説明

水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法

【課題】 ハロゲン化銀乳剤中に含まれるハロゲン化銀粒子の分散性を保ったまま、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を水系から溶剤系へ相転移させる方法を提供することにあり、また、本発明の第2の目的は、親水性高分子を保護コロイドとして用い水系で形成した水系微粒子の分散物を、分散性を劣化させることなく水系から溶剤系へ相転移させる方法を提供することにある。
【解決手段】 親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、有機溶媒相へ転相、分散させ水系微粒子の有機溶媒分散物をうる水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法において、親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、前記有機溶媒に溶解可能であり、かつ前記親水性高分子と水素結合可能な官能基を有する合成高分子の前記有機溶媒溶液と混合することを特徴とする水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、有機溶媒相へ転相、分散させ水系微粒子の有機溶媒分散物をうる水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法に関し、更には水性ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を、有機溶媒に転相分散させハロゲン化銀微粒子の有機溶媒分散物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンはハロゲン化銀粒子の形成において広く使用されており、ハロゲン化銀粒子の形状、粒径等、またその特性を制御する重要な保護コロイドの役割を担う重要な生体由来の高分子としてよく知られているところである。
【0003】
近年、熱現像感光材料が普及してきたが、熱現像感光材料には、感光体としてハロゲン化銀乳剤をベヘン酸銀等高級脂肪酸銀塩と共に、非水系(有機溶剤系)に分散して、感光材料として塗布されるものがあり、ハロゲン化銀微粒子も溶剤系において調製される場合がある。
【0004】
現行ゼラチン仕込により調製したハロゲン化銀粒子を、有機溶剤系に添加することは、有機溶剤中においてゼラチンが凝集をおこすため、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を別添加することは不可能である。
【0005】
この様な水性媒体中に均一に分散された水系微粒子を疎水性媒体中に均一に分散するために、幾つかの方法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、酸素含有無機質微粒子を疎水性媒体へ分散するために親水性官能基含有オルガノポリシロキサンを使用する技術が開示されている。また、ハロゲン化銀微粒子を有機溶媒中において調製する技術もこれまで知られている。
【0007】
更に、親水性、親油性を併せもつポリマー分散剤を現行ゼラチンにかえて用い、ハロゲン化銀粒子を調製し、これを水系からMEK等の溶剤系に転相することにより溶剤系で分散する方法等も検討されている。
【0008】
また、無機質微粒子分散物を、油系に置換する方法として、例えば特開平7−216273におけるように、水系のマイクロカプセルを、カプセル粒子同士が互いに凝集していない状態で油系へ置換させる方法等も知られている。
【0009】
溶剤系におけるハロゲン化銀微粒子の調製はその特性の制御が難しいこと、また、マイクロカプセルのような技術はまた新たな問題を導入することや、ゼラチン以外の合成ポリマー分散剤を用いるハロゲン化銀粒子の調製においてもやはりハロゲン化銀粒子の特性の制御が難しいことが判ってきた。
【0010】
一方で、ゼラチンを保護コロイドとしたハロゲン化銀乳剤の調製は長年わたって研究され技術蓄積がありその知見を利用できることから、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を調製したのち、これを有機溶剤系に転相して用いる技術が検討されている。
【0011】
例えば、特許文献2には、電子顕微鏡画像を用いた感光性ハロゲン化銀の塗布膜中での分散性の記載があるが、ゼラチンを用いハロゲン化銀乳剤を調製しこれを水系での有機銀仕込時に添加する方法で均一に分散させる方法がとられている。しかしながら、ハロゲン化銀が高アルカリに晒されるためカブリ上昇、また、ハロゲン銀粒子の熟成が起こる等欠点がある。
【0012】
また、本発明者等による2003年12月19日出願の特願2003−422484には、現行のゼラチン仕込AgXを有機溶剤系に転相して使用する方法が記載されている。ここにおいてはゼラチンと比較的親和性の高い両親媒性の合成高分子(ポリマー)が用いられゼラチンを被覆或いは溶解して、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を凝集させることなく、例えばメチルエチルケトン等の有機溶剤系へ転相し用いる工夫がされている。これによれば、ゼラチン仕込みのハロゲン化銀粒子を直接有機銀塩中に添加できるため、ゼラチンによるハロゲン化銀乳剤調製技術が利用でき、且つ前記のカブリ上昇、AgX熟成等の欠点大きく改善される。
【0013】
しかしながら、ハロゲン化銀微粒子(ハロゲン化銀乳剤)の有機溶媒中への充分かつ均一な分散という意味では水性媒体中即ちゼラチン中で調製されたハロゲン化銀乳剤の特性が充分発揮されておらず、充分とはいえない。
【0014】
合成高分子について、また、その合成高分子を用いハロゲン化銀ゼラチン乳剤のような無機微粒子の水性分散体を均一に有機溶媒中に転相/分散する方法について、本発明者等は、種々検討を行った結果、ゼラチンのような天然高分子材料にたいし親和性が高く、有機溶剤系において均一な組成物を形成することができる合成高分子を用いて、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤のような無機微粒子の水性分散体を均一に有機溶媒中に転相/分散できる優れた方法を見いだした。
【特許文献1】特開平5−111631号公報
【特許文献2】特開2000−10230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、ハロゲン化銀乳剤中に含まれるハロゲン化銀粒子の分散性を保ったまま、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を水系から溶剤系へ相転移させる方法を提供することにあり、また、本発明の第2の目的は、親水性高分子を保護コロイドとして用い水系で形成した水系微粒子の分散物を、分散性を劣化させることなく水系から溶剤系へ相転移させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記課題は以下の方法により達成される。
【0017】
(請求項1)
親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、有機溶媒相へ転相、分散させ水系微粒子の有機溶媒分散物をうる水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法において、親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、前記有機溶媒相を構成する有機溶媒に溶解可能であり、かつ前記親水性高分子と水素結合可能な官能基を有する合成高分子の前記有機溶媒の溶液と混合することを特徴とする水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0018】
(請求項2)
前記合成高分子において前記親水性高分子と水素結合可能な官能基がアミド基であり、かつ、前記親水性高分子が官能基としてペプチド結合を有することを特徴とする請求項1に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0019】
(請求項3)
前記親水性高分子が天然高分子であることを特徴とする請求項1または2に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0020】
(請求項4)
前記天然高分子がゼラチンであることを特徴とする請求項3に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0021】
(請求項5)
前記合成高分子が、下記一般式(1)で表される共重合体であって、一般式(2)、(4)および(5)で表されるモノマーを含むグラウンド溶液中に、一般式(3)で表されるモノマーを順次添加することで共重合させ、製造されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0022】
【化1】

【0023】
(前記一般式において、R0は水素原子またはメチル基を表し、L1は炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキレン基を、R1は水素原子または炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキル基、シクロアルキル基を表す。また、R2は炭素原子数10以上、22以下のアルキル基を、またR3は水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。
また、ここにおいて、l、m、n、oはそれぞれのモノマー成分の質量%を表し、lは20〜70,mは2〜40、nは5〜20、oは5〜20の範囲であり、またl+m+n+o=100である。また、一般式(4)および(5)において、EOはエチレンオキシ基を、またPOはプロピレンオキシ基を表す。n1およびm1は1〜300、n2およびm2は0〜60の範囲の整数を表す。但しn1+n2、m1+m2はそれぞれ2以上の整数である。)
(請求項6)
前記合成高分子を前記有機溶媒および水の両方に溶解可能な第2の有機溶媒に溶解させたのち、前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液を、水系微粒子の分散物と混合し、更に前記有機溶媒と混合することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0024】
(請求項7)
前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液と水系微粒子の分散物の混合が、前記親水性高分子のゲル化温度よりも0〜30℃高い温度で行われることを特徴とする請求項6に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0025】
(請求項8)
前記有機溶媒の混合が、前記親水性高分子のゲル化温度よりも5〜25℃高い温度で行われることを特徴とする請求項6または7に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0026】
(請求項9)
前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液と水系微粒子の分散物の混合は、合成高分子の第2の有機溶媒溶液中に、水系微粒子の分散物を添加することにより行われることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0027】
(請求項10)
前記有機溶媒の混合は、合成高分子の第2の有機溶媒溶液と、水系微粒子の分散物の混合物中に、有機溶媒を添加し、行われることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0028】
(請求項11)
前記水系微粒子の分散物において、水系微粒子の粒子径が10〜100nmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【0029】
(請求項12)
前記無機微粒子の水性分散物がハロゲン化銀乳剤であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤のような水系微粒子の分散物を、均一に油性の系に転相、分散でき、調製の場と異なる相において利用できる方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0032】
近年、ナノオーダーの微粒子に対する関心が高まっている。
また、用途の多様化により、例えば、熱現像感光材料において、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤をポリビニルブチラール等の有機溶媒可溶なバインダー系において用いる場合にみられるように、微粒子形成の場(水系)と、実際に使用する場(溶剤系)が異なる場合がある。
【0033】
ハロゲン化銀のような無機微粒子、特にナノオーダーの微粒子を凝集することなく形成する手段としては、ゼラチンのような高分子保護コロイドを用いた粒子形成が有効であるが、高分子保護コロイドを用いて水系で形成した微粒子を溶剤系へ転相する際、噴霧乾燥など乾燥工程を経ると粒子の凝集が起こってしまう。
【0034】
また、乾燥させない場合でも、親水性の保護コロイドが疎水性の溶剤中に添加されると、保護コロイドが凝集を引き起こす結果、微粒子が凝集してしまう。
【0035】
従って、親水性の高分子保護コロイドを用い形成した水系微粒子を凝集することなく溶剤系へ転相する技術が必要とされる。
【0036】
本発明により、親水性の高分子保護コロイドと吸着可能な官能基をもつ合成高分子を用いて、水系微粒子と有機溶媒との混合条件などを鋭意検討することにより上記課題を解決する水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法を見いだすことができた。
【0037】
熱現像感光材料の調製に於いては、脂肪酸銀塩粒子の油系分散液中においてハロゲン化銀粒子を均一に保持するために、これまでは、脂肪酸銀粒子調製時に水系において調製した水系分散ハロゲン化銀粒子を混合しており、ハロゲン化銀粒子の熟成・凝集による発色点ロス(Dmax低下)、及び脂肪酸銀塩との接触確率増大などによるカブリ上昇(現像時、保存時)が大きな課題であった。
【0038】
ハロゲン化銀と脂肪酸銀を別々に作成し、後工程で均一に混合することができればハロゲン化銀粒子の熟成・凝集や脂肪酸銀塩との接触など問題点を解決できる。ハロゲン化銀と脂肪酸銀はそれぞれ水系で調製される。特にハロゲン化銀は保護コロイドとして親水性高分子コロイド、特にゼラチンを用い粒子形成することで感光特性の向上が図れる。しかしながら、脂肪酸銀は乾燥工程を経ることで水分除去されて、溶剤中への分散が可能とされたのち、溶剤系分散液として調製され使用される。
【0039】
本発明は、前記ハロゲン化銀粒子のような無機微粒子の調製に用いる親水性高分子と水素結合が可能な官能基をもつ合成高分子を用い、かつ、ハロゲン化銀と有機溶媒との混合条件などを鋭意検討することにより上記課題を解決するものである。
【0040】
親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、有機溶媒を媒体とする系に転相/分散させる本発明に係わる方法は、前記親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、前記有機溶媒に溶解可能であって、かつ前記親水性高分子と水素結合可能な官能基を有する合成高分子の前記有機溶媒溶液と混合することによって達成されるものである。
【0041】
前記水系微粒子の保護コロイドとして好ましい親水性高分子としては分子骨格中にペプチド結合を有するゼラチンが挙げられ、ここにおいてペプチド結合とは、α−アミノ酸同士がカルボキシル基と他のアミノ基とから脱水結合してつくる酸アミド結合のことであり、タンパク、或いはタンパク由来のゼラチン等の天然高分子中の結合骨格となっている結合である。これらの結合は酸アミド結合であり、活性な水素を有する官能基である。
【0042】
これらの天然高分子の代表例としてゼラチンがあり、例えばハロゲン化銀写真感光材料において、特にそのハロゲン化銀乳剤の製造において保護コロイドとして用いられ、ハロゲン化銀の晶癖のコントロール、またその増感等、感光特性に大きな影響を与えるものである。
【0043】
これらの親水性高分子を前記合成高分子と共存させるには、先ず、前記合成高分子が、用いられる有機溶媒に可溶であること、また、前記親水性高分子と親和性の高い合成高分子ポリマーであることが必要であり、特に前記親水性高分子中の構造、或いは官能基と親和性が高い官能基が前記合成高分子中にも存在することが好ましく、この様な官能基として、特に、前記親水性高分子中の所定の構造部位において水素結合の形成が可能な基が好ましい。
【0044】
タンパク由来の天然の親水性高分子は(ゼラチンが代表例としてあげられるが)、ペプチド結合をその骨格中に有しており、前記合成高分子中には、前記親水性高分子における該ペプチド結合にたいし水素結合の形成が可能な基が官能基として含まれることが好ましい。
【0045】
ゼラチンとしては、通常分子量10万程度のアルカリ処理ゼラチンや酸処理ゼラチン、或いは酸化処理したゼラチンや酵素処理ゼラチン等、また、化学修飾ゼラチン(例えば、フタル化ゼラチン等のアシル化ゼラチン、フェニルカルバモイル化ゼラチン等のカルバモイル化ゼラチン等、ゼラチン誘導体)等も挙げられ、ゼラチンの平均分子量としては1万〜7万であることがが好ましく、1万〜5万であることが更に好ましい。
【0046】
また、本発明において用いられる、ゼラチン等の親水性高分子中のペプチド結合にたいし水素結合の形成が可能な官能基を含む前記合成高分子としては、前記一般式(1)で表される共重合体であって、一般式(2)、(4)および(5)で表されるモノマーを含むグラウンド溶液中に、一般式(3)で表されるモノマーを順次添加することで
共重合させ、製造された合成高分子ポリマーが好ましい。
【0047】
一般式(1)中、R0は水素原子またはメチル基を表し、L1は炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキレン基を、R1は水素原子または炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキル基、シクロアルキル基を表す。また、R2は炭素原子数10以上、22以下のアルキル基を、またR3は水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。
また、ここにおいて、l、m、n、oはそれぞれのモノマー成分の質量%を表し、lは20〜70,mは2〜40、nは5〜20、oは5〜20の範囲であり、またl+m+n+o=100である。また、一般式(4)および(5)において、EOはエチレンオキシ基を、またPOはプロピレンオキシ基を表す。n1およびm1は1〜300、n2およびm2は0〜60の範囲の整数を表す。但しn1+n2、m1+m2はそれぞれ2以上の整数である。
【0048】
これらの合成高分子ポリマーは、前記親水性高分子であるゼラチン等の分子中に含まれるペプチド結合に親和性が高く、これと水素結合が可能な酸アミド基をその分子中に、均一に分散された状態で含んでいると考えられる。これは、一般式(3)で表される酸アミド基を有するモノマー成分を順次添加する製造方法によって製造されることにより、一般式(3)で表されるモノマー成分、その酸アミド基が、合成高分子ポリマー中に均一に導入されるためである。これにより、本発明による合成高分子ポリマーは、ゼラチンのような親水性高分子中のペプチド結合と互いに水素結合(と考えている)による相互作用を通し均一に混合するようになる。
【0049】
一般式(1)で表される合成高分子ポリマーにおいて、R0は水素原子またはメチル基を表し、L1は炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキレン基を、R1は水素原子または炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキル基、シクロアルキル基を表す。また、R2は炭素原子数10以上、22以下のアルキル基を、またR3は水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。
【0050】
また、ここにおいて、l、m、n、oはそれぞれのモノマー成分の質量%を表し、lは20〜70,mは2〜40、nは5〜20、oは5〜20の範囲であり、またl+m+n+o=100である。また、EOはエチレンオキシ基を、またPOはプロピレンオキシ基を表す。n1およびm1は1〜300、n2およびm2は0〜60の範囲の整数を表す。但しn1+n2、m1+m2はそれぞれ2以上の整数である。
【0051】
1で表される炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、1,1−ジメチルエチレン等の基を表す、特に1,1−ジメチルエチレンが好ましい。
【0052】
1で表される炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキル基としては、無置換のアルキル基、置換アルキル基を含み、無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基等の基を表す。また、置換アルキル基における置換基としてはハロゲン原子、ヒドロキシ、カルボキシ基等の基を含み、例えば、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。シクロアルキル基としてはシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられるが、また、例えばオキソラニル基、オキサニル基、ピラジニル基等、複素原子を含む飽和炭化水素基でもよい。R1としては水素原子、イソプロピル基等が好ましい。
【0053】
2は炭素原子数10以上、22以下のアルキル基を表すが、好ましくは直鎖の、炭素数16以上のアルキル基、例えば、ステアリル基、ベヘニル基等を表す。
【0054】
またR3で表される炭素原子数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が好ましい。
【0055】
また、ここにおいて、l、m、n、oはそれぞれのモノマー成分の質量%を表し、lは20〜70,mは2〜40、nは5〜20、oは5〜20の範囲であり、またl+m+n+o=100である。
【0056】
また、EOはエチレンオキシ基を、またPOはプロピレンオキシ基を表すが、n1、m1およびn1は6〜100の範囲が好ましく、さらに好ましいのは8〜50である。また、m2およびm2は0〜30の範囲が好ましく、さらに好ましいのは0〜15である。また、n1+n2、m1+m2はそれぞれ好ましくは8以上の整数である。
【0057】
これらの共重合体の製造は、各成分モノマー即ち、下記一般式(2)、(3)、(4)および(5)で表されるモノマーの共重合により得ることができる。
【0058】
一般式(2)で表されるモノマーにおいて、R0、L1は前記と同じ基である。これらのモノマーとしては、代表的にはダイアセトンアクリルアミドがあり好ましいモノマーである。
【0059】
また、一般式(3)で表されるアクリルアミドモノマーとしては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)等が挙げられる。
【0060】
この成分はゼラチンのペプチド結合と親和性が高い酸アミド基を有するモノマー成分であり、共重合体中に均一に、ランダムに配置されることが好ましいと考えられる。
【0061】
一般式(4)および一般式(5)で表されるモノマーにおいてR0、EO、PO、R2、R3等の基は前記一般式(1)におけるものと同義である。これらのポリオキシアルキレン基を有するモノマーとしては、下記の中から選択して用いることができる。
【0062】
例えば(ポリオキシアルキレン)アクリレート及びメタクリレートは、市販のヒドロキシポリ(オキシアルキレン)材料、例えば商品名”プルロニック”[Pluronic(旭電化工業(株)製)]、アデカポリエーテル(旭電化工業(株)製)、カルボワックス[Carbowax(グリコ・プロダクス)]、トリトン[Toriton(ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas製))]およびP.E.G(第一工業製薬(株)製)として販売されているものを公知の方法でアクリル酸、メタクリル酸、アクリルクロリド、メタクリルクロリドまたは無水アクリル酸等と反応させることによって製造できる。
【0063】
また、上市されているものとして、日本油脂株式会社製のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしてブレンマーPE−90、ブレンマーPE−200、ブレンマーPE−350、ブレンマーAE−90、ブレンマーAE−200、ブレンマーAE−400、ブレンマーPP−1000、ブレンマーPP−500、ブレンマーPP−800、ブレンマーAP−150、ブレンマーAP−400、ブレンマーAP−550、ブレンマーAP−800、ブレンマー50PEP−300、ブレンマー70PEP−350B、ブレンマーAEPシリーズ、ブレンマー55PET−400、ブレンマー30PET−800、ブレンマー55PET−800、ブレンマーAETシリーズ、ブレンマー30PPT−800、ブレンマー50PPT−800、ブレンマー70PPT−800、ブレンマーAPTシリーズ、ブレンマー10PPB−500B、ブレンマー10APB−500Bなどがあげられる。同様に日本油脂株式会社製のアルキル末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしてブレンマーPME−100、ブレンマーPME−200、ブレンマーPME−400、ブレンマーPME−1000、ブレンマーPME−4000、ブレンマーAME−400、ブレンマー50POEP−800B、ブレンマー50AOEP−800B、ブレンマーPLE−200、ブレンマーALE−200、ブレンマーALE−800、ブレンマーPSE−400、ブレンマーPSE−1300、ブレンマーASEPシリーズ、ブレンマーPKEPシリーズ、ブレンマーAKEPシリーズ、ブレンマーANE−300、ブレンマーANE−1300、ブレンマーPNEPシリーズ、ブレンマーPNPEシリーズ、ブレンマー43ANEP−500、ブレンマー70ANEP−550など、また共栄社化学株式会社製ライトエステルMC、ライトエステル130MA、ライトエステル041MA、ライトアクリレートBO−A、ライトアクリレートEC−A、ライトアクリレートMTG−A、ライトアクリレート130A、ライトアクリレートDPM−A、ライトアクリレートP−200A、ライトアクリレートNP−4EA、ライトアクリレートNP−8EAなどがあげられ、これらの中から選択し用いることができる。
【0064】
これらの共重合体は水に対する親和性と油性を併せもつ両親媒性のポリマーであり、有機溶媒、水の両者中においてそれぞれ溶解分散する性質を有している。
【0065】
前記原料モノマー例えば、DAAM、NIPAM、前記PSE−400、PME−400等の本発明に係わる共重合体ポリマーの構成成分である各モノマーを共重合比に応じて反応溶媒(例えばメチルエチルケトン等各原料モノマーや生成する共重合体が溶解する溶剤)中において、混合し、重合開始剤を添加し、室温或いは加温して共重合させることで共重合体を得ることができる。
【0066】
しかしながら、単に、これらの原料モノマーを共重合させたのみでは、これらの両親媒性を有する共重合体ポリマーは、ゼラチン等のペプチド結合を有するタンパク由来の高分子コロイドとの相溶性が充分ではなく、例えば、これらの共重合体ポリマーの有機溶剤溶液中に水性のハロゲン化銀ゼラチン乳剤を添加したときにこれを均一に分散させることができない。
【0067】
本発明においては、請求項5に記載の如く、前記一般式(1)で表される共重合体は、一般式(2)、(4)および(5)で表されるモノマーを含むグラウンド溶液中に、一般式(3)で表されるモノマーを順次添加することで共重合させるものである。この製造方法をとることでゼラチンと親和性の高い共重合体ポリマーが得られる。
【0068】
即ち、本発明の製造方法によれば、
(A)親水性/親油性をバランスよくもつ例えばDAAMに代表される様なアクリル系モノマー、また、疎水性、親水性を併せもつ長鎖アルキル基を末端に有するポリアルキレンオキシ基含有アクリルモノマー、また、親水性が高いノニオン性ポリアルキレンオキシ基含有アクリルモノマーを前記の混合比率で、例えば溶媒として各モノマーの溶解性また共重合体の溶解性のよいメチルエチルケトン等の溶媒に溶解する。
(B)これをグラウンド溶液として加温しつつ、前記一般式(3)で表される例えばNIPAMのようなアクリルアミド系モノマーを、重合開始剤と共に、徐々に添加してゆく。
【0069】
反応は溶媒の還流温度で行うのが、反応の促進の面から好ましい。用いる溶媒の沸点以上の温度が好ましい。溶媒を用いて均一に溶液重合することが、好ましい。
【0070】
一般式(3)で表されるアクリルアミド系モノマーの添加パターンは、一度に、相対的に多量のモノマーが添加される状況でなければ特に限定されず、例えば一定の流量で滴下或いは添加することが好ましい。但し、厳密に一定の流量で添加する必要はなく、一度に、相対的に多量のモノマーが添加される状況でなければよい。要は、共重合体中に、一度に、相対的に多量の一般式(3)で表されるモノマーが添加されることで、一般式(3)で表されるアクリルアミド単一成分からなる重合体が反応溶液中に生成したり、共重合体骨格中に一般式(3)で表されるアクリルアミド系モノマー単一成分からなるブロックポリマー部が生成したりすることが過度にないようにする。
【0071】
この様に共重合反応の経過と共に、少量ずつ一度に添加量が偏らないように添加することで共重合体の骨格中にその成長に応じてランダムな状態でアクリルアミド成分が共重合体の一部として取り込まれるものと考えられる。
【0072】
また、最初に一度に多くの量を添加すると、グラウンド溶液に添加したのと同様になっては本発明の効果が得られない。また、重合反応の後半に、即ち、グラウンド溶液中のモノマー成分が余り少ない状態で、アクリルアミドモノマーを添加すると、アクリルアミドのプロックポリマーを生じたり、或いは、ポリマー骨格中にブロックポリマー的な形態で共重合するため好ましくない。
【0073】
従って、一般式(3)で表されるアクリルアミドモノマーの添加は、グラウンド溶液中の残モノマー量が仕込んだ全モノマー量にたいし20質量%以下になるまでに終了することが共重合体を製造する上で好ましい。
【0074】
この様に、ゼラチンのペプチド結合と親和性の高い一般式(3)で表されるアクリルアミドモノマーを、前記他の3成分を混合したグラウンド溶液に、順次、添加してゆくことによりゼラチンと相溶性のよい共重合体を得ることができる。
【0075】
重合開始剤は一般式(3)で表されるアクリルアミドモノマーと共に添加されることが好ましい。すべてをグラウンド溶液中に添加すると、グラウンド溶液中のモノマーの重合が先行し、グラウンド溶液中のモノマー成分量が偏って重合したブロックが植えるので、結果として後から添加するアクリルアミドモノマーの共重合体への取り込まれ方が不均一となり、好ましくない。
【0076】
また、水素結合性の官能基を有するアクリルアミドモノマー成分の添加後には、充分な時間反応をおこなって、残モノマーを低下させる必要がある。好ましくは、反応溶液をポリマー溶液として利用するためにも、好ましい。残モノマーの定量は、液クロ等により反応液をサンプリングすることでリアルタイムに知ることができる。
【0077】
また、重合開始剤は、アクリル系モノマーの重合であり、ラジカルを発生する開始剤であることが好ましく、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤を用いることができる。
重合開始剤としては油溶性の過酸化物系あるいはアゾ系開始剤が好ましく、一例を挙げると、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、キュメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メメチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(4−メチキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4′−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2′−アゾビスイソブチレート等がある。
【0078】
特に、ターシャリイソブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物類、過酸化水素等がこのましい。
【0079】
これら重合開始剤は、重合性単量体に対して、0.01〜20質量%、特に、0.1〜10質量%使用されるのが好ましい。
【0080】
本発明の溶液重合において反応の場として用いられる有機溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等野ケトン類、エーテル、イソプロピルエーテル等エーテル類、またテトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、或いは芳香族炭化水素であるトルエン等特に制限はないが、原料となるモノマーに対しまた生成する共重合体ポリマーに対し、溶解性の高い溶媒を選択して用いることが好ましい。
【0081】
本発明に係わる共重合体においては、原料モノマー、共重合体に対する溶解性が充分にあること等から、メチルエチルケトンが特に好ましい。
【0082】
重合温度が余り低くならない様に、溶媒の沸点としては50℃以上が好ましく、70℃以上がさらに好ましい。しかしながら、150℃以上と高くなると、その後の取り扱いに工数を要するので、150℃以下であることが好ましい。
【0083】
本発明により得られた共重合体は、重合後、貧溶媒と混合し、析出させ、溶解、析出を繰り返し、固形分として、単離することができる。
【0084】
例えば水と混合し、共重合体を沈降させ、濾取することで、開始剤断片や、少量の残モノマー、また副生物が除かれ、本発明の共重合体を純度よく得ることができる。
【0085】
また、残モノマー等を0.1%以下とし、共重合反応を終了させたのち、反応溶液を共重合体の溶液として、これを水系微粒子の分散物と混合して、これをそのまま溶剤系への転相させるために使用してもよい。この場合、共重合体濃度は固形分濃度で10質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。
【0086】
水系微粒子の分散物の溶剤系への転相において、共重合体の第2溶媒溶液中の濃度は、前記のように固形分濃度で10質量%以上、40質量%以下であることが好ましく、余り濃くなると均一な混合が不可能となり、また低すぎても全体の濃度が低下し、必要な量を確保するのに大量が必要になるなど好ましくない。
【0087】
また共重合体の重合度としては、ゼラチン等との混合の容易性や、余り高くなると、溶解度が低下する等のため、ポリマー溶液の粘度として固形分30質量%(メタノール溶液)換算で10cp以上500cp以下となるような重合度であることが好ましい。
【0088】
本発明に係わるこれらの共重合体は有機溶媒にもまた水系にも親和性がある両親媒性ポリマーであるが、一般式(3)で表されるアクリルアミド系のモノマーを前記の如く共重合させるために、ゼラチン等のタンパク、即ちペプチド結合を有する天然高分子に高い親和性を有するものである。
【0089】
アクリルアミド成分は、ゼラチン等の親水性高分子中のペプチド成分と水素結合等を形成するためゼラチン等の親水性高分子と親和性が高いものと推定しており、本発明に係わる製造方法によって得られた前記一般式(1)で表される共重合体は一般式(3)で表されるアクリルアミド成分が共重合体中においてランダムに分散して存在しており、そのためゼラチン中のペプチド結合と、均一に多くのサイトで水素結合するため、相互作用がつよく、部分的な凝集を起こしにくく好ましいと考えられる。4成分を同時に溶液重合させる方法では、例えば共重合体骨格中にランダムに前記アクリルアミドモノマー成分が取り込まれず、局所的にブロック共重合体を形成したり、共重合体骨格中にゼラチンとの相互作用のサイトとなるアクリルアミド成分が均一に分散せず、そのために、ゼラチン中のペプチド結合との相互作用のサイトが不足し、凝集等を起こすと考えられる。
【0090】
前記請求項5の製造方法を用いて製造される共重合体の好ましい具体的態様を以下に示す。
【0091】
【化2】

【0092】
ここにおいて、l、m、n、oはそれぞれのモノマー成分の質量%を表し、lは20〜60,mは2〜40、nは5〜20、oは5〜20の範囲であり、またl+m+n+o=100である。
【0093】
また好ましい具体例については、実施例に挙げた。
【0094】
以上の如く、本発明に係わる共重合体は、水、有機溶媒両方に親和性を有する両親媒性であって、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を油性の媒体に適用する際に有用であり、この様なゼラチン等、ペプチド結合を有する生体関連材料(高分子材料)をもちいた機能性材料を、油性媒体に適用する際にその機能を損なうことがなく用いることのできる、これらに対して親和性が高い共重合体である。
【0095】
前記共重合によって得られた共重合体を本発明の合成高分子として用いて、従来のハロゲン化銀ゼラチン乳剤を、本発明の方法を用いて有機溶媒系に転相/分散することができる。有機溶剤系に転相/分散されたハロゲン化銀分散物(転相乳剤)は、熱現像感光材料等、非水系への適用が可能となる。
【0096】
次に前記共重合によって得られた共重合体を用いた具体的な水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法について説明する。
【0097】
先ず、前記親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物の代表例であるハロゲン化銀乳剤について説明する。
【0098】
本発明に係わる水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法においては、特に粒子径が10〜100nmである水系微粒子の分散物に適用するのが好ましい。
【0099】
この様なものとしては、熱現像感光材料に用いられるハロゲン化銀粒子があり、ハロゲン化銀粒子の平均粒子径は10〜100nm、好ましくは10〜80nmである。ここでいう平均粒径とは、ハロゲン化銀粒子が立方体や八面体のいわゆる正常晶である場合、その他正常晶でない場合、例えば球状粒子、棒状粒子等の場合には、ハロゲン化銀粒子の体積と同等な球を考えたときの直径、いわゆる球相当径をいう。なお、ハロゲン化銀粒子が平板状粒子である場合には主表面の投影面積と同面積の円像に換算したときの直径をいう。電子顕微鏡を用い1000個の粒子の平均から求める。
【0100】
また、粒径の分布を表す変動係数の最適の値としては、0%以上〜30%以下であり、好ましくは、0%以上〜20%以下である。ここで粒径の変動係数とは、粒径のバラツキの程度を表し、電子顕微鏡を用い1000個の粒子について測定した各粒子の投影面積の円換算直径の標準偏差を平均粒径で割った値のパーセント表示値である。
【0101】
本発明に用いられる感光性ハロゲン化銀は、塩臭化銀、臭化銀、ヨウ臭化銀、ヨウ塩臭化銀を用いることができるが、全体のハロゲン組成としてBrが50質量%以上である事が好ましい。塩化銀が多すぎるとオストワルド熟成が進み易く、粒径の増大が起き易くなる。一方、ヨウ化銀が多すぎるとハロゲン化銀粒子の感度が低下し好ましくない。
【0102】
粒子内におけるハロゲン組成の分布は、均一であってもよく、ハロゲン組成がステップ状に変化したものでもよく、或いは連続的に変化したものでもよい。また、コア/シェル構造を有するハロゲン化銀粒子を好ましく用いることができる。また、塩臭化銀粒子の表面に、臭化銀やヨウ臭化銀、ヨウ化銀を局在させる技術も好ましく用いることができる。
【0103】
感光性ハロゲン化銀の形成方法は、当業界公知の方法、例えば、リサーチディスクロージャー1978年6月の第17029号、及び米国特許第3,700,458号に記載されている方法を用いることができる。ゼラチンはハロゲン化銀粒子の分散剤(保護コロイド)としてハロゲン化銀1モルあたり、10〜100gの範囲で用いられる。
【0104】
具体的には、ゼラチン溶液中に銀供給化合物及びハロゲン供給化合物を添加することにより感光性ハロゲン化銀を調製する。特に銀イオン水溶液とハライド水溶液をダブルジェットで添加し粒子形成を行う方法が好ましい。
【0105】
感光性ハロゲン化銀乳剤は、ヌードル法、凝集沈殿法、電気透析等、当業界で知られている水洗方法により脱塩することができるが、限外ろ過によっても脱塩をおこなう事ができる。脱水は最終的に脱水された水の伝導度が好ましくは300μS/cm以下、より好ましくは100μS/cm以下になる程度に行う。この場合、伝導度の下限に特に制限はないが、通常、5μS/cm程度である。
【0106】
この様にして形成されるハロゲン化銀乳剤は、用いられるゼラチンのゲル化温度以下では、ゲル状態となりマトリクスとしてハロゲン化銀粒子を沈降することなく保持できる。
【0107】
ちなみに、本発明に係わるハロゲン化銀乳剤は、金増感と他の化学増感とを併用することができ、金増感法と組み合わせて使用する場合には、例えば、硫黄増感法と金増感法、セレン増感法と金増感法、硫黄増感法とセレン増感法と金増感法、硫黄増感法とテルル増感法と金増感法、硫黄増感法とセレン増感法とテルル増感法と金増感法などが好ましい。また還元増感を用いることができる。本発明に係る感光性ハロゲン化銀粒子には、分光増感色素を吸着させ分光増感を施すこともできる。
【0108】
前記化学増感、また分光増感は、ゼラチンを用い水系で調製した乳剤において行ってもよいし、また、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤を水系において調製後、有機溶媒系に転相、分散した後に行ってもよいが、本発明においては、有機溶媒系に転相後に行うことが好ましい。
【0109】
本発明は、親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物、例えばハロゲン化銀乳剤を、親水性高分子と水素結合可能な官能基を有する前記合成高分子(共重合体)を溶解可能であって、かつ水に溶解可能である有機溶媒に、前記合成高分子(前記共重合体)を溶解した溶液と均一に混合することによって有機溶媒系に転相するものである。
【0110】
しかしながら、製品等の製造に最終的に用いられる有機溶媒は、必ずしも、転相に最適な有機溶媒とはならないため、本発明において、前記親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の有機溶媒系への転相/分散方法においては、転相に適した第2の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0111】
即ち、第2の有機溶媒としては、前記合成高分子が溶解可能であると共に、水を自由に溶解し、これと共存する有機溶媒が好ましく、この様な第2の有機溶媒に前記合成高分子を溶解した溶液を、ハロゲン化銀ゼラチン乳剤のような水系微粒子の分散物と混合することで、ゼラチン及びハロゲン化銀粒子が凝集することなく合成高分子と第2の有機溶媒溶液中において均一に混じり合い相溶する。
【0112】
第2の溶媒としては、前記合成高分子が溶解可能であると共に、水を自由に溶解できるものが好ましいため、例えば溶解性パラメータで23.0[(MPa)1/2](J.Brandrup,E.H.Immergut ’POLYMER HANDBOOK’ Third Edition JOHN WILEY & SONS)以上の極性の高い有機溶媒特にプロトン系有機溶媒が好ましい。代表例としては、メタノール、エタノール、プロパノール等が上げられる。最終的に溶媒置換を容易に行えるよう、沸点が低いことが好ましく、特に好ましいのは、メタノールである。
【0113】
このようにして、先ず、第2の有機溶媒系への転相/分散を行った後、更に前記最終的に用いられる有機溶媒と混合し、必要であれば、濃縮、溶媒への置換を行うことができる。
【0114】
また、前記合成高分子のこれら第2の有機溶媒溶液と、水系微粒子の親水性高分子による水性分散物の混合は、前記親水性高分子の凝集が起こらないようにするため、前記親水性高分子のゲル化温度よりも0℃〜30℃、より好ましくは、10〜25℃高い温度で行われるのがよい。
【0115】
前記親水性高分子はペプチド結合を有するタンパク由来の天然高分子であり、ゼラチンのように、通常はゲル化温度を有する。ゲル化温度以下で転相すると、合成高分子との均一な混合が、特に水素結合を通した相互作用が妨げられるので、凝集が起こりやすくなり好ましくない。
【0116】
これら本発明に係わる水系微粒子の分散物の、合成高分子溶液との混合による転相、分散の具体的なプロセスについて、以下詳しく述べる。
【0117】
転相に使用する前記合成高分子の量としては、水系微粒子の分散物に含まれる親水性高分子の質量の1〜100倍、好ましくは1〜50倍、より好ましくは1〜10倍である。
【0118】
前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液と水系微粒子の分散物の混合は、実際には、合成高分子の第2の有機溶媒溶液中に、水系微粒子の分散物を順次添加することにより行われることが好ましい。
【0119】
前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液中の濃度は、1〜50質量%、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0120】
前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液中への水系微粒子の分散物を順次添加する添加速度は、5×10-3[mol/min/L]以上、5×10-2[mol/min/L]以下(合成高分子の第2の有機溶媒溶液単位体積当りの水系微粒子のモル換算の添加速度)であることが好ましく、5×10-2[mol/min/L]よりも速い速度で添加すると、混合時に、高分子同士が、水素結合等による相互作用によって、均一に混じり合った状態(疑似平衡)が達成される前に、更に親水性高分子を含んだ水系微粒子の分散物が添加されることになるので、凝集が起こり好ましくない。また、余り添加速度が遅い場合には、前記のようにゼラチンのような親水性高分子のゲル化点以上の温度で行われるため、第2の有機溶媒の蒸発等、溶媒の組成が変化したり、また転相に要する時間がかかりすぎるという工程上の問題から好ましくない。
【0121】
第2の溶媒中に溶解した合成高分子中に、水系微粒子の水性分散物を、順次添加し混合して、第2の溶媒系への転相を行った後、これをさらに最終的に使用される有機溶媒系へ転相するには、前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液と、水系微粒子の水性分散物の混合物中に、さらに最終的な有機溶媒を添加することにより行われる。
【0122】
前記合成高分子の第2の有機溶媒と水系微粒子の混合分散物と、最終的に使用される有機溶媒との混合は、前記親水性高分子のゲル化温度よりも0℃〜30℃、より好ましくは、5〜25℃高い温度で行われるのがよい。
【0123】
ゲル化温度以下で有機溶媒を混合すると、ゼラチンのゲル化による凝集が起こりやすくなる。また混合温度が高すぎると逆に分子運動が活発になり、これもまた凝集が起こりやすくなり好ましくない。
【0124】
前記合成高分子の第2の有機溶媒と水系微粒子の混合分散物と、最終的に使用される有機溶媒との混合は、実際には、合成高分子の第2の有機溶媒と水系微粒子の混合分散物中に、最終的に使用される有機溶媒を順次添加することにより行われることが好ましい。
【0125】
この有機溶媒の添加速度は、一度に添加せずに、1[mol/min/L]以上10[mol/min/L]以下(前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液と水系微粒子の分散物の混合液単位体積あたりの有機溶媒モル換算の添加速度)とすることが好ましい。この範囲に最終的に用いられる有機溶媒の添加速度を制御することで、均一な水系微粒子の有機溶媒分散系が得られる。
【0126】
最終的な油性の系としては、第2の有機溶媒のようなプロトン系溶媒よりもさらに、油性の系が好ましく、例えば溶解性パラメータで18.5〜21.0[(MPa)1/2](J.Brandrup,E.H.Immergut ’POLYMER HANDBOOK’ Third Edition JOHN WILEY & SONS)の範囲にある非プロトン性の溶媒系が好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル等の溶媒であり、前記第2の溶媒であるプロトン性の溶媒よりも前記親水性高分子との親和性は低いため、添加速度がこの速度を超えると、溶媒組成の変化による、局所的な不均一が大きくなるため、親水性高分子が局所的に凝集を起こすためである。そのため、水系微粒子の沈降や凝集が起こりやすくなる。また、添加速度が遅すぎる場合には、有機溶媒の蒸発等により溶媒の組成が変化したり、凝集を生じたり、また転相に要する時間がかかりすぎるという工程上の問題から好ましくない。
【0127】
本発明の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法について、以下これを実施する装置を図を用いて説明する。
【0128】
図1において、1はハロゲン化銀乳剤の溶解釜である。ここにおいてハロゲン化銀乳剤は、保護コロイドであるゼラチンのゲル化温度以上の温度例えば、30℃〜40℃程度に加温され、溶解される。
【0129】
2は転相に用いる合成高分子ポリマーの溶解釜である。ここにおいて例えば前記合成例において製造された4元共重合体が、第2の溶媒としてのメタノールに溶解される。メタノールは加温され合成高分子ポリマーを徐々に添加しつつ、均一に溶解される。
【0130】
均一に溶解したら、フィルタ(図示せず)を通して3の転相釜に送られる。転相釜3において、前記共重合体のメタノール溶液は、ゼラチンのゲル化温度以上の温度例えば40℃〜45℃の一定温度に調整維持される。釜内を攪拌しつつ、そこに前記ハロゲン化銀の溶解釜からゼラチンのゲル化温度以上にて溶解したハロゲン化銀ゼラチン乳剤を徐々に添加してゆく。添加速度は前記5×10-3[mol/min/L]以上、5×10-2[mol/min/L]以下(合成高分子の第2の有機溶媒溶液単位体積当りの水系微粒子のモル換算の添加速度)で一度に偏ることなく、好ましくは一定の速度で流入してゆく。この間、常に45℃程度の温度を維持する。添加後充分に均一な混合が進むように同温度で、加温を続ける。加温は、例えばメタノール等、第2の溶媒の沸点に近くなると、乳剤のカブリ濃度が増したりするため、また局所的(気液界面等)に溶媒の蒸発による不溶物の形成が起こり好ましくないので、50℃以下の温度に維持することが好ましい。添加後少なくとも30分〜1時間添加時の温度を維持し充分に平衡が達成されたら、次に、温度を35℃以下、30℃程度に低下させ、最終的に用いられる有機溶媒(この場合はメチルエチルケトン)を、転相釜にやはり30分程度の時間をかけ徐々に添加する。
【0131】
次いで、転相釜内の溶液を濃縮する。濃縮は、減圧蒸留により濃縮しても、あるいは有機溶媒系でも使用可能な分離膜を用いて濃縮しても良い。
【0132】
メチルエチルケトンを追加しつつ、連続、或いは、断続的に、濃縮をかけることで、混合乳剤中の水分が減少し、1%以内になるまで、メチルエチルケトンの追加、濃縮を繰り返す。スケールにもよるが、ハロゲン化銀乳剤100kg程度のスケールであれば、500Lのメチルエチルケトンの追加が必要となる。次いで、転相乳剤として、好ましい濃度となるよう濃縮を行い、最終的な本発明に係わる合成高分子とゼラチンが共存する転相メチルエチルケトンハロゲン化銀乳剤が得られる。
【0133】
この様にして得られた、転相ハロゲン化銀乳剤は、4の調製釜に送られ、増感色素、増感剤、また追加のバインダー等をそれぞれの調製釜5,6,7から添加され、所定の時間熟成することで増感される。増感された転相乳剤はストック釜8に送られ、ストックされる。
【0134】
別途調製された脂肪酸銀塩分散液に対して、還元剤をはじめとする添加剤および前記転相乳剤が静的または動的インライン混合機を用いて混合され、熱現像感光材料塗布液が調製され、基材上に塗布され、乾燥されることで熱現像感光材料が製造される。
【0135】
あるいは、図2に示したように、脂肪酸銀分散液と転相乳剤を混合後、増感を行い、還元剤をはじめとする添加剤をインライン混合し、熱現像感光材料塗布液が調製され、基材上に塗布され、乾燥されることで熱現像感光材料が製造される。
【実施例】
【0136】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0137】
実施例1
《ハロゲン化銀乳剤の調製》
〔ハロゲン化銀乳剤1の調製〕
(溶液A1)
フェニルカルバモイル化ゼラチン 88.3g
化合物A(*1)(10%メタノール水溶液) 10ml
臭化カリウム 0.32g
水で5429mlに仕上げた
(溶液B1)
0.67mol/L硝酸銀水溶液 2635ml
(溶液C1)
臭化カリウム 51.55g
沃化カリウム 1.47g
水で660mlに仕上げた。
【0138】
(溶液D1)
臭化カリウム 154.9g
沃化カリウム 4.41g
3IrCl6(4×10-5mol/Ag相当) 50.0ml
水で1982mlに仕上げた。
【0139】
(溶液E1)
0.4mol/L臭化カリウム水溶液 下記銀電位制御量
(溶液F1)
水酸化カリウム 0.71g
水で20mlに仕上げた。
【0140】
(溶液G1)
56%酢酸水溶液 18.0ml
(溶液H1)
無水炭酸ナトリウム 1.72g
水で151mlに仕上げた。
【0141】
(*1)化合物A:HO(CH2CH2O)n(CH(CH3)CH2O)17(CH2CH2O)mH (m+n=5〜7)
特公昭58−58288号に記載の混合撹拌機を用いて、溶液A1に、溶液B1の1/4量及び溶液C1の全量を温度35℃、pAg8.09に制御しながら、同時混合法により4分45秒を要して添加し、核形成を行った。1分後、溶液F1の全量を添加した。この間pAgの調整を、溶液E1を用いて適宜行った。6分間経過後、溶液B1の3/4量及び溶液D1の全量を、pAg8.09に制御しながら、同時混合法により14分15秒かけて添加した。5分間撹拌した後、溶液G1を全量添加し、ハロゲン化銀乳剤を沈降させた。沈降部分2000mlを残して上澄み液を取り除き、水を10L加え、撹拌後、再度ハロゲン化銀乳剤を沈降させた。沈降部分1500mlを残し、上澄み液を取り除き、更に水を10L加え、撹拌後、ハロゲン化銀乳剤を沈降させた。沈降部分1500mlを残し、上澄み液を取り除いた後、溶液H1を加え、60℃に昇温し、更に120分撹拌した。最後にpHが5.8になるように調整し、銀量1モル当たり1161gになるように水を添加し、ハロゲン化銀乳剤1を得た。
【0142】
以上の様にして調製したハロゲン化銀乳剤1中のハロゲン化銀粒子は、平均球相当径0.045μm、球相当径の変動係数12%、〔100〕面比率92%の単分散立方体沃臭化銀粒子であった。平均球相当径、球相当径の変動係数については電子顕微鏡を用い1000個の粒子の平均から求めた。またこの粒子の[100]面比率は、クベルカムンク法を用いて求めた。
【0143】
なお、ハロゲン化銀乳剤1中の平均粒径が0.001μm以上、0.050μm以下のハロゲン化銀粒子の比率は、銀量換算で全ハロゲン化銀粒子の61質量%であった。
【0144】
《転相用共重合体A、B、Cの合成》
0.5リットルの四つ口セパラブルフラスコに滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置及び還流冷却管を付し、メチルエチルケトン50g、及び表1に記載の組成割合のNIPAMおよびスチレン以外のモノマー(単位g)を仕込み、80℃に加熱した。さらに表1に記載のNIPAMまたはスチレンモノマー(単位g)、更にラウリルパーオキサイド0.12gをメチルエチルケトン43gに溶解した液をフラスコ中に2時間かけて滴下した。その後1時間かけて昇温し還流状態になった時点で、ラウリルパーオキサイド0.17gをメチルエチルケトン33gに溶解した液をフラスコ中に2時間かけて滴下し、同温度にて更に3時間反応させた。その後メチルハイドロキノン0.33gをメチルエチルケトン107gに溶解した液を添加し冷却後、ポリマー30質量%のポリマー溶液A、B、Cを得た。
表1において、
ブレンマーPME−400:−(EO)m−CH3(m≒9)を有するメタアクリレート
ブレンマーPSE−400:−(EO)m−C1837(m≒9)を有するメタアクリレート (EO;エチレンオキシ基)
上記はすべて日本油脂製。
NIPAM:N−イソプロピルアクリルアミド
DAAM :ダイアセトンアクリルアミド(協和発酵)。
【0145】
【表1】

【0146】
《ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散》
〔有機溶剤転相/分散物1〕
共重合体A溶液33gを10倍量の純水に滴下、析出させ、濾過することで水洗、精製を行った。得られた共重合体析出物をメタノールに溶解させ、全量を121gに仕上げた。前記共重合体のメタノール溶液を撹拌しながら45℃に保ち、そこに45℃に調整したハロゲン化銀乳剤1(59.2g)を20分かけて滴下し、さらに30分攪拌した。その後30分かけて35℃に降温した後、35℃に調整したメチルエチルケトン600gを30分かけて滴下することにより、ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物1を得た。
【0147】
〔有機溶剤転相/分散物2、3〕
共重合体B溶液及びC溶液を用いた以外は同様の方法で調製し、ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物2及び3を得た。
【0148】
《有機溶媒転相/分散物の評価1》
ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物1〜3の分散粒径をゼータサイザーナノ(マルバーン社製)を用いて測定した。転相前のハロゲン化銀乳剤1の測定結果と合わせて表2に示す。
【0149】
【表2】

【0150】
表2より、本発明に係わるハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物は、転相前の分散状態(51nm)をほぼ保っていることがわかる。
【0151】
実施例2
《ゲル化温度の測定》
ハロゲン化銀乳剤1で使用したフェニルカルバモイル化ゼラチンのゲル化温度の測定を振動式粘度計SV−10(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて行った。ハロゲン化銀乳剤1と同一濃度のゼラチン水溶液を調製し、温度コントローラで冷却しながら粘度測定した。温度変化に対する粘度の変極点をゲル化温度とした。上記混合溶液のゲル化温度は23℃であった。
【0152】
〔有機溶剤転相/分散物4〜7〕
共重合体のメタノール溶液とハロゲン化銀乳剤の混合を表3の温度に変える以外は有機溶剤転相/分散物1と同様にしてハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物4〜7を得た。
【0153】
【表3】

【0154】
《有機溶媒転相/分散物の評価2》
ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物4〜7の分散粒径をゼータサイザーナノ(マルバーン社製)を用いて測定した。ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物1の測定結果と合わせて表4に示す。
【0155】
【表4】

【0156】
表4より、本発明により、ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物は、転相前の分散状態をほぼ保っていることがわかる。またその分散粒径は、ハロゲン化銀乳剤に使用されているゼラチンのゲル化温度と関連したポリマーのメタノール溶液とハロゲン化銀乳剤の混合温度と相関していることがわかる。
【0157】
実施例3
〔有機溶剤転相/分散物8〜11〕
メチルエチルケトンの混合を表5の温度に変える以外は有機溶剤転相/分散物1と同様にしてハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物8〜11を得た。
【0158】
【表5】

【0159】
《有機溶媒転相/分散物の評価3》
ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物8〜11の分散粒径をゼータサイザーナノ(マルバーン社製)を用いて測定した。ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物1の測定結果と合わせて表6に示す。
【0160】
【表6】

【0161】
表6より、本発明により、ハロゲン化銀乳剤の有機溶媒転相/分散物は、転相前の分散状態をほぼ保っていることがわかる。またその分散粒径は、ハロゲン化銀乳剤に使用されているゼラチンのゲル化温度と関連したメチルエチルケトンの混合温度と相関していることがわかる。
【0162】
実施例4
以下の手順により顔料分散物(顔料インク用)を調製した。尚、実施例中で(%)は特に断りの無い限り質量%を示す。
【0163】
《顔料分散物の調製》
〔顔料分散物C1の調製〕
(A1液の調製)
C.I.ピグメントレッド122(Clariant社製 商品名HOSTAPERM PINK E)50gをDMSO(Dimethyl sulfoxide)818.93gと10%NaOH水溶液275.93gの混合溶液に溶解させ、1μmのミリポアフィルターで濾過した液をA1液とする。
【0164】
(B1液の調製)
下記顔料誘導体1の8.38gを水962.5gに溶解し、1μmのミリポアフィルターで濾過した液に酢酸39.34gを加えたものをB1液とする。
【0165】
【化3】

【0166】
(G1液の調製)
水962.5gにフェニルカルバモイル化ゼラチン15.7gを溶解したものをG1液とする。
【0167】
(顔料分散物C1の調製)
容量約4Lの容器にG1液を入れ、容器の周囲から加温し、液温30℃にする。次にT.K.ロボミックス(特殊機化工業株式会社製)の攪拌部としてホモミキサーを用いて回転数5000rpmで攪拌する。その液にA1液とB1液をローラーポンプを用いて30分で添加し、顔料微粒子を析出させる(図3)。
【0168】
次いで、顔料微粒子が析出した溶液をダイアフラムポンプ(株式会社ヤマダコーポレーション社製 DP−10BPT)を用いて限外濾過膜(旭化成工業株式会社製 ラボモジュール SIP−1013)に10L/minの流量で循環させて濃縮し、純水を加える操作を繰り返し行うことで、溶液の伝導度が500μS/cm以下になるまで脱塩を行う。
【0169】
脱塩後の溶液をポンプを用いてミル内滞留時間が10分間となる様に、0.3mm径のジルコニアビーズ(東レ(株)製 トレセラム)を内容積の80%充填したメディア型分散機(VMA−GETZMANN社製 DISPERMAT SL−C12EX型)に供給し、ミル周速13m/sにて分散を行うことにより濃度5%の顔料分散体C1を得た。
【0170】
(顔料分散物C1の1次粒径)
顔料分散物を透過型電子顕微鏡で観察し、無作為に粒子1,000個の長径を測定し、平均粒径を算出した。平均1次粒径は、25nmであった。
【0171】
(顔料分散物C1の分散粒径)
ゼータサイザーナノ(マルバーン社製)を用いて、分散粒径を測定した。分散粒径は30nmであった。
【0172】
〔有機溶剤転相/分散物12〕
ハロゲン化銀乳剤を顔料分散物C1に変える以外は有機溶剤転相/分散物1と同様にして顔料分散物C1の有機溶媒転相/分散物12を得た。
【0173】
《有機溶媒転相/分散物の評価4》
顔料分散物C1の有機溶媒転相/分散物12の分散粒径をゼータサイザーナノ(マルバーン社製)を用いて測定した。転相前の顔料分散物C1の測定結果と合わせて表7に示す。
【0174】
【表7】

【0175】
表7より、本発明により、顔料分散物C1の有機溶媒転相/分散物は、転相前の分散状態をほぼ保っていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】無機微粒子の有機溶媒転相/分散を実施する装置を示す。
【図2】無機微粒子の有機溶媒転相/分散を実施する別の装置を示す。
【図3】顔料分散物の調製方法のプロセス図を示す。
【符号の説明】
【0177】
A1 顔料を溶解させた溶液
B1 顔料誘導体を溶解させた溶液
G1 水性媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、有機溶媒相へ転相、分散させ水系微粒子の有機溶媒分散物をうる水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法において、親水性高分子を保護コロイドとする水系微粒子の分散物を、前記有機溶媒相を構成する有機溶媒に溶解可能であり、かつ前記親水性高分子と水素結合可能な官能基を有する合成高分子の前記有機溶媒の溶液と混合することを特徴とする水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項2】
前記合成高分子において前記親水性高分子と水素結合可能な官能基がアミド基であり、かつ、前記親水性高分子が官能基としてペプチド結合を有することを特徴とする請求項1に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項3】
前記親水性高分子が天然高分子であることを特徴とする請求項1または2に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項4】
前記天然高分子がゼラチンであることを特徴とする請求項3に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項5】
前記合成高分子が、下記一般式(1)で表される共重合体であって、一般式(2)、(4)および(5)で表されるモノマーを含むグラウンド溶液中に、一般式(3)で表されるモノマーを順次添加することで共重合させ、製造されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【化1】

(前記一般式において、R0は水素原子またはメチル基を表し、L1は炭素原子数1〜6のアルキレン基を、R1は水素原子または炭素原子数1〜6の分岐してもよいアルキル基、シクロアルキル基を表す。また、R2は炭素原子数10以上、22以下のアルキル基を、またR3は水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。
また、ここにおいて、l、m、n、oはそれぞれのモノマー成分の質量%を表し、lは20〜70,mは2〜40、nは5〜20、oは5〜20の範囲であり、またl+m+n+o=100である。また、一般式(4)および(5)において、EOはエチレンオキシ基を、またPOはプロピレンオキシ基を表す。n1およびm1は1〜300、n2およびm2は0〜60の範囲の整数を表す。但しn1+n2、m1+m2はそれぞれ2以上の整数である。)
【請求項6】
前記合成高分子を前記有機溶媒および水の両方に溶解可能な第2の有機溶媒に溶解させたのち、前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液を、水系微粒子の分散物と混合し、更に前記有機溶媒と混合することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項7】
前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液と水系微粒子の分散物の混合が、前記親水性高分子のゲル化温度よりも0〜30℃高い温度で行われることを特徴とする請求項6に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項8】
前記有機溶媒の混合が、前記親水性高分子のゲル化温度よりも5〜25℃高い温度で行われることを特徴とする請求項6または7に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項9】
前記合成高分子の第2の有機溶媒溶液と水系微粒子の分散物の混合は、合成高分子の第2の有機溶媒溶液中に、水系微粒子の分散物を添加することにより行われることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項10】
前記有機溶媒の混合は、合成高分子の第2の有機溶媒溶液と、水系微粒子の分散物の混合物中に、有機溶媒を添加し、行われることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項11】
前記水系微粒子の分散物において、水系微粒子の粒子径が10〜100nmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。
【請求項12】
前記無機微粒子の水性分散物がハロゲン化銀乳剤であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の水系微粒子の有機溶媒転相/分散方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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