説明

油圧アクチユエータの速度・推力制御装置

【目的】 制御切換時にハンチング現象が発生せず、各補償要素のゲインも最適に選択できるようにし、動特性を損なうことなく静的な制御精度も向上させる。
【構成】 油圧シリンダ21を増幅器23の出力電流によって駆動される三方弁(制御弁)22によって油圧制御する。その油圧シリンダ21の動作速度と推力(圧力)を検出し、速度指令値Vcと速度検出値Vf/b との偏差ΔVを第1の補償要素33を介して増幅器23に入力させて速度制御を行なう第1の閉ループ系と、推力指令値Fcと推力検出値Ff/b との偏差ΔFを第2の補償要素34を介して増幅器23に入力させて推力制御を行なう第2の閉ループ系とを形成すると共に、制御系切換回路35によって、第1の補償要素33の出力Vsと第2の補償要素34の出力Fsのうち値が小さい方の出力を増幅器23に入力させるようにして速度制御と推力制御を切り換える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、油圧シリンダ,油圧モータ等の油圧アクチュエータの動作速度を速度指令値に保つ速度制御系と、その推力を推力指令値に保つ推力制御系とを備えた油圧アクチュエータの速度・推力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】このような油圧アクチュエータの速度・推力制御装置に類似した従来の装置として、例えば特開昭64−32082号公報に記載されているような流体ポンプの流量・圧力制御装置がある。
【0003】その基本的なものは図16に示すように構成され、通常の流量制御のときにはスイッチ4がA側に切り換わっており、可変容量形油圧ポンプ部(流体ポンプである可変容量形油圧ポンプとその斜板等の容量可変機構を制御する手段及びそれを駆動する増幅器等を含む)1の例えば斜板に取付けた角度センサにより斜板角度θすなわち吐出流量Qを検出し、流量指示値Qcとの偏差を補正要素であるサーボ増幅器2に入力させ、その出力によって吐出流量Qが流量指示値Qcと一致するように可変容量形油圧ポンプ部1の斜板角度をフィードバック制御する。その結果、シリンダ6は一定の移動速度で駆動される。
【0004】そして、シリンダ6がストロークエンドに達するか対象物10に当って機械的に停止すると、シリンダ6内の圧力が急激に上昇し始める。その圧力検出値Pが圧力指令値Pcと所定値αとの差(Pc−α;Pcより僅かに低い値)に達すると、比較器5の出力が反転してスイッチ4をB側に切り換え、圧力指示値Pcと圧力検出値Pの偏差をサーボ増幅器3に入力させ、その出力によって圧力検出値Pが圧力指示値Pcと一致するように可変容量形油圧ポンプ部1の斜板角度をフィードバック制御する圧力制御が行なわれる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】この場合、流量制御状態と圧力制御状態の切換は、(Pc−α)−Pによってのみ下記のように行なわれる。なお、Gp,Gqはそれぞれサーボ増幅器3,2の増幅率である。
(Pc−α)−P SW4 油圧ポンプ操作量 ≦0 B (Pc−P)Gp >0 A (Qc−Q)Gq
【0006】ここで、制御状態が切り換わるとき、すなわち(Pc−α)−P=0のとき、(Pc−P)Gpと(Qc−Q)Gqは通常等しくない(等しくなることもあり得るが、状態によって変化するため一般には等しくない)。したがって、吐出負荷回路圧が上昇して(Pc−α)−P=0になったとき、油圧ポンプ操作量に飛躍が起きる。すなわち、(Qc−Q)Gqから(Pc−P)Gpへ信号が低下する、それによって瞬間的に負荷圧力が降下して(Pc−α)−P>0になり、操作量が再度飛躍する。これを繰り返してハンチング状態となる。
【0007】このような問題を改善するために、特開昭64−32082号公報には図17の(A)及び(B)に示すように構成した流量・圧力制御装置が提案されている。これらの図において、図16と対応する部分には同一の符号を付してある。なお、11は方向切換弁、12は出力電圧上限リミット回路である。
【0008】これらの構成によれば、サーボ増幅器2,3の増幅率をGq,Gpとしたとき、流量制御のゲインはGqで決定され、圧力制御のゲインはGp×Gqで決定され、流量制御/圧力制御切換特性(カットオフ幅)はGpによって決定される。これらによれば、前述の場合のような制御切換時における油圧ポンプ操作量の飛躍は起こらず、切換点におけるハンチング現象は改善される。
【0009】しかし、一般に圧力制御は流量制御に比べてフィードバックゲインが高いため、制御ゲインを低くおさえなければならない。そこで、Gp×Gqを低くしたいが、Gqが高いためGpを非常に低くしなければならず、その結果カットオフ幅が大きくなり、ポンプの最大動力点を使えなくなる等の問題が生じる。これを改善する目的でGpを高くするとGqを低くせざるを得ず、そうすると流量制御時の応答性が低下するという問題が生じる。このような問題は、上述の油圧ポンプを油圧アクチュエータに置き換え、その動作速度及び推力を検出してフィードバック制御を行なうようにした油圧アクチュエータの速度・推力制御装置においても同様に生じる。
【0010】この発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、油圧アクチュエータの速度・推力制御装置において、制御切換時にハンチング現象が発生することなくなめらかに切り換えがなされ、且つ各補償要素のゲインを最適に選択できるようにして効率をよくし、動特性を損なうことなく静的な制御精度も向上させることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明による油圧アクチュエータの速度・推力制御装置は、上記の目的を達成するため、油圧シリンダ,油圧モータ等の油圧アクチュエータと、該油圧アクチュエータに圧油を供給してその動作速度と推力を制御する制御弁と、該制御弁を駆動する増幅器と、上記油圧アクチュエータの動作速度を検出する速度検出手段と、その推力を検出する推力検出手段とを備え、速度指令値と上記速度検出手段による速度検出値との偏差を第1の補償要素を介して上記増幅器に入力させて速度制御を行なう第1の閉ループ系と、推力指令値と上記推力検出手段による推力検出値との偏差を第2の補償要素を介して上記増幅器に入力させて推力制御を行なう第2の閉ループ系とを形成すると共に、上記第1の補償要素の出力と第2の補償要素の出力のうち値が小さい方の出力を上記増幅器に入力させるようにして上記第1の閉ループ系と第2の閉ループ系とを切り換える制御系切換手段を設けたものである。
【0012】
【作用】この発明によれば、速度指令値をVc,速度検出値をV,推力指令値をFc,圧力検出値をF,第1の補償要素のゲインをGv,第2の補償要素のゲインをGfとすると、(Vc−V)Gv<(Fc−F)Gfのときは操作量(Vc−V)Gvが上記増幅器に入力されて、第1の閉ループ系による速度制御が行なわれ、(Vc−V)Gv≧(Fc−F)Gfのときは操作量(Fc−F)Gfが上記増幅器に入力されて、第2の閉ループ系による推力制御が行なわれる。
【0013】したがって、制御の切換点では(Vc−V)Gv=(Fc−F)Gfであり、操作量が(Vc−V)Gvから(Fc−F)Gfになっても飛躍は起こらず、制御系切換時にハンチング現象が発生するようなことはない。また、各補償要素のゲインGv,Gfを各々単独に最適値に設定できるため、各制御の特性も良好で効率のよいものとし、動特性を損なうことなく静的な制御精度も向上することができ、Gfに積分補償などをすれば非常にシャープなカットオフ特性を実現することができる。
【0014】
【実施例】以下、この発明の実実施例を図面に基づいて具体的に説明する。図1はこの発明の一実施例の油圧アクチュエータの速度・推力制御装置の構成を示すブロック図であり、図2はその具体的な機構及び回路例を示す図である。
【0015】まず図1によってこの実施例の構成を説明すると、20は油圧アクチュエータ部であり、油圧アクチュエータである油圧シリンダ21と、この油圧シリンダ21に圧油を供給してその動作速度と推力を制御する制御弁である三方弁22と、この三方弁22を駆動する増幅器23と、油圧シリンダ21の動作速度を検出する速度センサ24(速度検出手段)と、油圧シリンダ21の推力を検出する圧力センサ25(推力検出手段)とからなる。
【0016】一方、30は速度・推力補償部であり、偏差検出部31,32とサーボ増幅器等による第1の補償要素33及び第2の補償要素34と制御系切換回路35(制御系切換手段)とからなる。
【0017】そして、偏差検出部31によって速度指令値Vcと速度センサ24による速度検出値Vf/b との偏差ΔVを検出し、それを第1の補償要素33を介して増幅器23に入力させて速度制御を行なう第1の閉ループ系と、偏差検出部32によって推力指令値Fcと圧力センサ25による推力検出値Ff/b との偏差ΔFを検出し、それを第2の補償要素34を介して増幅器23に入力させて推力制御を行なう第2の閉ループ系とを形成し、制御系切換回路35が第1の補償要素33の出力と第2の補償要素34の出力のうち値が小さい方の出力を増幅器23に入力させるようにして、第1の閉ループ系と第2の閉ループ系とを切り換える。
【0018】図2の(A)によってさらに具体的に説明すると、三方弁22はスプリングオフセット形の電磁三方弁であり、シリンダ22a内で摺動自在なスプール22bがスプリング22cによって図で右方へ付勢されており、ソレノイド22dが増幅器23の出力電流Isによって付勢されると、その電磁力により作動するプッシュロッド22eによって左方へ押し戻される。
【0019】そして、図示の中立状態では方向切換弁27を介してシリンダ21に接続されたポートCを閉鎖しているが、増幅器23の出力電流Isが増加すると、ソレノイド22dの電磁力が強まるのでスプール22bがスプリング22cの付勢力に抗して左行し、ポートCを油圧ポンプ28からの圧油供給ラインに接続されたポートPに接続する。それによって、シリンダ21へ圧油が供給されてそのピストンを作動させる。その動作速度は、増幅器23の出力電流Isが増加する程供給される油量が多くなるので速くなる。
【0020】これと逆に、増幅器23の出力電流Isが減少すると、ソレノイド22dの電磁力が弱まるのでスプール22bがスプリング22cの付勢力によって右行し、ポートCをタンク26に接続されたポートTに接続する。それによって、シリンダ21内の油圧が低下してそのピストンの作動が停止する。そして、増幅器23の出力電流Isが減少する程圧油のタンクへの流出量が増加するため、ピストンの推力が減少する。方向切換弁27を切り換えると、油圧シリンダ21のピストンの移動方向が逆になる。
【0021】速度センサ24は、例えば油圧シリンダ21のピストンロッド21aに取付けたエンコーダと、ピストンロッド21aの移動に応じてそのエンコーダが発生するパルスの周波数を電圧信号に変換するF/V変換器によって構成し、油圧シリンダ21の動作速度を検出して、その検出値Vf/b を速度・推力補償部30へフイードバックする。
【0022】圧力センサ25は、三方弁22から油圧シリンダ21への圧油供給ラインの圧力を検出して電圧信号に変換し、油圧シリンダ21の推力検出値Ff/b として速度・推力補償部30へフイードバックする。この推力検出手段としては、ロードセルを使用してもよい。
【0023】速度・推力補償部30の第1の補償要素33は、比例増幅部33a,積分増幅部33b,及び微分増幅部33cの並列回路で構成されており、場合によってはこれらの1つあるいは2つを組み合わせて用いてもよい。第2の補償要素34も、比例増幅部34a,積分増幅部34b,及び微分増幅部34cの並列回路で構成されており、場合によってはこれらの1つあるいは2つを組み合わせて用いてもよい。
【0024】制御系切換回路35は、第1の補償要素33の出力値Vs(速度操作量)と第2の補償要素34の出力値Fs(推力操作量)の値を比較する比較器36と、その出力によって切換制御されるスイッチ回路37とからなり、Vs<Fsのときは、比較器36の出力がローレベル“L”になっていてスイッチ回路37をA側にして、第1の補償要素33の出力値Vsを操作量Sとして増幅器23に入力させ、Vs≧Fsになると、比較器36の出力がハイレベル“H”になってスイッチ回路37をB側に切り換えて、第2の補償要素34の出力値Fsを操作量Sとして増幅器23に入力させる。
【0025】あるいは、この制御系切換回路35に代えて、図2の(B)に示すように、第1の補償要素33の出力値Vsと第2の補償要素34の出力値Fsをそれぞれ反転入力とする2個のオペアンプ39a,39bと、その各出力端子にカソード側を非反転入力端子にアノード側をそれぞれ接続した2個のダイオードDa,Dbを組合わせ、入力VsとFsのうち値が小さい方の信号を操作量Sとして増幅器23に入力させるようにしてもよい。
【0026】なお、この実施例では三方弁22として、スプリングオフセット形の電磁三方弁を用いているので、制御系切換回路35からの出力がゼロのときに、この三方弁22が図2の(A)に示す中立位置となるように、加算回路38によって制御系切換回路35からの出力にバイアス電圧Ebを加えて増幅器23に入力させるようにしている。
【0027】次に、この実施例の作用を図3乃至図8の線図によって説明する。図3乃至図5はこの実施例の静特性を示す線図であり、図3は油圧シリンダ21を速度制御するシリンダストローク時における速度指令値Vcとシリンダ速度V(Vf/b として検出)との関係を示す。
【0028】図4は、油圧シリンダ21を推力制御するシリンダストップ時(ピストンロット21aに大負荷がかかったり、シリンダエンドに至った時)における推力指令値Fcとシリンダ推力F(Ff/b として検出)との関係を示す。図5は、速度/推力切換時のシリンダ速度と推力指令値との関係を示し、従来のこの種の装置の静特性は破線で示すようになっていたが、この実施例によれば実線で示すように静特性が向上する。
【0029】図6乃至図8はそれぞれ動特性(過渡特性)を示す線図であり、図6はシリンダストローク時、図7はシリンダストップ時、図8は速度/推力切換時における速度指令Vcと検出速度Vf/b 及び推力指令Fcと検出推力Ff/b の関係をそれぞれ示す。
【0030】図9は図2の(A)の各部の出力特性を示す線図であり、(イ)はシリンダ速度の誤差である偏差ΔV=Vc−Vf/b と、推力の誤差である偏差ΔF=Fc−Ff/b の各変化を示す。シリンダエンドに至ると、推力Fは急激に上昇して指令値Fcに近づくため偏差ΔFは急激に減少して、第2の補償要素34の出力Fsが減少する。そして、この値がこれ迄速度Vを制御していた第1の補償要素33の出力Vsを下回るため、速度は減少してゼロに近づく。このとき、増幅器23にはFsが受け渡されて、三方弁22は検出推力Ff/b が推力指令Fcの値を保つように供給油圧を調整する。
【0031】(ロ)は第2の補償要素34内の比例増幅部34a,積分増幅部34b,及び微分増幅部34cの各出力値Pf(比例分),If(積分分),Df(微分分)を示し、それらの合計である推力操作量Fsを(ハ)に示す。これが第2の補償要素34の出力値としてスイツチ回路37の固定端子Bへ送られる。
【0032】(ニ)は第1の補償要素33内の比例増幅部33a,積分増幅部33b,及び微分増幅部33cの各出力値Pv(比例分),Iv(積分分),Dv(微分分)を示し、それらの合計である速度操作量Vsを(ホ)に示す。これが第1の補償要素33の出力値としてスイツチ回路37の固定端子Aへ送られる。この操作量VsとFsのうちの値が小さい方が制御系切換回路35によって選択されて、(ヘ)に示す操作量Sとして増幅器23に入力される。
【0033】このようにして、操作量がVs<Fsのときは速度操作量Vsによる速度制御を行ない、Vs≧Fsになると推力操作量Fsによる推力制御を行なうので、その切換点ではVs=Fsであり、操作量SがVsからFsに切り換わっても飛躍は起こらず、切換時にハンチング現象が発生するようなことはない。
【0034】なお、,第1の補償要素33の総合ゲインをGv,第2の補償要素34の総合ゲインをGfとすると、操作量Vs及びFsは次式により求められる。
Vs=Pv+Iv+Dv=(Vc−Vf/b)GvFs=Pf+If+Df=(Fc−Ff/b)Gfそして、(Vc−Vf/b)Gv<(Fc−Ff/b)Gf のときは第1の閉ループ系による速度制御が行なわれ、(Vc−Vf/b)Gv≧(Fc−Ff/b)Gfのときは第2の閉ループ系による推力制御が行なわれる。
【0035】さて、第1,第2の補償要素33,34の形態は様々なものがあり、また本構成によればそれらに対応することが容易である。ここでは、代表的なものとしてPID補償を用いて説明した。この場合、各補償要素のゲインGv(比例増幅部33a,積分増幅部33b,及び微分増幅部33cの各ゲイン),Gf(比例増幅部34a,積分増幅部34b,及び微分増幅部34cの各ゲイン)を各々単独に最適値に設定できるため、各制御の特性も良好で効率のよいものとすることができ、Gfに積分補償などを用いているので、非常にシャープなカットオフ特性を実現することができる。
【0036】次に、この実施例によって射出成形機の射出シリンダの工程を制御する場合の作用について、図10R>0乃至図12によって説明する。図10乃至図12において、図1及び図2の(A)と対応する部分には同一の符号を付してある。40は固定型40aと移動型40bからなる金型で、内部に成形すべき品物の形状に応じたキャビティ40cとそこへ通じるゲート40dを形成している。
【0037】41は先端にノズル41aを備えた加熱シリンダで、内部に回転及び摺動可能なスクリュ42を有し、図示しないホッパから樹脂材料が供給されると、図示しないヒータによって加熱して溶融させる。そして、スクリュ42が図示しない油圧モータによって回転され、射出シリンダ21によって矢示方向へ押し込まれると、溶融した樹脂43が押し出されてノズル41aから金型40のゲート40d内に射出される。これらは公知の射出成形機の構成である。
【0038】この射出シリンダ21の後部室21a又は前部室21bに方向切換弁27及び三方弁22を介して油圧ポンプ28からの圧油を導入して、射出成形工程を制御する。この射出シリンダ21の動きは、始めは加熱シリンダ41の先頭部のノズル41aから樹脂43が射出され、金型40のゲート40dに至るまで軽負荷で速く動き、次に金型40のキャビティ40cに樹脂43を注入するとき、ゲート通過の圧力損失分だけ加熱シリンダ41内の樹脂圧が上昇する。同時に、射出シリンダ21の後部室21aの油圧力すなわち推力が上昇する。この値が推力指令値Fcに近づくことにより速度Vを減少し、樹脂43のゲート部圧力損失を補償する“圧力射出”となり、低速行程となる。
【0039】次に、推力指令値Fcを上昇させることにより再度高速射出が行なわれ、金型40のキャビティ40cが充填されると樹脂圧力は更に上昇し、再度推力指定値Pcに近づくため、速度Vは減少し、推力制御をする“保圧行程”に移行する。図10は、加熱シリンダ41のノズル41aが金型40に到達して、樹脂43がゲート40d内に注入され始めるまでの工程を示す。この工程では、射出シリンダ21がスクリュ42を高速で押すので負荷圧は軽く、射出シリンダ21への供給流量は多いため図6に示したような速度制御を行なう。これは図5のA−B部でありシリンダ速度一定の制御領域である。
【0040】すなわち、速度検出値Vf/b は速度指令値Vcに近づき、推力検出値Ff/b は推力指令値Fcよりかなり小さいので、速度偏差ΔVと推力偏差ΔFとを比較するとΔV<ΔFなので、第1の補償要素33が出力する操作量Vsと第2の補償要素34が出力する操作量FsもVs<Fsになるので、制御系切換回路35は図1010に矢印付き実線で示すように値が小さい方の操作量Vsを選択して操作量Sとして増幅器23に入力させる。それにより、増幅器23はその入力操作量Sに応じて出力電流Is即ち三方弁22のソレノイドに流す電流を増減して油圧ポンプ28から射出シリンダ21への圧油供給量を制御する。
【0041】図11は、加熱シリンダ41のノズル41aから射出される樹脂43が金型40のゲート孔を通して型室40c内へ注入される工程を示す。この工程では、樹脂43がゲート40dを通過するために圧力損失を生じ、これを補償するために射出シリンダ21への供給油圧が上昇し、これによってFf/b はFcに近づく。従ってFsの値が減少し、Vsの値を下回るようになるため、ポンプ28は吐出流量を減少し、射出シリンダ21の速度が遅くなる。
【0042】そして、Vs=Fsになるまでは、制御系切換回路35が矢印付き破線で示すように、第1の補償要素33が出力する操作量Vsを選択して操作量Sとして増幅器23に入力させて速度制御を行なっているが、Vs=Fsになると矢印付き実線で示すように、第2の補償要素34が出力する操作量Fsを選択して操作量Sとして増幅器23に入力させるように制御系を切り換え、以後Vs≧Fsの間は図7に示したような推力制御を行なう。これは図5のB−C部でありシリンダ推力一定の制御領域である。
【0043】図12は、金型40の型室40c内に樹脂43が充満した後の保圧工程を示す。この工程では、射出シリンダ21のピストンが停止するのでシリンダ速度はゼロになるが、一定の圧力を保持する必要があるため前述の推力制御を継続する。これは図5にBで示すシリンダ速度ゼロで推力一定の制御点である。このように、この実施例の装置を用いることにより、射出成形機における速度/推力制御を行なう工程を、単一の油圧ポンプと射出シリンダの組合せで実現できる。しかも、そのためのコストアップを最小限に抑えることができる。
【0044】さて、上述の実施例においては、速度/推力制御の切り換え時に、図8の推力特性曲線に見られるように多少のオーバシュートが発生するが、これを小さくするようにしたこの発明の他の実施例について、図13R>3乃至図15によって説明する。図13はこの実施例の要部のみを示す回路図であり、その他の部分は図2の(A)に示した前述の実施例と同じである。
【0045】この実施例は、第2の補償要素34′が図2R>2の(A)の第2の補償要素34と若干異なり、その比例増幅部34a′の特性を図14に示すような非線形特性にする。さらに、比例増幅部34a′,積分増幅部34b,微分増幅部34cの各出力を合算した後補正増幅部34dを通して出力するようにし、その補正増幅部34dの特性を図15に示すように非線形(必ずしも非線形でなくてもよい)にすることにより、更にオーバシュートを抑えられるが、この補正増幅部34dを設けずに、比例増幅部34a′の特性を図14に示すような非線形特性にするだけでも有効である。
【0046】このように、制御切換時のオーバシュート(圧力ピーク)を抑制することにより、この装置を使用する場合の安全性を高め、ショック(騒音や振動)を低減することができ、制御対象を保護することができる。例えば、ケーブルの張力制御をするような場合、オーバシュートによってケーブルが切断されるような恐れがなくなる。また、ショック低減は構造振動を抑えるものであり、工作機械や射出成形機等の産業機械においては、公害低減の効果がある他に、製品の寸法精度向上にも寄与すると思料される。
【0047】なお、上述の各実施例では、この発明を油圧シリンダの速度・推力制御装置に適用した場合について説明したが、この発明は油圧モータのような他の油圧アクチュエータの速度・推力制御装置にも同様に適用できる。その場合、油圧アクチュエータの動作速度の検出を回転数の検出によって行なうようにしてもよいことは勿論である。
【0048】
【発明の効果】以上説明してきたように、この発明による油圧アクチュエータの速度・推力制御装置は、制御切換時にハンチング現象が発生することなくなめらかに切り換えがなされ、各補償要素のゲインも最適に選択できるので効率がよく、動特性を損なうことなく静的な制御精度も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】同じくその具体的な機構及び回路例を示す構成図である。
【図3】同じくそのシリンダストローク時の静特性を示す線図である。
【図4】同じくそのシリンダストップ時の静特性を示す線図である。
【図5】同じくその速度/推力切換時の静特性を示す線図である。
【図6】同じくそのシリンダストローク時の動特性を示す線図である。
【図7】同じくそのシリンダストップ時の動特性を示す線図である。
【図8】同じくその速度/推力切換時の動特性を示す線図である。
【図9】同じく制御切換時における図2に示した装置の各部の出力特性を示す線図である。
【図10】図2に示した実施例によって射出成形機の射出シリンダの工程を制御する場合の金型内への樹脂の注入が始まるまでの初期工程を示す図である。
【図11】同じく樹脂の注入が開始された後の中期工程を示す図である。
【図12】同じく金型内に樹脂が充満した後の保圧工程を示す図である。
【図13】制御切換時に発生するオーバシュートを抑制するようにしたこの発明の他の実施例の要部のみを示す回路図である。
【図14】図13における比例増幅部34a′の特性例を示す線図である。
【図15】同じく図13における補正増幅部34dの特性例を示す線図である。
【図16】従来の可変容量形油圧ポンプによる流量・圧力制御装置の一例を示すブロック図である。
【図17】同じくそれを改良した従来の流量・圧力制御装置の異なる例を示すブロック図である。
【符号の説明】
20 油圧アクチュエータ部 21 油圧シリンダ,射出シリンダ
22 三方弁(制御弁) 23 増幅器
24 速度センサ(速度検出手段) 25 圧力センサ(推力検出手段)
26 タンク 27 方向切換弁
28 油圧ポンプ 30 速度・推力補償部
31,32 偏差検出部 33 第1の補償要素
34,34′ 第2の補償要素
33a,34a,34a′ 比例増幅部
33b,34b 積分増幅部 33c,34c 微分増幅部
34d 補正増幅部 35 制御系切換回路
36 比較器 37 スイッチ回路
38 加算回路 40 金型
41 加熱シリンダ 42 スクリュ
43 樹脂 45 方向切換弁
51,52 ウインドコンパレータ回路
Vc 速度指令値 Fc 推力指令値
V シリンダ速度 F シリンダ推力
Vf/b 速度検出値 Ff/b 推力検出値
ΔV 速度の偏差 ΔF 推力の偏差
Vs 速度の操作量 Fs 推力操作量
S 操作量 Is 増幅器23の出力電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】 油圧シリンダ,油圧モータ等の油圧アクチュエータと、該油圧アクチュエータに圧油を供給してその動作速度と推力を制御する制御弁と、該制御弁を駆動する増幅器と、前記油圧アクチュエータの動作速度を検出する速度検出手段と、前記油圧アクチュエータの推力を検出する推力検出手段とを備え、速度指令値と前記速度検出手段による速度検出値との偏差を第1の補償要素を介して前記増幅器に入力させて速度制御を行なう第1の閉ループ系と、推力指令値と前記推力検出手段による推力検出値との偏差を第2の補償要素を介して前記増幅器に入力させて推力制御を行なう第2の閉ループ系とを形成すると共に、前記第1の補償要素の出力と前記第2の補償要素の出力のうち値が小さい方の出力を前記増幅器に入力させるようにして前記第1の閉ループ系と第2の閉ループ系とを切り換える制御系切換手段を設けたことを特徴とする油圧アクチュエータの速度・推力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図14】
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【図15】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【図17】
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