説明

水素製造装置及び水素製造方法

【課題】通常の水の電気分解反応では、2単位電荷(2e)を与えて水を電気分解して1モルの水素しか得られないのに対し、2単位電荷(2e)を与えて水を電気分解しケイ素と反応させることによって3モルの水素を製造するようにして、飛躍的に大きな反応効率を達成して高エネルギー転換効率を実現するとともに、定量的な水素の安定供給が可能な定量性や制御性に優れる水素製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の水素製造装置1は、水,電解質水溶液,水蒸気のいずれか1種が供給される電解槽2と、電解槽2に配設された陽極7及び陰極6と、陰極6の近傍に配設された又は陰極6の一部若しくは全部に接して配設されたケイ素体と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や電解質水溶液、水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造装置及び水素製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水から水素を製造する方法として、水や水蒸気を電気分解する方法が知られている。また、水や水蒸気を電気分解せずに、ケイ素とアルカリ液とを反応させる方法も知られている。
水を電気分解して水素を製造する方法としては、(非特許文献1)に「水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した陽極と陰極との間に直流電圧を印加して水素を製造する方法」が開示されている。
また、水蒸気を電気分解して水素を製造する方法としては、(特許文献1)に「原子炉や火力発電等の熱源やタービンの廃熱を用いて水蒸気を発生させる水蒸気発生段階と、酸素イオン又は水素イオンが伝導する固体電解質が動作する900K以上の温度に前記水蒸気を昇温する昇温段階と、900K以上に昇温した水蒸気を電気分解して水素を生成させる水素生成段階と、を備えた水素製造方法」が開示されている。
また、ケイ素とアルカリ液とを反応させて水素を製造する方法としては、(特許文献2)に「半導体製造装置ラインに並設されアルカリ液とシリコンとを混合して反応させ水素を発生させる反応槽と、前記半導体製造装置ラインから発生するシリコン屑を前記反応槽に供給するシリコン供給手段と、前記反応槽の内圧を調整する圧力調整手段と、前記アルカリ液を所定温度に調整する温度調整手段と、を備えた水素製造装置」が開示されている。
(特許文献3)には、「粉体ケイ素を水と混合してスラリー状にしたケイ素スラリーとアルカリ液とを反応容器に供給して、反応容器内で加圧下に反応させ水素を発生させる水素発生方法」が開示されている。
(特許文献4)には、「ケイ素とアルカリ液とを反応させ、25℃で0.2MPaを超える高圧の水素を発生させる水素製造方法」が開示されている。
【非特許文献1】前川哲也,“水の電気分解”化学と教育,52巻3号(2004年)第168頁乃至第170頁
【特許文献1】特開2006−307290号公報
【特許文献2】特開2000−191303号公報
【特許文献3】特開2001−213609号公報
【特許文献4】特開2004−307328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(非特許文献1)の水酸化ナトリウム水溶液を電気分解する場合には、陰極では以下の式(H)に示す反応が生じ、陽極では式(I)に示す反応が生じている。
2HO + 2e → H + 2OH …(H)
2OH → HO + 1/2O + 2e …(I)
以上のように、従来の水の電気分解反応は、2単位電荷(2e)の電流を通じて1モルの水素を得る反応である。このため、例えば陽イオン交換膜を用いて反応効率を高めたとしても、2単位電荷(2e)を与えることによって1モルの水素しか得られないという理論的な限界が存在していた。
(2)(特許文献1)の方法によれば、原子炉や火力発電等の熱源やタービンの廃熱を用いて水蒸気を発生させ、この水蒸気に電気加熱により熱を与えて900K以上に上昇させた後に電気分解によって水素を製造することができる。廃熱を利用して水蒸気を加熱するので、電気加熱による電気エネルギーの消費量を少なくできるため、エネルギー転換効率(原子炉等の発電効率、水蒸気の電気加熱に要する電気エネルギー、電解効率を考慮した効率)を約40%程度にまで高めることができるが、さらなるエネルギー転換効率の向上が望まれていた。
(3)(特許文献2)乃至(特許文献4)に開示の技術は、アルカリ液とケイ素(シリコン)を接触させると直ちに激しい反応が始まるが、反応開始から数分の間に大半の水素が発生してしまい、その後は僅かな反応が持続するだけである。このように、反応開始から反応終了までの間に水素生成速度が大きく変化するため、定量的な水素の安定供給が困難であるという課題を有していた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、通常の水の電気分解反応の反応効率よりも飛躍的に大きな反応効率を達成して、高エネルギー転換効率を実現するとともに、定量的な水素の安定供給が可能な定量性や制御性に優れる水素製造装置及び水素製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明の水素製造装置及び水素製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の水素製造装置は、水,電解質水溶液,水蒸気のいずれか1種が供給される電解槽と、前記電解槽に配設された陽極及び陰極と、前記陰極の近傍に配設されたケイ素体と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)陰極の近傍に配設されたケイ素体を備えているので、陰極では、2単位電荷(2e)の電流を通じた2モルの水から、1モルの水素が発生し(以下の式(A))、それによって生じたOHイオンがSiと反応して2モルの水素が発生する(以下の式(B))。陽極では、以下の式(C)によって酸素が発生する。このように、2単位電荷(2e)を与えて3モルの水素を製造することができる。この結果、式(H)、(I)に示す通常の水の電気分解反応では、2単位電荷(2e)を与えて1モルの水素しか製造できないのに対し、2単位電荷(2e)を与えて水を電気分解しケイ素と反応させることによって、3モルの水素を製造することができる。このため、反応効率を従来の水の電気分解の3倍に引き上げることが期待でき、エネルギー転換効率を飛躍的に高めることができる。
2HO + 2e → H + 2OH …(A)
Si + 2OH + HO → SiO−2 + 2H …(B)
SiO−2 → SiO + 1/2O+ 2e …(C)
(2)陽極と陰極に直流電圧を印加することで水を電気分解させて水素を発生させ、その結果生じたOHイオンがSiと反応して水素が発生するので、電圧印加の有無や電圧の大きさ等を調整することによって水素の生成速度を安定化させることができ、定量的な水素の安定供給が可能である。
【0006】
ここで、電解質水溶液としては、酸性物質,アルカリ性物質,塩等の電解質を水に添加した水溶液が用いられる。電解質としては、例えば、塩化ナトリウム,塩化カリウム,硝酸銀,塩化マグネシウム等の金属塩、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,アンモニア等のアルカリ性物質、硫酸,硝酸,硼酸,リン酸,酢酸,乳酸,蓚酸,酒石酸等の酸性物質、これらのナトリウム塩,カリウム塩,カルシウム塩等の塩類を用いることができる。
水に代えて電解質水溶液を用いることで、陽極と陰極との間を電流が流れ易くすることができるため、水の電気分解のために消費する電気エネルギーを小さくすることができ、電解効率を高めることができる。
【0007】
水蒸気を用いることにより、式(H)の反応に必要なエンタルピー(286kJ/mol)を水蒸気の熱エネルギーによって与えることができるため、電気分解に必要な電気エネルギーを小さくすることができ電解効率を高めることができる。水蒸気を電気分解して水素を製造する方法としては、前述の特開2006−307290号公報等が知られている。
【0008】
陽極や陰極としては、電解質の種類によっても異なるが、ステンレス,ニッケル,クロム,金,白金,チタン,タンタル等の金属製や炭素等の導電性基材を用いることができる。また、陽極や陰極は、銅や真鍮等の導電性基材の表面を白金等で被覆したものを用いることもできる。
陽極や陰極の形状としては、板状,棒状,シート状,薄膜状,網状等の種々の公知のものを用いることができる。
また、導電性基材の表面を触媒で被覆したものも用いることができる。これにより、過電圧を低減させ電解効率を向上させることができる。触媒としては、例えば、ニッケルと鉄,コバルト,インジウムとの組み合わせに加えてアミノ酸,カルボン酸,アミンなどの有機化合物を含んだ物質、ニッケルとモリブデンからなる合金、白金とセリウム酸化物からなる物質、白金−モリブデン−鉄族金属からなる三元合金、白金とイリジウムとの合金、ニッケル,コバルト,銅,銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属と白金からなる白金合金、コバルトとモリブデンの合金等の公知のものを用いることができる。
また、陽極や陰極の表面に、電気分解によって生じた水素や酸素による気泡が付着して電解効率が低下するのを防ぐために、電解槽内の水や電解質水溶液を循環させて、陽極や陰極に気泡が付着するのを防止するのが好ましい。
また、陽極には、前記式(C)によってSiOが析出する。析出したSiOによって電解効率が低下するのを防ぐため、これを除去するブラシやスクレーパ等の除去手段を設けるのが好ましい。除去手段を陽極の表面に摺接させることによって、析出したSiOを陽極から除去することができる。
【0009】
ケイ素体としては、半導体素子材料の製造過程で二酸化ケイ素を還元してケイ素を製造する際に発生する塊状物乃至は粒状物、単結晶シリコンを切削及び研磨する際に生じる廃棄粉末や、該廃棄粉末が懸濁した懸濁液等の半導体素子材料の製造過程で発生する廃棄ケイ素、シリコンウェーハの破砕屑等が用いられる。シリコンウェーハの破砕屑としては、シリコンウェーハの不良品の破砕屑等が用いられる。二酸化ケイ素を還元してケイ素を製造する際に発生する塊状物乃至は粒状物としては、ケイ素の純度がほぼ100%のものから70%程度の低純度のものまで得られ、低純度のものは前記式(B)の反応時に未反応物の残量が多くなるが、いずれも用いることができる。半導体素子材料の製造過程で発生する廃棄物を利用することによって、資源の有効活用を図ることができ省資源性に優れる。
これらのケイ素体は、粉砕せずにそのまま、若しくは適宜所定の粒度になるように粉砕して用いることができる。粉砕することで、電解槽内でのOHイオンとの接触効率を高めることができる。
【0010】
本発明の請求項2に記載の水素製造装置は、水,電解質水溶液,水蒸気のいずれか1種が供給される電解槽と、前記電解槽に配設された陽極及び陰極と、を備えた水素製造装置であって、前記陰極がケイ素で形成されている、又は、前記陰極の一部若しくは全部に接してケイ素体が配設された構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)陰極がケイ素で形成されている、又は、陰極の一部若しくは全部に接してケイ素体が配設されているので、陰極において式(A)によって発生したOHイオンが、式(B)によって直ちにSiと反応するので、式(B)の反応を進行させて電解効率を高めることができる。
【0011】
ここで、ケイ素の抵抗率は25℃で約40Ω・cmであるが、半導性を示し、温度の上昇とともに減少するので、ケイ素で形成された陰極は、水蒸気を電気分解する際には好適に用いられる。
ケイ素体を陰極の一部又は全部に接して配設する手段としては、陰極の表面にケイ素粉末を溶射する手段、陰極の表面にプラズマCVD等によってケイ素を堆積させる手段、陰極の表面に塊状乃至は粒状のケイ素体を圧着や繋着等によって機械的に接触させる手段、陰極を囲繞した網体内にケイ素体を収容してケイ素体の自重によって陰極に接触させる手段等が用いられる。
なお、水,電解質水溶液,水蒸気、陽極及び陰極、ケイ素体としては、前述しているので、ここでは説明を省略する。
【0012】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の水素製造装置であって、前記陰極が、前記陽極及び前記ケイ素体と陽イオン交換膜で隔離された構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)陰極が陽極及びケイ素体と陽イオン交換膜で隔離されているので、前記式(B)の反応において、陽イオン交換膜を透過できないOHイオンが集まってSiとの反応を活発化させることができ、反応効率を高めてエネルギー転換効率を高めることができる。
【0013】
ここで、陽イオン交換膜としては、例えば、固体電解質で形成されたデュポン社のナフィオン膜(商品名)、旭硝子(株)のフレミオン(商品名)、旭化成工業(株)のアシプレックス(商品名)等を用いることができる。
【0014】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の水素製造装置であって、前記ケイ素体を加熱する加熱手段を備えた構成を有している。
この構成により、請求項3で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)前記式(B)の反応は吸熱反応なので、ケイ素体を加熱する加熱手段を備えることで、式(B)の反応を促進させることができる。
【0015】
ここで、加熱手段としては、ヒータ、ヒートパイプ等の熱交換器等が用いられる。加熱手段は、電解槽内に配設しケイ素体に接触させて、電解槽内のケイ素体を直接加熱するものを用いることができる。また、電解槽内に配設し、電解槽内の水や電解質水溶液を加熱することで、電解槽内のケイ素体を間接的に加熱するものを用いることもできる。また、ケイ素体は式(B)の反応によって消耗されるため適宜電解槽内に供給するものである。加熱手段を電解槽の外に配設し、電解槽内に供給するケイ素体を加熱することもできる。加熱されたケイ素体が電解槽に供給されると、ケイ素体によって熱交換され電解槽内の水や電解質水溶液等が加熱される。これによって、式(B)の反応を活発化させることができる。
【0016】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の水素製造装置であって、前記陰極側から発生した水素を用いて発電する燃料電池を備えた構成を有している。
この構成により、請求項3又は4で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)陽イオン交換膜で陽極及びケイ素体と陰極と隔離することで高い反応効率を実現できるので、発生した水素を用いて燃料電池で発電させ、この電気エネルギーを使って水や電解質水溶液等の電気分解を行うことができる。この結果、電気分解によって消費する電気エネルギー量を減らすことができるため、エネルギー転換効率を高めることができる。
(2)燃料電池で発電する際に生じた熱を、温水供給手段やヒートパイプ等を使ってケイ素体を加熱する加熱手段に供給することで有効活用することができる。
(3)また、燃料電池で発電させた電気エネルギーを、水素製造装置の系外の装置に供給することもでき応用性に優れる。
【0017】
ここで、燃料電池としては、固体高分子形,リン酸形,アルカリ形等の燃料電池を、水素製造装置の規模等に応じて適宜選択して用いることができる。
【0018】
本発明の請求項6に記載の水素製造方法は、請求項1乃至5の内いずれか1に記載の水素製造装置の陽極及び陰極に直流電圧を印加する構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)陰極では、2単位電荷(2e)の電流を通じた2モルの水から、1モルの水素が発生し(前記式(A))、それによって生じたOHイオンがSiと反応して2モルの水素が発生する(前記式(B))。陽極では、前記式(C)によって酸素が発生する。このように、2単位電荷(2e)を与えて3モルの水素を製造することができるため、反応効率を、従来の水の電気分解反応(前記式(H)、(I))を利用した場合の3倍に引き上げることができ、エネルギー転換効率を飛躍的に高めることができる。
(2)陽極と陰極に直流電圧を印加することで水を電気分解させて水素を発生させ、その結果生じたOHイオンがSiと反応して水素が発生するので、電圧印加の有無や電圧の大きさ等を調整することによって水素の生成速度を安定化させることができ、定量的な水素の安定供給が可能で定量性と制御性に優れる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の水素製造装置及び水素製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)陰極では、2単位電荷(2e)を与えて1モルの水素が発生し、それによって生じたOHイオンがSiと反応して2モルの水素が発生するので、2単位電荷(2e)の電流を通じることによって3モルの水素を製造することができ、通常の水の電気分解反応の3倍の反応効率を実現することができ、高エネルギー転換効率を実現できる水素製造装置を提供できる。
(2)電圧印加の有無や電圧の大きさ等を調整することによって水素の生成速度を安定化させることができ、定量的な水素の安定供給が可能であり定量性や制御性に優れた水素製造装置を提供できる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)陰極において発生したOHイオンを直ちにSiと反応させることができるので、反応効率を高めることができる水素製造装置を提供できる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)陽イオン交換膜を透過できないOHイオンを集めてSiとの反応を活発化させることができ、反応効率を高めることができる水素製造装置を提供できる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3の効果に加え、
(1)SiとOHイオンとの反応を促進させることができ、反応効率を高めることができる水素製造装置を提供できる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、請求項3又は4の効果に加え、
(1)発生した水素を用いて燃料電池で発電させ、この電気エネルギーを使って水や電解質水溶液等の電気分解を行うことができるため、電気分解によって消費する電気エネルギー量を減らすことができ、反応効率を高めることができる水素製造装置を提供できる。
(2)燃料電池で発電する際に生じた熱を、温水供給手段やヒートパイプ等を使ってケイ素体を加熱する加熱手段に供給することで有効活用することができ、エネルギー転換効率の高い水素製造装置を提供できる。
(3)燃料電池で発電させた電気エネルギーを水素製造装置の系外の装置に供給することもでき応用性に優れた水素製造装置を提供できる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、
(1)2単位電荷(2e)を与えて3モルの水素を製造することができるため、反応効率を、従来の水の電気分解反応を利用した場合の3倍に引き上げることができ、高いエネルギー転換効率が実現できる水素製造方法を提供できる。
(2)陽極と陰極に直流電圧を印加することで水を電気分解させて水素を発生させ、その結果生じたOHイオンがSiと反応して水素が発生するので、電圧印加の有無や電圧の大きさ等を調整することによって水素の生成速度を安定化させることができ、定量的な水素の安定供給が可能で定量性と制御性に優れた水素製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における水素製造装置の模式図である。
図中、1は本発明の実施の形態1における水素製造装置、2は水,電解質水溶液,水蒸気が供給される電解槽、3は電解槽2を部分的に区画する隔壁、4は隔壁3で部分的に区画された電解槽2の陰極室、5は陰極室2と下部で連通した電解槽2の陽極室、6は陰極室4に配設された陰極である。本実施の形態においては、陰極6はケイ素で形成されているか、陰極6の一部若しくは全部にケイ素体が接した状態で配設されている。なお、陰極6の一部若しくは全部にケイ素体を接して配設する手段としては、陰極6の表面にケイ素粉末を溶射する手段、陰極6の表面にプラズマCVD等によってケイ素を堆積させる手段、陰極6の表面に半導体素子材料の製造過程で得られる廃棄ケイ素等の塊状乃至は粒状等のケイ素体を圧着や繋着等によって機械的に接触させる手段等が用いられる。7は陽極室5に配設された陽極、8は陰極6と陽極7に直流電圧を印加する電源、9は陰極室4に水,電解質水溶液,水蒸気を供給する陰極室側供給路、10は陽極室5に水,電解質水溶液,水蒸気を供給する陽極室側供給路、11は陰極室4で生じた水素を電解槽2の外部に排出する水素排出路、12は陽極室5で生じた酸素を電解槽2の外部に排出する酸素排出路である。
本実施の形態においては、陰極室側供給路9,陽極室側供給路10が電解槽2に接続されているが、陰極室4と陽極室5が連通しているため、陰極室4又は陽極室5のいずれかに供給された水等は他方の陰極室4又は陽極室5に移動するので、陰極室側供給路9又は陽極室側供給路10のいずれかが電解槽2に接続されていればよい。
【0026】
以上のように構成された本発明の実施の形態1における水素製造装置を用いた水素製造方法について、以下、図面を参照しながら説明する。
陰極室側供給路9及び陽極側供給路10から電解槽2内に水,電解質水溶液,水蒸気を供給する。次に、電源8で陰極6及び陽極7に直流電圧を印加する。これにより、陰極室4では式(A)及び式(B)の反応が生じ、陽極室5では式(C)の反応が生じる。
2HO + 2e → H + 2OH …(A)
Si + 2OH + HO → SiO−2 + 2H …(B)
SiO−2 → SiO + 1/2O+ 2e …(C)
この結果、水素排出路11から水素が排出され、酸素排出路12から酸素が排出される。電解槽2内の水,電解質水溶液,水蒸気が消費されたら、陰極室側供給路9及び陽極側供給路10から電解槽2内に水,電解質水溶液,水蒸気を供給することによって、連続的に水素を製造することができる。
【0027】
以上のように、本発明の実施の形態1における水素製造装置は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)陰極6がケイ素で形成されている、又は、陰極6の一部若しくは全部に接してケイ素体が配設されているので、陰極6では、2単位電荷(2e)の電流を通じた2モルの水から、1モルの水素が発生し(式(A))、それによって生じたOHイオンがSiと反応して2モルの水素が発生する(式(B))。以上のように、2単位電荷(2e)を与えて3モルの水素を製造することができる。通常の水の電気分解反応では、2単位電荷(2e)を与えて1モルの水素しか製造できないのに比べ、3倍の反応効率を実現することができ、エネルギー転換効率を高めることができる。
(2)陽極7と陰極6に直流電圧を印加することで水や電解質水溶液等を電気分解させて水素を発生させ、その結果生じたOHイオンがSiと反応して水素が発生するので、電圧印加の有無や電圧の大きさ等を調整することによって水素の生成速度を安定化させることができ、定量的な水素の安定供給が可能である。
【0028】
ここで、本実施の形態においては、陰極6がケイ素で形成されている、又は、陰極6の一部若しくは全部に接してケイ素体が配設されている場合について説明したが、陰極6の近傍の陰極室4内にケイ素体を配設する場合もある。この場合は、カゴ状体等で形成して通液性や通気性を有するケイ素体収納部にケイ素体を収納し、陰極室4内に配置すればよい。これにより、OHイオンとの反応によって消費した分だけケイ素体を適宜補充すればよいので使用性に優れる。
【0029】
(実施の形態2)
図2は実施の形態2における水素製造装置の模式図である。なお、実施の形態1と同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
20は本発明の実施の形態2における水素製造装置、6aは白金等で形成された陰極、21は陰極室4を分域する固体電解質で形成された陽イオン交換膜、22は陽イオン交換膜21と陽極7との間の陰極室4内に配設され通液性を有するカゴ状体等で形成されたケイ素体収納部、23はケイ素体収納部22に収納された半導体素子材料の製造過程で得られる廃棄ケイ素等の塊状乃至は粒状等のケイ素体、24は反応し消費されたケイ素体23をケイ素体収納部22に補充するロータリーフィーダ等のケイ素体供給手段、25はケイ素体収納部22内に配設されたヒータや熱交換器等の加熱手段、26は加熱手段25に電気エネルギーや廃熱等の熱エネルギーを供給する熱源、27は陽極7に摺接して陽極7の表面に析出したSiOを除去するブラシやスクレーパ等の除去手段、28は陽極室5の下部と連通し除去手段27によって陽極6から除去されたSiOを電解槽2の外部に排出するシリカ排出路である。
【0030】
以上のように構成された本発明の実施の形態2における水素製造装置を用いた水素製造方法について、以下、図面を参照しながら説明する。
陰極室側供給路9及び陽極側供給路10から電解槽2内に水,電解質水溶液,水蒸気を供給する。次に、電源8で陰極6a及び陽極7に直流電圧を印加する。これにより、陽イオン交換膜21で陰極6aと隔てられた陰極室4のケイ素収納部22の近傍では、以下の式(D)の反応が生じ、水分子が水素イオンとOHイオンに電離する。
O → H + OH … (D)
発生した水素イオンは陽イオン交換膜21を透過し、以下の式(E)の電気化学反応によって、陰極6aで水素が発生する。
2H+ 2e → H … (E)
式(D)の反応によって生じたOHイオンは陽イオン交換膜21で分離され、陽イオン交換膜21の近傍に集まって、ケイ素収納部22のケイ素23と反応し(式(B))、ケイ素の還元反応によって水素が発生する。
Si + 2OH + HO → SiO−2 + 2H …(B)
式(B)の反応によってケイ素収納部22で発生したケイ酸イオン(SiO−2)は、陽極室5で、シリカ(SiO)と酸素を生ずる(式(C))。
SiO−2 → SiO + 1/2O + 2e …(C)
この結果、水素排出路11から水素が排出され、酸素排出路12から酸素が排出される。
ケイ素体収納部22のケイ素23が消費されたら、ケイ素体供給手段26からケイ素23をケイ素体収納部22に供給することによって、連続的に水素を製造することができる。また、加熱手段25によって、ケイ素体収納部22内のケイ素体23を加熱することによって、反応速度を上げることができる。
また、陽極7にシリカが析出したら、除去手段27を適宜稼動させて、シリカ排出路28から電解槽2の外に排出させることができる。
【0031】
以上のように、本発明の実施の形態2における水素製造装置は構成されているので、実施の形態1に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)陰極6aが陽極7及びケイ素体23と陽イオン交換膜21で隔離されているので、陽イオン交換膜21を透過できないOHイオンが集まってSiとの式(B)における反応を活発化させることができ、反応効率を高めることができる。
【0032】
(実施の形態3)
図3は実施の形態3における水素製造装置の模式図である。なお、実施の形態1又は2と同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、30は本発明の実施の形態3における水素製造装置、31は陽極7と陰極6aに直流電圧を印加する燃料電池、32は水素排出路11と接続され燃料電池31の燃料極に水素を供給する水素供給路、33は酸素排出路12と接続され燃料電池31の酸素極に酸素又は空気を供給する酸素供給路、34は温水供給手段やヒートパイプ等で形成され燃料電池31が発電の際に生じた熱を加熱手段25に供給したり系外に供給したりする熱供給手段、35は燃料電池31で発電して生じた余剰電力を系外に供給する電力供給線である。
以上のように構成された実施の形態3における水素製造装置30は、陰極室4で発生した水素を用いて発電する燃料電池31を備えており、燃料電池31が陽極7と陰極6aに直流電圧を印加している点で、実施の形態2の構成と相違する。
【0033】
以上のように、本発明の実施の形態3における水素製造装置は構成されているので、実施の形態1又は2に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)陽イオン交換膜21で陽極7及びケイ素体23と陰極6aとを隔離することで、高い反応効率を実現できるので、発生した水素を用いて燃料電池31で発電させ、この電気エネルギーを使って水や電解質水溶液等の電気分解を行うことができる。この結果、電気分解によって消費する電気エネルギー量を系内で補うことができるため、系外からの電気エネルギー量を減少させて反応効率を高めることができる。
(2)ケイ素体23の反応によって燃料電池31の燃料となる水素を発生させ、燃料電池31を使って発電させることができるとともに、発電の際に生じた熱を活用することができる。燃料電池31が生じた熱を熱供給手段34を使って加熱手段25に供給することで、ケイ素体23の反応に有効活用することができるため、エネルギー転換効率の高い水素製造装置を提供できる。
(3)燃料電池31で発電させた電気エネルギーを、水素製造装置30の系外の装置に電力供給線35から供給することができ応用性に優れる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施の形態1で説明した水素製造装置を用いて、5%水酸化ナトリウム水溶液の電気分解を行った。なお、陰極はステンレス製、陽極は炭素製の導電性基材を用いた。また、陰極の表面には、粒径約2cmの塊状のケイ素体を紐で繋着した。ケイ素体は、半導体素子材料の製造過程で二酸化ケイ素を還元してケイ素を製造する際に発生したもの(純度97%)を用いた。
陽極と陰極に6Vの電圧を印加し、3分間に陰極室で発生した気体(水素)の体積を測定したところ、9.0mLであった。なお、このときの電流は0.30Aであり、水酸化ナトリウム水溶液の水温は23℃であった。
(実施例2)
陽極と陰極に5Vの電圧を印加した以外は、実施例1と同様にして、水酸化ナトリウム水溶液を電気分解した。3分間に陰極室で発生した気体(水素)の体積は7.5mLであった。なお、このときの電流は0.30Aであった。
(実施例3)
陽極に銅製の導電性基材を用い、陽極と陰極に3.8Vの電圧を印加した以外は、実施例1と同様にして、水酸化ナトリウム水溶液を電気分解した。3分間に陰極室で発生した気体(水素)の体積は6.0mLであった。なお、このときの電流は0.30Aであった。
(実施例4)
陽極に銅製の導電性基材を用い、陽極と陰極に5.6Vの電圧を印加した以外は、実施例1と同様にして、水酸化ナトリウム水溶液を電気分解した。3分間に陰極室で発生した気体(水素)の体積は9.0mLであった。なお、このときの電流は0.30Aであった。
(比較例)
(非特許文献1)で説明した通常の水の電気分解を比較例とした。(非特許文献1)には、5%水酸化ナトリウム水溶液に8Vの直流電圧を印加した実験で、電流は0.29Aであり、電圧を印加してから3分間で陰極側に8.2mLの気体(水素)が発生したことが記載されている。
【0035】
実施例1〜4、比較例において、水(水酸化ナトリウム水溶液)の電気分解のために3分間に消費した電気エネルギー、標準状態における発生した水素のエネルギー(水素の高位発熱量を286kJ/molとする)、(発生した水素のエネルギー)÷(消費した電気エネルギー)×100(%)で算出した反応効率を(表1)にまとめて記載した。
比較例においては、水の電気分解のために3分間に消費した電気エネルギーは、8(V)×0.29(A)×180(s)=0.418(kJ)と算出される。発生した水素のエネルギーは、標準状態において、8.2(mL)÷22.4(L/mol)×286(kJ/mol)=0.105(kJ)と算出される。よって、反応効率は0.105(kJ)÷0.418(kJ)×100=25.1%と算出される。
【0036】
【表1】

【0037】
(表1)に示すように、実施例1〜4の反応効率は35.5〜38.0%であり、比較例の反応効率の約1.4〜1.5倍であった。実施例1〜4では、反応効率を比較例の反応効率の3倍に高められることは確認できなかったが、約1.4〜1.5倍にできることは確認できた。本実施例は陰極にケイ素体を繋着しただけの簡単な構成であって、反応温度も加熱手段を用いていない常温における結果であるが、反応効率を従来の水の電気分解の反応効率より引き上げることができ、エネルギー転換効率を高められることが確認できた。さらに、ケイ素体の粒度や配置手段等を最適化することにより、反応効率を従来の水の電気分解の3倍に引き上げることが期待でき、エネルギー転換効率を飛躍的に高められることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、水や電解質水溶液、水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造装置及び水素製造方法に関し、通常の水の電気分解反応の反応効率よりも飛躍的に大きな反応効率を達成して、高エネルギー転換効率を実現するとともに、定量的な水素の安定供給が可能な定量性や制御性に優れる水素製造装置及び水素製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施の形態1における水素製造装置の模式図
【図2】実施の形態2における水素製造装置の模式図
【図3】実施の形態3における水素製造装置の模式図
【符号の説明】
【0040】
1,20,30 水素製造装置
2 電解槽
3 隔壁
4 陰極室
5 陽極室
6,6a 陰極
7 陽極
8 電源
9 陰極室側供給路
10 陽極室側供給路
11 水素排出路
12 酸素排出路
21 陽イオン交換膜
22 ケイ素体収納部
23 ケイ素体
24 ケイ素体供給手段
25 加熱手段
26 熱源
27 除去手段
28 シリカ排出路
31 燃料電池
32 水素供給路
33 酸素供給路
34 熱供給手段
35 電力供給線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水,電解質水溶液,水蒸気のいずれか1種が供給される電解槽と、前記電解槽に配設された陽極及び陰極と、前記陰極の近傍に配設されたケイ素体と、を備えていることを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
水,電解質水溶液,水蒸気のいずれか1種が供給される電解槽と、前記電解槽に配設された陽極及び陰極と、を備えた水素製造装置であって、前記陰極がケイ素で形成されている、又は、前記陰極の一部若しくは全部に接してケイ素体が配設されていることを特徴とする水素製造装置。
【請求項3】
前記陰極が、前記陽極及び前記ケイ素体と陽イオン交換膜で隔離されていることを特徴とする請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記ケイ素体を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記陰極側から発生した水素を用いて発電する燃料電池を備えていることを特徴とする請求項3又は4に記載の水素製造装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の内いずれか1に記載の水素製造装置の陽極及び陰極に直流電圧を印加することを特徴とする水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−156679(P2008−156679A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344674(P2006−344674)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(301057967)株式会社ジャスト東海 (8)
【Fターム(参考)】