説明

永久磁石同期電動機の制御装置

【課題】電力変換器と永久磁石同期電動機との間に電磁接触器を取り付けずに永久磁石同期電動機の回転子の永久磁石位置であるd軸位相を得るための位相補正値を求めることを可能にする。
【解決手段】電力変換器が永久磁石同期電動機に電力を供給して永久磁石同期電動機を所定の回転数で回転させた後、回転させた状態を維持して電流を零またはそれに近い微小の大きさの電流に制御し、永久磁石同期電動機の端子間電圧を時間積分することで永久磁石同期電動機の回転子にある永久磁石の磁束を求め、該磁束の位相を求めると、その磁束位相は永久磁石電動機の永久磁石位置であるd軸位相と一致するので、前記磁束位相を前記位相検出器の位相出力から引くことで前記位相補正値を求める位相補正値検出器と、前記位相補正値を記憶する位相補正値記憶器を装備するよう構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相検出器出力から永久磁石同期電動機の回転子の永久磁石位置であるd軸位相を求める際に用いる位相補正値を自動的に計測して装置に記憶する機能に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機は回転子に永久磁石を取り付け、励磁を永久磁石から得るので励磁を電源から供給する誘導電動機に比べ小型・高効率であるため近年多く利用されている。永久磁石同期電動機を制御するには、回転子の永久磁石位置であるd軸位相を知る必要がある。そのために、図1に示すように該永久磁石位置であるd軸位相を検出するための位相検出器を取り付けて検出する方法がある。
【0003】
しかし、前記位相検出器は永久磁石同期電動機の回転子の永久磁石位置であるd軸位相に関係なく任意の位相に取り付けられることがあるために前記永久磁石位置であるd軸位相と位相検出器が示す位相出力には誤差が生じることがある。従って、位相検出器の出力から所定値(以下、位相補正値)を引くことによって正しい位相を知る必要がある。この位相補正値を計測する従来技術が特開平9−47066号公報に開示されている。本号公報によれば永久磁石同期電動機と該永久磁石同期電動機を駆動させる電力変換器との間に電磁接触器を取り付け、該永久磁石同期電動機を駆動させる場合には該電磁接触器を閉じて駆動させる。位相補正値を計測する場合には該電磁接触器を閉じた状態で前記電力変換器が永久磁石同期電動機に電力を供給して前記永久磁石同期電動機を所定の回転数で回転させた後、該電磁接触器を開放させて前記永久磁石同期電動機の端子間電圧を測定し、該端子間電圧を方形波に変換した電圧の位相と、前記永久磁石同期電動機の回転軸に回転角の絶対値を出力する位相検出器を取り付け、該位相検出器の位相出力との位相差を検出して位相補正値を得ている。よって前記電力変換器と前記永久磁石同期電動機との間に前記電磁接触器を取り付けなければ前記永久磁石同期電動機の端子間電圧を方形波に変換した電圧を測定することができず、位相補正値を検出することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−47066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は電力変換器と永久磁石同期電動機との間に電磁接触器を取り付けなければ永久磁石同期電動機の永久磁石位置であるd軸位相の位相補正値を求めることができない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明によれば、永久磁石同期電動機の回転子の回転位相を検出する位相検出器と、該位相検出器の出力から位相補正値を引くことで前記回転子の永久磁石位置であるd軸位相を求める位相補正器と、前記位相補正器の出力である前記d軸位相に基づいて前記永久磁石同期電動機に電力を供給する電力変換器からなる永久磁石同期電動機の制御装置において、前記永久磁石同期電動機に電力を供給して前記永久磁石同期電動機を所定の回転数で回転させた後、回転させた状態を維持した状態で前記永久磁石同期電動機の入力電流を零またはそれに近い値となるように前記電力変換器を制御し、前記永久磁石同期電動機の電圧を積分して磁束を求め、該磁束の位相が前記d軸位相と一致するため前記位相検出器の出力から前記磁束の位相を引くことで前記位相補正値を求める位相補正値検出器と、該位相補正値検出器が求めた前記位相補正値を記憶する位相補正値記憶器を装備し、該位相補正値を更新する必要がある場合に前記位相補正値検出器を動作させることを特徴とする永久磁石同期電動機の制御装置である。
【0007】
本発明は電力変換器と永久磁石同期電動機との間に電磁接触器を取り付けることなく、電力変換器が永久磁石同期電動機に電力を供給して前記永久磁石同期電動機を所定の回転数で回転させた後、回転させた状態を維持して電流を零またはそれに近い微小の大きさの電流に制御し、前記永久磁石同期電動機の端子間電圧を時間積分することで前記永久磁石同期電動機の回転子にある永久磁石の磁束を求め、該磁束の位相を求めると、その磁束位相は永久磁石電動機の永久磁石位置であるd軸位相と一致するので、前記磁束位相を前記位相検出器の位相出力から引くことで前記位相補正値を求めるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、電力変換器が永久磁石同期電動機に電力を供給して前記永久磁石同期電動機を所定の回転数で回転させた後、回転させた状態を維持して電流を零またはそれに近い微小の大きさの電流に制御するため前記電力変換器と前記永久磁石同期電動機との間に電磁接触器を取り付けることなく、前記永久磁石同期電動機の端子間電圧を検出でき、該端子間電圧を時間積分することで前記永久磁石同期電動機の回転子にある永久磁石の磁束を求め、該磁束の位相を求めると、その磁束位相は永久磁石電動機の永久磁石位置であるd軸位相と一致するので、前記磁束位相を前記位相検出器の位相出力から引くことで位相補正値が求められ、前記位相検出器の位相出力から前記位相補正値を引くことで永久磁石同期電動機の回転子の永久磁石位置であるd軸位相が検出できる点である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による実施方法を示した説明図である。(実施例1)
【図2】永久磁石同期電動機の位相補正値検出手順を示した説明図である。
【図3】永久磁石同期電動機の電圧ベクトルを時間積分したものを複素数を用いて表 した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は本発明の1実施例を示す図である。電力変換器1は永久磁石同期電動機2に電力を供給する。d軸位相検出器3は、永久磁石同期電動機2の回転子の永久磁石位置であるd軸位相θdを出力する。電流検出器4は電力変換器1が出力する電流を検出ものであり、電圧検出器5は電力変換器1が出力する電圧を検出するものである。電流成分変換器6において前記d軸位相θdに基づいて電流検出器4から永久磁石同期電動機2の入力電流iをd軸成分電流idと直交するq軸成分電流iqに分けて出力する。指令変換器7はトルク指令Tを入力して永久磁石同期電動機の出力トルクがトルク指令Tに追従するような各軸の電流指令id、iqを出力する。電流制御器8は電流成分変換器6出力の各軸電流id、iqがそれらの指令値id、iqに追従するような電圧指令vを出力する。永久磁石同期電動機の出力トルクが前記トルク指令Tに追従するようにする場合にはスイッチ11は電流制御器8の電圧指令vを選択し、電流制御器8によって電力変換器1は電圧指令v通りの電力を出力するように制御される。d軸位相検出器3では位相検出器31で検出された永久磁石同期電動機2の回転子位相θrから位相補正器32によって位相補正値記憶器9に記憶されている位相補正値θxを引くことによってd軸位相θdを求めている。
【0012】
例えば位相検出器31を交換した場合等で位相補正値記憶器9の内容を更新しなければならない場合、スイッチ11が位相補正値検出器10の電圧指令v1を選択し、位相補正値検出器10によって電力変換器1は電圧指令v1通りの電力を出力するように制御される。位相補正値検出器10は電流検出器4からの電流iおよび電圧検出器5からの電圧vを用いて永久磁石同期電動機2に所定の電流を流すように電力変換器1を制御して位相補正値θxを求める。
【0013】
位相補正値θxを検出する方法を以下に示す。図2は前記位相補正値検出器10の内部を示したものである。位相補正値検出電流制御器101は前記スイッチ11が前記位相補正値検出器10の出力v1を選択した場合、前記永久磁石同期電動機2を回転角周波数ω0まで回転させた後、回転角周波数ω0で回転した状態を維持して電流を零またはそれに近い微小の大きさの電流を流すように前記電力変換器1を制御するものである。電圧積分器102は前記位相補正値検出電流制御器101が前記電力変換器1に電流を零またはそれに近い微小の大きさの電流を流すように制御した際に検出された端子間電圧vを時間積分した積分値S(v)を位相変換器103へ出力するものである。位相変換器103は前記電圧積分器102の出力である前記積分値S(v)を位相に変換するもので位相補正値演算器104へ積分位相値θsを出力する。該位相補正値演算器104は前記位相検出器31の出力である位相θrから前記積分位相値θsを引くことによって位相補正値θxを演算し、前記位相補正値記憶器9へ出力する。前記位相補正値記憶器9は入力した前記位相補正値θxを前記スイッチ11が電圧指令vを選択し、前記電流制御器8によって前記電力変換器1が制御される直前に記憶する。
【0014】
位相補正値θxを検出する方法を以下に説明する。一般的に永久磁石同期電動機の電圧vは式1のように表わされる。
【0015】
(数1)
v=R1・i+L・D(i)+D(φ2) …式1
【0016】
ここでR1は一次の巻線抵抗、Lはインダクタンス、vは入力電圧ベクトル、iは入力電流ベクトル、φ2は二次磁束ベクトル、D()は時間微分を表す。前記位相補正値検出電流制御器101は前記スイッチ11を前記位相補正値検出器10の出力v1を選択した場合、前記永久磁石同期電動機2を回転させた後、回転させた状態を維持した状態で電流を零またはそれに近い微小の大きさの電流を流すように前記電力変換器1を制御するため式1の右辺第1項と第2項は無視できるため入力電圧ベクトルvは式2のようになる。
【0017】
(数2)
v=D(φ2) …式2
【0018】
ここで二次磁束ベクトルφ2がω0の回転角周波数で回転しているとすると二次磁束ベクトルφ2は式3のように表すことができる。
【0019】
(数3)
φ2=φ0・EXP{j・(ω0・t+α)} …式3
【0020】
ここでφ0は二次磁束ベクトルφ2の大きさ、EXP()は指数関数を表し、tは時間、jは虚数単位を表す。またαはω0の回転角周波数で回転している二次磁束ベクトルの回転位相の初期値を表し、任意の値である。式3に示すようにベクトルを以後複素数を用いて表す。次に式3の二次磁束ベクトルφ2を式2に代入すると式4のようになる。
(数4)
v=j・ω0・φ0・EXP{j・(ω0・t+α)} …式4
【0021】
式4より入力電圧ベクトルvは二次磁束ベクトルφ2より位相が90度進み、回転角周波数ω0であることがわかる。次に式4を積分すると式5のようになる。
【0022】
(数5)
S(v)=φ0・EXP{j・(ω0・t+α)}+S0 …式5
【0023】
ここでS()は時間積分、S0は時間積分における積分定数ベクトルを表す。式5より電圧を時間積分した積分値S(v)は中心S0で大きさφ0、回転角周波数ω0で回転しているベクトルである。図3は縦軸に複素数の虚軸、横軸に複素数の実軸とし、実軸と虚軸が交差する点を0とする座標において式5を表したものである。座標上の任意の点に前記中心S0を置くと前記積分値S(v)は前記中心S0から大きさφ0で点線に示すような円軌跡を描きながら回転角周波数ω0で回転している。前記実軸を基準軸として定義すると、前記積分値S(v)の積分位相値θsは前記基準軸との位相差になる。前記積分値S(v)は永久磁石同期電動機の電圧vを時間積分したものであるから永久磁石同期電動機の二次磁束ベクトルを平行移動したものと一致する。よって前記積分位相値θsは永久磁石同期電動機の回転子の永久磁石位置であるd軸位相θdに一致するので、前記位相検出器31の出力である位相θrから積分位相値θsを引くことで位相補正値θxが求められる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、電力変換器が永久磁石同期電動機に電力を供給して永久磁石同期電動機を回転させた後、回転させた状態を維持して電流を零またはそれに近い微小の大きさの電流に制御し、永久磁石同期電動機の端子間電圧を電圧検出器から検出し、時間積分することで永久磁石同期電動機の回転子にある永久磁石の磁束を求め、磁束の位相から位相検出器の位相出力の位相補正値を求めるため、電力変換器と永久磁石同期電動機の間に電磁接触器を取り付ける必要がなくなる。さらに、永久磁石同期電動機の端子間電圧を電圧検出器から検出しているが、電力変換器は電圧指令によって電圧指令通りの電力を出力するように制御されているので電圧指令と電圧検出器から検出された電圧は等しくなり、電圧検出器も省くことが可能になる。よってコストダウンにつながる。
【符号の説明】
【0025】
1 電力変換器
2 永久磁石同期電動機
3 d軸位相検出器
31 位相検出器
32 位相補正器
4 電流検出器
5 電圧検出器
6 電流成分変換器
7 指令変換器
8 電流制御器
9 位相補正値記憶器
10 位相補正値検出器
101 位相補正値検出電流制御器
102 電圧積分器
103 位相変換器
104 位相補正値演算器
11 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期電動機の回転子の回転位相を検出する位相検出器と、該位相検出器の出力から位相補正値を引くことで前記回転子の永久磁石位置であるd軸位相を求める位相補正器と、前記位相補正器の出力である前記d軸位相に基づいて前記永久磁石同期電動機に電力を供給する電力変換器からなる永久磁石同期電動機の制御装置において、前記永久磁石同期電動機に電力を供給して前記永久磁石同期電動機を所定の回転数で回転させた後、回転させた状態を維持した状態で前記永久磁石同期電動機の入力電流を零またはそれに近い値となるように前記電力変換器を制御し、前記永久磁石同期電動機の電圧を積分して磁束を求め、該磁束の位相が前記d軸位相と一致するため前記位相検出器の出力から前記磁束の位相を引くことで前記位相補正値を求める位相補正値検出器と、該位相補正値検出器が求めた前記位相補正値を記憶する位相補正値記憶器を装備し、該位相補正値を更新する必要がある場合に前記位相補正値検出器を動作させることを特徴とする永久磁石同期電動機の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−125100(P2011−125100A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279119(P2009−279119)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】