説明

水素貯蔵材料およびその製造方法

【課題】 水素放出温度を低温化させた水素貯蔵材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 水素化リチウムとリチウムアミドの混合物または複合化物を所定の機械的粉砕処理により微細化してなる水素貯蔵材料において、BET法による比表面積を15m/g以上とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等の燃料として用いられる水素貯蔵材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NOやSO等の有害物質やCO等の温室効果ガスを出さないクリーンなエネルギー源として燃料電池の開発が盛んに行われており、既に幾つかの分野で実用化されている。この燃料電池技術を支える重要な技術として、燃料電池の燃料となる水素を貯蔵する技術がある。水素の貯蔵形態としては、高圧ボンベによる圧縮貯蔵や液体水素化させる冷却貯蔵、水素貯蔵物質による貯蔵が知られており、これらの形態の中で、水素貯蔵物質による貯蔵は、分散貯蔵や輸送の点で有利である。水素貯蔵物質としては、水素貯蔵効率の高い材料、つまり水素貯蔵物質の単位重量または単位体積あたりの水素貯蔵量が高い材料、低い温度で水素の吸収/放出が行われる材料、良好な耐久性を有する材料が望まれる。
【0003】
従来、水素貯蔵物質としては、希土類系、チタン系、バナジウム系、マグネシウム系等を中心とする金属材料、金属アラネート(例えば、NaAlHやLiAlH)等の軽量無機化合物、カーボン等の種々の材料が知られている。また、例えば、下記(1)式で示されるリチウム窒化物を用いた水素貯蔵方法も報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
LiN+2H⇔LiNH+LiH+H⇔LiNH+2LiH…(1)
【0004】
ここで、LiNによる水素の吸収は100℃程度から開始し、255℃、30分で9.3質量%の水素吸収が確認されている。また、吸収された水素の放出特性としては、ゆっくり加熱することによって200℃弱で6.3質量%、320℃以上で3.0質量%と、二段階のステップを経ることが報告されている。すなわち、上記(1)式の右辺部分に相当する下記(2)式の反応は200℃弱で進行し始め、上記(1)式の左辺部分に相当する下記(3)式の反応は約320℃で進行し始めることが示されている。
LiNH+2LiH→LiNH+LiH+H↑…(2)
LiNH+LiH→LiN+H↑…(3)
【0005】
しかしながら、上記(1)式に示されるリチウム窒化物は、水素放出温度が高いという問題がある。
【非特許文献1】Ruff, O. , and Goerges, H., Berichte der Deutschen ChemischenGesellschaft zu Berlin,Vol.44, 502-6(1911)
【非特許文献2】Ping Chen et al., Interaction of hydrogen with metalnitrides andimides, NATURE Vol.420, 21 NOVEMBER 2002, p302〜304
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らはかかる事情に鑑み、先に特願2003−291672号において、リチウムアミド(LiNH)と水素化リチウム(LiH)をナノ構造化することにより、水素発生反応温度を低温側へシフトさせた水素貯蔵材料を開示した。しかし、水素発生反応温度をさらに低温化させることが望まれている。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、水素発生温度を低温化させた水素貯蔵材料、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の観点によれば、水素化リチウムとリチウムアミドの混合物または複合化物を所定の機械的粉砕処理により微細化してなる水素貯蔵材料であって、BET法による比表面積が15m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料、が提供される。
この第1の観点に係る水素貯蔵材料においては、さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は30m/g以上であることが好ましい。
【0008】
本発明の第2の観点によれば、水素化リチウムとマグネシウムアミドとの混合物または複合化物を所定の機械的粉砕処理により微細化してなる水素貯蔵材料であって、BET法による比表面積が7.5m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料、が提供される。
この第2の観点に係る水素貯蔵材料においては、さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は15m/g以上であることが好ましい。また、1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比は、1.5モル以上4モル以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の第3の観点によれば、水素化マグネシウムとリチウムアミドの混合物または複合化物を所定の機械的粉砕処理により微細化してなる水素貯蔵材料であって、BET法による比表面積が7.5m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料、が提供される。
【0010】
この第3の観点に係る水素貯蔵材料においては、さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は15m/g以上であることが好ましい。また、1モルのリチウムアミドに対する水素化マグネシウムの混合比は、0.5モル以上2モル以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の第4の観点によれば、水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料であって、BET法による比表面積が10m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料、が提供される。
【0012】
この第4の観点に係る水素貯蔵材料においては、さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は15m/g以上であることが好ましい。また、リチウムイミドとしては、窒化リチウムを水素と反応させることにより、またはリチウムアミドを熱分解することにより合成されたものが好適に用いられる。
【0013】
本発明の第5の観点によれば、窒化マグネシウムとリチウムイミドとの混合物および複合化物を水素化した水素貯蔵材料であって、BET法による比表面積が5m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料、が提供される。
この第5の観点に係る水素貯蔵材料においては、さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積が10m/g以上であることが好ましい。
【0014】
上記各水素貯蔵材料は、水素吸放出能を高める触媒をさらに含むことが好ましく、この触媒としては、B,C,Mn,Fe,Co,Ni,Pt,Pd,Rh,Li,Na,Mg,K,Ir,Nd,Nb,La,Ca,V,Ti,Cr,Cu,Zn,Al,Si,Ru,Mo,W,Ta,Zr,HfおよびAgから選ばれた1種もしくは2種以上の金属またはその化合物またはその合金、あるいは水素貯蔵合金が好適に用いられる。
【0015】
本発明の第6の観点によれば、水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料の製造方法であって、
リチウムアミド粉末と水素吸放出能を高める触媒とを機械的に粉砕混合する工程と、
前記粉砕工程によって得られた被処理物を熱分解して、前記被処理物に含まれるリチウムアミドをリチウムイミドに変化させる工程と、
前記リチウムイミドを水素化する工程と、
を有し、
前記一連の工程によりBET法による比表面積が10m/g以上の水素化されたリチウムイミドを得ることを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法、が提供される。
【0016】
本発明の第7の観点によれば、水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料の製造方法であって、
リチウムアミド粉末を機械的に粉砕する工程と、
前記粉砕工程後に、さらに前記リチウムアミド粉末に水素吸放出能を高める触媒を添加して粉砕混合し、前記触媒を前記リチウムアミド粉末に担持させる工程と、
前記触媒担持工程によって得られた被処理物を熱分解して、前記被処理物に含まれるリチウムアミドをリチウムイミドに変化させる工程と、
前記リチウムイミドを水素化する工程と、
を有し、
前記一連の工程によりBET法による比表面積が10m/g以上の水素化されたリチウムイミドを得ることを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法、が提供される。
【0017】
本発明によれば、これら第6および第7の観点に係る水素貯蔵材料の製造方法により製造された水素貯蔵材料が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも水素放出温度を低温化させることができる。これにより、水素貯蔵材料から水素を放出させるための加熱に要するエネルギーを低減させ、また、水素貯蔵材料を充填する容器等の材質や構造の制限が緩和されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る水素貯蔵材料は、大略的に、2つの材料系に分けられる。第1の材料系には、金属水素化物と金属アミド化合物の混合物または複合物からなり、所定の機械的粉砕処理により微細化してなる材料が含まれる。また、第2の材料系には、金属イミド化合物を含む材料を水素化してなる材料が含まれる。この第2の材料系に含まれる材料もまた、所定の機械的粉砕処理により微細化されていることが好ましい。
【0020】
最初に第1の材料系について説明する。この系における金属水素化物と金属アミド化合物の組み合わせとしては、水素化リチウム(LiH)とリチウムアミド(LiNH)、水素化リチウムとマグネシウムアミド(Mg(NH)、水素化マグネシウム(MgH)とリチウムアミドの各組み合わせが挙げられる。これらは、材料の基本特性として水素放出温度が異なり、水素放出温度を低下させる比表面積の値にも差がある。
【0021】
後述する実施例で詳細に説明するように、水素化リチウムとリチウムアミドの組み合わせの場合には、BET法による比表面積が15m/g以上になると、急速に水素放出温度が低下する。逆に言えば、その比表面積を15m/g以上とすることで水素放出温度を大きく低温化させることができる。さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は30m/g以上であることが、より好ましい。ここで、水素放出率としては、3質量%(mass%)以上であることを条件としている。
【0022】
水素化リチウムとマグネシウムアミドの組み合わせの場合には、水素放出温度を低温化させるために、BET法による比表面積を7.5m/g以上とする。さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は15m/g以上であることが好ましい。
【0023】
水素化リチウムとマグネシウムアミドとの水素放出反応は、下記(4)式および下記(5)式で表される。
2LiH+Mg(NH⇔LiNH+MgNH+2H …(4)
8LiH+3Mg(NH⇔4LiNH+Mg+8H …(5)
【0024】
上記(4)式および(5)式を考察すると、上記(4)式では、1モルのマグネシウムアミドに対して2モルの水素化リチウムが化学等量であり、理論水素貯蔵率は5.48質量%となる。一方、上記(5)式では、1モルのマグネシウムアミドに対して2.67モルの水素化リチウムが化学等量であり、理論水素貯蔵率は6.85質量%となる。したがって、マグネシウムアミドと水素化リチウムの組成比が変化することで支配的に起こる反応が変わり、また水素貯蔵率も変わってくることになる。
【0025】
ここで、上記(5)式を下記(6a)式および(6b)式に分けて考える。
6LiH+3Mg(NH⇔3LiNH+3MgNH+6H …(6a)
3MgNH+2LiH⇔LiNH+Mg+2H …(6b)
すると、上記(6a)式は上記(4)式における各物質の係数を3倍したものであり、実質的に上記(4)式と同じである。そして、上記(6b)式は上記(6a)式で生成したマグネシウムイミド(MgNH)と水素化リチウムとの反応である。
【0026】
つまり上記(5)式は、上記(4)式の反応を起こさせようとして水素化リチウムをマグネシウムアミドに対して化学量論比よりも過剰にすると、結果的に、生成したマグネシウムイミドの一部が過剰に添加された水素化リチウムと反応し、窒化マグネシウムが生成するところまで反応が進行する、ということを示している。
【0027】
これらのことから、1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比が2未満の場合は、マグネシウムアミドが水素化リチウムに対して過剰であるから、このときには上記(4)式が支配的に進行する。また、1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比が化学量論比である2の場合にも、上記(4)式が支配的に進行する。しかしながら、マグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比を上記(4)式に合わせたとしても、実際には、マグネシウムイミドと水素化リチウムの混合状態(分散状態)等に依存して、生成したマグネシウムイミドと水素化リチウムとが反応して上記(5)式の反応が進行し、一部のマグネシウムアミドは反応せずに残存することも起こり得ると考えられる。
【0028】
これに対して、1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比が2超2.67未満の場合は、上記(4)式からみるとマグネシウムアミドに対して水素化リチウムは過剰であるが、上記(5)式からみるとマグネシウムアミドに対して水素化リチウムが不足している。この場合には、混合比が2に近い場合には上記(4)式が支配的に進行して、生成したマグネシウムイミドの一部が窒化マグネシウムへ変化し、混合比が2.67へ上がるにつれて上記(5)式が支配的に進行するようになる。そして、1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比が2.67の化学量論比である場合と混合比が2.67超の場合には、上記(5)式が支配的に進行する。
【0029】
これら上記(4)式と上記(5)式のどちらを主体的に利用するかは、例えば、水素貯蔵率と、水素放出後の生成物に再び水素を吸蔵させる反応のサイクル特性(つまり、上記(4)式と上記(5)式の右辺から左辺への反応の容易さ)等とを考慮して、決定することができる。また、水素化リチウムとマグネシウムアミドのいずれか一方を他方に対して過剰とすることにより、その他方の物質の反応確率を上げて、水素放出を促進させることができると考えられる。しかし、一方の物質が過度に多すぎると、全量に対する水素貯蔵率を低下させてしまう問題が生ずる。
【0030】
したがって、このような水素貯蔵率や反応物質の利用率、水素吸放出反応のサイクル特性等を考慮して、水素化リチウムとマグネシウムアミドの各量を定めることが好ましい。具体的には、1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比を1.5モル以上4モル以下とすることが好ましく、さらに主に上記(5)式が進行するように、2.5モル以上3.5モル以下とすることで、水素貯蔵率をそれ以外の範囲よりも高く維持することができる。
【0031】
水素化マグネシウムとリチウムアミドの組み合わせの場合には、水素放出温度を低温化させるために、BET法による比表面積を7.5m/g以上とする。さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は15m/g以上であることが好ましい。
【0032】
水素化マグネシウムとリチウムアミドとの反応は、下記(7)式および下記(8)式で示される。
MgH+2LiNH⇔LiNH+MgNH+2H …(7)
3MgH+4LiNH⇔Mg+2LiNH+6H …(8)
【0033】
上記(7)式および(8)式を考察すると、上記(7)式では、1モルのリチウムアミドに対して0.5モルの水素化マグネシウムが化学等量であり、理論水素貯蔵率は5.48質量%となる。一方、上記(8)式では、1モルのリチウムアミドに対して0.75モルの水素化リチウムが化学等量であり、理論水素貯蔵率は7.08質量%となる。したがって、水素化マグネシウムとリチウムアミドの組成比が変化することで支配的に起こる反応が変わり、また水素貯蔵率も変わってくることになる。
【0034】
つまり、水素化マグネシウムとリチウムアミドの組み合わせの場合にも、前述した水素化リチウムとマグネシウムアミドの組み合わせの場合と同様に、水素貯蔵率や反応物質の利用率、水素吸放出反応のサイクル特性等を考慮して、水素化マグネシウムとリチウムアミドの各量を定めることが好ましい。具体的には、水素化マグネシウムを過剰とすることが好ましく、1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比を0.5モル以上2モル以下とすることが好ましい。さらに、さらに主に上記(8)式が進行するように、0.5モル以上1モル以下とすることで、水素貯蔵率をそれ以外の範囲よりも高く維持することができる。
【0035】
次に、第2の材料系について説明する。金属イミド化合物を含む材料を水素化してなる材料としては、リチウムイミド(LiNH)を水素化してなる材料、窒化マグネシウム(Mg)とリチウムイミドとの混合物および複合化物を水素化してなる材料、が挙げられる。ここで、本明細書において「物質の水素化」とは、その物質と水素とを反応させることによって、その物質が水素を取り込んだ状態に変化することをいうものとする。例えば、水素化したリチウムイミドは、リチウムイミドを水素と反応させることにより得られ、その構造は明らかでないが、リチウムアミドやアンモニアに変化することなく、水素と反応して水素を何らかの形で取り込んでおり、後に所定温度に加熱すると取り込まれた水素が放出されて元のリチウムイミドに戻る材料をいう。
【0036】
水素化したリチウムイミドは、水素放出温度を低温化させるために、BET法による比表面積を10m/g以上とする。さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は15m/g以上であることが好ましい。
【0037】
リチウムイミドとしては、窒化リチウム(LiN)を水素と反応させることによるイミド化またはリチウムアミドの熱分解により合成されたものが好適に用いられる。これは、従来のように水素化リチウムとリチウムアミドとを反応させてリチウムイミドを合成する場合には、この反応が固相反応であることから、ミクロな状態で水素化リチウムとリチウムアミドを均質に接触させるためには大きな機械的エネルギーが必要となり、実際にそのような処理は困難である一方、前記熱分解等では比表面積の大きなリチウムイミドを合成をすることができ、水素化を促進することができるからである。
【0038】
窒化マグネシウムとリチウムイミドとの混合物および複合化物を水素化してなる材料は、水素放出温度を低温化させるために、BET法による比表面積を5m/g以上とする。さらに水素放出率を高める観点から、その比表面積は10m/g以上であることが好ましい。
【0039】
上述した各種の水素貯蔵材料は、水素吸放出能を高める触媒をさらに含むことが好ましく、この触媒としては、B,C,Mn,Fe,Co,Ni,Pt,Pd,Rh,Li,Na,Mg,K,Ir,Nd,Nb,La,Ca,V,Ti,Cr,Cu,Zn,Al,Si,Ru,Mo,W,Ta,Zr,HfおよびAgから選ばれた1種もしくは2種以上の金属またはその化合物またはその合金、あるいは水素貯蔵合金が好適に用いられる。
【0040】
このような触媒を水素貯蔵材料に担持させる方法としては、各種水素貯蔵材料の原料粉末に添加して粉砕混合する方法や、原料粉末を粉砕混合した後に添加してさらに混合(または粉砕混合)する方法を用いることができる。
【0041】
例えば、金属水素化物と金属アミド化合物の混合物または複合物からなる水素貯蔵材料は、所定量の金属水素化物粉末と金属アミド化合物粉末と触媒を同時に粉砕混合することにより、または所定量の金属水素化物粉末と金属アミド化合物粉末を粉砕混合し、得られた被処理物に触媒を添加して混合することにより、製造することができる。そして、その際の粉砕混合条件を、粉砕混合処理後に所定の比表面積となるように設定する。
【0042】
また、例えば、水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料は、最初にリチウムアミド粉末と水素吸放出能を高める触媒とを機械的に粉砕混合し、次いで前段の粉砕工程によって得られた被処理物を熱分解して、この被処理物に含まれるリチウムアミドをリチウムイミドに変化させ、その後に得られたリチウムイミドを水素化することにより製造することができる。
【0043】
または、最初にリチウムアミド粉末を機械的に粉砕し、次いで前段の粉砕処理によって得られたリチウムアミド粉末に水素吸放出能を高める触媒を添加して粉砕混合して触媒をリチウムアミド粉末に担持させ、続いて触媒を担持した被処理物を熱分解して被処理物に含まれるリチウムアミドをリチウムイミドに変化させ、その後に得られたリチウムイミドを水素化してもよい。水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料の製造工程では、リチウムアミドの粉砕処理条件を粉砕処理後に所定の比表面積となるように設定する。
【0044】
なお、窒化マグネシウムとリチウムイミドとの混合物および複合化物を水素化してなる材料は、リチウムアミド粉末と窒化マグネシウムとを粉砕混合し、その後にイミド化と水素化を行うことにより製造することができる。また、リチウムアミド粉末を粉砕処理した後にこれをイミド化し、得られたリチウムイミドと水素化マグネシウムとを粉砕混合し、その後に水素化を行う方法によっても、製造することができる。
【0045】
上記各材料系に属する水素貯蔵材料の機械的粉砕処理は、原料粉末を、例えば、ボールミル装置、ローラーミル、内外筒回転型ミル、アトライター、インナーピース型ミル、気流粉砕型ミル等の公知の種々の粉砕手段を用いて行うことができる。
【実施例】
【0046】
(1)水素化リチウム+リチウムアミド系試料の作製
水素化リチウム、リチウムアミドおよび三塩化チタン(TiCl)(いずれもアルドリッチ社製、純度95%)をモル比で1:1:0.02とし、それらの合計量が1.3gとなるように高純度アルゴングローブボックス中で秤量し、高クロム鋼製のバルブ付ミル容器(250ml)に投入した。続いて、このミル容器内を真空排気した後、高純度アルゴンガスを1MPa導入し、遊星型ボールミル装置(Fritsch社製、P−5)を用いて、室温、60〜250rpmで3〜360分ミリング処理し、比表面積の異なる複数の試料を作製した。ミル容器内を真空排気してアルゴンガスを充填した後、高純度アルゴングローブボックス中 ミル容器を開き、試料を取り出した。
【0047】
(2)水素化リチウム+マグネシウムアミド系試料の作製
(a)マグネシウムアミドの作製
水素化マグネシウム(アヅマックス社製,純度95%,MgH)2gを高純度アルゴングローブボックス内で高クロム鋼製のミル容器(内容積:250ml)に投入した後、このミル容器内を真空排気し、続いて下記(9)式の反応を生じさせるために、1モルの水素化マグネシウムに対して2モル以上となるようにミル容器内にアンモニアガスを導入した後にミル容器を封止し、次いでこれを室温、大気雰囲気下、250rpmの回転数で、遊星型ボールミル装置を用いて、所定時間ミリング処理した。その後、ミル容器から反応ガス中の水素量を測定し、また粉砕生成物をXRD測定することにより、マグネシウムアミドの生成を確認した。
MgH+2NH(g)→Mg(NH+2H(g) …(9)
【0048】
(b)マグネシウムアミドと水素化リチウムの混合粉砕
水素化リチウム(アルドリッチ社製、純度95%)と上述の通りに作製したマグネシウムアミドをモル比で8:3とし、それらの合計量が1.3gとなるように高純度アルゴングローブボックス中で秤量し、高クロム鋼製のバルブ付ミル容器(250ml)に投入した。続いて、このミル容器内を真空排気した後、高純度アルゴンガスを1MPa導入し、室温、250rpmで3〜360分、遊星型ボールミル装置を用いてミリング処理し、比表面積の異なる複数の試料を作製した。続いて、ミル容器内を真空排気してアルゴンガスを充填した後、高純度アルゴングローブボックス中でミル容器を開き、試料を取り出した。
【0049】
(3)水素化マグネシウム+リチウムアミド系試料の作製
水素化マグネシウム(アヅマックス社製、純度95%)とリチウムアミド(アルドリッチ社製、純度95%)をモル比で3:4とし、それらの合計量が1.3gとなるように高純度アルゴングローブボックス中で秤量し、高クロム鋼製のバルブ付ミル容器(250ml)に投入した。続いて、このミル容器内を真空排気した後、高純度アルゴンガスを1MPa導入し、室温、250rpmで3〜360分、遊星型ボールミル装置を用いてミリング処理し、比表面積の異なる複数の試料を作製した。続いて、ミル容器内を真空排気してアルゴンガスを充填した後、高純度アルゴングローブボックス中でミル容器を開き、試料を取り出した。
【0050】
(4)リチウムイミドの作製とその水素化
リチウムアミドに三塩化チタン(共にアルドリッチ社製、純度95%)をモル比で1:0.01とし、それらの合計量が1.3gとなるように高純度アルゴングローブボックス中で秤量し、高クロム鋼製のバルブ付ミル容器(250ml)に投入した。続いて、このミル容器内を真空排気した後、高純度アルゴンガスを1MPa導入し、室温、250rpmで3〜720分間、遊星型ボールミル装置を用いてミリング処理し、比表面積の異なる複数の試料を作製した。続いて、ミル容器内を真空排気してアルゴンガスを充填した後、高純度アルゴングローブボックス中でミル容器を開いて、各試料をステンレス製の反応容器(50ml)に移し替えた。このステンレス容器の内部を真空排気し、350℃、6時間熱処理することでリチウムアミドを熱分解させ、リチウムイミドを合成した。さらに得られたリチウムイミドを水素ガス中、3MPa、180℃で12時間処理し、水素化した。
【0051】
(5)窒化マグネシウム+リチウムイミド系試料の作製とその水素化
上記(4)と同じ方法により作製したリチウムイミドと窒化マグネシウム(アルドリッチ社製、純度95%)をモル比で4:1とし、それらの合計量が1.3gとなるように高純度アルゴングローブボックス中で秤量し、高クロム鋼製のバルブ付ミル容器(250ml)に投入した。続いて、このミル容器内を真空排気した後、高純度アルゴンガスを1MPa導入し、室温、250rpmで3〜360分間、遊星型ボールミル装置を用いてミリング処理し、比表面積の異なる複数の試料を作製した。次いで、ミル容器内を真空排気してアルゴンガスを充填した後、高純度アルゴングローブボックス中でミル容器を開き、試料を取り出した。次いで、高純度グローブボックス中でミリング後の試料をステンレス製の反応容器(50ml)に移し、真空排気した後、高純度水素ガスを導入し、220℃、3MPa、12時間保持し水素化を行った。
【0052】
(6)BET比表面積測定方法
上述の(1)〜(5)により作製した試料のBET比表面積の測定は、窒素ガスによる多点式BET測定(Micromeritics社製、ASAP2400)を用いて行った。
【0053】
(7)水素放出によるDTA吸熱ピーク温度の測定
上述の(1)〜(5)により作製した各試料を10mg秤量し、昇温速度を5℃/分として、高純度アルゴンガス中に設置したTG/DTA装置(セイコーインスツルメント社製、TG/DTA300)により、DTA曲線を測定した。そして、得られたDTA曲線より水素放出による吸熱ピーク温度を測定し、その温度を水素放出温度とした。
【0054】
(8)水素放出量の測定
上記(7)の室温〜400℃までのTG/DTA測定より得られたTG曲線の30℃〜250℃における質量減少率をTG曲線より求め、これを水素放出率とした。
【0055】
(9)水素化リチウム+リチウムアミド系試料の試験結果
図1に作製した試料の中から選んだ4つの試料A〜DのDTA曲線を示す。試料Aは粉砕条件を250rpmで3分、試料Bは粉砕条件を250rpmで10分、試料Cは粉砕条件を250rpmで30分、試料Dは粉砕条件を250rpmで120分、それぞれ行ったもので、試料A〜Dのそれぞれの比表面積は、11.6m/g、19.9m/g、34.8m/g、40.5m/g、である。図1に示されるように、粉砕時間が長くなると粉砕が進んで比表面積が大きくなっており、比表面積が大きくなると水素放出温度(図1中に黒丸点で示す、吸熱反応の谷の位置の温度)が低温側へシフトしていることがわかる。なお、試料Aは本発明の範囲外であり、試料B〜Dは本発明の範囲内である。
【0056】
図2に各試料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示すグラフを示す。図2より、水素化リチウム+リチウムアミド系の水素貯蔵材料では、そのBET比表面積が15m/g以上の場合に15m/g未満の場合と比べて、水素放出温度が320℃付近より270℃以下に急激に低温化し、水素放出率も2質量%以上となることが確認された。また、水素放出温度は、BET比表面積が30m/g以上では260℃以下となり、さらに低温化することと、水素放出率が3質量%を超えることが確認された。
【0057】
(10)水素化リチウム+マグネシウムアミド系試料の試験結果
図3に各試料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示すグラフを示す。水素化リチウム+マグネシウムアミド系の水素貯蔵材料では、そのBET比表面積が7.5m/g以上の場合に7.5m/g未満の場合と比べて、水素放出温度が230℃を超えていたものが230℃以下に低温化することが確認され、水素放出率も2質量%以上となった。また、水素放出温度は、BET比表面積が15m/g以上では220℃以下となり、さらに低温化することと、水素放出率が3質量%を超えることが確認された。
【0058】
(11)水素化マグネシウム+リチウムアミド系試料の試験結果
図4に各試料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示すグラフを示す。水素化マグネシウム+リチウムアミド系試料では、そのBET比表面積が7.5m/g以上の場合に7.5m/g未満の場合と比べて、水素放出温度が230℃を超えていたものが230℃以下に低温化することが確認され、水素放出率も2質量%以上となった。また、水素放出温度は、BET比表面積が15m/g以上では220℃以下となり、さらに低温化することと、水素放出率が3質量%を超えることが確認された。
【0059】
(12)水素化されたリチウムイミドの試験結果
図5に各試料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示すグラフを示す。水素化されたリチウムイミドでは、そのBET比表面積が10m/g以上の場合に10m/g未満の場合と比べて、水素放出温度が300℃付近より290℃以下に低温化することが確認され、水素放出率も2質量%以上となった。また、水素放出温度は、BET比表面積が15m/g以上では280℃以下となり、さらに低温化することと、水素放出率が3質量%を超えることが確認された。
【0060】
(13)窒化マグネシウム+リチウムイミド系試料の試験結果
図6に各試料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示すグラフを示す。窒化マグネシウムとリチウムイミドの粉砕混合物を水素化した水素貯蔵材料では、そのBET比表面積が5m/g以上の場合に5m/g未満の場合と比べて、水素放出温度が240℃を超えていたものが240℃以下に低温化することが確認され、水素放出率も2質量%以上となった。また、水素放出温度は、BET比表面積が10m/g以上では、230℃以下となり、さらに低温化することと、水素放出率が3質量%を超えることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る水素貯蔵材料は、水素と酸素を燃料として発電する燃料電池の水素源として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】水素化リチウムとリチウムアミドからなる水素貯蔵材料のDTA曲線の一例を示す説明図。
【図2】水素化リチウムとリチウムアミドからなる水素貯蔵材料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示す説明図。
【図3】水素化リチウムとマグネシウムアミドからなる水素貯蔵材料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示す説明図。
【図4】水素化マグネシウムとリチウムアミドからなる水素貯蔵材料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示す説明図。
【図5】水素化されたリチウムイミドからなる水素貯蔵材料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示す説明図。
【図6】窒化マグネシウムとリチウムイミドの粉砕混合物を水素化した水素貯蔵材料の比表面積と水素放出温度および水素放出率との関係を示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化リチウムとリチウムアミドの混合物または複合化物を所定の機械的粉砕処理により微細化してなる水素貯蔵材料であって、
BET法による比表面積が15m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
前記比表面積が30m/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵材料。
【請求項3】
水素化リチウムとマグネシウムアミドとの混合物または複合化物を所定の機械的粉砕処理により微細化してなる水素貯蔵材料であって、
BET法による比表面積が7.5m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項4】
前記比表面積が15m/g以上であることを特徴とする請求項3に記載の水素貯蔵材料。
【請求項5】
1モルのマグネシウムアミドに対する水素化リチウムの混合比が1.5モル以上4モル以下であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の水素貯蔵材料。
【請求項6】
水素化マグネシウムとリチウムアミドの混合物または複合化物を所定の機械的粉砕処理により微細化してなる水素貯蔵材料であって、
BET法による比表面積が7.5m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項7】
前記比表面積が15m/g以上であることを特徴とする請求項6に記載の水素貯蔵材料。
【請求項8】
1モルのリチウムアミドに対する水素化マグネシウムの混合比が0.5モル以上2モル以下であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の水素貯蔵材料。
【請求項9】
水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料であって、
BET法による比表面積が10m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項10】
前記比表面積が15m/g以上であることを特徴とする請求項9に記載の水素貯蔵材料。
【請求項11】
前記リチウムイミドは、窒化リチウムを水素と反応させることにより、またはリチウムアミドを熱分解することにより、合成されたものであることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の水素貯蔵材料。
【請求項12】
窒化マグネシウムとリチウムイミドとの混合物および複合化物を水素化した水素貯蔵材料であって、
BET法による比表面積が5m/g以上であることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項13】
前記比表面積が10m/g以上であることを特徴とする請求項12に記載の水素貯蔵材料。
【請求項14】
水素吸放出能を高める触媒をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項15】
前記触媒は、B,C,Mn,Fe,Co,Ni,Pt,Pd,Rh,Li,Na,Mg,K,Ir,Nd,Nb,La,Ca,V,Ti,Cr,Cu,Zn,Al,Si,Ru,Mo,W,Ta,Zr,HfおよびAgから選ばれた1種もしくは2種以上の金属またはその化合物またはその合金、あるいは水素貯蔵合金であることを特徴とする請求項14に記載の水素貯蔵材料。
【請求項16】
水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料の製造方法であって、
リチウムアミド粉末と水素吸放出能を高める触媒とを機械的に粉砕混合する工程と、
前記粉砕工程によって得られた被処理物を熱分解して、前記被処理物に含まれるリチウムアミドをリチウムイミドに変化させる工程と、
前記リチウムイミドを水素化する工程と、
を有し、
前記一連の工程によりBET法による比表面積が10m/g以上の水素化されたリチウムイミドを得ることを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項17】
水素化したリチウムイミドからなる水素貯蔵材料の製造方法であって、
リチウムアミド粉末を機械的に粉砕する工程と、
前記粉砕工程後に、さらに前記リチウムアミド粉末に水素吸放出能を高める触媒を添加して粉砕混合し、前記触媒を前記リチウムアミド粉末に担持させる工程と、
前記触媒担持工程によって得られた被処理物を熱分解して、前記被処理物に含まれるリチウムアミドをリチウムイミドに変化させる工程と、
前記リチウムイミドを水素化する工程と、
を有し、
前記一連の工程によりBET法による比表面積が10m/g以上の水素化されたリチウムイミドを得ることを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項18】
請求項16または請求項17に記載の水素貯蔵材料の製造方法により製造されたことを特徴とする水素貯蔵材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−8441(P2006−8441A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186450(P2004−186450)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】