説明

水門

【課題】簡単な構成で、動力を必要とすることなく、水路を流れる水の量が少ない場合であっても確実に排水することができ、且つ、下流側の水位が上流側の水位よりも高い場合に確実に排水口を閉塞して逆流を防止することができる水門を提供する。
【解決手段】水門1は、水路2に扉体3が揺動可能に設けられており、この扉体3が揺動することにより2水路の排水口2aを開閉するものであって、扉体3を揺動可能に支持する軸4がこの扉体3の一側部30に配置されており、この軸4による扉体3の揺動軸線Cは、排水口2aを閉塞した状態における扉体3の重心Wg2の位置よりも下流側の位置に所定長さδでオフセットされており、且つ、揺動軸線Cの上端が下端よりも水路2側に位置するように鉛直Vに対して角度θで傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水門に関し、特に河川や海岸、ダムなどに設置される水門に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川や海岸、ダムなどには、水路の上流と下流の水位に応じて扉体を開閉する水門が設けられている。このような水門の従来の技術としては、例えば特許文献1に開示されているように、扉体を昇降させることによって開閉するものが知られている。このような水門は、図6に示すように、水路2’の水を上流側から下流側に排水する場合に、扉体3’を上昇させて水門1’の排水口2a’を開放する。また、下流側の水位が上昇した場合には、扉体3’を下降させて水門1’の排水口2a’を閉塞し、下流側から上流側に水が逆流するのを防止する。
【0003】
このような水門1’では一般に、扉体3’の両側部を摺動可能に支持してその昇降移動をガイドする門柱60’と、この門柱60’の上方に跨ぐように設けられた床板61’と、床板61’上に設けられて扉体3’を昇降駆動する昇降装置62’とを備えており、昇降装置62’は、扉体3’が比較的大きい場合に電動モータなどの動力を使用するものや、扉体3’が比較的小さい場合に手動で操作するものが採用されている。なお、昇降装置62’は一般に、動力を使用するものであっても、停電など動力源を喪失した場合に、手動により扉体3’を昇降させることが可能な補助機構を有している。このような水門1’では一般に、手動で操作する昇降装置62’の場合は勿論のこと、動力を使用する昇降装置62’を採用した場合であっても、人がスイッチ操作などを行うことにより扉体3’を昇降させて開閉しており、また、動力源を喪失したときに、人が堤防64’から管理橋63’を渡って昇降装置62’の補助機構を操作しに行くことになる。
【0004】
また、別の従来の技術としては、水路の排水口の上部にヒンジを介して扉体を揺動可能に設け、下流側の水位が上流側の水位よりも低い場合には水路を流れる水の水圧によって扉体の下端が排水口を開放するようヒンジを中心として揺動し、下流側の水位が上流側の水位よりも高い場合には、その下流側の水の水圧によって扉体の下端が排水口を閉塞して下流側から上流側に逆流するのを防止するようヒンジを中心として揺動する、所謂フラップゲートと呼ばれるものが知られている。このフラップゲートでは、扉体が水路の排水口を常に閉塞するように、その上部がヒンジによって揺動可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−85934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術において、特許文献1に開示されているように動力を用いる昇降装置62’により扉体3’の昇降動作をするものにあっては、特に停電など動力源を喪失した状況となったときに、手動で昇降装置62’の補助機構を操作して比較的大きな扉体3’を昇降させる必要があるため、上流側と下流側の水位の変動に応じて遅れることなく水門1’の排水口2a’を開閉することができないという問題があった。また、扉体3’を昇降させる構造の水門1’にあっては、昇降装置62’が動力を使用するものであっても、人がスイッチ操作などにより扉体3’を昇降させなければならず、また、門柱60’に扉体3’の昇降移動を阻害する塵芥などが付着していないかなど、安全確認を人によって行わなければならないなどの問題があった。さらに、扉体3’を昇降させる構造の水門1’にあっては、扉体3’の昇降移動をガイドするための門柱60’や昇降装置62’を設置するための床板61’を設ける必要があるために構造が大型化することから、比較的広い設置面積が必要となり、水門1’を設置する場所が限定されたりコストがかかるなどの問題があった。
【0007】
また、上記従来の技術のうち、所謂フラップゲートと呼ばれるものにあっては、扉体が水路の排水口を常に閉塞するようにその上部がヒンジによって支持されており、水路を流れる水の量が少なく(上流側の水位が低く)その水圧によっては扉体を開放するように揺動させることが困難である場合には、水路内の水位が充分に上昇して扉体を開放するまで、排水口から排水することができないという問題や、流下する塵芥等が水路に堆積し、水路を詰まらせたり、扉体が開いたときに水路の排水口との間に挟まれて、下流側の水位が高くなったときに排水口を確実に閉塞することができなくなり、その結果、上流側への逆流を確実に防止できなくなるという問題があった。そして、これらの問題を解決するためには、上流側と下流側の水位に関わらず扉体を開閉させるための駆動手段を設ける必要があり、上述した扉体を昇降移動させる水門と同様に、フラップゲートを設置する場所が限定されたりコストがかかるなどの問題があった。
【0008】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、動力を必要とすることなく、水路を流れる水の量が少ない場合であっても確実に排水することができ、且つ、下流側の水位が上流側の水位よりも高い場合に確実に排水口を閉塞して逆流を防止することができる水門を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の水門に係る発明は、上記目的を達成するため、水路に扉体が揺動可能に設けられており、該扉体が揺動することにより前記水路の排水口を開閉する水門であって、前記扉体を揺動可能に支持する軸が該扉体の一側部に配置されており、該軸による前記扉体の揺動軸線は、前記排水口を閉塞した状態における前記扉体の重心位置よりも下流側の位置に、その上端が下端よりも前記水路側に位置するように鉛直に対して傾斜していることを特徴とする。
【0010】
扉体を揺動可能に支持する軸が該扉体の一側部に配置されており、この軸による扉体の揺動軸線が、排水口を閉塞した状態における扉体の重心位置よりも下流側の位置であって、その上端が下端よりも水路側に位置するように鉛直に対して傾斜していることにより、扉体は、水路を流れる水の水圧を受けない状態で排水口を僅かに開放した状態となる。そして、水路を大量の水が流れて水圧が高くなると、扉体は、排水口に対して僅かに開放した状態からさらに開放するよう揺動軸線を中心として他側部が揺動することとなる。また、排水口の下流側の水位が上昇するなどして上流側よりも下流側の水圧が高くなると、扉体は、下流側の水圧によって押圧されて、排水口に対して僅かに開放した状態から排水口を閉塞するよう揺動軸線を中心として他側部が揺動することとなる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、扉体を揺動可能に支持する軸が該扉体の一側部に配置されており、該軸による前記扉体の揺動軸線は、前記排水口を閉塞した状態における前記扉体の重心位置よりも下流側の位置に、その上端が下端よりも前記水路側に位置するように鉛直に対して傾斜しているという簡単な構成により、水路を流れる水の水圧を受けない状態で扉体が排水口を僅かに開放した状態となるので、水路を流れる水の量が少ない場合など、上流側の水圧が低い場合でも、確実に上流から下流に水を排水することができ、さらに、水路を大量の水が流れる場合には、その水圧の上昇により、扉体が排水口に対して僅かに開放した状態からさらに開放するよう揺動軸線を中心として他側部が動力によることなく揺動するため、かかる大量の水を遅れることなく排水することができ、また、排水口の下流側の水位が上昇するなどして水圧が高くなった場合には、扉体が下流側の水圧によって押圧され、排水口に対して僅かに開放した状態から排水口を閉塞するよう揺動軸線を中心として他側部が動力によることなく揺動するため、かかる下流側の水が排水口から逆流するのを遅れることなく確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の水門の実施の一形態を説明するために扉体が排水口を閉塞した状態を示した平面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の正面図である。
【図4】水圧によって扉体が押圧されておらず、排水口を閉塞も完全に開放もしていない通常の状態を説明するために示した平面図である。
【図5】図4の側面図である。
【図6】従来の扉体を昇降移動させる水門の概要を説明するために示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水門の実施の一形態を、主に図1〜図5に基づいて説明する。なお、図1、2、4,5、および図6においては、左方が上流側となり、右方が下流側となる。
本発明の水門1は、概略、水路2に扉体3が揺動可能に設けられており、この扉体3が揺動することにより水路2の排水口2aを開閉するものであって、扉体3を揺動可能に支持する軸4がこの扉体3の一側部30に配置されており、この軸4による扉体3の揺動軸線Cは、排水口2aを閉塞した状態における扉体3の重心Wg2の位置よりも下流側の位置に所定長さδでオフセットされており、且つ、揺動軸線Cの上端が下端よりも水路2側に位置するように鉛直Vに対して角度θで傾斜している。
【0014】
この実施の形態における水路2は、水の流れに対して垂直な断面が略矩形に形成された樋管により構成されている。水路2は、図6に参照されるように、堤防の内側の支流河川などの内水域(図6における左方)と、河川や海岸、ダムなどの外水域(図6における右方)との間に設けられている。この実施の形態における水路2は、図3に破線で示したように、断面が略矩形に形成されているが、本発明は、この実施の形態に限定されることはなく、例えば断面円形の水路にも適用することができる。図1、2と図4、5に示すように、水路2の排水口2aの周囲は、垂直な壁面20が形成されている。また、水路2の排水口2aよりも下流には、外水域に水を流すために水路2よりも幅広の溝21が設けられている。
【0015】
扉体3は、水路2の断面に応じて略矩形の板状に形成されている。ここで、図3に正面図で示した扉体3の上下の縁を上下部と、扉体3の左右の縁を一側部(軸4と接続される基端側)30および他側部(軸4と接続されていない自由端側)31と呼ぶこととする。扉体3の一側縁30の上下端部には、軸4に接続されるブラケット40、41が設けられている。ブラケット40、41の軸4に対して接続される先端は、図1に示すように扉体3が排水口2aを閉じた状態における扉体3の重心Wg2の位置から軸4の中心軸線の位置が所定の長さδだけ下流側にオフセットするように延びている。
【0016】
この実施の形態では、排水口2aの周囲の垂直な壁面20または溝21の側壁面に、軸4の上下端部をそれぞれを支持するための軸受50、51が設けられている。この実施の形態では、上部の軸受50の軸4を受ける部分が下部の軸受51の軸4を受ける部分よりも水路2側に位置するよう延びている。その結果、図3に示すように、軸4の中心軸線は、その上端が下端よりも水路2側に位置するよう鉛直Vに対して所定の角度θだけ傾斜している。
【0017】
なお、軸4を両軸受50、51に対して回動不能に固定するとともに、ブラケット40、41が軸4に対して回動するように構成し、また、ブラケット40、41を軸4に対して回動不能に固定するとともに、軸4が両軸受50、51に対して回動するように構成することができる。いずれの場合でも、この実施の形態では、両ブラケット40、41の長さが略同じで形成されており、扉体3の揺動軸線Cは、軸4の中心軸線と一致している。しかしながら、本発明は、この実施の形態に限定されることはなく、例えば、軸4の中心軸線が鉛直Vとなるように両軸受50、51により支持し、上部のブラケット40を下部のブラケット41よりも長く形成して、両ブラケット40、41を鉛直な軸4に接続してもよい。すなわち、扉体3の揺動軸線Cは、軸4の中心軸線と必ずしも一致する必要はなく、その上端が下端よりも水路2側に位置するよう鉛直Vに対して所定の角度θだけ傾斜するよう構成すればよい。
【0018】
以上のように構成された水門1では、扉体3の揺動軸線Cが排水口2aを閉塞した状態(この状態を閉塞状態という)における扉体3の重心Wg2の位置よりも下流側に所定量δだけ位置し、且つ、その上端が下端よりも水路2側に位置するように鉛直Vに対して所定角度θだけ傾斜しているため、水路2を水が流れていないときや、図5に示すように水路2を僅かな量の水しか流れないときなど、扉体3が水路2を流れる水の水圧を受けていない状態では、図4に示すように、扉体3の重心Wg1の位置が軸4の傾斜している方向の略延長線上に一致しており、図5に示すように他の状態における重心Wg2(閉塞位置)、Wg3(全開放した状態の位置)の位置と比較して最も低い位置にあり、扉体3が排水口2aに対して僅かに開放した状態となっている(この状態を基準状態という)。そのため、水路2を流れる僅かな量の水は、排水口2aから下流の外水域に流出することができ、また、流れる水に含まれる塵芥が扉体3と排水口2aとの間に挟まれることがない。
【0019】
そして、水路2を流れる水の量が増加して扉体3を押圧する場合には、その流れる水の水圧によって扉体3が揺動軸C(この実施の形態では、軸4の中心軸線)を中心として直ちに揺動して、基準状態から全開放状態(図1、5に示した鎖線を参照)までの範囲でさらに扉体3が排水口2aを開放することとなり、大量の水を下流側の外水域に流出させることができる。そして、図5に示すように、扉体3の全開放状態における重心Wg3の位置は、扉体3が排水口2aの閉塞状態における重心Wg2の位置位置よりも高くなる。そのため、扉体3は、基準状態から閉塞状態に揺動すると、その自重により基準状態に復帰するよう作用する復帰モーメントが生じる。従って、扉体3は、水路2を流れる水によって押圧されなくなると、動力を用いることなく、自ら基準状態に復帰することとなる。
【0020】
一方、図2に示したように、外水域の水位が内水域または水路2内の水位よりも高くなったとき(つまり、排水口2aの下流側の水位が上流側の水位よりも高くなるとき)には、その外水域の水圧により扉体3が押圧されて、動力を用いることなく、扉体3が揺動軸C(この実施の形態では、軸4の中心軸線)を中心として基準位置から直ちに揺動して、扉体3が排水口2aを僅かに開放した状態から閉塞し、排水口2aの下流側から上流側に逆流するのを確実に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、扉体の大きさや重量、想定される水の流量などに応じて、扉体の揺動軸線の下流側オフセット量δとオフセット角度θを任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0022】
1:水門、 2:水路、 3:扉体、 4:軸、 2a:排水口、 C:揺動軸線、 δ:下流側オフセット量、 θ:オフセット角度、 Wg1:扉体の基準状態における重心、 Wg2:扉体の閉塞状態における重心、 Wg3:扉体の全開放状態における重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路に扉体が揺動可能に設けられており、該扉体が揺動することにより前記水路の排水口を開閉する水門であって、
前記扉体を揺動可能に支持する軸が該扉体の一側部に配置されており、
該軸による前記扉体の揺動軸線は、前記排水口を閉塞した状態における前記扉体の重心位置よりも下流側の位置に、その上端が下端よりも前記水路側に位置するように鉛直に対して傾斜していることを特徴とする水門。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−36229(P2013−36229A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173051(P2011−173051)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000241290)豊国工業株式会社 (28)