における比較例1及び比較例2を作成した。比較例1は凸状部を形成しないエラストマー樹脂によるフラットなシート基体だけのものを滑り止めシートとして採用したものである。また、比較例2として、滑り止めシートを使用しないで試験したものを比較例2とした。
【0059】
[滑り止め性能試験]
次に、本発明に係る水濡れ環境用の滑り止めシートの性能について実施した滑り止め性能試験について説明する。
【0060】
[試験方法]
本第1実施例の水濡れ環境用の滑り止めシート10についての滑り止め性能試験を行った。試験方法はJISK7125(プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数試験方法)に準じて行った。ステンレス板上に、試験試料となる各滑り止めシートを載置し、その上に市販の表面エンボス付き厚さ20mmのまな板を滑り片として採用した。滑り片の接触面積は40cmであり、全質量は200gである。
【0061】
尚、乾燥環境時と水濡れ環境時について試験し、それぞれ静摩擦力、動摩擦力を測定した。尚、水濡れ環境の試験で毎回100ccの水を試料にかけて実施した。また、静摩擦力の測定では接触時間を30秒とした。
また、官能試験については、水濡れ環境時において、滑り片となるまな板上部に実用的な種々の力を加えながら滑り耐力を感覚的に把握して、滑り耐力が、○:優れる、△:使用可能である、×:使用に不適である、の3段階評価を行った。
【0062】
[試験結果]
摩擦係数を測定した試験結果を表1に示す。
【表1】

【0063】
以上の試験結果から明らかなように、本発明の水濡れ環境用の滑り止めシートは水濡れ環境下においても十分な滑り止め効果を有するものである。
尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、上記実施例を組み合わせる変形のほか、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明に係る第1実施例における水濡れ環境用の滑り止めシートを示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る第2実施例における水濡れ環境用の滑り止めシートを示す図である。
【図3】図3は、本発明に係る第3実施例における水濡れ環境用の滑り止めシートを示す図である。
【図4】図4は、本発明に係る第3実施例における水濡れ環境用の滑り止めシートの第1変形例〜第3変形例を示す部分拡大上面図である。
【符号の説明】
【0065】
10,20,30,40,50,60:水濡れ環境用の滑り止めシート、11:シート基体、12:凸状部、13:凸状部側面、14:頂上面、15:エラストマー樹脂、36,46,56,66:プラスチック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状部がシート基体の表面に複数形成されてなる滑り止めシートであり、凸状部は、少なくとも先端が柔軟なエラストマー樹脂により形成され、シート基体の表面からそれぞれ独立して柱状に立設されており、凸状部の頂上は平滑な面に形成された頂上面を有し、頂上面と凸状部側面とは明確に角付けされてなり、水濡れ環境における静摩擦係数が1以上の滑り止め性能を有していることを特徴とする水濡れ環境用の滑り止めシート。
【請求項2】
凸状部の頂上面は、算術平均粗さRaが5μm以下の表面粗さに形成されている請求項1に記載の水濡れ環境用の滑り止めシート。
【請求項3】
凸状部の頂上面と凸状部側面との角付けは、角部の形状が半径500μm以下のR形状に近似する形状に形成されている請求項1又は2に記載の水濡れ環境用の滑り止めシート。
【請求項4】
凸状部の高さは、シート基体の表面から0.1〜3mmの範囲に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の水濡れ環境用の滑り止めシート。
【請求項5】
凸状部は、個々の頂上面の面積が1〜400mmの大きさでシート基体に均一的に配列され、頂上面の合計面積はシート基体の全面積に対して20〜60%の割合に形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の水濡れ環境用の滑り止めシート。
【請求項6】
凸状部は、シート基体の両面に形成されており、シート基体に対して略対称に形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の水濡れ環境用の滑り止めシート。
【請求項7】
凸状部は、その全体が略々台形に近似する縦断面形状を有し、凸状部先端の上底よりもシート基体に接する下底が大きく形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の水濡れ環境用の滑り止めシート。
【請求項8】
少なくともシート基体の内部又は表面に、凸状部を形成するエラストマー樹脂より剛性の高いプラスチックを配設して、片持ち支持による100mm長さでの自重たわみが30mm以下となるシート剛性を有する請求項1〜7のいずれかに記載の水濡れ環境用の滑り止めシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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