説明

汚泥かき寄せ装置

【課題】下端部分が水面より下に位置する構造体を有する沈殿池に設けられ、池底部に沈殿した汚泥を池幅方向に延在したフライト板によってかき寄せる汚泥かき寄せ装置に関し、コストを抑制しつつ、無端チェーンが伸びても適度な張力を維持できる汚泥かき寄せ装置を提供する。
【解決手段】フライト板12が間隔をあけて複数取付けられ、池底部1dに沿ったかき寄せ軌道T1とかき寄せ軌道T1から水面W側に向かって延びトラフ32などの構造体の近傍を通過する通過軌道T2とを含む周回軌道を走行する無端チェーン11、および、池幅方向に交差する交差方向に通過軌道T2と構造体との間に延在し、フライト板12が構造体に接触することを防止する保護レール18を備え、保護レール18は、無端チェーン11に取付けられたフライト板12に周回軌道の外側から接触するものであって、周回軌道の内側に向けて進出し無端チェーン11に張力を付与するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下端部分が水面より下に位置する構造体を有する沈殿池に設けられ、池底部に沈殿した汚泥を池幅方向に延在するフライト板によってかき寄せる汚泥かき寄せ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下端部分が水面より下に位置するトラフなどの構造体と、池底部に沈殿した汚泥をかき寄せる汚泥かき寄せ装置とを備える沈殿池が存在している。この汚泥かき寄せ装置として、池幅方向に延在する複数のフライト板が取り付けられた無端チェーンを所定の軌道に沿って周回させることで池底部の汚泥をかき寄せるものが知られている。この無端チェーンは、スプロケットなどの回転輪にその一部が巻き掛けられることで所定の軌道に沿って周回するものである。
【0003】
ところで、無端チェーンは、無端チェーンのなじみやクリープ現象などによって経年変化が生じ、伸びてしまうことがある。また、無端チェーンが樹脂製である場合には、無端チェーンのなじみやクリープ現象の他に樹脂が吸水することによっても伸びてしまうことがある。無端チェーンが伸びてしまうと、無端チェーンの張力が低下してしまう。張力が低下すると無端チェーンが回転輪から脱輪しやすくなるなどの不具合がある。
【0004】
特許文献1には、揺動アームと、揺動アームに取り付けられた回転自在な遊転ローラと、そのローラの外周面を無端チェーンに接触させて無端チェーンに張力を付与する錘などを備えた張力維持機構を汚泥かき寄せ装置に設けることで、無端チェーンが伸びても張力を維持しようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−241022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されている技術は、揺動アームとローラと錘などの多数の部品を汚泥かき寄せ装置に追加することで張力を維持しようとする構成である。このため、汚泥かき寄せ装置の部品点数が大幅に増加してしまい、汚泥かき寄せ装置の部品コストや沈殿池への取付コストが高くなるといった問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、コストを抑制しつつ、無端チェーンが伸びても適度な張力を維持できる汚泥かき寄せ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決する本発明の汚泥かき寄せ装置は、下端部分が水面より下に位置する構造体を有する沈殿池に設けられ、池底部に沈殿した汚泥を池幅方向に延在するフライト板によってかき寄せる汚泥かき寄せ装置において、
前記フライト板が間隔をあけて複数取付けられ、前記池底部に沿ったかき寄せ軌道と該かき寄せ軌道から水面側に向かって延び前記構造体の近傍を通過する通過軌道とを含む周回軌道を走行する無端チェーン、および、
前記通過軌道と前記構造体との間で池幅方向に交差する交差方向に延在し、前記フライト板が該構造体に接触することを防止するレール部材を備え、
前記レール部材は、前記無端チェーンに取付けられたフライト板に前記周回軌道の外側から接触するものであって、該周回軌道の内側に向けて進出し該無端チェーンに張力を付与するものであることを特徴とする。
【0009】
本発明の汚泥かき寄せ装置によれば、汚泥かき寄せ装置に一般的に設けられているレール部材によって無端チェーンに張力を付与する構成としているので、部品点数の増加を最小限に抑えつつ、無端チェーンが伸びても張力を維持することができる。
【0010】
前記レール部材は、自重で進出するものであってもよいし、付勢部材による付勢力によって進出するものであってもよい。
【0011】
また、前記無端チェーンは、沈殿池の池幅方向の両端それぞれに設けられたものであってもよい。
【0012】
また、本発明の汚泥かき寄せ装置において、前記レール部材は、前記無端チェーンにおける前記通過軌道を走行する通過軌道部分の張力に応じて進退自在なものであることが好ましい。
【0013】
さらに、前記レール部材は、揺動することによって進退するものであってもよい。
【0014】
また、本発明の汚泥かき寄せ装置において、前記レール部材は、前記無端チェーンに所定の張力を付与する一方、該無端チェーンにおける前記通過軌道を走行する通過軌道部分の張力が該所定の張力を超えると、該通過軌道部分によって押し返されて退避するものであってもよい。
【0015】
通過軌道部分の張力によって前記レール部材が退避することで、無端チェーンに過剰な張力が加わることを抑制できる。
【0016】
本発明の汚泥かき寄せ装置において、前記レール部材は、前記フライト板に接触する部分が、前記間隔以上の長さを前記交差方向に有するものであることも好ましい態様の一つである。
【0017】
すなわち、前記レール部材は、前記無端チェーンが走行することによって順次通過していく少なくとも1枚のフライト板に前記通過軌道内で常に接触する長さを前記交差方向に有するものであってもよい。
【0018】
特許文献1のように遊転ローラの外周面を無端チェーンに接触させる構成では、遊転ローラに対向する位置にフライト板が周回して来たときに、遊転ローラが一旦無端チェーンから離れてフライト板を乗り越えることになる。その乗り越えの際に、無端チェーンから遊転ローラが脱輪して無端チェーンに張力を付与することができなくなってしまうことが懸念される。また、乗り越えの最後の段階で、レール部材は、フライト板から一旦離れて無端チェーンに再度接触して張力を付与することになるが、その際、無端チェーンの張力が急激に変化してしまうという問題もある。上記の態様によれば、通過軌道部分を通過するフライト板の1枚に常にレール部材が接触しているので、無端チェーンに常に安定して一定の張力を付与できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の汚泥かき寄せ装置によれば、コストを抑制しつつ、無端チェーンが伸びても適度な張力を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である汚泥かき寄せ装置が設置された沈殿池の側断面図である。
【図2】図1のA部を拡大した部分拡大図である。
【図3】保護機構を示す平面図である。
【図4】伸びた状態の無端チェーンが通過軌道を正転走行していく様子を示す概略図である。
【図5】伸びた状態の無端チェーンを逆転走行させた様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である汚泥かき寄せ装置10が設置された沈殿池1の側断面図である。
【0023】
図1に示す沈殿池1は、上流壁1aと、下流壁1bと、一対の側壁1cによって囲まれた、平面視で略長方形状をした池である。この沈殿池1は、長手方向の一端側(図1では左側)から汚水や雨水といった下水を受け入れ、受け入れた下水に含まれる汚泥を池底部1dに沈殿させ、他端側(図1では右側)から排水する。以下、図1における左方向を上流と称し、図1における右方向を下流と称することがある。また、図1において紙面に直交する方向を池幅方向と称することがある。
【0024】
図1に示すように、この沈殿池1には、本実施形態の汚泥かき寄せ装置10と、スカム除去装置30と、排水樋40と、汚泥ピット50が設けられている。排水樋40は沈殿池1の下流側部分に設けられており、汚泥ピット50は沈殿池1の上流側部分に設けられている。
【0025】
本実施形態の汚泥かき寄せ装置10は、沈殿池1の池幅方向の両端部それぞれに設けられ、沈殿池1内を走行する一対の無端チェーン11と、その一対の無端チェーン11の間に掛け渡された複数のフライト板12と、フライト板12が後述するトラフ32に接触することを防止する保護機構13とを備えている。一対の無端チェーン11は、池幅方向の両端部それぞれで互いに同じ周回軌道を形成している。この無端チェーン11は、複数のリンク部材が連結された金属製のチェーンである。なお、無端チェーン11として樹脂製のチェーンを用いてもよい。無端チェーン11それぞれは、池底部1dに沿ったかき寄せ軌道T1と、沈殿池1の下流側でかき寄せ軌道T1から水面Wに向かって延びた通過軌道T2と、沈殿池1の上流側でかき寄せ軌道T1から水面Wに向かって延びた上流側軌道T3と、水面W側で上流側と下流側を結ぶ水面軌道T4とがつながった周回軌道を形成した環状のチェーンである。また、通過軌道T2は、トラフ32の下方であって、トラフ32の近傍を通過する軌道である。なお、図1では、無端チェーン11を上記周回軌道で示している。
【0026】
各軌道T1〜T4の接続部分には、スプロケット14〜17が配置されている。これらのスプロケット14〜17は、上記周回軌道よりも内側に配置されている。各スプロケット14〜17には、無端チェーン11の一部が巻き掛けられており、無端チェーン11の、各スプロケット14〜17に巻き掛けられた部分は、スプロケット14〜17に噛合している。
【0027】
スプロケット14は、上流側軌道T3と水面軌道T4の接続部分に配置されている。このスプロケット14の中心部分には、駆動軸141が固定されている。駆動軸141は、駆動チェーン211によってモータ21と接続されている。モータ21が回転することで、駆動軸141を介してスプロケット14も回転する。すなわち、スプロケット14は、モータ21の駆動力が伝達され、無端チェーン11を走行させる駆動輪である。モータ21は、図1における時計回り方向と反時計回り方向の両方向に回転可能なモータである。モータ21は、通常は図1における時計回りに回転駆動する。モータ21の回転にともない、スプロケット14および無端チェーン11も通常は時計回りに走行する。以下、図1における時計回りに無端チェーン11が走行することを正転走行と称する。一方、モータ21はトルクリミッタ機能を有している。例えば、池底部1dを走行している無端チェーン11に取り付けられたフライト板12に異物が噛み込んでしまい、モータ21に過剰な負荷がかかると、トルクリミッタ機能が働き、モータ21は一旦停止する。そして、異物の噛み込みを解除するために、モータ21は少しの時間だけ逆転(図1における反時計回りに回転)する。モータ21の逆転に伴って、無端チェーンは図1において反時計回りに走行(いわゆる、寸逆動作)する。以下、図1において反時計回りに無端チェーン11が走行することを逆転走行と称する。
【0028】
その他のスプロケット15〜17は、無端チェーン11の走行に伴って回転する従動輪である。従動輪のスプロケット15〜17の中心部分には固定軸151,161,171が通されている。各固定軸151,161,171は軸回りに回転不能に固定配置されている。従動輪のスプロケット15〜17はいずれも、その固定軸151,161,171に対して回動自在である。各スプロケット14〜17は、駆動軸141や固定軸151,161,171を回転軸として回転するものである。
【0029】
フライト板12は、無端チェーン11の周回軌道全周にわたって、周方向に均等に間隔をあけて取り付けられている。沈殿池1の池底部1dには、池底部1dに沿って沈殿池1の長手方向に延在する池底ガイドレール23が固定されている。無端チェーン11に取り付けられたフライト板12は、かき寄せ軌道T1では池底ガイドレール23にガイドされて走行する。また、沈殿池1の上流側であって水面W近傍には、水面Wに沿って沈殿池1の長手方向に延在する上流側リターンレール24が固定されている。無端チェーン11に取り付けられたフライト板12は、水面軌道T4では上流側リターンレール24にガイドされて走行する。さらに、沈殿池1の下流側であって池底部1dから所定の高さ位置には、池底部1dとほぼ平行であって沈殿池1の長手方向に延在する下流側リターンレール25が固定されている。無端チェーン11に取り付けられたフライト板12は、通過軌道T2における下流側では下流側リターンレール25にガイドされて走行する。ただし、無端チェーン11が逆転走行している場合、無端チェーン11の、通過軌道T2に位置している部分に取り付けられたフライト板12は、下流側リターンレール25から離間して走行する。無端チェーン11が逆転走行した場合におけるフライト板12の挙動については後に詳述する。
【0030】
無端チェーン11が正転走行すると、フライト板12が池底部1dに沿ったかき寄せ軌道T1を下流側から上流側に向かって走行し、池底部1dに沈殿した汚泥は、フライト板12によって上流側の汚泥ピット50にかき寄せられる。汚泥ピット50にかき寄せられた汚泥は、図示しない汚泥ポンプによって沈殿池1の外部に排出される。
【0031】
図2は、図1のA部を拡大した部分拡大図である。
【0032】
図2に示すように、スカム除去装置30は、堰31と、トラフ32を備えている。トラフ32は、側面視で上端部分が開口したコの字形状をしており、その下端部分は水面Wより下に位置している。すなわち、本実施形態におけるトラフ32は、本発明の構造体の一例に相当する。トラフ32は、沈殿池1を池幅方向に横切って、沈殿池1の外部に設けられた図示しないスカムピットまで延在している。なお、沈殿池1の内部に突出しているスカムピットも存在しており、そのスカムピットの沈殿池1内に突出した部分も構造体の一例と言える。トラフ32の上流側壁321には、沈殿池1の水面W付近の水を呑み込む呑込口322が設けられている。この呑込口322の下端部分よりも高い所定の水位が、沈殿池1の最低水位になる。堰31は、下端を回動中心にしてトラフ32に対して回動自在に、接続部材33によってそのトラフ32に接続されている。この堰31は、上端が水面Wよりも上に位置する堰止状態と、上端が水中に没した呑込状態との間で状態変化するものである。図2に示す堰31は堰止状態である。堰31は、堰止状態では沈殿池1内の水が呑込口322からトラフ32内に流入するのを阻止するものである。この堰止状態にある堰31は、不図示の駆動機構によってその上端が押し下げられると下端を回動中心にして回動し、呑込状態になる。
【0033】
沈殿池1の水面Wにはスカムが浮遊している。無端チェーン11が正転走行すると、フライト板12が水面軌道T4を上流側から下流側に向かって走行し、沈殿池1の水面Wに浮遊するスカムは、堰31に向けてフライト板12によって移送される。堰31が呑込状態にある時、スカムは、沈殿池1内の水とともに堰31の上端を越えてトラフ32内に流入する。トラフ32の内側底面は、沈殿池1の外部にある図示しないスカムピットに向けて下方へ傾斜しており、スカムが混入したスカム混入水は、トラフ32を通ってスカムピットに到達する。
【0034】
また、スカムと汚泥とが除去された沈殿池1内の水は、トラフ32の下をくぐって排水樋40に流れ込み、排水樋40から図示しない排水路に流れ、沈殿池1の外部に排水される。
【0035】
保護機構13は、一対の保護レール18と、保護レール18を揺動自在に支持する支軸19と、保護レール18の揺動範囲を規制する規制軸20とを備えている。保護レール18は、通過軌道T2とトラフ32の間で、池幅方向に交差する交差方向に延在する側面視で弓形をしたレール部材である。この保護レール18は、無端チェーン11の、通過軌道T2を走行している部分に取り付けられたフライト板12とトラフ32とが接触することを防止するものである。各保護レール18には、支軸19が通された軸受181が固定されている。各保護レール18は、支軸19を揺動中心軸として揺動自在にその支軸19に支持されている。また、各保護レール18の一端部分(図2では左端部分)には、規制軸20が通されている。
【0036】
図3は、保護機構13を示す平面図である。なお、この図3には無端チェーン11及びフライト板12も示されている。
【0037】
図3に示すように、各保護レール18は、沈殿池1の一対の側壁1c近傍であって、フライト板12の池幅方向の端面よりも池幅方向中央寄りにそれぞれ配置されている。なお、保護レール18の池幅方向の配置位置は、保護レール18とフライト板12とが平面視で重なる位置であれば、他の位置に配置してもよく、たとえば平面視で無端チェーン11と重なる位置に配置してもよい。支軸19の長手方向の両端部分は、沈殿池1の各側壁1cにそれぞれ固定されている。沈殿池1の各側壁1cには、池幅方向に凹んだ溝部201aが形成された規制ガイド201が固定されている。各溝部201aには、規制軸20の両端部分が挿入されている。図2に示すように、溝部201aは、側面視で略扇形を成している。この溝部201aによって規制軸20の移動範囲が規制されることで、保護レール18の揺動範囲が規制されている。
【0038】
保護レール18の重心は、支軸19よりも一端側部分(図2では左側部分)に存在しており、また、保護レール18および保護レール18の一端部分に通されている規制軸20は、水よりも比重の大きい素材(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。このため、保護レール18の重量と規制軸20の重量それぞれは、保護レール18を支軸19を揺動中心軸として図2において反時計回りに揺動する方向に作用している。すなわち、保護レール18には、保護レール18の重量と規制軸20の重量によって、保護レール18の支軸19よりも一端側部分が無端チェーン11に向かって回転する回転モーメントが生じている。
【0039】
沈殿池1に無端チェーン11が最初に設置された初期状態では、無端チェーン11は、適度な張力(例えば100kgf)が付与された状態で各スプロケット14〜17に巻き掛けられている。図2は、その初期状態を示している。保護レール18は、無端チェーン11に取り付けられたフライト板12のうちのいずれか1枚或いは2枚と周回軌道の外側から接触している。初期状態では、保護レール18は、無端チェーン11の張力により周回軌道の外側に向かって押され、周回軌道の外側(トラフ32側)に退避した退避位置にある。ただし、保護レール18は、保護レール18とトラフ32とが接触しないように規制ガイド201によって揺動範囲が規制されており、退避位置にある保護レール18とトラフ32の間には隙間が設けられている。また、トラフ32とフライト板12の間に保護レール18が介在しているので、フライト板12とトラフ32の間には所定の間隔が維持される。すなわち、保護レール18によって、フライト板12とトラフ32とが接触することが防止されている。
【0040】
無端チェーン11は、無端チェーン11のなじみやクリープ現象などによって経年変化が生じ、伸びてしまうことがある。無端チェーン11が走行すると、無端チェーン11の、かき寄せ軌道T1に位置している部分に、フライト板12が汚泥をかき寄せることで生じる走行負荷が加わる。無端チェーン11が正転走行している場合、無端チェーン11の、かき寄せ軌道T1および上流側軌道T3に位置している部分では、上記走行負荷に応じた張力が発生している。一方、無端チェーン11の、通過軌道T2および水面軌道T4に位置している部分では、初期状態で無端チェーン11に付与された張力は無端チェーン11が伸びることにより低下する。
【0041】
図4は、伸びた状態の無端チェーン11が通過軌道T2を正転走行していく様子を示す概略図である。なお、図4(a)には、初期状態のフライト板12のうちの一枚が保護レール18と接触している様子も2点差線で示されている。
【0042】
図4に示すように、保護レール18は、無端チェーン11の伸びに追従して支軸19を揺動中心軸として揺動し、無端チェーン11の周回軌道の外側からフライト板12に接触している。保護レール18における、フライト板12との接触部分は、保護レール18に生じている回転モーメントによって周回軌道の内側に向けて進出することで、フライト板12を押し込んで無端チェーン11に張力を付与している。
【0043】
図4(a)〜(c)には、無端チェーン11が正転走行によって通過軌道T2を通過していく様子が順に示されている。図4(a)では、フライト板12のうちの一枚が保護レール18と接触している。図4(b)に示すように、本実施形態では、図4(a)において保護レール18と接触していたフライト板のうちの一枚が保護レール18と非接触状態となる直前に、その一枚の正転走行における下流側に取り付けられた次の一枚が保護レール18と接触状態になる。また、図4(c)に示すように、図4(a)において保護レール18と接触していたフライト板のうちの一枚が保護レール18と非接触状態となった後は、上記次の一枚が保護レールと接触しながら通過軌道T2を通過していく。すなわち、保護レール18における、フライト板12に接触する部分の長さは、フライト板12の配置された周回方向の間隔以上に長い長さに構成されている。この構成により、フライト板12のうちの少なくとも一枚に保護レール18が常に接触し、無端チェーン11に所定の張力を付与している。
【0044】
図5は、伸びた状態の無端チェーン11を逆転走行させた様子を示す概略図である。
【0045】
図5に示すように、モータ21の逆転により、無端チェーン11の、通過軌道T2に位置している部分は、スプロケット14に引っ張られてたるみのない緊張状態になる。この緊張状態では、通過軌道T2における無端チェーン11の張力は、正転走行時に保護レール18が無端チェーン11に付与していた張力を超えて大きくなっている。このため、保護レール18は、無端チェーン11の、通過軌道T2に位置している部分に取り付けられたフライト板12に押し返されて周回軌道の外側に揺動範囲の限界まで退避している。保護レール18の揺動範囲は、規制ガイド201によってトラフ32と接触することのない範囲に規制されているので、保護レール18とトラフ32とが衝突することは防止される。また、フライト板12も、保護レール18によってトラフ32との間に所定の間隔が維持されるので、逆転走行した場合でもフライト板12とトラフ32とが衝突することはない。なお、緊張状態では、無端チェーン11のたるみは上流側軌道T3に生じている。
【0046】
以上、説明したように、本実施形態によれば、フライト板12とトラフ32との衝突を防止する保護レール18によって、無端チェーン11に張力を付与する構成としている。この構成により、部品点数の増加を最小限に抑えつつ、無端チェーン11が伸びても正転走行している無端チェーン11に適度な張力を維持できる。なお、たとえば、無端チェーン11がスプロケット14〜17から容易に外れてしまう虞が生じるほど無端チェーン11の張力が低下した場合、無端チェーン11の張り調整を行う必要が生じる。本実施形態では、無端チェーン11が伸びても、保護レール18が無端チェーン11に張力を付与するので、無端チェーン11がかなり伸びてしまうまで張り調整を行う必要は生じない。仮に、張り調整を行う必要が生じたとしても、その張り調整を行う必要が生じるまでの期間が長くなり、張り調整を行う頻度を少なくすることができる。
【0047】
本発明は上述の実施の形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことが出来る。たとえば、本実施形態では保護レール18を揺動する構成としたが、保護レール18全体が通過軌道T2に向けて移動する構成としてもよい。また、保護レール18と規制軸20の重量によって生じる回転モーメントを利用し、保護レール18を進出させてフライト板12を周回軌道の内側に向けて押し込む構成としたが、バネなどの付勢部材を設けて保護レール18を進出させる構成としてもよい。また、本実施形態では、規制ガイド201と規制軸20を設ける構成としたが、軸受181にワンウェイクラッチまたはラチェット機構などを設けてトラフ32に近づく方向への保護レール18の揺動を防止する構成としてもよい。なお、以上説明した変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を他の変形例に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 沈殿池
1d 池底部
10 汚泥かき寄せ装置
11 無端チェーン
12 フライト板
18 保護レール
32 トラフ
T1 かき寄せ軌道
T2 通過軌道
W 水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部分が水面より下に位置する構造体を有する沈殿池に設けられ、池底部に沈殿した汚泥を池幅方向に延在するフライト板によってかき寄せる汚泥かき寄せ装置において、
前記フライト板が間隔をあけて複数取付けられ、前記池底部に沿ったかき寄せ軌道と該かき寄せ軌道から水面側に向かって延び前記構造体の近傍を通過する通過軌道とを含む周回軌道を走行する無端チェーン、および、
前記通過軌道と前記構造体との間で池幅方向に交差する交差方向に延在し、前記フライト板が該構造体に接触することを防止するレール部材を備え、
前記レール部材は、前記無端チェーンに取付けられたフライト板に前記周回軌道の外側から接触するものであって、該周回軌道の内側に向けて進出し該無端チェーンに張力を付与するものであることを特徴とする汚泥かき寄せ装置。
【請求項2】
前記レール部材は、前記無端チェーンにおける前記通過軌道を走行する通過軌道部分の張力に応じて進退自在なものであることを特徴とする請求項1記載の汚泥かき寄せ装置。
【請求項3】
前記レール部材は、前記無端チェーンに所定の張力を付与する一方、該無端チェーンにおける前記通過軌道を走行する通過軌道部分の張力が該所定の張力を超えると、該通過軌道部分によって押し返されて退避するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の汚泥かき寄せ装置。
【請求項4】
前記レール部材は、前記フライト板に接触する部分が、前記間隔以上の長さを前記交差方向に有するものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の汚泥かき寄せ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−254417(P2012−254417A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129565(P2011−129565)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(508165490)アクアインテック株式会社 (51)