説明

水陸両用カメラの光学系

【目的】 高い結像性能を有し空気中,水中を問わず撮影が可能であり、空気中では高倍率なズームレンズ、一方、水中では比較的広画角なレンズを構成し、且つ、その相互切り換えが簡単に行える水陸両用カメラの光学系を提供すること。
【構成】 本発明による光学系は、物体側より順に、負のパワーを有する第一群(G1 )と、負のパワーを有する第二群(G2 )と、正のパワーを有する第三群(G3 ,G4 ,G5 及びG6 )とが配置され、前記各レンズ群を移動させることによって焦点距離可変のズームレンズを構成している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、防水機構を施された空気中或いは水中の何れにおいても撮影可能な水陸両用カメラの光学系に関する。
【0002】
【従来の技術】水中での撮影は光の吸収,散乱等のため、近距離撮影が行われる場合が多く、従来の水陸両用カメラの光学系には比較的広画角の単焦点レンズが用いられてきた。又、従来の水陸両用カメラは空気中で使用されているカメラを水中用ハウジング内に収容して使用するもの、或いは、カメラ自体に防水機構を施したものが使用されてきた。このような従来の水陸両用カメラは、物体空間が空気で収差補正された撮影レンズ系の前方に平板ガラスの防水窓を備えていた。この防水窓は,前記撮影レンズ系に対する空気中での収差性能を損なわないため、前記撮影レンズ系には空気中において収差性能が保証されたレンズ系を用いることが可能であった。
【0003】しかしながら、水中における前記撮影レンズ系は、物体空間の屈折率の差によって、そのレンズ入射面で種々の収差、特に倍率色収差及び歪曲収差が発生し、水中での結像性能が低下してしまうという欠点を有していた。又、物体空間が水である状況下で収差補正されたレンズ系を空気中で使用した場合にも、レンズ入射面で種々の収差が発生するため、逆に空気中での結像性能が低下してしまうという問題があった。
【0004】このような欠点を克服した従来例としては、特開昭56−14211号公報に記載された光学系が知られている。この光学系は、レンズ入射面の曲率中心をレンズ全系の入射位置にほぼ一致させて軸外光線を入射面にほぼ垂直に入射させることによって、物体空間と像空間との屈折作用の変化を小さくし、発生する収差を小さくすることを可能にしたものである。しかし、この従来例にしても、物体平面がレンズの方向に凹面を向けた球面状の虚像となるため、水中でプラスの像面湾曲が大きく発生し、これを補正するのが困難であった。そのため、レンズ系中にその伸縮により像面特性が主として変化し、他の収差には大きな変動が生じない少なくとも一つの可変空間隔を設定することで、前記像面湾曲を補正することを可能にしたものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】水中での撮影は近距離撮影が行われる場合が多いため、殆どの水陸両用カメラの光学系には広角レンズが用いられてきた。しかし、陸上での様々な撮影に応じて、広角の焦点距離域から望遠の焦点距離域までの撮影に対応し得る高倍率なズームレンズが撮影者に望まれる場面が多く、広角の焦点距離域を使用した水陸両用カメラの光学系では、陸上での撮影場面が極端に限定されてしまうという問題があった。又、上記特開昭56−14211号公報に記載の光学系のように、撮影レンズ入射面の曲率中心をレンズ全系の入射瞳位置にほぼ一致させると、レンズ入射面が物体側に曲率の強い凸面となり、広画角なレンズ程物体側のレンズ径が大きくなってしまうため、当該光学系の小型化には不利であるという問題もあった。
【0006】そこで、本発明は、上記のような従来技術の有する問題点に鑑み、高い結像性能を有し空気中,水中を問わず撮影が可能であり、空気中では高倍率なズームレンズ、一方、水中では比較的広画角なレンズを構成し、且つ、前記レンズが大型化することがなく、簡単な機構で空気中と水中との撮影状態を相互に切り換えることができる水陸両用カメラの光学系を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用】上記目的を達成するため、本発明による水陸両用カメラの光学系は、物体空間が空気で収差補正された複数のレンズ群を有する撮影光学系において、撮影時の物体空間が空気である場合には前記複数のレンズ群の移動よって焦点距離可変の変倍光学系を構成し、又、撮影時の物体空間が水である場合には前記変倍光学系に発生する諸収差を補正し得るように前記複数のレンズ群を移動してある特定の焦点距離に切り換えることにより水中撮影可能な光学系を構成するようしたことを特徴としている。又、本発明の光学系は、この光学系を物体空間が空気である場合の撮影状態から物体空間が水である場合の撮影状態に切り換える際、一度空気中での撮影が可能な広角端を構成した後に水中での撮影が可能な焦点距離へと切り換わるようにしたことを特徴としている。
【0008】このように本発明の水陸両用カメラの光学系は、物体空間が空気で収差補正された複数のレンズ群から成り、当該レンズ群を移動させることによって焦点距離可変のズームレンズを構成している。しかしながら、物体空間が空気で収差補正されているレンズ系をそのまま水中で使用すると、レンズ入射面で倍率色収差及び歪曲収差が発生することは前述の通りである。又、上記従来例のように、レンズ入射面の曲率中心をレンズ系の入射瞳位置に一致させると、レンズ入射面の曲率半径が小さくなるため、比較的広画角な撮影レンズの場合、最も物体側に配置されているレンズの径が大型化し、カメラの小型化には不利になっていた。
【0009】そこで、本発明は、比較的広画角な撮影レンズを使用する場合でもカメラの小型化が達成できるようにするため、レンズ入射面の曲率半径を小さくせずに水中での倍率色収差及び歪曲収差を補正できるようにしたものである。そのため、前記レンズ群において、変倍には寄与せず、特に倍率色収差及び像面湾曲の特性が変化し、他の収差の変動が少ないレンズ群を移動させることで、倍率色収差及び歪曲収差の特性をコントロールし、物体空間の屈折率が変化しても良好な結像性能を維持することができる。
【0010】しかしながら、前記レンズ群を移動させることで、倍率色と歪曲以外の収差が発生してしまう場合がある。又、レンズ入射面が物体側に凸面を向けた曲率である場合には、プラスの像面湾曲が大きく発生してしまう。そこで、本発明の光学系は、これらの収差特性に寄与しているレンズ群をも同時に移動させることで前記諸収差をコントロールし、物体空間の屈折率が変化しても良好な結像性能を維持できるようにすると共に、バックフォーカスの変化による像面位置のズレを適切に保てるように前記レンズ群を移動させている。従って、本発明の光学系は、少なくとも一つ以上のレンズ群を移動できるように構成されることが好ましい。又、本発明の光学系では、水中撮影時には焦点距離を固定するようになっている。これは、水中撮影時にレンズ系の全長を一定に保持することで当該光学系の防水性を高めるためである。この時、水中での当該光学系の焦点距離は、空気中撮影時の広角端、或いは使用頻度の高い広角域の焦点距離と等しくなっていることが好ましい。
【0011】更に、光学系の小型化を達成し、且つ、水中での良好な結像性能を維持するためには、撮影光学系の広角端のレンズ入射面から入射瞳までの距離に対するレンズ入射面の曲率半径は、以下の条件式を満足するように規定されることが好ましい。
2.0<|RF /A| ・・・・(1)
但し、RF はレンズ入射面の曲率半径、Aは撮影光学系の水中撮影時におけるレンズ入射面から入射瞳までの距離である。尚、上記条件式(1)の値は、その取り得る値の範囲の下限を下回ると、水中撮影時にレンズ入射面で発生する像面湾曲が変倍レンズ群の移動だけでは補正しきれず、結像性能を良好に維持することが困難になる。
【0012】更に、本発明の光学系は、空気中での撮影状態を構成したときのズームカム(回転レンズ環に設けられた移動レンズ群の案内溝)の広角端の延長上に、水中撮影時用のカムが設けられているため、水中での撮影状態から空気中での撮影状態への切り換えがレンズ環の回転のみによって行うことが可能になり、切り換えのための特別な機構を設ける必要がない。従って、レンズ鏡筒が大型化せず水中撮影状態への切り換えが簡単に行えるようになっている。
【0013】
【実施例】以下、図示した実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。図1は本発明による光学系のレンズ構成を示す断面図であり、(a)は空気中撮影時,(b)は水中撮影時の状態を夫々示した図である。図2は本発明の光学系による空気中での広角端撮影時の収差曲線図、図3は本発明の光学系による空気中での中間倍率撮影時の収差曲線図、図5は本発明の光学系による空気中での望遠端撮影時の収差曲線図である。図5は、本発明の光学系による水中撮影時の収差曲線図である。図6は、本発明の光学系の各レンズ群の移動する軌跡を示した図である。図中、G1 〜G6 は夫々変倍時の可動群を示している。
【0014】本発明による光学系は、図1に示したように、物体側より順に、負のパワーを有する第一群(G1 )と、負のパワーを有する第二群(G2 )と、正のパワーを有する第三群(G3 ,G4 ,G5 及びG6 )とが配置されて構成されている。本発明の光学系は、物体空間が空気である場合の広角端より望遠端への変倍に際しては、図1(a)に示したように、第一群(G1 )が始め像方向(図の右側)へ移動し途中からは物体側(図の左側)へ移動し、更に第三群(G3 ,G4 ,G5 及びG6 )中のレンズ群がその焦点距離を減少させるように移動し、而も第三群全体の前側主点位置を物体側に向かうように移動させて空気中での撮影が可能になる。一方、物体空間が水である場合には、本発明の光学系は、上記空気中での撮影状態における広角端の焦点距離を維持しながら、レンズ入射面で発生する諸収差の補正を行えるように各レンズ群を移動させて水中での撮影が可能になる。尚、レンズ群G2 は主に像面湾曲,G3 は主に倍率色収差,G6 は像面収差及び像面湾曲の補正に寄与している。
【0015】更に、本発明の光学系は、図6に示したように、水中での撮影状態を構成したレンズ群は空気中での広角端の撮影状態を構成したレンズ群の移動の軌跡の延長上にあるため、共通のズームカム上で簡単に前記二状態の相互切り換えを行うことができる。
【0016】以下、本実施例の数値データを示す。


【0017】r1 =134.7423d1 =2.200 n1 =1.74320 ν1 =49.31r2 =27.0821d2 =7.000r3 =-435.7754d3 =1.900 n3 =1.75700 ν3 =47.87r4 =48.3279d4 =0.150r5 =36.7495d5 =4.500 n5 =1.84666 ν5 =23.78
【0018】r6 =131.8168d6 =12.5000(広角) ,5.0000 (中間) ,1.3000 (望遠) ,0.4259 (水中)r7 =62.2161d7 =2.000 n7 =1.48749 ν7 =70.20r8 =44.1464d8 =36.8939(広角) ,13.3636(中間) ,1.4650 (望遠) ,48.8530(水中)r9 =45.5286d9 =1.500 n9 =1.84666 ν9 =23.78r10=21.5496d10=6.500 n10=1.71300 ν10=53.84
【0019】r11=-97.3091d11=0.1500 (広角) ,0.1500 (中間) ,0.1500 (望遠) ,14.8945(水中)r12=25.2128d12=4.850 n12=1.48749 ν12=70.20r13=∞d13=2.8000 (広角) ,6.7678 (中間) ,12.2407(望遠) ,1.8000 (水中)r14=∞ (絞り)d14=1.000r15=-95.6768d15=3.500 n15=1.80518 ν15=25.43
【0020】r16=-17.3663d16=1.400 n16=1.76200 ν16=40.10r17=39.8484d17=16.8866(広角) ,9.6571 (中間) ,1.8000 (望遠) ,15.3771(水中)r18=88.5160d18=4.000 n18=1.53996 ν18=59.57r19=-39.4021 (非球面)d19=0.150r20=-97.5417d20=1.600 n20=1.80518 ν20=25.43r21=215.6004
【0021】非球面係数第19面P=1.0000E=0.18670 ×10-4 ,F=0.99813 ×10-8G=0.58878 ×10-9 ,H=-0.35096×10-11 I=0.15481 ×10-15
【0022】但し、本実施例において、r1 ,r2 ,・・・・は各レンズ面の曲率半径、d1 ,d2 ,・・・・は各レンズの肉厚又は間隔、n1 ,n2 ,・・・・はd線の屈折率、ν1 ,ν2 ・・・・はd線のアッベ数である。尚、本実施例における非球面形状は、光軸方向の非球面量をx,光軸からの高さをhとしたとき、次式によって示される。


但し、rは近軸曲率半径、E,F,G,H,Iは夫々非球面係数である。又、本実施例における上記条件式(1)の値は、|RF /A|=4.3である。
【0023】
【発明の効果】上述のように、本発明による水陸両用カメラの光学系は、空気中では高倍率なズームレンズ,一方水中では比較的広画角の単焦点レンズとして高い結像性能を維持しつつ、小型で且つ空気中での撮影状態と水中での撮影状態との相互切り換えが簡単に行えるという実用上重要な利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による光学系のレンズ構成を示す断面図であり、(a)は空気中撮影時,(b)は水中撮影時の状態を夫々示した図である。
【図2】本発明の光学系による空気中での広角端撮影時の収差曲線図である。
【図3】本発明の光学系による空気中での中間倍率撮影時の収差曲線図である。
【図4】本発明の光学系による空気中での望遠端撮影時の収差曲線図である。
【図5】本発明の光学系による水中撮影時の収差曲線図である。
【図6】本発明の光学系の各レンズ群の移動の軌跡を示した図である。
【符号の説明】
1 第一群を構成しているレンズ群
2 第二群を構成しているレンズ群
3 ,G4 ,G5 ,G6 第三群を構成しているレンズ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】 物体空間が空気で収差補正された複数のレンズ群を有する撮影光学系において、撮影時の物体空間が空気である場合には前記複数のレンズ群の移動によって焦点距離可変の変倍光学系を構成し、又、撮影時の物体空間が水である場合には前記変倍光学系に発生する諸収差を補正し得るように前記複数のレンズ群を移動してある特定の焦点距離に切り換えることにより水中撮影可能な光学系を構成するようにしたことを特徴とする水陸両用カメラの光学系。
【請求項2】 前記光学系を物体空間が空気である場合の撮影状態から物体空間が水である場合の撮影状態に切り換える際、一度空気中での撮影が可能な広角端を構成した後に水中での撮影が可能な焦点距離へと切り換わるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の水陸両用カメラの光学系。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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